鳴海清隆

登録日:2016/08/30 (火) 2:00:00
更新日:2025/02/11 Tue 20:19:37
所要時間:約 9 分で読めます





終わりにしようか 運命の物語を。




鳴海清隆とは『スパイラル~推理の絆~』の登場人物。
主人公鳴海歩の兄であり、鳴海まどか(旧姓羽丘)の夫である。





◆概要

幼い頃から神童と呼ばれた天才であり、十代の頃には世界的なピアニストとして活躍。
ピアニストをやめてからは警視庁に就職し、神がかりめいた洞察力、推理力、発想力で難事件を次々と解決し、「名探偵」と呼ばれた。
得意分野や好みなどはあるものの、彼の才覚に並び立てる者はおらず、まさしく完璧超人
ぶっちゃけると作中最強のチートキャラ。『スパイラル』という作品において彼を負かす、彼の上を行くことができる登場人物は1人としていない。

彼の弟であり、主人公の歩も、やろうと思えば割となんでもすんなりとできる才能を持っているのだが、
弟であるためか、得意分野や好みなどの嗜好が全て清隆と被っていたこと、
そして、どんな分野であっても清隆と歩の間には「逆立ちしても敵わない」ほどの実力差があることが災いし、

興味を持ってのめり込む

瞬く間に実力をつける

後に清隆の後追いと知り、格の違いに打ちのめされる

最初に戻る

というループを幼少から繰り返したことで、歩は「何をやっても兄貴には敵わない」というトラウマを植え付けられ、
間違いなく一般人から見れば「天才」と言える自身の才能に、歩本人は何の価値も見出せなくなってしまった。
*1

「兄貴なら俺よりもっと上手くできた」は歩の常套句。
そして歩が救われないのは、ほとんどにおいてそれが事実であること。


性格も温厚で、基本的には誰に対しても公平に優しく、それは歩やまどかといった身内にも同じで、常日頃から気にかけている。
この性格から、完璧超人キャラにありがちな、突出して強く正しすぎるが故に周囲から逆に反感を買うなんてこともなく、実は悪人とかでもない。
それ故に、清隆を知る大半の登場人物は、彼に対して好感を抱き、場合によっては信仰に近いほどの強い信用を寄せる者もいる上、
常人には図り切れない、不確かな人物像を不審に思うことはあっても、彼の力や正しさを疑うことはない。
そして、その絶対性から、清隆の関係者の大半は最初から歩を「清隆の弟」として見る上に、登場人物のほとんどが清隆の関係者であるため、
そこに悪意があるかは人によるが、基本的に歩は「鳴海弟」とか「弟(さん)」等と呼ばれ、「歩」あるいは「鳴海(さん、くん)」だけで呼ばれることはほとんどない。
逆に、清隆を嫌悪している登場人物は、本編と外伝を合わせても片手指に収まる程度の人数しかいないが、
清隆自身は自分がロクでもない人間であると自覚しているため、自身に嫌悪感を持つ人物には悪感情ではなく尊敬の念を抱く描写がある。

上述の通り、幼少期は親の影響からか特にピアノに傾倒し、当然のように神童と呼ばれその将来を期待されていたが、大した理由もなく引退を決意。
事実上のラストコンサートで演奏を終えた後、「ここは私の居場所ではないようです」と告げて自らピアノの天板で指の骨を折り、音楽界から姿を消した。
後に歩は清隆の過去を知り、引退して久しい清隆にピアノを弾いてもらったが、歩が「自分では届かない」と称するほどの演奏を終えた後、
彼に「何故引退したのか」と問われて「これが人を感動させる音だと思うか?」と嫌味でもなく本気で返す辺り、ピアノへの未練は全くない様子。
このあたりは「兄には敵わない」と強く自覚しながらもピアノから離れることができない歩との相違点である(清隆はピアノや自分の技量に価値を見ていない)。

ピアニストを引退してからは警視庁に勤務。
おおよそ真面目とは言い難い勤務態度ながら、その神がかった推理力で数々の難事件の真相を次々と暴き、
その功績でノンキャリアかつ20代で警部に昇進し、「警視庁の名探偵」と呼ばれるほどになった。
なお、妻であるまどかと出会ったのもこの頃で、部下になった彼女と恋愛関係に発展し、結婚している。
しかしある日「ブレード・チルドレンの謎を追う」という謎めいた言葉を歩に残し、妻であるまどかにも行き先を告げずに突然失踪してしまった。




以下ネタバレ





















清隆の正体は、スパイラルという作中世界を創造した2人の『造物主』のうち、人間を滅ぼそうとした『造物主』が創造した『悪魔』ことミズシロ・ヤイバを止めるべく、
もう一人の『造物主』が『悪魔』のヤイバを倒させる目的で創造した『神』であり、ヤイバの対存在である。
ヤイバの誕生から16年遅れて生を受けた、ヤイバを「アダム」とするなら「イヴ」だったが、遣わした造物主の目的から、「アダム」の子を成す女性ではなく男性として産まれた。
清隆に課せられた役割は、己とその血族で世界を塗り替え、現人類を駆逐すべく勢力を拡大していたヤイバを殺し、その影響を世界から消し去る事。
人間には殺せない『悪魔』を殺せる唯一の存在として創り出された、まさに破壊神であった。

「神託」を受け、自らの役割を自覚した清隆は、ふらりとヤイバの前に現れるや、あっさりと彼を殺した。
現人類にとって唯一の脅威であったヤイバが死んだとなれば、後はヤイバの血統たる58人の「ブレード・チルドレン」を殺し尽せば話は終わるはずであり、
チルドレンの血の覚醒前に殲滅を求める「ハンター」もその役割を期待したが、清隆はチルドレンを殲滅せず、逆にチルドレンの救済としてある可能性を提示する。
その存在こそが『神に似て神でない者』たる自身の弟、「鳴海歩」だった。


ヤイバと清隆に共通する性質として、その天賦の才能、カリスマ以上に「絶対的な幸運」が挙げられる。
彼らの為すことは全て成功し、従えば間違うことなく、歯向かえば破滅する。そして物理的な意味でも人の手が彼らを害することは絶対にない。
例えどれほどの凶刃や銃弾、爆薬が彼らを狙おうと信じられないような強運・偶然の連なりが彼らを守る。
自殺すらも彼らには許されず、何事かの偶然により生存を決定づけられてしまう。異能生存体といえばわかりやすいか。
例外は『悪魔』に対応する『神』による殺害のみ。このことを知らなかったヤイバの死に顔は「信じられない」と言わんばかりのものだったという。
ただし逆に『神』が『悪魔』に殺されることはない(『悪魔の弟』である火澄が試しに殺そうとしたことがあったが、身を護る気すらない清隆を何故か詰め切れなかったと語っている*2)。


◆来歴

歩が「ブレード・チルドレン」救済の希望だと示唆して、チルドレン及びその関係者が接触するように仕向け、
元々面倒くさがりで荒事にも慣れていない歩を、彼らとの対決や対話を通じて成長させると共に、事態に深く関わらせるなど、
物語最序盤から、清隆の影響や思惑は物語にいたるところに見られるが、本格的に物語に登場するのは最終盤からとなる。

さらに、これは推測となるが、日本最高峰の私立高校故に、自ずとチルドレンが集まってくる「月臣学園」の近くに居を構え、
そこでまどかを一人残して自分は失踪したのも、彼女をお人好しの歩を(清隆の)自宅に留め置くための「足枷」とすると共に、
「自宅から無理なく通学できる高校」として歩が「月臣学園」に通う動機付けとする、いわば歩を事態に関わらせるための布石だったと思われる。

ただし、事実上まどかを自身の目的のための「駒」として利用こそしていたものの、清隆のまどかへの愛は本物であることは明記しておく。




それでもやっぱり、兄貴は俺の理想だったんだ

身勝手で迷惑で俺から色んなものを奪っていっても、兄貴にはそうするだけの資格があるように思えて、どうしようもなくまぶしくて―――

恨んだり、憎んだりし切れなかった。一番憎んでたのは兄貴のようになれない自分自身だった。俺は、ずっと兄貴のようになりたかった

それが俺の求めてた一番の幸福だった。…けど、ねーさん

兄貴のようになることは、本当に幸せなんだろうか


一方、土屋キリエ等を通じて、『造物主』と『神』と『悪魔』、己に望まれた役割についての理解を得た歩は、
そこで改めて、自身の兄であり、『神』でもある絶対者・鳴海清隆の境遇やその内心について考え、そしてある疑問を抱いた。

自身を凌駕する才能に恵まれ、愛する人の愛を得て、それ以外にも多くの人に愛された清隆は歩の理想であり、
偉大な兄の影に隠れてきた歩は、まさしく自らの理想の道を歩む清隆は間違いなく幸福だろうと考えていた。

しかし、清隆が『造物主』に遣わされた『神』として、普通の人間から見てあまりにも高みに在ることを強いられていたと知ったことで、
ある種孤高の存在にならざるを得なかった清隆は、一見周囲から慕われ、愛されているように見えても、
その実、真の意味で彼らの輪の中に入れず、ずっと孤独に苛まれていたのではないかと思うようになった。

例え妻や友であっても、普通の人間である時点で、『神』たる清隆と同じ視点で、同じ景色を見て歩むことは出来ない。
もし、『造物主』に盤上に一人降ろされた『神』と同じ視点・同じ景色を見られる者がいるとすれば、
それは『神』の対存在であった『悪魔』こと、ミズシロ・ヤイバだけだったのではないか。

そして、神託に従い、自らヤイバを葬った後のこの世界は、清隆にとっては死ぬまで永遠に独りきりの地獄に等しいのではないだろうか。




その見解は、正しい。『神』の如き力を持っていても清隆は自分に備わった役割しかこなせない造物主の操り人形である。
そして清隆はそんな自身を嫌悪するがゆえに、自身を造った方の『造物主』の仕組んだゼロに至る計画を実行に移す。
『造物主』は、『悪魔』と『悪魔の子供達』はもちろんのこと、それを殺すために自らが創った『神』も含めた、
自分たち『造物主』が創り出した全ての異物を盤面から排除し、世界を元の状態に戻す(=ゼロにする)計画を立てていた。
全ては己が孤独と呪縛から解放されるために、清隆は『造物主』の計画遂行のため、様々な手を打っていく。

  • 1:血の運命の打破を求めるブレード・チルドレンを操り、歩に試練を与えさせることで事態に引きずり込み、歩が救済者としての自覚を持つように促す。
  • 2:ヤイバの弟であり歩の対存在であるミズシロ火澄と接触させ、『神の弟』たる歩もまた、清隆と同じく『悪魔の弟』との対存在であり、彼がチルドレンを救う役割にないという運命の順路を提示する。
  • 3:歩の正体が清隆を元にしたクローンで、言うなれば清隆に全てを奪われるために造られた存在であることと、
    不完全な技術で作られたクローンたるその身体の寿命はかなり短く、成人するまでに死に至るという事実を突きつける。無論火澄も同様。
  • 4:前準備として3の事実を知った火澄が絶望して歩に救いを求める様になることを知りながら放置。カノン・ヒルベルトに自殺願望を持たせる目的で火澄に合わせて真実を知らせる。
    こうして火澄が歩に「火澄を殺すor一緒に生きる」という究極の二択を迫る(答えを保留させない)目的でカノンを殺害するよう誘導した*3
    清隆は殺人教唆の類は一切していないものの、一連の流れは予想していて阻止しようと思えば出来た。
    ここで歩はどちらも選ばないことを選び、唯一共に歩める存在である火澄と決別。
(他にも様々な手を打っていたり、他の意図もあるものの割愛)

これは、「無価値のまま潰える人生に何らかの価値を見出すために自身のオリジナルたる清隆を殺す」という選択肢を歩に選ばせるという、
清隆自身の目的も同時に達成できるように考えられたものでもあった。

ヤイバを遣わした『造物主』の「人間を滅ぼそう」という企みを挫くだけであれば、清隆がまず大本のヤイバを殺害し、
人間滅亡の駒としてヤイバが作った、彼の係累たるブレードチルドレンもヤイバの庇護がないため凶悪化してそのまま社会に制裁されるか、清隆や『ハンター』に殲滅される。
そして『神の弟』である歩が『悪魔の弟』たる火澄を殺すことで、事態は収束する。
ここまでが火澄を知る一部の騎士団にも知られている筋書きで『運命』とされている(他の騎士団員とブレード・チルドレンも似た認識だが、清隆に火澄の存在を隠蔽されていて歩の役割を宙に浮かせていた)。

劇中の歩の行動の様にこの筋書きが変化する余地はあるが、いずれにせよ火澄も歩も寿命の問題で成人前に亡くなる運命であり、
原作では明かされていないが役割の違いから、ヤイバとは違って清隆は生まれつき生殖能力を持たないため、
例え清隆が愛する人を得ても、『ブレード・チルドレン』ならぬ『清隆の子どもたち』が生まれることもない。
故に、役目を終えた清隆が寿命を迎えた時に、『造物主』たちが降ろした『異物』は世界という盤面から消え去り、いずれその影響もなくなるが、
既に盤面から去った『悪魔』や、そう遠くない未来に盤面から去る『神の弟』・『悪魔の弟』と違って、『神』たる清隆は寿命を迎えるまで盤面に一人残されてしまう。

「世界に遣わされた『異物』の中で、唯一自分だけが、何の役割も為すべき使命も無く盤面に残り続ける」というのは、
清隆にとっては、自分の力を本気で忌み嫌いながら、真の意味で自分を理解する者も誰一人いない孤独という地獄が寿命を迎える時まで続く、絶望そのものの結末である。

清隆はヤイバの死後、運命(絶望の人生)を変えるために早急な死を望むようになった。
寿命を迎える以外の方法で死亡するには、誰かに殺してもらうか、自死するかの二択となる。
しかし『神』たる清隆を人間に殺すことは出来ず、また、どんな自殺を試みようとあらゆる幸運が自身の命を護ってしまう。

清隆を殺せるとすれば、彼と同じ『異物』しかいないが、役割から『神』は『悪魔』やその係累に殺されることはない。
故に、『神』たる清隆を殺せる存在は、『神』の係累…言い換えれば清隆の子孫しかありえないということになるが、清隆は子供を作れない。
まさに八方ふさがりの状況に置かれた清隆だが、盤面にはただ一人、清隆…いや『神』を殺せる可能性を持つ者がいた。
その者こそ、『神』ではないが『神』の如き力を持つ『神の弟』たる歩であり、清隆はその可能性に賭けることを決めた*4

そして、歩に自分を殺させるべく清隆が『造物主』の計画遂行のための手と同時に打っていた手。

それは、
  • 5(0):とあるエージェントを歩の元に送り込んでおき、歩を運命に立ち向かわせ、そしていかなるときも傍で支える相棒となるキャラクターを演じさせる。



お前は言ったな。「自分の信念に裏切られれば、その信念を取り込んだ別の運命に従うしかない」

だから私はそう思えるものをお前に与えてやった

この時、この瞬間に

奪うためだけに与えてやったんだ



ついに迎えた最終局面。
火澄を殺さず、火澄との未来という唯一の救いも手放しながらも未だ希望を抱いて目の前に立った歩に、清隆はその最後の一手を開示する。

結崎ひよのは実在しない。歩に唯一残った支えは、その信頼は、重ねた時間は、清隆が作り出した幻に過ぎないのだと。
歩が勝利を約束した彼女は、歩の帰りを待っている彼女は、自分が手を一振りするだけで消え去ってしまう虚像なのだと。



歩 これが人の心で企めることと思うか? あたたかな手で成せることと思うか?

正直に言おう。自分でも恐ろしい

それを企める心が、それを成せる両手が

このおぞましきそれらから解放される日を、どれだけ渇望したか


本当に全てを奪われた歩の心は清隆を殺すことでしか繋ぎ止めておけない。
その清隆の確信は、激昂と共に歩から向けられた銃口により実現し―――


















だが、その弾丸は清隆ではなく、上空へと放たれた。
予想していてもこれまでの生い立ちと非人道的な計画による感情面で避けられない筈の罠を凌がれ、
清隆はついに自身を乗り越えた歩により、初めて敗北を知ったのだ。
(なお、清隆は4で歩が何も選ばないことも予想していたが、この時歩が火澄を殺したり、殺人犯の火澄と一緒に歩んでいた場合、
それこそ歩が清隆殺害を躊躇する理由がなくなるため、ここで計画に反することをしても清隆は目的を達成していた。)


以降は歩の示した論理に従い出来る限りのチルドレンの保護*5及び、少しでも歩が延命できるよう八方手を尽くす日々を送っている。
曰くたった1人の地獄のような孤独を、清隆は寿命で亡くなるその時が来るまで過ごすことになったのだ。

清隆に勝利するために全てを擲った歩に対し、清隆は敗北して死に損なったとはいえ、まどかも含めて何も失っていない。
傍目には、歩の支払った犠牲に対して清隆が受ける報いが釣り合ってないように見えるだろう。

しかし、考えてもみてほしい。
清隆は最愛の妻との生活を捨て、自分でも嫌悪する『神』の力を行使して、歩に殺されることだけを願って手を打ってきたのだ。
そこまでして叶えたかった望みをくじかれ、同時にそこまでしても捨てたかった生を捨てることは叶わず、寿命を迎えるその日まで生きなくてはならない。
傍目にはさほど辛いようには見えない「何も失うことなく、寿命で死ぬまで生き続ける」という結果は、
他でもない清隆自身にとってはこれ以上なく辛い「報い」であるのだ。

実際、歩に敗北した後、望みを挫かれて一人その場に残された清隆は、気負う様子もなく即座に拳銃自殺を試みており、
結果としては案の定銃弾は不発となり、『やはり』死ねないなと一人ごちてから、歩の指示を実現する算段を付け始めているが、
薄々生き残ると分かっているとはいえ、何の気なしにやる辺り、清隆は何度も自殺を試みていることがうかがえる。
最早寿命を迎える以外に自身の生から逃れることはできないと悟りつつも、それでも試さずにはいられないほど彼にとって人生は辛く、
そんな自分の望みを叶え得る唯一の存在、かつ、自分とほぼ同じ存在でありながら確実に自分より早く盤上を去る歩に、
望みを挫かれた上に「寿命を迎えるまで生きろ」と宣告されるというのは、まさしく清隆にとって絶望的な結末であろう。


なお、清隆は自身の所業を顧みて「まどかは離れていってもおかしくない」と考えていたようだが、
まどか自身は重傷を負う結果になっても清隆への愛情を持ち続けていたため、まどかの退院と兄弟対決の結果が付いてからは以前のように夫婦関係に戻っている。
歩からしても「まどかに幸せになってほしい」「兄貴は放置していた責任を取れ」という気持ちは当然あると思われるため、
そのどちらの条件も満たす復縁(元々清隆が失踪しただけで離婚したわけではないが)という結果は当然と言えるかもしれない。

チルドレン保護については「足元全てが崩れてもなお立っていられる者などいないし、そんな者が存在するはずない」という旨(歩に敗北した理由でもある)を述べているため、
歩のチルドレン救済策は、思いついてはいたものの実行出来なかった(チルドレンの意識改善を諦めていた上に自分が死ぬとハンターにやられる)ことが、
全面保護する気がなかった理由の一つと思われる。

『信じる者の幸福』という花言葉があるアヤメを好んでいたことや、すぐ自殺を試みたもののすんなり歩の頼みに応えた辺りも、この証左と言えるだろう。
悪人ではないため、実在しないと思いつつも終盤の歩の様な辛い運命に立ち向かえるよう希望を信じさせてくれる存在*6が居てくれたら……の様な感じに自身の計画とは別に肯定的に考えていたと思われる。



◆名探偵・鳴海清隆~小日向くるみの挑戦~

SQUARE・ENIXのWEBページ上で連載され、小説版スパイラルにも掲載された外伝『名探偵・鳴海清隆~小日向くるみの挑戦~』では、警視庁時代の清隆が登場する。
この小説の主人公はスパイラル世界の日本では絶大な権力を持つコングロマリット、
小日向グループ総裁の孫娘である「小日向くるみ」であり、清隆は彼女の婚約者候補兼探偵役として登場。
清隆は勝手に小日向グループ総裁に決められた婚約を破棄すべく警視庁に乗り込み、推理対決を挑みに来たくるみに付き合わされることになる。

ここでの清隆は本編でのミステリアスっぷりはどこへやら、
デスクワークを部下に丸投げし、自分はデスクの代わりに持ち込んだソファでまどろむか、くだらない冗談を飛ばす変人。
直属の部下である羽丘まどか刑事を始め、所属する警視庁捜査一課の刑事達からは半ば鼻つまみもの扱いされており、くるみもだいたい同じような認識でいる。
若い頃にとんでもない悪女と付き合い、ピアニスト時代荒稼ぎした財産を(清隆からするとそんなに大金でもなかったらしいが)彼女に貢がされたという過去も発覚した他、
同居している小学生の弟(歩)に家事全般を任せっきりにし、その弟がご近所付き合いまでそつなくこなした結果、
ご近所の奥様方から「鳴海さんのお宅は弟さんはしっかりしてるのにお兄さんは……」と思われているダメ人間である。

真面目な公務員たる同僚の刑事に真っ向から喧嘩を売るような勤務態度でありながら若干20代、かつノンキャリアで警部を任されているのは、「名探偵」と呼ばれる捜査能力故。
鋭い洞察力と常人とは一線を画す発想力で、現場をあらかた見回っただけで被害者の殺害方法や犯人の目星を付けられるほどの神がかりめいた推理力を誇り、
「迷宮入りしそうな難解な事件を解決する切り札」のような存在と上層部にその実力を高く評価されているため、普段のぐうたらっぷりは黙認されている。

あまりの変人ぶりに、だいたい小説の冒頭では部下で生真面目な女刑事であるまどかに叱られ、割と頻繁に鉄拳制裁を喰らっている姿をくるみに目撃され、呆れられているが、
いざ持ち込まれた事件に本腰を入れると、くるみから見ればおざなりな現場検証を終わらせた時点でほとんど真相に手をかけるほどの有能ぶりを発揮する。
そして清隆は、乗り気でない縁談を断るためにも、くるみを勝たせるべく犯人及び事件の真相に繋がる適当なヒントをバラ撒くものの、
そのヒントをスルーされたり、犯人のミスリードに引っかかったりでくるみが思うように真相にたどり着いてくれないため、最終回以外では最終的に探偵役も任されることになる。


この外伝小説の清隆は、登場した高校生時代の同級生がその頃清隆に感じていた「超然としていて近寄りがたい存在」といった雰囲気はまとっておらず、上記の通り基本ふざけている変人だが、
「同居している歩の授業参観に出るべく本気で捜査に取り組む」「上司が自分への嫌味を部下のまどかにぶつけていると聞いてすぐさま庇いに行く」といった、
時にくるみが驚いたり、意外に思うほどの人間臭い言動を取ることもある。

しかし、上述した高校生時代の同級生(清隆に惚れており、命懸けで求愛したがスルーされた)に普段のおちゃらけぶりを「演技でしょ?」と言われて否定しなかったり、
くるみの騒動で急接近し、最終回までにまどかと結婚も視野に入るほどの関係になっていたことから、
くるみに「まどかと恋仲になるためだけにくるみや彼女の祖父、そして弟であり、まどかに恋心を抱いている歩をも利用した」と推理対決をズルズル伸ばしていた*7目的を推測され、
「あんたは、最低だ」とくるみに評された時に、否定せずにくるみの人を見る目を褒めるなど、底知れないものを心の内に秘めている様子も見せた。
上記の大金を貢がされたという『悪女』に関しても、結局は女性の方が清隆の自分の心の機微まで見通しているかのような細やかな気配りや態度に恐怖を覚え、
それを感じ取った清隆が女性に謝罪して別れたという。


ちなみに、世界を股に掛けるピアニストとして荒稼ぎし、ピアニストを辞めて以降も公務員として安定した給与をもらっているためか、都内でも高級なマンションに居を構え、
家計をやりくりしている歩は趣味でわざわざ遠くのスーパーの安売りに足を延ばす、なるべく外食せず自炊する*8などして生活費を節約しているが、
その歩曰く、清隆は「買い物に毎回タクシーを使っても問題ない」くらいの資産を有しているらしい。
持っているクレジットカードのランクもブラックカードであり、これを聞いたくるみは流石に驚いていた。



◆スパイラル・アライヴ

外伝作のアライヴでも登場。
ガンガンWING時代はまだ本編が終わっていなかったためこれといった出番は無いが、
本編終了後にガンガン本誌で連載が再会されてからは表に出てきてやりたい放題やっている。
メタ的には本編終了後なので堂々と顔をさらしても特に問題は無いのだが、何故かキグルミで行動することも。
ただ作中では警察として働いている時代なので、勤務時間中に女子高生たちや中学生に殺人犯とおおっぴらに接触しているのは不味いとでも思ったのか、ただの趣味か。
小説版時代のふざけた言動をしつつも、描写的に人間味はいくぶん薄まっており、「神」として作中の出来事をコントロールしている。
ぶっちゃけアライヴの出来事はほとんど清隆の手のひらの上であり、作中ではそのことを「つまらない」と漏らしている。
己の死による救済、そしてすべてがゼロになる結末を描きながらも、心のどこかで別の救いを願っているのではという点が描かれている。



◆余談

  • 実は先天性無精子症(つまり種無し)である。これについて清隆は「自分の役割を考えれば当然」と語っている。*9

  • 歩に全く関心を向けない両親の代わりに、歩の保護者を勤めていたのは清隆。時折ウザがられるほど構うせいで弟からは塩対応が基本だったが、兄弟仲は良かった。
    散々な目に遭わせてしまったとはいえ、家族として幼い歩に愛情を向けていたのは清隆だけだったのかもしれない。

  • 漫画らき☆すた成実ゆいの旦那は「きよたか」なので名前の読みが同じである。あっちの作者曰く元ネタにしたとのこと。



追記・修正は神託を受けてからお願いします。


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最終更新:2025年02月11日 20:19

*1 一番打ち込んだピアノの世界では『天使の指先』と讃えられたこともあるが、そこまで能力を磨いてなお、既にピアノから離れていた清隆の演奏に敵わなかった

*2 後述の理由から、清隆にとっては「運命の打破」(火澄の意図もこれのはず)という意味合いでも火澄に殺される展開をむしろ歓迎するはずなので、火澄の見立て通り、清隆には本当に身を護るつもりすらなかったと推測される。

*3 カノンは絶望ではなく希望のためにあえて火澄に殺されることを選んだがこれでも清隆の筋書き通り。いずれにせよ『悪魔』の居ないこの世界では火澄はかなり善良な人間だったため、いくら絶望していても『自殺願望があるから』ぐらいはないと中々踏ん切りがつかなかったと思われる。

*4 『神』自身が自死出来ないのであれば、その係累である『神の弟』でも『神』を殺せないのではないか?という疑問はあるが、『神』たる清隆がそう確信して動いている辺り、殺せる可能性があるのは事実なのだろう。あるいは、『神』であってもこれ以外の方法が見出せず、『神の弟』に頼るしかない状況だったのかもしれない。

*5 元々一部のチルドレンとは協力していたりハンターを多少抑えてはいたが、そもそもチルドレンを狩るハンターの動きを完全に抑えることは最初から可能だった。またチルドレンの暴走は少なくとも作中描写においては他者からの害意や誰かを守るためなどの劣悪な環境によるところが大きく、危険な存在だとは決まっていない。

*6 歩は「何も信じない」が信条なのでアヤメとの関連性は少し分かりづらいが

*7 くるみとの縁談を持ち込んだ小日向紋十郎の目的は自身の血統に『神』の血を引き入れるためだったが、無精子症の清隆には誰が相手でも子を作ることは出来ず、さらにその目的を清隆は察していたので、一言無精子症であることを告げればそこで推理対決を終えることが可能だった。

*8 これに関しては歩の調理スキルが一般的な小学生の手作り料理のそれを軽く凌駕しており、清隆からしても下手な店に行くよりも歩に作ってもらった方が良いというのも理由にある模様。

*9 悪魔を駆逐する神である清隆が子供を作れてしまうと、彼の子供たちはブレード・チルドレン以上の脅威となってしまう可能性があるため。