弥勒菩薩

登録日:2017/01/27 Fri 23:10:58
更新日:2025/01/01 Wed 17:39:07
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■弥勒菩薩


弥勒菩薩(みろくぼさつ)は大乗仏教(顕教)の尊格の一つ。
梵名はマイトレーヤ。
弥勒はこの梵語(サンスクリット語)読みのマイトレーヤ、或いは巴語(パーリ語)読みのメッテーヤを音写した呼び名である。*1
仏教では、釈尊の次に仏陀として現世に降り立つ仏であるとして予言されており、ここから弥勒を仏教に於ける救世主として解釈している。
故に弥勒仏、未来仏の呼び名も使われる他、梵名の由来から慈氏菩薩の名も用いられる。
“マイトレーヤ”とは、古代インド~古代イラン(ペルシャ)地域にて広く信仰を集めたミトラ神にまで遡る呼び名であり、友人や隣人を意味する語である。
派生語のマイトリーは友情を意味し、この語は仏教では仏の衆生に対する“慈悲の心”を意味する語として用いられた為に、弥勒を慈氏菩薩と称したのである。

我が国でも空海以前に入り込んだ雑密が、その神道や道教、陰陽道…etc.の入り混じった体系を纏める柱となった山岳信仰にも早くから取り入れられる等、仏教伝来の頃より弥勒信仰が興っている。
近代でも明治期に大石凝真寿美なる言霊学者が神道と弥勒降誕を結びつけ、大本教をはじめとした怪しげな新宗教にも影響を与えたと云う。

大陸より正当な密教を持ち帰り真言宗を興した、日本仏教屈指の天才である空海は生きた身のままで仏と成る即身成仏の境地を掲げたが、入定*2の前には「兜卒天に生まれ、弥勒降臨の際には共に現世に降り立つ」との予言を残している。

弥勒は未だ修行中の身(菩薩)である為に菩薩形として顕されるのが普通だが、これらの弥勒信仰により、仏(如来)となった姿の弥勒を顕した如来形(弥勒如来)としての作例もある。

この他、七福神の一つに数えられる布袋和尚は弥勒の化身であったとする伝説があり、沖縄で信仰されるミルク神を“布袋形をした弥勒”であると見なす研究もある。


【由来】

『弥勒三部経』*3によれば、弥勒は南天竺に生まれたバラモンの子であったと云う。
弟子となって修行を積む中で、師より「おまえは、私なきあと56億7千万年後に、この世界の果林園の龍樹下で悟りを得て仏となり、世の人々を救うだろう」と予言されたことにより、そのまま地上より兜卒天へと上り、釈尊と同じく輪廻を越えた菩薩としての修行に入ったと云う。 *4
ただ、この56億7千万年という期間については諸説ある。詳しくは後述。

また、一部の仏教教典では字(名)を阿逸多とされているが、別の初期仏教教典では弥勒と阿逸多はとても近しい存在なれど別人であり、弥勒は仏陀(理想の修行完成者)となる聖別を受けたが、阿逸多は転輪聖王(理想の統治者)となる聖別を受けたとされる。

弥勒の名は原始仏教の末期には存在していたとされ、釈尊が如何に仏陀となったのかを釈尊の過去生(前世)に求めた過去七仏から派生した、未来仏の到来と云う思想から導き出されたと考えられている。


【上生信仰・下生信仰】

弥勒は前述のように、釈尊の入滅後、56億7千万年の後の仏法が消え去った未来に降誕して再び衆生を救う仏であるが、現在は兜卒天*5で修行し、下生(降誕)までの時を過ごしているとされる。
しかし、この救い主としての設定により、弥勒信仰には救世主待望論による終末思想、更には選民思想が付随しやすく、それらが多くの混乱を生んできた歴史もある。

弥勒の救う(斉度)衆生には、釈迦の教えより溢れた衆生も含まれるとされ、この為に自らも弥勒の留まる兜卒天に生まれよう。
救い主である弥勒と共に居よう、近づこう。
弥勒の降誕する未来へと生まれ変わろうとする信仰が生まれ、浄土教にも取り入れられた。
……これを上生信仰と云う。

これに対し、弥勒の降誕する時代とは未来ではなく現在であり、世の中をその為に変えなくてはならないとするのが下生信仰であり、混乱期の中国大陸では此方の方が流行して各地で北魏の大乗の乱や白蓮教による残忍な宗教テロが起きた。

日本でも戦国時代に伴う百姓一揆全盛の頃には、浄土教の先鋭化した一向衆や弥勒下生を掲げた集団によるテロリズムも横行した。


【ミロクの名を持つ人物】

創作世界でも“ミロク”の名は多数登場してくるが、現実にも“ミロク”の名を持つ人物、名乗った人物達が居る。

最も有名なのは3世紀末~4世紀初め頃にインドに実在したとされる唯識論師で、
瑜伽行唯識学派の開祖として伝えられるミロク(弥勒)で、彼は弥勒菩薩とも同一視された。

この他、日本では江戸時代に富士講の中興の祖として知られる行者で、自らを世を救うべく弥勒となることを願い改名した食行身録が居る。


【像容】

弥勒菩薩の姿としてよく知られているのは、京都の太秦広隆寺にある国宝弥勒菩薩の半跏思惟像であり、これは特別に宝冠弥勒とも呼ばれている。
日本では奈良時代以前の半跏思惟像は殆ど弥勒菩薩であるといい、半跏思惟像=弥勒菩薩の象徴となっているとすら言える。

この、台座に座している状態から片足を上げて組み、片方の手を頬にあてて思索している姿は弥勒菩薩の優美なイメージを定着させた。
決してマツコ・デラックスなんかにはならないはずなのだが……。


【真言】


■オン マイタレイヤ ソワカ


【種字】


■ユ

【創作における弥勒菩薩】

(随時追加お願いします)

  • 女神転生シリーズ
元となったミトラ(ミトラス、ミスラ)はFC版『女神転生Ⅱ』から登場しているが、弥勒菩薩自体の登場は今までなかった。

実に哀れだな・・・本来の在り様を忘れ、行動が目的に矛盾している・・・

だが 私はそんな哀れな貴方がたを慈しむ いち早く その苦行の輪廻から解放しよう

CV:鶏冠井美智子

真・女神転生Ⅳ FINAL』に登場。種族は魔神で、「ミロク菩薩」表記。
敵の組織である「多神連合」におけるボス格であり、クリシュナやオーディンと共に人々の救済を望む。
中国で七福神の布袋和尚と同一視された説と多神連合内のビジュアルのバランスを考え、非常に恰幅の良い姿である。
ある芸能人とそっくりだからか通称「マツコ菩薩」「ミロク・デラックス」と呼ばれ、新規悪魔の中でひときわ大きな存在感を誇る。
設定資料集の没案では美少年の姿のミロクもおり、デザイナーの土居氏は「いつか美少年のミロクも書きたい」とコメントを残している。

多神連合が銀座に集合した際に一人遅れて登場し、そこにいたアサヒを人質にとることでフリンを無力化し、彼を連れ去った。
その後はガイア教団を掌握し、ミロク派という派閥をつくり築地根願寺を本拠地とすることに成功する。
ストーリー中盤、 悪魔の召還を妨害する結界「徳川曼荼羅」 を発動し、東京の人々を混乱に陥れる。
この結界を破壊する際にミロクと衝突し、激闘の末「修行が足りなかったか…」と言い残し消滅する。56億年も修行しといて…
なお、ここは結界の守護者→イナンナの残滓→ミロクと予告なしで3連戦が始まるため、消耗を強いられた初見殺しに驚いたプレイヤーは多い。
倒しても合体制限が解除されないため、色々怪しいと思ったプレイヤーもいるとか。


敵としては、主に物理と氷結を中心に攻撃してくる。
ミロクでもミトラでも傾向はあまり変わらず、共通して火炎が弱点。
ミロクは1ターンの間弱点を吸収してしまう「独覚」、ミトラは弱点を突かれると全能力がアップするパッシブ「独善の契」を使用する。
また、共通してニヤリ時に攻撃力が跳ね上がる万能属性攻撃「56億7千万の掌」「厳正なる裁き」を繰り出す。
……正直言ってあまり強くなく、ニヤリさえさせなければ万能攻撃の威力は知れたもの。
「独覚」「独善の契」に注意しつつ豆にバフデバフを管理して攻撃すればさほど難しくはないはず。連戦の疲れには注意しよう。
なお、テトラカーンには「テトラコワース」というダサいスキルで打ち消してくるため注意。
まともに食らえばパーティが消し飛ぶ強力な連携を持つオーディンや状態異常を多用し本作屈指の難ボスであるクリシュナに比べると
どうしても弱く、いまいち印象が薄い。ミロクの役割は戦闘外が主であるため、仕方ないといえば仕方ないが…

仲魔の場合、敵は「独覚」を判別できないため、デコイにする戦法がものすごく意外なところで役に立ったりする。
ちなみに、「56億7千万の掌」にはBGMを消してしまうという 謎バグ が存在する。

  • 暗黒神話
『妖怪ハンター』等で知られる諸星大二郎の漫画作品。
物語ラストで、56億年7千万年後の地球に飛ばされた主人公・山門武が弥勒菩薩になった可能性が示唆される結末が描かれている。

  • 百億の昼と千億の夜
光瀬龍のSF小説。萩尾望都による漫画版も存在。
物語序盤で阿修羅王によってシッタータ(釈迦)に引き合わせられるが、実際にシッタータが見たのは弥勒を象った像に過ぎず……

  • アメリカン・ブッダ
柴田勝家のSF小説。
そんな長い小説でもない上に、深く語るとネタバレが避けられないので、興味ある方は実際にその結末まで読んでみるが吉。


【余談】

●弥勒は降誕後に龍樹下で三度の説法を開いて衆生を救うとされており、これを“龍樹三会”と呼ぶ。

●気の遠くなるような56億7千万年の後の降誕と云う時間設定は兜卒天での天人の身長を2里、衣重は一銖半、寿命は4000歳であるとし、更に現実での人間(我々)の400年がこの天の1日1夜に相当する。……とする計算の為。
尤も、ここから導き出された4000×400×360=では5億7600万にしかならないのだが、何故か中国辺りで更に×10され、7と6が入れ替わってしまったらしい。世の救いが……
尤も、こうした説が定着する以前には3000年程度とまだ現実的な数字であったらしい。わりともうすぐである。
実際、56億7千万年の数値はあくまでも長い時間の喩えであり、弥勒の降誕はもっと早いとするのが前述の下生信仰等にも繋がっている。
なお太陽の膨張で地球から液体の水が消えるまでの時間は甘く見積っても26億年……早く来てください。

●お釈迦様が入滅してから弥勒菩薩が出現するまでの空白期間は地蔵菩薩が現世に留まって人を救ってくれるそうな。
……なんていうかお疲れ様です。


追記、修正は56億7千万年後も愛してからお願いします。

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最終更新:2025年01月01日 17:39

*1 ※後述のミトラ神の変形であるミイロの音写とする説もある。

*2 ※永遠の禅定=弘法大師は人としての生から離れ、即身成仏としての修行に入ったと伝えられる。

*3 ※『弥勒大成仏経』『弥勒下生経』『弥勒上生経』

*4 ※釈尊が未来仏の存在を説いた時に自ら志願したとか、釈尊と共に兜卒天で修行していたが釈尊の方が先に修行を終えたので先ずは釈尊が降りることになった、等の記述もある。

*5 ※仏教で云う天界の一つ。六欲天の第四天。釈尊も過去生に於いて修行していたとされる。