別府勇午

登録日: 2017/05/28 Sun 21:46:02
更新日:2025/05/10 Sat 06:13:00
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社会派サスペンス漫画『勇午(漫画)』の主人公で、交渉成功率97.4%という驚異的な実績を持つ凄腕のフリーネゴシエーター。
具体的にどういう人物かを一言で表現するのは難しいが、敢えてざっくり紹介するとしたら

"スペックだけはパーフェクトなヒーロー"

とでも言えるだろうか。


まず外見だが、中性的で甘いマスクをしており、後述の性格も相まって特に子供と女性に好かれやすい。
見知った仲はもちろん旅先で初めて出会った女性も、僅かな時間一緒にいただけで体を張って勇午に尽くす献身さを見せるようになる程。
また自ら女性に扮して警戒の目を欺く事もある。どこぞの主人公とは違って勿論成功した。


凄腕のネゴシエーターなだけあって多国の言語を操り、非常に博識、用意周到で機転も利くと頭脳面は優秀の一言。

「中世の洞窟迷宮に閉じ込められた際、当時の回教徒が全滅したという伝聞から聖書の記述にヒントを得て脱出に成功。」

「交渉のカギとなる指輪が奪われる事を見越して、専門家に材質の劣化具合まで再現した偽物を作らせる。自身も自白剤を打たれてよい様に敢えて指輪の謎を推理しない。」

「ある保険契約の再保険と再々保険の契約文章を見ただけでこの契約のカラクリを見抜く。」

等々、彼の賢さを語るエピソードに事欠く事はない。


しかも驚くべき事に彼の真価はその頭脳が霞んでしまうくらい、専ら身体面に現れる。
特に肉体の頑強さと回復速度は人間の範疇を大きく超えており、

「身体中にピンを刺され貼り付けにされても数日で歩けるまで回復。」

「塩漬けによって、蝿がたかり顔がミイラの様になる程水分が抜けた状態からミルクを飲んだだけで復活。」

「全身に深度2の火傷を負った状態で救出者に気付かれずに姿を消す。その後もろくに治療を受けてないのに、コマを送る毎に彼の顔から火傷が消えて行く。」

「頸動脈に機械を埋め込まれ、左半分の形相が変わってしまうほど締め上げられても平気で動きまわる(医者曰く、普通ならとっくに意識不明)。そして時間が惜しいからと治療を拒否。」

と、その様はどうみても登場するべき漫画を間違えているとしか思えない。これってホントに社会派サスペンス漫画だよね?
まあ、身体面についてはクローン技術によって替えをきかせているという噂もあるのだが。


もうここまで来たら驚く事ではないだろうが精神面も勿論隙がない。
彼は「交渉というものは人と人との心の繋がりでする物」という信念を持っており、どんな相手でもまずは理解し、信頼を得る事から始めるというやり方を貫く。
また、信仰や忠誠の対象を持たず、金や権力に靡く事も決して無い。あくまでも自分の正義感のみに従って行動する。
だからテロを止める過程でそのテロメンバーから感謝される事もあれば、合衆国相手に「核を落とすぞ」と脅しをかける事もある。
「政治的野望の手助けはお断りだ」と依頼を断っておきながら、一人の少女の為に依頼内容自体は完遂するなんて事も。
どんな時でも真っ直ぐで、やるときはやる性格なのだ。
トドメに人望も厚く世界中に友人がいっぱいと、恵まれていないところがまるで見当たらない。
この作品を読んだら、最初は皆必ずこう思うだろう。

「こんな奴いねーよw」

と。


しかし昔から「長所は短所の裏返し」なんて言葉があるようにこの勇午という男、その長所が裏返って悪い方に向いてしまうことが非常に多い。
まずその能力の高さと自分のやり方を貫く意思の強さは「頑固で他人の忠告を聞かない」という形で表れる。物語冒頭で

(勇)「○○の情報が欲しい。」
(友)「馬鹿な!危険過ぎる!手を引け!」

(勇)「情報を持っているのか、いないのか。どっちなんだ。」
(勇)「君はたしか僕に借りがある筈だよね?だから断らないよね?」
(勇)「君は僕と同じで親友は非常に稀な人間だ。だから"親友"は大事にしないとな。」
(勇)「僕ごときの命を惜しんでいる暇は無いんだよ。」

というようなやり取りをして友人を困らせるのは最早毎度のお約束。
しかも下手に人望があるものだから、現地で出会った人間や友人が助力を買って出て、結果殺されたり廃人にされたりということも少なくない。
助力を拒んだ人間も大抵あーだこーだと説得されて結局巻き込まれる。というか劇中で勇午と関わっていい目にあった人物はあんまりいない。
だから彼を人物としては慕いつつも存在としては疎んじる者が少なからずいる。中には「もうついていけない」と裏切り行為に走る奴も。
更に己のやり方を貫く故に何事にも一見愚直と思えるほど真っ正面から取り組む癖があり、そこを突かれて罠に嵌められたり先手を打たれたりもする。


次に信仰や忠誠の対象を持たないという点は、依頼する側からすればかなり致命的な欠陥である。「依頼は受けても依頼者の思い通りに動いてくれるとは限らない」からだ。
上記の例もそうだが、極端なモノになると
「権力の象徴である像の入手を依頼した結果、像は手に入ったが依頼人の権力の源である父親は失脚し、自身も殺された。」
なんて、まるで猿の手の様な話もある。"優秀"と"有用"はイコールではないというわけだ。
よって彼は交渉相手は勿論、依頼側からも常に警戒される事となる。これが彼の仕事をより困難なものとしている。


そんな困難極まる仕事の突破口を見出だす方法は常にたった一つ。「自分の命をチップにする」こと。
交渉相手と接点がないから自分を襲う様に仕向けたり、確実に殺されるとわかった上で馬鹿正直に正面から乗り込んだり、依頼者の首飾りが相手の目に止まるように敢えて上半身裸で灼熱の岩に焼かれたりする。相手がテロリストだろうが、狂信者だろうが、極道だろうが命を惜しむ事はない。そして拘束や拷問、あるいは冥土の土産という形で情報入手や直接交渉の機会を得るのだ。
こう書くとまだ格好いいと思えるかもしれないが、酷いものになると「依頼達成の為にわざわざ証拠をでっち上げて自ら拘留される」なんて無茶苦茶なのもあるから始末に終えない。そして結局そんな彼を救うために周囲の人間が骨を折る羽目になる。
一応本人は自分には命を安売りし過ぎる嫌いがあると自覚しているのか、「ある女性と出逢って命の大切さを教わった。死ぬ事が何でもないなんて思っていた自分が恥ずかしかった。」なんて言った事もあったが、その反省が生かされる事は遂になかったそうじゃないと拷問ノルマ達成出来ないからね。しょうがないね。


この様に「馬鹿なのか天才なのかわからない」、いや寧ろ「馬鹿なのか天災なのかわからない」と言うべき存在。これが別府勇午である。
先程出る漫画を間違えていると言ったが、
仮にコレに出てたらきっと「冷静に見えて無鉄砲、頭がいいのに考え無し」だと言われただろう。
コレなら「彼を一つの現象としてとらえるならば、間違いなく悪い存在。」と評されただろう。
しかしこれらのキャラクターが欠点や人々からの怨嗟を抱えながらも周りを惹き付けて止まないように、勇午のこういう所が自分自身や物語に立体的な輪郭を与えてくれているのもまた事実。作品を一通り読み終えたなら貴方はもしかしたらこう思うかもしれない。

「こんな奴いねーよwでもこんな奴がいてもいいかも。」

と。



アニメ版では、『仮面ライダー龍騎』の浅倉威役でおなじみの萩野崇氏が勇午の声を演じていた。





追記、修正はネゴシエーターに依頼してください。お願いします。

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最終更新:2025年05月10日 06:13