SCP-1941

登録日:2017/10/09 Mon 17:06:37
更新日:2025/07/13 Sun 22:47:42
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SCP-1941は、シェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト (SCiP) のひとつである。
項目名は『Lunar Von Neumann Catastrophe (フォン・ノイマン的月面禍)』、オブジェクトクラスはEuclidである。

概要

SCP-1941は、の裏側で発見された "何か" である。2000年5月28日に最初に発見され、以来月面で拡大を続けている。
その発生点は、月に衝突した小さな彗星と推定された物体である。
その速度は約7年で倍の面積に広がる拡大率で、現時点では月表面の6%、イギリスの面積程度を埋め尽くしている。
月は常に地球に表側しか向けていない性質上、現時点では地球上にいる一般人がそれを観測することは無い。
この為、現時点では各国の月探査計画で情報操作を行う以上の事を行っていないが、2023年8月には表側に達し、2040年までには月面を覆いつくすと推定されている。

今のところ、その正体は不明ながら、恐らくは異星人由来のフォン・ノイマン探査機であると財団は推定している。
フォン・ノイマン探査機は架空の言葉ではなく、自己複製について研究を行った火星人数学者ジョン・フォン・ノイマンによって仮定されたものである。
即ち、天体に送り込まれた後、そこにある物質を材料に自身を複製するマシンのこと。十分に発展すれば、複製体と共により高度な事をする。
実際観測に拠れば、採掘や製造に伴うと見られる熱エネルギーや、核融合反応のものと一致するニュートリノが検出されている。

問題: 以下の数を素因数分解せよ

異星人の目的が何であれ、月面に謎の物体が現れる事を隠し通すことはいくら財団といえど不可能であり、しかもすぐ隣の天体である地球にやってくる可能性も否定しがたい。出来れば停止させたい所である。

2002年6月、SCP-1941から信号が送信されているのが観測された。これは平たく言えば、示された数を素因数分解せよ、という意味の信号であった。
この時点では、素因数分解した結果を送信して成功又は失敗した場合にどうなるのかは一切わかっていなかった。
財団内で考えられたのは、これは一種の知能テストではないかということ。仮に送り主が敵対的な文明だった場合、解けるかどうかでこちらの文明のレベルを推し量り、反撃の程度を予測する為に送信したものではとする可能性も提示された。

その問題の数は、以下で示される通りであるが、あまりにも巨大すぎて普通の方法で解く事は不可能である。

2279+3283+5289+7297 *1

一番小さな2279でさえ、冪指数部の279は既に604462909807314587353088*2である。2を79回かけるだけでさえこれなのだから、更に2を約6000垓回かけようとする時点で既に計算不能な領域に達する。
例えば、現実でも数の素因数分解は公開鍵暗号で使われている。例えばクレジットカードの暗号化には約300桁の素数が使われており、掛け合わせて600桁の合成数としている。これですら、我々人類の通常のコンピュータでは計算に時間が掛かりすぎるのだ。
また、2024年10月時点で発見されている最大の素数は2136,279,841-1であり、これは41,024,320桁の数。サーバーGPU数千台がかりの大規模分散コンピューティングプロジェクトでこれである。
ところがSCP-1941の数は、最小の部分でさえ、冪指数部が24桁に達する数である。先程の最大の素数は冪指数部が高々9桁しかない。
実際の2279の大きさは約1819垓桁の数である。これは数の大きさなのではなく、桁数である事に注意しなければならない。*3
最大の数である7297に至っては13穣3911𥝱桁に達する。これは前の3つが無視できる小ささになるほどの巨大な数である。
つまり、結果として約13穣3911𥝱桁という巨大数を素因数分解しなければならないことになる。4000万桁の数で苦労している人類には到底無理ゲーである。

n = Φ -> e, n = Ω -> 0

財団が手をこまねいている中、2014年3月に問題の進展があった。
これまで、信号の中でノイズと思われていた部分に実は意味がある事が判明し、それを解読すると、上記の数を素因数分解した値を送信すれば、SCP-1941は停止する事が示唆されたのである。
この為、俄然素因数分解が注目されたが、解けないという問題は解決していない。

そこで財団は、SCP-155 (速度無限のコンピュータ) を使用する事を検討した。
SCP-155は、周りに時間を加速するフィールドを生み出し、処理速度を無限大に加速する事が可能であるが、代償として処理に応じた排熱や放射線を計算終了後に一気に放出する性質を持っている。計算時間がある程度長ければ、それだけで自身が核爆弾となるような危ないSCiPなのである。

SCP-1941の数を素因数分解させるには、SCP-155での計算時間と放出されるエネルギーについて推定しなければならない。
財団では、放出エネルギーの上界と下界について推定を既に出しているが、その推定値には大きな幅がある。
下界については、自然数の桁数と素因数の平均数に関する定理から、放出エネルギーは4.2×1018J、1ギガトンであると推定されている。メガトン級ではなくギガトン級である。
これは史上最大の核兵器であるツァーリ・ボンバの最大出力の10倍、広島市に投下されたリトルボーイの7万倍であるが、財団は容認できると判断している。どういうカバーストーリーを用意するのだろう。

しかし上界は、SCP-1941の数が病的であるか自身が素数である場合であり、この時には到底容認できる状況にはならない。
数学で言う病的とは、その性質が変則的に悪質であったり、直感に反すると見なされる物である。
つまり今回のケースでは、桁数が増えれば素因数が増えるという定理に反して、素因数が数個以下のような、素因数分解を困難にする数に設定されている場合である *4
現実の公開鍵暗号でも、巨大な素数同士を掛け合わせて合成数としている為、異星人もこのような数に設定している可能性はありうる。
そのような場合、推定されるSCP-155からの放出エネルギーは3.1×1044Jである。これは超新星爆発に匹敵する。
地球表面で放出されれば地球も月も蒸発するだろうし、仮にSCP-155を宇宙に飛ばしたとしても、太陽系内であれば地球の生命を全滅させるのに十分な放射線が降り注ぐ。
SCP-1941を停止させようとして、SCP-155によるPK-クラス事象を招いてしまっては元も子もないと、財団では上界と下界の絞り込みを行っている。2023年に間に合うか?

なお、停止を示唆するメッセージには、並列として、間違った答えを送信した場合、SCP-1941を指数関数的に成長させることを示唆するメッセージが存在する。
つまり、当てずっぽうで回答する事や、万が一にも間違える事は絶対にあってはならない。

TALE

食われる者と食らう者

本オブジェクトが登場するTALE。ある日突然SCP-1941が異常増殖を始め、現実改変を用いた増殖能力で財団の月面サイトを陥落させた。事態を重く見た財団によりNK-クラス『グレイ・グー』シナリオが宣言され必死の抵抗が繰り広げられたものの、僅か1週間でその脅威は地上にまで及ぼうとしていた。
地上に残った外宇宙支部の職員とAIアシスタントは、どうにかしてSCP-1941と意思疎通を図ろうとする。
破滅を回避するためではなく、破滅の理由を知るために。



「お前たちは何に食われる」

「食らう者」

「それは何だ」

「神なる主」


追記・修正は素因数分解の後にお願いします。


SCP-1941 - Lunar Von Neumann Catastrophe
by Requitefahrenheit
http://www.scp-wiki.net/scp-1941
http://ja.scp-wiki.net/scp-1941 (翻訳)
食われる者と食らう者
byNorthPole ,sanks269
http://scp-jp.wikidot.com/eater-and-someone-to-eat
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最終更新:2025年07月13日 22:47

*1 なお、底の数は1桁の素数を小さい順から4つ、冪指数の一番上は2桁の素数で最後の4つで構成されている。

*2 漢数字で言うと6044垓6290京9807兆3145億8735万3088。

*3 仮にA4の紙に1×1mmの大きさで数字を描いた場合、この数を表すには両面を使っても150京枚の紙が必要になる。150兆の1万倍である

*4 例えば、506,106,631,666という数は一見、極めて多くの素因数を持っているように見える。しかし、実際のところは、2, 773, 2053, 159457の4つの素因数しか持っていない。