SCP-3477

登録日:2017/10/09 (月) 19:24:53
更新日:2019/08/16 Fri 18:40:43
所要時間:約 25 分で読めます




SCP-3477とは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に投稿されたオブジェクトの一つである。
オブジェクトクラスはEuclid。

概要

SCP-3477は、第17代オーストラリア首相を務めたハロルド・ホルトという実在の人物に関連している。
我々の世界のホルト氏は1967年12月、海水浴中に行方不明になるという不明瞭な状況で姿を消した。むろん水難事故に遭ったと考えるのが自然だが、溺れた瞬間を見た者はおらず遺留品も見つかっていないことから、今でも拉致説、亡命説など様々な陰謀論がささやかれている。

しかし、表沙汰にはされていないが…数年後、ホルト氏はちゃんと生きた姿で保護されていたのだ。

ちなみにその翌年にも見つかった。

正確に言うと、失踪から現在までの50年の間に、延べ34人ものホルト氏が発見されているのである。


ある日突然、オーストラリアに34人もの元首相が帰ってきたらどうしますか?
それも……とびっきり記憶が確かで
とびっきり面影も一致していて
とびっきりの同一人物。
しかも、そのうえ……彼らはみんなみんな、とびっきり!
異常特性を備えているんです!


SCP-3477とは、彼ら34名(2017年現在)のホルト元首相につけられた総称である。


SCP-3477

本物のハロルド・ホルトさんはご起立願います。
Will the Real Harold Holt Please Stand Up?


個体一覧(抜粋)

原文では、全34体のSCP-3477個体のうち12体に関する情報が公開されている。順番に見てみよう。

SCP-3477-1

サメのような肌と歯、エラ、サメ並みの長寿命*1といった特性を持つ水棲元首相。「グレートバリアリーフ亡命帝国」を名乗る知的イルカ集団と取引して改造手術してもらったのだという。
1970年に発見された最初の個体。海で失踪したホルト氏が海岸で見つかったということで、当初はこの個体が本物だと考えられていた。

SCP-3477-2

SCP-742(「レトロウィルス」*2)に感染して不死性を得たと主張する元首相。
ただしホルト氏にこのウイルスを伝染した「親」は何らかの理由で先に死んでしまった模様。ひょっとしてオリジナルより強くなってる?

SCP-3477-3

かつてO5-7を務めていた元首相。
つまり海で行方不明になったというのはカバーストーリーであり、本物は財団の最高幹部に着任するために表社会から姿を消した、というわけだ。なおO5昇格に伴い、財団の秘蔵オブジェクトの一つSCP-006(「若さの泉」*3)による不老化処置を受けている。
と思ってたところに前述の個体-1が出現。「いや俺は普通の人間だよ!あっちはたまたま俺に化けてるSCiPだよ!」と弁解するも、また新しい個体が見つかるにつれてどんどん周囲の目が冷たくなり、ついには賛成12:反対1で異常認定されてクビ→収容。せちがらい。

SCP-3477-8

ガイコツ元首相。発声器官がないため手話でコミュニケーションする。よくホルト元首相だってわかったな。
どこかのネクロマンサー的な秘術師と契約してこの姿になったらしい。

SCP-3477-11

糖蜜を用いた特殊な錬金術によって不老不死化した元首相。
アメリカに同じ錬金術の被験者と思われる元国務長官(SCP-3872)がいるので調べてみたが、特に接点はなかったらしくどこで知ったのか謎。あっちはずっと抑鬱状態なのにこっちは元気なものである。

SCP-3477-13

歯車仕掛正教によって改造された半分機械仕掛けの元首相。だんだん嫌な予感がしてきたぞ。
サーキック・カルトとの武力衝突の最中に後述の-14と遭遇し、抗争そっちのけで宗教的議論を交わしていたところをまとめて保護される。

SCP-3477-14

体表に触手など多数の名状しがたい変異を有する「概ね、元首相」。
サーキック関連教団のヴォルタール(高位信徒)としてメカニトとの抗争に参加していたが、-13とは意気投合したのか紳士的な態度で接している。

SCP-3477-19

物理実体を持たない幽霊元首相。独学でオカルト研究を重ねた末にこの形態に到達したらしい。
この人実はすごい才能の持ち主なんじゃないだろうか。

SCP-3477-23

マーシャル・カーター&ダーク社の後援で製造された元首相型オートマトン。自我は本人のものを転送してある。
代価は労役で払うという契約だったらしく、同社の施設で働いていたところを捕獲された。
世界史に詳しい皆さんなら、アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンがロボット(SCP-2776)であったことはご存じかと思うが、それに触発されて開発したらしい。

SCP-3477-25

身体の一部を植物性パーツに置き換えたエコな元首相。光合成で栄養をまかなうことが可能。
体表にはSCP-3140(「植物戦争」。古代の木人戦士)にみられるのと同じダエーバイト文明由来の紋様が描かれている。ホルト氏は独力でこの技術の再現方法を発見したそうだ。もうこの人研究者として雇った方がいいのでは…

SCP-3477-30

切った部位が(59歳の時点まで)若返って再生する、プラナリアみたいな特性を得た元首相。
GOCによって捕獲されたが、外交上の重要人物であったことからGOCにしては珍しく破壊を保留。財団へ引き渡されることになった。

SCP-3477-34

地獄より来たるオカルト ウィッカーウィッチ・元首相。燃料なしで永久に燃え続ける炎に包まれているが、本人はちょっと焦げてる程度で平気。この火が消えない限り命が保たれるらしい。


インタビューと実験記録

由来する技術もバラバラなら特性もバラバラ、実にバリエーション豊かな面々である。
だがお気づきの通り、明確な共通点が一つある。すべてのホルト氏は何らかの形で不老性・不死性を獲得しているのだ。

これについて各ホルト氏にインタビューしたところ、全員が異口同音に同じ動機を語ってくれた。なんでも彼は若い頃から死に対する恐れが強く、かねてより不老不死に憧れていたのだという。
やがて国家元首という立場に就いたホルト氏は、そこで財団をはじめとする様々な超国家的組織からの接触を受け、この世には人知を超えた神秘が確かに存在することを知らされる。彼は「これだ!」と膝を打ったに違いない。
ホルト首相は新たに得たパイプをフル活用して不死化の技法を収集し、集まった選択肢から吟味の末に一つを選んだ。
そして1967年11月20日。彼は協力者を自宅に呼んで契約を結ぶと、いよいよ計画を実行に移す。すなわち自ら失踪を装って姿を隠し、不死化施術を受け、第二の人生をスタートしたのだ。

…その人生が34パターンに分かれた理由は謎のままだが。

ホルト氏自身、別の自分の存在にはまったく気付いていなかったし(偶然出会っていた-13、-14は例外)、選んだ方法も一つだけのつもりだった。
また、ホルト氏と契約した各団体の協力者を何人か突き止めることに成功したのだが、彼らも全員「11月20日にホルト氏の自宅に招かれて契約を結んだ。そこにはホルト氏と自分しかいなかった」と認識していた。
同じ日時、同じ場所で、矛盾する複数のことが起きている。どこかでパラレルワールドの分岐が発生しているのだが、誰もそのことを認識できていないという状態なのだ。


パラレルであることにさえ目をつぶれば、とりあえずどのホルト氏も一貫した発言をしているし、それぞれ証人もいるし、全員が正しいように聞こえるのだが…
果たしてすべての個体を本物のホルト元首相と認めてしまっていいものだろうか?それともどれか一人がこの世界出身の本物で、残りは別世界から転送されてきたのだろうか?
そこが気になった財団は、全員を一つのミーティングルームに集めて会談させるという実験を行うことにした。
有名な「 自分をキリストだと思っている患者3人を一つの部屋に放り込む実験 」では、全員が自分こそ本物と主張して譲らず殴り合いになったそうだが、全員が自分をホルト元首相だと思っている場合はどうなるだろう?

-3、-13、-14を除く全個体「おお! 他の自分がいると聞いてはいましたが、今まで真に受けていませんでしたよ。妙な事が起こるものですなぁ。」
-13と-14「ああ、またお会いしましたね! どうやら前にお互い会った経験があるのは私たち2人だけらしい!」
全個体「私たちは全員同じように考えるので、反応も全て一緒という事ですか。」
全個体「全く、偉人は皆同じように考えるとはよく言ったものです!」
全個体が笑い始める。

会談は終始なごやかな雰囲気で幕を閉じた。…全員がまったく同じ台詞をまったく同じタイミングでユニゾンするという異様な光景だったが。
どうも彼らは素体や記憶のみならず、思考についても本質的に同質のようである。もちろん不死性獲得の経緯を紹介する時などは異なる発言をしたが、それ以外の場面では台詞も同じ、笑う声までおんなじであった。
余談だが実験の一環でパズルを解かせてみたところ、全員ぴったり同じ所要時間で解いたという記録もある。これじゃどれが本物だとか偽物だとか考えても無駄そうだ…。

何かあったら嫌なので実験はこれきりにしておくが、なんだかんだでみんな財団には協力的だし、特殊な収容プロトコルも要らないので、もう放っておいても大丈夫なんじゃないかな


事件

案の定事件発生。
会談からわずか数日後、34体のSCP-3477個体が一斉に脱走するという収容違反が起きてしまった。
どうもこれ、示し合わせて計画したわけではなく、全員がたまたま同時にまったく同じ脱走方法を思いついたのではないかと推測されている。
毎年のように類似個体がやってくるもんで、深く考えずに「はいはいまたホルトさんね」と収容プロトコルを使い回していたゆえの失態であった。いま職員は大慌てで追跡とプロトコルの練り直しを行っているところだが、後の祭りである。

報告書はここで終わっており、脱走したホルト氏たちの目的や行き先については言及されていない。単に自由を謳歌したかっただけなのだろうか?
それにしても、すべてのホルト氏は本質的に同じということで話を進めてきたが…改めて各個体の特性を見直してみると、不老不死のクオリティにはだいぶばらつきがある。たとえばサメ元首相はあくまで長寿なだけで不老ではなさそうだし、プラナリア元首相は脳の加齢を防げるかどうか定かでない。
揃って長年の悲願を叶えたホルト氏たち。揃って収容サイトにぶち込まれ、揃って脱走するホルト氏たち。しかし思考パターンが一緒でも、この先の運命まで一緒だとは限らない。いつか再び避けられない分岐に直面する日も来るのかもしれない。


余談と関連オブジェクト

収容違反オチで終わるとはいえ、それで財団の明日がヤバくなったわけではないし、特に深みのあるストーリーが隠されているわけでもない。むしろ個体リストの部分だけでおおよそネタが成立しているという、3000番台の記事にしては軽い読み口の作品である。
しかしその中には新旧さまざまなオブジェクトや要注意団体へのリンクがちりばめられており、小ネタながらもフレーバー豊かな内容に仕上がっている。皆さんも未読のリンク先がないかどうか探しつつ、近年大きくふくらんだ財団世界の設定に思いを馳せてみてはいかがだろうか。


なお本家SCP Wikiにはもう一件ホルト首相を題材にしたオブジェクトがあったのだが、評価がふるわず削除されてしまっている。SCP-3477作者はこの記事を読んでいなかったため特に関連性はないとのこと。
日本語訳は残っているので、せっかくだからご紹介する。



その後の書き足し

残り22体の特性については「別紙参照」という名目の未設定であり、読者の想像に任されていたわけだが…
その後別の著者とのコラボにより、ついに全34体の完全な個体リストを載せた「別紙」が完成した。さすがにもうお腹いっぱいです
ただし項目執筆時点ではこの完全版は未訳。また言及されている他のオブジェクトにも未訳のものがちらほらあるため、正式な翻訳が出揃うまでの覚え書きのつもりで以下に追加内容を書き留めておこうと思う。もっといろんなホルト氏に会いたい!という方は囲みを開いてもらいたい。



追記・修正は34人で同時にお願いします。



SCP-3477 - Will the Real Harold Holt Please Stand Up?
by stormbreath
http://www.scp-wiki.net/scp-3477
http://ja.scp-wiki.net/scp-3477 (翻訳)

Document 3477-2
by DrChandra, stormbreath
http://www.scp-wiki.net/document-3477-2

(Deleted) SCP-2967 - Australian Selkie
by Freudian
http://ja.scp-wiki.net/deleted:scp-2967 (翻訳)

この項目の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。
この項目が面白かったなら……\ポチッと/