SCP-4456

登録日:2020/01/07 Tue 21:05:32
更新日:2025/01/14 Tue 15:18:45
所要時間:約 7 分で読めます









SCP-4456はシェアード・ワールド『SCP Foundation』に登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスはKeterだった



概要

SCP-4456は、16世紀のスペインのガリオン船「ソイ・ミ・アマンテ」号であった。
少なくとも見た目の上では、1500年代の普通の船との差異は特になかった。

この船は、4~6日ごとにどこかの水域に自分のコピーを作り出し、$519,000ほどの金・銀・宝石が供給されると消失する。
供給されない場合、キレて体当たりしたり砲撃してくる。
なお、特に誰かが乗っているわけではないようだ。クラバウターマンでも宿っているのかもしれない。

財団はこの船の起源を調査している時、とある15世紀の文章を発見した。

女王陛下へ、

ソイ・ミ・アマンテが未知の勢力により襲われたことを報告せねばならぬことで悲嘆にくれております。彼の船とその乗組員らは我らが神聖王国の大いなる資金源として記憶されるでしょう。

しかし、私はその以前の性質に対する懸念を表明せねばなりません。彼の船の勇敢な乗組員達はどこでその賞金を得たのか話そうとせず、我々は帰還時にその多くが運ばれてきたことを知るのみです。私は彼の船の破壊が、長きに渡り我らの盗みを許し続けていた何らかの巨大かつ未知なる勢力の前触れではないかと恐れております。この世には非常に強大な勢力が蠢いているのやもしれません ─ ソイ・ミ・アマンテのような強大な船を瞬時に僅かな灰とし得る生命体はいないようですので。

神が我らにお怒りになること無きよう、我らが神の恵みの下に繁栄し続けられることを祈ります。

貴女の忠実なる下僕、ダンテより。

この文章中ではソイ・ミ・アマンテ号が「未知なる勢力」なるものに襲われて破壊されたことが記述されている。
しかし現実として、財団はこの船を何度も見かけているのである。一体どういうことなのだろうか?

宝はいずこへ

それはそれとして、財団はソイ・ミ・アマンテ号の金銀財宝がどこへ行ったのか、調べることにした。

財団は極小の追跡装置を入れたコインを10枚ほど作成し、ガリオン船に貢いだ。
追跡受信機はすぐに、船にコインが供給された瞬間に捜索を開始し、それがプラド国立美術館*1にあることを突き止めるに至る。
プラド国立美術館ではそのコインを1827年から保管していたという。
百数十年も信号を送信できる極小装置ってなにもんだよ…

つまり、現代の金銀財宝が明らかに過去へ遡っていることになる。
これを受けて異常年代学部門が調べた結果、
この船に金銀財宝を渡すと、それに応じてスペイン政府の財力が遡及的に増加する
ということが分かった。
史実ではメキシコ、ペルー、ボリビアなどから大量に銀が流入したことでインフレが加速した、
というのがスペインの価格革命の理由とされるが、財団世界では新大陸だけでなく財団もこの価格革命に加担したわけである。



























財団記録部門からの通達


以下の文書はアノマリー分類システムを組み込んだ形に改訂されました。旧型の分類フォーマットは後世のために残されます。




画像出典:http://ja.scp-wiki.net/scp-4456 ,by Calibri Bold and Dr_Kasugai ,スクリーンショットはfriendboy042による, 2020/01/07閲覧
この画像は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。


冒頭で、「オブジェクトクラスはKeterだった」と含みのある書き方をしていたのをwiki篭り諸兄は覚えておられるだろうか。
以下はその顛末である。


ソイ・ミ・アマンテ号のその後


財団は世界各国との間に、財団国際関係条約(FIR条約)というのを締結していた。
これは、収容に関係しない他国への寄付の禁止などが記述されている、財団と世界各国との間の関係についての取り決めである。
言うまでもなく、財団はこの収容を続行する限り、スペインに対して寄付をしつづけるはめになり、これはすなわち条約に違反してしまうことになる。
しかもそれらの財はソイ・ミ・アマンテ号によって過去のスペインにもたらされるので、
過去改変を引き起こすトリガーとなってしまう。それも何度も、何度もである。おまけに収容にかかる財宝の費用もバカにならない。
それに、出現する場所もランダムであり、LV-Zero 捲られたヴェールシナリオの発生源にもなる。
そもそもの問題として、ソイ・ミ・アマンテ号がいずれ破壊されることは15世紀の時点で既に確定しているのだから、
財団がこのまま収容し続けること自体が、過去改変や因果律のパラドックスを引き起こす可能性すらあるのだ。

つまり、本オブジェクトは

  • 収容コストがかさむ
  • 過去改変により因果律のパラドックスを引き起こす
  • 法律的にもレッドカード
  • パンピーがアノマリーを見てしまう可能性がある

収容コストがバカ高くて、しかもリスクしかない。こんな船、ぶっ壊してしまおう

……ということで、財団は確保・収容・保護の原理原則の対象外であるとして、
本オブジェクトをそれまで長く使われてこなかったDecommissionedクラスに指定することに決定。
本オブジェクトを終了することにしたのである。

いくら過去にさかのぼる船と言っても、15世紀のガリオン船でしかないSCP-4456-Dを破壊することは財団にとって容易であった。
また、SCP-1609(椅子の残骸)は破壊することで脅威度が増していたが、本オブジェクトに関してはむしろ、収容することによるリスクが大きすぎる。
完全に焼き払った船は、その欠片や灰もろとも消失し出現しなくなった。

財団が、「ソイ・ミ・アマンテのような強大な船を瞬時に僅かな灰とし得る生命体」になった瞬間である。



SCP-4456-D - まさかの時の(No One Expects)スペイン(The Spanish)解体任務(Decommission)



ちょっとした余談

著者のCalibri Bold氏によれば、氏が本オブジェクトを書くに至った理由は以下のようなものであるという。

  • Decommissionedオブジェクトを書きたい
  • でもたのしいざいだんは嫌い

そこでCalibri Bold氏は、Decommissionedというオブジェクトクラスをどうすれば「たのしいざいだん」から切り離して規定できるかを考え、
最終的に、「財団の意図に反して無力化された」Neutralizedに対比して、「財団が意図して破壊した」アノマリーへの分類としてDecommissionedを再定義したのである。

と同時に、今までのDecommissionedオブジェクトがやたら収容コストが嵩む存在であることに着目。
デュークにしろ羽の生えた犬にしろ、なぜかやたらと高級な食い物や嗜好品を要求する傾向がある。
また、財団が世界各国政府の協力を得た上で収容を行っている、という基本設定に目を向け、
各国の協力を得にくくなるような事態、すなわち取り決めや法律に違反してしまう場合には財団も収容を優先しないのでは?と考察した。

結果として、「コスト」と「法的問題」にふれるオブジェクトは破壊する、というヘッドカノンのもと書かれたのが本オブジェクトなのである。

さらにCalibri Bold氏は、この記事を皮切りに『解体部門』という「収容困難なオブジェクトを意図的に破壊する財団の専門部署」を描くカノンハブを設立。
この影響で、財団本部ではDecommissionedクラスのSCiPが他にも増えてきている。
これらの記事の多くはまだ未訳だが、ミスターほんやくの活躍を待とう。

ちなみに、本オブジェクトはアノマリー分類システムでDecommissionedが使われた初めてのケースである。


さらに余談だが、メタタイトル (原文:No One Expects The Spanish Decommission!) はモンティ・パイソンが元ネタ。
『スペイン宗教裁判』というネタの中のセリフが由来で、特に英語圏のサブカルチャー作品では定番の言い回しになっている。


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最終更新:2025年01月14日 15:18
添付ファイル

*1 もともとはスペイン王家のコレクションを展示する美術館であったが、後に国有化されたマドリードの実在の美術館。