〈侵略者〉(双亡亭壊すべし)

登録日:2020/01/24 (金) 23:55:00
更新日:2025/04/07 Mon 16:50:34
所要時間:約 11 分で読めます






寿永元年春、星ぞ降りにける。

東の空真紅に燃えぬ。

上下殊に驚き恐るる。甚だ不吉なりと。

降りにし沼こそ湧き返りにけれ───


藤原貞宗『星月記』





おまえの カラダをよこせ。



〈侵略者〉とは『双亡亭壊すべし』に登場するキャラクターである。


【概要】

坂巻泥努が建造した本作の舞台「双亡亭」に巣食う存在であり本作最大の敵
その正体は黒い液体の体を持つ地球外生命体。
劇中の双亡亭で出てくる〈侵略者〉はごく一部に過ぎず、本体は遠い銀河の先にある巨大な惑星1つを丸ごと覆い尽くすほどに膨大な黒い海そのもの。

性根の悪辣さ及び存在のスケール共に藤田作品の敵の中でもトップクラスのスケールと危険度を誇る化け物なのだが、泥努からの扱いは便利な絵の具以外の何物でもなく、扱いは奴隷も同然。
ミイラ取りがミイラになってしまった彼らだが、それでも尚反骨心自体は失われておらず、泥努にこき使われながらも泥努の支配から逃れるための方法を模索している。
劇中、しのは泥努のことを「一千兆分の一の確率で存在するあの男」と評していたが、逆を言えば〈侵略者〉は一千兆分の一の確率でしか存在しない最悪のババをピンポイントで見事に引いてしまったことになる。


ちなみに故郷の星は地球のある太陽系を含めた天之川銀河から2000万光年先にある銀河群の中の1つ「ひまわり銀河」の中のとある星。
風速300キロ以上の暴風が吹き荒れる過酷を極めた自然環境であり、地球人類が生存することは不可能。


【性格】

人間と同等の高度な知性を持ち意思疎通も可能だが性格は高慢で悪辣極まりないド外道
合理的な勝利の為なら人のトラウマを抉って心を踏み躙る卑劣な手段を嬉々として実行し、プライドの高さから自分達を「最も優れた存在」と考えて、他の生命体を露骨に見下して餌や道具程度にしか考えていないため、対話の余地は皆無。

何事においても合理を優先する傾向にあり、「感情」を廃した徹底的な効率化と合理性の追求によって20億年もの年月を掛け現在までの進化を果たした。
だが、合理とは程遠い人間の意志の力を甘く見積もりかちな価値観や、機械的なその在り方を坂巻泥努に酷評された挙句隷属させられる羽目になった。
劇中でも感情という概念を理解できない事や人間を見下す傲慢な思考回路によって度々形勢逆転を許す詰めの甘さが最大の欠点と言える。

その行動原理の根底にあるのは「生きたい」「死にたくない」という純粋な生存欲求。
合理主義を突き詰めた結果辿り着いたのは生物らしい生存本能の一念であった。


【生態】

巨大な液体状の身体を種族全員の統一された意志で共有・支配する「全体で一つ」という在り方で活動する。
地球上では黒っぽい水や鏃に似たヒルのような姿となって活動。人間の精神を攻撃する際もヒルのような姿を取る。

種族特性として窒素に致命的に弱く、多量の窒素を含む地球の大気に触れると肉体が瞬く間に溶解・蒸発してそのまま死滅するため、基本的に双亡亭の絵の中以外の地球環境下で活動することは原則不可能とかなり不利。
だが一方で水中などの窒素の非常に少ない環境下ではまさに独壇場。
例え小さな破片であろうと水に触れると小さなヒルのような姿から急速に肉体が変異し何十倍にも膨張。深海魚を掛け合わせて更に醜悪にしたかのような不気味な異形の巨大な怪物に姿に変貌する。
仮に彼らが地球の河川を通り一滴でも海に侵入した場合、大繁殖した末に人類滅亡が確定する。

その他液体の身体を平面の物質に均等に覆う事で、その物質を「門」と呼ぶ本体の居る母星と繋がるワープゲートとして扱う事が可能。
おまけに双亡亭を爆撃した場合、爆炎の煙をゲートにして襲来できてしまう。
また終盤では体を固めて硬質化させることで高硬度の皮膜短を形成。皮膜を殻のようにして短時間ながら地球の外気に耐える手段を会得している。*1

窒素以外の弱点と言えるのは超高温の炎や電撃による熱量攻撃。
液体生物という性質上流石に物理的に無理矢理蒸発させられるような攻撃には弱いようで、最終盤で<あの人>のバックアップを受け大幅に強化されたジョセフィーンが繰り出す超火力の超巨大火球を受けた際は、あわや消滅寸前にまで追い込まれていた。


精神侵略

窒素に満ちた地球上の大気内で活動するための手段であり能力。
坂巻泥努が描いた「自画像」の中に標的を引きずり込むと、標的の脳内記憶にある「最大の苦痛」である過去のトラウマを再現。
標的に再現した記憶を追体験させて、標的の精神を破壊してから体に寄生して乗っ取り、肉体を支配するというもの。
おまけにただ再現するだけでなく、その記憶を悪意満載に誇張或いは歪曲させて、より記憶の醜悪さと恐怖を増幅させることで効果を高めている。
これによって精神が破壊された人間の肉体を乗っ取り自分達の「仮初の器」として運用。双亡亭の敷地内限定だが自由に活動することができる。
この手法で何十年と犠牲者と器を増やしてきた関係から人間の精神構造を熟知しており、天敵にして支配者である泥努からの直接干渉を除けば、外部からの精神攻撃耐性には無敵と言わんばかりに滅法強い。

ただし肉体を掌握するのではなく掌サイズの欠片程度の大きさとなって脳内に巣食う場合は亭内でなくとも活動可能。
この場合は通常のように精神を破壊し肉体を乗っ取るまではできず、思考を捻じ曲げたり一時的な洗脳状態にする程度に力が弱まる。

この攻略手段は再現されたトラウマから逃げず、受け入れて立ち向かうこと。或いは強烈すぎる意志力で再現されたトラウマを捩じ伏せる他ない。
他作品で例えると影との対峙に近い攻略法なので、戦闘力での戦いではなく純粋な精神力の戦いになる。
仮に条件を満たせるのであれば何の能力も鍛錬も受けていない一般人であっても突破して寄生を防ぐ事が可能。


【個体一覧】

しの


天神サァマの境内よォりも
ひぃろぃお屋敷見ぃつけた 沼半井の大旦那
道楽者のぱあぷう絵描き
ねじれ くびれた<双亡亭>で じぶんもぺらぺら

いとまごい…


泥怒に支配された〈侵略者〉の意思を代行する存在として、泥怒がイメージを固定させた〈侵略者〉の一部。
例えるなら人為的に生み出されたこの人
見た目は着物を着て鞠を付くおかっぱの童女で、感情の無い冷徹な目つきが特徴。
外見のモデルは泥努の姉しのぶの幼き頃の姿だが実態は〈侵略者〉と同じ液体生物であり、あくまで意思疎通のため人の形を模しているだけに過ぎない。
その為滅ぼしても自身を描いた絵を介して復活する。双亡亭と一体化した同族を利用し、双亡亭内の様子を全て知覚することが可能。

第1話のナレーションで遊んでいた少女の正体であり、地球に飛来した〈侵略者〉の指揮官に相当するポジション。
支配者でありながら一切の指揮を執らない泥努に代わり双亡亭で〈侵略者〉達の陣頭指揮を執る地球上における代表者も務める。

一見無感情なクール系ロリと思いきや、こっちも泥努に負けず劣らずの豊富な顔芸を披露する激情家。
性格は〈侵略者〉らしく合理性を尊び、非合理な行動や思想を忌み嫌って他者を騙し陥れることに微塵の躊躇いもない、冷酷で傲慢な外道にして下衆。
…なのだが自分達の支配者である泥努に対しては、「理解が一切できない」「コイツ人間じゃねぇ!(意訳)」と称してファーストコンタクトの段階で心が完全に折れて怯えてしまい、泥努が与える「恐怖」に怯えながら服従させられる屈辱の日々を送っている。
おまけに母星の本体は刻一刻と種族滅亡の危機に瀕している為、何だかんだで余裕も持ち合わせていない。
…とはいえ〈侵略者〉側にとっては泥努との唯一の交渉窓口を担っている為、絵を描く事以外に興味関心のない泥努の機嫌や反応をうかがい、度々「双亡亭からの自分達の解放」を懇願しては泥努に懇願を無視され、合理性とはかけ離れた泥努の奇行に頭を悩ませつつ、地道に交渉しながら目的のため日々策を練る(自業自得とはいえ)悲しい中間管理職となってしまった。

だが実際の所感情という概念がない彼らに喜怒哀楽は愚か恐怖の概念もないため、これまでの感情表現豊かな表情は「擬似個性」と呼ばれる手段で表面的に人間らしい感情を模倣したことによる演技。
内心は「下等生物にプライドを傷つけられた挙句奴隷のように扱われる屈辱」が思考の大部分を占めていた様子。
そして裏では密かに五頭応尽と内通しており、泥努抹殺のために様々な策謀を張り巡らせ叛逆の時を虎視眈々と狙い続けていた。


読者や協力者である五頭応尽からのあだ名は「しのちゃん」


イチバン


お前を倒すために最適な形態は人間と同じ姿で、人間の殺人技術を持つ個体。
「ヨンバン」「サンバン」「ニバン」

どれも足りぬ…そうだ、青一…

私が<双亡亭>の中で最強の、「イチバン」だ。

前線に一切出なかったこともありか弱い童女を思わせていたが、実態は<侵略者>最強の強化個体「イチバン」
外見は首から下を泥努のような黒いタイツで覆い、四肢を硬化した<侵略者>の鎧で覆った派手さのないシンプルなもの。
両手首足首には鋭利な短い刃がそれぞれ生えている。

戦闘スタイルは近接格闘戦特化。
  • 小柄ながら大型兵器すら素手で破壊し敵を正面から殴り飛ばす体術と身体能力
  • <侵略者>本星とリンクすることで本体の膨大な知性を利用することで戦う相手の行動パターンをシミュレートし、攻撃を先読みする計算能力
を駆使して理詰めで敵を排除していく。
だが真の恐ろしさはあくまでしのは地球で行動するためのアバターでしかなく、たとえ肉体を破壊されても双亡亭と<侵略者>本星がリンクしている限り際限なく復活し、なおかつ同スペックの「しの」の量産すら可能であることにある。
ただし完璧ではなく、戦術の要のシミュレーションもあくまで自分達の想定・把握する情報の上で成り立つもの。
そのため自分達の想定外の要素が存在すると、僅かに行動が読み切れない。


人ならざる者達

泥努の肖像画に取り込まれ、〈侵略者〉に精神を破壊され肉体を奪われた犠牲者達。
地球における〈侵略者〉達の器も兼ねている。
基本的に支配された者達は自我を失い〈侵略者〉に肉体を操られる理性のない亡者のような状態になるが、肉体限界を無視して動くため相対的に身体能力が増大。
生前何らかの霊能力や超能力を備えていた場合能力を生前と同じように行使が可能。
生者でなければ寄生できないというわけでもなく、やろうと思えば死体に寄生して操ることもできる。

なお理性のない亡者になる事なく、過去の詳細な記憶を保ったまま変異した者もおり、その場合は寄生される前と変わらない言動を取る。
ただしこれは寄生した〈侵略者〉が脳内の記憶を元に再現・模倣しただけに過ぎず、厳密には死体同然。おまけに〈侵略者〉の悪意を反映して全員性格が凶暴化した上に悪意に満ちた歪んだものに成り果てている。
このタイプは肉体構造すらも大幅に変質しており、身体の部位が伸縮・変形するだけでなく物理攻撃に対しても高い耐性を獲得。体内の水が滅びない限り死なない不死身となっている。
基本は理性のない犠牲者を指揮する指揮官役を担う事が多い。

人ならざる者には絵の外部及び双亡亭の屋敷の外で長時間に渡り活動できる力はなく、やがて肉体は爆ぜたり溶け出すが、外部での行動可能範囲は徐々に広がりつつある。
後に泥努の「一筆」を受けたことで能力が強化。双亡亭の建物の屋外にでても身体が溶けることなく活動可能となり、戦闘力も増した。

  • 朽目(くちめ) 洋二(ようじ)
人ならざる者達の中では最初のネームドキャラ、
修験者だが、肩には薔薇のタトゥーを刻み腰には現代風のアクセサリーを身に着けたパンクな出で立ちの青年。
自らの強さに鼻を掛けた傲慢な性格で、欲に塗れた言動とチンピラのような態度を取るかなりの女好き。
修行で鍛えた霊力で金儲けなどの私利私欲に用いていたせいか、紅からは「外道」と呼ばれ唾棄されていた。
とはいえ傲慢な態度を取るだけあって実力は確か。
験力(げんりき)により強烈な衝撃波を発生させ敵を吹き飛ばす豪快ながらも乱暴な戦い方を取る。

双亡亭破壊作戦に関わるが、屋敷内に飾られた肖像画に取り込まれて人ならざる者と化す。
その後は完全に〈侵略者〉に掌握されるとマーグ夫妻と交戦し瀬戸際まで追いつめるも、紅とアウグスト博士の支援を受けたジョセフィーンの火炎によって燃え尽きて敗北する。


  • 鬼離田(きりた)菊世(きくよ)
人ならざる者達の中の準レギュラーその1。
現代最高の感知能力を持つと言われる占い師の三姉妹の長女。
三姉妹の眼を一人に集中させることで千里眼とし、感知能力を引き上げる宿眸(すくぼう)(ほう)を発動したまま取り憑かれたため、侵略者に優れた感知能力を与えてしまった。
鬼神を招請・使役する道術もそのままであり、人ならざる者達の指揮官のようにふるまい破壊者、そして妹である雪代と琴代と死闘を繰り広げた。
だが立案した作戦が悉く失敗に終わり、最後は雪代と琴代との鬼神対決の末に凧葉のイラストを依り代とした荒鬼神の前に敗北。
死の間際琴世本来の人格を取り戻したかのような表情を浮かべ、宿眸の法を解除するだけでなく自らの目を妹達に渡した瞬間溶けて消滅した。


  • 残花班(ざんかはん)
人ならざる者達の中の準レギュラーその2。
正式名称「帝国陸軍東京憲兵隊沼半井小隊所属第四分隊」
双亡亭に入った際肉体を乗っ取られてしまった黄ノ下残花の部下達。
憲兵服に外気対策のガスマスクを身に付け、罅割れた眼球を有する異様な集団。
双亡亭の警護と侵入者の抹殺が主任務で、泥努を「司令官」と呼ぶ。
残花には一応上司であるかのように振る舞うが言動は露骨に見下しており、性格も皆犠牲者の例に漏れず残虐非道。
全員が日本刀で武装しており、強化された身体能力と軍人として鍛えられた剣術、集団戦法で敵を追い詰める。
現在の構成員は10名。部隊長代行は班付憲兵准尉井郷(いごう) 照清(てるきよ)

  • 子供達
〈侵略者〉にとっての天敵になりうる青一や緑郎への対抗策として動員された人ならざる者。
かつて青一と共に異星で〈侵略者〉と戦った青一の友達の死体を乗っ取り「器」としている。
生前の記憶・能力も得ているため、それらは自由に利用可能。戦闘では強化された身体能力と、青一のドリルと同じ「手足の武器化」を用いて戦う。
だが性格は〈侵略者〉の思想を反映した結果、生前とは似ても似つかない極めて傲慢かつ残忍なもの。
結果人類を見下し、人を傷付け甚振ることを娯楽として考え、嬉々として殺しに来る極悪非道のクソガキ集団に成り果ててしまった。
劇中では一般人に擬態して油断を誘って騙し討ちを仕掛けたり、友達だった彼等の記憶と思い出がよみがえり攻撃できない青一を只管嘲笑いながら徹底的に痛めつけた。


その他個体

  • ウツボ
「あの人」と呼ばれる異星人の星を侵略していた際の戦闘形態。
ウツボという名前はあくまで地球人が付けた呼称なので正式名称は不明。
全長400mものサイズを誇る醜悪極まりない深海魚のキメラような外見で、生物でありながら宇宙空間でも活動が可能。
体内に共食いする小型の同胞を巣食わせてミサイル代わりに使用する。
有事にはこのサイズの怪物を無数に生み出して艦隊のように並べ、敵に攻撃を仕掛けていた。

  • 魚(仮称)
「地球の水中環境下で合理的に生きる生物」として乗っ取った地球人の記憶を参考に変化した地球上での戦闘形態。
外見は極めて醜悪な魚型のモンスター。全長は約数mほど。
頑強な外殻で覆われた肉体と鋭利な牙や棘を生かした噛み付きや体当たりを武器とするが絵の外では極短時間しか生きられない。
なお母星側には100mを超えるサイズの「魚」が平然と蠢いている。

  • ヨンバン
泥努の提言を受け、自分達に足りない「意力*2を高めるべく、<侵略者>同士の殺し合いと共喰いの結果生き残った強化個体。
強化個体は総じて空中を自由に舞い、地球の大気に触れても自己崩壊を起こさない強靭な身体を持つ。
外見は蛇に似た長い身体と人間に似た形状の大きな口を持つ異形の魚類。
武器は強固な肉体を利用した体当たりと噛み付き

  • サンバン
共喰いによって誕生した強化個体。
外見は触手が無数に生えた巨大な目玉の化け物。
武器は伸縮自在の触手と、隠し持つ巨大な口による強烈な吸い込みによる捕食。

  • ニバン
共喰いによって誕生した強化個体。
外見は鳥のような頭部を2つ持つ双頭の蛇。
2つの口から大気に触れても自己崩壊しない大量の小型の同族を放出し、ウツボが使った「ミサイル」のような攻撃ができる。


【略歴】

〈侵略者〉の星は核の対流が止まり、太陽の有害粒子を防げなくなった事で死にかけており、奴らも粒子に蝕まれ、種族滅亡の危機にあった。
その状況を打開するため、自分達と似たような体を持つ「あの人」を栄養として取り込み、自身を増やそうと目論んでいた。

当初は順調に進んでいたが「あの人」達と融合した青一達が反撃を開始した事で存続が危ぶまれるほどにその数を減らし、<侵略者>はいよいよ滅びに瀕していた。
そんな中、「予知」の力を持つ〈侵略者〉は双亡亭に大きな力が働き、門が開くことを感知。一斉に地球に向けて逃げ出しそのまま地球を第二の母星にせんと目論む。
しかし、「あの人」が全ての力を使って攻撃を仕掛けたことで奴らが大挙して地球に押し寄せる、という事態は何とか防がれた。


その頃、地震の新天地を探す名目で宇宙全土に散らばった<侵略者>の1体は長い長い宇宙の旅の果てに地球に漂着。
平安時代の日本、後の東京都豊島区沼半井町となる土地に墜落すると、墜落した先の沼地で休眠状態となり、約700年もの間眠りについた。
その間、侵略者が眠る土地は埋め立てられたが、人も動物、虫に至るまであらゆる生物が寄り付かない荒地のままだったという。
そして700年後の昭和4年に、偶然双亡亭の地下室の床から湧き出した<侵略者>を泥努が発見し、彼らの身体で絵を描いた結果「門」が完成。
新たな新天地となりうる星の生命を調べるため泥努を絵の中に引きずり込み、泥努を侵食し存在を乗っ取るため泥努との同化を実行する。

だが<侵略者>にとってそれこそが最大最悪の悪手だった。
泥努の精神力を完全に見誤っていた<侵略者>は泥努の狂気の精神力によって逆に自身が侵食され、肉体の主導権を奪われ始める。
おまけに合理性と効率性に特化しすぎた種族の繁栄方針を「何の面白味もない」と侮蔑され、あっけなく自分達の存在と精神構造を掌握されてしまう。


き、危険だ!我々が使っていなかった「直感」が叫んでいる!「逃げよ」!「逃げよ」!

だからキサマらの体にはただ漠然と「色彩」どもがひしめいているだけなのだ!

私の、「絵の具」になるがいい。私がキサマらで「絵」を描いてやろう
ふ…「合理的」か…20億年も生きてきて
キサマらは本当に、


薄っぺらいヤツらだ。


あああ 我々の方が…「支配」されるなど…

あああああ!!

トドメとばかりに同化した際にうっかり恐怖の感情を学習してしまったせいで「恐怖」の感情に縛られてしまったのが決定打となり、
泥努に精神的に完全敗北を喫し<侵略者>は絶望に嘆きながら泥努に強制的に隷属させられた。
泥努の命令で「しの」というアバターを構築して以後は、泥努の絵の具兼奴隷の扱いを強いられる羽目になる。
この過程で、自分達が地球上で活動するための拠点を得る為双亡亭の母屋及び泥努が調達した建築資材と融合。
独自に双亡亭を増改築して「囲い」とし、双亡亭から窒素を排出する事で現在の異様な外観の双亡亭へと造り変えた。

だが未だ地球を我がものにすることは諦めておらず、泥努に怯えながらも面従腹背の姿勢を取り、海へと進出し繁殖して人類を食い尽くして地球を支配せんとする計略を企んでいる。
その過程で雇ったのが不老不死の呪禁師「五頭応尽であり、双亡亭の塀の外で色々な雑務を与え活動させていた。

なお地球侵入時に海・河川・湖などに着陸していればその時点で勝利が確定していたし、休眠せずさっさと海を目指していたり、そもそも日本の関東地方なんかに墜落していなければやはり勝利が確定していたので、そういった意味でも神がかり的に運がなかった点は、〈侵略者〉を語る際読者からよくネタにされやすい。


現代

そして現代では「双亡亭から解放され、自分達の繁殖地となる河川や海に辿り着き移住する」という目的のために、
  • 総理大臣が就任する度に「肖像画」を送り付けて総理大臣を支配下に置き、双亡亭と河川を繋げる工事を実行させようとする。
  • 肉体を奪った人間の身体を使って人力で地下を掘削させ地下水道と双亡亭を繋げるトンネルを掘る。
  • 五頭応尽と共謀し、自分達を縛り続ける坂巻泥努の抹殺
という3つの計略を主軸にして暗躍。
その中で双亡亭に侵入してきた人間達を肖像画の中に取り込んで自分達の肉体に変え続けて来た。
だが現代に至るまでそれらの作戦は遅々として進まず暗礁に乗り上げていたが、千里眼を持つ鬼離田琴世の肉体を手に入れたことで作戦は好転していく。
だが青一や凧葉達双亡亭破壊メンバーの奮闘もあり計画は難航。
そして凧葉が自分達の出入り口となる「絵」を封じる力がある可能性に気がついたことで、急遽凧葉抹殺にも乗り出すことになる。
こうして凧葉抹殺も兼ねた双亡亭破壊メンバーに刺客を送り込んでいくが、刺客は軒並み壊滅し凧葉抹殺にすら失敗する。
だがそれでも応尽に強奪させた「転換器」で泥努に致命傷を与えることには成功。
その中で自分達のこれまで双亡亭破壊メンバーに対して行った行動の全てが、「泥努の精神支配を打ち破る「強さ」を持った人間の選抜試験及び、研究・調査・実験」であったと暴露する。
そして見つけ出した結論が「勇気」であると結論づけると、勇気を出した人間の感情を疑似再現することで遂に反逆に成功させる。
だが凧葉抹殺の失敗の余波に加えてあくまで彼らが理解したのは感情の上部だけに過ぎず、「破壊者に泥努を殺させる」という泥努抹殺の計略の歯車は狂って失敗してしまう。


最終決戦


ほう……いいことを聞いた
これからこの<双亡亭>に人間達の火砲による、
一斉射撃が開始されるのだな。
人間の姿をしていると思わぬ情報収集ができる。


自分達のタイムリミットも迫る中、地球侵略の最終作戦として「自衛隊の火力兵器による総攻撃による爆炎を利用して母星に繋がる大規模な門を開き、本体を地球に呼び込む」ことに着手。
日本国民の恐怖を煽って双亡亭への爆撃を誘い、何としてでも本星の同胞を呼び寄せようと画策する。
その過程で最大の障壁と判断した青一を排除すべく、しのはイチバンとしての本性を発露。真っ向勝負にもつれこんでいく。


(移動だ!移動だ!)
(我々は永らえる!新しい地への「門」が開いた!)
(その惑星「地球」の〈海〉なる場の水中で、エネルギーを摂取し、繁殖し、「地球」を支配する。)

遂に門が開いたか…すべてよい…


この千載一遇の好機を前に青一との戦いを完全に放棄し「海への到達」という宿願を最優先として、双亡亭地下にある暗渠を経由して河川を経て海に辿り着かんと行動を開始。
液状の体の表面を硬い外殻で覆った顔のない蛇のような姿になると、東京の河川を爆走していく。

〈侵略者〉の海への到達を阻むべく立ち上がった自衛隊並びに異星人からのバックアップを受けた双亡亭攻略メンバーとの総力戦を重ねていく。
この総力戦でどんどん体積を減らし消耗し続けてしまった挙句、最後の最後で宿敵ともいうべき青一が立ち塞がる。
自衛隊のバックアップを受けた青一との汐入公園河川での戦いも、自衛隊が投入した大量の窒素ガス発生器の前に苦戦。
青一のドリルで抉られたこともあって外殻の護りを失い、急速に肉体が窒素に晒され溶けだしていく。


(わ…我々は…絶対に…海まで……)
(絶対に…海まで……!)
行くのだあああ~~~

カンジョーガ ナイナンテ イッテタケド、
シノ!イマオマエ カンジョーダラケダ。

…!

ヤァイ!

うるさい青一!だまれえええ!!


こうして怒り狂いながらも、大量に生み出した同族の怪物を利用した数の暴力で青一を圧倒。
勝利を確信して海まで到達しようとした最中、異星人が振り絞った最後の力の影響で辿り着こうとした隅田川河口付近~江東区若杉海浜公園一帯の海水が凍結。
これまで栄養としか見ず見下していた異星人のおもわぬ逆襲に怒りながら急遽方向を転換し、陸上を突っ切って凍結していない別の河川目がけて侵攻を開始しなければならない事態に陥ってしまう。
青一の追撃を受けつつも邪魔な市街地の障害物を薙ぎ払いながら死に物狂いで目的地目がけて突き進む〈侵略者〉だが、生存本能に突き動かされ只管前進していく。
だがここにきて双亡亭での凧葉と泥努の最終決戦にも決着が付き再び「門」が閉じられたことで、これまで推進力の要であった本体の流入すら停止。
動揺しながらも目前に迫った海の光景を見て、地球支配の野望をたぎらせて只管進む〈侵略者〉だが、またしても最後に立ち塞がるのは青一だった。


青一…おのれここ迄再三邪魔をしてくれたなぁ……
ゆるさん!!!

キサマの得意な武器で 殺してやるぞォォ!!

コイ!


残った身体をドリルに見立てて高速回転させ突撃し青一との最後の戦いに臨むも、弱体化しすぎてしまった結果呆気なく砕け散り四散。
更に小さくなってしまうも「一滴でも海に入れば我々の勝ち」という希望を頼りに海へと迫る〈侵略者〉だが、その姿は冷酷や合理性からは程遠く、青一ですら攻撃を躊躇ってしまったほどの生存欲求に突き動かされる、怨念の如き執念であった。


あそこまで行けば!
もうすぐ海だ…
もう少し もう少しで……
海だ… 海だ…

ああ…

ああ海だ…海だああああ!!


外殻すら捨て、これまで乗っ取ってきた人物の姿に代わりながら突き進むがそんな必死の執念も、最後の最後で斯波総理と桐生防衛大臣の手で阻まれ失敗。
唖然とした表情を浮かべながらも、最後は合理性に基づき諦めたような表情を浮かべながら蒸発した。


われわれは、ここまで…やった
それでも、かなわぬのなら…

しかた……ない……

皮肉なことにその最後の姿は、斯波総理と桐生防衛大臣がかつて手を離して<侵略者>に取り込まれたナナの姿であり、2人は今度こそ手を離さないことで引導を渡したのだった





【余談】

元ネタは恐らくハワード・フィリップス・ラヴクラフトが描いたクトゥルフ神話に登場する宇宙生命体「異次元の色彩」と思われる。


壊すべきは何ぞ 壊すべきは何ぞ
風吹く真夏の砂原で

ひねもす 兵隊ねじ締める
砂がぱらぱら 螺旋は板に穴うがつ ゆがんできしんで音立てる

おれの目玉は銃口だ 敵はどれだ 味方はだれだ
見えなかったナンにもな うっすら笑って死んでった

あいつの墓は埋まってござる 日は暮れて 夜風が口笛吹くけれど
兵隊それにも気がつかず 目ン球ねじで締めつける

坂巻泥努 (一九〇四〜没年不明)



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最終更新:2025年04月07日 16:50

*1 とはいえその外殻も窒素と反応するとどんどん溶解するため、時間稼ぎにしかならない

*2 他の生物を圧倒してやろうという意志の力。生きる為の意志や殺意とも言う