胎界主(web漫画)

登録日:2020/05/17 Sun 13:00:00
更新日:2025/04/23 Wed 10:36:58
所要時間:約 9 分で読めます



『原典』……翻訳……

翻訳行為なしに……
翻訳行為なしに『原典』を覗いてみたくはないか

「これが……真実……なの?」

それが 真実だ








 「胎界主」とは、全ページフルカラーで構成されている「全頁の無料公開WEB漫画」である。
 作者は尾籠 憲一。(2020年6月時点。第二部終了した2017年に、「鮒 寿司(ふな ことつか)」から改名された様子)

概要


 ジャンルとしては伝奇系能力バトルとダークファンタジーのミックスだが、哲学や宗教からの引用も多く非常に独特な雰囲気を持つ。
 「漫画リテラシー強要作品」「セリフで説明は最後の手段」と作者自身ネタにするほど繊細な描写がなされ、キャラの表情や背景だけでストーリーを説明する場面が多々あるため初見でストーリーをすべて理解するのは困難。さらに

  • 公衆手◯ン息子の命でガチャ男
  • 濃縮クソガキ概念チクニーケモショタ
  • 諦めないというルール以外絶対守らない両刀ハゲレイプ魔殺人鬼
  • 元薩摩士族サイキック国家元首(推定実子数5人以上)
  • 第1話開始数ページで登場する主役よりも先に顔が出て髪色まで同じせいで新規読者を混乱の渦に叩き落すモブヤクザ
  • 第1話開始数ページで登場する一人称が自分の名前なせいで新規読者をもっと混乱させるモブヤクザ

など、強烈なキャラクターと作者の性癖がエログロ描写と共に飛び出すので知らずに読むと面食らう可能性もあり。過激なシーンや陰部などはモザイクがあるので安心!
 有志による各派閥間の登場人物相関図・エピソード考察・用語説明などが載っている本作品専用のwikiもあるので、読む際に参考にするとよい。本稿作成の際にもかなり参考にさせていただきました。

あらすじ

●第一部<アカーシャ球体>(2005年連載開始~2009年完結)
 鮒界市立公園墓地管理人の凡蔵 稀男(ぼんくら まれお)は地元警察の抱える暗殺者「亡くし屋」を営んでいたが、ある時魔王ベリトを召喚した少年に助けを求められ「誰かを助ける者」として活動を始める。助けを求めたり求めなかったりして彼を訪れる住民・下請けのヤクザ、サイキック薩摩士族「球体使い」の東郷家、彼の持つ素質を狙う悪魔と下請け組織内部の派閥間抗争を主に描く。

●第二部<ロックヘイム>(2009年連載開始~2017年完結)
 魔王の部下であるタロット・アスの下で「助ける者」としての成果を求め異世界「ロックヘイム」を荒らす死の眷属「骸者」一派の殲滅を当座の目的に据え、ロックヘイムへ向かった稀男は、そこで彼に匹敵する強大な「運ぶ力」の「胎界主」、ピュアと出会う。

●第三部<翻訳儀典>(2020年連載開始~2032年頃希望的完成予定。by作者)
 現在は第一部、第二部に登場したソロモン王の青年期を描く古代王国編を連載中。pixivファンボックスで毎週火曜日に先行配信中。金曜日まで待てば本家サイトでも更新分を読める。ファンティアの有料プランでは全て無修正で見れるので更に嬉しい!

 余談だが、作者の尾籠氏は第二部完結後に何篇かオリジナル短編を公開している。今はAmazon kindleのみで販売されているが、興味があったら読んでみるのもいいだろう。


世界観

 この作品の世界観は複雑かつ第2部終了時でも明かされていない情報が数多あるため、第2部終盤の深刻なネタバレにならない範囲で明かされている設定を解説する。


+ 2つの「生成世界」とそれを取り巻く数多の「胎界」
2つの「生成世界」とそれを取り巻く数多の「胎界」
「生成世界」とは、自然法則に基づき物理的な実体で構成されている世界のこと。1つ第一部の舞台で人類の出身世界「ソロモンヘイム」
 もう1つは異世界「ロックヘイム」である。
 「ロックヘイム」は妖精、半妖精*1が主な人種であり、ソロモンヘイムの住民とは技術・文化・風俗諸々が全く異なる、ファンタジー的な世界である。例えば「ロックヘイムは一つの海とそこに浮かぶオゾン層まで届く巨大な植物数本しかなく、住民は死ぬと木になり、天国にも地獄にも行かない」という事実だけでも大分価値観が違うことが想像できるだろう。裸にもキスにも抵抗がない。ただし風俗店にはニイチャンしかいない。
 生成世界の名称は「○○ヘイム」で頭に支配者の名前が冠される。ロックヘイムは「司神」トト=ロックが支配するため「ロック」ヘイムとなり、ソロモンヘイムでは古代イスラエルの王ソロモンが
 ……?どうして紀元前の王の名前が今も使われてお前は何も見なかった

 イスラエルの王ソロモンから「ソロモン」ヘイムとなっている。

 対する「胎界」は、想像力・精神力が創り出す世界のことである。ざっくりとこれみたいなものだったり、組織や主従関係、まれに特定の出来事を指す。ものによっては相当巨大で複雑だったり、逆に本人の体そのものが胎界というパターンもある。
空間としての胎界は人間のたましいの力が無いと、99年間は存在を確立できず簡単に消滅してしまう。特に強力な256の胎界は「次元世界*2」と呼ばれる。この作品世界内には「天界」や「地獄」「魔界」などの胎界が存在するが、それらは過去の沢山の人間たちが「存在する」と強く信じ続けたからこそ生まれたのである。最大の特徴は生命が存在しない点である。生成世界で生命を構成するものは存在するにもかかわらずバクテリアすらない。想像力で構築しても生命活動を行わない、同じ形をした肉塊ができる。
人間関係としての胎界は価値観と言い換えることもでき、価値観を創出する者「胎界主」、従う者「胎界物」で構成される。現実で例えると貨幣を発明した者が前者、現在使用する我々が後者となる。

+ 「胎界主」とは
「胎界主」とは
「胎界」を支配する人間、新しい概念を創造する人間を指す時に用いられる。
 この作品世界では、人間だけが持つ「たましい」による創造行為は唯一無二のものとされている。人間の「たましい」は「たましいの扉」を通じて「原典」に繋がり、翻訳することで創造行為を行うとされる。偶然を排除しプレイヤーの腕だけを反映するトランプや時間停止装置をも作り出し、強大な胎界主が創造した概念は時に他の人間を取り込み「国」や「宗教」のような「胎界」を形成する。
司神の子である神獣や妖精達は、当たり前のように不老不死だったり、チートじみた強大な力を有したりしているが、「たましい」をもたない故に創造行為を行うことができない。イチゴ大福を発明できないし、好物の紅茶を淹れても不味いし、茶室にシャンデリアを吊るしてヨシ!してしまう。上位存在の子という強固なアイデンティティ「自我の礎」を持つ悪魔や他の神獣たちは既存の価値観のコピーか劣化版しか作り出すことができず、逆に親を持たない人間、胎界主が持つ創造行為の基盤となるたましいに嫌悪や侮蔑、そして敬意を持ちながら自分たちの有利な世界を創造させるべく胎界主獲得のため暗躍している。

対義語として人間、人外の双方を含めた非胎界主の存在全般に「胎界物」との蔑称があり、胎界物は胎界主とはなり得ず絶対的な差があるのが概ね「胎界主」の単語を知る者たちにとって常識とされている。
が、それまで典型的な胎界物扱いされていた男が結果としてその場の情勢を左右する立場になった事態で「この人間がこの場の胎界主になる」と呼称されたこともあり、
また種族として「たましい」の有無とは更に個々の存在が創造性を発揮できるかどうかは別問題な部分、
更には「たましい」が無いハズの種族が「その萌芽を感じた」と言われるなど
「たましい」「胎界主」「創造行為」は密接に関係はしているがキャラクターによってその厳密な定義や認識は微妙に異なり、また作中で絶対の正解が示された事も無い。
暫定的な大方の見解は上記のままではあるものの「胎界主」の本質がなんなのかと言う確かな線引きはいまだ謎に満ちているのである。

+ 「原典」と「たましい」
「原典」とはすべての世界の「外」であり、世界が誕生する前から存在した世界。
「原典世界」とも呼ばれるが、翻訳世界*3の対のイメージとして呼んでいるだけで、厳密には原典は世界ですらない。
「世界」や「時間」「無」という概念すらも生まれる前の状態であり、同時にそれらの概念を内包している。

知的生物の認知可能な情報量を完全に超越しており、常人はおろか魔王ですら不用意に覗き込めば発狂する。
ただし、原典の一部を理解し、その内容を生成世界内に持ち帰ることができる人間も、ごく稀に存在する。
劇中ではソロモン王が原典で得た知識を「魔法則」という形に直して(翻訳して)生成世界に広めている。

「たましい」もまたあらゆる理の外にあり、「原典」に最も近いものとされている。創造行為を行う人間の自由意思自体は生成世界の法則の範囲内であり、大して重要でもない。実際悪魔は「地獄」を人格保管サーバーにして好きに取り出せるし、悪魔自体親のコピーとはいえ個々に自由意思があり、個性もある。


+ 「運ぶ力」とは
「運ぶ力」とは
「たましいの力」の一つ。「たましいの扉」が通じる司神の種類によって、胎界主が得られる力の種類も異なる。司神は全部で47柱存在するため、単純に考えれば47種類の力の種類が存在する。「運ぶ力」は司神『テュケ』の司る力であり、マナを使用し物事を望んだ方向へと運ぶことができる。ありえないような超低確率の事象も”確率が0でなければ”狙って起こすことができる。

登場人物

 登場人物が多く、出自や所属組織等も複雑だったり、活躍が終わればあっさりと死ぬ&フェードアウトのパターンも多いために、全員は記載しない。物語初期のキーパーソンと主要人物のみを記載する。
+ 主要人物
◆凡蔵 稀男
 主人公。鮒界市立公園墓地管理人。あだ名は「亡くし屋」「サメ男」「クソニス」。鯛と女が大嫌い。
 外見は白い肌に白い髪、瞳すら白と白づくめの体に黒のジーンズ黒シャツ黒ジャンパーと黒づくし。病弱ではないが喧嘩は女子供に負けるほど弱い。
 稀男の胎界主としての力は非常に強大であり、既存の価値観に嫌悪と不信を向け馴染もうとしない。因果応報のシステムとしての天国と地獄を信じていないため地獄に落とされても文字通り地に足つけず、文明社会も貨幣制度を食糧確保と嫌がらせ目的にしか利用しないほど拒絶している。その上望みさえすれば世界を一変しうる「運ぶ力」の持ち主だが何もかも信じていないため胎界主として目指す目的すらなく、仕事をするか誰かと会話する以外はもっぱらソファに座りビール片手にテレビを見ているだけである。
 できそこないのバンシー人「ニス」であるため瞳の形が白く髪と共に白く、身体能力が低い。
 ロックヘイムで生まれ、まもなく鮒界市の人間の赤子と取り替えられたため、凡蔵夫妻と血の繋がりは無い。バンシーの能力として生き物の「いのちの緒」、人間の「こころの緒」が見え、稀男はいのちの緒を断ち切ることで対象を殺すことができる。
 戦いの場では腕力は皆無に等しいが、未来予知レベルの状況判断能力と「運ぶ力」「マナ操作」で四大神獣すら有利を取れればハメ殺すことができる。一方でどうしようもない状況に陥ると早々に諦めてやりすごそうと何もしなくなったり、自暴自棄になる面もある。
 両親が稀男がニスであることを知り、破滅したため一度自我が崩壊。人間の本能から「井戸カルテット」、愛おしさの残滓(何かに向ける好意)から「純子」、そして代償行為としての誰かを助ける役割を演じる主人格「無我」が生成された多重人格者。各人格はそれぞれ「たましい」を共有することで繋がっていて、並列思考や痛覚の分担ができるだけでなく緊急事態では無我に代わって体を動かすこともできる…が、超絶ひねくれ者の無我以上に他の人格が危険なため本当に追い詰められた時にしか実行しない。
 成人するまで土蔵の地下室に暮らしていたため言動のおかしい巨乳の妹がいる。
 ◆凡蔵 巨乳
  稀男の巨乳の妹。稀男と瓜二つ。実は稀男の女体化した姿。

◆魚成勇
 東郷家現当主、東郷正義の実子(離縁済のため名字が異なる)。小学生。球体使いで、念動力を行使することができる。無口。いつもノートに小咄を書きためており、時たま耳打ちして聞かせてくれる。聞いたやつは笑わずにはいられない程面白いらしい。胎界主*4

◆夜沼聖子
 同上。鮒界市警察署の警察官。奇妙な事件が起こる度に稀男に解決を依頼するノリの軽い美女。夫を殺害した東郷家に復讐するために警察官となった。「夜沼」は死んだ夫の姓。エピソードヒロイン的な役割を務めることがあるが、ノリの軽さ故に稀男の内面に踏み込めずすれ違うこともしばしば。

◆東郷仁
 同上。魚成勇は弟、夜沼聖子は姉に当たる。高校2年生。東郷家次期当主。球体使いであり、東郷家の力を知らしめるために幼少から各地の学校を回っている。彼が鮒界市を訪れてから起こる一連の騒動が、東郷家と地元ヤクザと警察の関係者の間で軋轢を引き起こす。

◆レプラコーン
 鮒界市に潜伏するベリアル派ヘッドの構成員。チーズが大好物の妖精。「かたっぽの靴だけ作ってるアイルランドの酔っぱらい妖精」という自分のイメージを不服に思っている。稀男をベリアルと誓約させたがっており、彼を焚きつけるために様々な知識を与える。

◆ルーサー・ナッチェス
 ベール派ヘッドの構成員。関西弁のブエブロ・インディアン。ベールゼブブから稀男の誓約か抹殺を命令され鮒界市を訪れ、彼に敗北した後は監視兼ボディーガードとなる。悪魔を通じて司神との誓約*5を行っている「躰化者」であり、強化された身体での肉弾戦を行う。

◆タロット・アス
 別名「アニメキャラ」「塔の男」。ルキフグ派ヘッドの構成員。言葉で司神と誓約し力を行使する魔法則師。
 <ヘッドでありながら、ヘッドの暗殺リストに名が乗っている>
 <天然のアーヴル人は彼以外確認されたことはなく、ルーツが不明>
 <彼の周りで発狂したり行方不明になったりする人物が後を絶たない>
 など、なにかと謎の多い少年。上裸にモザイクがかかる。あるバンシーを仇敵と定め、彼女と骸者の殲滅を使命としている。

メフィストフェレス
 魔界の3君主が1人。魔王ベリアルに絶対の忠誠を誓っている。英国紳士風で紅茶を好む。彼の専有する胎界は全ての鏡に通じている。

ベールゼブブ
 同上。魔王ベールに絶対の忠誠を誓っている。古代のイスラエル王国でソロモンに狂わされ、それ以来「レレレ」とか「くるくる」など言っていたり、記憶が飛んだりなど頭がアレ。宮廷道化師風の外見。「いのち」を無数に分割しており、殺されてもすぐに復活する。


◆ピュア
 ロックヘイムに潜伏する謎の人物。フードを深く被った小男。稀男に比肩する強大な「運ぶ力」の胎界主であり、悪魔たちから「真の胎界主」と目される一人。司神を生成世界に降臨させ、世界を完結させるために、骸者などと手を組み暗躍している。

◆ソロモン
 古代ヘブライに君臨した王。「ソロモンの指輪」「ソロモンの鍵」「賢者の石」を使用し、魔法や司神を自在に使役していたと言われる。また「ソロモンの鍵」の内容を改ざんし、『銀の法則*6』などを定めた。

魔王すらも使役するほどの力を得たが、
晩年には自らの存在級位を際限なく上げた結果、生成世界を突き抜けて原典に掻き消えてしまった。



用語

●東郷家関係者
 鮒界市がある西海道一帯は独立主権国家として、東郷家が中心となりアジア全体に勢力を広げている。東郷家の血を引くものは高確率で「球体使い」となり、様々な超能力を扱う事ができる。
●悪魔
 司神の眷属である「神獣」の一種。魔界を拠点とし、ソロモンヘイムを影から支配し人類を実質的な統治下に置いている。
 社会構造はアリやハチに近く、親には絶対の敬意と服従を貫いているが親を別にする悪魔には冷淡。
 四大神獣大主ルキフグベリアルベールにそれぞれ仕える君主アスタロトメフィストフェレスベールゼブブが主に本編で登場する。他にもいちばんえらい四大神獣「帝王」やら直属の6人の王やら上級悪魔やらインプとかいろいろいるがここでは割愛する。四大魔王*7は寿命が近い。悪魔たちは自我を四大魔王から与えられることで存在しており、自分の父たる魔王が死ぬと自分も道連れのため、それを回避する方法を探している。
●ヘッド
 肉体を持たない悪魔たちに変わり、生成世界で実働を担う組織。構成員は悪魔と誓約した人間たちなど。それぞれ親であるルキフグ派、ベリアル派、ベール派の3派閥に分かれており内部間抗争が耐えない。勢力を拡大しつつある東郷家とは敵対関係にある。

頻出するモチーフ※ストーリーの重要な場面でも用いられるためネタバレ反転


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最終更新:2025年04月23日 10:36

*1 妖精と人間のハーフ。「妖精名+人」で呼び表される

*2 「ヘイム」とも

*3 生成世界、胎界の総称

*4 小咄を「創る」ことも創造行為にあたる

*5 「誓約」は非常に様々な形式がある

*6 ※銀製の弾丸は、狼や悪魔などを撃退できるという法則

*7 帝王、ルキフグ、ベリアル、ベール