バアル(悪魔)

登録日:2011/12/30 Fri 07:54:19
更新日:2022/03/02 Wed 20:22:34
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◆バアル◆

「バアル(Baal)」はユダヤ/キリスト教の大悪魔。「東の王」の異名で呼ばれる。
地獄の支配階級にある大君主の一人。人間に邪悪な知識を与えると言われている。
特に性愛に関する知識は悪魔の中でも随一で、人々をその道に誘い堕落させようとする。
「66のデーモン軍団」を率いるとも「6万人のデーモン軍」を率いるとも称えられる強大な悪魔であり、地獄の東方を支配すると言われている。

……が、恐らくはこの存在が堕天し、注目を集める様になったのは中世以降であり、
ルシファーベルゼブブベリアルと云った、
より古い世代の悪魔に比べると扱いが低い印象を受ける。

しかし中世ヨーロッパにおいては「東の王」はまさに恐怖の象徴だった。
「東」とはキリスト教圏の東、すなわち中東を暗示している。
時はまさに地中海全域を支配し世界帝国とまで称されたイスラム教徒から成るオスマン帝国の全盛期。
東ローマ帝国までも飲みこんだ異教徒の大帝国は、キリスト教圏の人々にとっては領土のみならず
文化や信仰といった精神的な部分さえ侵略する恐るべき勢力だったのである。
その恐怖にあらがうべく創りあげられたのが、彼らの神を貶めた存在バアルだったのであろう。

それを示すように、中世の多くの魔術書(グリモワール)でバアルは高位かつ強大な悪魔として紹介されている。
かの「ソロモンの鎖骨」ゲーティアに著されたソロモン72柱では序列一位に挙げられ、
「大奥義書」では地獄の宰相ルキフゲ・ロフォカレの配下筆頭として名が記されている。
また「悪魔の偽王国」でも地獄の第一の王として扱わており、当時の人々の恐怖をしのばせる。

しかしその恐怖も、オスマン帝国の衰退とともに薄れていった。
そうなると彼よりも古来より存在したベルゼブブと由来や立場がかぶっていたため、二線級に退くことになってしまうのである。

「バエル(Bael)」と云う呼び名でも知られているが、この呼び名を悪魔として扱う場合には特に差異がある訳では無いようである。
特に、ベルゼブブは本来はバアルを讃える言葉であるいと高き王(バアル・ゼブル)の変名から誕生、一人歩きをした存在であり、
本来はバアルが持っていた属性が既にベルゼブブに移されてしまっていた事もバアルがイマイチ大物扱いされない理由なのであろう。


【由来】

元来はシリア周辺に居住していた輝けるセム語族の主神「バアル」に由来する。
バアルは天空を支配する豊穣神であり、地上の作物を司る植物神。
更に海を支配する「混沌」の象徴たる七頭龍ヤムを武器である稲妻により打ち倒したとされる英雄神でもあった。
尚、冬になると作物が枯れるのはバアルが冥界に去るからであるとも考えられていた。

……上記の神話を見れば判る様に、このバアル神話はギリシャを初めとして他地域にも伝えられている。

また、周辺地域にこの「バアル」の名を持つ神の名も多く登場している。
バアルとはもともと「王」「主」を意味する言葉であり、この地域の神々に与えられる尊称でもあった。*1
如何に古代の欧州~中東の地域でバアル神が信仰を集めていたのかが判る。

……一方、狭義ではバアルはカナン(パレスチナ)の主神であり、ペリシテ人の魚神ダゴンの息子。
そして大地母神アシュトレト(イシュタル)の夫である。

カナンはユダヤ人の入植地であった関係からか、古代メソポタミアから続く風習が徹底的に攻撃されており、
かの「列王記」には巨大なダゴンの像が「聖櫃(アーク)」の力により一夜で崩された故事が記されている他、
バアル神の言葉を伝える500人の預言者がユダヤの預言者エリヤに敗れ殺害されたとの記述が為されている。
更に「士師記」に於いては英雄サムソンによりダゴン神殿が破壊されたとも記されており、
如何にユダヤ人による土着信仰への攻撃が激しかったのかを読み取る事が出来る。

また、前述の蠅の王(ベルゼブブ)の名もバアル・ゼブルの言い換えであり、矢張り弾圧の手段の一つであった。

神妃アシュトレトも古来より地母神が担っていた豊穣神の属性を奪うべく悪魔化されており、
この悪魔化された地母神(月の女神)の系譜はリリスヘカーテを生んだと考えられている。

無論、バアルは勿論アシュトレトアスタロトやダゴン自身も中世までには悪魔として取り入れられたが、
これらの属性の内で善なる物はユダヤ/キリスト教の思想にも取り入れられた。

例えば、聖母マリア信仰は古代の女神信仰の都合の良いアレンジであるし、
現在では「聖母子像」として知られるマリアの抱くイエスと云う構図は、他ならぬ主神バアルを抱く女神アナトの構図が原型である。


【姿】

悪魔は実に様々な姿で顕される事が多いが、中でもバアル(バエル)は、一際異彩を放つイラストで知られている。

伝承によればバアルは、偉大なる王の姿か黒猫かヒキガエルか蜘蛛の姿で現れるとされており、あらゆる形態の知識を授け、あらゆる欲求を満たすと伝えられている。

現代では中世に描かれた冒頭のイラストに倣い、全形態が一つに纏まった姿で描かれる他、ディフォルメされた場合にはベルゼブブの「蠅」に対し「蛙」で顕される。

尚、バアルの支配する「東」とは「中東」の意味であり、暗にバアルがシリア周辺の神である事を指し示しているのかも知れない。


【余談】

繰り返すが前述の様に、元来は非常に広い地域にて信仰を集めた神であり、多くの眷属(バアルに由来する神)を生んでいる。
分身とも呼ぶべき、ベルゼブブの項目でも触れたが、それは悪魔化して後も同じで、
バル~やベリ~で始まる悪魔は殆どがバアルに由来するか、その名の影響を受けた存在であると言って良いだろう*2

前述した通りバアルとは神々に対する尊称であったのだが、キリスト教ではそれをそっくりそのままひっくり返して悪魔・異教の神全般を指す言葉として用いたのである。*3

歴史に目を向けても、古代カルタゴの英雄ハンニバル(バアルの恵み)等、この神に捧げられた名前は多い。

また、バアルと云う名には「犠牲」の意味もあるともされている様で、バアルの信徒は「血なまぐさい献げ物」を「火にくべて天に献げた」とされている。
特に、牛を象徴とする信仰で知られ、他ならぬバアルを牡牛の姿で顕したり、犠牲として牛を捧げる構図が古代オリエントの広範な地域で見られる。
現時点では未だ確定的とは言えない情報ながら、古代日本にも同様の風習は入り込んで来ていた、とする研究者も居る。

尚、こうしたエピソードは旧来の唯一神(ヤハウェ)にも見られるが*4、ユダヤ教からキリスト教へ、更にキリスト教が一大勢力を築くに至り暗部として払拭され、
それが諸々の「悪魔」を生む原因となっている。

【主な登場作品】
※分身であるベルゼブブに属性を奪われている上に、名前は丸被り、悪魔としては遥かにベルゼブブのが格上と云う事もあってか、
バアル自体に目を向けた作品は少ない印象である。

◆ゲーム『女神転生』シリーズ
初代では敵専用の「邪神」、以降のシリーズでは「魔神」として登場。人型で描かれることが多い。
また、貶められた姿の「魔王」としての姿もバエル名義で登場している。
悪魔としては高位に位置しやすいが、FC時代の『女神転生Ⅱ』を除いては特に物語には絡んでいない様である。
その女神転生Ⅱではバエルとして物語の序盤、荒廃した東京を支配するディーヴァ教の首魁で、ネビロスやマンモン、レオナルドといった数々の悪魔を配下に持つ。
主人公とその友人はディーヴァ教の対抗勢力であるメシア教の教祖であるパズスにそそのかされバエルと対立する。
その後主人公はヒロインの説得によりパズスとたもとを分かちこれを倒す。

しかし自分が利用されていたことを受け入れられない友人はダークヒーローと化し、バエルを倒すべく居城であるバエル城に侵入した主人公たちの前に現れ…

+ ネタバレのため格納
ダークヒーローは自らの過ちに気付き、それを清算するためバエルにひとり立ち向かう。
足止めのため呼び出した悪魔を蹴散らし玄室に駆け込むが、すでにダークヒーローはバエルに倒されていた。
主人公は東京を悪魔から解放するため、そして親友の仇を撃つためバエルに立ち向かう…

実はグッドエンドのキーマンでもある。ある条件を満たすとベルゼブブと融合し、豊穣神の姿となり「魔神」バアルとして仲魔になる。
豊穣神としての性格を大きく取り上げられているので女性型で、おっぱい丸出し。「魔神転生」にもデザインが流用されている。
最高の防御相性に加えて、サマリカームはともかくメディアハン・ディアラハンを使えるので回復要員としてとても便利。

真・女神転生5では、法の神に座を奪われたとはいえ、ポジション的にはアメン・ラーとともに法の神と同等クラスであったなど歴代でもトップクラスの存在。
設定的には牛神の系譜の頂点に座し、牛の属性を持つ神々を自身の系譜として扱える特性を持つ。牛に変身した逸話があるだけでカウントされるなど、かなり条件も緩い。
つまりは悪魔版ワイルドである。
逆に、バアルの存在を中心として、牛神の系譜にある者であれば別の牛神系を同一視できるということでもある。
一方で、本編での扱いはデメテルの差し金で分霊が顕現するたびに主人公にぶっ倒され、終いにはルシファーに秘匿されたベルゼブブの力さえあればと嘆きながら消滅という、何とも残念な扱いに。

◆漫画『パタリロ!
独自設定の「大魔王アスタロト編」にて登場。
72柱の魔王の上位に位置する四大実力者の筆頭として名前が挙げられている。

◆アニメ『BLASSREITER
主人公の宿敵マドワルド・ザーギンが適合したタイプ。
甲冑を纏った双角の騎士のような姿をしており、鈍重そうな見た目にもかかわらず全てにおいて高水準な能力を持つ。本編中最強のブラスレイター。

◆ゲーム『カルドセプト』シリーズ
クリーチャーカード「バ=アル」として登場。デメリット能力を持つが火属性屈指の高性能クリーチャーであり、収録作では非常に良く見かける。

◆ゲーム『パズル&ドラゴンズ
ガチャ限定悪魔シリーズの光属性モンスターとして登場。ベルゼブブとは分化されており、そちらは降臨ボス。
デザインはウガリット神話の「右手の矛・左手の雷光」に加え、グリモワールにおける「王冠・蛙・蜘蛛」のイメージがミックスされている。
リーダースキルはHP50%以下で攻撃力が5倍に跳ね上がるが、現在は無課金でもそれ以上の火力を叩き出せるモンスターが多いためリーダー需要は皆無。
ただし悪魔シリーズ特有の覚醒・スキルの優秀さもありサブとしては高性能、特に光属性は列強化持ちが少ないため重宝する。覚醒進化の方は覚醒が迷走気味。

◆ゲーム『スーパーロボット大戦
スーパーロボット大戦Z』シリーズにおける、人類の敵の総称。
天元突破グレンラガン』のアンチスパイラル、『真!ゲッターロボ 世界最後の日』のインベーダー等がその勢力とされ、
真マジンガー 衝撃! Z編』のDr.ヘル等はこれに対抗するために力を求めていた。
しかし、本来の意味でバアルにあたるのは『トップをねらえ!』の宇宙怪獣のみであり、
それ以外のバアルはこの宇宙の支配者によって「バアル扱い」されていただけである。
(そして、相手をバアル呼ばわりしていた当人達が最もバアル的な行動を取っていた、という皮肉な事実がある)

◆ゲーム『LORD of VERMILIONⅢ
海種のコスト30として登場。サイドテールのおっぱい美少女。
一応ソロモンであるが、天空を支配する豊穣神としての性格が強く、すぐ雨や嵐を引き起こそうとする。
またベルゼブブとは別ユニット扱い。(本人も口にしている)
そして性格はかなりの自意識過剰。そんな彼女は妹のアナトをプロデューサーとしてアイドル活動のような事をしていた。
しかし他のアイドルキャラと違って「売れなかった」らしく、その事で酒場で飲んだくれていたところをとある少女にスカウトされた。
こうしてソロモン72柱序列1番「バアル」が誕生したのであった。

性能としては、覚醒が出来ない30コストに、微弱な攻撃力ダウンのATKウィークⅠという使いにくい能力*5
しかし、アーツ(特殊技)が非常に強力で、60秒の間範囲内の味方全員の移動速度を上げる事ができる。
戦場が広いゲームかつ戦闘をしなくても勝つ方法が豊富なゲームなので、移動速度は非常に重要である。

売れないアイドルながらも熱烈なファンはそれなりにいたらしく、乾季と死の神モート(こちらも少女)もそのうちの1人である。そのモートはバアルを悪魔にしたソロモンを恨んでいたが。
結局バアルはソロモンと共に戦った後行方知れずとなった。Ⅳにも登場しなかった。

◆ゲーム『Fate/Grand Order
第一部の敵ゲーティアが従える魔神柱として登場。
しかしそのゲーティアとの決戦では名前が出るだけで目立たず、最終的にゲーティアを見限って逃走した。
そして第1.5部の第一話にて登場。
悪魔柱はもともとは感情や人間性が皆無の存在であり、人類を救済してやるという思い上がりすら持っていた。
しかし主人公に敗れたことにより感情、彼の場合は「憎悪」が目覚め、ただ主人公を滅ぼすが為だけに行動する。
正直ただの逆恨みであるがその恥すらも自覚し「主人公はこの自体を絶対に途中で投げ出さない」という宿敵に対する敬意や信頼を前提とした言動がとても多い。
協力者の人間に対しても「互いに利用する間柄」でありながら、彼の話を途中で遮ったりしない、最後まで敬意を捨てることなく「我らは同類だろうさ」とまで言っている。
滅ぼした筈の相手の残党がまだ存在し、更に彼のように高潔な強敵もいたことはプレイヤーにとって衝撃的でありほぼ素材くれる人扱いだった魔神柱とのより苦難な戦いを予感させるに十分であった。
まぁ結果だけ言うと一部除いて悪魔柱はほんとしょっぱい奴らばっかであったが。バアルが色々と強すぎたんや…。


◆アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
作中世界観におけるガンダムの名前の由来に因んで、72柱の第1位からバエルと名付けられた。
つまり、作中世界におけるファーストガンダム。
ギャラルホルンでは情報管理の杜撰さから多少神格化されており、
同組織内には『この機体に適合出来た者(要約)はギャラルホルンのトップになれる』というとんでもない規定が残っていた。

◆TCG『WIXOSS
悪魔のクラスを持つシグニカード(=美少女型精霊)として「大罪の所以 バアル」が登場。
見た目はフリフリドレスを着た少女。
レベルは1でパワーも低いが、デッキ上の悪魔を手札に加える効果を持つ。
ウリスデッキでは登場してから今に至るまでの必須カード。
なお再録版のフレーバーテキストは「バールのようなもの」に言及している。





追記・修正は「悪魔」の真の名を知ってからお願いします。

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最終更新:2022年03月02日 20:22

*1 バビロニアの最高神マルドゥーク、アッシリアの守護神アッシュールなどに与えられていたといわれる。

*2 ベルゼブブ、ベルフェゴールなど

*3 歴代誌・下巻 28章2節 「またもろもろのバアルのために鋳た像を造り」

*4 旧来のヤハウェは、天空神としてバアルやゼウスと共通する神話を多くもっていた。

*5 このゲームは20コスト以上は覚醒、超覚醒してからの戦闘が主流であるが彼女は戦力としては期待できない上、コストも重いのでマナ溜めにも向かない