SCP-4330

登録日:2021/01/03 (日曜日) 22:40:00
更新日:2025/03/11 Tue 22:52:08
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すでに()まっているものを、どうやって()めさせるっていうんだ?



SCP-4330はシェアード・ワールド「SCP Foundation」に登場するオブジェクト(SCiP)である。
オブジェクトクラスはKeter。




説明

SCP-4330はいわゆる現象系オブジェクトの一つである。

現象系といえば総じて物理的収容が不可能であり、せいぜい影響の抑制や事後処理が関の山な代物だらけ。
ほとんどのオブジェクトがEuclid以上に分類される財団の頭痛の種である。
こいつはその中でも収容難易度に関しては特に厄介な部類で、影響範囲はなんと大気圏の全てに及ぶ。つまり実質全世界が対象であり、しかも不定期かつ繰り返し発生している。

この時点でどうしようもない感じがするが、一方で現象自体は非常に些細かつ目立たないものであり、財団による特別な隠蔽措置を何も必要としない。
故に現時点での収容プロトコルも「機器を使って現象の発生を監視してね」という内容のみとなっている。



さて、異常性について説明する前に、皆さんにはこんな経験はないだろうか?
教室や職場などの喧噪が絶えない場所で、ふいに誰かの発言や行動、または人以外の何らかのきっかけによって騒ぎが止み、一瞬の静寂が訪れるとき。
大抵はすぐに会話や作業の再開、あるいは急に静かになったことを笑う反応などで終わる些細な出来事を。

…もし、それが異常現象だったのなら?



こいつはそんな偶然の出来事を引き起こすだけのオブジェクトである。
惑星規模で。



.

SCP-4330


一瞬の静けさ

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前置きがやたら長くなってしまったが改めて説明していこう。

SCP-4330は地球表面における音圧レベルに影響する現象である。これが発生している間、地球上の全ての騒音計は完全な無音、具体的には真空状態と一致する音圧レベルを計測する。
項目名からわかる通り、この無音状態はほんの一瞬(数ミリ秒)の間しか持続しない。隠蔽が不要なのも納得の短さと言えよう。
ただし前述した通りこの現象は何度も繰り返し起こる上、どうやら発見から徐々に頻度を増してもいるらしい。


財団がこいつを発見した経緯については2001年、とあるニューラルネットワークの試験を行っていた際に地球大気センサーの記録に異常を見つけた時点まで遡る。
この時発見されたのは1989年における事象だったが、そこから更に調べた結果1961年が確認できる最初の発生であることが判明した。

とはいえ、あくまでそれ以前は信頼できる騒音計のデータが不足していたからであり、本当に1961年から発生し始めたのかは定かではない。


そしてここが厄介なポイントなのだが、こいつは何かしらの異常な効果によって無音状態を生じているわけではない。
世界各地において様々な非異常の要因が組み合わさることで、音の発生の停止や打ち消しが全世界で同時に起こることによって成り立っているのである。
つまり内容だけに注目するならこの現象はごく僅かな確率で起こる偶然の連鎖に過ぎず、本質的には異常ではない。
SCPをよく知る方々なら例のマサチューセッツ州隠蔽赤痢根絶事象と同じ「確率論的異常」の一種と考えればわかりやすいだろうか。


具体的な例としては、人々の発言や会話にちょうど間が空くことをはじめに、雨や風などの気象現象が一瞬だけ急に収まったり、継続的に音を出し続ける装置などは一時的な機械的故障を起こすといった様々な「偶然」が引き起こされる。
それでも消せないような環境雑音などは、これまた偶然生じた逆位相の音波による完全な相殺を受けることで消失する。
そしてこれらの偶然は全て、異常な要因を一切含まない理屈によって後から説明可能なのである。



確かに現象そのものは異常性を持たないが、それが何度も繰り返され、更には増加してすらいる。
それ自体が非異常であろうが、確率的にも統計的にも明らかに「正常」ではない。
だからこそこいつはオブジェクトに指定されているというわけだ。



しかし、何らかの手段をもって意図的にこいつの発生を妨害しようとした場合は話が変わってくる。

発見以来、財団は継続的に音を発する装置を用意し厳重に保護するという方法で抑制を試みたが、7回の失敗を経て現在は保留されている。
最初の試みでは単純に発生直前でいきなり故障するという形で失敗していたのだが、より厳重なフェイルセーフや予備装置などで対抗しようとする程に発生する「偶然」が過激化していき、遂には唐突な自然災害の発生やアノマリーの収容違反まで引き起こす結果となったのである。
挙げ句の果てには世界オカルト連合が実験サイトを襲撃する事態にまで発展した。

要するにこいつは発生を妨げる要素が強固であるほど、より強引な形で確率を歪めることで対応してくるというわけ。現象自体よりもこっちの方が危険と言えるかもしれない。


ちなみに元記事では、抑制の試みが失敗したある事例における実験サイトの画像が添付されている。
こいつが見かけ以上の脅威たり得る存在であることが見て取れるだろう。







ここまでの性質を見れば、こいつがKeter指定されている理由には概ね納得できると思う。
収容どころか財団による一切の干渉を受け付けず、引き起こす「偶然」によっては深刻な物的、人的損失に繋がりかねない。


しかしこいつにはもう一つ、非常に重大な懸念点が存在する。
前述した通りこいつは時間経過に伴って発生頻度が上昇し続けているのだが、その上昇率が尋常ではなく高い。
発見した当初は数年に1度程度だった発生が、報告書執筆現在では数ヶ月単位での発生にまで狭まっているのである。
そしてもしこのままの上昇率で発生頻度が増していった場合、財団の予測によると


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2055年頃までに現象が連続的に発生し始める。

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つまりその時点より先は事実上、地球全土がずっと無音状態で維持されるということ。
そしてこいつは発生を妨げる要素が強固であればあるほどに、強引かつ過激な確率論的事象を起こす。
しかしほんの一瞬ならまだしも、地球上で発生する全ての音を消し続けることなど現在の環境では不可能に等しい。


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つまり…。

この予測が2055年時点の地球の居住性について何を示唆しているかは、現時点では不明です。



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「財団世界の明日はどっちだ」
「またそれか」


……なんて言えるのも今のうちだ。


追記、修正は完全な静寂の中でお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-4330 - A Moment of Silence
by gishface
http://www.scpwiki.com/scp-4330
http://scp-jp.wikidot.com/scp-4330

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最終更新:2025年03月11日 22:52