MIDI

登録日:2021/11/04 Thu 14:40:01
更新日:2024/07/30 Tue 23:05:43
所要時間:約 15 分で読めます




目次



概要



MIDIとは、Musical Instrument Digital Interface(日本語に訳するなら「楽器デジタルインターフェース」)の略で、
シンセサイザーなどの電子楽器の演奏情報をやりとりする規格のこと。
呼び方は「ミディ」。

「コンピューターのデータによって作られた楽譜」と考えてもらえば大体あってるが、
もう少し踏み込むならば「楽譜の書き方ルール」が近い。



音楽ファイルとしてのMIDI


拡張子は「.mid」。時々「.midi」も見られるがどっちがどう、という違いは特に無い。
多くのPCユーザにとって、MIDIと言われたらまずこれを思い浮かべるはず。
ダブルクリックして開くと、PCに搭載されている音源に読み込まれてプレイヤーが音を鳴らしてくれる。

先ほどMIDIは楽譜のようなものという風に説明したが、当たり前だが楽譜だけでは音は鳴らない。楽器が必要である。
開いて音楽が流れるのは、あくまで貴方のPCに搭載された「音源」が楽譜にそって音を鳴らしているということだ。

実際のMIDIファイルの中身は、テンポ、音の単体(ノートと呼ぶ)の位置や楽器の種類、チャンネルといった情報の集まりである。
音声そのものが入ってはいないので容量は極めて小さい。

※音源について
ここでちょっと解説するが、簡単に言えば音源=楽器である。
大別して現実の楽器のように物理的に存在する「ハードウェア音源」と、
マシン上でプログラムとして存在する「ソフトウェア音源」の二つに分けられる。
PCは見た目では楽器が付属していないが、今の時代はほぼデフォルトでソフトウェア音源が搭載されているので、
midファイルを開くだけで音が鳴るというわけ

PCの付属音源は2006年発売のWindows系OS「Windows Vista」以降になると、
デフォルト音源が「Microsoft GS Wavetable SW Synth」(通称ゲイツシンセ)に固定されてしまう。
そのため、他に音源が存在することも、音源を変更する方法も知らないのが当たり前となりつつある。
これ以前に作られたMIDIにはこのシンセを想定して作成されていないものも結構あり、普通に再生するだけでは違う楽器で鳴ってしまったり、場合によってはドラムしか鳴らない、全く鳴らないということすらある。

そもそもこのデフォルト音源が率直に言ってショボい
オーディオサンプルでもない以上個性のある音を作り出すのはほぼ不可能で、カッコいい曲を作るなんてのには全く向いていない。
音源を変えるのもWindowsの標準機能としては付いていないため、結構面倒。

かつてインターネットの回線がまだまだ遅かった頃、音楽データはサイズが大きすぎて配信は難儀だった。
そこで、ファイルを構成しているのが「楽譜データのみ」であるためサイズが極めて軽いMIDIが、ネット上の音楽シーンに流行していた。
もちろん個人に限らず使われており、昔のPCゲームではBGMに使用されていた実績もある。
RPGツクール2000』『~VX』辺りで製作されたゲームなどでも多数使われていた。
mp3の普及後もループ位置を指定できたり上の「MSGS」音源でも比較的綺麗な音が鳴るように作られているので特にツクール界隈ではごく最近まで現役。

音楽ファイルとしてのMIDIはこのようにパソコン上の音楽文化に華を添えたが、
やがて通信速度の向上とシーンの革命とも言われるmp3の登場によってその時代を終える。


上でも少しずつ触れたが、midは音源次第で音がまったく変わってしまうという特徴≒弱点がある。
GM基準であれば大まかに基礎的なプログラムが割り当てられているのだが、
やがて前述したようにまともな音にならないケースも増えてしまっている。

何より思い通りの音を提供できないことは作曲側にとって非常にストレスである。
著名な音源モジュールを前提に作ったMIDIも多少は広まっていたが、聴き手側に同じ機材を要求してしまう。
(ヘビーユーザーなら86ボードのような扱いと言えば伝わりやすいか)。

こうした経緯ゆえに、「音を音として扱えるがファイルサイズが超莫大なWAVE(.wav)」を圧縮軽量化したmp3技術は革新的だったのである。

軽量なmp3はそれでいて無料のエンコーダ・デコータが普及を後押しし、インターネット上の音楽シーンは急速な入れ替わりが発生。
ユーザーの環境に依存して再生も安定しないMIDIは姿を消していった。


余談であるが、2017年にはmp3の基幹技術はパブリックドメインになっている。



通信規格としてのMIDI


MIDIを知りにこの記事を読みにきた人は「なんのこっちゃ?」と思うかもしれないが、
MIDIは楽譜でありつつも、別に楽譜だけが目的ではない。
MIDIとはやりとりできる共通規格なのだ。
言ってしまえば音楽ファイルのMIDIも、同じ規格で「音源と通信している」のだから。

姿を消したのはあくまでインターネット上の音楽ファイルであり、MIDIそのものの存在が消えたわけではない。
ノートのデータとして作曲者と編曲者の間でやり取りをしたり、後述するような用途としては今も現役で使われているのだ。

…逆に言えば、ノート情報以外の多くはほとんど使われなくなっているとも言えるが。


  • MIDIデバイス
規格の基本的な考え方はこれ。主に使うのはMIDIキーボード(鍵盤)。
PCとMIDIキーボードをMIDIケーブルで繋いで鍵盤を押すと、
「押した鍵盤の音階(ドとかオクターブとか)」「押した強さ(ベロシティと呼ぶ)」
などの情報がPC側に送られる。
この情報のルールこそがMIDIのもう一つの重要な役割なのだ。
これはファイルとしてMIDIに記録された情報と共通である。

PCではなく音源につなげば、そっちの音が鳴る。
MIDIに対応した音源とキーボードであれば、同じMIDIケーブルでやり取りできるというわけ。

アニヲタにも有名な桃井はるこなどが使用していた、ギターのように肩に掛けて縦に構えるキーボード・通称ショルキーは、言ってしまえばコントローラーでしかなく、別途音源と接続する必要があり、単体で音が鳴る機能は搭載されていないことが殆どだったりする。


まあもっとも最近は、より高機能な情報を送るためにUSBで直接繋ぐMIDIキーボードだとか、
そういうのが主流になっているので一般向けMIDIケーブル自体絶滅が危ぶまれる存在ではあるのだが…。
もう絶滅してるって? 嘘だと言ってよ…。

とはいえUSBケーブルで繋いでもMIDIはMIDI。

この場合、必ずキーボード用のデバイスが自動的にインストール、またはメーカーサイトからダウンロードでき、
外部デバイスとして疑似的にMIDIをやり取りできる。
著名なDAWには大抵MIDIの設定があり、MIDIケーブルを用いなくともデバイスから入力をきちんと受け取れるのだ。
(ここまでくるとMIDIと呼ぶのも慣例みたいなものだろうか?)



  • シンセサイザー
ここでシンセサイザーのご登場である。
シンセサイザーとは、その多くがMIDIキーボード+音源+αというほぼオールインワンセットだ。
先にMIDIキーボードを説明したのはこのためで、シンセは合体機であるがゆえに独自の機能を持ったものも多く、
ここから入った人がDTMで混乱する原因になっている。

もちろんシンセの多くはMIDIキーボード単体として使うことができるし、音源単体として使うこともできる。
スピーカーがついたものはスピーカーとして…は普通はしない、普通は。
同期信号を送り出す機能があるなら司令塔としても使える。

そんな訳でシンセは高価になる。
買おうと思った人は値段に驚くだろうが、合体機と思えばコストが高いのも納得というもの。


DTMに限った場合、昨今のDTM事情がDAWの独壇場になっているので音源はそもそも出番があまりない。
DAWが顕著だが、メーカーや関連各社が売りとして心血注いでソフトウェア音源を作りまくっており、
外部のハードウェア音源は無理に用意する必要がないのだ。

言ってしまえばシンセサイザーはライブシーンに向いた「まさに楽器」。
逆に言えばオフライン作曲が主体なら無用の長物であり、鍵盤が欲しいならMIDIキーボードで十分なのである。
(もちろんその場合でも、ちょっとした時にPCを起動せずすぐ弾きたい…という人は検討する価値はある。)



  • 通信カラオケ
一方で通信カラオケ業界においてはまだまだ現役
カラオケ機には今でもインターネットを介して最新曲のMIDIデータが提供されて続けており、内蔵された音源で音楽を再生する(キー変更やテンポ変更にもとても対応しやすい)という、
いわば往年のハードウェア音源同様の仕組みが健在なのである。
最近では原盤と同じサウンドを使用したカラオケの割合も増えてきたが、カラオケ用のMIDIデータを製作するサウンド製作業務も未だに活発。
またMIDIのメロディ譜をそのまま演奏に使わず、歌の採点に利用するといった応用例も存在する。



MIDIのさらに規格



MIDIにはそれはそれで規格がある。
というのも当時はヤマハとローランドが別々に独自のもの(ヤマハ=XG、ローランド=GS)を作っていたのだ。何してくれとんじゃ
後年になって、互換性の強化を目標に、それぞれのいいとこどりの下位互換としてGMが新たに提唱され、後継規格としてGM2も誕生したが、むしろそっちの方があまり使われなかった。

本記事での音楽ファイルとしては「スタンダードMIDIファイル」(SFM)の規格しか説明していないので、
詳しくは…といってもエンジニアでなければそう必要な知識でもなさそうだが調べてみてほしい。



オタクとMIDI



かつて(90年代後半~00年代前半頃)、インターネットにオタクが築いた文化の一つに「コピーMIDI」があげられる。
これは主にゲームやアニメの音楽を耳コピ・アレンジして作ったMIDIデータである。
当時はゲーム音楽などは基本的にサントラを買わなければ聴くことができず、無料でゲーム音楽が聴けるというのは貴重であった。
悪く言えば模造品とは言え、表現の手段が限られていたため試行錯誤も進み、クオリティの高いものもそこそこ生まれた。
軽量(多くても滅多に100KBいかないレベル)で、当時の遅い回線速度でも配布が容易ということもあり、当時のDTMerの手によって非常に多く作られた。

だが、音楽ファイルとしてのMIDIで触れたとおり、時代の変化と共に数を減らしていく。
音楽をアップロードできるサービスなどの台頭もあって、個人サイトは次々と閉鎖。
コピーMIDI文化はほぼ途絶える事になる。

コピーMIDIとは別に自作の音楽を作成するユーザも多く、自作ゲーム用のフリー音源や個人サイトのBGMとしても人気だった。
こちらは数を減らしたものの現在でも残っている文化ではあるが、やはり殆どのサイトはmp3やogg、FLACなどに移行している。
一応、長年製作し続けている一部のサイトには昔の作品としてMIDIが残っていたりすることもしばしばある。

昨今のアニソン・ゲーソン界隈ではSound Horizon主催のREVOやアルトネリコシリーズの楽曲を手掛ける志方あきこなど、個人サイトで自作のオリジナルMIDIを公開したことがキャリアの始まりというクリエイターも少なくなかったりする。

他に、オタク間で囁かれる逸話として「JASRACがコピーMIDI界隈を潰した」というものがある。
MIDIに触れていたオタクの諸兄ならば一度は耳にした事があるだろう。


MIDI編集アプリ(作曲アプリ)



楽譜に過ぎないデータを扱えればよいので、MIDIを編集できるソフトウェアは無料のものも充実している。
一方で時代に合わなくなってきた影響か、DAWなどではオマケ程度にしか使えないものが増えていたりする。

とはいえ、MIDIファイルからノートを読み込む機能は今も大抵のDAWが保有している(はず)。
違うDAW同士でノートを移したい時なんかにも使えるので、実は思ったより活躍しているのだ。

話を戻すが、中には五線譜形式でMIDI編集できるソフトなんかもある。
また、大抵のPCでほぼ標準でMIDI用のソフトウェア音源が搭載されているので、
MIDI編集は無料で始められるということで今でもオススメされやすい。

昔に比べるとさすがに更新が止まっているものも多いので、
お使いのPCに適合しているかどうかは事前に確かめておこう。


…もっとも、MIDIから作曲に入ってもゆくゆくはDAWに乗り換えなければならない。
少なくともDTMにおいてMIDIだけではパワー不足であり、MIDIによる作曲はあくまで無料でできる事と、
ピアノロールといった極めて基本的なDTMの知識が身に付く程度である。
まったくの無意味とは口が裂けても言えないが、本気で作曲をするならば早々にDAWにも触っておく事をオススメする。

まあそのDAWも種類が沢山ある上にどれも慣れるまで修練が必要で悩まされる事になるのだが…。



MIDIのこれから



インターネット老人会レベルの古い規格でありながら未だ使われ続けているMIDIだが、規格の大半はもはや化石レベル。
たとえば当時想定されていたMIDIキーボードと音源の複数のやり取りは、

キーボード(MIDI OUT) → (MIDI IN)音源1(MIDI THRU) → (MIDI IN)音源2(MIDI THRU) → ...

こんな感じで数珠つなぎであり、今どきこんなものでは管理は面倒だし現場の兼ね合いは煩雑になる一方。
MIDIに頼る必要のないシステムがとうに台頭した現在ではMIDI THRU端子口などは絶滅したに等しい。



そんな中、MIDIは新たな規格「MIDI 2.0」が策定中となっている。

MIDI 1.0の策定は1981年。インターネット老人会すら恐れ戦く超古株で、
38年後、つまり2019年にその2.0が発表されたわけだが…


あの…


いつになったら策定完了するんです…?










追記・編集はMIDI端子口の見た目ってなんかキモイよねと罵りながらお願いします。


この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2024年07月30日 23:05