迷宮クソたわけ

登録日:2021/12/08 Wed 19:39:43
更新日:2024/01/28 Sun 01:37:05
所要時間:約 7 分で読めます




迷宮を彷徨うウィザードリィな青春。お先真っ暗。

迷宮クソたわけとは、イワトオ氏によるファンタジー小説。
名作RPG「Wizardry」シリーズをベースにした世界観のもと、危険なダンジョンで幾度もの危機に見舞われながら知恵を絞って生き抜く主人公とその仲間たちと、一筋縄でいかない街の有力者等の有り様が描かれる。
小説投稿サイトにアップロードされたWeb版とKADOKAWA出版の書籍版があるほか、
コミカライズも行われており、荻原敦氏がマンガ制作を担当する小学館出版の公式コミカライズと、せいほうけい氏が原作者のイワトオ氏の許可を得て制作・配信している同人漫画版が存在する。


◎ストーリー

城砦都市オイザッグ。付近に存在する謎の迷宮と、そこへ挑む冒険者達が生み出す富によって潤うこの街で、主人公の「ア」もまた駆け出し冒険者の一人として迷宮に挑んでゆく。
火の玉一発で尽きる魔力、粗末な布の服に武器も杖もない、絶望的な状況で──


◎登場人物

▶ア
主人公。故郷の村から拉致され、奴隷商によってオイザッグの商人のもとへ売り飛ばされた”債権奴隷”*1の少年であり、主人によって強制的に冒険者稼業をさせられている。
「ア」一文字という冗談のような名前だがこれは奴隷として登録する手続きの際に名前を考えるのが面倒になった主人が適当につけたもので、元の名前は不明。要はキャラ作成が面倒くさくなったプレイヤーによる被害者である
職能(ジョブ)は「魔術師」。戦士になるには体格に恵まれず、盗賊になるにも不器用で、聖職者になれるだけの信仰心も持てず…という具合で、他の道はなかったとのこと。*2
魔法の才能も取り立てて優れているわけではないが、迷宮内では仲間や周囲を見渡す観察眼と常に冷静さを失わない鋼のメンタルによってひたすらヤセ我慢しながらパーティを支えていく。

▶シガーフル・マネ
アが所属する冒険者パーティ「シガーフル隊」の戦士でリーダー格。オイザッグ出身の自由市民であり、仲間からは「シグ」と呼ばれている。
凄腕冒険者達の英雄譚を聞いて育ち憧れから自らも冒険者となった、ある意味アとは正反対の男で奴隷のアに公平な態度で接してくれる数少ない市民の一人。
アとは最初の探検からパーティを組んでおり、少々頼りなさげだがここぞという時に慎重に合理的な決断を下せる判断力を持ち、隊の仲間と共に危機をくぐり抜け成長していく若きリーダー。またメンバー中でも「普通の」感覚を備える苦労人でもある。

▶ステア
シガーフル隊に所属する僧侶。回復魔法を主に使う。
北方出身の美少女だが「荒野の家教団」というカルト教団の宣教師見習いであり、言動の端々には狂気じみた信仰心が垣間見える。
布教活動のために、より強力な奇跡を習得するための修行として冒険者となった。シグと同じくアとは最初の冒険から同じパーティで活動している。

▶パラゴ
シガーフル隊に加入する盗賊。上昇志向が強く陽気な小男。
戦闘能力は皆無だが盗賊技能は優秀。

▶ヘイモス
シガーフル隊に加入する戦士でパラゴの親友。
寡黙な巨漢で、戦闘以外でも兜を着用しているため素顔がわからない。
有能な前衛だが…

▶ルガム
シガーフル隊に加入する女戦士。軽装で大きな棍棒を振り回し、目の前の敵を豪快に叩き潰していく。
明るくさっぱりとした性格でおしゃべり好きな、男並みの体格と筋力を持つ筋肉お姉さん。
かつては羊飼いとして平和に暮らしていたが、盗賊の襲撃で故郷が壊滅し、オイザッグへ逃げ延びてきた。

▶ブローン・ギー
シガーフル隊に加入するリザードマン。
南方に棲む「アノール族」と呼ばれる部族の出身で、族長直属の親衛隊の一員。
戦士として実力で親衛隊に取り立てられた腕利きで、槍を巧みに操る。
族長の娘の親友でもあり「彼女を守るために強くなりたい」としてオイザッグを訪れた。

▶ご主人
「ラタトル商会」の商会長で、主人公を買った主。商会の主な業務は小麦等の取引であり、アを買ったのは「奴隷を買って冒険者に仕立て、奴隷債務の返済によって儲ける」という流行りの投資に手を出したためで商会として奴隷売買をしているわけではない。
必然的に冒険者として大成してもらわないと困るので、アに対する待遇はそこまで悪くなく理不尽に暴力を振るったりもしないため、アとの関係は良好である。*4
だが同時に全く取り柄の無いアについて「冒険者にするか男娼にするかで迷った」と述べるなど、あくまで自分の所有する奴隷として配慮しているに過ぎない。

▶ブラント
熟練の冒険者。貴族のような出で立ちと紳士的で芝居がかった言動に華麗な戦いぶりが特徴。職能は戦士だが回復魔法や補助魔法も習得している。
駆け出しの冒険者を鍛え、王国軍に兵士として送り出すことを生業にする「教授騎士」の一人であり、12人居る教授騎士の中でもトップの育成数を誇る。

▶ノラ
異国の戦士。あらゆる敵と刀一本で戦い抜く侍で、冒険者でないにもかかわらず中堅の冒険者よりよほど強い化け物。
迷宮に逃げ込んだ仇を追ってオイザッグにやってきたらしい。
後述のガルダと「ノラ隊」を結成し、鍛錬と追跡を兼ねた迷宮行を繰り返していく。

▶ガルダ
異国からやってきた男。オイザッグを目指す船上でノラと出会い、腕前に惚れ込んで行動を共にしている。
商売の心得があるほか異国の盗賊団に所属していたことがあるらしく冒険者の肩書を得て盗賊として活動し始める。
初対面の相手にも愛想よく接するが、話術と詐術に長ける曲者でもある。

▶ロバート、アンドリュー
傭兵や用心棒を稼業とする凄腕の流れ者。
ロバートは一見温厚だが内に狂気を秘めた戦士。
アンドリューは奇行が目立つサイコパスの魔法使い。

◎用語類

城砦都市オイザッグ
「王国」の東寄りに位置する、本作の舞台。
この都市の南には海が、東には砂漠があり、砂漠の国からの侵攻に対する抑えにもなっている。
現在の主な産業は兵士の育成で、迷宮で鍛えられた精鋭が王国軍の重要な戦力となることでその価値を認められている。
冒険者になって一発当てようと他所から移り住む者も多いためヨソ者への差別は少ないものの人口の殆どは人間で占められており、リザードマンや獣人等の亜人種への抵抗感は強い模様。
★迷宮
オイザッグの近くにある、謎の迷宮。なぜあるのか、何階層まであるのか、誰が作ったのか等は全く不明。
「悪意の迷宮」と渾名される通り、内部には無数の魔物*5と罠が待ち受け、踏み入る者を容赦なく刈り取り飲み込んでいく。非常に危険であるため冒険者以外は立ち入りを禁じられている。*6
人間3人が間隔を取って並べる程度の幅の通路が続くため、前衛3人+後衛3人の6人でパーティを組んで攻略するのが基本。
★迷宮順応
迷宮内に満ちている魔力が迷宮内部で生物を殺した者の体へ流れ込んで、僅かずつ魂を変質させてしまう現象。基本的には睡眠中など魂が無防備になった際に発生する。*7
順応を進めることで暗視能力を獲得したり、戦士はより屈強に、盗賊はより勘が冴え、聖職者や魔法使いならより強力な術を使えるようになる…といった具合に強化されていくため、迷宮で鍛えた人間はそうでない人間に比べ非常に強くなれる。*8
一方で迷宮の魔力に順応しすぎると魔力濃度の低い環境では身体に不調をきたすようになり*9、やがて魔力が濃い迷宮下層から出てこなくなってしまう…という、割とシャレにならないリスクがある。
また順応によって変質するのは魔物たちも同じで、順応を重ねた強い魔物ほど下層を目指して縄張り争いをするという独特の生態系を生み出している。
★冒険者
迷宮の探索を生業にする者たち。正確に言えばオイザッグの冒険者組合に登録した者を指す。
「冒険者あがりの兵士」が都市の主な産品である都合上冒険者になるハードルは低く、都市住民であれば(決して安くはないものの)一定の金を支払って冒険者学校に通い2ヶ月ほどかけて卒業すれば冒険者になれるほか、都市での生活における優遇措置もある。*10
駆け出し冒険者はそれこそ馬小屋で暮らす有様だが、上手く行けば莫大な富を得られる。しかし死亡率は極めて高く、アの同期は卒業から2ヶ月で僅か3割にまで減っていた。ちなみに最も死亡率が高い職業は魔術師。
第10階層のボスを倒した証を持ち帰ると「達人」の称号が贈られ、ほとんどの者はそこで引退し王国軍に志願するが、その後も冒険者を続ける者も少数居る。
ボッタクリ商店
オイザッグで唯一、冒険者向けの装備品・消耗品の売買を認可された店。
取り扱う品は一様に高価で、冒険者が持ち帰った品の買い取りもしているが買い取りには鑑定が必須、かつ買い取り値と鑑定費が同額なので実質タダで引き取るだけ…というアコギな商売をしているのでこの名がついた。*11
正式な店名は「親切なコートンおじさんの便利なナンデモ取扱商店」だが、長い上に気持ち悪いときて誰も正しい名では呼ばない。
救えないことに、市場独占を守るため相当な金額を賄賂として注ぎ込んでおり、収支が赤字の日も珍しくないそうな。
★酒場
オイザッグにある酒場。普通の飲食店よりも長い時間営業しているため活動時間の不規則な冒険者が集まるようになった。
酒場の主人は冒険者に顔が利き、欠けたパーティメンバーを補充するなどの場合に冒険者が相談しに来たり、冒険者に儲け話を斡旋するようなことも多い。
ただしそれなり以上の仲介料を取ったり、ワケアリの人員を口八丁で押し付けてきたりと決して冒険者に優しいわけではなく、むしろ敵に回すと冒険者としての活動に支障が出るため無理筋の依頼も無碍にできないという厄介さがある。



追記・修正は、迷宮冒険者の方にお願いします。

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最終更新:2024年01月28日 01:37

*1 借金を理由に奴隷の身分になった人間。人権はほぼ無く大半の自由市民からはドブネズミ並の扱いを受けるが、より下の”犯罪奴隷”よりはよほどマシな身分ではある。

*2 珍しい話ではないらしく、魔法使いは適正に関わらず誰でもなれる職と明言されている。

*3 相手の態度の悪さを見て「(態度を改めさせるために最低でも)どれか一人は殺そう」「いっそ三人とも殺せればいいのだけど」とあっさり見限っていた。その後魔法で治療したが、単に即死しなかったからお情けで治療してあげたに過ぎない

*4 実際に奴隷をやっているア曰く「読み書き算術を習えたのはありがたい」「故郷の貧しい村よりも、奴隷になってからのほうが生活環境が良い」とのこと

*5 後述の迷宮順応で魔に転じた存在の総称。

*6 実際には食い詰め者や街を追われた犯罪者、冒険者を狙った追い剥ぎ等が侵入する事も多い。このため「冒険者以外の人間は迷宮内では魔物の一種とみなし、殺害してよい」というルールがあり、冒険者は迷宮内の非冒険者を躊躇なく殺す傾向にある

*7 生き物だけでなく装備品も迷宮内で長年使われると魔力が染み付き、強化されていく。深層ほど強力なアイテムが手に入るのもそのため。

*8 反面、通常の鍛錬とは別枠での強化であるため熟練者のお供をしているだけの促成栽培的な強化ができてしまい「個として戦闘能力は高いが戦術や戦闘経験が未熟」という状態を招いてしまう面もある

*9 初期の自覚症状は「息苦しい」程度だが、順応の程度によっては魔力不足が死へと繋がる事もある。

*10 例として、主人公のアは冒険者になったことで通常の奴隷には無い権利を一部得ている

*11 このため「くたばれ!」と叫んで店を出ていく客が後を絶たず、この店の前の通りは「くたばれ通り」と呼ばれている