SCP-3000-JP

登録日:2023/01/16 Mon 00:13:00
更新日:2024/11/15 Fri 15:59:43
所要時間:約 80 分で読めます





 


これはSCP-3000-JP発生中の京都市街の様子を写した写真である。




SCP-3000-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つである。
項目名/メタタイトルは「常世の国」。これの意味は読んでいくうちにわかるだろう。

また、JPのコードが示す通り日本支部の管轄にある。

オブジェクトクラスはNeutralized。すでに無力化したオブジェクトだ。

概要


SCP-3000-JPとは、2017年4月21日18時2分前後から日本国内で10分だけ発生した異常現象である。
一度きりの異常現象であり、すでにカバーストーリー等での秘匿も完了しているため、Neutralizedに指定されている。

で、具体的にどんな異常現象だったかというと、

「日本国内の全ての人間が消える
「食料品などの人間の日常生活に関係の深いものも消える」
国土と建物も結構消える」
「日本の海岸線周辺ヒューム値がめっちゃ高くなる
「上記影響で海外と連絡がつかなくなる
なんかよくわかんない神様が出現する


この6つ。日本国内の全ての人間が消える、という大事件だったことがうかがえる。
しかし10分後には全て元通りになった

ちなみに、SCP-3000-JPが発生しているときには国内の時間の流れが速くなっており、たった10分で終わったSCP-3000-JPも、国内の時間は体感200時間以上流れていたという。1週間強といったところか。

そして、日本国内全ての人間が消えたSCP-3000-JP真っ最中、例外として消えなかった人たちが5人だけいた。その5人のことをPoI-3000-JPという。
ちなみにPoIとは「要注意人物(Persons of Interest)」の略。


特別収容プロトコル


  • SCP-3000-JPに関わった神様は全員無力化したよ。
  • SCP-3000-JPを秘匿するために、日本国内全域に記憶処理をしたり、カバーストーリーを流布したりしたけれど、2022年9月19日に完了したよ。
  • LoI-3000-JPは神学部門の重要研究対象に指定され、いろいろな測定器具がおかれているよ。
  • SCP-3000-JPの一連の経緯に影響を与えた可能性が指摘されていることから、現在PoI-1435に関する網羅的な調査が行われているよ。


ざっとまとめるとこんな感じ。
LoI-3000-JPとPoI-1435についてはまた別に説明があるので安心してほしい。ちなみにLoIとは「要注意領域(Locations of Interest)」の略。要注意人物の場所版みたいな感じ。


PoI-3000-JPについて


PoI-3000-JPとは、先述した通りSCP-3000-JP発生時も消えなかった5人の人たちのことを指す。今回のお話の中心人物となるので、それぞれ紹介していこう。


1人目は、高畑 登紀雄さん。この人は財団職員で、しかもサイト-81K3のサイト管理官。要するにサイト-81K3の中で一番偉い人であり、セキュリティクリアランスもO5が持つレベル5に次ぐレベル4を持っている。すんごい機密情報にもアクセスできそうだ。

所属は神話・民俗学部門。今回はお察しの通り神様が絡む事件。これは頼もしい。

以降は高畑博士と記述する。ちなみに「ベストを着て白髪を蓄えた温厚そうな初老の男性」とのこと。


2人目は、八田 進太郎さん。この人も財団職員で、サイト-8104という場所で上席研究員をやっている。

この財団世界、役職的には「上席研究員>研究員>研究補佐」であり、研究員の中ではかなり偉いことがわかる。セキュリティクリアランスもレベル3を持っている。

所属は素粒子物理学部門。その名の通り素粒子物理学を研究する部門で、SCP-2360-JPなどにも登場する。

以降は八田研究員と記述する。ちなみに「スーツに眼鏡の若い男性」とのこと。


3人目は亀島 大さん。この人も財団職員で、高畑博士と同じサイト-81K3で働いているフィールドエージェント

エージェントゆえ、セキュリティクリアランスはレベル2と高くも低くもないが、なにより経験豊富。強い。

所属部門はエージェントなのでなし。以降はAgt.亀島と記述する。ちなみに「灰色の作業着を着た屈強そうな壮年の男性」とのこと。


4人目は岩塚 翼さん。この人もやはり財団職員で、八田研究員と同じサイト-8104で働く研究補佐。セキュリティクリアランスはレベル2

そして所属も八田研究員と同じ素粒子物理学部門。以降は岩塚研究補佐と記述する。ちなみに、5人の中で唯一の女性である。あと若い。


5人目は、今回の主人公でもある中村 彰吾さん。

この人は、5人の中で唯一民間人である。京都にある大学の21歳の学生で、偶然にもこの事件に巻き込まれてしまった。

以降は中村氏と記述する。




補遺3000-JP.1 / 文書3000-JP


さて、たった10分しか発生しなかったSCP-3000-JPでも、その影響を受けなかった5人だけは体感200時間以上の時を過ごしていた。

その間の文書記録・映像記録が、SCP-3000-JPが収まってから八田研究員から提出され、それらが文書3000-JPとして記録されている。

本家報告書にはそれらすべてが記載されているのだが、ここにそれを全て引用してしまうととんでもない長さになってしまう上、この解説記事の存在意義が薄れてしまうので良い感じに略したり、説明を加えたりしながら記載していく。

もし全文を知りたい場合は、ぜひ本家報告書を見ていただきたい。


中村氏の手記1


まずは、中村氏が残した手記の冒頭から見て行こう。
どうやら、PoI-3000-JPの1人である八田研究員に「これまでの行動やこれからの行動内容、あなたが感じたことをできるだけ詳しく書け」と言われたらしい。

そういうわけで、ここではSCP-3000-JPが始まった直後からの中村氏の行動や感じたことを見て行こう。


その日は5限目が早く終わり、中村氏は急いで吉田山に向かった。これは京都にある山なのだが、中村氏は今日の6時半、そこで東山さんという女性と待ち合わせをしていたのだという。
生まれてからずっと冴えない生活をしてきた中村氏は、女性との待ち合わせに緊張しながら吉田山の吉田神社の中にある「大元宮」という場所で待っていた。

ちなみにその時に中村氏が見た夕焼けがよほど綺麗だったらしく、そこで中村氏は写真を撮る。

しかし、時計が6時半になっても彼女は来ず、7時になっても来なかった。

そこで中村氏は異変を感じる。妙に吉田神社が閑散としているのだ。なんだか胸騒ぎがして山を下り、自転車を走らせてみると人が一人もいない。普段は大学生でごった返すはずの通りにも、大学構内にも、守衛室の中にも。

そしてもう一つ、空が夕焼けのまま変わらないことにも気づく。今は4月。7時になったらもう暗くなってきても良い頃なのだが、太陽が動いているようには見えない。


中村氏はいよいよパニックになり、自転車を1時間ほど走らせる。
四条通りにも行ってみたが、そこにも誰もいない。


そこで困った中村氏はとりあえずいつもの大学に戻ることにした。あまりにも静かすぎる世界の中、すこしでも喧騒が聞こえるような環境が欲しかったからだ。

すると、後ろから声を掛けられた。それがAgt.亀島だ。


どう声を上げればいいかわからない俺の前で、亀島さんは通信機で誰かと相談した後、名前を名乗り、付いてくるように俺に言った。俺は従った。



2人は中村氏が通う大学内の深くに進んでいく。階段を上り下りし続け、自分が地上に居るか地下に居るかさえ分からなくなってきた後、ようやく目的地についたのか、Agt.亀島が重そうなドアを開けて中村氏をサイト-81K3に招き入れる。


サイト-81K3入り口で中村氏を迎え入れたのは八田研究員と高畑博士。2人はそれぞれ名乗った後、自分たちが属する組織、すなわちSCP財団がどのような組織なのか説明し始める。
ちなみに岩塚研究補佐はここにはいないのだが、彼女はこの件の研究で忙しいらしい。

SCP財団。

闇の組織。人類の文明を陰ながら支えるエリート集団。

実際に不可思議な現象を経験した俺にとっては、そのような団体の存在も信じるに足る理由があった。

正直まだ困惑が収まらないが、今は彼らに頼るしかないと思っている。

ここのエントランスホールは事務所のロビーのようになっていて、周りに扉がたくさんある。彼らとはいつもそこで話している。

映像ログ書きおこし1


お次は、この手記の後に岩塚研究補佐を除く4名で繰り広げられた会話を見て行こう。

開口一番、八田研究員が「軽々とサイト内に一般人を招くべきではなかったのでは?」と言う。
そもそも財団の使命的に、財団職員は一般人にその正体が知られることをよく思わない。八田研究員のように思うのも無理はないだろう。

しかし財団にはプロトコルCK-3というものが存在する。
これは、K-クラスシナリオなどいろいろな要因で、財団職員が著しく減った時に、一時的に民間人に協力を求めるというもの。

ここで、財団の技術により日本国内で生きているのが5人だけということが判明したので高畑博士はプロトコルCK-3の実行を許可した。八田研究員も納得した。

中村氏: い、いったい何の話ですか? 何が起こっているというのですか?

高畑博士: 中村さんと言いましたね。突然こんなことが起こって困惑し通しでしょうが、どうか落ち着いていただきたい。

中村氏: ──はい。

高畑博士: 私はこの施設の管理官を務めております高畑です。各地の説話などを調べております。そしてこちらが──

八田研究員: ──八田です。[顎を軽く引く]

Agt.亀島: 相変わらず不愛想なやつだ。で、俺が亀島。よろしくな。

中村氏: はい。よろしくお願いします。

高畑博士: もう一人、岩塚という者がいるのですが──八田君、岩塚君は?

八田研究員: 現在第2実験室で、全国の観測機器データの解析に当たらせています。

高畑博士: 了解しました。さて、中村さん。あなたも経験したと思いますが、今、この世界では何か良からぬことが起こっています。このような異常な現象から、現代の科学技術を超越した様々な技術を用いて人類を守るのが我々、SCP財団の務めです。しかし──困ったことに、我々の仲間のほとんどもまた連絡がつかないか、他の人々と同様にいなくなってしまいました

中村氏: ──にわかには信じられないですが、確かにいなくなっていましたね。

そして高畑博士は続ける。
どうやら、日本を囲むようにして巨大な見えない壁ができてしまったという。SCPに詳しい皆さんには高ヒューム値の壁、と説明してもいいだろう。そのせいで海外と連絡が取れなくなってしまった。高畑博士たちも途方に暮れている状態。

そういうわけで、高畑博士は中村氏に協力をお願い。とてつもなく人員は不足してるし、猫の手も借りたい状態で中村氏の手を借りない選択肢はない。

Agt.亀島: 俺からもお願いする。見るからに優秀そうな学生君だからな。

中村氏: いえ、そんなことはありません。僕、2回も浪人したんですよ。

Agt.亀島: そんなことは些細な事だろ。自分のやるべきことをしっかりやって、ちゃんと合格できたんだろ。俺からしたら、胸を張るべきだと思うけどな。

中村氏: でも、僕なんか、周りの現役生とかと比べても全然──

八田研究員: 高畑先生。仮にプロトコルCK-3を適用して彼に臨時クリアランスを与えたとしても、私には彼が財団の異常技術やアノマリーを理解し、使いこなせるとは思えません。

Agt.亀島: 何を失礼なことを。なあ? 失礼だよなあ?[中村氏に顔を向ける]

Agt.亀島のいい人感が半端ないが、ここで八田研究員が中村氏にノートを手渡す。これに、これまでやこれからの行動内容や、自身の感じたことを自由に書いていけ、と。なぜこの状況下で中村氏だけが消えなかったのか、その原因究明にも使えるからだ。
これが先ほど紹介した中村氏の手記である。
高畑博士が「思ったことを書き散らすだけでもいいから、自由帳だと思って書いてください」というので、中村氏はその言葉の通り思ったことを書き散らしてみることにした。

中村氏の手記2


先ほどの手記の続きとなる。

先述の通り、中村氏はここに思ったことを書き散らすことにした。

SCP財団とは、人類を陰ながら支えるエリート集団。高畑博士も八田研究員も優秀な人だし、Agt.亀島の身体にはたくさんの痛々しい痕跡が垣間見える。

それに比べて自分は?と考える中村氏。

実は中村氏には優秀な弟がいる。性格も良く、自分のことを慕ってくれてもいる。
しかし自分は浪人を2回も経験し、予備校や受験では自分より優秀な人がごまんといることを思い知らされた。なんとか合格した後も、劣等感が尾を引く。

そんな自分に、こんな緊急事態のなかできることはあるのだろうか。むしろ、この居室に籠っていたほうが邪魔にならないのではないか。



ここで、Agt.亀島が中村氏を食事にさそった。岩塚研究助手は一人で食べるらしいが、それ以外の4人で一緒にごはんを食べてきた。

中村氏にはプロトコルCK-3に従い、SCP財団が持っている技術の一部が公開される。食事の後にいろいろ説明がなされ、中村氏には民間人用のマニュアルが渡された。

この、サイト-81K3と言う場所は「除外サイト」という特殊な場所で、外で何が起こってもサイト-81K3内は影響を受けないという性質を持っている。それを聞いた中村氏はますますここに引きこもりたくなってくる。

ベッドに寝転がり考えてみた。

日本から人間がいなくなったなんて、こんな事態に俺なんかが何かできるとは思えない。彼らの邪魔にならないように、静かに部屋に引きこもることにしようと思う。

映像ログ書きおこし2


さっそく、中村氏は高畑博士に自分の考えを伝える。やはり自分にできることは限られているからここにとどまる、と。

八田研究員はこれに賛成。何しろここは除外サイト。何が起こっても安心なシェルターみたいなものなので、プロトコルCK-3があるといえども財団の理念的に民間人を危険に晒したくない八田研究員にとってはそれが最善と思えるのだ。

ここで、「除外サイトは日本でここしかないのか」と中村氏が質問する。

八田研究員によると除外サイトは日本各地にあるのだが、サイト-81K3はつい最近、それもサイト-8104から派遣されてきた八田研究員と岩塚研究補佐によって強化されていたのだという。

その強化とは、除外サイトの外で、奇跡論すなわち神様的ななにかが発生した場合により強固なガードを果たす、というものらしい。
というのも、ここは京都市。京都には1000年にわたり平安京が存在していたのもあって神様的な存在がうじゃうじゃいる。それらの情報を守るのがサイト-81K3の役目だ。
それで、おそらくはそのおかげでサイト-81K3だけこの現象から守られたと考えられる。ガードの実用性が立証されたのは不幸中の幸いかもしれない。

そこで気になるのはなぜ中村氏が助かったのか。これについてはまだわからないのでいろいろ考察していくしかない。


と、ここでAgt.亀島が調査から帰還。さっそく報告を始める。

Agt.亀島はとりあえず西に向かって歩いてみたのだが、相変わらず誰もいない。鳥や魚はいるようだ。雲は流れているが太陽は止まったまま。

ここで、Agt.亀島はとある報告をする。
Agt.亀島はてっきり、SCP-856-JPという人間を夕暮れの無人の世界に飛ばすオブジェクトに飛ばされたのではないかと思っていたらしいのだが、どうやらそうでもないらしい。下の画像を見ていただきたい。


 


黒い影が見えるだろうか。見た目的に幽霊……霊的実体に見えなくもないが、普通に肉眼で見えたらしい。あと、カーデック計数機という、霊的な発光を計測する機械も反応なし。幽霊ではなさそうだ。

それで、現実改変者の可能性も考えて、カント計数機というヒューム値を測る装置も使ってみたが反応なし。

ただ、PTA(可搬型奇跡量測定器)という、EVE(第六生命エネルギー)*1を測る装置は反応があり、もしかしたらこれは何かの神的実体ではないかという仮説が立てられた。

八田研究員は「肉眼で黒色・EVEを持つ・カント計数機反応なし」という特徴を持つこの実体を見て驚いていた。


中村氏: 亀島さんは以前もこんな──化け物と会ったりしたんですか?

Agt.亀島: ああ。それこそ俺が中村君くらいのときも──

八田研究員: 不必要な情報の開示はやめてください。いくらいずれクラスCを施すと言っても、情報の開示は少ない方がいいのはわかっているでしょう。

Agt.亀島: もう、相変わらずお堅いな。緊急事態だからこそ、肩に力を入れすぎないことが大事なんじゃないか。

八田研究員: ──相変わらずあなたは気楽ですね。

中村氏: すいません、クラスCってなんですか?

Agt.亀島: ──ああ、君は気にしなくていい。こっちの話だ。


もちろん「クラスC」とはクラスC記憶処理のことであろう。


さてさて、そういうわけで次はこの黒い実体の調査が必要だという話になった。
使用するのは財団製汎用四輪駆動車 "Avery"

ただ、Agt.亀島一人だけだと人手が足りない。そばで道具を扱ってくれるような人が欲しいのだが、八田研究員と岩塚研究補佐はサイト-81K3で研究。高畑博士も唯一のクリアランス4保持者を危険に晒すわけにはいかない
そういうわけで残りは……


中村氏: [沈黙]

Agt.亀島: ──ああ、別に強いているわけではない。最悪、一人でも行けるからな。


中村氏の手記3


ベッドの上で改めて考えた。ようやく、この状況に対する実感がわいてきたような気がする。

どうやら、本当に彼らは人手が足りないようだ。

もし、彼らがこの状況を解決することができなかったら、俺たちはあの黒い化け物と一緒に、永遠にこの夕暮れの世界に閉じ込められることになるだろう。


そして彼は続ける。彼と待ち合わせていた東山さんのことが心配だと。


二浪した末に入った大学で、せめて大学生らしいことがしたいと思って八方手を尽くして紹介してもらい、現在はちょっといい雰囲気になっていると思う。すこし変わっているが、すっきりとした性格をしていて、俺と趣味や話のテンポも合う。
今日は彼女の吉田神社から平安神宮までの夜のウォーキングに付き合う予定だった。そういうアクティブなところにも惹かれる。


このままでは、二度と東山さんに会えないのではないだろうか、そう彼は綴る。


やはり、俺も彼らに協力したい。

俺なんかに何ができるのかはわからないが、とにかく俺も、できることをやってやりたい

高畑さんたちに、自分も手助けをしたいということを伝えに行った。

高畑さんと亀島さんは歓迎してくれた。八田さんは笑わずに、耳掛けイヤホンみたいなものを渡してきた。位置情報と音声、映像を常に記録する機械らしい。それで俺の位置としゃべったこと、そして周りの様子を逐一記録するのだという。監視されているようで怖いが、実際監視の意味も含まれているのだろう。


作戦報告3000-JP.1


そういうわけで、Agt.亀島と中村氏は“Avery”を用いた不明実体の調査を開始した。ちなみに、この不明実体を以後UE-3000-JPと呼ぶ。
ちなみに、以下が財団製汎用四輪駆動車”Avery”の画像である。


 


中村氏も道具の操作方法を頭に叩き込み準備万端と言う様子。

Agt.亀島: ──緊張してるか?

中村氏: 少し。

Agt.亀島: そうだろうな。死ぬのは怖い。死を恐れると尻込みして何もできなくなる。でも安心しろ、何かあったら俺が守ってやるからな。俺、修羅場をくぐってきた回数で言ったら、日本支部では上から数えた方が早いんだぜ。


さてさて、2人は早速UE-3000-JPへの調査を開始する。

まずは、「メトカーフ非実体反射力場発生器」という、霊的実体の活動を抑制する道具を使ってみる。

中村氏はAgt.亀島に波長合わせが上手だと褒められるがUE-3000-JPへの効果は無し。
ならばと、霊的実体などの非実体のものを実体化して閉じ込めるnPDNという装置や、
財団製遠距離スタンガンであるテーザー銃
霊的実体などの非実体にも効く遠距離スタンガンであるエクテシア銃を打ってみるが、いずれも効果なし。

非実体なのにメトカーフやエクテシア銃ですら効かないとなると、いったん帰って作戦を練るしかない、とAgt.亀島があきらめかけていたところ、中村氏がある発見をする。


Agt.亀島: どうした?

中村氏: 今までは残っていなかったはずなのに、さっきから足跡が残っているんです。思うに──さっきnPDNを作動してからだと思います。


この足跡、nPDNを切ると離散して消えてしまうので、2人はnPDNを駆使して足跡のサンプルをとった。

足跡は黒いオイルのような液体。とりあえず2人はこのサンプルをとって帰ることにした。


映像ログ書きおこし3


サンプルを持ち帰ったからには研究したいところだが、ここには霊体工学の専門家はいない。

しかし、ここで頼もしいのが八田研究員!なんとマニュアルと環境さえあれば分析できると言う。強い。

幸いにもサイト-81K3は霊体工学部門の管轄下にある。マニュアルも環境もある。そういうわけで早速八田研究員は分析をするために研究室に行った。


高畑博士: 中村さん、初めての実地調査はどうでしたか?

中村氏: なんとかなりました。亀島さんのおかげで心強かったです。

高畑博士: 映像を見ていましたが、メトカーフ装置のマニュアル操作は少し煩雑であるにもかかわらず、初めてにしてはかなりスムーズな扱い方でしたよ。何か経験でも?

中村氏: 強いて言うなら、弟と一緒にアマチュア無線をしていました。

高畑博士: 弟さんがいらっしゃるのですね。

中村氏: はい。──こんな僕を、昔からずっと慕ってくれるやつです。そいつと一緒に無線をかじったときに知った操作と、ちょっと似通っているところがあって。

高畑博士: そうでしたか。弟さんもあなたに似て優秀なのでしょうね。

中村氏: 持ち上げすぎです。それに──

高畑博士: なんですか?

中村氏: 優秀と言えば、あいつの方がずっと優秀です。あいつはきっと、浪人なんかしないでしょう。


中村氏の手記4


中村氏は思う。
財団職員の彼らは一心不乱に働いている。世界を元に戻すには自分たちが頑張るしかない、と。自分も、元の世界に戻ってほしいとは彼らと同様に思っているはずなのだが、彼らの希望の持ち方には驚いてしまう。


彼らのような優秀な人たちは、劣等感というものを知らないのだろうか。あるいは、劣等感を感じても、すぐにエネルギーに変換できるのだろうか。

どちらにせよ、俺にはまぶしい存在だ。

祥太に会って、なぜあれほど俺を兄ちゃんと慕ってくれるのか聞きたくなった。


さてさて、中村氏がコーヒーを淹れる為にロビーに行くと、中村氏よりも年下に見える女の子がコーヒーを飲んでいた。


映像ログ書きおこし4


中村氏: あの──

岩塚研究補佐: あ。

中村氏: あなたが岩塚さんですか?

岩塚研究補佐: うん。

中村氏: 挨拶が遅れてごめんなさい。中村です。お邪魔してます。

岩塚研究補佐: お邪魔って、別にここ、うちの家でも研究室でもないねんけど。

中村氏: それは──失礼しました。

岩塚研究補佐: 謝らんでいいよ。

[岩塚研究補佐、カップを机の上に置いて中村氏に向き直る]

岩塚研究補佐: 大変やね。こんなことに巻き込まれはって。

中村氏: そうですね。でも、俺もなんとかして皆さんの力になれればなって。それで、いつかこの現象を解決できれば──

岩塚研究補佐: いや、厳しいんちゃう

中村氏: はい?


考えてもみなよ、と岩塚研究補佐は言う。
海外とは一切連絡がつかない状況下、日本全体を巻き込んだこの大事件をたった5人でどうにかできるはずがない

しかも、SCP-3000-JPの副次効果で食料品などのものも消えるというものもあっただろう。もちろんサイト-81K3内の食料は無事なのだが、それもタイミング悪く1か月分しかない。

とりあえず、この日本に大規模な現実改変と、それに起因するCK-クラスシナリオが発生したのは確実なので、その現実改変の原因を探らなければいけないのだが、その作業が非常に大変。

Kant-NETsという、全国のヒューム値を観測するシステムがあり、それを分析してヒューム粗密波の原点位置を見つけ出そうとしているのだが、何しろ日本は広い。しかも干渉と共鳴が複雑すぎる。

しかも八田研究員は岩塚研究補佐に「ヒュームだけじゃなくて アキヴァ放射*2も調べてね」といった趣旨のことを話したらしい。当然サイト-81K3のポンコツコンピュータでは計算が追い付かず、そのことを八田研究員に言うと「大学のコンピュータまで使って頑張れ!」みたいなことを言われたらしい。

岩塚研究補佐がずっと部屋に引きこもってたのは、寝る間も惜しんで画面に向かっていたからであったのだった。


岩塚研究補佐: 正直厳しいとは思うけど、うちにできるのはそれくらいやし、だったらやれるだけやらんとね。じゃあ、部屋に戻るね。

中村氏: ──わかりました。あ、その──

岩塚研究補佐: うん?

中村氏: ──俺ごときがこんなこと言うのも差し出がましいかもしれませんが、適度に休んだほうがいいと思います。倒れたりしたら元も子もありませんから。

岩塚研究補佐: [沈黙した後、微笑して]──うん。優しいんやね。ありがと。八田先輩にも、たまにはそうやってうちを労ってくれって言ってくれへん?

[岩塚研究補佐、扉に向かうが途中で立ち止まる]

岩塚研究補佐: あ、それと。

中村氏: なんですか?

岩塚研究補佐: 一緒に資料室に来てくれへん? うちの背じゃ全然届かない場所に資料があってね。君の身長なら楽々届くと思うんよ。

中村氏: わかりました、お安い御用です。


映像ログ書きおこし5


ここで、ついにUE-3000-JPから出たオイルのような液体の分析結果が出た。さらに、先ほど岩塚研究補佐が文句を言っていた全国のヒューム値及びアキヴァ放射の解析結果も出た。
ここではその報告が行われることとなった。岩塚研究補佐は所用で出席できなかったようだが、中村氏は参加している。

まず、1つ目のこのUE-3000-JPから出たオイルのような液体についてだが、大量のEVE、すなわち神格的なエネルギーを持っているのだという。

この物体は、適切な操作を受けないとすぐに大量のEVEを放出して崩壊してしまう性質があり、その他実験結果からUE-3000-JPは黒いオイルの崩壊を防ぎつつ、その体に途方もないEVEを蓄えているものと思われている。

ちなみにこの黒いオイル、光を完全に吸収している。完全に、というくらいだからもう「黒い」どころじゃなく全く見えない。真っ黒。光学的に観測できないのにもかかわらずその中に大量のEVEを蓄えているかと思うと、この黒いオイルやUE-3000-JPは暗黒物質(ダークマター)のよう。


次に全国のヒューム値とアキヴァ放射の解析結果が出た件の報告に移ろう。
八田研究員はサラッと「岩塚から報告されました」なんて言っているが、きっとその裏には岩塚研究補佐の寝る間も惜しむ努力があったのだろう。

さっそく解析結果を見て行こう。

まず、日本国の海岸線に沿って高いヒュームの壁ができていることは説明した通りであり、もちろんその場所、およびその付近の現実性は非常に高くなっている。
ただその現実性、京都市に近づくと大きく減る

Agt.亀島が言っているのだが、これはまるですり鉢のような形をしている。外側に向かって現実性は高くなっていき、京都市はすり鉢の底だ。

現実性の流れも調べてみたそうだが、どうやら京都市の二条城の南に流れ込んだ現実性を流し出す排水口のような存在があるらしい。そこに向かって現実性も流れているのだろう。

それで、どうやらこの京都市街は、現実性を一定に保つという機能があるらしい。というのも、この京都市街は北に貴船神社、東に比叡山、南に城南宮、西に松尾大社という非常に現実性が高そうな場所。これらが滝壺のような役割を果たし、流入量と流出量が釣りあうような形になっているらしい。
以降、この京都市街のことを「AREA-3000-JP」と呼ぶ。

さて、続いてはアキヴァ放射の解析結果についてだが、なんとAREA-3000-JPの外では一切検出されなかった
アキヴァ放射とはすなわち、神様の力がどれくらいその地域に届いているかを表す数値。
そもそも日本と言う地域は、非常に多くの神格分割して日本を治めているという非常に特殊な地域。日本には八百万(やおよろず)の神がいる、ともいうくらいだ。

それで、もっと言うと日本に居る神様の数は実質無限。もともと日本に降り注ぐアキヴァ放射は非常に強いものだったのだが、それがAREA-3000-JP以外の場所では一切ない。これすなわち実質無限いる日本の神々がすべて消えてしまったということ。

ただこれはAREA-3000-JPの外での話。AREA-3000-JPの中には神様が1柱だけいるのだが……そう、それがUE-3000-JPである。
黒いオイルの解析結果からもわかる通りUE-3000-JPはとてつもない量のEVE(神的なエネルギー)をため込んでいた。要するにUE-3000-JPとは、日本全国の神様を全て吸収し、その神様のEVEを一体化してため込んでいる存在であると仮説が立てられる。

それならば、UE-3000-JPを倒せば、UE-3000-JPにため込まれていたEVEが放出されて神様が全て戻るのではないか。
そして、神格は土地や物品に降臨するもの。それらが無事であれば、EVEが放出されて大気中のアキヴァ放射が戻った後はちゃんと同じ神様が復活するはずなのだ。
そもそもこのSCP-3000-JP現象、全ての人間や人間の日常生活にかかわりの深いものが消えるということであったが、要するに神の宿っていたものが神がいなくなって消えたのであれば?その神が復活すれば全て復活するだろう。

Agt.亀島: じゃあ、とりあえずあいつを倒せばいいんだな。でも一つ問題があるぞ。この間の探索で財団の標準的なデバイスは一通り試したけど、結局振り向かせることすらできなかった。

八田研究員: nPDNを用いた非実体化抑制下で破壊的な攻撃をしてみては?

Agt.亀島: どうだろうな。あの時nPDN使用下でもスタンガン一式が通らなかったし、それに──俺の経験から行くと、あいつが反撃に転じた時が厄介そうだ。

八田研究員: 確かに。こちらに対してどのような攻撃をしてくるか未知数なのは不安ですね。何か──あれ自体を弱体化させるような方法が欲しいですが。

とはいえ、相手はUE-3000-JPという、それも日本全国の神様を吸収した神なのだ。そんな相手を弱体化させるなど可能なものか。
しかし、ここには神話・民俗学部門のプロフェッショナルである高畑博士がいる。彼には心当たりがあるようで、高畑博士は他の3人をとある場所に連れていく。

ここサイト-81K3は京都市すべてのアノマリーを管轄する大事なセキュリティ施設。そのため各部門の技術が結集しているのだそう。その中の1つがUE-3000-JPに有効なのではないかと高畑博士は言う。


一行がやってきたのは中村氏の通う大学、いやサイト-81K3の地下奥深く。とあるだ。
このサイト-81K3の南には聖護院という寺院がある。そこは「本山修験宗」という宗教*3の総本山がある。
それでその修験道の祖が役小角(えんのおづぬ)または役行者(えんのぎょうじゃ)と呼ばれる人物なのだが、この人は呪術で鬼神を従わせることができたと言われている。

それで一行が来た祠は、その役小角のパワーを伝える場所。
ここには虎の牙という、役小角の能力である「神を支配・使役する」効果のある呪物が安置されている。ちなみにずっと聖護院のそばにあるこの祠に安置しておいたおかげで呪力がパワーアップしているらしい。

ただ、「神を支配・使役する」能力と言っても例外がある。
どうもこの能力は「人間から神への信仰を逆転」させることに由来しているらしく、もしUE-3000-JPがもとから人間から信仰されなくても成立するような性質を持っていた場合にはそもそも信仰されてないので逆転もできない。

ただこの虎の牙にはもう一つ効果があり、それは「特殊なアプローチで神を弱体化かつ実体化する」というもの。
こちらはUE-3000-JPだろうと例外なく発動するので、この能力を使えばUE-3000-JPにも攻撃が通るかもしれない!


Agt.亀島: 素晴らしい! 早速弾薬を作ってみます。聖護院に感謝だな。解決したら感謝のために八つ橋を食いまくらなきゃ。

八田研究員: 名前の由来、本店が聖護院の近くにあったからというだけですよ。


中村氏の手記5


短いので全文引用する。

亀島さんは喜び勇んで弾薬を作り始めた。八田さんも普段は言わないような冗談を言ったりして、心なしか明るくなったように見えた。

岩塚さんにも会って話をした。解決策の候補が見つかり、彼女も喜んでいた。自分は観測結果の解析に徹するから精々がんばれと言ってくれた。話ついでに、彼女の地元はここらへんだとか、財団に勤めてもう数年経つとかという雑談をした。彼女が何歳かはわからないが、いったい何歳の時にここで働き始めたのだろうか。

亀島さんによると、弾薬ができ次第再度探査に繰り出すそうだ。

次の探査では皆に朗報を持ち帰りたい。


そういうわけで呪術の力を手に入れたAgt.亀島と中村氏は再びUE-3000-JPのもとに行くことになった。


作戦報告3000-JP.2


今回の作戦の目的は2つ。呪具「虎の牙」を利用して作られたフラッシュグレネードである。「OZ」の有効性の確認。そしてUE-3000-JPの破壊・無力化方法の検討。
今回も作戦3000-JP.1と同様に“Avery”を用いてUE-3000-JPに近づき、そこにOZを打ち込む。そこで弱体化したUE-3000-JPに向かって各種の攻撃をしてみる、という感じだ。


中村氏: オズ、でいいんでしたっけ。

Agt.亀島: ああ。(えん)小角(おづぬ)の「おづぬ」から連想したんだ。かっこいいだろ。

中村氏: 八田さん、重さの単位のオンスもozと書くって言ってましたけど。

Agt.亀島: あ? いいんだよ。あいつはいちいち面倒なことを気にするからな。


中村氏: お二人は昔からお知り合いなんですか?

Agt.亀島: まあな。──ちなみに、君からしたらあいつはツンツンして冷たいように見えるかもしれないけどな、本当は民間人が危ない目に遭うのが心配なだけだぜ。気にすることはないぞ。

中村氏: そうなんですか。

Agt.亀島: ああ。そういうかわいい面もある。──じゃあ、いくぞ。幸いたくさん作れたけど、そうは言っても限りがあるからちゃんと狙ってあてろよ。


記事が長くなるのを避けるために作戦の様子は割愛して結果だけ伝えてしまうが(気になる方は是非本家報告書へ)、結果は大成功

UE-3000-JPはOZを当てられた直後、体をよじり、苦悶しているような姿を見せた。
そこに中村氏が神聖祈念弾頭を2発打ち込むと、UE-3000-JPは動きが緩慢になり、やがて空気中に散逸

EVEを測る装置であるPTAもメーターが振り切れており、相当量のEVEが大気中に放出されたことがわかる。


映像ログ書きおこし6


サイト-81K3に帰ってくるなり、さっそく八田研究員から嬉しいお知らせが。

なんと宮城県を中心に微弱ながら生体反応が戻ってきたというのだ。
おそらく、今回UE-3000-JPが放出したEVEが宮城県中心の神様に対応していたのだろう。

「でもなぜ全部復活しないんだ?」と疑問を口にするAgt.亀島に八田研究員が答える。
どうも、UE-3000-JPは2人と戦った後、河原町三条交差点付近に再出現したのだという。

中村氏: ──つまり、あの黒いやつを追い回し、少しずつ削っていけば──いつかは撃破に成功し、世界が元に戻るかもしれないんですね?

八田研究員: はい。それでは──

[八田研究員、直立する]

八田研究員: レベル3職員として両名に指示をいたします。エージェント・亀島と中村氏は、サイト-81K3が保有する各種装備及び武器を任意に利用し、UE-3000-JPの追跡、及び無力化にあたってください。

[約3秒間沈黙。Agt.亀島と中村氏が顔を見合わせた後、うなずく]

Agt.亀島: 了解した。

中村氏: 任せてください!



[両名、退出しようとする]

八田研究員: エージェント・亀島。

Agt.亀島: ん?

八田研究員: 中村さんが装備しているカメラで、私たちがリアルタイムで映像を確認していることを忘れないでください。

Agt.亀島: なんのこと──ああ、悪かったな、八田研究員。[笑う]

八田研究員: [咳払いする]


作戦報告3000-JP.3


そういうわけでUE-3000-JPを撃退していこう。今回のUE-3000-JPは三条大橋の上にいるのだが、このUE-3000-JP「黒色部分が棘のようになりそれぞれが不規則に動いている」。


中村氏: ──ウニのようですね。

Agt.亀島: ウニだな。


……とかのんきなことを言っていたらUE-3000-JPがこちらに走るように迫ってきた。しかも速い。
2人は逃げながらOZを使ってUE-3000-JPを弱体化・実体化するも、UE-3000-JPのスピードは落ちない
しかも、その後の神聖祈念弾頭も器用に避ける。一切当たらないし避けながらもちゃんと追ってくるからどうしようもない。

そこで中村氏が不意打ちの提案。
走っているAveryから中村氏が武器と弾を持って飛び降り、路地に身を隠し、Averyに乗ったAgt.亀島がUE-3000-JPを引き付けたところを横から打つという作戦だ。

Agt.亀島はこれを承諾。
Averyから飛び降りた中村氏はAgt.亀島が引き寄せるUE-3000-JPを待つ。そして現れたUE-3000-JPに見事弾を当てた。
……のだが、UE-3000-JPも1撃でやられるはずがなく、これで中村氏の場所がUE-3000-JPにバレてしまった。UE-3000-JPが中村氏に接近する。しかし彼は慌てず弾頭を再装填。しっかりと弾頭をUE-3000-JPに当てた。

その後UE-3000-JPは空気中に散逸していった。


映像ログ書きおこし7


この映像は、岩塚研究補佐が使っているサイト-81K3第2実験室に設置されていたカメラによって撮影されたものだ。
映像は、第2実験室にいる岩塚研究補佐を高畑博士が訪ねたところから始まる。話の内容は中村氏とAgt.亀島の活躍について。

どうも2人の活躍によって、東北地方だけでなく九州の一部でも生体反応が復活してきたという。やはり空気中の奇跡量、EVEの枯渇が3000-JP現象の原因とみて間違いなさそうだ。この調子でいけば世界が元通りになる時も近いだろう。


岩塚研究補佐: ──こんなこというと怒られますけど、やっぱり奇跡論関係の話は苦手です。科学的に考えようとしても、外部因子があまりにも多すぎて全然結果が予測できない。

高畑博士: [笑って]そうですね。ですが、だからこそ私のように古今東西の文献や伝承、神話や説話を調べ、その「外部因子」になり得るものが何かを提案する役目の者が必要なのです。

岩塚研究補佐: はい。私みたいな物理畑にとって、神話とか伝承とかから世界を解き明かさはるのはとても新鮮です。


岩塚研究補佐: ──それで、このままめでたく解決したら、中村君はクラスC記憶処理をして解放しなはるんでしょうか。

高畑博士: もちろん。プロトコルCK-3ではそう規定されています。あるいは、財団に雇用されるという選択肢もあるかもしれませんが。

岩塚研究補佐: そうですよね。──残念やなあ。どんなに功績を立てても、結局は夢のように忘れてしまうんやから。

高畑博士: ──意外ですね。岩塚君がそういうことを言うとは思いませんでした。

岩塚研究補佐: [口を両手で隠して]ああ、失礼しました。サイト管理官の前で、うかつな発言でした。


岩塚研究補佐: [咳払い]──それで、この部屋に何か御用ですか?

高畑博士: いえ、亀島君と中村さんの働きによってこの問題が解決するならば言うことは無いのですが──少し引っかかることがありまして。岩塚君、あなたはUE-3000-JPについてどう考えますか?


高畑博士はこれを聞きにやってきたらしい。
岩塚研究補佐は、前の話で出てきた「暗黒物質(ダークマター)」という例えが的を射ていると話す。あの黒いオイルは、光を完全に吸収するため光学的には観測できないのに保有するエネルギーは大きい。

ちなみに暗黒物質そのものの話になるのだが、暗黒物質とは何かを考えるモデルとして「暗黒物質とは小規模なブラックホールである」というものがあるらしい。そう考えると、UE-3000-JPも日本の八百万の神々を吸収して大きなエネルギーをため込むブラックホールのようだ。

高畑博士はそのブラックホールに興味があるらしく、岩塚研究補佐は高畑博士にブラックホールの特徴的な性質を教える。
これは有名な話だが、ブラックホールは強い重力を持つため、ある距離以上近づけば光でさえも脱出できない
この中の重力は光速を越えるため、ブラックホールに吸い込まれたモノは、外から観察すると完全に止まっているように見えるのだという。

その話を聞いた高畑博士は「非常に参考になりました。」と言い、付け足すように「『壁』のヒューム値はよく観察しておいてください。」と言って部屋を後にした。


作戦報告3000-JP.4


作戦報告は4回目だが、Agt.亀島と中村氏の2人は3回目の作戦報告のあとからめちゃくちゃUE-3000-JPと戦っていたらしく、すでに2人のおかげで近畿地方以外のほとんどの生体反応が復活しているらしい。

つまり今UE-3000-JPが蓄えているEVEは近畿地方の神様のものだけ。UE-3000-JPはかなり弱っており、黒いスライムのような形をしていた。

しかも、OZで攻撃しても以前のように追ってくるどころか逆に逃げ始めた。それもまあゆっくりだったので、中村氏は苦も無くUE-3000-JPに弾頭を命中させた。UE-3000-JPは霧消していった。

ここで八田研究員から非常に良いニュースが。

八田研究員: たった今、UE-3000-JPと思われる京都市内のアキヴァ放射体の反応が消失して──日本全国のサイトの生体反応が復活しました。

[Agt.亀島と中村氏、顔を見合わせる]

Agt.亀島: ──中村君。

中村氏: はい。やりましたね!

[両名、握手を交わす]



映像ログ書きおこし8


サイト-81K3に戻ったAgt.亀島と中村氏は八田研究員から「日本国内の生体反応が続々と復活し始めている」と報告を受ける。

本当なら皆で祝いたいところだがどうもまだ問題があるようで、それはAREA-3000-JP以外の場所の現実性が未だ不安定であること。おさらいだが、AREA-3000-JP、すなわち京都市には現実性が一定に保たれやすく、逆にそれ以外は3000-JP現象のせいですり鉢のような形の不安定な現実性になっていた。

その、「不安定な現実性」が治っていないのだ。これに関しては現在岩塚研究補佐が解析している。ちなみに高畑博士は資料室で調べ物をしている。

それで、現実性が不安定なせいか、「陽炎のようにおぼろげに」観察されるのだという。それと、どうやら報告書では省略されてしまっているようなのだが復活した人々がなぜかずっと止まっている。まるであの太陽のように、ピクリとも動かないのだ。

まあ、3000-JP現象の原因であるUE-3000-JPが撃破されたのだから待ってればそのうち治る可能性が高い。とりあえずしばらくは観察を続けるらしい。


ここで中村氏は、岩塚研究補佐に挨拶したいと言って第2実験室へ向かう。


中村氏: ──岩塚さん。お邪魔します。

[岩塚研究補佐、モニターに向かって着席し、モニターを注視している]

岩塚研究補佐: お邪魔って、うち、ここを間借りしているだけやねんけど。

中村氏: ごめんなさい。

岩塚研究補佐: 謝らんでいいから。


そんなやりとりの後、岩塚研究補佐は言う。作戦報告3000-JP.3での中村氏の振る舞い、UE-3000-JPが迫ってきても落ち着いて弾頭を再装填し、結果としてUE-3000-JPの討伐に成功した。
中村氏には、財団のフィールドエージェントとしてのセンスがあるのかもしれない。


岩塚研究補佐: もしこれで世界が元に戻ったのなら、君は英雄って呼べると思うよ。

中村氏: 英雄──俺がですか。

岩塚研究補佐: うん。間違いない。

中村氏: ──俺、うれしいです。岩塚さんたちのような優秀な人と一緒にこんな働きができて、あまつさえ褒められるなんて。俺、できることなら、皆さんと一緒にこれからも働きたいです

岩塚研究補佐: [沈黙]


それを聞いた岩塚研究補佐はとあることを告げる。
もしこれで3000-JP現象が解決されたならば、中村氏の功績は大きく評価されて望めば財団に雇われることもあり得る。でも、それをするということは、人類の「光」を、正常な生活を捨てて永遠に「陰」にひそむことと同じ。

大切な弟はもちろん、東山さんでさえこのまま永遠に会えなくなる

もしも財団に雇用されない選択肢を選ぶのであれば、中村氏は岩塚研究補佐たち4人のことを夢幻のようにきれいさっぱり忘れなけばいけない


岩塚研究補佐: ああ、そういえば。

[中村氏、足を止めて振り返る。岩塚研究補佐、微笑する]

岩塚研究補佐: 言いそびれていたけど──任務、お疲れさまでした。

中村氏: ──はい。ありがとうございます。

[中村氏、ロビーに戻る。ロビーには八田研究員のみが所在する]


戻ってきた中村氏に、八田研究員が声をかける。

どうも、中村氏がこのサイトにやってきてから岩塚研究補佐の雰囲気がいつもより明るくなったような気がするという。

別に中村氏に心当たりは無いのだが、そういえば以前に岩塚研究補佐から八田研究員に伝言を預かっていた。


中村氏: ──俺ごときがこんなこと言うのも差し出がましいかもしれませんが、適度に休んだほうがいいと思います。倒れたりしたら元も子もありませんから。

岩塚研究補佐: [沈黙した後、微笑して]──うん。優しいんやね。ありがと。八田先輩にも、たまにはそうやってうちを労ってくれって言ってくれへん?


八田研究員にそのことを伝えると、「そうでしたか、覚えておきます。」と一言返された後に「他に彼女に関してあなたが気づいたことはありますか?」と会話を戻されてしまう。

中村氏: そうですね──優秀で、尊敬できる方だと思います。その、何か?

八田研究員: わかりました。妙なことを聞いてしまい申し訳ない。


ほうほう、中村氏が来てから岩塚研究補佐の様子が明るくなったと。これはもしや……?


中村氏の手記6


岩塚研究補佐の話を聞いた中村氏は考える。

これが終わった後、記憶を消して日常に戻るか、それとも財団で働くか。
もちろん記憶を消してしまえば二度と財団職員の4人とは会えない。逆に財団で働けば二度と家族や東山さんには会えない。


それは嫌だと思う。

やはり、元の生活に戻らなければいけない

例え俺の功績が忘却の中に消え、俺の日常生活から跡形もなく消えようとも、世界のどこかにいる彼らは俺のことを覚えてくれている。それで満足だ


さてさて、八田研究員と高畑博士が何かを話し込んでいる様子。何か問題でもあったのだろうか。


高畑博士の手記


ここでは、めずらしく高畑博士の手記を見ていく。
この手記はUE-3000-JPが撃破された後に書かれたもので、主にUE-3000-JPと3000-JP現象の正体についての考察が書かれている。なんせ高畑博士は神話・民俗学部門。UE-3000-JPの由来とか、そういうのがどうしても気になってしまうのだ。多分。


まず、UE-3000-JPは意志を持っている。Averyに乗った中村氏達を追いかけたり、自分がピンチになると逃げたり。
それでもって大量のEVEを持っておりアキヴァ放射も確認できるということはUE-3000-JPの由来は何かの神様であるといえる。
それで、UE-3000-JPが持っていたEVEの総計は日本全ての神様のEVEを足したものに匹敵することは前に言ったとおりだ。

すなわちUE-3000-JPは「日本で生活を営む日本国民」または「日本そのもの」のどちらかを神体にするような、非常に大規模な神様なのである。

ここまでくると、UE-3000-JPの由来が何であるかはだいたい絞られる。なんせ日本そのものを神体にするようなすっごい神様は日本の成り立ちに関する神様しかありえないからだ。

そうなってくると、UE-3000-JPの由来として怪しい神様は17柱に絞られる。
日本神話には、天地開闢(てんちかいびゃく)という、世界・日本の始まりを意味する言葉があるのだが、この天地開闢に関わる神様は17柱しかいないのだ。

で、17柱のうち、最初に現われた5柱をまとめて「別天津神(ことあまつがみ)」と呼ぶのだが、こちらは先ほどUE-3000-JPの由来として説明した「日本の成り立ちの神様」というより、「世界の成り立ちの神様」というほうが正しい。このためこの5柱は無いだろう。

それで残りの12柱、こちらは「神世七代(かみよななよ)の神々」と呼ばれるのだが、そのうち日本列島を作った神様は2柱。それがイザナギイザナミである。

じゃあイザナギとイザナミのどちらかがUE-3000-JPだ!と決めつけるのはまだ早い。
なぜならイザナギとイザナミは国生みもしてるし神生みもしている。島生みもしたらしい。もうめちゃくちゃ親族がいる状態にあるのだ。

だが、この親族のうち、「日本の成り立ち」という面で見ると注目すべき神様は2柱。
ご存知の通りイザナギとイザナミは交わることで日本列島を生み出したのだが、その前に二度失敗している

「失敗している」ということは日本列島の失敗作が2柱あるということ。
この2柱の名前はそれぞれ「ヒルコ」「アハシマ」。ヒルコのほうが先に生まれた、1柱目の失敗作なので兄となる。
この2柱は日本列島より前に生まれた。UE-3000-JPの由来としては十分ありえる。

ここで気になるのはヒルコとアハシマの人生である。この2柱は失敗作だからといってヒルコはある程度成長してからアハシマは赤ん坊の状態で神様たちから追い出されている。

それでヒルコは追い出された後、常世の国という不老不死の別世界に流れ着いて平和に暮らしたのだという。

ここで高畑博士、ピンとくる!
不老不死、不老ということは時間が進まないということ。
高畑博士は、少し前に岩塚研究補佐と交わした会話を思い出す。ブラックホールに取り込まれた人間は外から見ると止まっているように見えるらしい。

では、この3000-JP現象はで、日本の内側に居る人たちは外の世界が止まっているように見える。

なにかを思いついた高畑博士はそのまま書き綴る。
ヒルコとアハシマは日本という国の。そしてどちらも現在の行方は不明。もちろん神としての規模はめちゃくちゃ巨大。
これは最初に予想したUE-3000-JPの由来「日本国民、もしくは日本そのものを神体とした大規模な神様」に合致する。

よって、UE-3000-JPは「ヒルコ」「アハシマ」のどちらかである可能性があるかもしれない。

ここまで考え付いた高畑博士はみんなをロビーに集める。

映像ログ書きおこし9


この映像ログは、高畑博士をはじめとしたみんながロビーに集合した場面から始まる。

高畑博士と岩塚研究補佐は、観測結果からとある仮説を導き出したらしく、それを今からみんなに話すというのだ。ちなみに岩塚研究補佐は研究室で研究している。


それで、さっそく仮説とやらを説明していくのだが、その仮説とはUE-3000-JPは日本の神様全体のEVEを吸収して、それを利用することで日本列島全体に奇跡論を行使していたというもの。
奇跡論とは魔法のようなものなのだが、その魔法をUE-3000-JPは2種類使ったと考えられる。

1種類目は日本全体の時間を極度に早めるという奇跡論。
「太陽の位置は止まっているのに時間を早めるとはどういう事?」と思うかもしれないが、これは私たちがすごく高速移動しているということ。
高速移動している人が通常通り動いているものを見たらそりゃかなり遅く見える。

ちなみに、今現在UE-3000-JPを倒したことで各地サイトの生体反応が復活しているのだが、それで復活した人間はこの高速移動の範囲外なため、太陽と同じように止まって(もしくは非常に動きが遅くなって)いると思われる。

続いて2種類目の魔法は人々と、人々の生活にかかわりの深いものを一時的・現実的に世界から隠すというもの。
これは今更説明するまでもないだろう。

問題は、今説明した2種類の奇跡論効果が、UE-3000-JPの存在を要としてかかっていたということ。そして日本を囲む高ヒュームの「壁」の存在も不可欠だったということ。
UE-3000-JPが倒され、実は「壁」のヒューム値も急速に下がっている。上記2つの奇跡論はもうそろそろ無力化、つまり日本がもとに戻るのだ。

ただし問題はなぜUE-3000-JPはこんなことをしたのかという問題。
確かに、日本中の神様のエネルギーを一身にため込んでこんな大事を起こすなんて一体UE-3000-JPはどうしてこんなことをしたのだろうか。そして、そんなことができるUE-3000-JPはいったい何者なのか。

そして高畑博士は言う。UE-3000-JPの正体として考えられるのは、国生み神話においてイザナギ・イザナミという原初の夫婦神によって、大八島国(日本列島)に先駆けて最初に生み出された──

ここまで話したところでロビーの扉が勢いよく開け放たれる

岩塚研究補佐: 八田先輩! すぐ来てください! ──あ、博士とお二人も! 早く!

Agt.亀島: 岩塚ちゃん?

中村氏: ど、どうしたんですか?

岩塚研究補佐の様子からしてUE-3000-JPの正体なぞ話している場合ではなさそうだ。
4人は言われるがまま第2研究室へ向かう。

研究室のモニターに映っていたのは、近畿地方周辺を拡大した日本地図。その地図にアキヴァ放射の強さがマッピングされていたのだが、なんと淡路島周辺のアキヴァ放射がすごいことになっている。現実性も最大で60.5Hmを観測し*4、現在も15Hmから30Hmまでを上下している、極めて不安定な状態になっている。

Agt.亀島: いったい何が──

岩塚研究補佐: 顕現したのです。おそらくレベル7以上の神格実体が。

中村氏の手記7


映像ログ書きおこし9の直後の手記。
5人は現地、すなわち淡路島の映像を見てみたのだが、空は文字通り赤黒く染まり、断続的な地震や地鳴りも観測されているようだった。

いよいよこの世の風景とは思えなかった。

皆で固唾を飲んで映像を見つめていると、淡路島の海岸の地形が見る見るうちに大きく隆起していくのがわかった。

こうなってくると映像に異常ミームが含まれる可能性があるので、5人は「スクランブル・デバイス」というミーム汚染をシャットアウトするゴーグルのようなものを付けた。


隆起は水面を押し上げ、やがて大きな水しぶきを上げて、それの姿を現した。

それは、身体は岩石のような質感で、人型だがとても大きな頭と、短い手足を持っていた。身長は、もしかしたら以前東京で見たスカイツリーよりも高いかもしれない

のシルエットや顔の造形を見るに、それは人間の赤ん坊そっくりだった。


なんと突然、東京スカイツリーよりも高身長な赤ん坊が出現したという。
それもとんでもない力を持った存在。アキヴァ放射が大量に観測されていることを考えるに何らかの神様である可能性が高い。
岩塚研究補佐は先ほど「クラス7以上の神格存在」と言ったが、数字の大きさからしてとんでもない上のランクなのだろう。


赤ん坊は、ゆっくりと歩を進め始めた。

俺たちはその光景を黙って見ていたが、おもむろに高畑さんがつぶやいた。

あわしまだ」と。


 


映像ログ書きおこし10


再び映像ログに戻る。「あわしまだ」とつぶやいた高畑研究員が、4人にアハシマの説明をしていた。アハシマの説明はさっきしたのでここでは省略する。

それで、なぜ高畑博士はあの超高身長赤ん坊神様をアハシマだと思ったのだろうか。
高畑博士が考える理由は3つ。

1つ目は、この赤ん坊が淡路島に居たこと。
淡路島はいろいろ国生み神話と関係が深い島であり、神様の元から追い出された後にそこで留まって、以降ずっと淡路島にいたとしてもおかしくないという考察だ。

そして2つ目は、姿が赤ん坊であること。
アハシマは赤ん坊のころに神様の元から追い出され、それ以降誰も姿を見ていない。要するに赤ん坊の神様なのだ。

最後の3つ目は、あのUE-3000-JPがヒルコである可能性があるということ。
ヒルコは日本列島の兄、しかも長男である。日本の国土を覆い隠すほどの神威があってもおかしくない。

しかもだ。ヒルコは追い出された後不老不死の楽園、常世の国に流れ着いている。この常世の国というのは「日本国内の時間を早くすることで国内の人から見ると時間が非常に遅く感じられる」3000-JP現象にそっくりではないか!
つまり、UE-3000-JPは奇跡論行使を通じて日本を常世の国で塗りつぶしていたと言える。

ちょうどここで岩塚研究補佐の解析が終わる。この世界の多元宇宙論的虚数方向の位相は0、基底世界と同一。そして「壁」のヒューム値が1.5Hm以下になるまであと2時間
八田研究員の言葉を借りるが、あと2時間で日本が「常世の国」というペンキによる塗りつぶしが解かれ始め、もとの日本に戻るのだ。

元の日本に戻るということは、あの超高身長赤ん坊神様が世に放たれるということに等しい。
このままではXKクラス: 世界終焉シナリオ CKクラス: 世界再構築シナリオ SKクラス: 支配シフトシナリオ LKクラス: “捲られたヴェール”シナリオをはじめとした様々なK-クラスシナリオが発生する可能性がある。
したがって一同はこの超高身長赤ん坊神様……UE-3000-JP-2無力化、または民間に対する被害の最小化を目指すことにする。



中村氏の手記8


あと2時間。

あと2時間で世界が元に戻る。とんでもないヤツを連れて。

八田さんはペンキに例えていたが、ペンキでコーティングされることによって、外部からの攻撃を防ぐことができるという考え方もできる。

つまり、あの黒い神がいた状態の方が、元々の日本にとっては安全だったのだ。

もしかして、俺は余計なことを [乱雑な線で塗りつぶされている]

映像ログ書きおこし11


Agt.亀島は廊下に立ち、ポケットを手に入れて壁に寄りかかっている。
そこに中村氏が話しかける。

中村氏: ──あいつを倒すには、どうしたらいいと思いますか?

Agt.亀島: ──ああ、そうだな。どうすりゃいいだろうな。今考えていたんだわ。

[Agt.亀島、苦笑して天井を向く]

中村氏: やはり、UEと同じく、弾薬を打ち込むべきでしょうか。「虎の牙」をありったけ使って、なんとか集中砲火すれば──

Agt.亀島: ──そうさなぁ。

Agt.亀島はなんだか元気のない反応をする。

約5秒間の沈黙の後、突然Agt.亀島は「死ぬのは怖いか?」と中村氏に語りかける。
「ど、どうしたんですか?急に」と中村氏が返すと、Agt.亀島は「こんな緊急事態に悠長かもしれんが──おじさんの昔話を聞いてくれるか?」と話を始める。

Agt.亀島の過去の話。
Agt.亀島は身寄りがなかった。そのくせ正義感は人一倍強く、しなくてもいいおせっかいを焼くもんだから行く先々で煙たがれて友達ができなかった。
そんなAgt.亀島が財団に出会い、機動部隊の一員となった時初めての友達ができた。

Agt.亀島: 本陣っていう聞きなれない苗字だったんだけどな。そいつとは妙に馬が合って、作戦中もプライベートもずっとつるんでた。危険極まりない職場だけど、人類を守る先鋒としてずっとそいつと一緒に働くんだと、根拠もなく思っていた。

でもその人は、SCP-2879-JP-2というKeterクラスのイモムシによって殺された。
SCP-2879-JP報告書によるとそのSCP-2879-JP-2は体長19m、周囲の現実性を不安定に上げながら現実改変と異常ミーム拡散を繰り返し、財団職員だけで少なくとも100人を死亡させる大事件を引き起こした。

ちなみにSCP-2879-JPは古代日本において「常世神」と呼ばれていた。「常世の国」と呼ばれるSCP-3000-JPと皮肉にも名前が似ている。

Agt.亀島: あれはな、地獄だった。なんにもないのにヘリが爆発して墜落し、地面に落ちることもなく掻き消える。毒ガスは撒かれ、あいつの糸は財団の重装をティッシュのように切り裂いた。そして突然──俺の隣で、本陣の身体が燃え出したんだ

中村氏: [沈黙]

Agt.亀島: 身体が燃える苦しみなんて、想像も及ばない。俺も何回も怪我を負ったが、その全てを合わせたって、おそらくあいつの苦しみには届かないだろう。あいつの苦悶に満ちた絶叫は、今も耳の奥にはっきりと残っている。しかも──あの不安定な現実性と奇跡論のせいで、あいつは1時間も、身体中が燃えているにもかかわらず命を長らえたんだ。あいつはずっと叫び続けていた。俺は介錯しようとしたが、なぜか攻撃が届かなかったんだ。俺は結局、叫びのたうち回るあいつを傍観することしかできなかった。

中村氏: [沈黙]

Agt.亀島: 結局イモムシは偶発的な要因で無力化されたが、俺は機動部隊として戦えなくなり、フィールドエージェントへの転属願いを出した。すまんな、こんな話をしてしまって。

中村氏: ──そのイモムシの怪物と比べて、あのアハシマという怪物はどうでしょうか。

Agt.亀島: 正直、比にならない

中村氏: ──それは──

Agt.亀島: ──情けないことに、俺はここに来て恐怖している。本当、情けねえなあ。そろそろ乗り越えたと思ったのに、またあの恐怖が蘇ってしまうとは思わなかった。

中村氏: ──無理もありません。あんな怪物なんか見たら──なんというか、根源的な恐怖を感じてしまいます。

Agt.亀島: そういう恐怖から逃げないっていうのが、俺たち財団の理念なんだけどな。──ああ、ダメだ。あいつの絶叫が、また耳の裏に張り付いてきやがった。

Agt.亀島は言う。
自分は今から30分以内に残りの「虎の牙」をすべて使った特大グレネード、名付けてOZ-2を作る。
それであのUE-3000-JP-2を大阪湾で迎撃する。もちろん間に合うかはわからないがやれるだけやるしかない

亡くなった本陣さんの為にもここで何もせず死ぬわけにはいかない、とも思ったのかもしれない。Agt.亀島はグレネード造りを始めた。

映像ログ書きおこし12


Agt.亀島の話を聞いた中村氏はそのままロビーに行き、椅子に黙って座る。ロビーでは高畑博士がと八田研究員が経って会話をしている。

「亀島から何か言われましたか?」と聞く八田研究員に対し、中村氏は虎の牙をありったけ使ったグレネードでUE-3000-JP-2を迎え撃つ計画を伝える。

八田研究員はうつむいて目を閉じて黙った後、「UE-3000-JP-2の進行経路を予測します。」と言ってロビーから出て行ってしまった。

中村氏: 八田さん──

高畑博士: 中村さん。我々は最後まで足掻きます。たとえ対処が間に合わず、あれが基底世界に影響を及ぼしたとしても──胸を張って、我々は最後まで抗ったと言えるように

中村氏の手記9


八田さんはとても悲痛な面持ちをしていた。亀島さんも高畑さんもそうだった。

中村氏は、改めてあの黒い神、UE-3000-JPについて考えていた。
おさらいになるが、UE-3000-JPは日本全国の神を吸収して、その力をふるって日本の時間を独立させたり日本国民を隠したりしていた。
また、あのUE-3000-JPはあの超高身長赤ん坊神様、UE-3000-JP-2のでもある。

もし、俺があの黒い神だとしたら、何を思って日本に対してそんなことをするだろうか。

弟が眠りから覚め、日本が、世界が危機に陥る。そんなとき、兄として何をしようと思うだろうか

もしかすると、あの黒い神は、日本を守るために現れたのかもしれない。

もしも自分の弟が永い眠りから覚めて日本に危害を与えるとする。それを察知した兄のUE-3000-JPは日本に現われ、人々を一時的に隠すことで弟の攻撃から守ろうとしていた

UE-3000-JP、つまりヒルコは、赤ん坊の弟アハシマと同様に親に捨てられた。兄である自分は不老不死の楽園に流れ着いて幸せに暮らした一方で、弟は誰にも気づかれずに淡路島の底に眠った

そんな弟がもうすぐ眠りから覚めると知った時、そして弟の目覚めによって人々が危機に陥ると知った時、兄であるUE-3000-JPは兄として責任をもって弟の面倒を見ようとするのではなかろうか。

前にも少し登場したが、中村氏には祥太という弟がいる。

小1のころにガラス越しに見た、新生児室の中で寝かされていた祥太の寝顔が目に浮かぶ。

そういえば、祥太が小さいとき、車にひかれそうになったところを助けたことがあった。それ以来、あいつは俺を積極的に慕うようになったような気がする

俺は、あの黒い神側の人間だったのかもしれない

映像ログ書きおこし13


八田研究員、高畑博士、中村氏がロビーに座っている。八田研究員が話し始める。

八田研究員は今わかっていることを整理して話す。
まずUE-3000-JP-2の由来について。データベースを調べてみたところ、UE-3000-JP-2の出現地点の地下にUE-0925に指定された洞窟があった。

UE-0925は、データによると「一度入ったら出られない洞窟」というだけの異常性しかわかっていなかったようだが、UE-3000-JP-2は岩石の塊みたいな見た目をしているし、このUE-0925にUE-3000-JP-2の幼体が眠っていた可能性が非常に高い。

次に先ほど調べていたUE-3000-JP-2の進行経路について。淡路島で生まれたUE-3000-JP-2は京都市に向かって進んでいるとみられている。つまり、ここ。
そもそも京都市、つまりAREA-3000-JPは現実性が安定した地域だという話が最初のほうにあっただろう。そして京都市に向かってすり鉢の坂ように現実流が発生していることも。
UE-3000-JP-2はその現実流に流されるようにして移動しているらしい。*5

ここで中村氏が何かを考え付く。もしかしたらあのUE-3000-JPが京都にいたのはUE-3000-JP-2が京都に来ることを予見していたからではないかというものだ。

ここで中村氏は先ほどの手記で自分が思ったことを打ち明ける。
UE-3000-JPは、UE-3000-JP-2から日本の人々を守るために3000-JP現象を引き起こしたのではないかということ、兄として責任をもって弟を抑え込もうとしたのではないかということ。だからUE-3000-JPは京都に出現し、弟であるUE-3000-JP-2が来るのを待っていたのではないかということ。

そして、UE-3000-JPは日本全国の神様のEVEを吸収していた
実質無限に存在するとみられる日本全国の神様のエネルギーを吸収したのだから、それだけのエネルギーがあればあのUE-3000-JP-2に対抗することも可能であろう。

高畑博士: ──なるほど。動機としては、最も納得できるかもしれません。

八田研究員: ──つまり──UE-3000-JP-2が誕生し、両者が対面するまで、UE-3000-JPを放置することが最適解だったということですか。

高畑博士: 八田君。

[八田研究員、項垂れて眼鏡を押さえる]

高畑博士: 八田君。気にすることはない。実際UE-3000-JPを攻撃したことで事態が好転したように見えたんだ。そこから君がそのように判断したことはなんらおかしくない。それに、私もまた君の意見を支持した。

八田研究員: ──いえ──先生。もっとあの現象を慎重に観察するべきでした。尚早に答えを出すべきではなかった。

3人の間を静寂が包む。そこに岩塚研究補佐が第2研究室からやってきた。どうやら3人に第2研究室に来てもらいたいらしい。

それで4人が第2研究室にいくと、あったのはUE-3000-JP-2の現在位置を示したモニター。なんとUE-3000-JP-2は既に淀川の河口まで来ている
時速にすると時速80km。秒速は22m。歩くペースは遅いが、おそらく図体がでかいので一歩が超長いのだろう。
おまけに、UE-3000-JP-2は定期的にワープしている。そして明確にAREA-3000-JP、京都市を目指している。ここがUE-3000-JP-2によるミーム汚染、さらに不安定な現実性による現実改変の影響下に入るのも時間の問題だろう。

そしてもう一つ悪いニュースがある。「壁」のヒューム値の現象の仕方が予想に反した。
新しい予測では、「壁」のヒューム値が元に戻るまで、つまり日本や日本の人々が元に戻るまであと45分

ちょうどそこへAgt.亀島が入ってくる。OZ-2が完成したのだ。
しかし

中村氏: ──亀島さん。UE-2を迎撃する準備が整うまで、あとどれくらいかかりますか?

Agt.亀島: ──そうだな。最低限の火力をあいつに集中させるためには──最低でも1時間は必要だな

[約3秒間沈黙]

岩塚研究補佐: ──先輩──

八田研究員: ──万事休す、だ。



中村氏の手記10


万策が尽きた。

世界が元に戻る前に、あの赤ん坊を倒すなんて不可能だ。それどころか、足止めすることすらままならない

俺のせいだ。

俺が、あの黒い神を、弟と人間思いの神様を倒してしまったから

いや、俺が優秀な彼らに協力しようと出しゃばったのが間違いだった。

俺がむやみに勇んで、あの黒い神を追い回そうとしなければ、八田さんや高畑さんは黒い神の本質に気づき、それ以上手出しはしなかっただろう。

結局、俺のするべきことなんてなかったんだ。

俺は結局、何もできない。

映像ログ書きおこし14


中村氏は居室の机の前に座り、机の上で腕を組み頭を伏せている。
そこにノック音が響く。中村氏が顔を上げると、訪ね主は岩塚研究補佐だった。

岩塚研究補佐は微笑して「一緒に来てほしいところがあるんやけど。」と言って中村氏をとある場所に連れていく。

2人が自転車で西へ西へ行くと、岩塚研究補佐は京阪電車・出町柳駅の近くで自転車を降りる。中村氏も降りて岩塚研究補佐の後に続く。

2人は鴨川の東岸に向かって歩いて下っていく。

岩塚研究補佐が鴨川デルタに向かう飛び石上を飛び移り始める。

中村氏: 岩塚さん──

岩塚研究補佐: ほら、ついてきて。

そう言われ、中村氏も飛び石上を飛び移り始める。
岩塚研究補佐が話し始める。

岩塚研究補佐: 世界が滅びかけているっていうのに、鴨川の流れはいつもと変わらないねえ。うち、この時間の鴨川が一番好きなんよ。ごめんね、付き合わせてしもうて。これが最後だ、もう見れないと思うと、なんだか無性に見たくなって。

中村氏: [沈黙しながら岩塚研究補佐の跡を追う]

岩塚研究補佐: 懐かしいなあ。昔、死んだ両親と一緒にこの鴨川デルタで五山の送り火を見たんやっけ。ほら、見て。ここからちょうど東に 大文字(だいもんじ) が見えるんよ。父親の肩車の上で見たなあ。昨日のことのように思い出してまうわ。中村君、京都で下宿生活なんやろ? 京都にいるうちに見やはった方が──あ、そうか。もう見れへんのやっけ。[笑う]

中村氏: [沈黙しながら岩塚研究補佐の跡を追う]

岩塚研究補佐: そうだ、吉田神社には行ったことある? 大学にめっちゃ近いよね。あそこの節分にやるお祭り、毎年すごい人が来やはるんよ。吉田神社と言えば、大元宮っていうお社も有名なんやけど、知ってる? 社殿が八角形なんよ。なんか他の神社とは明らかに違う形してて、境内のつくりも独特でね。社殿を囲むようにして、日本全国の神様の名前がずらっと並んではるの。何しろ、日本の神様の全員をそこでお祀りしてはるって言うんやから驚きよね。節分祭は本宮とそこでお祭りをしやはってから、鬼の仮装をした人と神職の格好で松明を持った子供たちが──

中村氏: ──いいんですか? サイトを離れて。

[約3秒間沈黙]

岩塚研究補佐: ──ごめん。なんだかめっちゃしゃべりたい気持ちになって、しゃべりすぎてしもうた。まあもちろんよくはないけど──これくらいは許されるんちゃう? うちら、結構頑張ったよ。だって5人よ?5人にしては結構やった方やないの?

中村氏: [沈黙]

[両名、鴨川デルタに到着した後、出町橋上に移動する]

 

岩塚研究補佐: ほら、見て。西の空がだんだん、朱鷺色を経て、紫になっていく。これの意味わかる?

中村氏: 時間が──動き始めているということですか?

[岩塚研究員、出町橋の欄干の上で腕を組み、鴨川の水面を見つめる]

岩塚研究補佐: うん。正確に言うと「壁」内の時間が遅くなり始めているんやけど──つまりは常世の国」の絵の具がだんだん薄くなっていって、元の世界の様子に戻っていってる。あはは、戻ってきた皆、さぞかし驚かはるやろうなあ。あんな怪獣が突然目の前に現れるんやから

中村氏: 岩塚さんは──

岩塚研究補佐: [沈黙。鴨川の水面を見ている]

中村氏: もう、あきらめてしまっているんですか?

岩塚研究補佐: [沈黙]

中村氏: 岩塚さん?

[岩塚研究補佐、顔を腕に伏せる]

中村氏: だ、大丈夫ですか?

[岩塚研究補佐、顔を上げて袖で目を拭う]

岩塚研究補佐: あはは──ごめんね、心配かけて。でもうち、やっぱり悔しいな。大好きな両親に昔から神童ってめっちゃ褒めてもらって、うちなら何でもできる、きっと世界も救って見せるって思ってた。財団に入る時もそう誓ったはずなのに──結局、うちには世界を救うことができひんかった。うちは何にもできひんのやなって、そう考えると、情けないよね。

[約5秒間沈黙]

中村氏: 岩塚さん、それは絶対に違います。あなたほど優秀な方はいません。

岩塚研究補佐: ありがとう、励ましてくれて。

中村氏: 本心です。俺は──今までずっと必死に勉強してきました。浪人して周りから追い抜かされようと、歯を食いしばってなんとかここまで周りに食らいついてきました。でも結局は、どんなにがんばっても上には上がいるってことを知るだけだった。財団の皆さんを知って、ますますそう思うこともありました。でも──皆さんの働きを見て、自分の考えが間違っていることを知りました。自分が劣っているとか周りが優れているとかどうだっていい、自分がすべきことを必死でやっていればそれでいいんだと。

岩塚研究補佐: [沈黙]

中村氏: 今の状況は確かに絶望的かもしれません。ですが高畑さんも言っていました。自分たちは最後まで世界を救おうとしたと、元の世界の人たちに胸を張って言えるようにがんばると。

岩塚研究補佐: [首肯]

中村氏: ──俺、高畑さんや八田さん、亀島さん、そして岩塚さん、あなたたちからそういうことを学べて、本当によかったと思ってます。まだ時間が無くなったわけではありません。最後まで前を向きましょう。

岩塚研究補佐: [約3秒間沈黙後、笑って]──そやね。中村君の言う通りやと思う。

[両名、サイトへの帰還を始める]

岩塚研究補佐: 中村君。

中村氏: はい。

岩塚研究補佐: うちも、中村君に会えてよかったと思ってるよ。

中村氏: ──ありがとうございます。

 

2人はサイト入り口の近くに到着する。西の空色が変わっていくのが見える。
岩塚研究補佐が振り返って西空を見る。

岩塚研究補佐: あ。

中村氏: ──いよいよですか。

岩塚研究補佐: うん。終末のラッパが響き始めた。

[中村氏、西方向の空の観察を継続する]

塚研究補佐: ──すごいね。こんな状況でも、そんな表情ができるんやね。

中村氏: ただでさえあの黒い神様を倒してしまったのに、ここで逃げるようじゃ、あの神様に申し訳が立ちません。

岩塚研究補佐: ──そやね。

中村氏の手記11


タイムリミットまで残り15分。
中村氏は今の今までわからずじまいだったとあることを考えている。それはなぜ自分だけ消えなかったのかということ。財団職員の4人のように除外サイトにいたわけでもないのになぜ?

これを紐解くにはやはりあの日の行動を振り返るべきだろう。
まず中村氏は5限目の認知言語学の講義を受けた後、東山さんとの待ち合わせの為に吉田山に登って吉田神社の末社、大元宮(だいげんぐう)に来ていた。

そもそも3000-JP現象で人々が消えたのはその地区に対応する神様が消えたからだという理屈だった。だからUE-3000-JPを攻撃した時に人々の生体反応が戻っていったのだ。
それをもとに単純に考えるのであれば大元宮にいた神様は例外的に消えなかったと思える。

ではなぜ?
大元宮というのは妙な神社である。航空写真を見るとわかりやすいのだが、なぜか社殿が八角形で、社殿の周りには日本全国の神様の名前がずらずら書かれている。一体何の神様をまつっているんだかまるでわからない!どう参拝すればいいのかもわからない。そんな神社であった。
それが、3000-JP現象となにか関連していたのだろうか。今となっては分からない。それにタイムリミットまで残り15分というタイミングで今更考えることでもないだろう。中村氏は別のことを考え始める。

あのUE-3000-JP-2を止めるには、やはりUE-3000-JPレベルのエネルギーが必要なのだろうか。
これまでの考察が正しいとすれば、UE-3000-JPは日本全国全ての神様のEVEを溜め込んでそれでUE-3000-JP-2を迎えようとしていた。

逆に考えるならば、日本全国の神様の力があればUE-3000-JP-2を抑えられるかもしれないということ。例えば日本全国全ての神様がタイミングよくあいつに攻撃したりしたらもしかしたら……

そういえばAgt.亀島の作ったOZ、そしてOZ-2は人に信仰されている神様に使うと自由に使役することができるという効果を持っていた。UE-3000-JPは誰にも信仰されていなかったので弱体化するだけだったが、もしもこのOZ-2を日本全国の神様が集う場所に使えば、もしかしたら日本全国の神様がUE-3000-JP-2を倒しに行ってくれるかもしれない。

いやいやそんなこと、簡単にできるわけがない。そもそも日本全国の神様が集う場所なんて都合のいい場所あるわけがないのだ。

と、ここで中村氏はとあることを閃く。そのことをすぐに高畑博士へ伝えに行く。

映像ログ書きおこし15


中村氏は大急ぎでロビーに向かい、ドアを開ける。ロビーには高畑博士、八田研究員、Agt.亀島がいた。

中村氏: 高畑さん!

高畑博士: どうしたんですか?

中村氏: 吉田神社に、大元宮という社がありましたよね。あそこの祭神は何ですか?

高畑博士:  虚無太元尊神 (そらなきおおもとみことかみ)ですが──

中村氏: それって、日本全国の全ての神だと説明していませんでしたか?

それに高畑博士は答える。
かつては財団も、「大元宮には日本全国の全ての神様が眠っているんだぞ!」という情報を受けて大元宮に注目し、いろいろ調査をしたのだという。しかし調査の結果神学的な物品も痕跡も見当たらなかった。日本全国の神様どころか実際は全く神様がいなかったのだ。

結局財団は、大元宮が属する吉田神社の神主である「吉田 兼倶(かねとも) 」が吉田神社の権威付けのために用いたハッタリであると結論を付けて調査を終えた。

しかし中村氏は言う。当時大元宮の境内に居た自分だけは3000-JP現象によって消えなかった。つまり大元宮の周辺には神様がいたということ。
そこから考えられるのは3000-JP現象が起こっている間、日本全国の神は大元宮に避難していたということ。さながら日本全国の神々にとってのシェルターのように。
だから大元宮にいた中村氏だけ消えなかった。

だから、そこにOZを使えば。

高畑博士: それは──

中村氏: 亀島さん、"OZ"をいただきます!

[中村氏、"OZ-2"を獲得する]

Agt.亀島: 待て! もう外は危ない! もうここも奴の影響範囲に──

[中村氏、Agt.亀島を黙殺してロビーを退出する]

八田研究員: 中村さん!

中村氏はサイト-81K3を出発するが、Agt.亀島のいう通り既にここはUE-3000-JP-2の強い現実改変強いミーム汚染の影響範囲になっている。外には黒色の粉塵が舞っている。耐えきれず中村氏は足元に嘔吐する。激しくせき込む。

八田研究員: ──中村さん!

後ろから走ってきた八田研究員が中村氏に追いつく。

中村氏: 八田さん──

八田研究員: [激しく呼吸]── SRA (スクラントン現実錨)です。[呼吸]──こういう状況では必ず携帯しなければなりません。もうすでに──霊障的効果は伝わっているようですが──あと10分程度なら、SRAの現実性固定でカバーできるかと──

中村氏: ──ありがとうございます。

[中村氏、八田研究員からポータブルSRAを受け取り、装備する]

中村氏はそのまま東方向に駆ける。周囲には由来不明の赤色の光、そして重低音が聞こえる。重低音には軽度の信仰操作的なミーム汚染効果がみられる。

 

中村氏は吉田神社の鳥居前にたどり着く。
鳥居をくぐった後階段を駆け上がる。途中で転んでしまうが、ゆっくりと上体を起こして深呼吸した後また走り出す。
映像の動きから、中村氏が酩酊に似た精神影響を受けていることが示唆される。

階段の中腹に到着する。
立ち止まって後ろを振り向く。そこには一面に赤黒く染まった京都市街が見える。

 

中村氏は再び駆け出す。
吉田神社の奥、大元宮の境内に到着する。

息を整えた後、OZ-2のピンを抜く。

何かをつぶやき、OZ-2を大元宮本殿に向かって投げる。

視界が閃光に覆われる。



映像ログ書きおこし16


中村氏はゆっくりと上体を起こし、両手を用いて起き上がる。
立ち上がってあたりを見回すと、ボロボロの大元宮本殿元の色に戻った空が見える。

女性: 中村君!

[中村氏、声が発された方向に向き直る。一般女性が立っている]

中村氏: ──東山さん──

女性: 早めに来てみたら、どうしたのこれ? お社ボロボロじゃん! ここだけ地震でも起こったの? それとも、もしかして中村君が壊したとか?

中村氏: それは──

女性: それに、なんか砂だらけじゃない? 転んだ? 大丈夫?

中村氏: ──ああ、大丈夫。ありがとう。

女性: [笑って]いいね。あたし、こういう非日常的なことに憧れて、毎日いろんな場所を歩き回ってる節があるから。とりあえず社務所に知らせる必要あるよね。早速行こっか。今日は結構楽しみにしてたんだけど、いきなりこんなハプニングが起こるとは思わなかったよ。

中村氏: ──そうだね。でも──

女性: ん?

 

中村氏: ちょっと、最初に寄り道したいところがあるんだ。


中村氏は女性を連れてサイト-81K3に行った。
中村氏はサイト-81K3のメンバーによって保護され、女性は記憶処理とカバーストーリー適用の後に解放された。


以上が、SCP-3000-JP発生中の出来事を示した「文書3000-JP」の抜粋である。



補遺3000-JP.2


忘れているかもしれないが、あの文書3000-JP全体が「補遺3000-JP.1」である。ここからは2つ目の補遺を見て行く。


PoI-3000-JP、すなわちSCP-3000-JP発生中でも消えなかった5人へのインタビューなどなど調査から文書3000-JPに記録された内容は事実であると判断されている。
UE-3000-JP-2は「白色の閃光に包まれた後に消失した」と観察されるが、詳細は不明である。


PoI-3000-JP以外の、SCP-3000-JPを観察・体験した民間人・財団職員のほとんどが健忘症に類似した症状を見せており、かつSCP-3000-JP自体が実質的に10分しか発生していなかったということが民間への隠匿に利用された。

そうしてSCP-3000-JP発生から5年半経った2022年9月、民間への隠匿作業など収容作業が完了し、SCP-3000-JPはNeutralizedに再分類された。


そしてSCP-3000-JP中に神々たちが避難していたとされる吉田神社の大元宮はLoI-3000-JPに指定された。

高畑博士が言っていた通り、かつて財団や蒐集院がLoI-3000-JPを調査した時は何も成果が無く、そのときは、LoI-3000-JPの性質は吉田神社の神主である吉田兼俱によるハッタリであると思われていたのだが、文書3000-JPの影響を受けてLoI-3000-JPの網羅的な再調査が行われている。
LoI-3000-JPはカバーストーリーを適用されたうえで閉門時間を午後8時から午後4時に変更され、閉門時間中に財団による調査・研究が行われている。
ちなみに吉田兼俱はPoI-1435に指定されてこちらも調査されている。


SCP-3000-JP終了後、高畑博士と岩塚研究補佐はサイト-81K3で、八田研究員とAgt.亀島は京都市左京区の路上で発見された。
中村氏が大元宮に走る時に転んだ時のキズを除いてPoI-3000-JPは全員無傷。UE-3000-JP-2の効果からかPoI-3000-JPには軽度の精神影響とミーム汚染が発見されたが、現在は完治している。


以下は、全てが終わった後の中村氏と岩塚研究補佐の書きおこしである。

岩塚研究補佐: これは高畑博士がこっそり漏らさはった噂やけど、うちらは皆出世できるみたい。うちも念願の研究員の肩書が得られるんやって。

中村氏: 岩塚さんほどの人がまだ研究補佐だとは思いもよりませんでした。

岩塚研究補佐: うん。ずっともどかしかったんよ。でももしかしたら、一足飛びで上席研究員にまでいけるかも。それはちょっと高望みかな。

中村氏: よかったです。これからもその才能を遺憾なく発揮してください。

岩塚研究補佐: うん。──あ、言伝やけど。亀島さん、後悔して恥ずかしがってはったよ。あの時君を追っかけなかったことを謝っておいてくれって言わはった。今後はもうあんな醜態は晒さないって。

中村氏: ──本陣さんのこともありますし、無理もないと思います。でもその代わり、八田さんが追いかけてくれて助かりました。

岩塚研究補佐: うん。先輩が走るところ、本当に初めて見たよ。びっくりした、君が走り去ったらすぐに跡を追っかけていかはったんやから。いつもはうちに無理難題を押し付けるばかりやったけど、ああいう果断なところもあるんやなって、意外やった。

[中村氏、約3秒間俯いた後に岩塚研究補佐に向き合う]

中村氏: ──どうか、皆さんによろしくお伝えください。本当にお世話になりました。


岩塚研究補佐: ──彼女は──あの後、別段変わったことはないみたいね。

中村氏: 俺は入院してるっていう話になってるんですよね。

岩塚研究補佐: うん。君のことを結構心配してはるみたいよ。

中村氏: そうですか。[俯く]

ふと、岩塚研究補佐が問う。

岩塚研究補佐: ──気持ちは変わらない? 君の能力ならきっと──

中村氏: はい。ごめんなさい。

岩塚研究補佐: ──そっか。──うん。世界を守るために世を捨てるなんて、なかなか決心できることやないよね。彼女さん、大事にしてあげてね。

中村氏: まだお付き合いにオーケーが出たわけではないですけどね。

岩塚研究補佐: ふふ、話に聞いた分だと心配はいらんと思うよ。胸を張っていけばいいと思う。

ここで、岩塚研究補佐はとある薬品を中村氏に見せる。
この薬品の名は「Y-909」。これを使うと簡単に人の記憶を消すことができる、財団にとって救世主のような薬品。

中村氏は、これを体内へ摂取するだけでSCP-3000-JPのことも財団のことも、
高畑博士のことも八田研究員のこともAgt.亀島のことも岩塚研究補佐のことも幻想のように全て忘れて日常に戻ることができる。

中村氏は黙って首を縦に振る。

岩塚研究補佐: ──君に助けてもらって、こんなこと言える立場とちゃうかもやけど──後はもう何にも心配せんでいいよ。うちら財団が、中村君たちの平和な日常を人知れず守ってあげるから。君も、もう「俺なんか」なんて言って卑屈にならんでよね

中村氏: 岩塚さんこそ、また無理して睡眠を削ったりしないでくださいよ。自分の健康が一番大事なんですから。

岩塚研究補佐は俯く。約5秒間の静寂が流れる。

そして顔を上げて中村氏のことを見る。

岩塚研究補佐: うん。肝に銘じるよ。じゃあ──元気でね。

中村氏: 頼みますよ。では、お元気で。

この後、中村氏はクラスC記憶処理をされたうえで解放された。


関連作品


SCP-001-JP 御器所の提言 - 神州


──うじうじしてたら──また、彼に𠮟られてまう。


御器所の提言とは、SCP財団におけるSCP-001-JPの一つであり、オブジェクトクラスはSafe。岩塚研究補佐から見たSCP-3000-JPの後日談といえる。

SCP-001-JPは財団日本支部の前身団体である蒐集院が蒐集物第〇〇〇一番として収容していた神格存在
その神の名を「一言主神(ひとことぬしのかみ)」というのだが、この神格についての情報は1000年以上前に蒐集院が偽情報を混ぜまくったせいで正確なことはわかっていない。

それで、どうして蒐集院がこんな偽情報を混ぜまくったかというと、この一言主神を弱体化するためであったと言われている。神様は信仰によってその体を形作るわけだから、偽情報を混ぜまくられると性質や能力が変化してしまう。
蒐集院はこの偽情報まぜまぜをかなり徹底して行っていたらしく、そのおかげで現在の一言主神はほとんど本来の性質を失っている。

しかしそれは同時に現在のSCP財団にとって「本来の性質が偽情報のせいで分からない」「どうして蒐集院が徹底して一言主神を弱体化しようとしたのかわからない」「そもそもなぜ一言主神が〇〇〇一番になっているのかも分からない」と、非常に不安要素だらけ。

とりあえず財団は蒐集院に従ってこの一言主神を「SCP-001-JP」に分類し、過去の文献を分析してみたところ以下のことが判明した。

  • 一言主神は言霊信仰・託宣の神。
  • 他人への憑依模倣*6が可能。
  • 役小角が7世紀ごろの蒐集院と協力して一言主神の弱体化を図った。


ところで以上のSCP-001-JPの話とは一切関係が無いのだが、SCP-3000-JP事案から3年後の2020年にAO-3000-JP、すなわちあの黒いオイルが財団によって研究され始めた。研究班の一人には岩塚研究員もいた。
その結果、AO-3000-JPの近くで人間が「○○があるといいのになぁ」と発言すると、AO-3000-JPがそれに変化することが判明した。この範囲はリンゴ1個からプリウス1台、さらには財団サイト丸々1棟(財団職員とオブジェクト付き)にまで変化させることが出来る。
さらに同時期、AO-3000-JPが日本各地から湧き始めた。もしこれが利用できれば、実質的に全ての資源が無限に使えることになる。

そのころ、岩塚研究員のもとに、突然自身と瓜二つな見た目の人間が出現する。そして岩塚研究員に「AO-3000-JPの研究を進めたほうが良い」という要旨のことを言う。どういうことかと岩塚研究員が聞き返すも、ちゃんと答えずにその存在は消えてしまった。
岩塚研究員は異常存在の影響により両親を亡くしており、この国からアノマリーの犠牲者を無くす」という一言の願いを使命として財団職員として活動している。「彼」のこともあるだろうし、将来的に財団にとって大きな助けとなるかもしれないAO-3000-JPの研究を進めたい気持ちは大いにあるだろう。

しかし、財団と同じくAO-3000-JPを扱っている「トリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーション社(Ttt社)」(神様相手に商売をする要注意団体)から財団へ、不穏な連絡が届く。


これ以上はネタバレになる上に文章が長くなりすぎるので割愛する。SCP-3000-JPを読んだ方々はぜひ本家記事を読みに行っていただきたい。




追記・修正はPoI-3000-JPのその後を見守りながらお願いします。

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最終更新:2024年11月15日 15:59

*1 奇跡論を行使するときに用いられるエネルギー

*2 奇跡論的・神的な力がその地域にどれくらいかかっているかを表す数値

*3 日本古来の山岳信仰と仏教が結びついてできた日本独自の宗教。明治時代に神仏分離令でほぼ消滅。

*4 おそらく通常状態の現実性は1.0Hmである。非常に大きな値であると言える

*5 これはUE-3000-JP-2の自我がまだ確立しておらず、現実流という「流れ」に身を任せて移動しているからと考えられている。

*6 誰でもいいから誰かの人間と同じ見た目や声になる能力