SCP-1092-JP

登録日:2019/11/13 (水曜日) 14:12:00
更新日:2023/05/07 Sun 16:15:07
所要時間:約 12 分で読めます





あなたがいつか故郷へ帰ってこれる日を、いつまでも待っています


SCP-1092-JPはシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスEuclidからの Safe

概要

SCP-1092-JPは学名を「Oncorhynchus nerka kawamurae」と付けられたベニザケの亜種である。
魚としての性質は一般的な魚類と何も変わらない。
よって収容プロトコルも特筆するところはなく「サイト内の水槽で個体数を維持するように飼育と繁殖を続ける」である。
サケといってもこいつの生態は陸封型(卵や稚魚を海に出す必要がなく、同じ湖や水槽で一生を過ごす種)なので
陸封型ベニザケとしての飼育方法を続けるだけで収容が可能である。

異常性について

卵から孵ったSCP-1092-JPの全てが異常性を示すわけではない。
SCP-1092-JPの稚魚は生まれつき 遺伝子変異を起こす可能性 があり、しかも同時に複数の変異を起こすこともある。
遺伝子変異が何パターンかは元記事で黒塗りされているが、この記事では5パターンと仮定する。
SCP-1092-JPは生まれた時点で各個体ごとに遺伝子変異が0~5種起きる可能性があり、
遺伝子の異常なので自然治癒しないが後から変異が増えるということもない。

例えると「0~5と書かれた6面サイコロを振って出た目の分だけ遺伝子変異を持って生まれてくる」ようなものである。
その変異は1つでも発生すれば 普通の魚なら死ぬレベルの遺伝子疾患を起こすが 同時に5つ発生しない限りは平穏に生きられる。

財団の収容プロトコルでは、生まれた稚魚の遺伝子をチェックして遺伝子変異数によって魚たちを分類しており、
遺伝子変異が0の個体はSCP-1092-JP- (-) と分類し、遺伝子変異の数が1~4までの個体はそのままSCP-1092-JPとして収容を続ける。
そして変異が5つ、つまり確認された全パターンの遺伝子変異を持った個体をSCP-1092-JP- (+) としている。
ぶっちゃけ奇怪なのはSCP-1092-JP- (+) だけである。

他の個体はただの魚として生きるのだがSCP-1092-JP- (+) は成長につれてどんどん体が 尻側から変質していき 、麻(植物)で編まれた 棒のような姿 になって死ぬ。
SCP-1092-JP- (+) が変化した棒は火を付けると長時間よく燃えて、なぜか pH4.0以下の酸性 の液体に付けると 大爆発を起こす
繰り返すが普通に着火すると油を染みこませた木材と同様の燃え方をするだけだが、酸に触れると爆発するのである。
爆発の威力は元記事にも載っていないがおそらく一匹につきダイナマイト一本分くらいだろうか。

これがSCP-1092-JPの異常性のすべてである。
生まれた時点で死ぬレベルの遺伝子変異が0~5まで発生するサイコロを振られ、
その結果が0から4までならなんとか魚として天寿を迎えられるが、運悪く5だった場合は酸に触れると爆発する棒になる だけ
しかも遺伝子のチェックをすれば識別できる上に、もし根絶したくなれば水槽に毒でも入れればOK。
仮に収容違反を起こしても爆発事故がごく稀に起きる程度の危険で済む。
オブジェクトクラス: Safe も納得と言えよう。

収容までの経緯

SCP-1092-JPは秋田県の田沢湖に生息して いた 固有種の魚で「キノシリマス」や「クニマス」と呼ばれていたが
1800年代に蒐集院により異常性を確認されて収容されている。
蒐集院については要注意団体に詳しい解説があるがざっくり説明すると、
かつての日本で異常存在の収容を行っていた組織で、財団がしているのと同じことをやっていた 別の機関 である。

メタ的に解説すると「 財団は日本での歴史が浅く 、強い影響力を持ったり日本支部ができるのは 戦後から 」というヘッドカノンを持つ人が多いため、
戦中戦前の日本で異常存在との攻防を描きたくてもそのまま財団にやらせるとややこしくなる。
そういう記事やTaleを作りたい人にとって必要となるのが蒐集院などの存在である。
同様に世界オカルト連合(GOC)も設定上は 国連発足と同時に 生まれた組織なので
1945年以前に「異常存在滅ぶべし」という思想の組織を出したいならばGOCをそのまま出さずにちょっとひねる必要がある。
それを踏まえていただけると当項目のこの先の文章がわかりやすくなる。

当初の蒐集院は変化したSCP-1092-JP- (+) のみを異常存在と考えており、
田沢湖に浮かぶそれらを回収しながらも魚が変化する原因を調べるため正常なキノシリマス達の飼育と観察を続けていた。
そして研究と同時に民衆向けのカバーストーリーとして「 辰子伝説 」という伝承を広めたのだった。

むかしむかし辰子という若く美しく名家の生まれの娘がいました。
辰子は己の美しさが加齢で衰えるのを恐れて観音様に永遠の若さを願いました。
すると辰子は「山中にある泉の水を飲めば願いが叶う」とお告げを受けてその通りにしました。
なんと辰子の体はたちまち 龍になってしまいました
辰子の両親は夜になっても戻らない娘を探して山へ入るとそこには変わり果てた辰子がいました。
辰子は龍の力で雨を呼び、後に田沢湖と呼ばれる湖の主になったのです。
もう人ではなくなった辰子は両親に今まで育ててくれた感謝と別れを言いました。
両親は悲しみと衝撃のあまり持っていた松明を湖に投げ込み、 焼けた木や炭(木の尻) *1が湖面に撒かれました。
辰子はその 木の尻を魚に変えて それを食べて長生きしてねと両親に告げると
湖の奥底に潜って二度と人の前に姿を現すことはありませんでした。
そして似たような経緯で龍になった「八郎太郎」という雄の龍も田沢湖に訪れました。
辰子と八郎太郎は夫婦となり深い田沢湖の下で幸せに暮らしましたとさ。
というのが「我々の世界の」田沢湖に伝わる辰子伝説の概要なのだが*2
どうやら財団世界にも辰子伝説はある上に、蒐集院がキノシリマスの異常性をごまかすために作った話らしい。
尻の方から棒に変わっていく魚 を見つけても「辰子がつかわした木の尻鱒が先祖返りしている」と人々に思わせたのだった。

だが蒐集院とキノシリマスとの関係、そして田沢湖に転機が訪れる。
1940年、国策として電力需要が高まり、玉川を流れる水を水力発電に使うため田沢湖に流すという計画が始まった。
玉川の源泉からは pH1.1 という*3 強酸 がボコボコ沸いており下流になっても生き物が住めない 玉川毒水 と呼ばれた川である。
そんな毒水を流し込まれようものなら田沢湖のキノシリマスは どうなるか言うまでもない
蒐集院はキノシリマスの性質を解き明かす前に滅ぼさせるわけにはいかなかったので計画の反対工作を試みたのだが…。
以下引用↓
 昭和十五年一月八日
計画に反抗する住民の鎮圧には、 帝国異常事例調査局 の特殊部隊と 五行結社 の私兵とが加担していた。
つい去年までは 田沢湖の龍 を巡って争っていたはずなのに、今は敵同士とはとても思えない連携で反対派の住民を排除しにかかって居る。
我々は反対派に加勢したものの、軍備に勝る相手側の活動を止めることはできず、押し切られる形で反対派団体の解散を許してしまった。
田沢湖に毒水が流し込まれるのを止めることは終に叶わず、 木の尻鱒が全滅してしまうのは最早避けられない
あれは百年以上前から代々受け継がれ、湖から失われてはならないものだったのだが。
我々の施設に匿われている生き残りたちを後代に託すしか道は残されていないだろう。
                              大口上級研儀官


帝国異常事例調査局(以下、英略のIJAMEAとする)については独立項目があるがざっくりとスタンスだけ説明すると

蒐集院→世のために異常存在を 収容したい 組織
五行結社→世のために異常存在を 破壊したい 組織
IJAMEA→異常存在を 利用して 国家の戦力を高めたい組織

みごとに目的がバラバラ じゃねえか。当然だがこの三者は普段はお互いに争っている。
ところが今回の件ではIJAMEAと五行結社が組んでいるらしく2対1で後手に回ってしまい
蒐集院は田沢湖に住むキノシリマスの野生個体の根絶を防ぐことはできなかった。
戦後に財団が進出してくると、蒐集院は財団日本支部に主な構成員と手がけた業務を吸収されたが
一部の人員が財団と袂を分かって
現在にいたるまで敵対する 要注意団体となるのである。

財団の日本支部は蒐集院からキノシリマスの収容と研究を引き継いでSCP-1092-JPのナンバーで Euclid に指定した。
財団もなぜ一部の魚だけが 爆発物 になるのか不明だったが1980年代に遺伝子解析技術を導入し、前述の遺伝子分類を発見してからは
収容プロトコルを現在のものに変えつつオブジェクトクラスも Euclid から Safe に変更した。
それと同時に「遺伝子変異が一つでもあるクニマスが交配すると生まれた子も遺伝子変異を起こす可能性があり、SCP-1092-JP- (+) も生まれうるが
変異のないSCP-1092-JP- (-) 同士から生まれた魚たちからは 常にSCP-1092-JP-(-)だけが生まれる 」ことも判明した。

SCP-1092-JP- (-) は、異常性を保有していない「 正常なクニマス 」に過ぎません。
その上、彼らは50年前までは数少ないながらも一般社会で確かに見られていた存在です。
正常である以上は、もはや 我々で管理する必要性に乏しい のではないでしょうか。
闇の中に暮らす我々には、正常な存在を光の下に帰す責務があるはずです。
という金釣博士の提言を引用したが
「田沢湖のクニマスは全滅する前に山梨県の本栖湖と西湖に卵を放流していた」というカバーストーリーの流布と記録の改ざんを行い、
収容プロトコル内の遺伝子検査においてSCP-1092-JP- (-) と判別した魚は放流することとなった。
こうして一般社会においては2010年にクニマスは 再発見 されたのである。

200年以上の時間をかけてキノシリマスの異常性を解明し、しっかりとオブジェクトの収容を続けながらも
SCP-1092-JP全体ではないとはいえ「クニマス」という種の一部を 人類と自然の元に返した 蒐集院と財団の努力に敬意を表すべきであろう。
田沢湖の酸性水による汚染も 現在は浄化が進みつつある 。いつかクニマスが辰子の元へ帰ってくる日も遠くはないのだ。




SCP-1092-JP - 《CODE:O》クニマス物語


余談

辰子伝説によればキノシリマスは湖に投げ込まれた松明の焦げた「木の尻」を辰子が変化させた魚なのでその名が付いたらしいが
この魚はなかなか 味がおいしい らしく昔は殿様へ献上された高級魚だった。
しかし殿様に献げるのに「尻」とはいかがなものかとクニマスという名に変更されたという伝承がある。
財団は真面目だから収容中のSCP-1092-JPが増えて余ったとしても、食べたりせずちゃんと捨てているだろう。きっと。



追記・修正は絶滅種を蘇らせてからお願いします。

































LTE-5230-Fiji-Aurora Glory

登録日:2019/11/13 (水曜日) 14:12:00
更新日:2023/05/07 Sun 16:15:07
所要時間:約 8 分で読めます




LTE-5230-Fiji-Aurora Gloryはシェアード・ワールドSCP Foundationに登場する要注意団体の、
世界オカルト連合が保有する文書およびそれに登場する異常存在であり、
過去に 異常存在を粛清した記録 である。

脅威IDは…えっなんだって? クニマスのSCiPの項目に他の記事を混ぜるなって
まあ待ってくれ。申し訳ないがちょっとこのまま記事を読んでくれ。

世界オカルト連合

あらためて解説するが世界オカルト連合(The Global Occult Coalition. 以下、GOC)とは超科学、超常現象や あらゆる異常存在から人類を守り戦う国連機関 である。
第二次大戦とその裏で繰り広げられた第七次オカルト大戦の終結後に 各国のオカルト組織108団体 の連合体として 1945年 に結成された。
オカルトの名の通り魔術や霊術に長けており、それに加えて科学や軍事技術も最先端のものを導入して
科学と魔術を複合して異常存在に立ち向かう軍隊 」とイメージしてもらうとわかりやすい。
GOCが拠り所とするオカルトと、彼らが破壊する異常存在は別物なのだ。

財団が異常存在を 終身刑とする看守 ならば GOCは死刑執行人 である。
もっとも処刑人に加えて裁判官と検察も兼ねており、常に 判決は同じものしか出さない のだが。

五行結社

続いて解説するが、この文書記録は GOCの記録 なのだが実際に この粛清を行ったのはGOCではない
どういうことかというと、平安時代の日本の陰陽寮を起源とする 五行結社 という組織がある。
この五行結社は独自の霊的技術と武力を研鑽し、それを使って日本の 異常存在を抹殺し続けている
そして終戦後に国連と共にGOCが結成された際に、GOCを構成する各国から集った108評議会の一つに日本では 五行結社が加わった
その五行結社がかつて行った粛清の記録をGOC極東部門のフォーマットに直したのがLTE-5230-Fiji-Aurora Gloryである。
要は「俺たちGOCの前身組織が過去にやった記録だけど、資料価値があるから我々のデータベースに入れておこう」ということ。

概要

脅威ID: ''LTE-5230-Fiji-Aurora Glory'' "田沢龍"
認可レスポンスレベル: N/A (破壊確認済)

この LTE-5230-Fiji-Aurora GloryというコードはGOCで使われている分類暗号であり、意味は次の通り。
LTE :Liquidated Threat Entity( 粛清済 脅威存在)
5230 :記録番号
Fiji :未確認 土着 生物
Aurora 日本国
Glory 大日本帝国異常事例調査局 の関連

LTE-5230-Fiji-Aurora Gloryはミズチと呼ばれる二頭の龍(エリファス霊素生命体)である。
理想の営巣地たる水域を探して飛翔するが、気に入った湖に適応すると 飛翔能力を失い 終生そこで暮らす生態がある。
雌雄一頭ずつの、おそらくつがいの龍であり雌が全長60m以上、雄も35mを超えておりこの種としては規格外に大きい。
おそらく日本一深い田沢湖の環境がここまでの成長につながったのだろう。

粛清までの一連の流れ

前述の分類コードでわかる通りこの案件は大日本帝国異常事例調査局が絡んでいた。
(Imperial Japanese Anomalous Matters Examination Agencyだが長いので略したIJAMEAで以降は表記する。)

このIJAMEAという機関、 粛清すべき 異常存在を飼いならして 軍で活用 しようなどという けしからん ことを考える連中で、我らが五行結社とは頻繁に衝突していた。
もっとも化け物をわざわざ大事に仕舞いこむ蒐集院なるわけのわからん連中もおり、こちらもこちらで頭を悩ませていたのだが…。
ともあれ 1938年 に五行結社がIJAMEAの施設を襲撃した際にある資料を入手したので以下に引用する。
秋田の地、 田沢湖 の底に眠る 巨大な2頭の 龍を発見した。
この龍たちが、彼の地に伝わる伝説において語られる「 辰子姫 」と「 八郎太郎 」、まさにその二人であることは想像に難くない。

この大きさからして、我等が妖怪大隊における兵站輸送任務に就かせるには又とない逸材であることは間違いない。
彼等の巨体が大隊の中において悠然と空を舞う姿は、それを見た敵兵を大いに動揺させ、我が軍の士気向上をも同時に齎すことだろう。
                                        西 少尉
これにより五行結社は後にLTE-5230-Fiji-Aurora Gloryと呼ばれる龍が田沢湖に二頭いることを知り、ただちに粛清計画を立てることにした。
そこに化け物がいる。 粛清する理由はそれだけで充分 である。

1939年、五行結社は水上部隊「土軍」の第3部隊"旱魃"と第4部隊"蛞蝓"を編成し、田沢湖へ派兵した。
水上部隊なのに土軍なのはおそらく五行思想の「土克水」からだろう。
現地には既にIJAMEAの小隊がいたので先にそちらの排除にとりかかった。
化け物の粛清を邪魔するものがいる。 粉砕する理由はそれだけで充分 である。
いくらかの犠牲を出したもののIJAMEAを蹴散らすことに成功。いよいよ本命だ。
第4部隊が割水術を使って田沢湖の湖底370m地点へ潜行する。さらっと書いてるがすごい術だな。
湖底で目標であるLTE-5230-Fiji-Aurora Gloryの二頭が睡眠しているのを確認し、各種の記録を取った後に
330mm捕蛟錨を全8発、それぞれの龍の 頭部と頸部へ叩き込み 、伝説に謳われた夫婦龍は物言わぬ屍となった。
ほぼ予定通りに粛清を達成しあとは根拠地へ戻るだけだったが、そこで 予想もしない事態が起こる

第4部隊の面々が水面へ浮上しようとするときに突如 田沢湖全域を巻き込む渦潮が発生 、第4部隊員やIJAMEAの敗残兵たち約50名は 湖の藻屑に消えていった
生還できたのは渦潮発生時に水面近くにいた先頭の 3名だけ だった。

粛清の証拠となる龍の死体も消失したが、どうにか発射済の捕蛟錨の砲門一基と龍の左角を一本を持って帰ることができたので
それらをもってLTE-5230-Fiji-Aurora Gloryの粛清の証拠とし、(当初の)任務は完了とした。


そして生存者によれば 田沢湖の湖底に巨大な舌と口のようなものを確認した という。



一連の戦闘で田沢湖に大規模な水質汚濁が発生したのだが、
IJAMEAがそれを隠蔽するために国策である「玉川河水統制計画」を 前倒して 実行するように働きかける。
五行結社としても反対する理由がない上に、田沢龍に次いで粛清候補としていたLTE-9201-Fiji "木尻鱒"も労せずして粛清できることから
両者は協力を結び、反対派を潰してまわったことで計画は無事発動され 1940年1月 に田沢湖に玉川の水が投入された。
その際に 複数の爆発音、地鳴り、湖面の振動 が確認された。なぜだろう?
その事象もしばらくして収まったたため書類の改竄で処理した。

さて、IJAMEAの立場になって考えてもらいたいのだが
田沢湖の湖面の汚濁をごまかしたいだけなら軍の演習で爆発を起こしました、とでも言っておけば済むものを
当時の大プロジェクトである水力発電工事を早めるという金も手間もかかることをしたのはなぜだろうか?
ましてや普段から対立している五行結社と即座に連携してまで、である。
五行結社側としてもLTE-9201-Fijiも粛清できるとはいえ、つい先日殺し合いをしたIJAMEAとなぜすんなり手を結んだのか?


まるで 一刻も早く田沢湖を毒水で満たしたかった かのようである。


五行結社の記録は以上だが、これを読んだGOC極東部門のスタッフも馬鹿ではない。
田沢湖の湖底にいたという謎の存在を「UTE-████-Lovelock*4 "CODE:O"」というコードを付けると共に
1957年 にGOC極東部門のPHYSICS評価班が田沢湖の湖底を調査した。
だが湖底は厚い砂礫に覆われており(たぶん前述の謎の爆発のためと思われる)過去の戦闘の残滓もUTE-████-Lovelockの痕跡も発見できなかった。

現在のところGOC極東部門はUTE-████-Lovelock"CODE:O"は無力化または非活性化しているものとみなし対処を保留している。


































SCP-1092-JP-1

登録日:2019/11/13 (水曜日) 14:12:00
更新日:2023/05/07 Sun 16:15:07
所要時間:約 6 分で読めます




SCP-1092-JP-1はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトのSCP-1092-JPの収容中に発見された新たな調査対象である。
オブジェクトクラスはSCP-1092-JPを踏襲するなら Safe なのかもしれないが
こいつは Safe とはとても思えない上に、まだ調査中なので結論が出た時点でナンバーやクラスを再割り当てすると思われる。

概要

SCP-1092-JPについての収容までの一連の流れについては前述した通りで特に変わったことはない。
変わったのは それ以外の状況 である。
2010年にクニマスが「再発見」されたことまでは述べたが、
その後の 2015年 に財団は蒐集院の残党と小競り合いを起こし、その際に彼らの資料を奪取した。
その資料の内容を信じるならば蒐集院はSCP-1092-JPや田沢湖について もっと深いところまで知っていた らしい。
その情報を財団に「何か思惑があって故意に伝えなかった」のか「何かトラブルがあって伝わらなかった」のかは今となってはわからない。
とにかく財団はSCP-1092-JP関連についての活動を修正する理由ができたのだった。

新たに判明した事実

以下に引用する。
出羽富士の 大噴火 と象潟の 大地震 を起こした 大鯰 の動向をようやく把握した。
奴は地中を縦横無尽に動き回り、今は 田沢の湖の底 に現れているようだ。

生類塾 から押収した「木ノ尻鱒」("第一〇九二番")の大まかな性質を把握した。
これは死して薪となった後、巨きな生物の 胃の腑に入った時 に強大な威力を持つ 爆薬 となって自らを食ったものに打撃を与える。
深い水底にいる 鯰の退治 には打ってつけの品ではないか。

異常な生物を鎮めるのに他の異常な生物を用いるのはあまり褒められたやり方ではないが、今は判断している時間がない。
大鯰が 出羽の大地を破り尽くしてしまう 前に、手を打たねばなるまい。
                         武見上級研儀官
出羽富士の噴火とは現在の鳥海山が1801年に噴火した事例、象潟地震はその3年後に秋田・山形を襲った巨大地震と津波のことである。
生類塾とは当時の日本で異常な生物の研究を行っていた私塾で、後の日本生類創研のルーツの可能性もあるらしい。
お前ら昔からそんなことしてたのか
生類塾がSCP-1092-JPを生み出したのか、元から存在した異常生物を改造や研究していただけかは不明だが、
酸でのみ爆発する薪に変身する魚というのは 都合が良すぎる

ともあれ蒐集院は1800年代に火山や地震をもたらした大鯰を追跡しており
それを抑える手段としてSCP-1092-JPを「活用」していたらしい。
蒐集院が彼らの本分たる異常存在(大鯰)の収容を諦めて他の異常存在(木尻鱒)を使って沈静化を図ったのも無理はない。
彼らは知るまいが 異常存在の破壊に長けたプロも直接の粛清を諦めている のだから。

財団日本支部は田沢湖に関する調査データを洗い直したところ、 2010年 から湖底の砂利が 徐々に減っている 事実に気づいた。
そして 2016年 に湖底の砂利を掘削してその深部を探索した。
その調査で発見された物証は以下の通り。

  • 約50名分の人骨。身元不明だが推定死亡時期は1939年前後
  • 魚類の骨いっぱい。たぶんSCP-1092-JPも入ってる
  • 全長60m程度の雌とと全長35m程度の雄と思われる2頭のミズチの骨の一部。オスの左側第3頭角は砕かれていた
  • ミズチの頭部に刺さっていた腐食の激しい銛8本
  • 銛を撃ち出せるバズーカのような砲身7台。全て発射済で「五行結社 土軍」の刻印つき
  • 植物片(炭化済み)
  • IJAMEAの刻印が入ってたボートの残骸と思われる木片
  • 爆発痕がいくつもある岩石や土砂
  • 当時の田沢湖の酸性水を上回る酸で腐食した金属片
  • 田沢湖から約70km離れた鳥海山の火口にあるものと同成分の火成岩*5

そして水底の一番下の部分に固定された、岩石で構成された全長50m、幅15mほどの 人間の舌状の形をした構造体
財団はこの構造体をSCP-1092-JP-1と分類して調査を継続しているが
SCP-1092-JP-1の内部を超音波調査すると、内部を何らかの 液体が循環している 上に定期的に 脈打つように振動 しているそうな。
さらに判明したのはSCP-1092-JP-1周辺の砂利が、徐々にSCP-1092-JP-1に 吸い込まれどこかに消失している ことだった。

十中八九このSCP-1092-JP-1こそがかつて蒐集院に出羽(秋田と山形)の破滅を懸念させ、
(おそらく財団は知らないだろうが)IJAMEAと五行結社も自分たちの信念を曲げて玉川毒水で沈静化させるしかできなかった「 大鯰 」だろう。

財団はこれらを踏まえて今後の対処を検討中であるが、蛇沢博士が意見を残しているので下で引用する。
それによれば田沢湖の水質浄化が進むのに合わせて湖底の砂利の減少、つまりSCP-1092-JP-1の 活性化が進行 している。
かつてはSCP-1092-JPによって、あるいは玉川毒水によって抑制していたが今はどちらも望めず
かといってせっかく収容できているSCP-1092-JP- (+) を再び田沢湖に放つわけにもいかない。
そして新たなSCP-1092-JP-1の抑制手段も見つかっていない。

もし財団の次の一手が間に合う前に民間によって田沢湖の水質が回復し、SCP-1092-JP-1が完全に覚醒すれば
地震によって 秋田県全域が壊滅 するKクラスシナリオにつながる。

水質浄化運動を低速化する方向へと導くよう、財団が干渉する必要性があるという意見を表明する。
少なくとも 当面は、クニマスには「野生絶滅」のままでいてもらわなければならない
                             蛇沢博士

アニオタ支部のみなさんからすれば「秋田県民には悪いけど 秋田県が壊滅する程度 の地震でKクラスって言えるの?」
と思うかもしれないが正式な報告書ではないメモ書きとはいえ蛇沢博士がそう書いているので仕方がない。
秋田県の壊滅はKクラスシナリオなのだ。

秋田県の明日はどっちだ。

そして人の都合で振り回されて故郷に帰れない クニマスの明日はどっちだ。

+ 余談あるいは考察
このregionの内容は推測であり、本当のところは元記事の筆者に聞かないとわかりません。

1:
辰子伝説は各地方や時期によって諸説あり、そもそも龍になった娘の名前すら辰子(タツコ)、田子(タッコ)、鶴子(ツルコ)、 金釣子 (カナヅコ)などとまちまちである。
この記事においてSCP-1092-JP- (-) を田沢湖に返そうと提言した金釣博士の名前の元ネタはおそらくその金釣子から。
蛇沢博士の由来はわからないが「田沢湖を玉川毒水から浄化されるのを止めようとしてる」人なので玉川の源泉「大噴」の近くにある「八幡平の蛇沢沼」かもしれない。

2:
詳しくは「三湖伝説」で検索してもらいたいが、秋田県には辰子伝説以外にも龍と湖の伝承があり、ざっくり言うと
八郎太郎という男がやらかしちゃって龍になり、現代の十和田湖に住もうとするが
同じく十和田湖に住みたい南祖坊という修験者と戦うことになった。
両者は 火山噴火や地震を伴う 激しい戦いの末に八郎太郎が敗れて十和田湖を追われた。
八郎太郎は後に「八郎湖」と呼ばれる湖に移ったがここは水深が浅くて落ち着けない。
田沢湖に辰子という雌の龍が住むと聞いた八郎太郎はさっそく旅立って辰子を口説いてその気にさせる。
なぜかそこに南祖坊が現れて辰子をNTRにかかるが、辰子は八郎太郎が好きなのでキノシリマスに加護をかけて八郎太郎に与えた。
再び八郎太郎と南祖坊が戦うが、八郎太郎はキノシリマスを南祖坊に投げつけると 発火して 大やけどを負わせた。やっぱりお前は武器扱いか
こうして八郎太郎は雪辱を果たし辰子姫と田沢湖で末永く暮らしたとさ。
もしかしたらこの記事の大鯰=南祖坊で、八郎太郎と辰子姫がキノシリマスを使って押さえ込んでいたのだろうか。



余談

元記事の執筆者であるO-92 Mallet氏は、このほかにもメタタイトルに「CODE」を含む記事をいくつか製作されている。

これらは、太古に存在した岩石の姿をした神格存在が散らばったかけらとされており、財団によってはこれらCODE指定オブジェクトを「『剖検』プロジェクト」というプロジェクトのもと捜査している。

これらCODEオブジェクト達は太古の昔は一つの身体だったことから、現在も不明な手段で繋がっているものもあるらしく、
例としてこのSCP-1092-JP-1(「剖検」プロジェクトでは「CODE: Orexia」に指定されている)は、「CODE: Zygote」に指定されるUE-0925、もしくはUE-3000-JP-2「アハシマ」へエネルギー供給を行っている。


追記・修正は田沢湖の浄化を進めつつお願いします。


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最終更新:2023年05月07日 16:15

*1 ここでいう尻とはそのままの意味ではなく「下等、無価値なもの」を表す表現で、「木の尻」とは「木材の切れっぱし、松明や薪の燃え残り」を意味した。

*2 地方民話だけに地域によって内容がまちまちで、「辰子は己の美貌に慢心していた上に不老不死という大それた願掛けをしたので罰として龍にさせられた」「観音様は辰子の願いを汲んだけれど、不老という部分を叶えるためには人の肉体では無理なので龍にした」両親が湖に松明を投げたのも「離別の悲しみ」「罰当たりなことをした辰子への怒り」など諸説ある。

*3 包丁などの日用品の金属製品を入れたら短時間でボロボロになり人の皮膚に付いたらただでは済まないレベル。

*4 Unknown Threat Entity(未知脅威存在)、Lovelock:生態学的脅威を指すコード

*5 火成岩とは要するに「マグマが冷えて固まった岩」のこと。