オブジェクトクラスはundefined、未定義。
現象タイプのオブジェクトであり、簡潔に言えばアノマリーの消失と、それに伴う財団の技術の喪失である。
スワン博士はこれを収容に伴う因果の逆転、つまり収容先のアノマリーが消えてしまえば、そいつを収容するために必要な技術も一緒に消えてしまうと推定している。
財団の観測部門は並行世界の観測を行い、K-クラスシナリオによる滅亡の事例を参照したが、その結果は「K-クラスによる滅亡を誘引するのは全て“財団が収容または発見しているアノマリー”である」というものだった。
つまり、財団が認知していないアノマリーによってK-クラスが起きることはないというのである。
スワン博士はこの結果を受けて、「財団によるアノマリーの発見と収容は同時に起きているのでは?」と仮説を立てた。つまり、アノマリーを財団が発見し、しかる後収容しているのではなく、収容されたという現実が先にあって、整合性を取るために過去改変が起きているというものである。
要するに、財団の持つ技術のほとんどはそれらによって収容されるアノマリーの存在に紐づけられており、別世界の財団に技術供与を行っても「収容先」がない場合まともに機能しない。
さらにそれとは別に問題があり、収容能力の低い「弱い財団」は危機管理能力にも欠けており、結果アノマリーの私的流用や暴走による滅亡を誘発するケースが多い。
逆に「強い財団」はアノマリー関連の技術を用いて一般社会にまで管理の手を伸ばしており、結果社会の反発からアノマリーの流出・暴走を招いてやっぱり滅亡するケースが多い。
加えてそういう財団の場合は収容能力が高いが、SCP-001-JPの原理によりオブジェクトの数が爆発的に増えるため、収容限界を突破して暴走して滅亡するケースもある。
空想科学部門の研究結果も合わせ、スワン博士は自分たちの財団が「強い」方にも「弱い」方にもならないため、現状維持のためのプロトコルを提起した。
このプロトコルは大きく分けて三つの行動に分かれる。
1つ目は観測。
アノマリーに対して個別にSCPナンバーを割り当て、同時にそのナンバーを近場の並行世界の財団が収容している同じアノマリーのものと一致させることで、並行世界を巻き込んだアノマリーのリストを作成。例えば「目を離したら首を追って殺しに来る彫像」を収容したら、近くの並行世界に同じアノマリーがないか探し、あればそいつに振られたナンバーをこっちの彫像にも振るのである。
同時にこれらに対して、「この」財団世界におけるアノマリーの収容割合を算出し、リストと照合することで、今の財団がどっちかに傾いていないかを判断する。
2つ目は保護。
こっちは空想科学部門が主導を取る。ロジェ博士の監督のもと、アノマリー同士を関連付けて消滅を回避する「プロジェクト・クロスリンキング」を実行する。
基本的には消えても問題ないアノマリーに対して実験的に行われるが、効果があった時のために682などの危険なオブジェクトに対してもこれは実行される。SCP-001-JPの原理が本当なら、それらに対して使われている技術の消失は財団を「弱く」してしまうからだ。
3つ目は排除。
これはO5-13の指揮のもと、「この」財団世界の収容オブジェクト数が許容値を超えつつある場合に実行される。
実際に何をするのかはO5-13のチームのみが知らされる。
で、具体的な方法はというと、世界オカルト連合に破壊させることである。
記事の最後にある折り畳みで、O5-13の正体がGOCへ送り込まれたスパイであり、現在はGOCの管理者として財団を攻撃していることが語られる。
なぜO5-13は財団を離反したのか、それはSCP-001-JPのそもそもの原因「どうしてアノマリーが消滅するのか」という疑問に理由があった。
つまり、アノマリーを消し去っているのはGOCである、という話だ。
GOCは多く、アノマリーを破壊することで厄介ごとの種を撒いているように思われがちだが、彼らによって危機が回避された事例は多い。それが表ざたにならないのは、財団の受ける技術的ダメージが大きく、それを認識できないからである。
並行世界の観測によれば、GOCとの宥和に成功した事例はあったものの、それが成功した途端にアノマリーが爆発的に増殖、結果世界が滅んでしまっている。
このことから、スワン博士とO5-13は、増えすぎたアノマリーをGOCが破壊することでバランスが保たれていると考えた。
アノマリーを財団は収容し、GOCは破壊する。そうすることでアノマリーの数を多すぎず、少なすぎず、均衡を保っていると。
しかし、アノマリーの中には有害でしかないものが多い。
ならば、正常な世界のためにもっとも望ましいのは、アノマリーが消え去ることだ。
プロトコルはそのために策定された物であり、観測手順によって財団の影響力を制限し、保護手順によってアノマリー同士を残らず関連付けて一塊にまとめ、排除手順によってアノマリーを連鎖的に消し去る。
そしてそれが成った時、財団もGOCも存在意義を失い消え去る。全てはその結末のために存在する。
財団もGOCも、その活動目的は正常な世界を維持することにある。
例えそのために自らが消え去ろうとも。
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空想科学部門の職員へ |
実はこの報告書にはギミックが仕込まれている。かの SCP-2996と同じ、Wikiのリビジョン機能を使用した隠し報告書の存在だ。
これについてはヒントがあり、ディスカッション内でそれが提示されている。
答えを明かせば、ページ最下部の「History」から一番最初のリビジョンを閲覧すればいい。
ここで明かされるのは、スワン博士の提言に関する問答である。
財団世界が創作の世界であるという理論は確かにあり、空想科学部門はそれについて研究する部門である。だが、実際にその可能性に思い至った職員は往々にして精神を病んでしまっている。
スワン博士自身も、SCP-001-JPの原理から、「オブジェクトがあり、それが収容されているという現実が先にあって、経緯や手順が後から追加されている=上位世界の創作者がオブジェクトを創作し、それを収容する手順を後付けで考えているからこんなことになったのでは?」と考えてしまい発狂してしまった。
ただ、それは本当にそこまで恐れるものなのか?
上位創作者の気まぐれで消されることと、世界滅亡の危機に囲まれる現状にどれほど差があるのか?
そういうふうに考えた天邪鬼どもが作り上げたのが「超越的概念対抗部門」である。
「創作者」は被造世界の人間が、自分たちが創作の世界の存在だと自覚することを好まない傾向にある。
財団世界では「気づいた」人間は発狂させられ、時に現実遡及で消される。で、この部門の職員が一番困るのは研究成果が一緒に消されることだった。
そこで、この部門のある博士は一計を案じた。
特殊な物語層に職員や研究成果を挟み込む「オペレーション・オーバーメタ」を利用し、この提言の報告書の一番最初に裏の事情を記した「第一版」を作り、その上から正規の報告書を上書きすることで上位物語層の干渉による消去を回避した。
こうすればWikidotの性質上、この提言「存在意義」のページが残る限りこの文書は第一版として残り続け、例え筆者であろうとも消去できなくなるからだ。
そしてこの「第一版」そのものと化した博士は、スワン博士の提言にあった「ホラー作家の一団のような悪趣味な奴ら」が、実際には「悪意に満ちたアイデアの奴隷」である可能性を示唆している。
だが、アイデアはよりよいアイデアによって打ち崩せる。これはそのための「伏線」となる。
さて、最後にわざわざ”私”を読んでくれてありがとう、私の同士たる財団職員。あるいは…どうせこれも読んでるんだろう?物好きな私達の敵、”悪意に塗れたアイデア”に囚われた奴隷達。
君達を含めた我々全てに幸運があらんことを。
超越的概念対抗部門 █████博士SCP-001-JP rev.0
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