登録日:2021/02/27 Sat 22:02:31
更新日:2021/04/11 Sun 16:08:52
所要時間:約 15 分で読めます
概要
財団、
世界オカルト連合のような正常性維持機関や世界各国の政府が守ってきた「ヴェール」政策が崩壊した世界を描いた作品群。
カノン名の通り1998年を重大な分岐点としており、ジャンルで言えば歴史改変SFにあたる。
ヴェールについて大雑把にまとめると「平穏で正常な人類社会を維持するために異常存在を世間から隠し通す方針」のことである。
政府は正常性維持機関の権限を認め、財団やGOCは確保、収容、保護、記憶処理、破壊、粛清を行うことでその目的を果たしていた。
しかし1998年の事件で生じた被害は彼らの隠蔽能力を超えており、ヴェールは失われることとなった。
読者の中には「それって『壊された虚構』と同じじゃね?」と思う方もいるかもしれない。
事実、このカノンは発足当初『壊された虚構』の下位シリーズとして扱われており、後に分離・独立している。
その独自性の鍵こそ、世界各地で起こる超常的な出来事と、「"それでも前に進んでいく"人類」「未来への希望」というテーマである。
アートワークを含めた作品数はこの項目が作成された時点で120を超え、ほとんどが未翻訳ではあるが他言語版サイトでもいくつかの作品が作られている。
その半数以上はTaleであり、SCP報告書の数は20にも満たない。またそのTaleにおいても信濃中央新聞という新聞社による記事(という体裁のTale)が多数見られるという特徴がある。
特筆すべき点
社会の変化
ヴェールが取り払われたことで、非日常の存在は徐々に日常に組み込まれ、技術は飛躍的な発展を遂げている。
他のカノンでは人型オブジェクトとして収容されていた異常存在も、ある事件を機に「異常性保持者」として社会で生活するようになる。
しかし良いことばかりが起こるわけではない。社会では新たな問題や差別が生まれ、災害や病気が超常的な性質を得て人々を苦しめるようになった。
要注意団体の変化
歴史と社会が変わることで、要注意団体の在り方も大きく変わっていく。
財団やGOCの活動は世間に広く知れ渡ったが、依然として人類の守護者として存在しており、強い影響力を持っている。
本来なら1998年に倒産する
プロメテウス研究所は技術の散逸などを恐れた財団とGOCに生かされ、パラテックバブルで業績を回復。世界にその名を轟かせる巨大コンツェルンとなった。
ニッソこと
日本生類創研は多額の賠償責任を負い、一度は法的に解体されるも、徹底した自浄努力により、医療機器メーカー「ニッソ医機」として復活を遂げた。
他にもいろいろと大きく変化したり新たに現れたりした団体があるので、詳細はハブを参照してほしい。
数々の超常事件
国家を揺るがす大規模なものから新聞の片隅に小さく書かれるようなものまで、大なり小なり異常な事件が起こる。
後述する「シーズン」のように、特定の事件にまつわる要注意団体や人々のストーリーも数多く投稿されている。
場所を問わず起こる常識外れの大被害により、絶望する人々も現れる。
強き人類
しかしこの世界の人類は、決して高い壁に屈しはしない。
いくら絶望的な事件が起きようとも、最終的には乗り越えて朝日を目にするのである。
そうして急速に成長していった人類の力は、2050年頃には自衛隊(それも淡路島に駐屯していた戦力だけ)でも巨大な神格存在を瞬殺できるレベルにまで達している。
タイムライン
先述した通り、1998年の世界では超常的かつ大規模な事件や災害がたびたび起こっている。特定のイベントやテーマにフォーカスを当てた作品群は「シーズン」と呼ばれ、この項目が作成された時点で7つのシーズンが存在している。
それぞれの記事は極力矛盾が起こらないよう設定のすり合わせが行われているが、一部ではタイムラインの分岐も認められており、そのパラレル性をテーマとした作品も存在する。
ハブにも年表が記載されているが、より細かく知りたい方は、ハブの下の方にあるリンクから飛べる網羅的な資料集を参照するといい。
タイムライン以外に、用語、事件、人物、よく言及されるロケーション、新聞の形式をとる作品に登場する見出しについても纏められているので、一見の価値あり。
1998年: ワルツの夜
ポーランドは明日、世界に先駆けて新たな一歩を踏み出します。ヴェールの先へ、闇へ立ち向かうために。ポーランドに未来あれ。
このカノンの全ての始まり。1998年初夏のポーランドで発生した「ポーランド神格存在出現事件」とその余波を描いた作品が属する。
『1998年』最初の作品。タイトルだけを見てギャグ作品と思うなかれ。実態は
あるカルトが召喚したショパン顔のセミ型邪神を、財団・GOC・ポーランド政府が総力を挙げて討伐する
という怪作。詳細は個別項目で。
SCP-1710-JPの投稿から2日後に投稿されたTale。神格存在出現事件に巻き込まれたジャーナリストと政治家を主役に、当時の混乱、報告書では触れられていなかった出来事、事態収束後のポーランドの新たな一歩を描く。
2001年: 合衆国の一番長い日
はっきり言おう、奴らの正体がわかった。あれはいわゆる悪魔だ。20分署に所属するエクソシストから裏がとれた。
2001年9月11日にカオス・インサージェンシーが引き起こしたマンハッタン次元崩落テロ事件に関するシーズン。
マンハッタン島は無数の悪魔や怪物が跋扈する地獄と化し、人々は生き残るために行動する。
属する作品は、当時のマンハッタンを舞台としたカノン内シリーズ『マンハッタン・クライシス』と、テロ収束後に事件やマンハッタンに言及したものの2種に大別される。
- SCP-2910-JP - 魔法少女はマンハッタンの紅き闇を飛ぶ
- SCP-2911-JP - 合衆国の一番長い日
- SCP-2912-JP - 我らの壊れたる機動精神 ブロークン・ガンダム
マンハッタン・クライシス、そして当シーズンの根幹をなす長大な作品たち。通称「銀翼三部作」。
それぞれの異常性を大雑把にまとめると「契約した女性を魔法使いにする小動物」「マンハッタンの一部が現実から崩落して現れた異次元」「ひどく損壊した巨大な人型ロボット」だが、メインは膨大な関連記録。
特にSCP-2912-JPは登場する要注意団体があまりにも多すぎて、ホスティングサービスであるWikidotのタグ文字数の上限を超えてしまったほど。
- マンハッタン次元崩落テロ事件 - Wikipedia
タイトル通り、テロとその後についてWikipedia形式で解説する記事。再現度はかなり高い。
一般人目線での記述になるため、他の記事との矛盾、意図的に記載されていない情報、著者の独自研究が多分に含まれている。
とはいえ上記の三部作ほど長くなく、見慣れた形式というのもあって、『マンハッタン・クライシス』の入り口として丁度いい……かもしれない。
もちろん、関連作品を読破した後に内容を振り返るのにも使える。
2006年: 大麻畑でつかまえて
2006年10月2日、麻薬カルテルに乗っ取られたコロンビア政府は、他国や正常性維持機関からの独立を宣言。
カルテルに協力する悪魔たちにより、一時滞在者を含む4395万人のコロンビア市民は、ボゴタ上空に出現した文字通りの夢の世界「オルタナティブ・コロンビア」へ移行した。
パラドラッグが蔓延し、人や悪魔が享楽に耽って共存する無法地帯と化したコロンビアの内外を描く。
アメリカに広まりつつある異常麻薬の原点を探るべく、UIUの麻薬捜査官は単身でのコロンビアへの潜入を命じられる。彼がそこで目にしたものは、賑わいすぎた「イカれている」町だった。
とあるオカルト・陰謀論系雑誌の専属ライターであるkarkaroffは、編集長からオルタナティブ・コロンビアの取材を命じられ、夢魔をガイドとして雇って調査を始める。
麻薬カルテルとの衝突がメインの『燻る南米、あるいは堕楽園』とは違い、魑魅魍魎がはびこるイカれた町の描写が特徴。
2015年: プルス・ウルトラ
その歩みが遅々たるものであろうと、曲がりくねった道筋であろうと、我々は前へ進み続けねばなりません。
2015年のバルセロナで、要注意人物「トンガラシ翁」が神性を獲得。不老長寿を目指していた翁は、スペイン国民の9割をカワウソに変異させて捕食し始めた。
神格存在となった翁は3か月後に討伐されるが、人々の姿が戻ることはなく、スペインは様々な問題と直面する前例のない前進を迫られる。
タイトルの「プルス・ウルトラ」は、「もっと先へ」「もっと向こうへ」「更なる前進」を意味するスペインの標語。
- スペイン国民の新たな姿──エスパノル・ヌートリアの生活に関する個人的考察
カワウソとなった人々とその生活について解説したスケッチ。カワウソが生活している光景がイメージしにくいという方は真っ先にこれを見ることをお勧めする。
舞台は事態収束から20年後のスペイン。不安が尽きないカワウソたち、人々、そして鯉は何を思い、財団をはじめとする組織はどう動くのか。
翁により生じた異世界へのポータル「次元穴」。政府は穴に存在する超常資源で経済の立て直しを図り、外資依存から脱却すべく手を打つが、世間の反応は賛同ばかりではなく……
『20年目の夏、スペイン』『スペイン政府 次元穴探検公社を設立』では翁はスペイン軍・伝承部族義勇連合に討伐されたが、こちらは多国籍軍が翁を討伐した世界線であり、スペインは内戦状態にある。
事件によりカワウソとなってしまった親子の別離と赦しがテーマ。
2017年: 東京事変
2017年の12月17日。そこから東京は壊された。26年間も壊され続けた。
東京都を中心とした南関東で、同時多発的な異常現象「東京現実崩壊性広域災害」、通称「東京事変」が発生。東京は以後26年にわたり崩壊を続け、日本は首都機能を移転する。
災害を受けて変化していく日本の情勢だけでなく、地下に逃れた生存者たちのコミュニティ「地下東京」にもスポットを当てる。
- 政府 未だ収束の目処立たない東京事変を受け新都心構想発足
「信濃中央新聞」の記事の形をとる作品。東京が持っていた政治・経済機能の移転先として決定されたのは、群馬県前橋市だった。
東京事変でパニックに陥ったのは東京だけでなく、周辺他県でも異常な事故が発生していた。
東京ディズニーリゾートの1万人もの来場者が
登場人物として取り込まれ、それに押し出される形でキャラクターが現実に現れた「TDL事故」についての新聞記事。
カノン成立一周年を記念して開催された「1998年コンテスト『幕開け』」の優勝作品。
舞台は赤坂見附駅。触手状の肉に覆われた安定した食料源の肉列車、御神体と勘違いされているAED、自分たちで育てたゴキブリを加工して作るローチ・バーなど、地下生活の描写が多いのが特徴。
避難民同士の抗争「第一次駅間戦争」の前日譚であり、東京駅が占術師から神託を聞き、新宿とそこに至るまでの丸ノ内線の各駅の征服を画策するなど、不穏な空気も。
- SCP-2070-JP - 《CODE:T》明日の薫風
大手町駅の地下300m付近から噴出していると推定される気体。毒性はないが、極めて強い悪臭がするうえ、粘度が高く、臭いの原因である異常化合物が空気や生体組織から分離しない。
加えて地下東京に存在する天然の火成岩以外の物質を透過するため、ガスマスクも防護服も息を止める試みも無意味で、一度曝されてしまえば二度と臭いが取れないという最悪のガス。
人口爆発対策のために居住区を拡大すべく駅の外れを掘っていたところ、北部を掘っていたグループがこれを見つけてしまったらしい。
一方南西部を掘っていたグループは、作業中に皇居の真下にあった財団サイトのエレベーターシャフトを破壊しており、これがきっかけで財団は地下東京の存在を知ることとなる。
2037年: 黎明に轟く咆哮
いわゆる獣人である「動物特徴保持者(Animal Feature Career;AFC)」たちの、日本での生活と権利をテーマとしたシーズン。
- 長野市AFC殺傷事件 日奉蓮被告に死刑判決 長野地裁
こちらも「信濃中央新聞」の記事の形をとる作品。AFCという言葉の初出であり、異常性保持者を憎む男による凶悪な犯行と、異常性保持者にまつわる法について語られている。
AFCへの差別を間違いだと考える男子高校生が主人公。同級生のAFCの男子と密かに交際している彼は、両親にそれを告白しようとするが……
文章などの投稿サイト「note」のようなフォーマットが特徴。「現代パラヒューマン政治史好きすぎて共同参画社会推進会議に呼ばれた同人女」である著者が、2025年の各政党の立場について解説する。
2041年: 病院の窓から覗いた朝
やることははっきりしています。絶望を終わらせるのです。
異常の膾炙により変化した近未来の日本社会を、医療の面から掘り下げていくシーズン。
物語の起点となるのは、2041年に群馬で発生した「サイト-81Q5現実崩壊事件」。
- SCP-2041-JP - 財団感染病棟Q5!白き末期患者と絶望的ホスピタル
新首都圏における財団の重要施設、サイト-81Q5こと財団異常疾患研究・治療センター。敷地内は変容し、異常疾患をばら撒く敵対的な実体が多数存在している。
調査の結果、事件前には他のサイトにも存在を知られていなかった、ある疾患の患者がいたことが判明し……
SCP-2000-JPコンテストの参加作品であり、『壊された虚構』との差別化に悩んでいた当時の『1998年』に新たな方向性を示した作品でもある。
- WPhO新基準 最初の医師国家試験、相次ぐ不正行為
2025年の医師国家試験でのトラブルをテーマに、超常に携わる人材育成の場が一般社会へと移っていく過渡期を描いた作品。
増加を続ける超常疾患。それと同じように、医師になろうとする受験者たちの超常性も、会場が対応しきれないほどに多様化していた。
これ以外にも、特定のシーズンに属さない「幕間」や、同じく特定のシーズンに依存しない連作である「シリーズ」に分類される、多種多様な作品が存在する。
- 東弊重工製神的エネルギー交換実験炉「マチテラス1号炉」に関する事業評価レポート
供物と対価の交換という形で神格からエネルギーを引き出すトンデモ技術についての作品。
東弊は天照大神の分霊を祀ることで光・熱エネルギーを引き出し、タービンを回転させる高圧の水蒸気を生み出していた。
超常科学の発展に大きく貢献した人物に送られるスクラントン賞。
一般出身の研究者としては初めての受賞という快挙を成し遂げた森野教授の口から、ヴェール崩壊以降の科学と信仰について語られる。
財団4Kにも属するTale。
日常や要注意団体たちの変化、人類の成長、そして遥かな未来を描く物語。
追記・修正をお願いします。
- 項目を作成するのは初めてなので、至らない点があるかもしれません。 -- 名無しさん (2021-02-27 22:04:32)
- まあ大抵のハブで言えるけどショパンゴジラ出た時はまさかハブになってここまで盛り上がるとは思わなかったな -- 名無しさん (2021-02-27 22:41:15)
- 1998の次がスシブレードだっけ そんでそこからハブが急速に増えた気がする -- 名無しさん (2021-02-27 22:46:09)
- ショパンのセミから異常存在まみれの病院に話がつながるなんて誰も予想出来なかっただろうな -- 名無しさん (2021-02-28 00:38:17)
- ここ読んで「最近の政治で面白いと思ったことなど」が気になったので見てきた。何なんだこの完成度は -- 名無しさん (2021-02-28 00:53:09)
- ↑同じ著者の作品である「特集記事 森野雄太郎教授が語る科学の今後」も傑作ですよ。ぜひ読んでみてください -- 名無しさん (2021-02-28 00:56:20)
- 我らの壊れたる機動精神 ブロークン・ガンダムって文面が強すぎる… -- 名無しさん (2021-02-28 05:21:22)
- ↑ガンダムって固有名詞のはずなのに、気づけば人が乗り込んで動かす巨大ロボット兵器の代名詞になってる辺りゴジラに通じるものがあるなぁ -- 名無しさん (2021-02-28 05:59:05)
- 2050年の自衛隊って要はゴジラを瞬殺するようになった自衛隊って考えるとヤバいな -- 名無しさん (2021-02-28 08:01:57)
- ↑速やかに撤去されたのは淡路島産全長750~m級の岩石生命体(scp-jp.wikidot.com/ahashimaの「実例: タイムライン K-998」)ですね...(ゴジラは革命前夜とは言えヴェール吹き飛ばしたし...) -- 名無しさん (2021-02-28 11:50:34)
- 合衆国の一番長い日って血界戦線かな? -- 名無しさん (2021-02-28 13:46:15)
- ↑~の一番長い日の元ネタはドキュメンタリー「日本の一番長い日」。古くはパトレイバーなどでもパロられてる有名タイトルだよ -- 名無しさん (2021-02-28 16:24:55)
- ↑「日本のいちばん長い日」自体、「史上最大の作戦」の原題「The Longest Day」が元ネタ。 -- 名無しさん (2021-02-28 17:29:55)
- まだ合衆国の1番長い夜シリーズしか読めてないが読み応えある超大作だった。他にもこんなにシリーズがあるなんてワクワクする。 -- 名無しさん (2021-02-28 23:45:14)
- ↑夜じゃなくて日でした…とにかく項目作成感謝 -- 名無しさん (2021-02-28 23:47:04)
- 合衆国の長い日シリーズ、アニオタwikiでのページがよみたい(ネタが多過ぎてわからないんだもの!) -- 名無しさん (2021-03-01 00:50:54)
- テーマの強き人類とか近未来とか財団4Kっぽいなと思ったら一部クロスしてんのね -- 名無しさん (2021-03-19 03:43:15)
- なんかシャドウランだな。覚醒後の第六世界でメタヒューマンに変化しちゃった人間の話とか。あっちもそのうち魔力が増大しすぎて異世界から邪神(アースドーンの「ホラー」)が飛んでくる予定だし。 -- 名無しさん (2021-03-20 20:09:43)
- いつもの財団のどう足掻いても詰んでる世界観に比べるとかなり希望が見えるから好きなハブ -- 名無しさん (2021-03-26 04:22:28)
- ↑何が起きても諦めないからね 他の世界で財明日になるようなことでも何かしら方法を考えて立ち向かうし -- 名無しさん (2021-03-30 21:22:40)
- 2050年に神格瞬殺したのは略称こそ自衛隊だけどいわゆる自衛隊とは違う組織っぽいけどね -- 名無しさん (2021-04-03 12:45:18)
最終更新:2021年04月11日 16:08