SCP-1710-JP

登録日:2019/09/20 Fri 01:25:31
更新日:2024/02/06 Tue 21:21:57
所要時間:約 13 分で読めます







  現実(ポーランド)虚構(ショパンゼミ)

ョパン・ゴジラ


『私は好きにした、君らも好きにしろ』
「諦めず、最後までこの国を見捨てずにやろう」
※言ってません





SCP-1710-JP』は、2019年9月13日に公開された共同怪奇創作『SCP Foundation』日本支部のアノマリーである。

本オブジェクトでは複数の作品とのクロスリンクが目立つものの、執筆者のDr_Kasugai氏も認める通り、
本オブジェクトだけを読む上ではなんとなく理解していればいい、程度。
本項目においても、直接関連しない事項については言及はするが詳細は省いている。
なお、オブジェクトクラスはEuclid。セキュリティクリアランスレベルは3。


概要

SCP-1710-JPは、ポーランド共和国マウォポルスカ県[編集済]に存在する最大幅120mの巨大な巨大な陥没穴である。
現在まで底は確認されておらず、財団は基底世界とは別の次元に接続されていると推測している。
これだけならよくある異次元ポータルにすぎないのだが、この穴は毎年6月から8月にかけて、
顔面がフレデリック・フランソワ・ショパンになった異常なセミ型生物を1万~2万匹放出するのである。
このセミはフレデリック・フランソワ・ショパンの楽曲を演奏する。

では、なぜこの穴はフレデリック・フランソワ・ショパンゼミを放出するようになったのか。
これにはSCP-PL(財団ポーランド支部)にて設定されている要注意団体(GoI-PL)である、『ショパン・カルト』が関わって来る。
彼らはショパンの召喚を行うため、ピアノコンサートを開催する宗教であり、ショパンの偉大な仕事を継続させたいと願っている。
その宗派に当たるGoI-484E ("聖ショパン再誕のための音術師協会")が、1998年7月12日~13日の2日間に引き起こした『イベント・ペルセポネ(財団命名)』によってこの、
フレデリック・フランソワ・ショパンゼミが出てくるようになってしまったのである。

では、このイベント・ペルセポネとはなんなのか、そしてフレデリック・フランソワ・ショパンゼミとはなんなのか、詳しく見ていこう。

GoI-484E ("聖ショパン再誕のための音術師協会")とは

GoI-484E ("聖ショパン再誕のための音術師協会")は、ヴォイチェフ・ノヴァク司祭をリーダーとするショパン・カルト分派である。
主流派であるGoI-484A("聖ショパン正教会")から追い出されただけあって、全体的にガンギマっており、
部分的な自傷・強姦・殺人・食人は平気で行う。メカニトかなにか?』
なおこれらの行動は別に彼らのオリジナルというわけではなく、GoI-484B ("血漿楽譜教会")の系譜で、
ブラッディー系ショパニズムに区分されるらしい。ショパンもへんてこな教義に担ぎ上げられて草葉の陰からどう思っていることやら。
メンバーの多くは現実改変能力や奇跡論行使能力を有するらしく、
超常的な音楽を作曲したり、大衆人気を得たり、有名な音楽家を召喚したりするのにそれらを行使している。
なお、最終的には聖ショパン、つまり全音楽を統べる神フレデリック・フランソワ・ショパンを召喚し、
世界に調和を齎すのが目的であるという。
日本で言えば全漫画を統べる神として手塚治虫あたりを召喚するようなカルトであると思えばいい。
だがこの聖ショパン、財団の見立てだとショパンのそっくりさんでしかなく、しかもピスティファージ実体であるという*1

では、その彼らがだいしゅき♡でたまらないショパンとはどういう人なのか。

フレデリック・フランソワ・ショパン

登録日:2019/09/11 Wed 21:22:51
更新日:2024/02/06 Tue 21:21:57
所要時間:約 3 分で読めます




フレデリック・フランソワ・ショパン(1810-1849)は、ポーランドの前期ロマン派音楽を代表する作曲家のひとりで、
生きていた当時はピアニストとしても名声をはせていた。


ショパンの概要

1810年、ワルシャワ公国中央のジェラゾヴァ・ヴォラに生まれる。
父のニコラはもともとフランス人であったのだが、ポーランドに移住後ポーランドを愛するようになり、
歴史家のワパチンスキをして「あいつ自分のことをポーランド人と疑ってねえよ」というほどであった。
そんな彼のもとに生まれたフレデリックは、自分自身をポーランド人としか思っておらず、
後にパリに出てからもフランス語をうまく話せなかったほどという。

そんな彼は同世代の音楽家、シコルスキーいわく「母のピアノに感激して泣くほど」とまで感受性が高い坊っちゃんだったらしく、
姉にピアノを教えられて弾くようになった。その後ジヴヌィにも師事するが、すぐに師匠を追い越し、
7歳にしてコンサートで評価を得るに至る。更に当時作曲してやはり評価を得る。
実は異世界からのP-D/U-漂着イベントの漂着者じゃなかろうか…。
その後も学生時代においてずっと高く評価されつづける。まさに才能に陰りなし。

しかし、彼の才能こそは衰えなかったものの、彼を苦しめたものが2つあった。

ショパンの壁

ひとつは彼の家族をも死に追いやった結核。
当時の結核は…というか後年でもなお大病である結核は、しばしば彼を蝕んだ。
それこそ、ラブラブだった若い娘との結婚すら結核のせいで相手の家から破談にされてしまったほどである。

もうひとつは心の『祖国』ポーランドの革命の失敗である。
ショパンはポーランドの革命の起こりによって、ウィーンで高まる反ポーランドのために
ウィーンを避けて別になんの思い入れもないパリに移動せねばならず、
かつ結局ポーランドはロシアに負けたために、救援をよこさなかったフランスと、神にブチギレ、呪ったという。

彼はついぞ人生の伴侶を得ることはできなかった。
初期のフェミニストとしても知られる男装の女流作家ジョルジュ・サンドと9年間同棲したこともあったがうまく行かず破局。

晩年

彼はパリでのヴィルトゥオーゾとしての名声が陰ってきたことから、
ジェーン・スターリングの援助のもと、ロンドンへの演奏旅行をしたあと、パリに戻る。
ロンドンではポーランドの避難民のために慈善コンサートを行ったが、
ポーランドの避難民はストレス解消にダンスなどを望んでいたため失敗に終わる。
なおジェーンとは噂をされたが、ショパンはジェーンと結婚する気はサラサラなく、
「ジェーンは私より死と結婚したほうがいいと思うよ」とか言ってたりする。
仮にも援助者になんてことを…。

基本的に最後まで才能自体は衰えなかったものの、人気が下がって困窮し、
また病もあってついに倒れてしまう。
最後は困窮の中、秘書ジェーンが金持ちだったおかげで住むことができたアパートのベッドの上で、ピアノを教えてくれた大好きな姉に看取られて亡くなった。
享年39歳。

代表曲

ショパンは自身の曲に基本的に数字しかつけなかった。
そのため、メタタイトルは他者によるものと考えて良い。この辺、財団にも通じると言えよう。

ポロネーズ第6番変イ長調 作品53

通称『英雄ポロネーズ』。1842年に作曲。
動機が短く、情熱的でかつショパンの作品にしてはかなりシンプルな進行は、
彼のポーランドへの愛国心を表しているとされる。
他にも、ポロネーズ第3番イ長調 作品40-1(『軍隊ポロネーズ』)もこの作品と同じような評価を得ている。

ピアノソナタ第2番 変ロ短調 作品35

通称『葬送行進曲』。第三楽章が特に有名で、
さまざまなゲームのゲームオーバーに使われたりしている。
他にもバンドがdisのために作った楽曲に引用されたりしている。

練習曲ハ短調作品10-12

通称『革命のエチュード』。
モーリッツ・カラソフスキー曰く、ポーランドのロシアに対する革命が失敗したときに
怒りをぶつけたためにできた曲である…というのだが、このカラソフスキーはショパンについてあれやこれや妄想しがちな人で
信憑性がない。
多分ふつうにピアノの練習のために作ったとするのが定説。
練習曲なはずなのに音ゲーではラスボスになってたりする。


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財団VSフレデリック・フランソワ・ショパンゼミ

ショパンについてわかったところで、イベント・ペルセポネまでの流れを追っていこう。
ノヴァク司祭はショパンを召喚しようとしていることはここまで読めばわかると思うが、
そのショパンを呼び出すもともとの世界としてはSCP-4009(ビック・ブローツァルトはあなたを見ている)*2を考えていた。
その接続システムとして、ノヴァク司祭の部下はSCP-513-JP(向こう岸)*3で人々の思考を接続することを仮定していたが、
本来一人で入るSCP-513-JPに数百人を送り込んで同じ世界にたどり着かせる技術にあてがなかった。
そんなとき、ノヴァク司祭は松明の持ち手たちを利用すればいいのではないかと提案した。
かくして、プロメテウス研究所の子会社、プロメテウス・ニューロンズ社に多数の侵入者が現れて
いくらかのパラテックを奪った後、放火。火を冠する会社だけに最後は燃えたわけである。
このとき財団は消火を手伝いつつパラテックを押収。プロメテウスとの間で一触触発となったが、
向こうが倒産したので買収したそうな。この世で怖いのは化け物でも魔法でもなく金の切れ目ですね…。
といって、聖ショパン再誕のための音術師協会も順風満帆ではなかった。
GOCの襲撃によって、予算も浪費させられ、人員も再起不能にさせられてしまった。
彼らは当たり前だがアノマリーは徹底破壊を目指しているため、ノヴァク司祭は急いでショパンを召喚しろと部下に無茶振りをする。
この日本でも最近は少なくなった無茶振りな上司の要求が、フレデリック・フランソワ・ショパンゼミの誕生に寄与しているといえる。

さて、そんなGOCのエージェントは、財団と交渉をしていた。
GOCはさっさとドンパチやってでも聖ショパン再誕のための音術師協会を潰しにかかりたかったが、
聖ショパン再誕のための音術師協会の儀式を行おうとしているポーランドは財団が支部を置く国家の一つである。
いらんトラブルの回避のため「今からお前らの敷地で暴れるけどよろ」と挨拶しておこうと思ったのだ。
財団もGoI同士が自分の敷地でドンパチやるのは嫌なものの、GOCがやらかすのとカルトがやらかすのなら
GOCのほうがまだなんとかなりそうなので、事後の隠蔽工作への協力も含め、議論を進めようとしていた。

しかし先に事を起こしたのは聖ショパン再誕のための音術師協会のほうだった。
彼らが交渉をしている間に、2001年にシステムを運用する予定をちょっと早めて1998年、召喚に踏み切ったのである。
彼らは近くの街の住民を十字架にくくりつけて生贄とし、このでっかい穴の周りで異世界との接続を開始した。
そこに、ショパンの『華麗なる大円舞曲』が流れ、聖ショパン再誕のための音術師協会は歓喜した。
ついに、ついに聖ショパンが…と喜んだのもつかの間。


たかさ90mにもなる、セミの幼虫がそこに現れた。




シ ョ パ ン ・ ゴ ジ ラ




そう、やっとここでメタタイトル回収である。みなさんお待ちかねの(待ってなかっただろうが)巨大不明生物である。もちろん、顔はショパン。
聖ショパン再誕のための音術師協会が悲鳴を上げるなか、この幼虫はどういうわけか成虫の
フレデリック・フランソワ・ショパンゼミを大量に使役して聖ショパン再誕のための音術師協会メンバーを貪らせていく。
そう、このフレデリック・フランソワ・ショパンゼミ、人を喰うのである。更に、このショパン・ゴジラに給餌する役割も持つ。
このタイミングで、財団とGOCは巨大神格実体対策本部を設立。巨災対ならぬ巨神対。
財団はこのショパン・ゴジラを下し、聖ショパン再誕のための音術師協会を殲滅ないし捕縛、
GOCのサポートと、フレデリック・フランソワ・ショパンゼミからの住民の避難誘導を行うことに決めた。

一方、ショパン・ゴジラはゆっくりと民家を破壊しつつ北上。偵察ヘリがフレデリック・フランソワ・ショパンゼミの襲撃で墜落。
ならばと財団とGOCの航空隊が武装して出撃するが、それもまたフレデリック・フランソワ・ショパンゼミに撃墜させられる。
財団とGOCは事ここにいたり隠してる場合ではないとポーランド政府に『顔がショパンのセミの怪獣が民家を破壊しつつ北上している』と通達。
ポーランド軍が出撃したときには、民間人の死者1万名を記録し、推定体長は140mにまで大きくなっていた。
しかもゴジラでさえ嫌なのに、北上しているのはセミの幼虫なのだ。顔はショパンだし。
カイザードビシみたいに十万のセミを引き連れて攻撃してくるし。しかも顔はショパンだし。
しかも微妙に現実改変を起こしつつ、奇跡を起こしているらしい。それに加えて顔はショパンと来たものだ!
そして幼虫ということは当然、いずれ成虫になることが予想される。
財団とGOC、そしてポーランド軍は戦闘資産を可能な限り展開、あわせてGOCが魔術結界をポーランド南部全域に展開した。

しかしなかなか打つ手なしと思ったその時、幼虫は奇跡を弱め、表面にはヒビが入った。
どういうわけか、ショパン・カルト主流派がショパンの心臓を借りて詳細不明の儀式を執り行い、
ショパン・ゴジラを弱体化させたようである。袂を分かった親にケツを拭かれて恥ずかしくないの、ノヴァクさん?
そしてショパン・ゴジラはついに、財団・GOC・ポーランド軍によって撃破されるに至ったのだ。

しかしこれはもうひとつ、問題を引き起こした。
なにしろ、でっかい化け物がいたことは、もはや隠しようのない事実である。
たくさんの生者(目撃者)がいる。たくさんの死者(証人)がいる。
おまけにミサイルでとどめを刺したとき、破裂したショパン・ゴジラの起こした奇跡でポーランド南部の建設物は熔解した。
ヴェールは、取り払われてしまったのだ。
事ここにいたり、かくれんぼをしている場合ではない。財団とGOCはついに国際社会の明るみに出ることになった。
未だ、フレデリック・フランソワ・ショパンゼミは夏になれば現れる。
フレデリック・フランソワ・ショパンゼミは雑食だ。現れればなんでも、人間ですら食い散らかしてしまう。

それにしても、ポーランドを愛しポーランドのために曲を捧げたショパンが、
ポーランドを蹂躙し、ポーランドを焼き尽くす巨大不明生物となるとは皮肉にもほどがある話である。
そしてなにより、これはまだ序章に過ぎないのである──。




追記・修正は、自分の顔をしたセミが数万匹現れてしまった人にお願いします。


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最終更新:2024年02月06日 21:21

*1 ビスティファージ実体とは、信仰そのものによって自己の存在を維持・あるいは成長する実体のこと。早い話が守矢神社の神様みたいなもん。

*2 音楽家たちが基底世界での知名度に比例して高位のカーストの現実改変者として君臨する世界。一番偉いのはモーツァルトらしい。じゃあモーツァルト崇めたほうがいいのでは…

*3 死後の世界に行くことができる青森県の異常空間。ここで言っているのはその発生原因である、「個人の意識を通じて、集合無意識を亜空間として具現化する装置」のことだろう。