うわさのズッコケ株式会社

登録日:2023/01/27 Fri 23:46:17
更新日:2025/05/12 Mon 20:25:01
所要時間:約 5 分で読めます




『うわさのズッコケ株式会社』は、『ズッコケ三人組』シリーズの13巻。1986年発売。

コンセプトが非常にユニークで、児童書としてはかなり異端児に近いが、同時に初期ズッコケシリーズの中でも「名作」「傑作」としても名高い一作。


概要

タイトルから分かる通り、なんと三人組が株式会社を設立してしまうお話。
しかも、小学生のごっこ遊びとか、大人が作ったものの尻馬に乗ったものだとかではなく、正真正銘三人組が設立から資金調達までこなしてしまう。
……流石に法的な登記などはされていないので、あくまで株式会社「もどき」ではあるが、それでもちゃんとした株券も発行して株主総会も開いている、れっきとした株式会社である。

児童書としては異様なほどに株式会社の仕組みに関する説明が詳しく、それでいながら堅苦しさをあまり感じさせない筆致は流石と言おうか。
「株主総会」や「配当金」のシステムについても、本筋から外れない程度に、それでいながらちゃんとわかりやすく解説されている。
作者メッセージに「この一さつがあれば、きみも社長になれる!」と力強く断言されているが、それも嘘ではないと感じさせる説得力。
というか事実として、現代のベンチャー企業の社長などには小学生の頃本書を読んだのが最初に会社経営に興味を持ったきっかけという人も少なからずいるようだ。
「起業チャンスを見つける→そこで実際に儲かるか実験する→実績を持って株主候補に売り込む→最初は商売がうまくいくが挫折→挫折を乗り越えて成功」
……というサクセスストーリーは、小学生向けに平易になっているとはいえビジネスロマンをしっかりと感じさせる。
経営陣が経営に失敗して株主たちに責め立てられるシーンなど、かなりリアル。

流石に話の展開については、ご都合主義を感じさせるところもなくはないが、十分許容範囲だろう。
あと、炎天下の夏に弁当を売り歩いているのに食品衛生責任者がいないこととか、小学生が[[ビール]]を売りさばいていることとか、港の事務所の水道勝手に使っていることとか、いくら1986年初版と言えども法律的にアウトな描写が多すぎることにも突っ込んではいけない。良くも悪くも大らかだったのだ、当時は。


あらすじ

夏の終り、港にカタクチイワシを釣りに来た*1いつもの三人組。
釣りそのものは楽しめたが、周辺に商店が無く食べ物や飲み物を調達できなかったことに苦労した。
何気なくハチベエがそのことを両親に話すと、冗談交じりに「弁当を売ったら儲かるんじゃないか」と告げられる。
ハチベエはその言葉をいつになく真剣に受け止めて……?


HOYHOY商事

3人組が設立した株式会社。主な業務は弁当やジュースの販売。
社名の由来は八谷(ハチベエ)の「H」、奥田(モーちゃん)の「O」、山中(ハカセ)の「Y」を繋げて「ホイホイ金を稼げるように」という意味を込めたもの。
株券は1枚100円で、当初は300枚発行された。つまり資本金3万円。


主な登場人物

  • 八谷良平(ハチベエ)
HOYHOY商事代表取締役社長。41株保有。
いつもの元気印の悪ガキ。今回は持ち前の行動力と父親(八百屋)譲りの商売のセンスで皆を引っ張っていく。
しかし中盤、大失態を犯してしまった際はいつもの元気も鳴りを潜めて……。

なおずっと後の話になるが、中年になったハチベエは両親の反対を押し切り八百屋を廃業してコンビニに鞍替えすることになる。
自営業からフランチャイズチェーンの雇われ店長となったことで色々と苦労はあれど、コンビニ経営で子供二人を含む家族を養い大きな失敗もないので、経営者としてのセンスは小学生時代のこの頃から発揮されていたと言えるかもしれない。

  • 山中正太郎(ハカセ)
HOYHOY商事経理部長。31株保有。
「株式会社を作ろう」と考えた翌日には株式会社の大体の仕組みを勉強してプレゼンできるスーパー小学生で、影のアジテーター。
株価が下がるリスクをまるで説明せずに株券を買わせる語り口は半ば以上詐欺。
倒産危機すら口先の数字のトリック*2で株主を煙に巻くという小学生らしからぬ詭弁を弄する策士。なんでその頭脳が成績に反映されないのか本当に謎だ……。
他のメンツが金勘定にあまりに疎いため、ハカセがいなければHOYHOY商事はまともに収支計算もできずに破綻していたのは間違いない。
何気にイワシ釣りは一番楽しんでいた。

  • 奥田三吉(モーちゃん)
HOYHOY商事営業部長。51株保有。別に営業する先はないので営業部長は名前だけだが
いつも通りののんびり屋だが、釣りは上手い。

ぶっちゃけ他の2人に比べてどんくさい面は否めず、目立った活躍も無いが、モーちゃんがとある人物に弁当を売っていたことが後々HOYHOY商事を救うことに繋がる。
姉の助けで営業先も見つけるなど、偶然に助けられている部分が大きいが結果的には「営業部長」としての責務はしっかり果たしたと言えなくもない。人間関係の潤滑剤的な役割が多いモーちゃんらしい役回りか。

  • 中森晋助
HOYHOY商事ラーメン部長。
町の中華料理屋「来々軒」の息子で、実質的に3人組に次ぐ裏側の主人公と言っても過言ではない重要人物。

よくよく読み直すと、
  • 株を出す前の段階でいい商売だと気がついて金を貸してくれる
  • 初回株式発行の際にも一番買った田代信彦(彼も貸してくれた1人)の21株に次ぐ18株を購入
  • カップラーメン販売を始める際に、コンロなどが大荷物だという3人の前に自転車できて協力すると言い出す
……など、単純に優しいというより金蔓は手塩にかけても育てるタイプのようである
3人組に比べて個性は薄いが、その代わり前に出ずに裏方として面倒事を引き受ける気のいいやつ。料理に疎い3人に代わり、ラーメンの開発と調理を一手に担う。
ちなみにHOYHOY商事が売っているラーメンはただの市販のインスタントラーメン(袋麺)だが、ここに来々軒の秘伝のスープと具(勝手に持ち出したのではなく家に金を入れて購入)を入れ調理したことでインスタントとは思えないほどの美味になり、これを具の代金含め原価100円もしない所を500円で売るという暴利にも耐え抜いた

  • 荒井陽子、安藤圭子、榎本由美子、田代信彦
HOYHOY商事の筆頭株主で取締役たち。
初回株発行時は田代21・榎本5(荒井・安藤は不明だがそれぞれ2株以下)だったが、自分も商売に参加した中森の話を聞いて「3人組はともかく中森が売り上げ好調というなら信頼が置ける」と判断し、貯金を下ろすなどの手段で田代51・榎本50・荒井50・安藤50という大株主になった。
「調子がいいときには気前よく出資するが、少し雲行きが怪しくなると経営陣の苦労も知らずに詰め寄る株主たち」というテンプレな存在だが、なんだかんだ言って揃って文化祭の出店に協力するなど気前はいい子たち。
まあ、売り上げが伸びなかったら自分達も大損だしね。

  • 奥田タエ子
モーちゃんの姉。
弟のピンチにもどこ吹く風だったが、自分の通う高校の文化祭に出店できるよう交渉するなど気は優しい。

  • 島田
港で二度に渡り財布を忘れて無銭飲食をした怪しいおじさん。その正体は……!

ちなみに、担任の宅和先生は学校が出てくるのに今回最初から最後まで影も形もない(タエ子の学校の先生は出てくるのに)。「児童の自主性に任せてあえて放任している」と言えば聞こえはいいが、自分が受け持つクラスで児童がクラスメイトに怪しげな商売を持ちかけて金を徴収するのを放置しているのは流石に教師としてどうかと思う


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最終更新:2025年05月12日 20:25

*1 材木港では木材を下ろす際に害虫が海に落ちるのでそれを目当てにイワシが集まる。

*2 「イワシの季節ではなくなって客が激減、直前にハチベエが(儲けが多い)インスタントラーメンと缶ビールを大量に買い込み資金すっからかんとなり次回配当する金がない。」という状況で、ハチベエは「客が減っていることを株主達に黙ってごまかそうとする」というすぐにばれることを企むが、ハカセは客の激減は素直に話して信用させたうえ「売り上げの絶対値は下がっているが、売り上げに対する純粋な利益は上がっている。(本当)」「在庫があるのでしばらく仕入れの金が不要(実際はラーメンの具の代金をガン無視)、これから寒くなるのでラーメンの売り上げは上がるはず(寒くなると売れないビールの事は触れない)」と気長に待ってくれるように株主に説明。