登録日:2023/01/28 Tue 18:13:00
更新日:2023/02/08 Wed 09:56:58
所要時間:約 11 分で読めます
『浅草キッド』は2021年12月9日から配信を開始した映画作品である。
Netflixが企画製作と配信、日活が制作をそれぞれ担当している。
概要
ビートたけしの同名自叙伝を原作とし、浅草時代の師匠・深見千三郎との師弟関係を描いた作品。
お笑い芸人の劇団ひとりが監督・脚本を務め、柳楽優弥と
大泉洋の両名が主演を担当した。
本作は1988年に
テレビ朝日系、2002年にスカイパーフェクTV!でドラマ化されており、3度目の映像化となる。
ビートたけし作詞・作曲・歌唱による同名の曲(以下、「浅草キッド(歌)」)も存在し、劇中で印象的に使われている。
エンディングテーマは桑田佳祐の「Soulコブラツイスト〜魂の悶絶」。
もともと劇団ひとりは過去にコント番組「リチャードホール」でビートたけしをパロった「尾藤武」なるキャラを演じるなどビートたけしに心酔する芸人の一人。
それだけに本作は監督デビューして以来、どうしてもやりたい企画だったという。
また、現代のビートたけしを再現した特殊メイク、タップダンスを軸としたミュージカル調のシーンなど、ゴッドタンでの劇団ひとりを知る者にとっては感慨深い要素も多い。
映画に関して肝心のたけし本人は「自分も泣いたけど、きれいになっているなって。映画らしくなっているなって」と一定の評価をしつつも、美談として仕上げられたことに対する複雑な感情を明かしている。
裏を返せばたけし本人ではなく劇団ひとりが映画化したからこそ純粋な人情劇として描けた作品ともいえる。
製作経緯
映画『青天の霹靂』で監督デビューを果たした劇団ひとりは次回作の構想として本作の企画を考えていた。
しかし、『青天の霹靂』はヒットこそしたものの、映画会社の希望した最低ラインギリギリの興行収入であり、国内の配給会社はどこも企画を受け入れてくれず失意の日々を過ごすことに。
それから6年が経過したある日、思わぬ朗報が届く。
動画配信最大手として急速に日本でも知名度を上げていたNetflixが企画の実現にGOサインを出したのだ。
おまけにキャスティングにあたってひとりの希望が最大限尊重されるという好待遇であった。
こうして監督2作目としては異例なまでの豪華キャストが実現した。劇団ひとりの執念が実った結果である。
もっとも、豪華キャストなだけにコロナ禍でスケジュール調整に大きなリスクを抱え、劇団ひとりは「もし感染者が出て撮影が中断していたら次にキャストを集めて撮影出来るのは4年後になっていた」と綱渡りの製作状態だったことを明かしている。
あらすじ
1974年。駆け出しの漫才コンビとして不遇の日々を過ごす芸人のたけしは2年前の浅草時代に思いを馳せる。
当時、たけしは浅草を代表するコメディアンの深見千三郎に憧れ、ストリップ劇場の浅草フランス座でエレベーターボーイとして働いていた。
やがてたけしは深見に見出され芸人としての極意を叩き込まれ芸人として急成長を遂げていく。
憧れの師匠の下で夢を実現するかと思われたたけし。
しかし、ショービジネスの世界に押し寄せる時代の波が二人の運命を決定的に変えていくこととなる・・・
登場人物
演:柳楽優弥/松村邦洋
主人公であり後の「世界のキタノ」。愛称は「タケ」。
工学部に在籍していたことから機材の修理を頼まれることが多い。
特技は深見の影響で始めたタップダンスで、大舞台の前では軽くタップを踏む習慣がある。
うだつの上がらない大学生活に見切りを付け、深見千三郎に憧れてフランス座に入る。
深見からは師匠相手にも物怖じしない芸度胸とスター性を見込まれ一番弟子として頭角を現すが、
日に日にに寂れていくフランス座の将来性に疑問を感じ、看板芸人としての責任感との葛藤の末にフランス座を去る。
漫才コンビとしてスタートした後もなかなか芽が出ず、酔っ払い客と喧嘩するなど散々な日々を送る。
そして紆余曲折の末、慣れ親しんだジャズにヒントを得てアップテンポのビートの利いた漫才をやるスタイルに転向し、コンビ名も「ツービート」に変える。マシンガントークで毒舌をかます漫才はたちまち人気を博し、それからは一気にスターダムに駆け上がっていく。
演:大泉洋
本作のもう一人の主人公。
浅草フランス座が誇る大スターのコメディアンで、「浅草の深見」「師匠」と呼ばれ親しまれている。
「笑われんじゃねえぞ、笑わせるんだよ」、「芸人なら良い服を着ろ、舞台を降りたらカッコイイって言われる芸人になるんだ」「芸人だったらいつでもボケろ」など芸に関して数々の矜持を説き、たけしを始めとする多くの弟子に慕われている。ビートたけしの代名詞でもある「バカヤロー」は元々は彼の口癖。
しかし、時代の中心はテレビに移り替わりつつあったことや浅草の斜陽化もあってフランス座の経営は悪化の一途を辿り、フランス座を去ってブレイクするたけしとは対照的に最終的に芸人を廃業し町工場で働きだすが、妻の麻里も失うなど転落人生を歩む。
落ちぶれてもたけしのことは陰ながら応援していたが、そんなたけしが彼の下を久々に訪ねてきたことで芸人魂に火が付き、くじら屋で大勢の客を相手に爆笑をとるなど往年の技術はまだ錆びついていないことを証明し麻里の仏壇前で芸人としての再起を誓うが・・・
なお、深見本人は漫才やテレビの類を下に見ていたことから亡くなるまでテレビ出演はほとんどなく、映像もほとんど残されていない。
それゆえ優れた技術を持つ芸人でありながら、浅草近辺以外の人からは存在をほとんど知られておらず、氏の存在は死亡記事および「浅草キッド」の著作で全国的に知られるようになったともされる。
そのことから、「
幻の浅草芸人」の異名を持つ。
演じた大泉は「青天の霹靂」に次ぐひとり作品への主演登板で、深見と同じ
北海道出身でもある。
演:鈴木保奈美
深見の妻で、フランス座の踊り子兼経理担当。
気前のいい師匠でいたい深見にとっては多少の無茶を聞いてくれる心強い味方である。
しかし、フランス座の経営悪化で深見が廃業し、家計を支えるために接待を繰り返したことで倒れてしまう。
そして、最後まで夫がいつか返り咲く日を夢見ながらこの世を去る。
元ネタになったのは深見の最後の夫人である紀の川あや氏。
原作内ではアルコール中毒をこじらせて亡くなったことが明らかにされている。
ちなみに、演じた鈴木保奈美も大物芸人(所属事務所社長)の元妻であった。流石に撮影時には既に離婚していたことは劇団ひとりも予想外だっただろう
演:土屋伸之
フランス座に所属していた芸人の一人でたけしの先輩。
たけしがフランス座で活躍する頃には既にフランス座を辞めていたが、
将来に悩んでいたたけしの前に現れ彼に漫才コンビを組むことを提案する。
たけしの前では壮大な夢を語るなど野心家の一面を伺わせたものの、
たけしが漫才中に酔っ払い客に喧嘩を売ったときは場を和ませるための即興のマジックを披露したり、たけしの突発的な提案に合わせるなど基本は苦労人。
何かにおいて振り回されつつもたけしに対しては全幅の信頼を寄せており、たけしにとっては最高の相方である。
演じたのは東京の漫才コンビ「ナイツ」の土屋伸之。
俳優業の実績があまり無い土屋をキャスティングしたのは、漫才のシーンをガチるために漫才のプロとして柳楽をサポートして欲しかったことが理由だが、演者としても慣れない方言込みで違和感なく演じ切っており、ひとりにとっては嬉しい誤算となった。
演:門脇麦
映画
オリジナルキャラクターでフランス座に所属するストリッパー。
「ヤラせないよ」が口癖。
類まれなる歌唱力を持ち、その歌唱力を評価したたけしの計らいでステージで歌う機会を得るも、
ストリップ目当ての客には結局評価してもらえず、夢をあきらめることとなる。
その後、フランス座を出ていくたけしに対して憎まれ口を叩きつつも力強く送り出した。
たけしがツービートとしてブレイクした時は実際に彼らの漫才を見に行き、憧れのステージで輝くたけしを見て泣き笑いをする。
その後はストリップを引退し、結婚して子供を設け主婦となる。
演:中島歩
フランス座に所属する作家志望の芸人。
タップダンスの特訓をするたけしに本番同様のステージ演出を提供するという粋な計らいをし、
たけしが深見に一目置かれるきっかけを作る。
元ネタはたけしの後輩として入ってきた作家志望の青年で、原作内では井上ひさし似であることから「いのうえ」と呼ばれ病弱なのをいいことにたけしにダシにされまくっていたことが明らかにされている。
演:古澤裕介
映画オリジナルキャラクターでフランス座に所属するたけしの先輩芸人。
残念ながら芸人としては芽が出ておらず、ステージには立つものの実質的にはスタッフ兼、深見の遊び相手。
フランス座を出ていくたけしのことも理解することは出来なかった。
演:尾上寛之
フランス座出身のコメディアンで深見の弟子の出世頭の一人。
「
バカ殿様」の初代爺役であり、東MAXこと東貴博の父親である。
深見とは対照的に早々にテレビの世界に軸足を移したことから内心深見には快く思われていない。
フランス座低迷の噂を聞き深見に自身の弟子の工場で働くことを勧める。
後にたけしと対面した際に深見が劇場にたけしを売り込んでいたことを明かし、兄弟子としてたけしを羨む発言をした。
演:風間杜夫
劇場・タカラ座の社長。
麻里の借金の申し出に快く応じるも、フランス座に拘る深見のことが理解できず毒づく。
演じる風間杜夫は大泉洋と同じく「青天の霹靂」からの続投。
演:R-指定/DJ松永(Creepy Nuts)
深見が勤務する町工場の従業員。廃業したばかりの深見に無神経なネタ見せ要求をし、深見の「リアルに左手の指が全部ない」というネタにドン引きする。
用語
深見千三郎が仕切る浅草のストリップ劇場兼演芸場。
たけしの青春の舞台だが、時代の変化によって客足が遠のいていく。
同名のストリップ劇場がモデルだが、現在はストリップを廃業し「浅草フランス座演芸場東洋館」となっている。
ちなみに外観はセットで中身は長野県の上田映劇を使用している。
通称「くじら屋」。
たけし達の憩いの居酒屋。
文字通り鯨料理を提供しており、鯨(げい)を食って芸を磨けが謳い文句。
実在の店であり、ビートたけしがしばしば語るように浅草の「粋」を体現する店で
昭和から多くの芸人に愛される名店。
撮影では中身はセットだが出される料理は店から実際に出前している。
この時も「劇団ひとりから金取れねえよ」と代金は一切取らなかったそうな。
余談
- 映画では最初からたけしはきよしとコンビを組んだ様に描かれているが、史実では当初別の弟子とコンビを結成し、コントでデビューを狙っていた。ところがその弟子がアルコール中毒で芸能活動が出来なくなってしまい、そこにきよしからの執拗な誘いがあってツービートを結成したことが明らかにされている。「浅草キッド(歌)」はこの弟子との思い出を歌ったものである。
- 本作の舞台となった1970年代の浅草は非常に衰退しており、夜7時以降は店がほとんど閉まって人通りも少なく、場外馬券売り場(現:ウインズ浅草)目当ての客しか来ないという悲惨な状況だった。現在のような昔ながらの街並みが残る観光地として注目されるのは1980年代後半以降となる。
- 深見がテレビに出なかったのは自身が舞台出演にプライドを持っていたこと、テレビは芸の幅を狭めるのが理由と映画では描かれているが、一説には深見が戦時中の徴用工時代に旋盤で左手の指を誤って全て切断してしまったことが原因でテレビからのオファーが無かったともされる。
なお、原作には深見が左手が原因でテレビに出られないことを嘆く描写もある。
- 主演の柳楽優弥は本作でたけしの癖の再現、漫才、そしてタップダンスと3つのパフォーマンスを見事に披露。柳楽自身は撮影に向けての猛特訓を振り返り「これまでの俳優人生で最も難しい役だった」と吐露している。
ちなみに映画のタップダンス指導はたけし主演の映画「座頭市」でもタップダンス指導をした火口秀幸(別名:HIDEBOH)、所作指導はたけしモノマネの第一人者である松村邦洋が担当している。
また、タップダンスは撮影前に俳優の習得可能なレベルを探るため監督の劇団ひとりも実際にレッスンしたという。
- エンディングテーマの使用に関してもちょっとしたドラマがあり、ひとりは当初から桑田佳祐の楽曲使用を熱望していたが、最初のオファーでは桑田から「いや、浅草キッド(歌)使えよ
、バカヤロー」と断られてしまう。
しかし、完成間際の映像を見て楽曲との親和性の高さを実感した桑田は一転して使用を快諾したという。
楽曲使用が決まったのはクランクアップ直前というギリギリのタイミングであった。
映画2作で前作のミスチルに続いて桑田を射止めるとか劇団ひとり凄すぎる・・・
「おい、そこの。下手なイイネしてくれんな。」
「は?」
「こんな下手な記事でイイネしたら、こいつがダメになっちまう。」
「おい、読者だぞ。 偉そうによ。何なんだよ、お前。」
「「Wiki編集者だよ、バカヤロー」」
- 正に名作。 国内の配給会社じゃなくて最終的にNetflixに拾われたのも運命的だった。 -- 名無しさん (2023-01-30 06:28:34)
- ネトフリ資本の作品って権利的な事も有って制作のモチベが下がりがちだけど、ひとりにとっては最高だったろうな -- 名無しさん (2023-01-30 09:13:30)
最終更新:2023年02月08日 09:56