軟水/硬水

登録日:2024/06/07 Fri 16:17:32
更新日:2025/01/12 Sun 22:46:12
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軟水/硬水とは、水の水質の区分である。
英語でもsoft water/hard waterと呼ばれる。



概要

水というものは多くの生命にとっては生命線そのものであり、それは人間も例外ではない。
しかし、環境や地域が違えば水質が違うのは当然である。
水はそうした環境の違いによってマグネシウムやカルシウムといったミネラルの含有量が異なっており、それを硬度(単位:mg/L)で表記して区別している。
大雑把に言えば「総硬度(マグネシウム・カルシウムの含有量)」の値が高ければ硬水、逆に少なければ軟水と覚えればよく、国際的な基準では120mg/L以上が硬水、それ以下の基準であれば軟水となっている。

ただし日本で多用される基準となるとまた少し話は変わり、100mg/L未満を軟水、300mg/L以上を硬水とし、二者の間の硬度に属する場合を中硬水(または中軟水)と定義付けている。

なお、日本の水道法では硬度が300mg/L以上になると水道水に使ってはならないと定められている。
もっとも、そもそも水道の水源に使うような水でそこまでミネラル分が多い水域はなく、硬度が高いとされている千葉県東京都でも水道水の硬度の平均値は80mg/Lくらいが上限のようだ。
また軟水であっても、硬度によって微妙に味が違うと言う人もいる。


何故水質が違うのか?

一般的に欧州諸国やアジア諸国(特に大陸の国々)は硬水の地域とされ、我が国日本は軟水の地域とされている。
これは地質や環境が影響しており、欧州諸国やアジア諸国の場合、石灰岩の多い地質であることと、流れる川も山から海までが緩やかな地形が多い為に雨や雪解け水が濾過される過程でマグネシウムやカルシウムが溶け込みやすく、硬水になりやすい傾向にあると言われている。

対して日本には石灰岩の多い地質が少なく、山から海までが急な地形が多いことから、マグネシウムとカルシウムが溶け込みにくい為に軟水となっている。

もっとも、これには例外…つまり地域差もあり、ヨーロッパ諸国やアジア諸国でも軟水の地域や国はあるし、日本でも少数ではあるが硬水の地域が存在する。

例えば、関東地方や沖縄県は全体的に硬水傾向であるし、近畿・東海地方、中国・四国地方、東北地方、北海道は軟水の地域となっている。
九州地方は地域によって幅が大きく、宮崎県などは軟水傾向である一方、熊本県は全国でもトップクラスの硬水地域となっている。


水質の違いによって発生するトラブル

水質が違えば当然ながらトラブルも少なからず発生する。
例えば、上で述べたように軟水を飲み慣れている地域の人が硬水傾向の水を使う国に旅行や移住で行った場合には以下のようなトラブルが起こる。
  • 水道水を飲むか、飲料水でも硬度の高いものを飲んで下痢になる
  • 軟水にしか対応していない石鹸を使い、泡立たず洗えない、もしくは肌荒れを起こす

下痢になるのは硬水が腸の蠕動運動を促してしまうことによる。
肌荒れが起こるのは、硬水には石鹸の成分と結合してしまう性質があり、それが溶けずに石鹸カスとして肌に残り、毛穴や汗線を塞ぐことで肌に悪影響を与えてしまうからである。
そのため、硬水傾向にある国では、硬水でも使える石鹸、シャンプーを使っている。
旅行や移住で硬水傾向にある国に行った場合は、現地のホテルに置いてあるものや、販売されている石鹸、シャンプーを使うようにしたい。
軟水用の石鹸やシャンプーを使うのはアウトである。

また、水は蒸発すると中に含まれる石灰が残ることで白く跡が残り、スケールや水垢と呼ばれる中々落ちない厄介な汚れになる
軟水でも起こる事象だが、硬水はより石灰成分が多いため、更に起きやすい。
無論ちゃんと対処しなければその石灰が段々層を形作っていき、遂には水道管を詰まらせてしまう。
実際ヨーロッパでは硬水が原因でポンプが故障したり、蓄積された石灰によって水道管が詰まるトラブルが起きやすいと言われており、そうしたトラブルへの対処を専門とした業者もいる程なのだ。

また上述のように下痢になることがあり、あまりに極端な硬度の場合はそもそも水道水を飲む文化が定着していないこともあり、飲み水は全部店で買うのが当たり前という地域も。
ちなみにイギリスの有名なジョークで、「紅茶はアメリカとかよりうちで淹れた方が美味い」というものがある。
実際、お茶も水の硬度に影響を受けることから味が変わる可能性は十分にあり得る。
…といってもヨーロッパの水質前提の淹れ方が定着しているというだけで、どちらが美味いかは判断しかねるが。


日本にも多種多様なミネラルウォーターが売っているが、この中でも注意したいのは以下の物。
  • エビアン(304mg/L)
一応飲みやすいと語ってはいるが、下痢しやすい人は注意。

  • コントレックス(1468mg/L)
日本に正規輸入されているミネラルウォーターの中では最強の超硬水。
メーカー自ら「500mlを少量ずつ1日かけて飲んでみてください」「ご自身の体調を観察しながら飲用することをお勧めいたします。」と語るほどのレベルで、愛飲者曰く「便秘持ち以外飲む必要が見当たらない」という代物。

  • ペリエ(390mg/L)
炭酸入りに騙されやすいが、地味に硬度が高い。

ちなみに、以前日本でも2021年までは正規輸入があった「ゲロルシュタイナー」は1310mg/Lと輪をかけて高い。でもこれも炭酸入りなのでナチュラルに行けてしまい下痢に悩まされる人が多かった。

  • DonatMg(5169mg/L)
一部のショップで手に入るもはや下剤。


硬水・軟水の持つ特徴

上で散々トラブルを書いてきたが、硬水も軟水もそれぞれの特徴が存在する。

硬水には上でも書いた通り慣れない人や胃腸の弱い人が飲めば下痢に見舞われる事もあるが、それは裏を返せば便通によいことを意味しており、程よく飲めば腸内環境を整える事にも繋がる。

軟水は下痢を起こすことはまずなく、お腹が下っているときでも飲みやすいが、マグネシウムやカルシウムがほとんどないので夏の暑い季節のようにミネラル分が失われやすい時期にいくら飲んでも失われたミネラルを補給することはできない。

また料理に関しても両水の性質は異なり、軟水はその浸透性に優れた性質から野菜の煮込みや出汁料理、さらには炊飯に向いていると言われている。
日本で出汁文化が発展していったのもこれが要因と言えるのだ。

対して硬水は肉料理やパスタ料理を作る際に真価を発揮する。
これは硬水に含まれるマグネシウムやカルシウムが肉に含まれるアミノ酸と結合する事で灰汁が溶けだし、それによって臭みを取り除くことが出来るのである。
パスタ料理に関しても強いコシを残したまま茹で上げる事が可能となる。
これがヨーロッパにおいて煮込み料理が発展していった背景である。

なので料理をおいしく作るコツとして軟水と硬水の使い分けを覚えておいて損はないとも言えるのだ。


酒造文化との関係

実は軟水と硬水は酒造文化との関係も無視できない。
ヨーロッパはワインの製造が盛んであり、その種類も豊富であるが、これはほとんどの水が硬水ゆえにあまり飲むに適していなかった為という背景がある。
時代や地域によっては飲用に適う水よりも酒類の方が安価という場合も有り、その代わりとして作られるようになったと言われているのだ。

一方軟水が主体の日本では読んで字のごとく日本酒の製造が盛んである。
これは軟水の性質が日本酒と相性が良い為で、特に日本酒の製造が盛んな県として知られる新潟県も軟水地域である。
ただし実は軟水で仕込む酒は失敗率も比較的高いのだが、その理由は発酵しにくい性質の為に高度な技術を必要としているからである。
その代わり、上等な日本酒に仕上がりやすく、新潟県が酒どころなのは米どころであるだけでなく、水にも関係しているのだ。


アクアリウムとの関係

水と言えばペット業界、特にアクアリウムとも切っては切り離せない。
一生の大半を水中で生きている魚達なのだから、水の性質に多大な影響を受けるのもごく自然な話である。
軟水を好む魚を硬水で飼おうものなら当然ながら拒絶反応を起こして病気になるのは勿論、最悪の場合は死亡に繋がりかねない。
勿論、硬水を好む魚を軟水で飼うのもよくない。

アクアリウム分野においては飲料水などの一般的な基準とは異なり、50mg/L付近を軟水と中硬水(中軟水)の境目として扱う事が多い。
理由としては、ブラックウォーターと呼ばれる極端に硬度の低い水域に生息する魚や、日本の軟水よりもさらに軟らかい水でなければ上手く育たない水草の存在が挙げられる。彼らの飼育には水道水の塩素などを中和するだけでは不十分で、水質調整の面で区別が必要となる。
加えて硬度単位も、飲料水などで目にするmg/L(アメリカ式)ではなく°dH(ドイツ式)が用いられることが多いため、この点においても注意したい(おおよその比較としては1mg/L=0.056°dH)。

傾向としては、南米の魚(アマゾン川およびその支流に生息するカラシンやシクリッド)は軟水&酸性寄りを、東アフリカ産の魚(特有のメダカや一部の湖に生息するシクリッド)は硬水&アルカリ性寄りを好むことが多い。
中性を好むナマズや金魚等の場合は、基本的に硬度も中間と考えて問題ない。
例外も存在するのであくまで傾向、ではあるが。

そこで、元々飼う地域の水質が軟水だったり、逆に硬水だったりして魚の体質と合わない場合は、硬度を下げたり上げたりするものを水槽内に入れることで解決する。
硬水にしたければ石灰分の塊であるサンゴの欠片やカキ殻など、軟水にしたければソイルとよばれる黒土を焼き固めた底砂や、流木やピートモスといったものがある。
また中硬水(中軟水)を保ち、軟水にも硬水にもあまり傾けたくない場合は、大磯砂や川砂など少量の石灰分を含む底砂を用いる事が多い。
上記の通り魚だけでなく水草とも関係があり、軟水を好む種類もあれば逆に硬水を好む種類もあるので、同じ方法で水質を調整する。
そうして自分の住む地域の水質が飼いたい魚・育てたい水草と合わないアクアリストは、先達が苦労と試行錯誤を重ねた末に導き出した知識や手法をもとに、水槽内の環境づくりに日々励んでいるのだ。

なお、これらは専ら淡水(フレッシュウォーターアクアリウム)の話であり、海水(マリンアクアリウム)の場合はそれ自体が既に硬水の濃縮液みたいな成分の為、硬度を気にされるケースは殆どない。
ただし硬度という指標は使わないものの、一部のサンゴは骨格を成長させるためにカルシウムを大量に消費するので、それらを飼育する際にカルシウムリアクターという装置でカルシウムを補給する場合がある。
また淡水と海水の中間である汽水をアクアリウムに用いる場合も、飼育水を軟水に傾けるソイルや流木をレイアウトに使わないよう注意が必要。


余談(日本における硬水地域)

多少は上でも述べたが我が国は基本的に軟水の国である。
しかしながら何事にも例外というものは存在し、日本全国で見れば沖縄県と千葉県、埼玉県が水の硬度では上位に並ぶ県として知られている。
これはこの三県の内千葉県と埼玉県の地層が火山土の蓄積によってできた関東ローム層、
沖縄県は日本では数少ない石灰岩層である為で、ミネラルが溶け込みやすい地層となっているからである。
特に沖縄県と千葉県はなんと200mg/Lを超える地域も存在しており、世界的に見ればそれほどでもないが日本国内に限定すればかなりの硬度を誇っているのだ。
その為、軟水の都道府県出身の人が硬水の地域に引っ越した際にシャンプーや石鹸が中々泡立たないという現象に見舞われたり、上述した硬水傾向の国でのトラブルのように下痢に見舞われてしまう事も珍しくないという。

対して近畿地方・東海地方、東北地方は全体的に粘土質の地層が多いので軟水の傾向にあるようだ。



追記・修正は硬度を調整しながらお願いします。


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最終更新:2025年01月12日 22:46