VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)

登録日:2024/07/25 (木) 08:47:35
更新日:2025/07/11 Fri 15:45:26
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概要


VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)とは、サッカーにおいてプレー映像を見ながら主審や副審をサポートする審判員のこと。 また、それに伴う技術やシステムのことを指す。

2016年8月より北米3部のUSLプロフェッショナルリーグで試験的に導入され、翌年度から世界中に普及。2018年のロシアワールドカップでも採用され、同年から日本のJリーグ(J1のみ)でも導入された。

ピンとこない人のためにすごくシンプルに言うならば「サッカー版ビデオ判定システム」である。


導入の目的


既に野球やバレーボールなど、世界的に普及している複数の球技では、誤審を防ぐためのビデオ判定のシステムが導入されていた。

だが、他の競技と違い主審が選手と一緒に走りながら判定を行い、攻守が目まぐるしく入れ替わるサッカーでは他競技のようなビデオ判定のシステムを導入するのは難しく、長い事導入がされていなかった。

一方で、サッカーは同様の理由から審判も体力面・精神面とも負荷がかかるため誤審リスクが高いのも事実で、その問題を改善するために多くの熟慮を重ねて、補助として導入されたのがこのVARシステムというわけ。

ただ、他競技におけるビデオ判定のシステムとは大きな違いが多数あるため、それも含めて解説していきたい。

VARの目的

VARはあくまでも「フィールド上の審判団のサポート」「試合結果に直結する事象の中で、明白な間違いを無くすこと」が目的となっており、何でもかんでも判定、介入するわけではない。


VARが介入できる事象


①ゴールの判定

一番シンプルで、ゴールか否かを判定するもの。ゴールが決まった際に、そこに至るまでの一連のプレーを確認し、オフサイドやアタッカーのファウルなどでゴールが取り消しされる可能性がある場合に介入する。

逆に一度はオフサイドなどでゴール認定されなかったものがVARで覆る可能性もある。
そのため、VARを導入している試合では微妙なオフサイド判定ではプレーを止めず、アドバンテージと同様に流す「オフサイドディレイ」が常態的に行われる。

なお、ワールドカップなどで使われているゴールの線を割ったかどうか際どいシーンの確認を素早く行う技術は「ゴールラインテクノロジー」というVARとは別の技術で、こっちは導入費用が高額*1なためよっぽどの規模の大会でないと導入されず、大抵はこの点もVARで賄われる。
三笘の1mmなどゴール枠外でのライン判定もVARの領分。

当然ではあるが、確認する以上は曖昧にするわけにもいかないので厳格に判定される。
オフサイドの判定対象は「腕以外」で、足先や肩などがわずかに出ていただけでも容赦なくノーゴール判定される(例:パリ五輪スペイン戦の細谷のゴール取り消しなど)
それによって一見何の問題もないゴールまで取り消しがされるようになってしまい、本来のオフサイドの意義から逸脱してしまうのではとの議論もある。

②PKの判定

PK(ペナルティキック)か否かを判定するもの。

VAR導入以前はゴール前に選手が密集した中でのプレーにおいて、ゴール前の選手の動きが主審から見えず明らかなハンドリングやファウルなどが見逃されることも多かった。
要はマラドーナの「神の手」ゴールみたいなケースである。
これによりPK獲得によるゴールのチャンスが広がりやすくなったが、当然ながら逆に「ハンドかと思ったら胴体だった」とか「ファウルかと思ったらクリーンなタックルだった」等、PK判定がVARで取り消されることもある。その際のファウルによって選手に提示されたレッドカードやイエローカードが取り消されることもある。

③レッドカードの判定

一発退場か否かの判定。
その中でも試合中で特に起こりやすいのは「危険な接触プレー・ラフプレー」「決定的得点機会の阻止」である

悪質な接触プレーについては主審が見逃してしまうことは少ないものの、審判の立ち位置や見る角度によってはコンタクトの瞬間がはっきり見えないケースもあり、「とりあえずイエローカードを出したが、改めて映像を見ると想像以上に危険な接触だった」という事象はそれなりにある。
特に近年ではスパイク裏を見せてのタックルや踏みつけ等、相手に怪我をさせかねないプレーに関しては厳しくとる傾向にあり、偶発的なもの*2だったとしてもレッドカードになるケースが多い。
ボールと無関係なところでのラフプレーや主審から離れた場所で起こった行為をVARが発見してくるケースなどもある。

またファウルによる決定的な得点機会の阻止*3の場合、攻撃側選手の進行方向や守備側選手のカバーリングが間に合うかどうかが影響するのだが、プレイ中だと選手も審判も常に動いているために正確な位置関係を掴むのは難しい。
守備側の選手のカバーリングが間に合うと判断してイエローを出したが、改めて映像を確認すると位置的にカバーリングが間に合わないからレッド、というケースは多い。

あくまで「一発レッド」への介入のみで、イエロー2枚目での退場可能性などは介入対象外。
イエロー案件への介入を許容すると機会が増えすぎるためだろう。
その建前上、介入の結果として新たにイエローを提示することは少ないが、全くないというわけではない(イエローの場面に介入して判定が変更されずイエロー、は普通にある)。

また、イエロー2枚目で退場する場面にVAR介入してレッド判定されるという場合もある(大会規定においてはイエロー累積とレッドによるその後の罰則が異なる事が多いため)。

④警告・退場者の人違い

一番のレアケース。イエローカード・レッドカードを異なる選手に提示してしまった可能性がある場合に介入する。

もちろんめったにないケースだが、主に乱闘や複数ディフェンダーの絡んだファールの場合(例:25年の湘南-広島)などに意外とあり得る出来事。
退場のみならず警告累積によっても後続試合の出場停止が発生する規則上、取違い案件によって出場停止者の変更などといった面倒なインシデントを未然に対処するためのケースである。

上記の4つの事象に関して、重大な見落としや明白な間違いがあった場合にのみVARが介入することとなる。
いずれもサッカーにおいては試合の行方を左右する重要なシチュエーションを判断するものとなる。
そしてそれ以外の事象(ボールが相手選手に触れてピッチ外に出たのに相手側のスローインになった等)には介入できない。


このように書くと「VARって介入できる事象が起きた時だけ仕事して、それ以外の大半の時間は遊んでるのか?」なんて思われる方もいるかもしれない…が、決してそんなことはない。
対象となる事象はいつ、どのタイミングで起こるかわからない。そのためVARルームでは常に試合映像を見ながらコミュニケーションをとり、ゴールが決まったり対象になりそうなプレーがあった際には即座に確認できるようにしているのだ。*4

VARの流れ


VARシステムが用いられる試合では、ビデオ室にVAR担当の審判とそれをサポートする審判(AVAR:アシスタント・ビデオ・アシスタント・レフェリー)によるチームが置かれる。
彼らはピッチ外のVOR(VAR専用のルーム)から試合映像を見つつ、介入すべき事案が発生した場合にはピッチ上の主審と交信し、ビデオ録画の内容や主審とのやり取りをもとに判定を行うか決める(必要ないと判断した場合はそのままプレイ再開に至る)。ここまでの過程は主に「チェック」と言われる。(チェックが行われている際には、主審は片方の耳に手を当てるジェスチャーをする。)

そこで介入することが決まった場合、主審はVARの情報のみで判断する「VARオンリーレビュー」か、両手の指で四角を描くジェスチャー(ハンドシグナルという)を取った後、主に主審が一度ピッチ隣に配置されているモニターでリプレイ映像を見て判断する「オンフィールドレビュー(OFR)」を行い、最終的なジャッジを判断する。


OFRの場合はスタジアムのビジョンにも該当場面の映像が同時に映され、観客席がそれを見てざわつくこともしばしば。

通常のリーグ戦ではアメリカのMLSぐらいでしかあまり見られず主にワールドカップなどの国際大会においてだが、他競技のビデオ判定同様、レフェリーが判定の変更についてアナウンスする場が設けられることもある。えー主審の〇〇です(半ギレ)

VARの目的は「誤審を減らす」ことではなく「はっきりとした明白な間違いをなくす」ことが目的であるため、あくまでもVARの介入は明白なミスジャッジがないかどうかの確認であり、介入したからといって必ずしも判定が変わるわけではない。

また、上の流れを見ればわかるようにあくまでもVARは主審の判断に委ねられ、監督や選手がVARを要求することはできない。
プロ野球やバレーボールなどビデオ判定がある一部の球技において、一定の回数だけビデオ判定を要求できる「リクエスト制度」のようなものはない。
これが他競技のビデオ判定とは大きく違うポイントである。もし目に余る要求を見せた場合はイエロー対象となる。
余談ながらモニターが配置されているエリア(RRA)やVORは審判以外立入禁止であり、選手やチーム役員などが立ち入った場合前者はイエロー対象・後者は1発レッド対象となる。


問題点


VARの導入で大きく変化したサッカー界だが、当然それによっての問題点もある。

一番よく言われるのはVARの判定に平均で1分20秒前後の時間がかかるため、その間ゲームが止まることになり試合時間が伸びること。
サッカーはこの判定中でもタイマーを止めることがない分、時間がかかる判定であったり複数回介入する事象があればその分アディショナルタイムも蓄積され、10分以上とほぼ延長戦前半ぐらいの時間になってしまうことも珍しくない(21年の柏-札幌、24年の東京V-磐田など)。本田△「7↑分!?」
同時に、サッカーという競技の一番のハイライトであるゴールに(小さくない確率で)いちいち判定が挟まることで、趣を損なうというのも無視できないところである。

VARの機材は車で輸送されるが、車のトラブルなどでVAR機材が届かず中止になるケースもある(23年の新潟-柏で、VAR機材を載せた車が手配ミスで向かえなくなり、その試合はVARなしで決行された)。
また落雷などの予期せぬトラブルで機器に不具合が起こった場合VARをストップし、対戦するチームの監督同士の了承を得てVARなしで試合を決行するケースも(一時的なものの場合、復旧して以降はVARが適用される)。

上述するゴールラインテクノロジーと違い外部の車で機材を運ぶことからスタジアムが古く最新設備を整えるのが困難な場合でも実施は可能だが、一方でVARの運用に複数人(2~4人)の審判を要するため、そのための教育を進める必要もある(Jリーグでの導入が今のところJ1のみとなっているのはこの問題が一番大きいとされる)2023以降は1人の審判で運用する「VAR Light」も想定されているが…

そして、どうあがいても判定するのは人間・ピッチ上の主審であるという性質上、誤審を完全に防ぐということはできない
オフサイドの判定でさえ、映像から判定の基準となるタイミング・線を設定するのは人間なので、その基準次第でオン/オフは変わり得るし、
さほど悪質ではなさそうな反則がVARによってフォーカスされた結果、必要以上に重いと感じられる判定が下る場合もあり、
VARを通したのに盛大に誤審した、というケースも主要リーグで年に数回くらいはあり得ることだったりする。
+ 例:2023年のプレミアリーグ
  • 2023年2月11日(22-23シーズン) アーセナル対ブレントフォード
ブレントフォードの同点ゴールにおいて、アシストとなるプレーが実はオフサイドだったのだが、VARが介入したのにVAR側がそのプレーの瞬間をちゃんと検証せず、覆らなかったというミス。
通常、ゴールに繋がる各タッチごとに(明らかにオンサイドな時でも)一つ一つ止めてチェックしているものだし、確認している映像にも当然その瞬間が含まれていたのだが……

  • 2023年2月11日 クリスタル・パレス対ブライトン
ブライトンの先制点となるはずのゴールにおいてVARが介入、選手同士がカメラアングルで重なっていたせいはあるが守備側の異なる選手をオフサイドラインの基準に選んでラインを作ってしまい、正しく判定すれば際どいがオンサイドだったと思われるものがオフサイドになるというミス。
前述した、線を引く基準は人間が決めるが故のヒューマンエラーである。

……見ての通り同日の試合で起こった事案であり、しかも結果がどちらも1-1だったので試合結果に直結したミスということになってしまった。

リヴァプールのゴール(映像を見ればわかるが明白にオンサイドである)に対し、主審はオンサイド判定していたが副審がオフサイドと判定して一旦取り消し。
VARが介入してオンサイドであることを確認したが、現場の判定がオンサイドのままだと勘違いして、『主審の判定支持=ゴール』の意で『チェック完了(Check complete)』と主審に伝えてしまったため、
主審はノーゴールの判定が支持されたと認識、そのまま試合を再開させてしまい、VAR側が過ちに気がつくも規則上もう判定は覆せなくなった……という、VARは正しい判定を行えていたのに、勘違いと連携不足の合わせ技で誤審になったという逆にお粗末すぎる事案。

このときは元々VAR否定派が多いイングランド内のみならず、世界的にもその存在意義を問う議論が大紛糾する事態となり、
英国の審判協会も公式に誤審を認めて謝罪*5、対策として「チェック完了」で済ませずに支持する判定がどちらなのかを明示するようにプロセスを改定することとなった。


……とはいえ、今まで見過ごされていたミスジャッジが「大幅に減らせるようになった」のは間違いないところであり、「ゼロにならないならあってもなくても同じ」というのは極論ではあろう。

問題点はあれど、今後よりVARがサッカー界にいい影響を与えていく事に期待していきたい。


VAR確認中

誤植の可能性

VAR終了

追記、修正!

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最終更新:2025年07月11日 15:45

*1 VARの設備は大部分が専用車両を用意することで賄えるが、ゴールラインテクノロジーは会場単位での導入が必要なのもネックである。

*2 コンマ数秒足を出すのが遅れた結果、相手選手の足を踏んでしまったとか

*3 英語だと「Denying an Obvious Goal Scoring Opportunity」。略して「DOGSO(ドグソ)」と呼ばれることが多い

*4 VARルーム内での実際のやり取りに関しては、Jリーグ公式などがアップしている動画で見ることができる

*5 上記の経緯が事実として確認されているのも、事の重大さを受けて審判団の音声記録を公開したことによる。