VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)

登録日:2024/07/25 (木) 08:47:35
更新日:2025/05/19 Mon 18:37:44
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概要


VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)とは、サッカーにおいてプレー映像を見ながら主審や副審をサポートする審判員のこと。 また、それに伴う技術やシステムのことを指す。

2016年8月より北米3部のUSLプロフェッショナルリーグで試験的に導入され、翌年度から世界中に普及。2018年のロシアワールドカップでも採用され、同年から日本のJリーグ(J1のみ)でも導入された。

ピンとこない人のためにすごくシンプルに言うならば「サッカー版ビデオ判定システム」である。


導入の目的


既に野球やバレーボールなど、世界的に普及している複数の球技では、誤審を防ぐためのビデオ判定のシステムが導入されていた。

だが、他の競技と違い主審が選手と一緒に走りながら判定を行い、攻守が目まぐるしく入れ替わるサッカーでは他競技のようなビデオ判定のシステムを導入するのは難しく、長い事導入がされていなかった。

一方で、サッカーは同様の理由から審判も体力面・精神面とも負荷がかかるために誤審リスクが高いのも事実で、その問題を改善するために多くの熟慮を重ねて、補助として導入されたのがこのVARシステムというわけ。

ただ、他競技におけるビデオ判定のシステムとは大きな違いが多数あるため、それも含めて解説していきたい。


VARが介入できる事象


①ゴールの判定

一番シンプルで、ゴールか否かを判定するもの。といっても全部のゴールに判定をするわけではなく、オフサイドやアタッカーのファウルなどでゴールが取り消しされる可能性がある場合に介入する。

逆に一度はオフサイドなどでゴール認定されなかったものがVARで覆る可能性もある。
そのため、VARを導入している試合では微妙なオフサイド判定ではプレーを止めず、アドバンテージと同様に流す「オフサイドディレイ」が常態的に行われる。

なお、ワールドカップなどで使われているゴールの線を割ったかどうか際どいシーンの確認を素早く行う技術は「ゴールラインテクノロジー」というVARとは別の技術で、こっちは導入費用が高額*1なためよっぽどの規模の大会でないと導入されず、大抵はこの点もVARで賄われる。
三笘の1mmなどゴール枠外でのライン判定もVARの領分。

当然ではあるが、確認する以上は曖昧にするわけにもいかないので厳格に判定される。
オフサイドの判定対象は「腕以外」で、足先や肩などがわずかに出ていただけでも容赦なくノーゴール判定される(例:パリ五輪スペイン戦の細谷のゴール取り消しなど)
それによって一見何の問題もないゴールまで取り消しがされるようになってしまい、本来のオフサイドの意義から逸脱してしまうのではとの議論もある。

②PKの判定

PK(ペナルティキック)か否かを判定するもの。

VAR導入以前はゴール前に選手が密集した中でのプレーにおいて、ゴール前の選手の動きが主審から見えず明らかなハンドリングやファウルなどが見逃されることも多かった。
(有名事例としてはマラドーナの「神の手」ゴール・マラドーナやルイス・スアレスなどの神の手セーブが代表例。まあマラドーナについては彼への忖度な気もしないでもないが…)

これによりPK獲得によるゴールのチャンスが大きく広がったが、逆にPK判定がVARで取り消されることも、その際のファウルによって選手に提示されたレッドカードやイエローカードが取り消されることもある。

③レッドカードの判定

一発退場か否かの判定。

悪質な接触プレーについては主審が見逃してしまうということは少ないものの、「とりあえずイエローカードを出したが、想像以上に危険な接触だった」みたいな場合はそれなりにある。
ボールと無関係なところでのラフプレーや主審から離れた場所で起こった行為をVARが発見してくるケースなどもある。

あくまで「一発レッド」への介入のみで、イエロー2枚目での退場可能性などは介入対象外。
イエロー案件への介入を許容すると機会が増えすぎるためだろう。
その建前上、介入の結果として新たにイエローを提示することは少ないが、全くないというわけではない(イエローの場面に介入して判定が変更されずイエロー、は普通にある)。

また、イエロー2枚目で退場する場面にVAR介入してレッド判定されるという場合もある(大会規定においてはイエロー累積とレッドによるその後の罰則が異なる事が多いため)。

④警告・退場者の人違い

一番のレアケース。イエローカード・レッドカードを異なる選手に提示してしまった可能性がある場合に介入する。

もちろんめったにないケースだが、主に乱闘や複数ディフェンダーの絡んだファールの場合(例:25年の湘南-広島)などに意外とあり得る出来事。
退場のみならず警告累積によっても後続試合の出場停止が発生する規則上、取違い案件によって出場停止者の変更などといった面倒なインシデントを未然に対処するためのケースである。


全ての事象に介入するわけではなく基本的には上記の4例のみだが、いずれもサッカーにおいては試合の行方を左右する重要なシチュエーションを判断するものとなる。


VARの流れ


VARシステムが用いられる試合はビデオ室に主審(VAR)と副審(AVAR)が置かれ、彼らはピッチ外のVOR(VAR専用のルーム)から試合ビデオを見つつ、介入すべき事案が発生した場合にピッチ上の主審と交信。
主審はプレイが止まった際、ビデオ録画の内容をもとに判定を行うか決める(必要ないと判断した場合はそのままプレイ再開に至る)。ここまでの過程は主に「チェック」と言われる。

そこで介入することが決まった場合、主審はVARの情報のみで判断する「VARオンリーレビュー」か、両手の指で四角を描くジェスチャー(ハンドシグナルという)を取った後、主に主審が一度ピッチ隣に配置されているモニターでリプレイ映像を見て判断する「オンフィールドレビュー(OFR)」を行い、最終的なジャッジを判断する。

OFRの場合はスタジアムのビジョンにも該当場面の映像が同時に映され、観客席がそれを見てざわつくこともしばしば。

通常のリーグ戦ではアメリカのMLSぐらいでしかあまり見られず主にワールドカップなどの国際大会においてだが、他競技のビデオ判定同様、レフェリーが判定の変更についてアナウンスする場が設けられることもある。えー主審の〇〇です(半ギレ)

VARの目的は「誤審を減らす」ことではなく「はっきりとした明白な間違いをなくす」ことが目的であるため、あくまでもVARの介入は明白なミスジャッジがないかどうかの確認であり、介入したからといって必ずしも判定が変わるわけではない。

また、上の流れを見ればわかるようにあくまでもVARは主審の判断に委ねられ、監督や選手がVARを要求することはできない。
プロ野球やバレーボールなどビデオ判定がある一部の球技において、一定の回数だけビデオ判定を要求できる「リクエスト制度」のようなものはない。
これが他競技のビデオ判定とは大きく違うポイントである。もし目に余る要求を見せた場合はイエロー対象となる。
余談ながらモニターが配置されているエリア(RRA)やVORは審判以外立入禁止であり、選手やチーム役員などが立ち入った場合前者はイエロー対象・後者は1発レッド対象となる。


問題点


VARの導入で大きく変化したサッカー界だが、当然それによっての問題点もある。

一番よく言われるのはVARの判定に平均で1分20秒前後の時間がかかるため、その間ゲームが止まることになり試合時間が伸びること。
サッカーはこの判定中でもタイマーを止めることがない分、時間がかかる判定であったり複数回介入する事象があればその分アディショナルタイムも蓄積され、10分以上とほぼ延長戦前半ぐらいの時間になってしまうことも珍しくない(21年の柏-札幌、24年の東京V-磐田など)。本田△「7↑分!?」
同時に、サッカーという競技の一番のハイライトであるゴールに(小さくない確率で)いちいち判定が挟まることで、趣を損なうというのも無視できないところである。

VARの機材は車で輸送されるが、車のトラブルなどでVAR機材が届かず中止になるケースもある(23年の新潟-柏で、VAR機材を載せた車が手配ミスで向かえなくなり、その試合はVARなしで決行された)。
また落雷などの予期せぬトラブルで機器に不具合が起こった場合VARをストップし、対戦するチームの監督同士の了承を得てVARなしで試合を決行するケースも(一時的なものの場合、復旧して以降はVARが適用される)。

上述するゴールラインテクノロジーと違い外部の車で機材を運ぶことからスタジアムが古く最新設備を整えるのが困難な場合でも実施は可能だが、一方でVARの運用に複数人(2~4人)の審判を要するため、そのための教育を進める必要もある(Jリーグでの導入が今のところJ1のみとなっているのはこの問題が一番大きいとされる)2023以降は1人の審判で運用する「VAR Light」も想定されているが…

そして、どうあがいても判定するのは人間・ピッチ上の主審であるという性質上、誤審を完全に防ぐということはできない
オフサイドの判定でさえ、判定の基準となるタイミング・線を設定するのは人間なので、その基準次第でオン/オフは変わり得るし、
さほど悪質ではなさそうな反則がVARによってフォーカスされた結果、必要以上に重いと感じられる判定が下る場合もあり、
VARを通したのに盛大に誤審した、というケースも主要リーグで年に数回くらいは普通に聞かれたりする。
イングランドプレミアリーグでは、2023-24シーズンのトッテナム・ホットスパーvsリバプールにおいて
  • リバプールのルイス・ディアスのゴールが決まり*2、主審は一旦認定するも副審がオフサイド判定を行い取り消し→
  • VARが確認したが、『オンサイドである』という自分のチェック内容を主審に伝えることを忘れる→
  • なおかつ主審が最初の判定を覆しノーゴールにしていたことも忘れた状態で『主審の判定支持=ゴール』の意で『チェック完了』と主審に伝える→
  • 主審はノーゴールの判定が支持されたと認識、そのまま試合が再開してしまい判定を覆せなくなる
という、勘違いと連携不足の合わせ技というお粗末すぎる誤審が発生。
元々VAR否定派が多いイングランド内のみならず、世界的にもその存在意義を問う議論が大紛糾する事態となった。

……とはいえ、今まで見過ごされていたミスジャッジが「大幅に減らせるようになった」のは間違いないところであり、「ゼロにならないならあってもなくても同じ」というのは極論ではあろう。

問題点はあれど、今後よりVARがサッカー界にいい影響を与えていく事に期待していきたい。


VAR確認中

誤植の可能性

VAR終了

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最終更新:2025年05月19日 18:37

*1 VARの設備は大部分が専用車両を用意することで賄えるが、ゴールラインテクノロジーは会場単位での導入が必要なのもネックである。

*2 検索すれば当該場面の画像・動画はすぐ確認できるが、明白といっていいレベルでオンサイドである