ばいばい、アース

登録日:2025/03/18 Tue 01:59:30
更新日:2025/04/21 Mon 15:52:16
所要時間:約 6 分で読めます




世界の秘密を斬り開け

ばいばい、アース』冲方丁による小説作品。
2000年にハードカバーで刊行。その後角川文庫版が2007年~2008年にかけて全4巻で刊行された。


【概要】

SF作品を数多く手掛けている冲方丁*1による2作目の小説である。
本作は、地球とはまた異なる世界が舞台である。
動物の特徴を受け着いた獣人(中には昆虫をモチーフとした者たちが混在している)のいる世界でたった1人生まれた「人間」が自分の居場所と在り様を模索していくストーリーである。
唯一、人間であることから、他の種族から白い目で見られ、孤独の中にいる少女の行きつく先がどうなるのかが見どころである。

一方で設定を細かく作りこんでいるためか、専門用語の多さにより難関な印象も受ける。考察しがいのある文章であり、読み応えがあると言えよう。

メディアミックスとしては、「ヤングキングアワーズ」(少年画報社)にてコミカライズが連載された(作画:麻日隆)
また2024年7月~9月にテレビアニメが放映された。

【あらすじ】

様々な動物の姿をまとう獣人が住まう世界に、
ラブラック=ベルは唯一の"人間"として生まれた。

牙も毛皮も鱗もない彼女は"のっぺらぼう"と呼ばれ、
どこにも自分と同じ種族を見つけることができずに、もの寂しさを感じながら日々を過ごしていた。

「私も、世界と交じり合いたい」

そんな想いに胸を焦がし、身の丈ほどの大剣<唸る剣ルンディング>と共に、
自分のルーツを探す旅に出ることを決意する。
その代償として、数々の試練が待ち受けるとも知らずに。
(テレビアニメHPより引用)

【キャラクター】

・ラブラック=ベル
CV:ファイルーズあい
「私、旅にでるための試練を受ける」
本作の主人公。
この世界で唯一の「人間」の少女。
このため周囲からは「のっぺらぼう」と呼ばれ白い目で見られてきた。
「剣の国」で幼い時に出会った大剣「唸る剣(ルンディング)」を用いて豪快なアクションで敵を薙ぎ払う。
ルンディングは幼い時に、城に保管されていた部屋において互いに惹かれ合うかのように見つけ、それ以降自身が信じられる唯一の「友」のような存在である。

自分と同じ種族に出会いたい」という願いを胸に旅の者(ノマド)になるべく、様々な試練と向き合っていくことになる。

・クエスティオン=アドニス
CV:内山昴輝
「どうしてこの剣を振るうのが俺なのか、分かった気がする」
ネコ耳が生えている月瞳族。
人には明かさない「ある理由」により自分の剣を持たず、他人の剣を盗んでいる。なお他人の剣ながら、彼が振るう時は彼の宿すものを示すように「?(クエスティオン)」の刻印が刻まれる。
出会った当初はベルの仲間として彼女を支える立場にあったのだが、
過去に因縁があったティツイアーノが魔に堕ちたのを知った彼は、だんだんと自責の念に駆られ、心の闇に囚われていく。
結果、飢餓同盟の闇に飲み込まれ、その首領であるドランブイに心酔する結果になり、ベルに立ちはだかる存在になっていく。

・ラブラック=シアン
CV:諏訪部順一
「卒業する者に師匠についての記憶は必要ない」
月瞳族でベルの育ての親であり剣術の師匠である。
旅の呪いにより、自身の剣を「教示する」こと以外で使うことが出来ないとされる。
物語序盤にて、ベルの旅立ちに即して、最後の試練を与える。その際に「呪い」を受け継ぐことになるのだが、その際彼女はラブラックの記憶を失うことになってしまった。

・キティ=ザ=ナッシング
長耳族。
ベルが旅に出て最初に出会った相手で、「ナッシング(愚者)」の名を示すように終始無言で感情も薄く、目的もなくうろついては空腹や傷の回復のために無機物を含めた色んなものを食べているというよく分からない子供。
またものを食べるとすぐ傷が癒えるという異様な特性をも持っているが、謎な割りになぜかベルに寄ってくる事の多い節はある。

・キティ=ザ=オール
CV:花江夏樹
「こんばんは。お嬢さん。何かお探しですか?」
長耳族。
最初ベルと出会った際はまるで「不思議の国のアリス」に出てくるウサギのような風貌であったが、後に10代前半の少年みたいな容姿になる。とは言え、その見た目ながら「オール(賢者)」の名が似合う老成した言葉使いを話し、ミステリアスな雰囲気も相まって人生経験の深さを物語っている。
ベルと出会い(その際「」と言えるキティ=ザ=ナッシングの名を教えた)、何かと彼女を裏で支える心強い存在。

・シャンディ=ガフ
CV:日野聡
月瞳族。
過去にシアンから剣を教わっていたことから、ベルからすれば兄弟子みたいな存在である。
剣の国へやってきたベルの保護者のような役割になっている。
剣士団のトップで、剣士団を通じて何かとベルに依頼を出すこともある。

・シェリー
CV:早見沙織(歌:田中彩子)
月瞳族。
剣の国の王の娘にしてガフの許嫁である。
雨の日の中、街で彷徨っていたところをベルと出会った。
箱入りで育ったためか、その際は傘の差し方も分からないどころか、なにかと奇想天外なことをやってのけるレベルに常識がなかったため、周囲を呆れさせた。
城の筆頭歌士で彼女の歌唱は様々な人を魅了する。

・ギネス
CV:榎木淳弥
弓瞳族。
作戦の作戦立案を担当する楽隊の脚本家であるが、なかなか自身の成果を発揮することが出来ないでいる。
ティツィアーノとの戦いでは改めて自分と向き合い、状況打開するための脚本を書き上げる。

・ベネディクティン/ベネット
CV:小清水亜美/豊永利行
剣楽隊の演出で雌雄同体の水族(マーメイド)である。
ティツィアーノとの戦いにて、べネディクティンは片目を負傷した際、「私の中で、女が眠りにつくのが分かる。もう起きないかもしれない」とつぶやいた後は男性の容姿になった。*2

・ドランプイ
CV:沢城みゆき
剣作家。闇に堕ちた者が巣くう「飢餓同盟」の首魁。
王に懐疑をしたものの、結局答えは得られず、闇に心を閉ざしてしまったアドニスに取り入り、飢餓同盟への参画へいざなう。
またシアンとは旧友の仲で、アドニスへの剣の修行を依頼。
彼女の巧みな言葉にアドニスの心は奪われ、彼女から「『已然形(ポスト・フェストゥム)』の剣」を貰い、飢餓同盟に忠誠を誓う結果を作る。

・ローハイド王
CV:津田健次郎(正義)/佐藤せつじ(悪)
剣の国の王で、正義と悪、2つの顔を持つ。
ちょうど天使のような羽を持つ側が「正義」。真ん中付近でいかつい顔を有しているのが「悪」である。
旅の者になろうと考えるベルにその資格にふさわしいか、さまざま「使命」を与えていく。

【用語】

・旅の者(ノマド)
国の定めた法律と都市から離れて、国の外へ出ていくことが可能である者。
剣の国では旅の者になるためには、さまざまな試練をクリアしなければならない。
自身のルーツを探すためにノマドを希望するベルもそれに向けて奮闘することになる。

・剣の国(シュベルランド)
本作の舞台となる国。
城下町一帯は都市(パーク)とよばれ、様々な仕事を業務ごとに決められた「楽器による音楽」で実行。剣と魔法が存在している。
住人は生まれた際、「正義」と「悪」のどちらかに割り当てられると言う法(テーマ)*3が存在している。

…また王国には代々、「兄王(フォルチュネ、幸福な王子)」「弟王(ファタール、不幸な王子)」「姉姫(ベロネット、美しい王女)」「妹姫(レードゥロネット、醜い王女)」と呼ばれる役割を担う者が必要だとされており、先代の「兄王」はローハイド王。またかつてシアンは「弟王」、ドランプイは「妹王」の役割に選ばれていた。
そして当代にその名を請け負う候補としてベル(妹姫)、シェリー(姉姫)、ガフ(兄王)、アドニス(弟王)の名が、彼らの背景と素質によって挙げられていくが…

+ 4つの役割の由来
名前の由来は、フランスの作家で『美女と野獣』(ヒロインがベル)の作者の1人でもあるジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモンの作品(教訓話)『二人の王子さま』と『美しい娘と醜い娘』から。

ファタールとフォルチュネは『二人の王子さま』のメインキャラで、双子の王子ながら方や「20歳まで不幸を負う」と言う呪いじみた祝福を仙女から貰い、その不運のせいで物心つかない内に死んだ事にされ庶民として苦難によって鍛えられて育ったファタールと、方やその「祝福」を恐れた母の願いで(仙女にそれを否定されるも)「願った事が何でも叶う」祝福を貰い、しかし皮肉にもその幸運のせいで増長し母も呆れ仙女から祝福の選択間違いを指摘される程のわがままボンボンと化したフォルチュネ、生き別れた兄弟の皮肉な巡り合わせの物語。

ベロネットとレードゥロネットは『美しい娘と醜い娘』の主役姉妹で、天性の美貌で貴族と結婚するも文字通り「顔だけ」しか取り柄が無かったせいで会話する楽しみもない事に失望した夫に実家に送り返されたベロネットと、不細工なせいで人生に諦観するもある日暇な時間に家の図書室で読んだ金言から「勉強により自分を高める事」の大切さに気づき、学問で中身を高め年上の男性と結ばれ、ベロネットを再び夫と暮らせるようにするため彼女の中身を鍛える事になるレードゥロネット、二人の相次いでの内面の成長の物語。

またボーモンの作品には「cheri(シェリ、愛しいひと)」なる名の王子がメインの「怪物になった王子さま」なる話もあるが、作者がそれを意識して「シェリーという女性」を出したのかは謎。

・聖星(アース)
この世界の空に浮かぶ星。本作の題となる言葉でもあるが…。

・剣楽
剣の国の剣士が行う儀式的な剣闘のことを指している。
この戦いをつうじて、己れの存在を問う行為ともされている。
ちなみに、剣士達の振るう剣にはそれぞれ「刻印(スペル)」と呼ばれる言葉が刻まれており、その言葉が剣士の道を指し示すものとされている。
ベルの「唸る剣」も含めなぜかそれら刻印は英語に由来したもので、アドニスの刻印等一部を除いて殆どは逆さ読みだが…。

・魔法
ファンタジーアニメなら定番の要素である。
本作では、火・水・光などを生じさせる。
空間に印を書き出すことで生じる(決して某「綴る!」的なものではない)筆記魔法や「式」を展開する演算魔法がある。

・唸る剣(ルンディング)
ベルの装備する大剣。本作の世界では剣のために用いる鋼が植物のように生えてくるのだが、その中でもひと際重い古いユリ科の鋼鉄で出来ている。
剣には「EREHWON」(エレフォーン、無何有郷)なる謎の意味の刻印が刻まれており、まるで斬馬刀のように巨大な大剣だがベルは難なく振るうことが可能である。
行き場を失いつつあった幼いベルが、剣に呼ばれるかのように運命的な出会いを果たした。
ちなみにある場面では、この剣を指し示す形容詞として「未然形(アンテ・フェストゥム)」なる言葉が使われている。

・旅の呪い
旅を志す者は、得てして先代からその血を介してその呪いを継承することになる。
ベルの場合、教示者のラブラックに関する記憶を失っただけでなく、「斬る」ことが安易にできず、剣を「砕いて」しまうことが増えてしまった。

・時計石(オクロック)
ベルがペンダントとして身に着けている様々な色に変わる宝石である。
色を変えることができ(青・緑・黄・赤など)、時刻の経過によって変わる。

・剣楽隊
剣士たちの集団戦闘のための部隊。
指揮者=楽隊を率いて指揮を行う
演出者=隊をまとめる
脚本家=戦略・作戦立案者
伴走者=非戦闘要員。王への報告を行う。
剣士達=歩兵
上記の役割分担がなされる。

・鍵盤楽器(キーボードヴェッセル)
旅の扉を開くための「鍵」となる楽器。
「MOONWORK」の刻印がある。
この楽器の音を奏でることが出来れば、旅の者として認められる。
現代社会でいう「グランドピアノ」そのままの形をしている。
演奏方法も同じである。

・飢餓同盟
この世を楽しめなくなった者たちが集う、「闇」に住まう集団。
彼らが現れると、都市では警戒の知らせがくる。
そのおどろおどろしい様相は住民からも恐れられている。

【テレビアニメ版】

2024年7月~9月までテレビアニメ第1シーズンが放映された。
アドニスが闇落ちするところまでを描いている。
作中に出てくる専門用語は、字幕を交えて作中のセリフを介して解説されることがあり、本作の世界観の把握に寄与する要素となっている。
反面、カットされたところもあり、内容を理解するだけでも大変だとする声も存在する。

アニメーション制作はライデンフィルム。

第2シーズンは2025年4月より放送している。

OP:「FACELESS」ASCAによる1期オープニングテーマ。
ED:「I LUV U 2」LMYKによる1期エンディングテーマ。

OP:「Aufheben」Who-ya Extendedによる第2期オープニングテーマ
ED:「MOONWORK」ASCAによる第2期エンディングテーマ。

追記・修正は自分のルーツを知ることが出来たときた時にお願いします。

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最終更新:2025年04月21日 15:52

*1 蒼穹のファフナーの脚本を手掛けたことでも有名

*2 自分の戦ってくれるベルのためであるとか、片目を負傷したことによって精神的に変化したなどが理由として挙げられる

*3 地球の国でいう法律のようなもの