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ナシ(果物)

登録日:2026/03/25 Wed 23:55:12
更新日:2026/08/13 Thu 21:00:48
所要時間:約 10 分で熟します




ナシ(梨)とは、バラ科ナシ属(Pyrus)の果樹である。
本稿では同じく果樹として栽培されるセイヨウナシ(洋梨)、チュウゴクナシ(中国梨)についても解説する。




概要

果樹として栽培される「梨」は、大きく分けて
  • ニホンナシ(和梨(ワナシ))(P. pyrifolia)
  • セイヨウナシ(P. communis)
  • チュウゴクナシ(P. bretschneideri)
の三者に分けることができる。
英語圏ではそれぞれ「Japanese pear」「Pear(Common pear)」「Chinese pear」と呼ばれるが、ニホンナシとチュウゴクナシをひっくるめて「Asian pear」と呼ばれることもある。

名称の語源には諸説あり、江戸時代中期の学者・新井白石は、中心部ほど酸味が強いことから「中酸(なかすみ)」が転じたものと述べている。
他にも、
  • 果肉が白いことから「中白(なかしろ)」あるいは「色なし」「性白実(ねしろみ)」にちなむ
  • 風があると実らないため「風なし」と呼んでいたから
  • 果実の風味から「甘し」と呼んでいたのが訛った
  • 漢語の「梨子」の読みが変じた
……ともされる。


日本における歴史


我が国におけるナシの原種、ヤマナシ。小石川植物園にてmakinomantaro撮影。

ニホンナシは、本州(中部以南)、四国、九州に生育する野生種のヤマナシ(P. pyrifolia var. pyrifolia)が栽培化され、品種改良されてできたものである。
一説にはヤマナシと、同じく我が国の梨の野生種で果皮が緑色がかるアオナシ(Pyrus ussuriensis var. hondoensis)が交配されてできたものともいわれる。
さらに、その起源をさかのぼると中国産の北支山梨(ホクシヤマナシ)(P. ussuriensis var. ussuriensis)や杜梨(トリ)(マンシュウマメナシ、P. betulifolia)などの原種に行きつく。この原種が中国で改良されたのがチュウゴクナシで、原種が小アジアから南東ヨーロッパにかけて伝播し、品種改良されたのがセイヨウナシである。

古くは弥生時代から食用にされてきたようで、静岡県の登呂遺跡から本種の炭化した種子が出土していることがその根拠となっている。『万葉集』にはナシの花の美しさを詠んだ歌が3種記載されているほか、『日本書紀』で、693年の持統天皇の治世に、五穀とともに(くわ)(からむし)*1、栗、蕪青(あおな)(カブ(蕪)の古名)の5種の有用植物の栽培が奨励されたという記録が残っている。
江戸時代には確実に果実を収穫するための栽培技術が確立し、人気の果樹となった。
東京都千代田区にある皇居東御苑の「果樹古品種園」には、江戸時代当時に作出された「大古賀」や「類産梨」「今村秋」などの品種が現在も保存されている。
明治時代には、千葉県松戸市において「二十世紀」が、神奈川県川崎市で「長十郎」がそれぞれ発見され、その後、長らくニホンナシの代表格として盛んに生産されるようになる。
戦後しばらくは「梨」と言えば「二十世紀」か「長十郎」であったが、1959年に「幸水」、1965年に「新水」、1972年に「豊水」が作出されると、「長十郎」の栽培は減少し、現在は「二十世紀」や「幸水」「新水」「豊水」の「三水」が占めることとなった。

一方、セイヨウナシは明治時代に欧米諸国との国交が盛んになったのを皮切りに、海外産の果樹とともに導入された。
当時の日本の気候はセイヨウナシにはあまり合わなかったようで、山形県などの東北地方の一部にのみ定着し、現在は東北地方や信越地方などの寒冷地域で栽培されている。
ニホンナシと比較して熟果の見た目があまりよくないことからあまり人気が出ず、昭和時代の戦後以降になって、一般家庭の果樹として普及をみるようになった。また、現在のように生食されるようになったのは1980年代以降のことで、それまでは主に加工用ないしは調理用だった。

チュウゴクナシは明治初期に「鴨梨(ヤーリー)」が、大正初期に「慈梨(ツーリー)」が導入されたが、いずれも普及しなかった。現在では北海道青森県長野県岡山県のごく一部の地域で、非常にわずかな量が栽培されているのみである。


植物としての梨類の特徴

ニホンナシ(P. pyrifolia)


自宅にてmakinomantaro撮影。品種は「豊水」。

前述のとおり、世間一般で「梨」といえばほとんどがこれ。
樹高は15mの高木になるが、果樹として栽培する場合は管理が難しくなるので、棚を作ってそこに枝を這わせ、低木状に仕立てて育てる。葉は丸みを帯びた卵形で、周囲に密な鋸歯がある。
3月下旬から4月にかけて、葉の展開とともに、5枚の白い花弁からなる花を咲かせる。8月下旬から11月ごろにかけて、リンゴに似た形状の直径10㎝~18㎝の果実を実らせる。
果皮色は黄褐色のものと黄緑色のものがあり、それぞれ「赤梨」「青梨」と区別される。「幸水」や「豊水」「晩三吉(おくさんきち)」など、現在栽培されるニホンナシの多くは「赤梨」であるが、「二十世紀」「八雲」「菊水」「新世紀」「秋麗」「瑞秋」などは「青梨」である。
果皮色の相違には果皮を覆う層の相違が大きくかかわっており、「赤梨」は果実の成長に伴いコルク層で覆われていくために果皮が黄褐色になる。一方、「青梨」は果皮がクチクラ層に覆われるため、黄緑色になるのである。
果肉は純白で甘みが強く、果汁に富んでいる。果実の尻の方が甘味が強く、芯付近は酸味が出る。シャリシャリとした食感がウリだが、これは果肉内に「石細胞」が多く含まれているためである。この食感から、英語圏ではSand pear(砂ナシ)とも呼ばれる。
都道府県別生産量トップ(令和2年)は千葉県(18200t)で、以下茨城県(13700t)、栃木県(13200t)と続く。

セイヨウナシ(P. communis)


東京都千代田区四谷にてmakinomantaro撮影。品種は「ラ・フランス」。

小アジアから南東ヨーロッパを原産地とする。樹高は10mの高木になり、葉は長さ12cm程の卵形で、縁にかすかな鋸歯があり、先端が尖る。4月から5月にかけて、芳香のある5枚の花弁からなる白い花を咲かせる。早生種は8月から収穫が始まり、9月~10月が食べごろとなるが、たいていの品種は10月から11月の初めに収穫され、11月下旬~12月に食べごろを迎える。
果実は瓶型ないしはくびれの薄いヒョウタン型で、品種によってはニホンナシのように球形に近い形状になったり、ややでこぼこしていたりするものがある。
果皮の色は緑色や黄褐色、黄色、赤色などさまざまであるが、日本で栽培・流通する品種はもっぱら緑色系統で、熟すと黄色みが増す。収穫直後は果肉は硬いままであるので、追熟して柔らかくする必要がある。
食べごろを迎えた果実表面には「さび」と呼ばれる茶色の微細な斑点を生じることがあり、あまり見た目がよくないが、これは腐っているのではなく、よく熟しているサインである。
なお、熟した果実の果肉はとろりとした食感で甘味が強く、芳醇である。これは、セイヨウナシの果肉には石細胞が少ないためである。
代表品種に「ラ・フランス」「バートレット」「ル レクチエ」などがある。生産量のおよそ7割を占める「ラ・フランス」は1864年にフランスで発見された品種だが、気候が合わず、また病害虫にも弱かったので、現在はフランスではほとんど栽培されていない。

チュウゴクナシ(P. bretschneideri)


画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Nashi.jpg ウィキメディア・コモンズより。 著作者:Goele(Public domain) 品種は「鴨梨」。

名前の通り、中国で品種改良されたものである。現在は朝鮮半島や台湾でも栽培される。樹高は3m~8mの低木~高木になり、葉は長さ5㎝~11cm程の卵形で、縁にかすかな鋸歯があり、先端が尖る。4月から5月にかけて、5枚の花弁からなる白い花を咲かせる。8月ごろに果実を実らせ、10月~11月にかけて熟する。
果実は変異に富み、セイヨウナシのように瓶型ないしはニホンナシのように丸みを帯びた形状になる。セイヨウナシと同じように、収穫直後は果肉が硬くて甘味が少ないため、追熟が必要となる。しかし、食感はニホンナシのようにシャリシャリとしており、風味もニホンナシに似ている。
日本では中国産の「鴨梨(ヤーリー)」(鴨が首をすくめたような形状であるため、この名がある)や、北海道で「鴨梨」の偶発実生が発見されたことに由来する「千両梨(身不知)」が栽培されている。


食べ方

ニホンナシはリンゴの果皮を剥くのと同じ要領、具体的に言えば果物ナイフで縦に8等分などして皮を剥き、中心部を取り除く方法で果皮を剥くことができる。
そもそもニホンナシはあのシャリシャリとした食感がウリなので、たいていは食べやすいように果皮を剥いてから生で食する。一応はシロップ漬けの缶詰や清涼飲料水、ゼリー、タルトなどの洋菓子にも利用されるが、セイヨウナシに比べて、そういった加工品を見る機会はあまり多くない。
生食以外にも、薄く切ったものをリンゴの要領で冷麺の具やサラダにするほか、プロテアーゼというたんぱく質を分解する酵素を含んでいるので、すりおろしたものを肉にまぶすと肉が柔らかくなるという。ただ、この方法で肉を柔らかくした場合、すりおろしたナシの果肉をしっかり取り去らないと焦げやすくなってしまうので、ステーキにするのは難しく、シチューなどの煮込み料理の場合に向いている。韓国では果汁をプルコギのタレに混ぜて使う。

セイヨウナシの場合、熟したものをくし切りにして芯を取り除き、それから果皮を剥くと食べやすい。また、ミキサーにかけてピューレにしたものはムースやシャーベットにするほか、食べやすい大きさに切ったものはコンポートやタルトにして食べる。
フランス料理においては、食べやすい大きさに切ったセイヨウナシに生ハムまたはクリームチーズを添えたサラダ様のものがオードブルとして人気があるほか、鴨のローストに合わせたものが人気がある。

チュウゴクナシは前者2者のように生食するほか、砂糖やシロップなどで煮て缶詰にしたり、お菓子の材料にもしたりする。広東料理や台湾料理のデザートには、チュウゴクナシをシロップで煮て熱々のまま供するものがあるという。
また、「食べ方」とは少し異なるが、漢方薬としても利用される。杏仁(きょうにん)(アンズの(さね))と一緒に煎じて飲む「杏梨飲」が知られている。これは鎮咳作用のある杏仁と、去痰作用のあるチュウゴクナシを一緒に飲むというものである。


選び方&保存方法

市場やデパート、スーパーマーケットの梨の選び方やそれぞれの保存方法を品種ごとに見ていこう。

ニホンナシは若干扁平気味で、お尻の部分がどっしりとしているものを選ぶとよい。「赤梨」は果皮に若干赤みが差してきた頃に、「青梨」は黄緑色の果皮が黄色くまだらに熟してきた頃、いわゆる「虎熟れ」と称される状態になったころが最も美味であるとされる。また、軸がしっかりとついていて干からびていないもの、果実にハリと重みがあるものがジューシーでおいしいとされる。
店で売られているニホンナシはリンゴとは異なり、お尻を上向きにしていることが多い。これは、糖度の高いお尻の部分を上向きにすることで果実全体に甘みが回るようにすることと、果梗の切り口から水分が抜けていくのを防ぐためであるとされる。冷蔵庫に入れる際も、お尻部分を上向きにしておくのがよい。
また、大体の果物にいえることだが、冷蔵庫で冷やしすぎると甘みが薄れてしまうので、食べる1時間前に冷蔵庫で冷やすのがよい。

セイヨウナシとチュウゴクナシの果実は形状に変異がまま見られるうえ、そもそもが追熟ありきの果物であるため、両者の選び方に相違はあまりない。いずれも形状がややでこぼこしていたり左右の均等が取れていなかったとしても、それで風味に影響が出るというわけではないので、果実に傷がないものや、一部分が不自然に柔らかくなっていないものを選ぶ。
収穫からあまり時間のたっていないセイヨウナシやチュウゴクナシの果肉には、わずかに澱粉質が含まれている。このため、ゴリゴリとした硬い食感で、甘みもあまり感じられない。ところが、2週間~1か月程度追熟させると、この澱粉質がブドウ糖やショ糖、果糖などの糖に変わっていく。さらにセイヨウナシの場合、元々含まれている不溶性のペクチンが追熟によって溶性のペクチンに変化するため、とろりとした食感になるのである。ただ、追熟にもコツがあって、部屋の気温が30℃になるような場所に置いておくと高温障害を起こして風味と食感が悪くなるため、初めの10日間は冷蔵庫内で追熟させ、それから約20℃の場所で追熟させる。
食べきれない場合は、櫛切りにして芯を取り去りレモン汁をかけたものをジップロックに入れて冷凍庫に置いておくとよい。


梨をモチーフにしたキャラクター

  • ふなっしー(千葉県船橋市のマスコットキャラクター)
  • トリピー(鳥取県のマスコットキャラクター)
  • 稲城なしのすけ(東京都稲城市のイメージキャラクター)
  • なーしくん(愛媛県愛南町のマスコットキャラクター)※二ホンカワウソとのハイブリッド


梨に関連する言葉あれこれ

  • 梨の(つぶて)
礫(小石)を投げても帰ってこないことから。
そこから、連絡しても何の返事も来ないことを言う。
「梨」は「無し」にかけた洒落で、特に意味はない。

  • 梨園(りえん)
演劇界のことだが、日本ではもっぱら歌舞伎界のことを指す。
唐の玄宗皇帝が宮中の音楽隊で演奏する者や舞踊を披露する者を選ぶ際に、梨の木が植えてある庭園で奏者を養成した。こうした人々が「皇帝の梨園の弟子」と呼ばれたという故事が、この慣用句の由来である。

  • 梨の皮は乞食に剥かせ、瓜の皮は大名に剥かせよ
梨の果皮は薄く剥いた方がいいので、丁寧に剥く乞食にむかせた方がいい。の果皮は厚く剥いた方がいいので、あまり物惜しみをしない大名にむかせるといい。そこから転じて、状況や内容に応じて適切な選択をするべきだということ。
しかし「乞食」が差別用語とされる現在は、このことわざはあまり使われなくなっている。
類語表現:梨の皮は姑に剥かせ柿の皮は嫁に剥かせよ、適材適所、は餅屋

  • Pear-shaped
英語圏で女性の体形を表現する際に用いる表現。良い意味でヴィーナスの像のような豊穣な体、悪い意味で下ぶくれの体形を示す。概してウエストより下に体脂肪が多い場合をこのように呼び、ウエストより上に体脂肪が多い場合をApple-shapedと呼ぶ。

  • ありのみ
「梨」が「無し」に通ずる忌み言葉になるので縁起が悪いからとこのように表現されることもある。
また、新潟県新潟市の明治6年創業の老舗和菓子屋さんで販売されるナシのお菓子の名前でもある。これはナシの果肉をジャム上になるまで煮たのち、寒天と水あめを加えてナシの輪切りの形に成型し、乾燥させて粉砂糖をまぶしたお菓子である。

  • 苦悶の梨
かつて西洋で使用されたとされる拷問器具。その名の通り洋ナシにした形状をしている。実物の画像や使用方法を検索するなら自己責任で。
……実は当時の技術では強度が足りず、人体を破壊する前に梨の方がぶっ壊れるので、実用ではなく脅しを目的に作成されたのではという説も。



追記・修正は梨を剥いてからお願いします。




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最終更新:2026年08月13日 21:00

*1 クワ科の草本で、茎の皮から採れる繊維を編み、糸や衣類、紙などに加工して用いた。「苧麻(ちょま)」という名称でも知られ、現在も麻ひもや麻布の原料として栽培される