デモコンデス(MtG)

登録日:2011/01/22 Sat 10:04:07
更新日:2025/04/29 Tue 12:16:22
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デモコンデス とはマジック:ザ・ギャザリング(以下MtG)の用語である。

MtGにはいくつか敗北条件があり、そのひとつにライブラリーアウト(ライブラリー=山札が0枚になり、次のカードが引けなくなる)が存在する。
デモコンデスはそのライブラリーアウトによる敗北の内、特に有名なもの。


その原因となるカードがこちら、《Demonic Consultation》。日本語訳で「悪魔の相談」
通称デモコンである。

Demonic Consultation (黒)
インスタント(アンコモン)
カード名を1つ指定する。あなたのライブラリーのカードを上から6枚追放する。
その後あなたが指定したカードが公開されるまで、あなたのライブラリーの一番上のカードを公開し続ける。
そのカードをあなたの手札に加え、これにより公開された他のすべてのカードを追放する。

MtG最強クラスのサーチカード*1の一つ。
カードゲームにおいて強力になりがちな万能サーチカード群の中でも、たった黒1マナで好きな時に直接手札に欲しいカードを持って来れる破格の性能であり、2000~2004年に禁止・制限カードとして指定を受けるまで、様々な環境で猛威を振るった。
ただし「悪魔の相談」の名が指し示す通り、この破格の利益を得るには対価として悪魔に供物を差し出さなければならない。*2
そしてその供物とは、
  • あなたのライブラリーのカードを上から6枚追放する
  • 指定したカードが出るまでライブラリーを上から公開し続けて、公開した他のカードを全て追放する
というもの。
字面ではその恐ろしさが分かりにくいが、実際にやってみると凄まじいデメリットである。

仮に、デッキ…ライブラリーの中に1枚しか入っていない《セラの天使》を《Demonic Consultation》で指定したとしよう。
ところが、供物となる「あなたのライブラリーのカードを上から6枚追放する。」の6枚の中に不幸にもその《セラの天使》があった。

すると、どうなるか?

1.《セラの天使》が見つかるまで残りのライブラリーの上をめくり続ける。
  ↓
2.当然見つかる訳がないので延々とめくり続ける。
  ↓
3.ライブラリーのカードがなくなる。
  ↓
4.《セラの天使》は見つからず、公開したカードは全て追放。
  ↓
5.ライブラリーがなくなったので、ライブラリーアウトにより敗北 *3


……悪魔に無駄骨を折らせた代償はかくも恐ろしい。
当時としては並外れたカードパワーもあって、あちこちで悪魔と契約してしまったプレインズウォーカーたちの愉快な悲鳴が響き渡った。
以上のような現象、すなわちデモコンによる自爆のことを、自虐と反省の意味を込めてデモコンデスと呼ぶようになったのである。


ただし悪魔と契約した物語の中には契約者が悪魔を出し抜いて利益だけを得た者がいるように、このカードもそのリスクを低減する方法がある。
それは「指定するカードを工夫すればいい」のである。
上述の例で言えば《セラの天使》がデッキに4枚入っていると分かっている状態なら、ライブラリーの上から6枚の中に《セラの天使》が4枚も固まっていない限り、いくばくかのライブラリーを犠牲にして確実に手札に加えられるというわけ
もし《セラの天使》がすでに2枚手札に来ていたら、別のカードを指定して使うのもいいし、敗北のリスクを避けて使わないという方法だってある。

そして悪魔に支払う6枚+αの追放されたカードは、一見すると「もったいない!」と思ってしまうのだが、
「ライブラリーを最後まで使い切らないデッキならば、どの道使わずに終わってしまう無駄なライブラリーが存在する。ならばいくらかライブラリーが削れたって全く問題は無い」という戦略思考「デモコン理論」の発明に至る。*4

格ゲーで言うところの「死ななきゃ安い」に近いのだが、これはTCGという文化の黎明期だけあり非常に画期的な思考の転換だった。
ここから発展して

「ゲームに負けると書いてあるに等しいデメリットがあっても、それに見合うリターンがあるなら使う価値がある」
「デメリットがきついなら、デメリットの影響が出る前にそのカードパワーでゲームを無理矢理終わらせればデメリットはないも同然」

というMTGに限らない現在のカードゲームの通説の礎となり、従来のデメリット持ちカードの価値を大きく見直させたという意味では、同期の《ネクロポーテンス》と並んで偉大な存在と言える。
惜しむらくは歴史に名を残す暗黒期を築いてしまったので素直に賞賛できないことか。せめて「パワーカード」で収まって欲しかった…。

実際、当時の開発陣はネタカードのひとつとして作ったという。というのも、
  • 最初の6枚追放の時点で敗北のリスクがある
  • 追放したカードが二度と引けなくなる
  • そもそもサーチを使うということはデッキの中にある枚数の少ないカードを呼ぶための行為なので本末転倒
という理屈である。当然開発側にも「デモコン理論」なんて意識があるわけがない。
そして当時はよほどプロ志向が強くないかぎり、ほとんどのプレイヤーはまだまだ実物同士のトレードでカードを集めていた時代*5
つまり上述の「デッキに多く入れたカードだけを指定すればいい」という手段を取りたくても取れないプレイヤーが多かった。
「4枚あるのは弱いコモンカードだから、わざわざ悪魔に頼んで引き増したいものでもない。でも悪魔に頼んで引きたいレアカードはデッキに1枚しか入ってない」というジレンマを起こす。
おそらく開発側が想定していたのは「このジレンマを感じてもらう」というもので、「4枚積みの強力なカードを指定することでカードの水増し手段として使う」なんてことは考えてもいなかった。
まさかジレンマを感じるどころかレアカード4枚フル投入を全く躊躇わないようなガッチガチに悪魔対策をした影魔道士ダブリエルのような人が喜び勇んで契約しに行くとは思っていなかったのだ。

悪魔と契約するには準備が必要。その知識を得て準備がちゃんとできたプレイヤーでないと、悪魔を出し抜くのは難しくしゃれにならない代価を支払う必要がある。
だが同時に悪魔を出し抜いてきたプレイヤーにいくつもの華々しい勝利をもたらしたのだ。


ただしこれは、あくまでも確率論の話。確率に泣かされるのは、ポケモンのストーンエッジやきあいだまだけではない。
基本60枚のライブラリーから6枚を追放、実際はゲームが続いていればそれだけライブラリー枚数は減っているので、たとえデッキに4枚眠っているカードを選択しても最初に追放する6枚の中にお目当てのカードがあったせいでライブラリーを全部吹っ飛ばされたなんてことは確率的には起こりうるのである。
こういった劇的なデモコンデスでなくとも、指定したカードがライブラリーの底の方に眠っていたせいで土地や他の実用的なカードがあらかた吹っ飛んでしまったことで結局敗色濃厚になるということも起こりうる。
いくら「引けなかったカードはどれも同じ」と開き直るデモコン理論も、実際には開き直り切れない部分もあるのだ。


さて、デモコンの正しい(ある意味正しくない)使い方が分かってくると、このカードは類まれなパワーカードと認知されるようになり、大会でもたびたび見受けられた。
そしていくつかの試合では、プレイヤーを自爆させて(半ば自業自得ともいえるが)理不尽な敗北をもたらしたのである。
かのネクロの夏全盛期、1996年世界大会の決まり手もこれであった。1ゲームに2回も《Demonic Consultation》を唱えたことで、勝てたはずのゲームを落とし、目標にしていたタイトルを目前で逃してしまったのだ。
また、グランプリ00京都の決勝戦でも、初戦を勝利し二戦目も勝利目前という優勢のプレイヤーが、確実な勝利をものにするべく、ライブラリーに3枚眠っている《ファイレクシアの抹殺者》を指名してDemonic Consultationを唱えた。すると最初に追放された6枚に3枚の抹殺者の姿があり、デモコンデスによる敗北を喫し、そのまま三戦目も敗北、栄冠を逃すことになった。

唱えるべきではなかった、というのはいくらでも言える。しかし実際、勝ち目の濃い賭けなら挑むのに十分と考える者が勝ちを得る。
劇的な場所での敗北だから目立つのであり、彼らはこの戦法で何度も勝ちを得てきた。実際勝利をもたらした回数の方が多かったのだろう。
逆に野試合や、大会の序盤戦などでこのようなデモコンデスを起こしたプレイヤーも数々いたことだろう。今となっては忘れられているだけで。
悪魔は本当にいつ微笑むか分からないのである。そういう意味でも、なんだかフレイバー的に完成されたカードといえないだろうか。

悪魔「ご利用は計画的に」


さて、実際デモコンデスで勝敗が決した場面に遭遇したことがないと単なる笑い話、
あるいはコメント欄にあるように「そういった運要素を含めてカードゲームの醍醐味として受け入れなきゃいけないと思うがねぇ」と一言言いたくなるだろうが、
デモコンデスで勝敗が決した場面に遭遇するとめちゃくちゃむなしい……というより、観客も含めて「気まずい」。

使った側が怒ったり嘆いたりするのは「デモコンデスのリスクを加味した上で使っているのに怒るって……」とあきれて終わりだが、そういうのがなくても使われた側や見ている側が、なんか……こう……「え、これで決着?」とすごいもやもやする。
その試合が盛り上がっていればいるほど、そして重要であればあるほど、これで決着がついた時の「あっ……こ、これもマジックだから……うん……」という、しらけるというかげんなりというかもやもやというか……そういう気分がとても強くなってしまう。
唱えれば「圧倒的有利で勝利に近づく」「勝手に自滅して負ける」という意味では、デュエマの「出した時点で勝敗が決まってしまうこいつ」に近い。使われたら自滅を祈るしかないが、いざ本当に自滅されるとげんなりするアレである。

実際、現在のMTGは……というより、商売が軌道に乗っているカードゲームは、ゲームを大味にするようなパワーカードは時々あっても、
デモコンのような「問答無用で負ける可能性もあるがそれ以上のリターンを得られる可能性がある」類のカードはそもそも印刷すらされない。
これの教訓から意図して開発を避けている節がある。本国アメリカにおいても、さすがにこれを醍醐味として受け入れるにはハードルが高かったようだ
そもそも1マナのサーチ自体が健全ではないし、実際にデモコンデスで決着がついたときのあの空気を味わえば、「これもマジック」という気分にはなれど醍醐味なんて絶対に言えなくなる*6登場からもはや30年ほどが経過したカードなので、これはもう遊んでいた世代の差というものだろう。

もちろん後述の「わざとデモコンデスを起こす」の場合はまったく別。悪魔が微笑む時代にろくなもんはないのだ。



デモコンをデッキに入ってないカードを指定して唱えると、確定でライブラリーがすべて追放される。つまりわざとデモコンデスを起こせる。
そんなことしても次ターンにライブラリアウトで負けるだけだが、これを利用するコンボがある。

研究室の偏執狂/Laboratory Maniac (2)(青)
クリーチャー 人間・ウィザード

あなたのライブラリーにカードが無いときにあなたがカードを引く場合、代わりにあなたはこのゲームに勝利する。

2/2

「ライブラリーアウトしたとき、逆に勝利する」という効果の《研究室の偏執狂/Laboratory Maniac》を出した状態で、相手のターン終了時に対応してこれを実行すれば、そのまま自分のドローを迎えて勝利である。
現在デモコンが使える環境はヴィンテージとEDHくらいのものだが、だいたい適当なカードを指定して自分のライブラリーを吹っ飛ばしてもらったあと、《研究室の偏執狂》に類似した効果を持つ《タッサの神託者》《神秘を操る者、ジェイス》などを出して「ライブラリーがないので私の勝ちです」を行うという勝ち筋を持ったデッキになっている(もちろん普通にサーチとして使う場合もある)。
さらにはモダンでも、デモコンのリメイクである《大霊堂の戦利品》を採用したデッキで同じような勝ちパターンが用意されている。
この時指定するカードは「神河:輝ける世界(NEO)」で登場した《お前はもう死んでいる》にするのがおすすめ*7*8。後は《勝利の算段》とか《勝利の破壊》なんかもそれっぽい。
MOなどで使う場合は、いちいち文字を打つのもめんどくさいので《六番/Six》《呪詛/Hex》あたりが人気。この辺は人によって好みが異なる部分。

追放されるカードが表向きというのも重要で、追放領域から唱えられる《霧虚ろのグリフィン》などにとってはむしろ追放された方がアドバンテージというとんでもない状況を引き起こす。
デモコン登場から25年近くが経つが、悪魔との付き合い方もすっかり変わってきた。今となってはデモコンデスをリスクにしてのサーチより、むしろデモコンデス自体がこれらのコンボパーツになってしまっている。

悪魔「利用されたのは俺だ!」


余談ながら。

この強烈な効果ゆえに、別のゲームで似たようなカードが出ると必ず引き合いに出されるカードである。
たとえば遊戯王に《強欲で貪欲な壺》というカードが登場した時、このデモコンがたびたび引き合いに出された。
「自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外して発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。」という効果は、まさしくデモコンを強く想起させるものだった。
この10枚裏側表示という壺に食べさせるコストを論じる際、「デモコン理論」を持ち出すプレイヤーが多かったのだが、そもそも
  • 制限・準制限カードという概念がある
  • 名称指定のサーチを多用する
  • マナ・コストの概念がない
など、ゲーム性がまったく違うので議論する意味はない。*9
テキストは似ていてもゲームごとにリスクが異なるため、MTGの理論をそのまま流用しても意味はない。ゲームそれぞれにデモコン理論との向き合い方がある。

悪魔「知識を得たい?だったら俺に相談しなって!」

また、
「デモコンデスの項目なのに延々とデモコン自体の解説がダラダラ続けてあって、読んでて疲れる。デモコンの項目作ってそっちでやればよかったのに」
というコメントがあるが、「デモコンデスがデモコンの一側面にすぎない点」「デモコンデスが他の側面と不可分な点」などを考えていただきたい。
そもそも21世紀に入ると「真面目な用途でデモコンを使って自滅する」という意味のデモコンデス自体が皆無だし。
今はもっぱら特殊勝利の相方。悪魔との付き合い方というのは30年もあれば十分変わってしまうのだ。

でもカード自体ならともかく、なんでこんなニッチ極まりない記事が立っているんだろう……?



何故追記諦める必要がある?何を迷う修正がある?
奪い取れ!
今は悪魔が微笑む時代なんだ。


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最終更新:2025年04月29日 12:16

*1 欲しいカードを山札から探し出す事が出来るカード

*2 悪魔の教示者というカードが2マナで万能サーチ、悪魔らしいことをしていないというネタを受けてのこととも思われる

*3 厳密に言うと、敗北するのは"ライブラリーが0になった状態で、次にカードを引くことになったとき"である。しかしデモコンでクリーチャーをサーチするなら「相手のエンドに対応して使う」のが基本なため、直後に自分のターンが回ってきてドローできずに敗北する。

*4 ちなみに開発されたのはデモコンではなく《オークの司書》というまったく別のカード。こちらは「デッキトップのトップ8枚のうち4枚を無作為に追放し、残りの4枚を好きな順番で並び替える」というもので、この4枚の追放を「もう二度と使えないリスク」ではなく「元々引けないカードだったんだから気にするな」とポジティブに解釈したもの。

*5 デモコンと甲鱗はどっちもアイスエイジ初出。あのネタもあながちネタだらけとは言い切れない

*6 古き良き時代の大味なバランスという意味では立派な醍醐味である。

*7 なおこのカード、元ネタは「北斗の拳」だとマローが明かしている他、中国語版のカードネームは「蒼天の拳」での決め台詞「儞已經死了」になっている。

*8 正確にはこのケンシロウが攻撃する→「お前はもう死んでいる」「なに!?」のやり取り→相手が死ぬ、という流れが英語圏のネットミーム(画像リプ)となっており、これを元ネタにしたもの。海外でも「Omae Wa Mou Shindeiru」で通じることがある。

*9 たびたび比較されるカードゲームだが、遊戯王は「マナやチャージなどのリソース管理がない」「制限・準制限という概念がある」点がかなり異質。たとえカードの効果が似ていても簡単に比較できるものではない