生物系三大奇書

登録日:2012/01/03 (火) 22:14:59
更新日:2024/10/16 Wed 19:28:29
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生物系三大奇書とは、以下の三冊の書物を合わせた俗称である。

一般的に日本の『三大推理小説奇書』や中国の『四大奇書』などに比べると知名度は少し低いが、
いずれも生物学的に非常に奇妙且つ興味深い内容となっている。



鼻行類(びこうるい)


探検家エイナール・ペテルスン=シェイトクヴィストによって14科189種が発見された特異な哺乳類『鼻行類』についてまとめられた学術書。
著者はドイツの生物学者ハラルト・シュテュンプケ。1961年発行。

1942年に発見されたこの鼻行類は、恐らく食虫類(モグラの仲間)から進化したとされ、
『鼻』を歩行や捕食などの生活器官として進化させた奇妙な生物群である。

発見時点で南太平洋上のハイアイアイ群島にしか棲息していなかった。
また、ハイアイアイ群島に暮らす人々の間では鼻行類以外にも貴重な文化が築かれていた事などが本著には記されている。


なお、ハイアイアイ群島は1957年秘密裏に行われた核実験による地殻変動の影響で水没し、それに伴い鼻行類も絶滅してしまったとされている。
シュテュンプケをはじめとする鼻行類の研究者、及び資料や標本の殆どは現地に建てられたハイアイアイ・ダーウィン研究所に集約されていたが、
これらもまたこの事故/事件により失われており、書籍としての『鼻行類』は僅かに残されていたシュテンプケの遺稿を知人が纏め上げたものである。



La batanica parallela/平行植物


これまでその特異な性質から、生物学会では異端扱いされ続けてきた植物群『平行植物』についてまとめられた学術書。

著者は『スイミー』や『アレクサンダとぜんまいねずみ』などの絵本で知られるレオ・レオニ。1976年発行。


平行植物は、

  • 可視範囲内では黒にしか見えない特有の『平行色』
  • 知覚が通用しない『非実体性』
  • 世界の物理法則を無視した『超現実性』

などの共通した特徴を持ち、観察者によっては植物以外の存在にしか見えない場合もある。
またその性質から、まともな研究がほとんど成されてこなかった。

そもそも植物かどうかすら不明瞭だが、
一応『時空のあわいに棲み、われらの知覚を退ける植物群』と定義されている。


また余談だが、こういった奇妙な生物の学術書で植物を取り扱った書物はこれ以外にほとんど無い。



◆アフターマン


ドゥーガル・ディクソン著。
5000万年後、人類が滅んだ地球の生態系を支配する生物について描かれた書物。1981年発行。

食肉目のニッチを埋める肉食齧歯類『ファランクス』や大型偶蹄類のニッチを埋める有蹄兎類『ラバック』、大陸から渡った翼手類が飛ぶ事をやめ、花に擬態するようになった『フローアー』や水中生活に適応した『サーフバット』や大型肉食動物となった『ナイト・ストーカー』など独自の進化を遂げた『バタヴィア列島』のコウモリ群、サルのように樹上生活を行うトラ『ストライガー』、クジラ並に巨大化したペンギン『ヴォーテックス』などの奇妙な生物達が図鑑形式で紹介されている。

また、5000万年後の環境状況なども細かく考察されており、学術的に非常に興味深い内容となっている。

著者のディクソン氏は、この書物の他にも恐竜が絶滅しなかったらという前提で考察された『新恐竜』や、
遺伝子操作された500万年後の人類の末路を描く『マン・アフターマン』、
CG技術を駆使し500万年後~2億年後の生態系の推移を考察した企画『フューチャー・イズ・ワイルド 驚異の進化を遂げた2億年後の生命世界』なども手掛けている。


また、何を考えたかみんなのうたが本書をなんと作曲・アニメ化した事がある。
詳しくはアフターマン(みんなのうた)を参照。



追記・修正お願いします。




















以下衝撃のネタバレ。



『アフターマン』はともかく、他の二冊は一見真っ当な論文をまとめた学術書のようだが、実際にはフィクションの創作書物である。

特に『アフターマン』は前提として考察による創作だという事がはっきり書かれているのに比べ、
『平行植物』『鼻行類』は著書の中ではフィクションだという事が一切記されていない。
中に登場する発見者や学者などの人物もほとんどが架空の人物であり、『鼻行類』に至っては著者までもが架空の人物である(正確には、実際の著者であるゲロルフ・シュタイナーが前述のシュテュンプケの遺稿をまとめて出版したという設定)。


が、創作とはいえいずれの書物も学術論文として考えた場合、記載内容の完成度は非常に高いと言われている。

『平行植物』はややファンタジー寄りで非現実味の強い内容だが、
『鼻行類』はかなり細かい所まで作り込まれており、今でもなお実在したと信じる人がいるとか。

というかフィクションだと知らずに読むとまず信じる。


『アフターマン』に関しても学術的な考察として非常に完成度が高いとの事。ただ、出てくる生物のデザインが結構グロい。


平行植物は民俗学的な論文、鼻行類は生物分類に関する専門書、
アフターマンは一般向けの科学図鑑の形式で書かれた一種の物語と言えるのだ。


なんとも厨n……もとい創作意欲を掻き立てられる書物である。

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最終更新:2024年10月16日 19:28