Le monde proche du dernier periode,
Saturne1 encor2 tard sera3 de retour:
Translat4 empire5 deuers nation Brodde6:
L'oeil arraché7 à Narbon par Autour8.
現代フランス語の période は男性名詞か女性名詞かで意味が変わるが、中期フランス語ではその区分はルーズだった。なお、dernier periode は「衰退、滅亡」(ruine, déchéance)を意味する成句でもあったようだが(*1)、ピエール・ブランダムールをはじめとする実証的な論者たちで特にそのように注記している者がいないので、ここでは直訳にとどめた。
3行目「ブロドの国」は現在有力視されている見解からするなら「エブロドゥム(アンブラン)の地方」と訳してもよいのかもしれない(nation は中期フランス語では都市、地方を指すこともありえた)。しかし、とりあえずは直訳した。
4行目 par Autour (オオタカによって)は、ジャン=ポール・クレベールによって par autour という副詞句の可能性も指摘されている。par autour とする場合、中期フランス語では「辺り一帯」(tout autour)の意味になる(*2)。なお、Autour を鳥と捉える場合でも、中期フランス語では「猛禽」一般も意味した(*3)。
大乗訳、山根訳、そして『ノストラダムスの大予言』所収の五島勉訳についても触れておく。
どの訳も1行目は特に問題はない。
2行目について。大乗訳「サタンはなかなかあともどりせず」(*4)、山根訳「土星はまたも帰りが遅れるだろう」(*5)、五島訳「サチュルヌはいまだなお後退に遠く」(*6)は、いずれも不適切。この場合の tard はサトゥルヌスを形容しており、占星術上動きが遅い天体であることを表現しているに過ぎない(*7)。大乗訳はそういう意味に解釈できる余地はあるが、「サタン」という表記に問題がある。
ピエール・ブランダムールは、リシャール・ルーサらの算定での7千年紀が過ぎて8千年紀に入る頃(西暦1800年頃)、サトゥルヌスの治世(黄金時代)が戻り来ることと解釈した。後半は断片的にしか解釈していないが、「目」は君主の比喩、「オオタカ」はミラノかもしれないとしていた(ミラノのフランス語名 Milan は、鳶を意味する milan との言葉遊びになる)(*12)