巡りゆく星たちの中で > ソルキア連合との外交の場

―――ソルキア連合・歓迎の場

エルサールの中央広場は、透明なガラスドーム越しに無数の星が輝く、息をのむような空間だった。浮遊するプラットフォームが滑らかに動き、虹色のホログラム広告が宙を舞う。広場の中心に立つソルキア連合の代表は、銀色のローブをまとい、額の結晶が星光を反射している。その背後には、毛皮に覆われた二人の護衛が控える。落ち着いた瞳のレオンと、そわそわしながら尾を揺らすガルスだ。イズモとKAEDEは広場の光景に目を奪われ、興奮と緊張が入り混じった表情で立つ。

「シナリスIVの使者、イズモ殿、KAEDE殿、ようこそ我がソルキア連合へ。星々の潮流が貴方方を導き、われらの地に光をもたらした。この出会いが、異なる種族の魂を結ぶ新たな星座となることを、深く願う」

代表が穏やかに言うと、声が広場に反響し、荘厳な雰囲気を醸し出す。イズモは目を輝かせ、KAEDEは少し縮こまりながら互いに顔を見合わせた。

「ところで、我が国の概要については既に共立機構から提出されていると伺っているよ。なので詳細は省くが、実際にその目で見て回ると違った感想を得られると思う。ゆっくり寛いでくれたまえ」

代表が両手を広げると、広場のホログラムが切り替わり、空中都市や樹上都市の緑豊かな映像が映し出される。イズモはスクリーンに釘付けになり、KAEDEはそっと頷く。

「ありがとうございます。」

イズモが弾むような声で答える。レオンが静かに微笑み、ガルスは尾を振って小さく唸る。

「本当に……ありがたいです」

KAEDEが控えめに頭を下げ、緊張がほぐれたのか肩を少し落とした。

「まずは、この街の観光の道中、私が案内しても良いのだけどね。お二人が気になるところがあれば質問してくれても良い。もちろん、必要なものがあれば用意させよう。如何かな」

代表が親しげに微笑み、背後のレオンが端末を手に準備を始める。ガルスは爪をいじりながら少し退屈そうにしている。

「では、空中都市が気になります!!」

イズモが勢いよく手を挙げ、目をキラキラさせる。ホログラムが即座に反応し、エルサールの空中都市が拡大表示される。
浮遊するビルや虹色のエネルギー通路が映し出され、KAEDEも思わず「わあ」と声を漏らす。

「ははっ……ラフな感じと聞いていたが、これは想像以上だね。分かった。案内しよう。秘書官……移動の準備を」

代表が笑いながら振り返ると、黒い制服の秘書官がすっと進み出る。彼女はホログラムタブレットを手に、事務的だが温かみのある口調で答える。

「既に整ってございます。どうぞ」

レオンがイズモとKAEDEに軽く会釈し、ガルスは「よっしゃ、行くぞ!」と大げさに拳を握る。

「うむ、イズモさん方、気楽にしてほしい。移動にはしばしの時間を要する。ここに端末があるので、見物でもして暇を過ごされるが良かろう」

代表がテーブルの薄いガラス製端末を指すと、端末が光り、エルサールの観光ガイドや星間ニュースが映し出される。
イズモは早速飛びつき、KAEDEは遠慮がちに覗き込んだ。レオンとガルスは護衛の位置に立ち、ガルスが「これ、最新型だぜ」と小声で自慢した。

―――機内の描写

一行は流線型の小型シャトルに乗り込んだ。白と青を基調とした内装の窓からは、エルサールの空中都市が広がる。浮遊するビル群や青く光るエネルギー流が星空に溶け合い、銀河そのものが動いているようだ。イズモは窓に張り付き、KAEDEは座席で端末をいじりながら感嘆の声を上げる。代表はゆったりと座り、レオンとガルスは後部で待機している。

「さて、堅苦しいものは苦手のようだが……公式の会談は避けて、この場で話し合っても良いのだがね。お二人の見解を聞かせてほしい」

代表が柔和な笑みを浮かべ、端末を脇に置く。シャトルの振動がわずかに響き、窓の外でエネルギー通路が輝く。

「もし、それでいいのであればそれでも大丈夫です!!」

イズモが勢いよく答えると、シャトル内に軽い笑い声が広がった。ガルスが「こいつ、元気すぎるな!」とレオンに囁き、レオンは静かに首を振る。

「話が早くて助かるよ。もって回った言い方をする外交官が多くてね。では早速、本題に入らせてもらうが、あなた達の惑星で取れる鉱石に我が国は多くの興味をもって観察しているんだ」

代表が身を乗り出し、真剣な眼差しになる。端末に青く輝く鉱石のホログラムが映し出され、ゆっくり回転する。

「それはありがたいです!!あの鉱石結構こっちで調べた限り、かなり汎用的に使えるエネルギー鉱石なので興味持ってもらえてうれしいです。」

イズモが興奮気味に言う。KAEDEが小さく頷き、端末のデータを確認した。レオンが代表の側に立ち、ガルスは興味深そうにホログラムを覗き込む。

「ふむ。こちらが仕入れた事前情報に間違いなければ、どうやらそのようだね。共立機構のレクネールさんにも聞いてみたのだがね。彼女は口が固くて、どうにも扱いづらい。輸出の条件も含めて、正直なところを教えてくれるとありがたいかな」

代表が探るように言うと、イズモは少し考え込む。シャトルの窓から見える空中都市の光が、彼の顔を青く照らした。

「輸出条件は2つ、1つ目は平和利用のみ、2つ目は…」

イズモが言葉を切ると、代表が穏やかに微笑む。

「悩んでいるようだね。他国への転売禁止などはどうだろう」

代表の提案に、イズモの目がパッと明るくなる。

「たしかに、他国へ輸出してしまえば軍事利用されるリスクは高くなるのでその条件はいいですね」

イズモが力強く頷く。ガルスが「ほう、話が早い!」と小声でつぶやく。

「素晴らしい。ではそのかわりと言ってはなんだが、我が国に対してはできるだけ安く売ってくれないか?どうだろう。今ならとっておきの外交情報もつける。悪い話ではないはずだ」

代表が軽くウインクし、シャトルのテーブルに手を置く。レオンが無言で端末を操作し、ガルスは興味津々で身を乗り出した。

「少し考える時間をほしいです」

イズモが少し真剣な顔で言う。KAEDEがそっと彼の腕に触れ、二人で目配せする。

「うむ。ゆっくり考えてくれ」

代表がゆったりと背もたれに寄りかかり、窓の外の星空を眺める。シャトルは静かに進み、エルサールの光が遠ざかる。

―――体内通信
シャトルの一角で、イズモとKAEDEが体内に埋め込まれた通信用デバイスで密談を始める。代表は端末を眺め、レオンとガルスは後部で軽く談笑している。

「安くってどれくらいになるんだろ平均的なエネルギー鉱石の市場価値を知らないんだけど」

イズモが脳内でつぶやき、KAEDEの顔を覗き込む。

「今回、新発見の鉱石でさらに既存のワープシステムの効率を向上できるため1kgあたり1万ソルキアルムが妥当な価格ですかね?」
KAEDEが端末に市場データを映しながら、慎重に答える。

「特にお金儲けしたいわけじゃないしそんぐらいでいいか」

イズモが気軽に笑い、KAEDEも小さく微笑む。シャトルの窓から見える星々が、二人の顔を柔らかく照らした。

―――交渉の続き
シャトルがエルサールの中心部に近づくと、窓の外に巨大な空中都市の全貌が広がる。イズモが窓から目を離し、代表に明るく声をかけた。

「お時間ありがとうございます。」

代表が微笑みながら身を起こす。

「では1kgあたり1万ソルキアルムでどうでしょうか?」

イズモが自信たっぷりに言う。KAEDEがそっと頷き、緊張した面持ちで代表の反応を見守った。

「あなた達は……これは想像以上に良い条件だ。ありがとう。分かった。こうなってくると、こちらもそれなりの返礼をお渡しするほかないようだね。秘書官!」

代表が弾んだ声で言うと、秘書官が素早く端末を操作し、ホログラムスクリーンを展開する。レオンが静かに代表の側に立ち、ガルスは「うお、来た!」と小声で興奮する。

「では、まずこちらのスクリーンをご覧ください」

秘書官が言うと、スクリーンにセトルラームの経済データや政治構造が映し出される。イズモとKAEDEが身を乗り出す。

「まず第一に、セトルラームには気をつけたほうが良い。あの国のことは、もう既にご存知かもしれないが、金にがめつい連中でな。しかも、強大な経済力を背景にそれなりの交渉材料もたんまりときてる。正直、我が国としても手に負えない列強の一つとして認識されているんだ。セトルラームへの訪問は避けたほうが良い。生半可な気持ちで臨むと搾取されるぞ」

代表が真剣な口調で警告する。スクリーンにはセトルラームの巨大な交易ハブの映像が流れ、ガルスが「ちっ」と舌打ちした。

「なるほどぉ。警戒しときますね」

イズモが軽く頷き、KAEDEがメモを取るように何もない空間をキーボードかなにかで打ち込んでる動作をする。

「あなた達が訪問しない場合、彼らの方から寄ってくる可能性も想定される。その場合は共立機構のアドバイザーを立ち会わせるんだ。その方が安全だろう」

代表が続ける。レオンが静かに頷き、ガルスは「ほんと、セトルラームの奴らめ…」とつぶやいた。

「有益な情報をありがとうございます」

イズモが感謝の笑顔を見せる。

「今後の方針は共立機構の主権独立機関として運営していこうと思ってはいるのでこの情報有効活用させていただきますね」

イズモが胸を張って言う。KAEDEがそっと微笑んだ。

「共立機構の直轄領としてやっていくなら、いっそ外交も共立機構に委ねるのも一つ……いや、これはさすがに言い過ぎた。いずれにせよ、危険な国はまだある。連合帝国にも気をつけなさい。悪さばかりしてどうにもならん連中だ」

代表が少し声を潜め、スクリーンがユミル・イドゥアム連合帝国のデータを表示する。

「こちらがユミル・イドゥアム連合帝国の情報となります」

秘書官が淡々と説明し、詳細な地図や軍事データのホログラムを展開する。

「我が国はオクシレイン政府が掲げる民主主義構想を支持する立場だ。しかし、気をつけるんだ。この国も悪い国ではないが、簡単ではないだろうから」

代表が補足し、スクリーンにオクシレインの映像が映る。ガルスが「オクシレインの魚はうまいけどな!」と小声で言う。

「詳しくは、オクシレインのページをご覧ください」

秘書官が端末を操作し、データをイズモとKAEDEに送信した。

「いずれにせよ、我が国としては、あなた達との末永い友好を願っているよ。あなた達は善人のようだからな。変なやつには気をつけるんだよ」

代表が温かく微笑む。レオンが静かに頷き、ガルスは尾を振って「いい奴らだ!」とつぶやく。

「ご忠告ありがとうございます」

イズモが元気に答える。

「自分らみたいな国にすらなってない3人だけの地域に対等に会談を開いてもらえるだけでありがたいです」

KAEDEが少し照れながら言う。代表が優しく目を細める。

「私達は交渉もするが、それ以上に善行を尽くすことに努めているんだ。今回の相手があなた達で良かった。……そろそろ到着の頃合いだな。空中都市エルサールを楽しんでくれ」

代表が窓の外を指すと、シャトルが巨大な空中都市の中心に滑り込む。光り輝くタワーや浮遊する通路が広がり、イズモとKAEDEが目を奪われた。

―――空中都市エルサール
シャトルが着陸すると、一行は空中都市エルサールの中心部へ足を踏み入れる。足元は透明なガラス製の通路で、下には雲海が広がる。浮遊する商店やホログラム看板が賑やかに動き、異種族の住民たちが行き交う。イズモは目を輝かせ、KAEDEは感嘆の声を上げながら周囲を見回す。

「すごい技術だ」

イズモが感嘆の声を上げ、通路の縁から下を覗き込む。
「全盛期のピースギアでは確かに可能ではありましたが、大気圏内に空中都市を建設すること自体かなり高度な技術が必要なので…感動しました!!!」

KAEDEが興奮気味に言う。レオンが静かに微笑み、ガルスは「だろ?うちの自慢だぜ!」と胸を張る。

「普及してる科学技術を知りたいのでデパートや家電量販店行ってもいいですか?」

イズモがレオンに振り返って尋ねる。

「どうぞ。案内いたしますよ」

レオンが落ち着いた口調で答え、ガルスが「よっしゃ、行くぞ!」と先頭に立つ。

―――総合デパート
エルサール最大の総合デパートは、巨大な球形の建物で、内部は色とりどりの光に満ちていた。
商品が浮遊するディスプレイや、自動で客を案内するドローンが飛び交う。イズモとKAEDEは目を丸くし、レオンとガルスが二人をエスコートする。

「えー、こちらがエルサールで一番でかいデパートです。見ての通り、超でかいです。いかが致しますか?」

ガルスが大げさに両手を広げ、デパートの賑わいを誇らしげに紹介する。

「一般的にどのような家電が普及していますか?」

KAEDEが興味深そうに尋ねる。ディスプレイに映る家電が次々と切り替わった。

「そうですねえ。一般的には、まず、食材放り込み放題の無限バブルレーン量子冷蔵庫ですかね。これ便利でね。食材をいくら放り込んでもパンパンにならないんですよ。ちなみに、セトルラーム製です。クソが」

ガルスが鼻を鳴らし、ホログラム冷蔵庫を指差す。イズモがクスクス笑う。

「バブルレーン技術が一般の家庭に浸透してるのはすごいですね」

イズモが感心した様子で言う。KAEDEが端末にデータを記録する。

「あとは、そうですね。オクシレイン製の魚コーナとか、とても人気があります。うちのような樹上都市の者には入り用でね」

レオンが穏やかに言うと、ガルスが首を振った。

「それ家電じゃないよ。食べ物だよ」

ガルスが呆れたように言う。レオンが「あ」と小さく声を漏らす。

「そうだった。じゃあ、こういうのはどうだろう。B.N.S.ネットワークダイブパッドとか」

レオンがディスプレイを操作し、薄いタブレット型のデバイスを映し出した。

「ああ、それはね、文字通りビルドなネットワークの世界にダイブできるという、わりと何でもできる幸せ装置だよ。これもセトルラーム製。畜生が」

ガルスが歯ぎしりしながら言う。イズモが吹き出す。

「護衛Bさん、セトルラーム製品に悪態つきまくってるwww」

イズモが笑いながらガルスを指差す。ガルスが「ふん!」と鼻を鳴らす。

「我が国の経済の三分の一の製品がセトルラーム製だと言っても過言ではない、この状況。実に嘆かわしいが、それはそれとしてとても便利な世の中になった」

ガルスが大げさに肩をすくめる。レオンが静かにため息をつく。

「我が国の素朴な工業製品だけど、君たちのようなヒューマン以外に向けた小道具とかも色々あるね。手足のない種族も使いこなせるやつとかね。そういうものを積極的に製造し、輸出することで辛うじて我が国の優位性も、一部だけど保たれてるんだ」

レオンが穏やかに説明し、ディスプレイに触手や羽で操作可能なデバイスを映した。

「とにかくセトルラームは滅ぶべき。ソルキアわっしょい!」

ガルスが拳を振り上げ、近くの客がクスクス笑う。イズモが目を輝かせる。

「たしかに工業製品は細部に神が宿るという”地球”の日本の言葉にはあります。大量生産できるものよりもユーザーに寄り添った製品はけして安くはないけど職人さんやエンジニアさんの心が入ってると思うのでそういう製品は上位になってほしいですね」

イズモが熱く語ると、ガルスが目を潤ませる。

「おお、君とは良い友達になれそうだ。もふもふしてあげる」

ガルスがイズモに抱きつこうとすると、レオンが慌てて止める。

「やめるんだ」

レオンがガルスを引き剥がす。イズモが笑いながら手を振る。

「そういえばさきほど海産物があるといってましたけど気になるので行ってみたいです!!」

イズモがレオンに振り返り、興奮気味に言った。

「いいね。オクシレイン産の魚コーナーは特に大盛況だよ。案内しよう」

レオンが穏やかに微笑み、先導する。ガルスが「魚!魚!」と軽快に歩き出す。

―――オクシレイン魚コーナー

デパートの一角にあるオクシレイン魚コーナーは、鮮やかな水槽が並び、虹色の魚が泳ぐ賑やかなエリアだ。
香ばしい魚のグリルの匂いが漂い、異種族の客が品定めしている。レオンが一行を案内し、ガルスはすでに水槽の前に立って何かをつまんでいる。

「ここが魚コーナーで……おい、B、何をやってるんだ?」

レオンが呆れた声で言う。ガルスが魚の切り身を手に持っている。

「むしゃむしゃ」

ガルスが無心で魚を頬張る。イズモとKAEDEが目を丸くする。

「いやいや商品食べるなwwww」

イズモとKAEDEが同時に叫び、笑い出す。客たちが振り返り、くすくす笑う。

「むしゃらむしゃ……ああ、いかん!また悪い癖が」

ガルスが慌てて口を拭き、魚を水槽に戻そうとする。レオンがため息をつく。

「己の任務を忘れるでないぞ。……すまない。相棒がとんだ失礼を」

レオンが頭を下げる。イズモが笑いながら手を振った。

「とりあえず払っとくか。まあ面白いからいいんだけどさwww」

イズモが端末で支払いを済ませる。ガルスが目を輝かせる。

「おお!我が友達!いつでも我が胸肉に飛び込んできてくれ!!」

ガルスが大げさに両手を広げる。イズモが小声でレオンに囁く。

「ガルスさんってそっちの趣味あるの?」

レオンが苦笑いしながら答える。

「やつのことは気にするな。ソルキアでは、その、実は普通のことなんだ。多少取られても店主は怒らない。おおらかなんだよ。この国は」

レオンが魚コーナーの店主に軽く会釈すると、店主が笑顔で手を振り返す。

「まあとりあえずこのオクシレインニジマス買ってエルニウスで食べてみるよ」

イズモが水槽からニジマスを選び、端末で購入する。

「そうすると良い」

レオンが穏やかに言う。ガルスが再び魚を手に取りかける。

「腐らせても美味しいぞ!」

ガルスがニヤリと笑うと、レオンが鋭く睨む。

「やかましいぞ」

レオンがガルスを軽く小突き、コーナーは笑い声に包まれた。

ソルキア連合での会談を終え、イズモとKAEDEはニジマスを抱えて満足げに次の目的地へ向かう。

最終更新:2025年07月01日 22:13