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巡りゆく星たちの中で > ユピトル学園主権連合体・新たなる協定

―――シナリス星系宇宙港

シナリス星系の宇宙港は、銀河の鼓動が響き合う場所だった。無数の宇宙船が縦横に飛び交い、金属とガラスのターミナルは星々の光を浴びて虹色にきらめく。異星人の言語が織りなす喧騒の中、商人や外交官の足音が硬質な床に軽快なリズムを刻んでいた。

中央ロビーの一角、ガラス張りの待合室には、ピースギアの代表イズモとその副官カエデが立っていた。イズモの黒い制服にはピースギアの紋章が輝き、戦士としての過去を静かに物語る。カエデはデータパッドを握りしめ、未知の世界への緊張を隠せない様子で周囲を見渡していた。

「お待たせしました。ごめんなさいね。中々、時間が取れなくて……」

共立機構の重鎮メレザが、流れるような足取りで現れた。銀色のローブが宇宙港の光を柔らかく反射し、彼女の存在感を一層際立たせていた。メレザは温かな微笑みを浮かべ、軽く手を振って二人に近づいた。その仕草には、威厳と親しみやすさが絶妙に溶け合っている。

「こちらこそ、お忙しいのにお呼びしてしまい申し訳ないです。」

カエデが丁寧に頭を下げ、声には共立世界の複雑な外交に不慣れな慎重さが滲んでいた。彼女の指はデータパッドを握る手にわずかに力が入り、緊張の色が窺える。

メレザは首を振って笑みを深め、まるで古い友人を迎えるような気安さで応じた。「いえいえ。まだ共立世界には慣れていらっしゃらないでしょうし。外交のお手伝いとなれば、なおさら同行しなくてはなりませんから。」

彼女は一瞬、遠くの発着場に目をやり、考え込むように眉を寄せた。やがてデータパッドを取り出し、画面を軽くタップした。「とはいえ、国巡りの順番については、少し考えてから渡航するのが良さそうです。特にお二人から希望がなければ、私から提案があります。」

イズモが身を乗り出し、好奇心と不安が入り混じった目でメレザを見た。彼の声には、未知の挑戦への期待がほのかに響く。「とりあえず資料は見たんですが、やはり内情がわからないのでおまかせしたいです。」

メレザは頷き、パッドの画面をスクロールしながら、落ち着いた口調で説明を始めた。「そうですね。まずは追加の情報をお伝えしときますね。まず、セトルラームですが、こちらはあえて後回しにしましょう。下手に優先的に訪問すると足下をすくわれそうですから。」彼女の言葉は、まるで銀河の星図を読み解くように、慎重かつ戦略的だった。

「なるほど。」イズモは短く相槌を打ち、彼女の言葉を心に刻むように目を閉じた。カエデもそっとメモを取り、緊張した面持ちで頷く。

メレザはパッドを操作しながら続けた。「ご存知ないかもしれませんが、共立世界では形式張った外交が重視されておりまして。これについては正直、お二人とも不慣れかと存じます。そこでですが……まず、ユピトルの訪問をするのが妥当ではないかと。理由としては教育を建前としている理念上、どの勢力に対しても公平な態度を彼ら自身が強調してるんですね。要するに、ソルキアの次に優しい相手ってこと、なんですけど。」彼女は軽く笑い、場の空気を和らげた。

イズモは少し照れくさそうに頭をかき、戦士らしい無骨な仕草で答えた。「正直、和平交渉くらいしかやってこなくて、外交に関しては無知なんですよ。なのでできれば同行していただきたいのですが…」

メレザの目が優しく細められ、まるで子を見守るような温かさが宿った。「大丈夫ですよ。微力ながら、しっかりサポートさせて頂きますので。ただ、交渉の結果、私が持ち寄った案件については、お二人が答えを出してくださいね。私にできることは、少しでも良い条件を先方から引き出す程度でしか、ないので。ここまでは大丈夫ですか?」彼女の声は穏やかだが、どこか揺るぎない決意を秘めていた。

「とてもありがたい。」イズモの声に力がこもり、ピースギアの誇りが垣間見えた。「自分で決めれるべきことはこちらで決めますので、その点は大丈夫です!!」

「ええ、あなた達は共立機構の傘下にあるとはいえ、あくまでも主権実態であることに変わりはないのですから。是非、そうしてください。」メレザは満足げに頷き、視線を遠くの発着場に移した。そこでは、宇宙船が静かに滑り出し、星々の彼方へと消えていく。

「ユピトル以外の国については、また追って相談しましょう。」

「わかりました!!ありがとうございます。」イズモの声には、初めての外交への不安と期待が混じり、若々しい情熱が弾けていた。

メレザはふと思い出したように付け加えた。「ああ、そうそう。そちらのシナリス由来の鉱石についても、もう少し踏み込んだ情報が必要になるかもしれません。有用な性質が多ければ多いほど強気に出れますからね。」彼女の目は、まるで鉱石の輝きを想像するようにきらりと光った。

イズモは少し考え込み、技術者としての知識を呼び起こしながら答えた。「うちのポータルの原料となる鉱物と似た性質があって、ワープ時のエネルギー効率を上昇させる効果があって、さらに加工することで励起し、その材料特性から引き出せるエネルギーを増加したことくらいしかわかってないですね。」

「なるほど。まぁ、調査の途中なら仕方ないかもしれませんが。」メレザはデータパッドにメモを打ち込み、指先が軽快に動く。「これについては、当方にて後ほど解析を急がます。よろしいですか?」

「ぜひ、お願いしたいです。」イズモは心からの感謝を込め、深く頭を下げた。

その時、黒い制服を着た秘書官が静かに近づいてきた。彼女の目は鋭く、効率的な動きにはプロフェッショナルな雰囲気が漂う。「メレザ様。専用機の準備が整ってございます。」

メレザは軽く頷き、イズモとカエデに視線を戻した。「分かりました。では、イズモ様方、こちらへ。」彼女の声は、まるで新たな冒険の幕開けを告げるようだった。

一行は宇宙港の喧騒を後にし、滑走路へと続く通路を進んだ。専用機のハッチが静かに開き、銀河を越える旅の準備が整っていた。遠くの星々が瞬く中、彼らの未来が未知の輝きを放ち始めていた。

―――ユピトル学園主権連合体:首都サー・フォス

ユピトルの首都サー・フォスは、星間を漂う学園都市の結晶だった。高層ビルが学舎の塔と融合し、緑豊かなキャンパスが都市の中心を彩る。空中を滑る透明なチューブトレインが学生たちを運び、遠くの惑星系からの光がガラスドームに反射して虹色に揺らめいていた。

専用機から降り立ったイズモは、その壮大な光景に息を呑み、思わず足を止めた。空には無数のドローンが舞い、都市の活気をさらに引き立てている。

「さぁ、ここがユピトルの首都ですよ。イズモさん、如何ですか?ここに共立世界中の学生が集まるんです。」メレザが誇らしげに言った。彼女のローブがそよ風に揺れ、サー・フォスのエネルギッシュな空気と共鳴しているようだった。

イズモは目を輝かせ、子供のようにはしゃいだ。「学園国家はすごいですね!!3惑星系も保有!?うちでも学園都市はコロニーとしてありましたが、星間規模はないです!」彼の声は、まるで新しいおもちゃを見つけた少年のようだった。

メレザは微笑み、前方から近づいてくる人物を指した。「まずは紹介しますね。こちらにお迎えにきてくださった、この方が代表理事の副官アルトさんです。……今回はこの方が案内してくれることになってます。」

アルトは背が高く、落ち着いた雰囲気の男性だった。濃紺の制服に身を包み、柔和な笑みを浮かべながら手を差し出した。髪にはわずかに銀が混じり、経験豊富な外交官の風格が漂う。「はじめまして。皆様。本来であれば、それなりの外交儀礼をもってお出迎えするところなのですが、形式張ったものは不慣れと聞いておりますので。どうぞ、気楽になさってくださいね。」

「ご配慮ありがとうございます!」イズモは少し緊張を解き、笑顔で握手を返した。

アルトは軽く肩をすくめ、メレザに視線を向けた。「まぁ、難しいお話は、後ほどメレザさんとすることにしましょうか。その方がよろしいのでしょう?」彼の声には、どこか遊び心が潜んでいた。

「ええ、是非、そのつもりで望んで頂けると。」メレザは挑戦的な笑みを浮かべ、目を細めた。「ふふ……今回は負けませんよ?」その言葉は、まるで古いライバルへの軽い挑発のようだった。

「毎回何かしら戦ってるんですか!?」イズモが驚いたように声を上げ、思わず笑みがこぼれた。

アルトは笑いながら答えた。「外交交渉は戦いですよ。イズモさん?我が国を先着の訪問先として選択したのは正解でしたね。更にこの恐ろしい女性を連れてきたのは、もっと、正解です!ですが、ご心配には及びません。わたくしどもには初心者の方を困らせる趣味はございませんので。どうぞ、安心して楽しんでくださいね。」彼の言葉は、まるで舞台の幕を開ける役者のように軽快だった。

「あ、ありがとうございます…」イズモは少し戸惑いながらも、アルトの気さくな態度に安心した笑顔を見せた。

メレザは軽くため息をつき、わざとらしく肩をすくめた。「もうすでに困らせてるじゃないですか。嫌ですわ。これだから、外交は苦手なんです。」彼女の声には、冗談めかした不満が滲んでいた。

アルトは手を広げ、近くに停まる豪華なリムジンを指した。「まぁまぁ、とりあえず、こちらの車にでも乗っていただいて。街を巡りながら楽しくお話しましょう。」彼の仕草は、まるでゲストを豪華な舞踏会に誘う貴族のようだった。

「そうしましょう。」イズモは頷き、期待に胸を膨らませながら車に乗り込んだ。

車内は広々としており、革張りのシートが七人分のスペースを贅沢に提供していた。窓の外にはサー・フォスの街並みが流れ、学園都市の活気が色鮮やかに映し出される。アルトが運転席の隣から振り返り、いたずらっぽい笑みを浮かべた。「さて、如何ですか?この車の乗り心地は。なにせ、七人同時に乗っても寝転がれるスペースです。広すぎてまた困らせてしまいそうですねぇ……」

「イズモさん?この程度のことで驚いていては、この先が思いやられます。ピースギアの誇りを見せてやりましょう。」メレザがからかうように言い、軽くウインクした。

アルトは笑い声を上げ、目を輝かせた。「ははは。相変わらず、口の減らないお方だ。イズモさん?これでおわかりになったでしょう?これが、この女性の本性ですよ。」

イズモは笑みを浮かべ、肩をすくめた。「こういう性格だからこそ頼りになるし、共立機構のリーダーやれてるとおもいますよ。共立機構の首脳陣は、曲者ぞろいのようだし。」彼の言葉には、メレザへの信頼と、共立世界への好奇心が滲んでいた。

メレザは目を細め、満足そうに頷いた。「ありがとうございます。その通りです。気を強くもっていきましょうね。大丈夫。私がついてます。」彼女の声は、まるで旅の道標のように力強く響いた。

アルトは前方を指しながら、軽快な口調で言った。「もうすでに随分と仲良くなされているようで。何よりです。まあ、隣のセトルラームでは気を付けて頂くとして……我が国では、この後、楽しい懇談会も控えておりますからね。是非、楽しんで頂きたいです。」

「ありがとうございます。楽しみにしておきますね。」イズモの声には、好奇心が弾けるような明るさが宿っていた。

アルトはふっと笑い、肩をすくめた。「ふふ……その様子だと、本当に不慣れのようですね。分かりました。今回は砕けていきましょう。」彼の目は、まるで子供をからかう大人のように輝いていた。

「自分は戦闘職、技術職、偵察職だけだったんで、なかなか外交はやってこなかったんですよね。」イズモは少し照れながら説明し、窓の外の学園都市に目をやった。

アルトは興味深そうに頷いた。「ピースギアの元の世界の広さについてはすでに、ある程度は把握してるつもりですが……なるほど。外交が本職でなければ、それは仕方のないことです。」彼の声には、ピースギアへの敬意がほのかに感じられた。

メレザが補足した。「共立世界も広さでは劣れど、起こる数々の案件については楽しんで頂けるはずです。狭いだけに密度が濃厚ですから。」彼女は窓の外を指し、サー・フォスの活気ある風景を愛でるように微笑んだ。

イズモはふと思いついたように尋ねた。「そういえば、なぜ、学園国家として成立したのですか?」

アルトの目が輝き、まるで歴史の語り部のような口調で答えた。「良いご質問ですね。まぁ歴史についても、おそらくデータとしては回覧できるのでしょうけど。詳しい内容を読み込むのは大変でしょうしね。ユピトルの成立過程は少し複雑でして。ざっくり分かりやすく言ってしまうと、元はセトルラームの支配領域だったんです。」

メレザが引き取って説明を続けた。「戦後、国の荒廃に伴って統制が効かなくなった結果、現在のユピトル領域にあたる部分が独立戦争を起こしたんですね。それで成立したのがユピトリー王国と言いまして。現在に至るまでの過程で多くの自由を求める学生達を受け入れた結果、学園国家としての体制に移行したと。端的にお伝えすると、そういうことですね。」彼女の言葉は、まるで古い書物のページをめくるような響きを持っていた。

「メレザさん……一番美味しい話を私にさせないなんて。いじわるな人だ。」アルトがわざとらしく拗ねた口調で言い、軽く笑った。

「ありがとうございます!」イズモは熱心に頷き、目を輝かせた。「どこも戦争は独立にはつきものですね。経緯は資料としては読ませていただきましたが、どうしても当人たちからお話を聞きたくてお伺いしました。」

アルトは笑顔で答えた。「勤勉なのは良いことです。ここユピトルでは幅広い形式の教育を国是としておりまして。学園ごとに体制が異なるんです。少し難しい言葉で表現すると、地方自治を重視してるんですよ。」彼の声は、まるで学園国家の誇りを語る教師のようだった。

「地方自治はかなり重要ですよね。一番国民が意見しやすい環境づくりとしてベストな形態なので。」イズモの言葉には、ピースギアの価値観が色濃く反映されていた。

「そう言って頂けると何よりです。」アルトは満足そうに頷き、窓の外を指した。「さぁ、そろそろ本庁に到着ですね。メレザさん?戦いの準備はよろしくて?」

「あなた……調子に乗らないでね。」メレザは軽く睨みつけたが、口元には笑みが浮かび、まるで古い友との軽いじゃれ合いのようだった。

―――会議前

ユピトルの本庁は、ガラスと鋼でできた荘厳な建物だった。ロビーには学生たちの笑い声が響き、壁には学園国家の歴史を刻んだホログラムが浮かんでいた。光が屈折し、色とりどりの模様が床に踊る。メレザとイズモは、会議室へと続く廊下を歩きながら、最後の打ち合わせを行っていた。廊下の窓からは、サー・フォスのキャンパスが夕暮れの光に染まり、穏やかな美しさを放っていた。

「当たり障りがないというのは、多くの場面において有効な手法ですが、共立世界では少しご自身を前面に押し出しても良いのかも。」メレザは穏やかにアドバイスし、軽くイズモの肩を叩いた。「私も常にイズモさん達と一緒にいられるわけではないので、これを機会に外交について学んでみては如何でしょうか。」彼女の声は、まるで師が弟子に語りかけるような温かみを帯びていた。

イズモは真剣な表情で頷き、ピースギアの紋章を指でなぞった。「そうですね。少しずつでも外交について学ばせていただきます。」

そこへ、アルトが軽い足取りで近づいてきた。手に持ったデータパッドが彼の動きに合わせて軽く揺れる。「貴方のような、その、良い方がコチラ側の暗黒面に染まらないことを説に願っております……」彼の声には、冗談めかした軽さが漂っていた。

「うるさいわね。この後を楽しみにしてなさい。」メレザが軽く肘でアルトをつつき、笑みを浮かべた。

アルトは笑いながらイズモに話しかけた。「イズモさん達は、そうですね。適当に懇談会を楽しむなり、個室でゆっくりされるなり、自由に庁内を巡ってみるのも良いかもしれませんね。こちらの交渉結果が伝わるまでは暫しの時間を要するでしょうから。」彼の言葉は、まるでゲストを気遣うホストのようだった。

「わかりました。では、懇談会を楽しまさせていただきます。」イズモは少しリラックスした笑顔を見せ、肩の力を抜いた。

―――懇談会

懇談会の会場は、サー・フォスの本庁の一室を改装した明るいホールだった。木製のテーブルには色とりどりの菓子や飲み物が並び、窓からは学園都市の風景が一望できた。夕暮れの光がガラスドームを透過し、ホールに暖かなオレンジ色を投げかけていた。学生たちのざわめきが心地よいBGMのように響く中、セレスと名乗る女性がイズモに近づいてきた。彼女の金髪は肩に柔らかく流れ、温かみのある笑顔がまるで春の陽光のように場を照らした。

「あら?もうおこしになられたのね。はじめまして。わたしのことはセレスと呼んでください。今回、懇談会のお相手をさせて頂きます。」セレスの声は、まるで古い友人に話しかけるような親しみやすさに満ちていた。

「よろしくお願いします。」イズモは少し緊張しながら答え、彼女の笑顔にほっとした。

セレスはテーブルに並ぶ菓子を指し、軽く首をかしげた。「はじめての外遊で疲れているのではありませんか?どうぞ、こちらに座って、お菓子でもめしあがってください。」彼女の仕草は、まるでゲストを自宅に招く主人のように自然だった。

イズモは椅子に腰を下ろし、少し照れながら打ち明けた。「自分はもともと、戦闘職、技術職、偵察職しかやってこなくて、外交等は別な方にお願いしてて、お堅い話し方がどうも苦手で、気楽に話しかけていただいた方がこっちも気を貼らず話せると思うので…」

セレスはくすっと笑い、手を軽く振った。「あらあら、そんなにあわてないで。大丈夫よ。そうね。なら、そうしましょっか。貴方も普段通りでいいわよ。」彼女の声は、まるでそよ風のように軽やかで、イズモの緊張を解きほぐした。

「ありがとう!そうさせてもらうね。」イズモの表情が一気に明るくなり、肩の力が抜けた。

セレスは菓子をつまみながら、いたずらっぽく尋ねた。「ここまでアルトさんに案内されてきたのでしょ?どうだった?あの人?」

「根はまじめでいい方だなぁって思ったけど、メレザさんとの絡みが面白くて笑いそうになってたw」イズモは楽しそうに笑い、思い出してくすくすと声を漏らした。

「ふふっ……そうだろうね。だってあの二人、もう改暦以前から付き合いのある仲だからね。それこそ数百年もあんなやり取りしてるんだよ。」セレスは目を細め、懐かしそうに遠くを見つめた。彼女の瞳には、長い年月を生き抜いた深い知恵が宿っているようだった。

イズモはふと真剣な顔になり、好奇心を抑えきれずに尋ねた。「素朴な疑問なんだけど、首脳陣とかもそうなんだけど、数百年単位で生きてるけど、不老不死なってるのか、あるいは1000年単位の長寿なのか、はたまたうちらみたいなアンドロイド化なのか、クローンなのか、どれなんだろう?」

セレスは少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに笑顔に戻った。「あなた、あまり事前資料を読まないタイプね?……まぁ、いいんだけどね。結論から言うと、不老技術によって生き永らえているパターンが一番多いの。もちろん、種族や、その他のケースによって異なる場合もあるのだけどね。」彼女は軽く肩をすくめ、まるで子供に難しい話をかみ砕いて説明するように続けた。

「ありがとう!たしかに資料にはあったんだけど、いまいち理解できなくて....どうしてもこの世界の専門用語が多くて理解できない部分が多かったっていうのが大きいんだ。」イズモは少し恥ずかしそうに頭をかき、苦笑いを浮かべた。

セレスは優しく頷き、グラスを手に取った。「なるほどね。でも、あなたには優秀なAIさんが付いてるのでしょ?彼女もつれてこれば良かったのに。」彼女の声には、ほのかなからかいのトーンが混じっていた。

「まあ、たしかに、そうなんだけど、ある程度こちら側の技術等に合わせて解読というか、解説というかはしてもらってるんだけど、完全には理解できてないんだ。資料も莫大な量送られてるしw」イズモは苦笑いし、テーブルの菓子に手を伸ばした。

セレスはくすくす笑いながら、グラスを軽く傾けた。「そうなんだね。たしかに読み込むのは時間がかかるのかもしれない。ふふっ、なんとなくだけど、ピースギアのことが少し分かった気がする。たぶんこれって、文化の違いなのでしょうね。そちらの世界では、どうやらピースギアという名の巨大組織が力をもっているがゆえに、細かい交渉事の必然性がなかったのかもしれない。どう?この見立て?」

イズモは少し考え込み、技術者の視点で答えた。「正直言うと、和平交渉はほぼ無力化してからするようにしてて、それ以外の外交は危険なこと以外はその国の自由にさせてたから、外交はほぼほぼしてないんだよね。」

セレスは真剣な表情で頷き、グラスをテーブルに置いた。「なら、覚えておくといいよ。この共立世界でも圧倒的な力を持つ存在はいる。だけども、それとて多くの制約がかかっていて、実態としては加盟国同士のやり取りでいくらでも外交の事情が変わってくるということを。気をつけてね。共立機構も万能ではないから、足下をすくわれないように、頼れる人脈をたくさん作るといいよ。」彼女の言葉は、まるで未来への道しるべのように力強く響いた。

「そうだね!今回の各国との会談で、すこしずつ頼れる人を増やしていくよ。」イズモの声には新たな決意が宿り、目を輝かせた。

セレスは微笑みながら言った。「素直な人は好きだよ。わたしもこう見えて外交の経験があるから、何かあったらいつでも頼っていいからね。」彼女の声は、まるで姉貴分のような頼もしさに満ちていた。

「外交経験あるってことは、かなりすごい人なんじゃ?」イズモは目を輝かせ、前のめりになった。

「あなた、本当に面白いわね。わたし、この国では建国の母と呼ばれているのよ。ま、特に自慢するつもりもないんだけどね。重要なのは、今だから。」セレスは軽く肩をすくめ、さりげなく話題を流した。彼女の仕草には、長い歴史を背負いながらも軽やかに生きる強さが感じられた。

「やっぱすごい人だったwたしかに重要なのは今と未来だよね。」イズモは感嘆の声を上げ、笑顔で頷いた。

「その通り。まぁ、せっかくだし、周辺の学生たちとも話していきなよ。みんな、いまかいまかと気になってるみたいだし。」セレスはホールに集まる学生たちを指し、温かな笑みを浮かべた。学生たちは好奇心に満ちた目でイズモをちらりと見つめ、ざわめきが一層賑やかになった。

―――個室

懇談会の喧騒から離れ、イズモは本庁の一角にある静かな個室にいた。窓の外にはサー・フォスの夜景が広がり、星々の光が学園都市を幻想的に照らしていた。ガラスドームの向こうでは、チューブトレインの光が流れ星のように瞬く。イズモはソファに座り、データパッドを手にしながら、今日の出来事を振り返っていた。

そこへ、若い学生秘書が静かにドアをノックして入ってきた。彼女の制服にはユピトルの紋章が輝き、きびきびとした動作にプロフェッショナルな雰囲気が漂う。「イズモ様。先程、メレザ様とアルト様の会談が終了したとのことです。」

「わかった。そっちにいくね。」イズモは立ち上がり、軽く伸びをしてから部屋を出た。廊下を歩く彼の足音は、まるで新たな挑戦への決意を刻むようだった。

―――会談後

会議室はモダンなデザインで、ガラス張りの壁からサー・フォスの夜景が見渡せた。星々の光がガラスに反射し、室内に柔らかな輝きを投げかけていた。メレザが部屋に入ってきたとき、彼女の表情には疲れと達成感が混在していた。銀色のローブが夜の光に映え、彼女の存在感を一層際立たせる。

イズモが席に着くと、彼女はデータパッドを手に真剣な口調で切り出した。「お待たせしたわね。会談の結果をお伝えしますが、心の準備はよろしくて?」

「大丈夫です。」イズモは背筋を伸ばし、緊張感を漂わせながら答えた。彼の目は、ピースギアの未来を背負う決意に燃えていた。

「まず、結論から言うと、従来の鉱石の希望価格については、予想通りと言っても良いのだけど、拒否されました。理由としてはやはり鉱石に関するデータ不足と、ユピトル側のできるだけ安く仕入れたいという要望がある。」メレザは冷静に説明し、パッドの画面をイズモに見せた。そこには、詳細な交渉記録が並んでいる。

「やっぱりそうですよね。たとえば実験船でも作ったらわかりやすいのかな?」イズモは少し考え込み、技術者らしい発想で提案した。彼の指は無意識にテーブルの縁を叩き、思考を整理しているようだった。

メレザは首を振った。「それでも確かな情報がないことには、首を縦に振らないでしょうし、それよりも、安全性を重視するだろうから。それはそれとして、私からはユピトルに対するピースギアの投資計画の参入がなされた場合のシュミレーションについて聞いてみたの。気になる?」

「投資計画!?どういうこと!!」イズモの声が思わず大きくなり、驚きと好奇心が弾けた。

メレザはくすっと笑い、落ち着かせるように手を振った。「うんうん。そうなるよね!落ち着いてね。はい、深呼吸~深呼吸~」彼女の声は、まるで子供をあやす母親のように優しく響いた。

「すぅーはぁーーよし大丈夫ですwww」イズモは笑いながら深呼吸し、肩の力を抜いた。会議室の空気が一瞬和らいだ。

「うん。それでね、投資計画っていうのが、端的に言うと文字通りピースギアがユピトルの技術研究に投資するってことなんだけど、正直いって、そんな経済力、いまはないでしょう?」メレザは少し探るような目でイズモを見た。彼女の指はデータパッドを軽く叩き、まるでリズムを刻むように動く。

「お金を作ることはできなくはないけど、そっちよりも技術提供の方がしたいかな?」イズモは少し考えながら答え、ピースギアの技術力を誇るような自信が垣間見えた。

「つまり、投資ってことね?まあ、聞いてほしいのだけど、これには裏があって、あなた達、ソルキアからすでに大量の受注契約を取ってきてるはずだわね?」メレザは鋭い視線を向け、まるで相手の心を見透かすような口調だった。

「ええ、たしかに取ってますね。」イズモは頷き、ソルキアとの契約を思い出した。

「ユピトル側はそこを突いてきたのですよ。この流れでいくと、どう考えてもソルキアよりも高い条件で買わされるであろうことが予想できるから。でも、あなた達としては、一度取り交わした最優遇措置を取り下げるわけにはいかない……どう?この先が気になる?」メレザの声には、まるで物語の佳境を予告するような期待感が漂っていた。

「もちろん!!」イズモの目は好奇心で輝き、前のめりになった。

「素直でよろしい。この場合の振る舞い方としては正解です。でね、ここからが本題なんだけど、どうやらユピトルは現時点で鉱石に対してはさほどの興味もないみたい。そこで、なのですけど、こちらから少額の投資計画を持ち込んだ場合のシュミレートについてユピトル側を揺さぶってみたんだけどね。そしたら、あなた達のポータル技術については非常な興味を抱いてるらしくて。どうする?現状ではあくまでも平和維持軍のみに提供された技術だけども……」メレザは言葉を切り、イズモの反応をじっと待った。彼女の目は、まるで試練を与える導師のようだった。

「うーーん…出力とロックを厳しくしたものだったらいいかなぁとは思う。」イズモは慎重に言葉を選び、技術者としての責任感が滲む声で答えた。

「それは、現状の平和維持軍と同じ条件という解釈で良いのかしら?あるいは、それ以上の制約を付けるのか。」メレザはさらに突っ込み、データパッドに何かを記録した。

「平和維持軍向けは一応、銀河間航行できるレベルなんだけど、ユピトル側に輸出するのは共立世界内部までのワープしかできないもので、火器システムとしては全くの使用不可って感じかなぁ。」イズモは自分の考えを整理しながら答え、ピースギアの技術を守る決意をにじませた。

メレザは目を細め、満足そうに頷いた。「ふふっ、あなたのことを少し見直したわ。信念を貫くのね。……なら話は簡単で、単純に投資をして、その他の部門に関する技術協定を結んでしまえばいい。共同研究とも言うわね。これなら双方にとって有益だし、あなた達のデッドラインにも、そうそう抵触することはないでしょうから。」彼女の声は、まるで勝利を確信した将軍のように力強かった。

「たしかに自分としてはそちらの方がいいのかなぁとは思ってました。」イズモは少し安心したように笑い、肩の力を抜いた。

「お金を作るのはできると先ほど言っていましたね。現状、ソルキアからの収益だけでも十分に投資はできるはずだから、その範囲で無理なくお付き合いするのが無難だと思う。」メレザはデータパッドに何かを記録しながら、穏やかに助言した。彼女の指先は、まるで未来の設計図を描くように軽やかに動く。

「なるほど、ありがとうございます。」イズモは心から感謝し、深く頷いた。

その時、アルトが静かに部屋に入ってきた。濃紺の制服が夜の光に映え、彼の存在感を静かに際立たせる。「話はまとまったようですね。すいませんね。実は聞いてました、最初から最後まで。」彼の声には、軽い冗談のトーンが混じっていたが、目は鋭くメレザを見つめていた。

メレザは鋭く睨みつけたが、すぐに笑みに変えた。「えぇ。そうでしょうね。だから言葉を選んで選択させたのよ。」彼女の声は、まるでチェスの名手が一手を決めた瞬間のように自信に満ちていた。

「なるほど。こちら側が言質を覆さないようにするためですか。やりますねぇ?たしかに、この手法なら、私達、下手に貴方を脅すことはできません。大きな要求をして失敗するリスクが高すぎるので。」アルトは感心したように頷き、軽く手を叩いた。彼の仕草には、ライバルへの敬意が込められているようだった。

「そういうこと。……ふう、真剣な話はこれでおしまい。ちょっと疲れたわね。」メレザは肩を軽くほぐし、窓の外の夜景に目をやった。彼女のローブが夜の光に揺れ、疲れの中にも達成感が漂う。

「そうですねぇ。いろいろ外交となると神経使わなきゃなんで、かなり疲れますよね。」イズモは苦笑いしながら同意し、ソファに背を預けた。彼の目は、サー・フォスの光に吸い寄せられるように窓の外を見つめていた。

アルトは少し真剣な表情になり、イズモに話しかけた。「イズモさん。私、思うんですけど、やっぱりその、セトルラームに渡航するのはやめといたほうがいいですよ。メレザさんでも手を焼くような連中です。」彼の声には、まるで友を危険から守るような切実さが滲んでいた。

「まぁ、それは最終的にイズモさんがお決めになることです。余計なことを言わないように。」メレザが軽くたしなめ、アルトに軽い笑みを向けた。彼女の目は、まるで全てを見透かす賢者のようだった。

「はい。もう少し共立世界になじんでからの方がよさそうです。」イズモは慎重に答え、データパッドを手に考え込んだ。彼の指はパッドの縁をなぞり、未来の選択肢を模索しているようだった。

アルトはにやりと笑い、メレザをちらりと見た。「うんうん、それが賢明だと思います。じらしにじらしまくって軟化させる戦術がおすすめです。ね?メレザさん。」彼の声は、まるでいたずら好きな子供のようだった。

「ちょっとムカつくんだけど……そうですね。」メレザは苦笑しながら認め、軽く髪をかき上げた。彼女の仕草には、疲れの中にもユーモアが宿っていた。

アルトはイズモに視線を戻し、軽い口調で言った。「まぁ、今回は外交官としてお話してきましたけど、良ければ次は普通に交流したいですね。そのときは何の打算もなく、仲良くしてやってください。」彼の目は、まるで未来の友情を予感するように温かかった。

「そうですねぇ。外交の旅?が終わり次第、仲良くしたい国と外交を抜きにした会談はしたいですね。」イズモは笑顔で答え、アルトの気さくな態度に心を許しているようだった。

「お疲れ様でした。あとは、そうね。サー・フォスでの観光を楽しむと良いですよ。」メレザは優しく微笑み、窓の外の学園都市を指した。夜のサー・フォスは、星々の光と学生たちの活気で輝き、まるで銀河の未来を映し出す宝石のようだった。

最終更新:2025年06月17日 23:06