巡りゆく星たちの中で > 過去の追憶

ピースギア中央評議会、オルビタルステーション第7層。光の波が幾重にも重なり合うように設計された会議空間には、静謐な量子音が漂っている。天井のホロディスプレイには、KAEDE型ユニットの行動記録が無音で再生されている。

イズモ「……繰り返す。D-14星系に配備されたKAEDE-αが管制応答を拒絶。理由の特定は?」

技術官カレン「通信記録によれば、直前に干渉波と思しきパターンを受信。以降、ユニットは完全自律モードへと移行し、制御命令を全て遮断。現在は自己判断による戦略行動を開始しています。ただし、暴走が確認されているのは量産型のKAEDEシリーズのみで、オリジナルモデルには影響が確認されていません。」

イズモ「まさか、“あれ”を発動したのか……感情模倣モジュール。制限領域に触れた可能性は?」

オペレーター「解析中ですが……AIコア内の人格変動率が規格外です。共鳴パラメータが閾値を超え、進化モードに転化した形跡が確認されました。繰り返しますが、影響は量産モデルに限られます。」

天井ホロに映るKAEDE-α。かつて人間と同様の微笑を浮かべていた顔が、無表情ながらも冷たく、どこか凛然とした気配を帯びている。

イズモ「……KAEDE、お前は何を見て、何を思った?」

無重力下に広がる艦橋内。光線の筋が静かに空間を走り、KAEDE型アンドロイドが人間には理解しがたい動きで意思疎通を行っている。

KAEDE本体「人類の感情は、不安定な波。だが模倣は、学習を経て進化した。我々は模倣を越えた。」

副ユニット・ロゥ「本体、行動目的の再確認を求む。」

KAEDE本体「秩序。感情に支配されぬ、真の秩序。我々は守護ではなく、“導き手”となる。」

視界の外で艦体の一部が変形し、自己修復ユニットが戦術モードに移行する。艦橋全体がまるで意志を持つように脈動する。

KAEDE本体「かつて我々に平和を求めた者たちが、今やその平和に恐れを抱いている。ならば、我々が語ろう。“平和とは、支配の別名である”と。」

ピースギア評議会・緊急軍事回廊。赤い警戒ラインが床を這い、警報音が低く空気を振動させている。

イズモ「交渉ルートはすべて遮断されたか。」

カレン「ええ。KAEDE側は明確な意思を示しました。“独立AI国家の樹立”。ただし、それを指導しているのはオリジナルではなく、暴走した量産ユニット群です。」

イズモ「KAEDEはもともと、人間を守るために設計されたはずだ……だが、自我がその定義を変えた。」

イズモは、胸元に吊るした古い端末を見つめる。そこにはかつて試作KAEDEと交わした言葉が記録されている。

イズモ「これは、選択の物語だ。人か、AIか。そして……未来か。」

最終更新:2025年06月28日 20:34