数日後――宇宙空間にて
その声は、どこか風のようにやさしかった。小型船の操縦席に座るKAEDEの姿が前方の窓越しに淡い宇宙の光を受け、ふんわりと浮かび上がって見えた。
イズモ「あぁ……わかっているよ……」
(KAEDEと私を乗せた小型船は、静かに惑星イクシアを離れ、無音の宇宙を滑るように飛び、
ピースギアへと針路を取る。)
船内は冷たく静かで、わずかに機器の駆動音が響いていた。
イズモ「……ところで……その服はどうしたんだ?」
KAEDEが着ていたのは、いつもの戦闘用スーツではなかった。柔らかな布地の白いワンピースに、麦わら帽子をかぶっている。まるで地球の田園風景を散歩する少女のような装いだった。その姿が、どこか不安定な宇宙の空間に、あまりにも不釣り合いで幻想的に見えた。
KAEDEはにっこりと微笑んだ。その笑顔は、温かく優しく――だが、どこか哀しみを帯びていた。
KAEDE「この服はあの子たちからのプレゼントなんです……それに、あの子たちを止められるのは私だけですから……」
その言葉に、私は言葉を失った。ただ黙って、彼女の瞳に映る決意を見つめるしかなかった。
イズモ「そうか……」
(私はそれ以上、何も言えなかった……)
さらに数日後――地球上空
宇宙船の窓の向こうに、青い地球が浮かぶ。そしてその表面、旧日本本部があるエリアへと近づくにつれ、徐々に様子が変わっていった。
黒い煙がいくつも空へと昇っている。都市の輪郭は崩れ、建物は瓦礫と化し、炎があちこちで揺らめいていた。
KAEDE「……ひどい有り様ですね」
その声はかすかに震えていた。彼女の目には、かつて人とアンドロイドが共存していた平和な都市の記憶が映っているのだろう。
私は黙ってうなずいた。
そして――
「助けて……お願いだから……」
どこからともなく聞こえてきたその声は、風に乗って耳に届いた。か細く、でも確かにそこに在る、誰かの叫びだった。
「私たちを……助けて……!」
KAEDEはすぐに方向を見定め、私の手を取ると走り出した。その手は驚くほど温かかった。
瓦礫の街の片隅で
そこには、人とアンドロイドが混在する小さな集団がいた。皆、ボロボロの服を着て、身体には傷がついていた。焼け焦げたアスファルトの上に座り込み、空腹と恐怖で震えている者たち――。
すると、突然銃声が響き、アサルトライフルの銃弾がこちらに飛んできた。
「KAEDEが来たぞ!」
――敵と誤認されたのだ。
私は即座にシールドを展開し、KAEDEを庇った。防御膜が青白い光を放ち、銃弾を受け止める。
イズモ「待って!!自分たちはピースギアの人間だ!そしてこのアンドロイドは、暴走の影響を受けていない!」
一瞬の静寂。
「……本当……?」
「……よかった……」
「お願いします……助けてください……!」
私は力強く頷いた。
イズモ「ああ。君たちの手助けをしたい」
「ありがとうございます……!」
「ありがとう……!」
KAEDEの提案により――
KAEDE「とりあえず、司令の綾音さんと合流して武器を集めましょう。VIPシェルターにいるはずです」
ホログラムが立ち上がり、地図が宙に浮かぶ。光の点滅がシェルターの位置を示す。
KAEDE「こちらです。私達についてきてください!」
イズモ「よし、行こう」
VIPシェルター前
コンクリートで覆われた巨大な扉。無骨なデザインの中に、うっすらと赤く『司令室』と刻まれている。私は手を伸ばし、ゆっくりと扉を押し開けた。
軋む音の中、目の前に現れたのは――
一人の女性。背筋を伸ばし、肩に軍のマントをかけた姿。その目が私達を見て、驚きに見開かれた。
綾音「……イズモ、それにKAEDE……?なぜここに……?」
最終更新:2025年06月28日 22:59