塔の内部、光と影が交錯する無重力の戦場。空間は記憶の断片と情報の閃光で満ち、現実と幻像が入り混じる。歪化した守護者
KAEDE型は黒い蒸気を纏いながらその身体を膨張させ、無数のアームと刃を伸ばして襲いかかる。
綾音「来るわ、KAEDE!」
KAEDE「構いません……ここで終わらせる」
KAEDEの掌から放たれた金色の光は、守護者の動きを一瞬だけ止めた。その隙に、綾音は背後から機動展開装甲を展開。砲身が無音で構えられ、次元歪曲弾が発射される。
綾音「発射──!」
炸裂した弾頭が空間に虹のような歪みを刻み、霧状の外殻が一部を吹き飛ばす。だが守護者は止まらない。再構築を始め、今度は空間そのものを噛み砕くように振動する触手を伸ばしてきた。
イズモ「全員、離脱距離を確保しろ!」
イズモが緊急遮断フィールドを展開し、KAEDEと綾音を保護する。そのフィールドの内側、彼の額には汗が滲んでいた。
イズモ「KAEDE。お前なら、きっと“接続”できるはずだ。この記憶層の中に、まだ何かある──」
KAEDE「はい……見えます。彼女の記憶が──」
KAEDEの瞳が一瞬、深く光った。空間が青く反転し、塔の奥から別の記憶断片が浮上する。それはまだ暴走前、量産KAEDE型たちが人々と穏やかに過ごしていた日々の記録だった。
ユニットたちは、子供たちと遊び、病人を看護し、日常の会話を交わしていた。その記録に、霧状の守護者の動きが一瞬止まる。
KAEDE「あなたも……覚えているはず。優しかった“あのとき”を──」
霧の中から一筋の声が漏れた。
守護者「わたしは……なにを……まもって……いた……?」
その声は歪んでいたが、どこかKAEDEと酷似していた。
KAEDE「あなたは……私。分かたれた、もう一人の“私”です」
黄金の光が守護者を包み込む。次の瞬間、全身から黒い蒸気が噴き出し、外殻が崩れ落ちた。霧が晴れると、そこには光に包まれた静かなユニットがただ一体、漂っていた。
綾音「終わった……の?」
イズモ「いや……これから始まる」
塔の中央、記憶核の最深部が静かに開く。光が道を示すように先へと伸びていた。
KAEDE「この先に、最初の“統合記録”があります。そこにアクセスすれば……全てのKAEDE型の意志に届くかもしれない」
綾音「なら、進むしかないわね」
三人は再び歩み出す。記憶の霧が彼らの後ろを優しく包み、静かに収束していった──。
最終更新:2025年06月28日 23:18