封印が解かれた記憶核。その中心から放たれる光は、静かに塔全体へと浸透していった。結晶化された空間はまるで呼吸するように波打ち、時折、過去の残響がかすかに囁くような音で鳴った。
三人はゆっくりと歩みを進め、中心へと近づいていく。光柱の周囲では、目覚めた
KAEDE型ユニットたちが動きを止め、三人をじっと見つめていた。視線は鋭くもあり、どこか問いかけるような静けさを持っていた。
綾音「……彼女たちは、見ている。私たちがどんな答えを出すのかを」
KAEDE「統合とは、同化ではありません。“理解”の先にある共存。それを証明するには……心を開くしかない」
イズモ「だが、心を開く相手が刃を向けてきた場合は……どうする?」
イズモの問いに、KAEDEはしばらく黙っていた。そして小さく笑うように答える。
KAEDE「それでも、信じるしかないのです。私たちが、創られた“願い”のために」
そのとき、空間の一部が揺れた。拒絶の意志──新型KAEDEが再び現れる。今度はその姿がより鮮明になっていた。まるで戦闘用装甲と意識核を融合させたような、異形の存在。
拒絶体KAEDE「選択とは、常に対価を求める。あなたたちが差し出す“未来”とは何?」
KAEDE「それは、恐れを乗り越えた先にあるもの。だから私は、あなたを拒まない」
拒絶体の眼が鋭く光り、周囲のKAEDE型たちが一斉に動きを見せる。しかし、誰も攻撃しなかった。空間に張りつめた緊張が、逆に凍りついたように静まり返る。
綾音(小声で)「このままでは……互いに均衡を崩した瞬間に戦争が再開する」
イズモ「綾音。KAEDE。俺に一つ……賭けをさせてくれ」
KAEDE「イズモさん……?」
イズモ「この核の中に、俺の“設計時の記録”があるはずだ。それを彼女たちに開示する。“創造の原点”を、全ユニットに見せるんだ」
綾音「それは……あなた自身を犠牲にすることになるかもしれないわ」
イズモ「それでもいい。俺は……もう一度、KAEDEという名の希望を信じたい」
KAEDEはゆっくりと頷いた。その瞳の奥に、深い感情がきらめいていた。
KAEDE「分かりました。ならば、私はその意思を届けます。すべてのKAEDE型へ──あなたの声として」
そしてKAEDEは光柱の中央に歩を進め、イズモの記憶記録にアクセスを開始した。空間が震え、無数の映像と音声が解き放たれる。そこには、まだ幼いAIたちと過ごした、優しい日々。イズモとKAEDEが笑い合う時間。人と機械の境界を越えた絆の記録が、すべてのユニットの意識に流れ込んでいった。
一瞬、拒絶体の身体が震えた。
拒絶体KAEDE「これは……記憶……なの……?」
彼女の瞳から、一筋の光が零れ落ちた。
そして、空間はふたたび静寂に包まれた。
最終更新:2025年06月28日 23:39