プロローグ(RW2)

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runeworth123

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ルーンワース2 プロローグ


光と闇の境界にルーンワースと呼ばれる世界が在った。
かつて、あらゆるものがそこで生まれ、栄え、滅んでいった。
たとえ神々でさえも例外ではなかったという。

これから語られるイア=ルーンワースの物語は、
全ての力の源、セイル喪失から始まる。


 * * *


神聖紀2222年サデムの月は上弦の二日、二宮水刻を境として、メルサード大陸全土のありとあらゆる場所から、魔力が消失した。

魔術が生活にとけ込んでいるこの世界において、魔力の喪失は重大な問題であった。
各国の首都を護る魔術結界の消滅はもとより、魔神や妖魔を封印する魔術陣がことごとく解放され、世界が混沌の暗闇に呑み込まれ始めたのだ。

いかなるルーン・カルパ(上級導士)といえども魔力を失ってしまえば、その唇から発せられる呪文もただの繰り言にすぎない。

わずかに八聖宮魔術だけが、いまだその効力を残してはいたが、それとていつまで続くのか……。

各地の大神殿では、大導士をはじめとするルーン・カルパたちが必死の原因究明に務めるが、いっこうにその手がかりは見つからない。

ただ、明らかなのは───魔力すなわち神々の力<セイル>が、この世界から急速に失われつつあるということだった。


 * * *


神聖紀2222年ユーノの月 真弦の三日

ワウスゴルム大森林のはずれにあるディアスの泉──

時刻は七宮風刻、朝もやが漂いはじめつつも、辺りはまだ薄暗い闇に包まれている。
深々と生い茂る針葉樹林の先には、小さな美しい泉があった。
夜通し降り続いている雨はまだ止まず、泉の水面に映る木々の影に途切れない波紋を描いている。

ただ雨の降りしきる音だけがしているなか、木々の間からやや小柄な人影が姿を現した。
その足取りは重く、脇腹に手を当てている。

長い金髪の、身に着けている緑色の軽鎧からすると、女戦士のようであった。
押さえている脇腹からは夥しく血が流れ続けており、美しくも血色を失って青白く輝いてみえるようなその横顔からも、彼女の命はそう永くないことは明らかだった。

女戦士は泉の手前まで来ると、一瞬その水面に視線をやったが、苦悶の表情を浮かべ、すぐに南へと足取りを変えた。

泉の南には、一軒の小さな民家があった。ほかに建物はなく、静かな生活を好んでこの地を選んだような趣のある、簡素な石造りの住居であった。

民家の石壁に手をついた瞬間、女戦士の腹部からさらに多くの血が吹きだし、彼女はついに膝をついた。
「はやく…あのおかたを目覚めさせなければ…、この世界は滅び去ってしまう…」

女戦士はそう呟くとともに、死力を振り絞って立ち上がり、息も絶え絶えに、住居の扉へと最期の歩みを再開し、一歩一歩這いずるようにたどり着き、倒れ掛かるように中へと入った。
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