「人馬の幻装兵 スレイプニール・グリュン・ヴァルト」




[ショートストーリー]
スレイプニール・グリュン・ヴァルトの乗り手、バーゼル族の戦士たる操手ジャハールは、いささか閉口していた。
彼の前では、人馬機兵ケントゥーリアの乗り手として最近名を馳せている若者、ヴェングが気勢を上げている。
周囲では、ヴェングの同輩である若造どもが動向を見守っていた。
彼の前では、人馬機兵ケントゥーリアの乗り手として最近名を馳せている若者、ヴェングが気勢を上げている。
周囲では、ヴェングの同輩である若造どもが動向を見守っていた。
「あんたの様なおいぼれが、いつまでもスレイプニールに乗っているのが間違いだ!俺ならばもっとあの機体を上手く扱える!」
「……で、どうせよと?」
「いいかげん、俺にあの機体を譲って隠居しろ!それが部族全体のためだ!」
「……で、どうせよと?」
「いいかげん、俺にあの機体を譲って隠居しろ!それが部族全体のためだ!」
ジャハールは溜息を吐いた。彼とてそろそろ後進に道を譲りたいとは考えていた。
しかし、この様な鼻息だけが荒い愚か者には譲るわけにはいかない。
と言うか、今のところ機体を譲るに相応しい者は居なかった。部族全体に取って不幸な事に。
しかし、この様な鼻息だけが荒い愚か者には譲るわけにはいかない。
と言うか、今のところ機体を譲るに相応しい者は居なかった。部族全体に取って不幸な事に。
「……ならば、わしを打ち倒してみせよ。」
『いくぞ、おいぼれ!』
「……。」
「……。」
ヴェングのケントゥーリアは槍を振りかぶり、稲妻の様な突きを繰り出す。
ジャハールのスレイプニールは、だがその突きを「ぬるり」とした絶妙な槍捌きで絡め取り、ヴェング機の槍は天空高く舞い上げられた。
次の瞬間、ヴェング機の胴体にスレイプニールの槍の穂先が突きつけられる。
ジャハールのスレイプニールは、だがその突きを「ぬるり」とした絶妙な槍捌きで絡め取り、ヴェング機の槍は天空高く舞い上げられた。
次の瞬間、ヴェング機の胴体にスレイプニールの槍の穂先が突きつけられる。
『な……。』
「……。」
『い、いや!これは機体の差だ!機体に差があり過ぎる!不公平だ!』
「……。」
『い、いや!これは機体の差だ!機体に差があり過ぎる!不公平だ!』
ヴェングは負けを認めない。ジャハールは再度深々と溜息を吐く。
言うやジャハールは、スレイプニールを降りる。
慌てて、しかし喜色を滲ませてヴェングもまた、ケントゥーリアを降りて来た。
機体を交換した2人は、各々の機兵を起き上がらせる。
いや、起き上がらせようとした。
慌てて、しかし喜色を滲ませてヴェングもまた、ケントゥーリアを降りて来た。
機体を交換した2人は、各々の機兵を起き上がらせる。
いや、起き上がらせようとした。
『!?う、うわ!!』
スレイプニールを立ち上がらせようとしたヴェングは、しかし操縦を誤り、機体を転倒させる。
栄誉ある象徴的な機体が、泥にまみれた。既にジャハールはケントゥーリアを立ち上がらせている。
栄誉ある象徴的な機体が、泥にまみれた。既にジャハールはケントゥーリアを立ち上がらせている。
ジャハールは感情の籠らぬ声で言った。
「さっさと機体を起こせ。」
『く……!』
『く……!』
ふるふると小鹿の様に震える、スレイプニールの脚。
なんとかかんとか機体を起き上がらせたヴェングは、己自身に活を入れるつもりもあって叫んだ。
なんとかかんとか機体を起き上がらせたヴェングは、己自身に活を入れるつもりもあって叫んだ。
『み、見ろ!!』
「遅い。」
「遅い。」
ジャハールのケントゥーリアは竜巻の様に槍を揮って、スレイプニールを宙に巻き上げる。
そして落下してきた機体を槍の柄で絡め取ると、頭から落下してきたスレイプニールは脚を下にして大地に落着した。
そして落下してきた機体を槍の柄で絡め取ると、頭から落下してきたスレイプニールは脚を下にして大地に落着した。
そしてジャハールは冷たく言い放つ。
「引きずり出せ。」
「「「「「「!!」」」」」」
「引きずり出せ。」
「「「「「「!!」」」」」」
「引きずり出せ。」
もう一度ジャハールは言った。
言われているのが自分たちだと理解した、周囲で見ていたヴェングの同輩たちは、泡を食ってヴェングをスレイプニールから引きずり出した。
多少手荒になったのは、仕方ないだろう。
ジャハールは、取り押さえられたヴェングへと語りかける。
言われているのが自分たちだと理解した、周囲で見ていたヴェングの同輩たちは、泡を食ってヴェングをスレイプニールから引きずり出した。
多少手荒になったのは、仕方ないだろう。
ジャハールは、取り押さえられたヴェングへと語りかける。
取り押さえられたまま、何かを言いつのろうとしたヴェングは、しかし次の瞬間動きを止めた。
ジャハールが乗ったヴェングのケントゥーリアが、槍をヴェングに向かって一閃させたのだ。
そして……。ヴェングの額には十字の傷が刻まれていた。
機兵の操る武具であるのに、ヴェングの頭を潰さずに、皮膚だけを切り裂いたのだ。
ヴェングも、彼を取り押さえている彼の同輩も、身動き一つできなかった。
ジャハールが乗ったヴェングのケントゥーリアが、槍をヴェングに向かって一閃させたのだ。
そして……。ヴェングの額には十字の傷が刻まれていた。
機兵の操る武具であるのに、ヴェングの頭を潰さずに、皮膚だけを切り裂いたのだ。
ヴェングも、彼を取り押さえている彼の同輩も、身動き一つできなかった。
ジャハールは機体から降りてくると、言い放つ。
「……ケントゥーリアを乗りこなした、と言うならば。せめて最低で、この程度はやってみせよ。
ダカータの子、ヴェング。貴様の操手としての地位を剥奪する。その額の傷が癒えて傷跡が無くなるまでの間、最低位の騎兵として務めよ。それが、身の程知らずの罰だ。赦されるか否かは、その間の務めぶり次第だ。」
「な!?ま、まて、待ってくれ!」
ダカータの子、ヴェング。貴様の操手としての地位を剥奪する。その額の傷が癒えて傷跡が無くなるまでの間、最低位の騎兵として務めよ。それが、身の程知らずの罰だ。赦されるか否かは、その間の務めぶり次第だ。」
「な!?ま、まて、待ってくれ!」
しかしジャハールは待たなかった。彼はスレイプニール・グリュン・ヴァルトに乗り込むと、さっと立ち上がらせる。
ヴェングとは雲泥の差だった。
ヴェングとは雲泥の差だった。
そしてヴェングの同輩たちも、待たなかった。
ヴェングを一瞥すらしない。彼らは低位とは言えど操手階級。
有象無象の騎兵など、相手にしている暇はない。少しでも修行を積み、腕を上げなければならない。
ヴェングの、絶望の叫びだけがその場に響いていた。
ヴェングを一瞥すらしない。彼らは低位とは言えど操手階級。
有象無象の騎兵など、相手にしている暇はない。少しでも修行を積み、腕を上げなければならない。
ヴェングの、絶望の叫びだけがその場に響いていた。
[解説]
かつて旧大戦が終結した際、刀神イザナギはユーゼスが行った大虐殺を目の当たりにし、新人類解放軍と袂を分かつ。
彼は強化個体Heizたちを率い、破裂の幻装兵 アメノハバキリと共に北方のカナドの大地へ消える。
彼は強化個体Heizたちを率い、破裂の幻装兵 アメノハバキリと共に北方のカナドの大地へ消える。
現在残っているスレイプニール・グリュン・ヴァルトは、その全てが復元幻装兵だ。
少なくとも、確認されているのは全てがそうである。
現在(聖華暦830年)で確認されているのは、バーゼル族2機、神人が推定1機の合計3機。
バーゼル族が持つ全ての人馬機兵ケントゥーリアは、わずか2機のスレイプニール・グリュン・ヴァルトを基に造られたのだ。
少なくとも、確認されているのは全てがそうである。
現在(聖華暦830年)で確認されているのは、バーゼル族2機、神人が推定1機の合計3機。
バーゼル族が持つ全ての人馬機兵ケントゥーリアは、わずか2機のスレイプニール・グリュン・ヴァルトを基に造られたのだ。