機装兵 オルレオン
[解説]
聖華暦500年代末にアルカディア帝国で出現した、4.5世代機兵と呼ばれる試作実験機。噴射式推進装置(バーニア)の実験用プラットホームとしての試作機体である。これに搭載されたバーニア機構は、最初期の実験用機材であった事もあり、極めて出力が低かった。これはルーンによる記述で下位の風魔法『ウィンド・フロー』を単純に発動させるだけの構造である事が原因である。更に言えば、機体そのものも旧来の第四世代機兵と同様の旧式ム―バブルフレーム構造であった事で、極めて重量がかさんでいた。このため初期のこの機体は高機動力を発揮するどころか、まともに噴射跳躍をする事すらできなかった。
バーニア機構による高機動戦闘と言う構想を諦められなかった開発陣は、同時並行していたランドローラー機構実験機の『バグナス・ガロウド』開発陣がやや先行して試作機を建造した(と言っても、これもまた失敗作であったのだが)事に焦りを覚える。そして最初期型バーニアでも噴射跳躍による高機動性を実現するため、機体側の無謀な軽量化に打って出た。
まず手を付けたのが、外装=装甲板の軽量化である。外装の外縁に手を触れれば、皮膚が切れるほどに薄い金属板を装甲として取り付け、外装の軽量化という面ではこれ以上不可能というレベルまで成し遂げた。しかしそれでもまだ機体は重かった。
次に手を付けたのが、骨格つまりはフレームの軽量化である。あちらこちらのフレーム材に、ドリルで穴を開け、ヤスリで削り、徹底した肉抜き加工を施した。この涙ぐましい努力の結果、最初期型バーニアによる頼りない噴射であっても、この機兵は噴射跳躍する事が叶った。試作実験機装兵『オルレオン』の(とりあえずの)完成であった。
しかしながら一応の完成を見た『オルレオン』ではあったが、実のところまったくの欠陥機であった。骨格たるフレームがあまりにも脆弱であり、予定の高機動を行うと機体がたわみ、震え、歪み、まともには行動できなかったのだ。フレームが脆弱である場合、装甲板でそれが支えられる事もあるのだが、しかしながらこの機体の装甲板は前述した通りに紙装甲である。機体強度があまりにも足りないこの機兵は、綱渡りをするかの様な精密な制御ができる天才的な操手でなければ扱えない物であった。こうして1ロット12機完成した試作実験機のうち、2機は実験中に事故を起こし、早々に廃棄処分となる。
このままではこの機体は、まともに扱う事はできない。だがここで朗報が飛び込んで来た。小型艦船向けにバーニア機構を研究開発していた別グループより、新型バーニアの技術がもたらされたのだ。それは複数の『ウィンド・フロー』を複合的に発動させ、内部で圧力を高めて高圧で噴出させるという物であった。
『オルレオン』開発グループは脆弱になった骨格に再度、要所にのみ補強を入れる。そして新型バーニア機構を搭載し、噴射の出力を圧倒的に高めた。最終的にこの機体は、装甲強度は紙同然であり機体そのものの強度もヘナヘナではあったものの、後に『レギオン』として採用されたタイプよりも機動性では若干上という結果を叩き出す。まあもっとも、装甲強度や機体強度が圧倒的に劣る事、バーニア出力を高め過ぎて制御が不安定な事と言った欠陥は、変わらず残されているのだが。
そしてこの機体は第三次聖帝戦争序盤に実戦テストとして投入され、更に4機は破壊されて未帰還となったが、6機は操手が優秀だった事もあってある程度の戦果をあげた模様。しかしながらやはり総合性能ではレギオン系列機に劣り、更には操手の技量にあまりにも依存する事から、後送され姿を消していった。