沿革
ナルドール地方はもともと人が暮らしていくのに適さない地域でした。
優れた文化や文明を築き上げた人族は、その人口を支えるのに必要な実り豊かな土地に集まり、
北には森、東には山脈、南には沼地、西には海といった険しい地形に囲まれたナルドール地方は人が集まる事はなく
魔法文明時代も魔動機文明時代も荒野が広がるばかりの土地でした。
このナルドール地方を囲む地形のうち、森にはエルフたちが、山にはドワーフたちが暮らしていましたが、彼らは眼前の土地を欲する事はありませんでした。
エルフやドワーフが領土欲を強く持たなかった事に加えて、ナルドールの地を手に入れても利益が少ない事が大きな理由でした。
蛮族戦争が起き、侵略された地域から逃げ延びてきた人族の一部は、流民となって流れ果てた末にこのナルドールに居を構える事になりました。
しかしナルドールに定住を余儀なくされた理由は、ここに難民たちを受け入れる土壌が用意されていたからではありません。
もはや他に行く当てもなく、他の全ての土地で受け入れてもらう事ができず、捨てられ続けたためなのです。
当然ながら、ナルドールの住民たちは、自分たちを見捨ててきた他の国々に強い不信と憎悪を抱いています。
さらに、ナルドールの町は蛮族と海賊という二つの脅威に常に晒されています。
神聖国家アルテルを主にした他国からの食料援助も滞りがちです。
他国も、ナルドールの人々からの憎悪の視線はよく知っているので、下手に力を付けさせればその力は自分たちへの復讐に用いられると理解しているのです。
ナルドールへの施しは感謝の心を生む事はなく、かえって逆恨みを買うだけなのです。
このような町の現状を憂えて、町をより良いものにしようとする動きが存在しないわけではありません。
しかし、そうした志を抱く者は、多くの場合、非業の死を迎える事になります──誰かが成功を遂げる事は、他全員の妬みを買うためです。
この町に蔓延する「豊かな他国への憎悪」は、「自分が成功する事よりも他人が失敗する事を喜ぶ」という国民性を生み出しました。
他人から奪うという事をひとつ取っても、他国の犯罪者なら「自分の所有物にしたい」という欲望が先にありますが、
ナルドールでは「他人が良いものを持っている事が腹立たしい」ために奪うのです。
たとえ物を手に入れる事ができなくとも、物を壊し、本来の所有者の手に戻らなくなれば十分な成功と考えるのです。
この町から、冒険者として成功し、英雄として名を為した人物が輩出されなかったわけではありません。
しかし、この町から旅立った冒険者は、ほとんどの場合、故郷に戻ろうとする事はありません。
豊かで住みよい生活環境はもちろん、心が荒れ果てておらず、愛や施しといった概念を知っている隣人たちや、
仲間の危機には命すら賭けて戦う戦友たちを知った者は、もはやナルドールに帰ろうとは考えなくなってしまうのです。
成功を収めた名声、財力、戦闘能力を背景にして、郷土愛を持って地元の人々に尽くそうと心がけても、
それに向けられる視線は嫉妬だけだという事を誰よりもよく知っているからです。
こうして、ナルドールは郷土の英雄からも見放されていきます。
結果として、ナルドールは犯罪と貧困が蔓延するばかりになってしまいました。
いつしか、この町は「退廃の町」と蔑まれるようになっています。
地図
地図の1マスは5km四方で、一般的なキャラクターは徒歩で1時間に1マス移動できるものとします。
(徒歩で時速5km。移動速度14=通常移動60分で5040m。より詳しくは
基本ルール-巡行移動を参照してください)
騎獣や乗り物で移動する場合、1時間に、馬車で3マス(馬車の護衛を徒歩でしているのなら1マス)、馬で6マス、
魔動バイクで10マス進めます。
A.退廃の町ナルドール
都市の規模は「
大きな都市」にあたります。ただし、守りの剣はありません。
蛮族戦争の避難民たちが集まった町で、住民の多くは貧困に苦しむ生活を送っています。
ここにはまともな統治機関すら存在せず、町の中で力を持った者は(この町から出て行くという最善の選択を選ばなければ)
暴力や犯罪を中心とした組織を作り、日々抗争を繰り広げています。
こうした組織同士の抗争のために民力はますます枯渇し、力のない者は虐げられるばかりの状況が続いています。
力を持つ組織は一様ではなく、ある時突然に「混乱を極めていたナルドールの町の多数の犯罪組織を一夜にしてまとめ上げた天才首領」が現れたかと思えば、
その人物が暗殺されてすぐに組織が四分五裂したり、
冒険者たちがある冒険で交渉の窓口になった「ナルドール最大の勢力を誇る組織」が、次の冒険の時には影も形も無くなっていた、という事もあり得るのです。
不思議な事に、この難民キャンプのような町の中央には、それなりの設備を備えた城が存在し、「王族」や「貴族」と称する者たちが暮らしています。
彼らの出自は定かではなく、「騎士」や「親衛隊」と名乗る衛兵たちも、まともな教育を受けているのかも分かりません。
城に行くたびに、中にいる「王族」たちの顔ぶれが一人残らず変わっているという事も珍しくないため、他国がこの「ナルドール王」なる者をまともに取り扱うこともありません。
分かっているのは、彼らが町の住民たちの膏血を搾り上げた財で贅を貪っていること──そして、その運命は決して長くないということだけなのです。
B.鉱山都市デライラ
ナルドール地方に難民たちが追いやられていく時期よりも前から存在する、鉱山の採掘のために作られた町です。
つまり、地域区分はナルドール地方にありますが、この町は「ナルドール国の領土」ではありません。完全に独立した都市国家です。
町の運営は鉱山ギルドやマギテック協会など、町の有力な組織が合議制を行っています。
住民の多くはドワーフで、公用語はドワーフ語です。
魔動機術に親しむドワーフも多いので、魔動機文明語が通じる場合も多いでしょう。
ここで産出される鉄やミスリル銀は、ドワーフの武器職人たちによって剣や銃弾などの武器防具に加工され、街道を伝って東の地域へと輸出されていきます。
この辺鄙な場所にある鉱山都市こそが人族の生命線のひとつとも言えるのです。
蛮族の領域からは大山脈で遮られており、蛮族の大軍が押し寄せてくる事はありませんが、山を越えて蛮族の奇襲部隊が現れる事も少なくありません。
この町へは他国の援軍もすぐには届かず、人族の要地であることは蛮族も知っています。
そのため、この町は銃撃手を中心とした防衛隊が発達しており、またマギテック協会は日々銃器の改良や魔剣の開発に余念がありません。
町を防衛するための銃撃戦は得意なドワーフたちですが、山に逃げ込んだ蛮族を追撃する掃討戦は全く苦手としています。
ドワーフたちの速力では逃げる蛮族に追いつく事ができず、また山中での敗残兵捜索に必要な
スカウト技能に不向きなのです。
こうした局面では、人間やエルフやルーンフォークで結成された冒険者パーティーに依頼が寄せられる事が多いです。
C.ゾルド峠
人族の領域の東側(
リルヴァン、
アルテル)と西側(
クレプサイド、デライラ、ナルドール)を繋ぐヴァン街道で最も危険な場所と言われ、山賊が多発する地域です。
街道を通る荷馬車や商隊は数多く、険しい山を越えるために速度が低下し、また蛮族が出没しない内陸であるため警備の目が行き届かないという
山賊にとっては格好の拠点であり、山中には「以前討伐された山賊が立てこもっていた砦の跡地」という場所がいくつも残されているため、
討伐しても討伐してもこの地から山賊が絶滅することはなく、また絶滅させても別の山賊が現れるという事態に陥っています。
峠の西側にあるデライラの町は鉱山の町で、産出された鉄を加工しての武器・防具・銃弾を東に運ぶ馬車は軍事の生命線と言える存在であり、
東側からはアルテルからの農産物や、フィレーンからの魔法の品が届けられます。
これらの荷馬車を警護する依頼は冒険者たちの格好の飯の種となっており、リルヴァン南の
辺境伯領での蛮族との戦い、フィレーンでの魔剣の迷宮探索と並んで
ゾルド峠の山賊討伐は非常にポピュラーな──そして初心者冒険者に優しい──戦いの舞台となっています。
D.サンダーストーム山脈
人族の領域を東西に分ける大山脈で、山中には人が通る道は整備されておらず、また猛獣や幻獣も多く住まうことで知られています。
この危険な山脈を越えて蛮族が現れる事もありますが、その蛮族たちが山越えの苦労で疲れ果てている事すらあります。
E.ガンディック要塞島
大陸に襲来する外敵から防衛するための拠点として、巨大な砲台を中心とした要塞が築かれた島です。
蛮族は南側から襲撃してきたため、この要塞島が蛮族戦争で活躍する機会はありませんでした。
ナルドールに流れ着いた難民たちのうち一部が、さらに海を渡ってこの要塞を占拠し、海賊行為を働くようになりました。
ナルドール側には海賊島を陥落させるような海軍力は無く、海に出て漁をする者が襲撃されても為す術がありません。
海賊たちはクレプサイド領にも襲撃を掛けた事がありますが、エルフたちに水中から反撃されて船を沈められ、それ以来標的をナルドールだけに定めています。
F.ディドロの沼地
ナルドールの南に広がる巨大な沼地です。
もともと人が活用できる土地ではありませんが、蛮族戦争以来、ここに沼地で生息できる蛮族たちが住み着くようになりました。
幸いにも、沼地が広大すぎて蛮族たちには居心地が良いらしく、あえて沼地から離れて貧しいナルドールを攻撃しようと考えてはいないようです。
逆に、ナルドール側から見れば蛮族の数が多くなりすぎてしまい、討伐などとても考えられない状況です。
さらに戦いに勝つ事ができたとしても、得られる土地が何の役にも立たない沼地では、討伐しようと考える者すら現れません。
地図外.蛮族領エナジーガ
ディドロの沼地のさらに南側に、蛮族に占領された地域があり、そこから蛮族の軍勢が北上してくる事があります。
蛮族たちの侵攻ルートは3つあります。
ディドロの沼地を通過、サンダーストーム山脈を山越え、そして海軍を組織して船で海を渡ってくるという侵攻路です。
沼地に住む蛮族たちとは縄張り争いをしており、共同作戦を取るどころか、沼地を通過してくることすらほとんどありません。
山脈越えは大軍の移動に向かず、補給が極めて困難です。
海路を取れば、ガンディック要塞島の海賊たちが反応し、島に設置された巨砲が蛮族を撃退します。
このように蛮族の遠征軍は撃退され続けていますが、エナジーガを支配する蛮族領主がナルドールの地に領土的野心を抱いている事は確かです。
人族の領域の防衛ラインの正面と言えるリルヴァンと辺境伯領での戦いは人族側が勝利しましたが、
戦線の裏口であるナルドールは極めて脆弱な防衛体制しか持っておらず、軍備を支えるデライラを落とせば人族側は武器弾薬が枯渇するため、
エナジーガ軍の本格侵攻が開始されれば人族の命運は極めて危ういものとなるでしょう。
地図外.シムスン辺境伯領
ナルドールから送り込まれた貴族、シムスン辺境伯が治める領土がはるか南東に存在します。
本国ナルドールからは遠く離れた場所にあり、直通ルートすら存在しません。
シムスン辺境伯自身をはじめ、ナルドールから離脱した心ある者たちのフロンティアと言える地です。
詳しくは
辺境伯領のページを参照。
最終更新:2014年08月16日 17:50