許されざる呪文

登録日:2009/07/30 Thu 23:52:46
更新日:2025/04/04 Fri 03:50:37
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本気になる必要があるんだ、ポッター!
苦しめようと本気でそう思わなきゃ――それを楽しまなくちゃ――まっとうな怒りじゃ、そう長くは私を苦しめられないよ!





概要

許されざる呪文(Unforgivable Curses)とは、『ハリー・ポッターシリーズ』に登場する闇の魔術
項目名の通り、1717年の規定によりヒトに対して使用することを禁じられた呪文で、三種類存在する。
数ある危険で邪悪な魔術を差し置いて「禁呪」と指定されるだけあり、その力はどれも凶悪で、他作品と比べても遜色ないチート魔法である。
真価を発揮するためには「本気になる」必要があるらしい。

これをヒトに対して使用すれば、アズカバンで終身刑は確実とされる。
とはいえ、全盛期のヴォルデモート卿死喰い人という「禁呪もバンバン使ってくる相手」に縛りプレイなんざやってられなかったのか、バーテミウス・クラウチ・シニアを中心として法律が改正。
特例で闇の魔法使いや犯罪者相手には使ってもいいことになっている。

そんな禁じられている呪文だが、呪文の扱いは公開されている。
4巻ではホグワーツ内でアラスター・ムーディ(に化けたクラウチ・ジュニア)がクモ相手に3種全てを実演してみせた*1上、授業の一環として「服従の呪文」を生徒にかけて抵抗できるかどうかを試している。
闇の魔術師側に属するマルフォイ親子も、それぞれ別の状況で「磔の呪文」を感情任せに使おうとした(ドラコの方はまだ迷いがあった上、2人とも発動前に妨害されている)。
主人公のハリー・ポッターも、場を切り抜けるために「服従の呪文」を、完全に感情任せで「磔の呪文」を何度か使用している他、規則にうるさいマクゴナガル先生も「服従の呪文」を死喰い人に向けて使う場面がある。

あくまで使い方を知られている上での禁術指定であり、(死の呪文以外は)習得・発動だけ(・・)なら学生レベルの魔法使いでも可能というのがうかがえる。


◆呪文一覧

服従の呪文:インペリオ(服従せよ)

対象を絶対的支配下に置くエロネタに使えそうな魔法。
これをかけられている間、対象は最高の気分になり、術者の命令ならば普段できないようなことでもやってのける。

ヴォルデモート全盛期にはこの呪文で大勢の人が操られ、魔法省は呪文がかけられているかどうか判断するのに苦労したらしい*2
5巻ではマグルの政府幹部が服従の呪文にかかりそこねて奇行に走り、神秘部でも被害者が複数人出ている。
ハリーが知人を見つけて手加減する場面もあり、操られた顔見知りに襲われて困惑のまま命を落とした者も多いのだろう。
7巻では、殺害された魔法大臣ルーファス・スクリムジョールの後任に、パイアス・シックネス(もとは魔法法執行部部長)がこの呪文で操られた上で就任。
ヴォルデモートの傀儡としてハリーの指名手配やマグル生まれ登録委員会の設立、ホグワーツ魔法魔術学校の教員への死喰い人の任命(校長としてスネイプ、教員にカロー兄妹)などを行った。
このシックネス洗脳を行ったのはコーバン・ヤックスリーだが、ヴォルデモートでもない一魔法使いが、その気になれば国家首脳すら思いのままにできるというあたり、この術のポテンシャルの高さがうかがえる。

同じく7巻では、グリンゴッツ銀行に侵入するハリーがゴブリンと死喰い人に使っている。
こちらでは「敵構成員を無理やり支配下に置くことでの、セキュリティの突破能力」をうかがえる。

とにかく「汎用性」「利便性」が高い術である。
また、「誰が裏切っているのかわからない」「誰を信じていいのかわからない」という状況を作り出し、社会全体を疑心暗鬼の渦に取り込むことができるため、単なる効果以上に信頼関係や社会秩序すら滅んでしまいかねない……
実際、作中では「服従の呪文に掛けられていないか注意せよ」という言葉が頻繁に交わされた。

もっとも、絶対的支配性を堅持出来るかと言えばそうでもない。
というのも、この呪文は「絶対的な多幸感で喜々として命令を遂行する」ために、かけられた対象は喜色満面のラリったような表情で居続けたり、動きがロボットのようにぎこちなくなったり、と周囲に違和感を与える傾向があるからである。
術者の腕次第では、こうした不自然さを表出させずに自然体で操ることが可能ではある。
だが、作中においてかなり優秀な魔法使いであるバーテミウス・クラウチ・Jrが使用した時ですら、かけられたハリー達数十人の生徒達のうち複数人の生徒達にこうした兆候が表れていた。
(このケースではあくまで訓練だったため、「本気で」支配下に置こうとして全力で掛けたわけではなかったと思われるが)
この呪文を受けているか見分けがつかない状態で操るのは思ったよりも難しいとも考えられる。
加えて、一度掛ければ永続的とは行かないのか、度々呪文をかけ直す必要があるらしい。上記のコーバン・ヤックスリーが魔法省にいたのは、シックネス洗脳を維持するためだったとのこと。

なお、作中で明言されていないが、描写としては他にも制約がある模様。
作中では6年生になったドラコ・マルフォイも使用していたが、複数人を服従させる際に用いた手段は「とある魔女に『服従の呪文』をかけて、服従したその魔女に対して『他の人間に服従の呪文をかけてこう指示しろ』と命じる」という、実にまだるっこしいものだった。
マルフォイの練度や覚悟の問題なのかもしれないが、この呪文で同時期に支配下に置ける個体数には上限があるのかもしれない。
(この時のドラコの目標は「ダンブルドアの暗殺」だったが、本人としては恐ろしくて全くやりたくない仕事で、ダンブルドアからはあまりに生半可すぎて正直困惑していたことも語られている。「本気になる」のが必要なら、「嫌々」やっているドラコの魔法に威力が乗らないのは必然ではある)
一方、マルフォイがその魔女を支配下に置いた際にはダンブルドアでさえ服従状態にあるとは気付いていなかったため、上述した「完全に見分けがつかないほどに操ってみせる」ことはヴォルデモートに限らず彼にもできることが描写されている。フォイもやるときはやるのだ

更に、精神力や術者に対する感情によっては跳ね除けることも可能。
作中ではハリー・ポッターがヴォルデモート当人の仕掛けた「服従の呪文」を跳ね除けてみせた。
ハリーは主人公に相応しい強い正義感を持ってはいても、年相応に多感で揺らぐこともある少年でもある。
その彼が、史上最強候補たるヴォルデモート直々の「服従の呪文」を跳ね除けた。
そして、この呪文を濫用していたと思しき死喰い人のような闇の魔法使い達は、ヴォルデモートの操るそれに比べれば遥か低次元の効力しか発揮しない。
これらの事実を考慮すると、親の仇を憎むかの如き敵愾心を燃やす相手と対峙して、真正面から「服従の呪文」を仕掛けたところで、碌な効き目は無いと推測される。
まずは他の魔法で昏倒させて無防備にするなり、気を許して油断している状況で不意を突くなりしなければ、容易く支配には置けないであろう。

また、精神力で跳ね除ける以外には、強い外的ショックにより術が解ける場合もある。
作中で成功したのは先述のハリーを含めて、クラウチ親子、ブロデリック・ボードの4名。
しかしハリーとクラウチ・ジュニアは無事な状態で呪文を破ったものの、クラウチ・シニアは50歳以上の高齢と長期監禁による衰弱もあってか錯乱状態、49歳のボードも失語状態での解呪となった。
後者2人は死喰い人の暗躍による呪術であったため、完治しないまま口封じのために暗殺されている。

その他にも、グリンゴッツ銀行破りの際にハリーたちは一度「服従の呪文」をキャンセルされている。
実はゴブリンが呪文の効果を全て除去する水を開発しており、グリンゴッツ銀行の奥地の防犯策の一つに使われていたのだ。
もしゴブリンと魔法族がもっと仲良くできれば「服従の呪文」による被害はかなり防げたのかもしれない。

もっとも、実際にゴブリンとともに働きゴブリンの友人もいると語るビル・ウィーズリーですら「『友情』というものが人とゴブリンの間で成立する限りにおいてであるが」と諸々含んだ言い方をしているあたり、人類とゴブリンは完全な異種族であり、本当の意味で分かり合える代物ではないとも考えられるが。
それこそ、吸魂鬼もアクロマンチュラも意思疎通や対話自体はできるが、かと言って「必ずしも人間側の思うように動いてくれるわけではない」のである。
実際としてハリーたちの銀行破りに協力していたゴブリンは、ハリーたちが窮地と見るや製造者たる自分たちのものとしてゴドリックの剣を奪い返してパーティを離脱、挙句に仲間のゴブリンたちにハリーたちを攻撃するよう仕向けている。
そう考えると「ゴブリンと深い協力関係が結べていればよかった」というのも、魔法薬の効果だけ見て作り手を鑑みない理想論でしかないのかもしれない。

磔の呪文:クルーシオ(苦しめ)

相手に想像を絶する苦しみを与える拷問用魔法
ただ「苦痛」のみを与え、身体的外傷は一切発生しない。
全力で何度も繰り返しかければ、相手を発狂させて廃人にする事も可能。
ネビル・ロングボトムの両親はベラトリックスやクラウチ・ジュニアらにこの呪文で拷問され、廃人になってしまった。
4巻と5巻でこの話が少し出てくる。

「死んだ方がマシだ」と思う程の痛みらしいが、外傷を与える術でないためか作中では術が終われば割と平気な人が多い。
息切れする程度である。
逆に言うと、この術をいくらかけても「肉体は損なわれないし、死ぬこともない」ため、無限に、繰り返し、何度でも苦しめ続けることができる。
廃人にされてしまったロングボトム夫妻はどれだけの長時間この術をかけられ続けたのだろうか…

5巻でシリウス・ブラックを殺したベラトリックス・レストレンジに対して怒るハリーが使用。
ベラトリックスは痛みに苦しむ叫び声を上げたものの、ハリーの意に反して短時間で効果が切れてしまった。
項目冒頭の「許されざる呪文を使うときには『本気』になる必要がある、相手が苦しむ姿を楽しむくらいでないと」はこのときベラトリックスがハリーに向けて言ったもの。
その後7巻では、ミネルバ・マクゴナガルに唾を吐きかけたアミカス・カローに対して、ハリーが「本気で」使いアミカスを失神させる程の激痛を与えた。
補足しておくとアミカス・カローは死喰い人であるから法律上は問題ないことに加え、この場は規則にうるさいマクゴナガル先生がうろたえながらも「雄々しき行為ですが…」と言うほどの状況であった。

6巻ではドラコ・マルフォイが怒り任せにハリーに使おうとしたが、寸前でハリーの攻撃が発動して返り討ちに遭った。
このときハリーが内容を知らずに放った「セクタムセンプラ」は無数の見えない斬撃を放つ呪文であり、外傷を付けないまま苦痛のみ与える磔の呪文とは対照的な術と言える。


死の呪文:アバダ・ケダブラ(息絶えよ)

相手は死ぬ。

唱えると杖先から緑色の閃光が放たれるのが特徴。
問答無用で文字通り「瞬殺」する、最凶にして最強の攻撃魔法。
本作の多くの呪文はラテン語に由来するが、この呪文に限っては語源はアラム語で最も有名な呪文「アブラカタブラ」を由来とする*3

呪文を受けた生物は何の損傷も受けず、ただ死亡した状態となる。
ヴォルデモートが1943年に彼の父方のリドル一家をこの呪文で殺害した際、検死を担当したマグルの医師団は「死んでいるという事実を除けば、医学的には健康そのものである」という見解を示した。

呪文を防ぐための反対呪文が存在しない。
これは本作品の世界観において、一度被弾すれば効力を中和や相殺、緩和する手段が無いということを意味し、最大の脅威とされる理由である。
魔法界の歴史上、これの直撃を受けて死を免れたのは生き残った男の子ただ一人とされている。

強力な呪文である反面、唱えるには当然条件がある。
何より強力な魔力が必要であり、力の弱い魔法使いが唱えても何の効力も発揮しない。
ムーディに化けたクラウチ・ジュニアはホグワーツ魔法魔術学校の生徒に向けて「お前たちが私に使ったところで鼻血を出させることすらできないだろう」と語っている。
更に、「磔の呪文」の発動条件と同等に、強烈な殺意も必要となる。
生徒達には使えないと語った理由は魔力以外にも、彼らには赤の他人を本気で殺害したいと思う機会はそうそう無いと見立てたからだろう。

作中でこの呪文を連射・乱射したのは
のみである。

ただ、死喰い人のほとんどはこの技を実戦レベルで習得しており、中には「強力な魔力と腕前」がなさそうな人物もいる。
ヴォルデモートは死喰い人に「闇の印」を刻んでいるが、もしかしたらこれで魔術の能力を底上げしているのかもしれない。

よく「反対呪文が無いからあらゆる呪文でも真向から防御不可能」と解釈されがちだが、実はそんなことはなく、この呪文を呪文で防ぐこと自体は可能。
原作においても、この呪文を失神呪文で受け止めて、魔法同士の衝突によって相殺される場面があり、映画のような所謂ビームの鍔迫り合い現象で凌げる魔法ではある。
あとは当人達の魔力に左右される。
しかも、緑の閃光を一筋放つだけなので、場合によっては別の爆発呪文などを使用した方が殺傷力が高い場面は多い。

この呪文が最強扱いされるのは、実質的にヴォルデモート卿が使っているからこそである。
他とは次元の異なる魔力を持つ彼ならば、魔法の鍔迫り合いに持ち込んだ時点で実質的に勝利したに等しい。
しかも、一流の魔法使いであるベラトリックスでさえ一発放つだけで消耗するこの呪文を、ヴォルデモートは通常攻撃感覚で気軽に乱射してのける
彼が扱うからこそ、反対呪文が存在しないこの呪文を真に防御不能な最強呪文足らしめるのである。

アルバス・ダンブルドアでも真っ向からの対処は避けており、石像などの無機物で防御するなどしている。
逆に言うと、魔力で勝る相手が放つこの呪文も、相殺を考えなければ対処は可能。
  • 障害物の陰に隠れてやり過ごす
  • ダンブルドアのように周囲の物質を操りにする
というのが一般的。
また不死鳥がこれを食らった場合、「死んだ」と言うことで一度は燃え尽きるが、不死鳥なのですぐに復活する。


なお、ヴォルデモート卿の放ったこの呪文が赤ん坊のハリーによって反射された際には、なぜか家そのものが吹っ飛ぶほどの破壊を伴ったらしい。
直前のジェームズ・リリーに使用した際や他の発動例にはそのような現象は起きておらず、また赤子のハリーにヴォルデモートがことさら強力な魔力を注ぎ込んで全力でぶっ放すと言うことも少し考えづらい。
そのため、これに関しては直撃したヴォルデモートに何か問題があったのかもしれない。
(七巻でもヴォルデモートは「死の呪文」の反射によって落命したが、やはり爆発は起きなかった。ヴォルデモートはただでさえ強大な魔力を持つところに、赤子のハリーを襲った際には分霊箱の発動が起きる、肉体が死を迎えてゴースト未満の状態になってしまうなど、さまざまな現象が一度に起きたため、その余波で本来想定しない魔法の爆発も一緒に起きたのかもしれない。作中では、無意識に魔法が発動してでたらめな現象を起こすことも描写されている*4






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最終更新:2025年04月04日 03:50

*1 ホグワーツでは6年生のカリキュラムでこの呪文について教えることになっており、ムーディの意向で前倒しした形

*2 一部は服従の呪文にかけられていたと言い逃れてアズカバン送りを免れている

*3 「アブラカタブラ」の正確な意味は不明だが、一般には「物事は我が言葉の通りとなれ」か「我が言葉のままに消え去れ(主に病魔に対しての言葉)」と推定される。前者のニュアンスから手品の場などで、後者のニュアンスからお守りの刻印などで使われるという。

*4 一巻序盤の、魔法など知らないハリーの周りで起きた不可思議な現象の数々など。