拳銃

登録日:2009/07/12(日) 02:54:10
更新日:2025/06/29 Sun 00:15:27
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各用語についてはの用語解説を参照。

概要

読んで字のごとく、掌サイズの(少なくとも比較的小型な)銃である。
片手で扱える銃であり、多くは警官の最終手段。もしくは兵隊のバックアップガンとして扱われる。
英語表記はいくつかあるが、薬室と銃身が一体である銃(古式銃や現代のセミオート拳銃など)をピストルオートマチック
西部劇でお馴染みの回転式薬室を持つ銃をリボルバー
これら全部を含めた、片手で狙って撃つ事が設計に入っている小型銃全般をハンドガンと言う。
かつては「拳」が常用漢字ではなかったため『けん銃』とも表記されていたが、今は常用漢字となっている。



歴史

拳銃自体の歴史は古く、16世紀に銃の普及とほぼ同時に開発された。
当時も現在の使用法に近く、近距離戦において「刃渡り数mの回数制限のあるサーベル」として用いられた。
古式のハンドガンは小銃と同じ発火装置を備え、装填動作もほぼ同じ。そのため連射性能を上げる、もしくは弾込めの隙を無くすために様々な運用上の工夫がなされた。
多数の鉄砲をとっかえひっかえ…がよくある話だが、人気だったのは先端にナイフを付けることだった。
雷管が実用化された19世紀前半に、アメリカ南北戦争を契機に現代拳銃としてリボルバー式が。遅れて薬莢の発明後に自動式が開発される。



動作方式

拳銃の動作方式ではシングルアクションと、ダブルアクションの差異・重要性が大きい。
また、リボルバーでは射撃以外の動作(弾倉の回転など)も撃鉄を起こした際に同時に行う。

シングルアクション

発砲前に手動で撃鉄を起こさないといけない代わりに引き金が軽く精密射撃をしやすい。

ダブルアクション

引き金が引いていくと落ちていた撃鉄がじりじりと起きていき、起ききった撃鉄が引き金最後のひと引きで落ちるという動作をとる。
引き金を引くだけで発砲できる代わりに、引き金が重く、かつ長く引く必要がある。
力にムラがかかりガク引きを起こし易く、命中率は笑えないくらい落ちる。これは引き金に発射以外の力もかかっている他、安全装置の代わりに引き金を重くしているという面もある。
あらかじめ撃鉄を起こしておけばSAとして撃発するだけなので高い命中率を維持できる。
しかし前述の安全性を鑑みて、機械的に安全に撃鉄を下ろすデコッキング機能を付与したり、撃鉄を起こした状態を維持できないダブルアクションオンリー(DAO)の形式をとることがある。



拳銃の種類

リボルバー

日本に限らず、多くの国の警官の標準装備に選ばれる。装弾数は5~8発程度でよくあるのは6発。
シリンダーにある薬室に1発ずつ弾を込める。

リボルバーは、SAとDAで使い勝手が特に変化する拳銃である。
SAのリボルバーは一発撃つたびに撃鉄を起こさねばならず、連射性能が悪い。
引き金を引くだけで連射できるDAリボルバーの発明は画期的で、それ以降リボルバーはDAが基本になる。
余談だが、名門コルト社はDAの製造が苦手で、DAの発明以降はリボルバー部門でライバルのS&Wに遅れをとった。*1

弾を撃ち尽くすと、空薬莢を手動で排出し、新しい弾丸を手で込めて再装填する。
黎明期は分解以外の方法ではシリンダーが外れなかったため1発ずつ回しては排莢、再装填していた。
現在の主要なリボルバーでは右手親指付近にあるスライドレバー(サムピース)を操作することでシリンダーが本体の横に出てくる(スイングアウト)ようになっており、この状態からまとめて行うことができる。コルトM1889(1889年)/S&W ハンドエジェクター1s(1894年)から広まった。

撃ったすぐあとだと薬莢が膨張して張り付いていることがあるため、エジェクターロッド(シリンダー中央から伸びる棒)を押し込み強制的に排莢する。
ちなみにシリンダーは会社によって回転方向が異なる。1発だけ射撃したりロシアンルーレットをする際はその点を覚えておこう。
中折れ式など独特のものもあるにはあるが、フレームを一体成型にできずコストに対して強度が見合わない為近年ではあまり見ない。

長所

リボルバーの利点はなんといってもその「頑丈さ」。
滅多なことでは動作不良を起こさない。頻発するとすればそれは大抵弾薬の問題。
しかも不発だけであれば、撃鉄を起こせば(DAなら引き金を引けば)次が撃てるので復帰も早い(遅発の恐れもなくはないのであくまで非常用)。
マグナム弾の発射にも十分に耐え、最強の拳銃・最強の実用拳銃双方ともリボルバー。
射撃はおろかメンテナンスもせず放置気味な状態であっても緊急時には確実に撃てるという性質もリボルバーならでは。
また、1つの銃で複数の弾へ対応していることも多い。例として.357マグナム弾対応銃は.38スペシャル弾の装填と発砲が可能。

短所

装弾数がどうしても少ない。昨今の拳銃は10~18発ほどを撃てることを考えると、同じ球で6発程度では心もとない。
薬室とバレルとの間に隙間があるため、特別な機構がないとサプレッサーが役に立たない等の点が挙げられる。
装填にも時間がかかるが、スピードローダーやハーフムーンクリップという器具を用いて短縮が可能。

余談

なお、実写やアニメ等でよく行われている「手首のスナップなどを利かせてシリンダーをセットする行為(スナップロード)」は、アクションとしては映えるがシリンダー軸やフレームに多大な負荷がかかり、精度が下がるだけでなく動作不良や破損の危険がある。エアガンなどでも言わずもがな、スナップロードに対応している銃以外では真似しないように。

第二次世界大戦後は
  • 技術力の向上によって自動拳銃の信頼性が高くなり低価格化された
  • 自動拳銃向けの弾薬のほうが供給量が多い
ため、軍や警察の最前線からはすでに引いた身。
だが、目的に合致したハンティングガイドや法執行機関(あと一部GIGN*2)での護身用装備としては依然強い人気がある。
また、旅客航空機添乗武装警備員(スカイマーシャル)の装備としても定番になっている。
めったに発砲する事はないが、いざという時不発が起きたらカバーしてくれる味方がいないので取り返しがつかない。しかも周りに民間人がいるので飛ばした薬莢で怪我人が出てはいけない…というシチュエーションにぴったりなのである。

近年は下記の理由により、リボルバーの欠点が逆に利点となるよく分からない状況が発生している場合も(要出典)。
  • 発射時に薬莢をばら撒かない*3
  • 装弾数が少ないことから銃規制に引っかかりづらいために所持しやすい

他には早撃ち競技用という出番もある。西部開拓時代を意識した早撃ちの大会ではほぼほぼシングルアクションリボルバーが使われる。
昨今のダブルアクションリボルバーに比べて素早い撃鉄の動作に最適化されていることと、精度の面でどのみちシングルアクションを用いるという点が大きい。
射撃チャンピオンなどはシングルアクションで度々行われるファニング*4でアサルトライフルのような3~6連射をやったりする。
某狙撃手某毒蛇みたいな連射は普通の自動拳銃ではサイクルの都合難しい。

リボルバー、なんでまだ売ってるの?

「リボルバーよりオートの方が装弾数多いしリロードも早いじゃん、なんで未だにリボルバーなんて売ってるの?」
リボルバーの利点以外にも、自動銃全般のデメリットの存在がある。弾倉に銃弾を装弾したまま長年放置するとマガジンのバネがへばって給弾不良の原因になる(本当に長年。5年程度でヘタることはない)。
その他にも、リボルバーに比べてしまうと動くパーツが多くどうしても信頼性の面では劣る。
前述のようなニッチな用途で今日もリボルバーには需要があるのである。

ちなみに護身術の講習などでは「銃撃戦になったら2~3発牽制して逃げろ、撃ち合いなんか考えるな」と教えられることが多い。
その運用ならば装弾数などあまり問題にはならないといえる。

有名な銃

S&W M29
コルト SAA(シングルアクションアーミー)「ピースメーカー」
コルト パイソン
タウルス レイジングブル


オートマチック

現在の主流。7~18発に薬室ぶんで+1発入れて携行可能で自動小銃などと同様の構造。

基本的に引き金を引くだけでいいが、最初の一発だけはスライドを引いて薬室に弾を装填しなければいけない。
そのあとのプロセスは以下の通り。

  • 引き金を引く
  • 弾が撃ち出される
  • 火薬の燃焼に伴い発生するガス圧でスライド(とバレル)を後退
  • スライドが撃鉄を起こす。ディスコネクタにより撃鉄はその位置で維持される
  • 銃弾が銃身を離れた段階でスライドのみが後退しきって薬莢を排出
  • 複座バネの力でスライドが前進する(弾切れだとスライドが後退位置で止まる)
  • 前進中次の弾をマガジンからすくいあげ、薬室に送る
  • スライド(とバレル)が射撃可能な位置に到達
  • 引き金を離す
  • 最初に戻る

これらがほとんど一瞬で行われる。

使用すべき弾は銃によってほとんど決まっており、違う種類の弾とは互換性は意図されない限りほとんどない(その場合もバレルとボルトorスライドの交換が必要)。
同じ種類の弾だとしても、想定より装薬量が少ないものを使ってしまうとスライドがバネの力に負けて下がりきらずに動作不良が発生する。反対に装薬量が多いものを使うと銃そのものを破損させるおそれがある。

オートマチック拳銃はスライドの動作を利用して撃鉄を起こしてくれるため、リボルバーに比べるとSAとDAの格差は少なめ。
それでも「ホルスターから素早く抜いての最初の一発」というよくあるシチュエーションではDAの方が安全。
SAのみの機種の場合、安全性を少々犠牲にして「初弾を装填、ハンマーを起こした状態でセーフティを掛ける(コックアンドロック)が標準の場合もある。

長所

装弾数が多い。しかもたいていの場合グリップ下部から装填する為、短機関銃用のロングマガジンとの互換性があれば30発以上の連射が可能となるものもある。
銃を平べったくしやすい。リボルバーはどうしても弾x2+αのサイズのシリンダーぶんの幅が生まれるが、シングルカラムマガジンを用いたコンパクトなピストルなら服の下に忍ばせることも容易(コンシールドキャリーと呼ばれる)。
そしてコンシールドキャリー向けに7発未満のマガジン又はそれを想定した銃も存在する。
装弾数の幅が広いことは、様々な実務への対応能力への適性があることを意味する。近年の警察はもちろん、軍隊でも指揮官の護身用や対テロを想定した市街地戦でのバックアップ等今なお現役。

短所

前述の通り1つの銃では弾や装薬量の対応幅が小さい。

銃弾が銃身から離れる前にスライドが下がってしまうと薬莢が破裂するなどの事故につながるため、その対処に苦心することになる。
スライドを重たくする(シングル/ディレイドブローバック)、銃身が一定以上の場所でティルトしロックが外れる(ティルトバレル式ショートリコイル)、その他の方法で一定時間ロックするなどいろいろなアプローチが存在するが、どの形式でも上記の克服はむつかしい。
強度の面からしても、オーバーな大口径自動拳銃はあまり作られない。そういった拳銃が成功した裏には大量の失敗がある。

有名な銃

ベレッタ 92FS
グロック17
コルト M1911
SIG SAUER P226
S&W M29



副次的な分類

マシンピストル

フルオート機能がついたことにより、より攻撃性の上がった自動拳銃。
拳銃弾をフルオート射撃できる点でサブマシンガンとの違いは曖昧だが、主に拳銃をベースにしたものがこちらを指すようになっている。
拳銃の携行性に連射性が加わり屋内では最強に見える。

基本機構はセミオートと同様でディスコネクタ回りのみの変更。
レートリデューサーによる調速はスペースゆえか省かれることが多いため連射速度が速く、引き金を少し引き続けるだけでマガジン内の弾をあっという間に使い切ってしまう。

また連射による反動も大きい。簡易的なストックなどを用いれば多少補えるが、それは拳銃の携行性という利点を失うことも意味する。

セミオートに切り替えられるセレクターやバースト射撃のみの実装、コンペンセイターの追加、多段数に対応したマガジンが使われるなどの対策が取られる。
そこまでするのなら、ちょっと大きくなるけど普通に短機関銃の方が良くね?となる。

民間での合法的な市場がほぼないのも欠点で、民間人やお巡りさんが小さい銃で乱射するなど大問題。軍が使うには力不足。
そうなると要人警護などの特殊な用途でしか使えないため、現在は必要性がある場合にのみ製造される。

有名な銃

ベレッタM1951R
ベレッタ93R
グロック18C(Cはコンペンセイターの意味。18無印もある。)


小口径拳銃

9mmパラベラム弾よりもさらに小さい弾を用いる拳銃。反動も小さいため、初心者でも十分に扱える。
さらに、サプレッサーを装着し音速を下回る弾速の弾薬を使用すれば発射音をほとんど消すことができる。
あまりフィクションに登場しないが、射撃練習や特殊作戦まで幅広い用途を持った拳銃である。

射撃競技など向けの22LR弾がよく選定される。
22LR弾は撃った感覚こそあるもの、強い反動を謳うエアガン程度(逆に厳ついなりなのに強度その他の理由で低反動なエアガンカワユス)。
落としたら見失いそうなほど小さい。普通ひと箱買うと50発入っているが、一般男性の手のひら程度で収まる。箱もマッチ箱より二回り大きい程度。
被弾しても即死の可能性は少なく、頭に食らっても当たり処次第では社会復帰の可能性すらある(少なからず後遺症は残る。小さくとも実包である)。

有名な銃

S&W M32「キットガン」
コルト ウッズマン
コルト M1908ベストポケット


大口径拳銃

だいたい.45口径あたりからこう呼ばれるが、メジャーな.45ACPを大口径拳銃弾と呼ぶことは少ない(銃のほうは大抵大型拳銃と呼ばれるが9パラも同規模である)。
装薬量を増やしたいわゆるマグナム弾の事を言う場合もあったりするが、.48インチあたりからはほぼ大口径と呼ばれるようだ。

被弾すると大変なことになる。頭なんかに被弾したら面影すらない無残な状態となるだろう。
そして撃つ方も大変である。反動を抑えるためにはきちんと構える必要があり、握力が足らなかったり腕が曲がったままだと手からすっぽ抜けて顔面に当たってしまったりする(特にリボルバーはそのようなことが多いので、初めての射撃では1発だけ撃てる状態で試してから再装填して連射というルールを設けている射撃場もある)。

世界最大の実用拳銃と謳われるスミス&ウェッソンのM460やM500は三脚や照準器を取り付けることができ、スリングも装着可能。

おおむね「ライフル使えばいい所をあえて拳銃でやる」あるいは「ハンドガンででっかい弾を撃ちたい」という趣味のためのものだが、実用用途も存在する。ハンティングで山に入る際のサブウェポンである。
山を歩いていて大型獣(もっとも想定されているのがクマ)と出会った。担いだライフルは大抵薬室から弾を抜いているため射撃まで何秒もかかってしまう…
そんな時に腰から抜き放つために装備するのだ。.44マグナム弾クラスならば、クマの肉・脂肪・毛皮からなる分厚い天然装甲であっても至近距離なら貫く事ができる。

ちなみに大口径拳銃の多くはリボルバー。
自動拳銃で有名なのは無論デザートイーグル.50AE。それ以前には44オートマグがあったが、発表時は「動作不良が多すぎて話にならない」と評価されてしまった(現在では設計者の遺志を継いだ新しいオートマグとして新生し、クオリティの高さを再評価されている)。

有名な銃

IWI デザートイーグル
Automag LTD. Corp. オートマグ(新生)
S&W M500
Rsh-12(Ash-12突撃銃用の12.7x55mm弾を用いる)
パイファーツェリスカ(実用とは程遠いが一応世界最大の拳銃とされる)


拳銃以外をベースとした拳銃

パトリオットピストルのように、どう見てもアサルトライフルだろというような銃がある。
これらはストックによる肩付けができないもの 等と定められた方の穴を突くことを目的としている。
民間人の所持が難しい短銃身のカービンを拳銃扱いとして所持できるが、かなりややこしい。
逆に拳銃にガワをかぶせて短機関銃のように取り回せるキットも存在する。詳細は後述。



拳銃あれこれ

命中精度

銃の代名詞みたく言われる拳銃であるが、とっさにも使いやすいことがウリの銃種なので比較的小さく軽いことを前提に設計される。
つまり、射撃の性能自体は控えめ。銃が小さいということは狙いも比較的緩くなるし、同じ弾を用いる短機関銃と比べても初速が遅い。
有効射程はどう頑張っても50mが限界である。
これは弾の特性と銃身の短さによるものであり、拳銃である以上普通は狙撃することもないため、重本体の性能としては今後劇的に向上することはほぼない。
2020年代に入ると拳銃にもドットサイトを標準で搭載することが増えている。グロックのMOSやSIG SAUER P320(M17/M18)など、命中精度の向上のための改善として法執行機関などで制式採用の条件とされている場合がある。アクセサリーや後述のテクニックの面でのアプローチが基本となっていくだろう。

アクション映画等に登場するモブキャラが、拳銃を撃たず、まるで主人公に撃たれようとしてるかの如くやたら突進していくシーンを見たWiki篭りも居るだろう。
リアル志向の作品でも見る光景だが、これは別にやられに行ってる訳ではない。ある程度相手に近寄らないと撃っても外れるから距離を詰めているのだ。
(無論詰め方が絶望的に悪いとはいえる。それに主人公側は迎撃の構えを取っている場合が多く、同じ拳銃どうしでも静止してきちんと狙って撃てる状況にある。)

ライフルの場合はストックを肩に当て、さらには依託射撃も併せて3点で抑える。そのため射線もブレず命中精度も上がる。
しかし、拳銃の場合はグリップの一点でしか支えられないしグリップ以外の箇所も小さいので十分な依託ができない。
それに(どんな銃でも同じだが)慣れていないと焦ってガク引きしてしまう。僅か1度の射角のズレは距離が開くほど大きく響き、明後日の方向に飛んでいくので、想像以上に当たり難い。
銃の扱いに慣れない人間が実践的な状況に置かれると3mのマンターゲットですら結構外す。
FBIの調査では拳銃での銃撃戦の距離は平均して5~7m *5
特殊部隊員等は25m先でも十分に集弾出来ると言うがそれは訓練時の話。実戦で咄嗟に構えて百発百中という訳ではない(そんな状況になる前に持っているプライマリの突撃銃/PDWで片づけてしまう)。

オリンピックなどの競技用拳銃では片手で10m先の的を狙う。

片手持ちと両手持ち

拳銃は発明から1980年代までの長期間、形こそ変われども片手で扱うのを前提とした武器であった。ポイントシューティングと呼ばれ、指でアレと指すように腰だめで射撃する(きちんと狙うときだけ照準器を覗く)。
大航海時代の海賊にしろ、西部開拓時代の保安官にしろ、第二次世界大戦の士官にしろ、片手で手綱なりサーベルなりを握る必要がある。
不意に遭遇した相手に対して咄嗟に用いる最終手段、というのが共通認識。命中精度が更に低い大昔なら尚更である。

上述のシングルアクション用のファニングという技法にしても、最も需要があっただろう西部開拓時代ですらほとんど曲芸レベルの扱いであった。

1976年、元海兵隊員の故ジェフ・クーパー氏が射撃講習を目的としたAPI(現ガンサイトアカデミー)を設立。
講習の傍ら、現代的な都市犯罪や個人護身などに合致した両手での正確な射撃を体系化。
ロサンゼルス副保安官 故ジャック・ウィーバー氏の姿勢をもとにウィーバースタンスとして結実した。
この体勢は、拳銃を保持する利き手は前に突き出して突っ張らせて、支えるもう一方の腕は曲げた状態で利き手を引っ張るように支える。そして片目で照準を通して標的を狙い、もう一方の目で周囲を警戒する。
かつては警察を中心に浸透した技術理論であった。
射撃の精度は確かに上がるし、何より見栄えが良いので、現在でも映画やゲームではこのスタンスを採用することは多い。

しかし、「一般的な警官が狙いを定めると言ってもたかが知れているし、余程訓練しなければじっくり狙うという行為に意味が無い。むしろ時間がかかる分だけ命を無駄に危険に晒す」という観点から、課題を指摘する声もあった。

そして、警察を中心に現代的な技術理論と洗練されたのが、アイソセレススタンス等の派生スタンスである。
これは簡単に言えば、腰を少し落としつつ両腕を前に突き出すようにして構える体勢である。
拳銃を使用するのは主に警官だが、技術改良された防弾チョッキを身に着ける犯罪者を相手にする機会も増えた。
しかし、職業上最初から殺傷前提で相手の頭部を撃ち抜く訳にもいかず、そもそも小さい的である頭部を悠長に狙えば警官に危険が及ぶ。
そうした情勢下では、体幹をしっかり固定して射軸を安定させ、より素早くとにかく目の前の標的に弾を当てることこそが重視される。
相手のどこかしらに弾が当たる状況さえ確保出来れば、あとは対象に2、3発撃ち込めば、相手が防弾チョッキを着ていようが衝撃で行動を抑制出来る。
命中精度よりは早さによる安全性を重視していると言える。


昨今では、元警察トレーナーである故ポール・キャッスル氏によって「C.A.R.(Center Axis Relock)システム」が提唱されている。
近距離戦闘に主眼を置いたテクニックで、映画ジョンウィックにより民間でも有名になった。
ただし銃に慣れた者向けのテクニックであるため、禁止している射撃場もある。
余談だがエアガンだとホップアップシステムの都合銃を傾けたりすると弾道が大きくズレる。その点を重々承知の上でなら、近距離戦で有用かもしれない。

古今東西、拳銃は近距離での遭遇戦向けという点こそ変わらないものの、最も運用技術が変化している銃といえるだろう。


初心者の方はまずはウィーバースタンスから。以下右手右目で構える場合の一例。
  • 右足を少し下げて腰もひねる。
  • 右手に拳銃を持ち、肘を曲げずに構える。
  • 左手は右手中指~小指に重ねる。トリガーガードに指を重ねてしまうときちんと保持できない。
  • 右手は最低限の握力、左手は最大限の力できちんと保持。
  • 頭を下げ気味にし、右手が一直線になるように調整(反動を真っすぐに受け止めるため)。
  • その状態で引き金に右人差し指をかけ、力をこめず引く(力を入れるとガク引きとなる)。
アイソセレススタンスは以下。
  • 足を肩幅程度に広げる(前後には動かさない)。
  • 体も真正面に向ける。
  • 銃の持ち方は左右ともウィーバースタンスと同じ。だが腕は両方とも伸ばし、上から見てアイソセレス(二等辺三角形)になるように構える。
  • 撃ち方もウィーバースタンスとも同じ(しかし構えが影響してリコイルからの戻りが早いので即時の自弾発射が可能)。
近しい要素があるため、折衷案のモディファイドウィーバー(アイソセレス)スタンスとしてアレンジするものもいる。

Youtubeの射撃インストラクターさんの動画を確認するのが良いだろう。
共通で以下の点に気を付けよう。
  • なるべく前傾姿勢になる。体重が反動を相殺してくれる。
  • グリップを握る側ではなく支える側に全力を掛ける。右手はほぼ沿えるだけ。
  • 腕を両方曲げない。自動拳銃の場合まげて反動を逃がしてしまうと動作不良を起こす。


分解、メンテナンス

リボルバーは通常分解できる範囲はほぼないほどシンプル。完全に分解するにはネジを外す必要がある場合も。
シリンダーギャップなどで汚れている個所とシリンダー軸への多少の注油で事足りる。
オートマチックは通常分解でフレーム、スライド、バレル+リコイルスプリングに分解できる。
定期的な注油と清掃は行うべき。毎日発砲される拳銃はスライド後退時にスス交じりのオイルを散らすことがあるので注意。

安全装置

これらは小銃などでも同じ機構が搭載されていることがあるが、拳銃では携行するということを第一により安全性に重きを置かれている。
最初期のリボルバーなどを除き、引き金を引いていない状態ではファイアリングピンが雷管を叩かないような安全装置が組み込まれている。
さらには人間の意思とは関係ない個所として、
  • きちんと握った状態でないと撃てないグリップセーフティー
  • マガジンを挿入しないと撃てないマガジンセーフティー
  • 引き金の適切な位置に指を置いていないと引き金が引けないトリガーセーフティー
  • チャンバーインジケーター(薬室に弾が入っているかを射手に示す銃後部の部品)で射手に撃てる状態かどうかを示す
など様々な機構が存在する。

リボルバーには自動拳銃のような明示的な安全装置はあまり搭載されない。
家に保管しておいた銃を子どもが誤って手に取っても暴発しないよう、鍵を差し込んでトリガーをロックする機構を追加していることはある。

自動拳銃ではSAの銃はコックアンドロック、DAの銃はデコックを行い携帯。有事の際はSAは安全装置を解除し、DAはそのまま射撃する。
DAのデコック状態はおおむねDAオートで撃鉄が落ちている状態であるため十分に安全。DAでもコックアンドロックができる場合もあるが、得られるはずの安全性をかなぐり捨てているので非推奨。
グロックのように人間の意思が介在する安全装置がない場合もあり、現在の信頼性の高い拳銃ではこちらが主流になりつつある。
トカレフのように本当に安全装置がない場合もあり、その場合には薬室に弾を入れない(射撃直前にコッキングする)イスラエル式を採用しよう。

アクションものでは安全装置がかかっていることを指摘して動揺を誘う場合があるが、そのような場合は稀。
どちらかといえばSAAや1911らSA銃の撃鉄が起きていない(そしてそのまま撃つ)、P38やP99のチャンバーインジケーターが射撃不能を示した状態で構えているなどの「本来なら撃てない状態で構える」描写ミスはよくある。その時空では撃てるんだよ!
また、自動拳銃のスライドを無理矢理後退させたり、リボルバーのシリンダーを掴んだりして撃てなくしているが、これは理論上可能ではある。
実際に行って生き残れる保証はどこにもないのでやらないように(自動拳銃は手元に引けば発射可能、リボルバーに関してはすでにトリガーが起きていれば意味がない)。

銃を奪っての無力化のシチュエーションもある。通常分解の要領でスライドとフレームを即座にバラすのもできないことはないが面倒だし過剰。基本は弾倉を抜く→薬室から弾を抜く→弾倉内の弾を抜く、という形で、準備をしないと射撃戦に復帰できない状態にするのがベター。
2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件の際、警察から奪った銃を持った暴徒に対し休暇中であったPMCオペレーターと思われる民間人が上記の方法で無力化と警察への銃の返還を行った動画が存在している。興味があれば探して、彼の手際よい無力化の様子を見てみてほしい。


補足

よく銃口を後頭部に突き付けて「動くな」というシーンがあるが、あまり近すぎると簡単に射線から外れる事ができる。FBIでも犯人をホールドアップするときは近寄り過ぎず、離れて銃を構えるように指導されているという。至近距離で銃を突きつけられるよりは多少離れた距離の方がやはり厄介。
ショートリコイル式の自動拳銃では押し付けると発射できなくなる(押し付けてもいいようにフレーム側にコンペンセイターをつける場合もある)。
また、撃てて当たったとしても発砲炎が被弾者に当たり火傷などの証拠を残してしまう。



「ペンは剣よりも強し」と言ったのが誰かは知らないが、その人はきっと自動小銃を見たことがなかったのだろう。*6
by ダグラス・マッカーサー


「銃は剣よりも強し」
ンッンー 名言だなこれは
by ホル・ホース



追記・修正よろしくお願いします。


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最終更新:2025年06月29日 00:15

*1 コルト社の創業者のサミュエル・コルト氏には「ダブルアクションには手を出すな」と遺言を残したという逸話がある。生前のサミュエル氏がDAを嫌いぬいていたのは史実とされる

*2 フランス特殊部隊。マニューリンMR73リボルバーを制式採用している

*3 ハンティングでは使用済み薬莢がどこかへ飛んでってしまうとポイ捨てになってしまうので持ち帰らなければならない

*4 某山猫等がよくやる、撃鉄を扇ぐようにして素早く起こし腰だめで連射する技術

*5 Officer-Involved Shootings :What We Didnt Know Has Hurt Usより

*6 自動小銃の発明が19世紀末期、この言葉が発生したのは1830年(19世紀前半)頃のイギリスとされるのでほぼ確実に無い。