雷口のヘルカイト/Thundermaw Hellkite(MtG)

登録日:2014/04/20 Sun 23:15:00
更新日:2024/11/29 Fri 22:09:33
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○長い前置き

2012年春、MtG開発チームに対し、ドラゴン・カードが好きなプレイヤー、ブライアン・キブラーはこう訪ねた。

「どうして、ここ最近は強いドラゴンが登場しないの?」

様々なゲーム作品において、「ドラゴン」という種族は花形であり、最強クラスの存在として扱われるものだ。

MtGでも強力なドラゴンは多数存在していたが、当時のレギュレーションで使えたドラゴンはそうではなかった。

…MtGを彩る五色の内、赤の象徴であるはずのドラゴン。だが、当時展開していたのは、ゴシックホラー世界「イニストラード」ブロック…ようするに、ドラゴンという種族が中心になれるような世界観ではなかったのだ。
万年ハロウィンな世界に、ゾンビ吸血鬼や狼男より目立つドラゴンなんて作れない。
ドラゴンがいなかったわけではない。だが、それらは現環境を生き抜くにはコストが重すぎたり、他にもっといい選択肢があったりして日の目を見なかった。
イニストラードブロック最終エキスパンション「アヴァシンの帰還」では天使と悪魔の対決がクローズアップされ、強力な天使と悪魔が輩出されたが、ドラゴンはそれなりの性能のものが一枚登場したのみ。それも競合するライバルに立場を取られがちだった。

ちなみに当時、ドラゴンという種族への不満が大きくなっていた。赤を代表する種族ということで最高レアリティの神話レアに抜擢されることが多いくせに、実用性に欠けるものが連発され、「貴重な神話レア枠がまた無駄になった」と。
赤という色は「攻撃」を信条とし、防御や自衛など考えない=クリーチャーには除去耐性がない。そしてそれはコストが重いものも例外ではないため「重いくせに除去耐性がないせいですぐに破壊される」赤の大型クリーチャーには、出してすぐに働ける速効性が求められるのだ。だが、当時のドラゴンにはそれがなかった。
ドラゴン以外の赤の大型クリーチャーにも言えることなのだが、いかんせん代表格であるドラゴンへの風当たりは強かった。


そして来る、夏発売の基本セット「2013」の収録カードが公開され始める。
全15枚の枠である神話レアの内、13枚が公開された段階では、赤の神話レアは「炬火のチャンドラ」と「世界火」が公開されていた。

Worldfire / 世界火 (6)(赤)(赤)(赤)
ソーサリー
すべてのパーマネントを追放する。すべての手札とすべての墓地にあるすべてのカードを追放する。各プレイヤーのライフの総量は1点になる。

枚数的には、赤に後1枚神話レアが割り当てられるはずである。そして、タイタンサイクルは外されると公式で名言されていたため、近年の傾向的に、まーた使えないようなドラゴンだろうなーとプレイヤー達は思っていた。
だがその予測は、半分正解で半分は間違っていた。
ドラゴンなのは正解だった。だが、使えないような、弱いものではなかった。



Thundermaw Hellkite / 雷口のヘルカイト (3)(赤)(赤)
クリーチャー — ドラゴン(Dragon)
飛行
速攻(このクリーチャーは、あなたのコントロール下になってすぐに攻撃したり(T)したりできる。)
雷口のヘルカイトが戦場に出たとき、それはあなたの対戦相手がコントロールする飛行を持つ各クリーチャーにそれぞれ1点のダメージを与える。それらのクリーチャーをタップする。
5/5

○概要

雷口のヘルカイト/Thundermaw Hellkite とは、MtGの基本セット、Magic2013に収録された赤のカードである。レアリティは神話レア。歴代のドラゴン、いや、赤の大型クリーチャーの中でも最強レベルのスペックを持つ。

まず重すぎないコストに加えて5/5という緑に匹敵する優秀なサイズ比に加え、速攻まで持つため強烈な打点を誇る。
さらに場に出た時に対戦相手の全飛行クリーチャーに電撃を浴びせて麻痺=タップさせる能力を持つため、蜘蛛などの到達持ちがおらず妨害もないならば、出したターンにはほぼ確実に5点のダメージを与えられる。
言い方を変えれば、「色拘束を1濃くしたら、5/5飛行が付いてきた溶岩の斧」である。
さらにさらに、それら飛行クリーチャーに1点とは言えダメージも入るため、トークン等を一掃しまうことも可能。また、このダメージが軽減されてもタップはするため、プロテクション(赤)やプロテクション(ドラゴン)持ちもタップできる。

飛行を始めとする多彩な能力がこれでもかと言わんばかりに詰め込まれており、あの「悪斬の天使」を彷彿させる。というのも、実際に「赤い悪斬」としてデザインされたカードだからだ。
Magic2010の顔として生み出された悪斬の天使は、新時代の、強力な天使クリーチャーの典型としてデザインされた。
雷口のヘルカイトも同様に、強力なドラゴンの典型となるべくデザインされたのだ。
この2枚を比較すると、「出した返しのターンからが非常に強い」悪斬の天使に対し、「出したターンが非常に強い」雷口のヘルカイトと、対になっている。また、戦闘では悪斬が勝つが、雷口は能力で悪斬をタップして攻撃を通すことができる。


○活躍

登場時には赤緑のステロイドデッキが環境の一角にあったため、そのデッキを中心に採用された。しかし、環境が非常に高速であったため、そこまで見かけるカードではなかった。

しかし、10月に「ラヴニカへの回帰」ブロック参入と「ミラディンの傷痕」ブロック及び「Magic2012」退場に伴い、環境が低速化したことで状況は一変。赤が入っていて5マナが出るデッキならば、確実に搭載されるカードとして頻繁に採用されることとなった。
それは白青赤のトリコロールコントロール、黒赤緑のジャンドコントロールといった低速のものから、赤単のスライ系統まで多岐に渡った。
普通、5マナもかかるカードはスライなどの高速デッキには入らないのだが、これは直接相手のライフを強烈に削るカードであり、また当時の環境に優秀なライフ回復カードがあふれていたこともあって、高打点のカードで補う必要があったからだ。
往年のスライが20点のライフを削ることを目指すのに対し、当時のスライは25~30点のライフを削ることを目標としており、そのためのフィニッシャーとして雷口のヘルカイトは適任だったのだ。
特に、年末に登場した「ラクドスミッドレンジ」と呼ばれるタイプの黒赤デッキは環境のトップメタとして暴れまわり、ファルケンラスの貴種と共に同デッキの切り札としてその存在感を見せつけた。このデッキは除去耐性を持つ黒のゾンビ系クリーチャーと、速攻を持つ赤のクリーチャーで波状攻撃をかける中速寄りの速攻ビートダウンデッキであり、当時メタ上にいた青白系コントロールデッキが苦手とする要素を多数含む、コントロール殺しのデッキであった。
この時が雷口のヘルカイト黄金期であり、当時のグランプリ会場のバイヤーブースでは、1枚5000円等というとんでもない価格で売られていた。名実共に、Magic2013のトップレアとなっていた。

2013年に入って環境が再度高速化するに連れて雷口の出番は減っていったが、それでも一定数は使われ続けた。確かに2012年末よりも見かける数は減ったのだが、年が明けて半年以上経ってから、再び雷口のヘルカイトは注目されることになる。
夏に発売された次の基本セット、Magic2014の登場により、新たなステロイド系列デッキ…世界選手権でブライアン・キブラーが使用して話題をかっさらったことから「キブラーグルール」と呼ばれた…が誕生。瞬く間にトップメタとして広まった。雷口は同デッキの主力として採用され、スタンダード落ちするまで猛威を奮い続けた。

2013年10月、雷口のヘルカイトは近しい性能の後輩「嵐の息吹のドラゴン」にバトンを渡してスタンダード落ち。

Stormbreath Dragon / 嵐の息吹のドラゴン (3)(赤)(赤)
クリーチャー — ドラゴン(Dragon)
飛行、速攻、プロテクション(白)
(5)(赤)(赤):怪物化3を行う。(このクリーチャーが怪物的でない場合、これの上に+1/+1カウンターを3個置く。これは怪物的になる。)
嵐の息吹のドラゴンが怪物的になったとき、これは各対戦相手に、それぞれそのプレイヤーの手札にあるカードの枚数に等しい点数のダメージを与える。
4/4

スタン落ち後、モダンではジャンドやトリコロールやカウンターバーン、レガシーではドラゴンストンピィなどで採用される。


追記、修正はスピリット・トークンを吹き飛ばしてからお願いします。

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最終更新:2024年11月29日 22:09