黒/Black(MTG)

登録日:2011/11/15 Tue 05:06:27
更新日:2025/07/30 Wed 20:48:07
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マジック:ザ・ギャザリングの項目へようこそ!

唐突だが、悪のカリスマに惹かれた経験はあるだろうか?
世界征服を企み、平和を乱し、争いを仕掛け、秩序を破壊し、正義のヒーローをあざ笑う──

『悪』はどうして人を惹き付けるのか? どう考えても悪いことなのに。
誰が見ても反社会的なのに。他人を傷つけるのに。



万人が納得する答えは無いのかもしれない。
それでもここで宣言しよう。

『悪』の魅力の真髄が、この項目には確かにある、と。


──マジック:ザ・ギャザリングの、黒の項目へようこそ。




黒のイメージ

MtGのデザイナー達は、カラーパイという理念の下に、
「色が設定上持つイメージと、その色がゲーム内で持つ機能との合致」
を鉄則としてカードをデザインしている。

マンガやアニメに例えれば、
「キャラ設定と、そのキャラの作品内での行動との合致」と言える。
かなり重要なポイントだということが分かってもらえるだろうか。

現在、MtGのデザイナー達は黒の性格をこう定義している。

「自分の意思を貫け。自分の渇望を追え。心のままに動け。道徳? 常識? 他人? 関係ない。無視しろ」

素晴らしく自己中。現実に居たら迷惑極まりない。だが……。
そこにあるのは、強烈な精神力だ。圧倒的な自己主張だ。孤独をものともしない自立心だ。

秩序や道徳を破壊したくて無視するのではない。
自分が持つ自分の秩序だけが、唯一従うべきルールだと、黒は雄弁に語っている。


話が逸れた。この性格は根幹であり、これだけではゲーム内での機能を設定しきれない。

そこで、更に細分化すると以下のようになる。


1.「利用出来るものは良識を無視して利用する」
黒にとって万物の価値は全て、自分に利益をもたらすか否かで決まる。
黒は常に自分の周囲を観察し続け、自分に利益・不利益をもたらす可能性があるものを見極めようとしている。
自分に利益をもたらす可能性があるものはそれを他人が持っているならば力づくででも奪い取り、
自分に不利益をもたらす可能性があるものは全力でそれを排除しようとする。
だがそれは見方を変えれば、他のどの色よりも全てのものが持つ価値・可能性を信じているとも言える。
ジャイアン「お前のものは俺のもの。俺のものは俺のもの」


2.「代償はいくらでも支払う」
黒にとって大切なのは、自分の望みを叶えること、ただ一つ。腕の一本や二本? 悪魔に魂を捧げる? 友人に見離される?
お安い御用。望みが叶うのだろう? それ以上の対価など存在するだろうか?
黒は痛みを恐れない。故に抑止は一切効かない。
ディオ・ブランドー「おれは人間をやめるぞジョジョーッ!」


3.「他者への無関心、社会からの孤立」
個人の利益よりも優先するものがある、と考える人々を、黒はまったく理解出来ない。
何故己の利を投げ打ってまで他人を優先する理由がある?
良心? 信頼? 絆? 馬鹿げている。傲慢こそ強者の特権ではないか。
イプセン「この世で一番強い人間とは孤独でただ一人で立つ者だ」


4.「邪魔者は速やかに排除する」
黒は他人の意見を否定しない。だが誰かが黒の行く手を阻んだら?
黒は黙って実力行使に出る。手段は一切問わずに。
踏み潰してでも進まねばならぬ。成し得ねばならぬ。
ネーナ・トリニティ「死んじゃえばいいよ♪」


5.「力への欲求」
しかし、全ての邪魔者が排除できるとは限らない。邪魔者が自分より強かったらどうする?
黒は強さをストレートに求める色だ。弱い奴の言葉に価値など無い。何をやるにもまず力だ。
ニコル・ボーラス「罪なき者は罪ある者の犯罪の報いを受けるのか?もちろんその通り。それこそが弱者の運命と言うものだ」


6.「現実主義」
他の色との明確な違いがある。他四色がどうしても自分の理想の実現・達成に躍起となるロマンティシストである一方、黒のみは他人を、世界をあるがままに見つめるリアリストなのだ。
黒は自分の周りがどうなのかを分析し、どうやれば利用できるか、どうすれば排除できるのか。それのみを関心事とする。
常に弱点や矛盾を模索し徹底的に突く、という兵法の基本である。そして黒はそれを最優先に行える行動力と、なり振り構わない超道徳を併せ持つ、この上ないマキャベリアンでもあるのだ。
ニッコロ・マキャベリ「君主にはフォルトゥナ(外的幸運)を引き寄せるヴィルトゥ(内的技量)が必須である」「終わりよければ全て良し」


7.「悲哀」
死が黒の領域なら、それが齎す悲しみも黒の領域。
それらの誰よりも深き理解者もまた黒である。
もっとも、誰かの死を嘆くと同時にそれを自分の利害関係にどう利用するかを冷静に考えているのが黒という色なのだが。
「死人に口なし」っていうしね!
マクギリス・ファリド「彼女の幸せは、保障しよう」「ガエリオ。お前に語った言葉に嘘はない。ギャラルホルンを正しい方向に導くには、お前とアインが必要だった。そして、お前は。私の生涯、ただ一人の友人だったよ……」


少し抽象的な話になってきた。ここで黒のイメージが分かりやすい具体例を挙げる*1

「所詮この世は弱肉強食」という彼の言葉は強烈なまでの黒の思想の体現である。
力こそが全てであり世界の真理、弱者救済など戯言でしかないと切って捨てる彼の生き方はまごうことなき黒であろう。

良心のタガのない邪悪の化身。『勝利して』『支配』する!
それだけが満足感であり過程や方法を気にすることなど
便所のネズミのクソにも匹敵する下らぬ考えと断じる圧倒的悪の大気!
他にも黒と共通点が多い。

あらゆる権謀と教唆の力を駆使し、ジェダイを壊滅させ銀河帝国皇帝にまでなった名高き巨悪。本質的にはフォースの財産とシスの教義を何より追い求める皇帝らしからぬ個人主義、ストイックさも併せ持っている。
シス自体、「欲するもののためなら感情を抑えて冷静にも、解き放って激情的にもなる」「光明・暗黒の面を問わず、自分の感情の赴くままにフォースを探求し、使う」と、単なる闇に留まらず手段を択ばないものであり、MTGにおける黒の主義と共鳴するところが多い。仲間割れで滅亡の危機にさらされつつも淘汰を経て少数精鋭になっていった点も含めて。

手段を選ばず、金にならない仕事はしない傭兵である点に加えて
「独りで生きてみせろッ!! ソレができない内はオレにでかい口をきくンじゃねえッ!!」
彼を象徴するこの台詞はとても黒らしい。ガフガリオンはまさしく独立独歩の人と言える。

目的のために20年もの期間の潜伏、強大な海賊や海軍への敵対行為、囚人の開放などのあらゆる手段をとる海賊。
力への渇望、死体の活用、人質を利用した交渉など、利己主義に基づいた狡猾さを見せている。
一方で「人の夢は!!! 終わらねェ!!!!」という台詞に始まり、夢やロマンといったものを大事にしており、自分を嫌う相手すら否定しないあたりも黒らしい。友好色である青(狡猾・遠謀)と赤(刹那主義)の要素を同居させている、と捉えることもできるだろう。

先に述べたように、黒は弱肉強食が「世界の真理」であるとする。
勝者が全てを得て敗者が全てを失うことこそがこの世の道理なのだ。
自らが敗者となって死の間際にあってもなお、悪足掻きをしようとした部下を咎め、「敗者が勝者の行く手を遮るでないわーっ!」と叫んだ彼は、最後まで黒の理念に殉じた人物であると言えよう。

  • 赤木しげる
上に挙がっているような悪人と違い、「無頼漢」という意味での黒。決して善人ではない。他人の金でギャンブルした挙句に相手からむしれるだけむしったり、《恐怖》が通用しなかったり。
「一応イカサマ自体はするがルールを捻じ曲げる真似を許さない」という意味では白、そもそもコイントスという意味では赤っぽくはあるのだが、
ライフ3点を元手にコイントスをする《酒場の詐取師》(詐取と書いてあるが実際はまっとうなコイントスである)なんてカードもあることだし、ギャンブルはたぶん黒のフレーバーなんじゃない?

まっくろくろすけでておいでー!
と言って出てくるやつが白や赤でたまるかよ。
これはお寒い冗談というわけではなく、「カラデシュ」以降はこういうマスコットみたいなキャラクターも黒の範疇になっており、実際に「ドミナリア」では黒の一部分がジブリ映画をモチーフに作られている。もはや他人の命をつまようじ程度にしか思っていない巨悪ばかりが黒の時代も終わったのだ。
……まぁ真面目な話するならカオナシとか湯婆婆あたりは黒なんじゃん?

黒の機能

以上5つの性格づけから、黒はゲーム上で以下のような機能を持つことになった。()内は対応する性格の番号。

  • 汚れた沼からマナを引き出す(1)
  • 悪魔との契約(1,2,5)
  • 精神攻撃=手札破壊、デッキ破壊(1,4)
  • 死体の利用=リアニメイト、サルベージ(1)
  • 代償を払ってのドロー、サーチ、自殺的(スーサイド)な能力(2,5)
  • マナ加速(5)
  • クリーチャー、プレインズウォーカー、土地(とエンチャント)以外に干渉しない(3,6)
  • クリーチャーが召喚者に無関心=ブロックに参加できない能力(3)
  • 対戦相手への直接打撃(4)
  • クリーチャーの除去(4,6)
  • 相手クリーチャーや相手プレイヤーを利用する=相手のカード・ターンの奪取(1,4,6)
  • 回復するにも相手を利用する=ライフ吸収(1,4,6)
  • ペナルティ能力(2)

特にクリーチャーの除去、死体の利用については五色中随一。
また、サーチカードも、黒は代償を必要とするかわりに、サーチ先のカードの制限が緩い。

これらの機能を組み合わせた黒単色のデッキは、大別して二通りになる。

  • 小型クリーチャーの攻撃を除去、手札破壊で補助する速攻型

  • 大量の手札破壊と除去で相手の動きを止め、ライフを払ってドローを行いつつ、時間稼ぎを兼ねるライフ吸収でとどめをさす低速型

速攻型は青に強く、低速型は赤に強いが、どちらの型でもアーティファクト、次いでエンチャントの破壊が大の苦手。というか黒はそういう色。
手札破壊で対処するか、潔く諦めよう。……ダメ?
とはいえ最近は一応だがエンチャントの破壊もできるようにはなってきた。それでも自分のエンチャントは除去できず、除去効率は緑や白より遥かに悪い。フレーバーから言えば「契約の踏み倒し」を防ぐためである。悪魔との契約からは逃れられない。

マナ加速については当初は一時的なマナ加速の代表色だったが、赤にその役割を一旦は奪われた。しかし、その後赤に次ぐ色という扱いで呪文の追加効果でマナ加速したり宝物・トークンを絡める形でのマナ加速カードがまた登場するようになっている。また、沼から出すマナを増やすという形のカードはその間にも何枚か登場している。


他の色との関係

  • は、法を軽視し個人主義な黒が気に入らない。
黒からすれば、白の法の共有とはそれの手前勝手な順守と押し付けであり、迷惑でしかない。そして白が気に入らない相手へ黒以上の残酷さを見せることにも、黒は気づいている。
ゼブラ、オルゾフ

ソリン・マルコフやケイヤのように手段は択ばないが話は通じるし多次元宇宙のために戦ってくれるものもちらほらいる。

  • は、黒の超道徳思考と利益優先な論理的行動を好む。
黒から見た青は、個を磨く自立心と自分の価値観を理解してくれる数少ない友人。行動力が欠けているのが勿体ない。もっと狡猾に自分勝手に生きたら最高なのに……、とも感じている。
サイカカラー、ディミーア、シルムガル

テゼレットやアショクなどの謀略系ヴィランを擁するだけでなく非PWもロクデナシだらけなMTGの青黒は黒単色以上にヴィラン要素の強い色となっている。
ヴィランといえば青黒赤のニコル・ボーラスを思い浮かべる方もおられるだろうが、実は古の彼をしばき倒した伝説の十手の継承者であるテツオ・ウメザワや『ニューカペナの街角』にて古から生きていた暗殺ギルドの長である吸血鬼だが次元の行く末を憂いており白の余所者であるエルズペスの手腕と人柄を信頼し未来を託したザンダー卿のように善玉側の青黒赤のキャラもちらほらいるのだ。

神河のサイバーパンク忍者の青年で善玉ヒーロー属性のPWである漆月魁渡にしても当初は青黒だったがファウンデーションズではジェイスに代わる青単色代表に抜擢されているため、「青黒ってやっぱり悪役っぽいよなぁ」というイメージはこれからも続きそうである。

  • は、黒のなりふり構わない決断力と反社会的な性格を良しとする。
黒は、赤の欲求に素直なところで世の中が弱肉強食だと理解していることを好む。ただし、おつむが足りないとも思っている。あと自分以外の為にも命をかける理解できない面もあったり。
……という設定なのだが、このニ色のデッキ同士の対峙では(特に速攻型が)黒が不利なことで知られる。
有名な話では初手沼儀式抹殺者返し山ショック(またはフェッチ切ってショックインからの思考囲いで相手手札が本体火力と山でびっしり)で投了、など。他にもスーサイド戦略に対して火力が有利というのもある。
ラクドス、コラガン

我が道を行くが信条な上に手段を択ばないということもあってヴィラン的な要素を持つ者が多いが、アングラスやダレッティのように「自分の災いをもたらそうとする者には容赦しないが、話は通じるし面倒見がいい」善玉系もたまにいる。

  • は、黒が生命と死を道具として利用しているのが気に入らない。
黒は、利用できるものを利用しない緑を蔑む。宝の持ち腐れの容認など、黒なら絶対にしないからだ。
……が、この二色は何気に共通点が多く(接死、再生、墓地利用)、互いの弱点を見事にカバーしあっている。でも死儀礼のシャーマンはちょっとやりすぎ
なので上記の通り友好色のはずの赤との相性が悪いことも合わせて、「黒の真の友好色は緑」「幼馴染が犬(生)と猫(死)どっちが可愛いかで喧嘩している感じ」とか言われることも稀によくある。
ゴルガリ、新ファイレクシア

意外に悪役的な行動が目立つ者は少なく、ガラクにしても悪意ではなく呪いの影響に苛まれ暴走していたといったほうがいい。罠にはまって悪堕ちさせられたが元に戻ったヴラスカや終止味方側として戦った後に灯を喪ったタイヴァー・ケルなど善玉のレギュラーが多め。緑が基本なニッサもたまに黒が混じる。

寧ろ緑との混色で悪役ムーブが多いのは、周囲に不満を抱いて聞く耳持たず暴走した挙句引き際を見極めきれず破滅する男性赤緑の方。

  • は、他の黒を蹴落とし出し抜く。
白は調和をもって社会を築く、赤は親愛をもって友情を結ぶ、緑は共生をもって群れを成す、青すら損得勘定でもって打算的な関係を繋ぐことができる。
しかし黒は個人主義であり、他者の利益を吸い上げ己の利益とすること、またそうできる弱肉強食の世界こそを是とする。
必然、黒にとって「他の黒」とは自分の利益を奪おうとする敵としかなり得ない。ファイレクシアの抹消者に対する四肢切断のように
黒にとって味方と言えるのは、ゾンビやスケルトンのような自らの意志を持たないアンデッドか、もしくは甘言を弄して騙した将来的に切り捨てる前提の捨て駒のみである。
ちなみに公式の読み物でも「ある意味では、黒の最大の敵は他の色ではなく黒自身」と言われたりしている。

但し最近は”自分の利益”が拡大解釈され、戦乱のゼンディガー以降は『領事府の理不尽な規制に義憤を感じゲートウォッチの所属する革命勢力に加勢した霊基体のヤヘンニ』や『ギデオンの自己犠牲に影響されたリリアナ』や『吸血鬼としてのプライドは高いがゼンディガーの有事の時には自陣営の他勢力の長所を認めながら連携して防衛に努める吸血鬼の長ドラーナ』等黒単色の善玉寄りのキャラもちらほら出ている。


代表的なカード

黒のスーサイドスタイルを表すクリーチャー。ダメージを受けたらその分自分のパーマネントを道連れにする困ったやつ。
詳しくは項目で。

上記の抹殺者のリメイク。道連れにするパーマネントが相手のものになったというふざけきったやつ。
こちらも詳しくは項目で。こんなもんが満足に強いゲームって売り上げが終わると思うんですがそれは大丈夫なんですかね……?

黒を代表する壊れドローソース。
いくらかリメイクを作られているが、どれも非常に強力。
かの「ネクロの夏」の元凶。――まああまりにも強すぎて、全力で対策した白に優勝をもっていかれたのだが。

  • 再活性
リアニメイト=蘇生カードや墓地利用デッキの俗称はこのカード(名)が由来。
単純に墓地のデカブツを拾うだけでもほぼハメゲー状態なので極めて凶悪だが、《オークの弓使い》が登場して以降はこのオークを巡った駆け引きが煮詰まって需要が高まり、
そこからさらに研究が進んで「別にデカブツを釣ることにこだわらなくても強いカードだ」ということが認知されるようになった。

  • 動く死体
墓地のクリーチャーにつけることで、ついている間はクリーチャーとして運用できるオーラ(個別エンチャント)。これ自体が対処されると墓地送り。
遊戯王の「早すぎた埋葬」の元ネタで、ルールのガバがプレイングとして許容されて様々な亜種を生んでいった遊戯王に対し、
こちらは徹底して悪用や矛盾挙動をつぶしていった結果テキストがものすごく長くなってしまい、なかなか再録されなくなってしまった。
しかも亜種は輪をかけて複雑なテキストを持つ30年間再録なしの《Dance of the Dead》、
テキストがさらに複雑かつ現在もルールの抜け穴を突いた挙動で暴れることがある《ネクロマンシー》の2枚だけ。

  • 強迫
代表的な軽量ハンデス。1マナの手札破壊カードはこのカードにならって「デュレス」と呼ばれている。
下環境では2点ロスと引き換えにクリーチャーも落とせる《思考囲い》の方が人気だが、ライフロスを嫌って《強迫》亜種を選ぶ八十岡の魂を持った黒使いもたまにいる。
「1ターン目のハンデスは黒使いにとって挨拶のようなもの」という意味で「挨拶」と呼ばれることもある。

最強のサーチカード。ライフさえ払えば何でも手に入れられる、まさに黒イズムだが2点なんて掠り傷でしかない。しかも1マナインスタント。
ヴィンテージで制限、レガシーで禁止され、しかも第6版でも採録されているため本来なら《チャネル》みたくかなり安く買えてもいいはずなのに妙に高い。
しかもなぜか再録が神話レアなので値段が高くなる一方である。

  • 悪魔の教示者
2マナで何でも手札に入るカード。アンコモン。レガシーで禁止指定された上にパワー9に選ばれなかったせいでしばらく空気だったが、統率者戦が流行するようになり需要が出てくる。
ストリクスヘイヴンの日本語版ミスティカルアーカイブのプレビューで使われ、大いに話題になった。
調整版にマナ・コストがちょうど2倍になった《魔性の教示者》があるが、これはオデッセイで登場した際はよく使われたが、その後基本セットの定番枠に収まるようになると環境が高速化し誰も使わなくなってしまい、ついに上位互換の《首謀者の収得》が登場。なんとゲーム外から自由にカードを手札に加えられるモードが加わり、当時のスタンダードがデフレ環境だったこともあって人気を博した。
調整版に《不気味な教示者》というカードがあり、3マナで使える代わりに3点のライフロスというデメリットがついてきた。極めて品薄なカードで1枚2万円ほどしたのだが、基本セット2020で再録されてから値段が1/10に落ち込んでしまい、株券遊びをしていたバイヤー崩れの顔面が《蒼ざめた月》と化したのだった。
ちなみに《魔性の教示者》用に描かれたイラストがあんまりにも強烈すぎたせいで「これはモブで終わらせるのがもったいない」と判断されて作られた新キャラが「ブレイズ」。後に黒コンのミラーマッチを制するキーパーツとなり、統率者戦で長らく禁止カードに指定されていた《陰謀団の先手ブレイズ》は、実はイラストから生まれたキャラだったのだ。

旧枠時代の黒を支え続けたマナ加速カード。現在ではストームのお供というイメージが強いだろうが、かつてはこれを中継して抹消者、ネクロ、スペクター等々の強力カードを高速展開するのがかつての黒のお家芸だった。
しかしこれゆえにバランスをとるのがかなり難しいため、マスクス時代に禁止カードに指定されて以降スタンダードには姿を見せなくなった。
カードプールが極めて広がった現在では、黒単使いの間でも入れる人と入れない人でハッキリ好みが分かれる。確かに書いてあることは強いがアド損を起こしやすいという、いわゆる「上振れ系」のカードのため。
そのため「ブーンズの二番手」という評価は安定しているが、このカード自体の評価は世代や環境ごとに結構異なる。

  • 冥界のスピリット
何回死んでも無料で帰ってくるウザい奴で、ネザー・ゴーという専用デッキがあるほど。条件は「自分の墓地にほかのクリーチャーがいないこと」。
《冥界の影》という墓地の順番を参照するカードのリメイクであり、この本家も十分活躍した。
さらにリメイクされて《恐血鬼》となり、これも大活躍した。
これらは単純にアタッカーやブロッカーにしても強いのだが、勝手によみがえってくる点を利用して生贄用にしてしまうという使い方も強力。
ただしいずれも令和の現在では、使用できる環境でもほとんど目にすることはない。

ちなみにネザー・ゴーには派閥があり、
「ネザーなんて使うやつは邪道。ドローだけで殺すのがパーミッションのたしなみ」という陰険クソ野郎徹底したノンクリにこだわる者、
「ネザーの自己蘇生を阻害してはいけない」という理由で1枚だけ採用してなかなか引けずにやきもきする者、
「それだと引けないから」という理由で2枚以上採用してたまに墓地に2枚叩きこまれて悶絶する者などがいた。

  • 恐怖
黒を代表するクリーチャー破壊呪文……だった。
クリーチャーを「恐怖」という精神攻撃で殺す。
恐怖を糧とする黒のクリーチャーと、心を持たない機械のアーティファクト・クリーチャーは破壊できない。
苦労して出したデカブツさえたった2マナで死に曝されるため、プレイヤーが恐怖する。
昔のルールブックには
Q「なんで壁が恐怖で死ぬんですか」
A「イメージ的にはおかしいですがそういうルールです」
なんてのが書いてあったとか。これが「感覚的におかしいが、そういうことを無視してゲームを進める」という当時としては画期的なスタンスになっていき、「カードゲーム」という娯楽を築いていくことになる。それまではTRPG然り、ゲームマスター相手にごねる「口プロレス」と呼ばれる文化があったり、そういう感覚的な部分を重んじたゲームが当たり前だったわけだし。
なお、現在は先述の通り、「黒は同族だろうが手段と目的次第で躊躇なく潰す」色と定義されたので、黒は対象外の除去はめっきり収録されなくなっている。黒だけ特別扱いというデザインが難しすぎたのだろう。
《破滅の刃》《喉首狙い》《夜の犠牲》《喪心》《殺し》など様々な亜種があり、使用者の好みによって使い分けられる。最近は「再生」というキーワード能力自体がほとんど印刷されないため、本家《恐怖》を見ることはすっかり少なくなった。

  • 悪魔の布告
黒を代表するクリーチャー除去その2。相手にクリーチャー1体の生贄を強要する。
恐怖と同じマナコストで、プロテクションや破壊不能などの除去耐性を貫通出来るという点で勝るが、数を並べる相手には無力という点で劣る。
最初期は「クリーチャー1体を生贄に捧げる」というテキストから何をするか読み取れなかったプレイヤーが多かったそうな。
かなり基本的かつ相手依存な性能ながら、適切に使えば《恐怖》系より強みが多いため、スタンダードからヴィンテージに至るまでスパイク系のプレイヤーを中心に使用者が多かったのだが、
《リリアナの勝利》などのプレイヤーを対象に取らないタイプが印刷されるようになって役割を終えた。
現在でもこのタイプの除去は「布告」「エディクト」などと呼ばれ、環境内で重要な存在感を博することも多い。

墓地と場のクリーチャーを逆転させる鬼カードで、かつての黒の必殺技といえばこれだった。
「波動機リアニメイト」のような素朴なコンボデッキや、スリヴァーをたくさん並べる「スリヴィングデス」なんてファンデッキもあったほど。
直接のリメイクは《死せる生》で、モダンで存在感を発揮してキーパーツが禁止カードに指定されてしまった。
雰囲気リメイクなら《総帥の召集》《闇の領域の隆盛》あたりがあるが、場のクリーチャーを片付けるモードを持たないので使用感はまったくの別物である。

  • タックル蛆
テキストが死ぬほど長くて途中で読むのをやめるカード。イラストが気持ち悪いので実物を調べてくれとも言いづらい。
とても簡単に言うと「クリーチャーを1体ずつ弱らせる」「そのクリーチャーが死亡したら別のクリーチャーに移る」「別のクリーチャーがいないならプレイヤーに寄生し1点ずつダメージを与えていく」というもので、このイメージができると分かりやすい。でもテキストが長い。
白の《Equinox》《謙虚》、青の《Transmute Artifact》、赤の《血染めの月》、緑の《生命と枝》《氷河跨ぎのワーム》と異なり、黒の「調整中」枠は分かりづらいというだけであり、案外素直なのだ。……たぶん。

  • 滅び
特例。
あえてカラーパイの曲げや折れを行うエキスパンション「次元の混乱」で、《神の怒り》の他色版として印刷されたカード。対抗色になっているため、イラストも第7版の《神の怒り》と対になるように描かれている。担当絵師は人気絵師のKev Walker。同エキスパンションの目玉であり、「色の役割をあえて崩す」というプレビューに用いられた。
当然だが弱い理由がどこにもないため非常によく使われ、八十岡翔太は「白よりも何倍も強い」と評した。レガシーやモダンでも一時期は使用者が多かった名カードである。
……そう、色の役割をあえて崩すこのセットのみの特例なのである。しかしなまじ強かったものだから、当時のヴォーソスやライトプレイヤー、そして黒単愛好家を中心にスタンダードでの再録が熱望されたり、このカードを前例として「ぼくのかんがえたさいきょうのカード」を語ったりということにたびたび利用された。
まぁこの特例がそのまま根付いちゃったカード(放蕩紅蓮術士など)とかも多いからしょうがないといえばしょうがないけどねぇ……。
後にマローによって「次元の混乱は失敗だった」というコラムが書かれた際にもこの件は例示された。洋の東西を問わなかったのである。

黒「《滅び》が許されてるんだぞ?なんでこれこれこういうカードが許されないのか。公式は黒のことを何も分かってないんだ」
緑「大変だなー。緑も《ガイアの頌歌》もらえたんだから、次は《十字軍》*2とかほしいんだよなー!」
黒「だめに決まってんだろ。次元の混乱は特例セットなんだぞ?そんなことも分からずにMTGやってんのか?」
緑「おい こいつから殺していいのか?

  • サーボの命令
滅びよスリヴァー これはサーボの命令なり
クリーチャー・タイプをひとつ宣言して、盤面と手札から滅ぼすカード。当時猛威を振るっていた「レベル」という部族デッキの対策として印刷された。
このように特定の部族だけを滅ぼすカードなら許してもらえることが、《滅び》亜種を熱望させたのかもしれない。

  • 仕組まれた疫病
クリーチャー・タイプをひとつ宣言して、それに-1/-1修正を与えるいやらしいカード。部族デッキ対策と思いきや、「人間」を指定してコントロールデッキが壊滅したり、「猫」を指定してZooの序盤を足止めしたりなど意外なカードが足元をすくわれた。
このカード自体はとても便利であり、かつてのレガシーでは大変よく見かけられたカードである。そしてこの手のカードが存在することから、クリーチャー・タイプの更新は時にカードをメタからはじき出すこともある。たとえば「ファイレクシアン」の追加は、モダンの感染デッキに壊滅的な影響を与えた。
レガシーのド定番だったため、当時の部族使いは冗談交じりの命乞いとして、2枚目の疫病を貼られる際に「リシドとかルアゴイフとか宣言する気はありませんか?」などと尋ねてから投了したものである。そんな素朴なカジュアルフォーマットだった時代もあったんです。


黒を代表するプレインズウォーカー。屍術師と吸血鬼といういかにもな方々。
前者は嘗ては善と悪の間で揺れ動いている危なっかしいキャラ扱いだったが、ギデオンに自己犠牲で救われて以降はそれだけの価値があるよう生きねばならないと戒め積極的に他者に絡むようになり、今やいざというときには頼りになる姉御という位置づけとなっている。
後者は色々あって代表から一歩下がった位置にいるが旧世代出身のPWの中では割と話が通じるキャラという位置づけ。

  • ヤヘンニ
チャンドラの故郷であるカラデシュに住んでいた霊基体という生命体の大富豪。
彼の望む”利益”とは”他者と喜びを分かち合うこと”であり、自分に他者の命を吸い取って寿命を延ばす能力があると知った後もそれによる悲痛が前述の”利益”と相反するために無暗に使おうとはしなかった。
ストーリーでは領事府の圧政に義憤を感じゲートウォッチの所属する改革派に加勢し勝利に貢献。その後に待ち望んだ最後のパーティーでみんなと楽しく語らいあったあとに霊基体としての命を終えた。
黒でありながら他者の笑顔の為につくし人生を駆け抜けたそのぐう聖な生きざまはファンの心をがっしりと掴んだ。テーロスの某太陽の神は彼の爪の垢(?)を煎じて飲むべき

  • ベルゼンロック
いろんなヴィランの二つ名を名乗っていたが「ウルザの後継」を名乗らない程度の思慮深さはあった経歴コレクター。

新ファイレクシアの黒の法務官。もともと旧ファイレクシアが黒だったためか、思想は彼女の派閥が最も旧ファイレクシアに近いらしい。
カードとして最も活躍したのは「黙示録、シェオルドレッド」。接死とカードを引くたびに引いたプレイヤーに応じて疑似ドレインが誘発する代物だが、構築であっても除去できなければダメージレースが崩壊するのでかなり暴れた。


  • コラボカード
分かりやすい悪役が黒になりやすい。だが悪役とて黒単というわけではない。だって多色の方が統率者戦で人気出るし
そして悪の要素のないカードは黒抜きの4色になりやすい。そういう意味ではかなり割を食っている色である。
たとえばケフカは白黒赤、Dr.エッグマンは青黒赤。

  • オークの弓使い
指輪物語最強生物。嘘とか冗談じゃなくて。
レガシーのブレスト環境を分からせるために生まれた結果、レガシーをFANZAとかDLsiteで売られてるようなオークだらけの世界に変えてしまった原因。
モダン以下の環境からタフネス1のクリーチャーを駆逐した。女騎士サリアも分からせられるぞ!

  • 死のコロナビーム、スペースゴジラ(虚空を招くもの)
Death Corona」という名称が当時のCOVID19パンデミックに全力で突っ込んでいったという悲運のカード。
このせいでプレ値がつくと思われていたが、アンコモンかつあんまり強くないこともあってすぐに値段が落ち着いた。
カードの中身のほうは……《原始の王者、ゴジラ》のほうが分かりやすくて人気があるかなと思います。

  • 苦悩の竜騎士、カイン
「おれは しょうきに もどった!」「ガリで。」で有名なFF4の主人公のひとり、カインがカード化。
能力「ジャンプ」によって攻撃時のみ飛行を持つので攻撃を通しやすい。しかも相手に攻撃を通すたびに色々と恩恵を残していくが、代わりに敵に裏切るというクソムーブをかます。これまでのMTGにはなかったというか、特に意味もなくコントロールが移る挙動自体がそれこそ「昭和のMTG」と言われるモダンイリーガル時代の《野生の犬》とかその辺の挙動なので、当wikiを編集する多くのプレイヤーにすら縁がない時代。
元ネタを知らない多くのプレイヤーが「めちゃくちゃ強いじゃん!」と思って使い、裏切られてからテキストを読んで「とんだクソカードじゃねぇか!」と落胆するという、FF4のプレイ時の追体験を行える豊潤なカードになったのだった。
《謙虚な離反者》のようなカードと違い「そうしたなら」という余計な一語のせいで悪用ができない。お前もうガリでも食ってろ。


一時期、黒は四肢切断等によって存在意義が疑われ、「MtGは4色になる」という嘘記事「一人去るとき」ができる程不遇な色であった。
当時はヴォーソス的にもかなり冬の時代であり、ファイレクシアが「新ファイレクシア」として復活したのはいいが「ヨーグモスの姿が影も形もない」「白マナで滅びたファイレクシアになんで白があるんだよ」「白の法務官は超ガチ性能なのに黒の法務官は沼渡りかよ」と怒号が上がり、
その後がケツ王とかいうネタカード、占術から打って変わってしょーもないキーワード能力「狂喜*3」、「イケメンだから」というひどすぎる理由で再録された《ソリン・マルコフ》の基本セット2012、
その翌年は《グリセルブランド》が見事な出オチをかますわ「奇跡」が1色だけもらえないわ……つまり自虐されてもしょうがないくらい、黒が欲していたものだけを避けられてしまったのだ。
代わりに白がとても優遇されていた時期なのでまぁ……この先は言うまい。
ついでに赤や緑も公式コラムで「カラーパイの折れだ」という攻撃対象にされた点がたびたび指摘されていたため、ジャンド3色は「一番の敵は公式」と本気で思っていたものである。

しかし、レガシーやヴィンテージ等で禁止や制限が多いのは間違いなく黒である(まぁサーチカードばかりだが……)

ちなみに黒の一番の敵は公式。

……というのが、イニストラード・ブロックの頃の黒の風潮だったのだが、後に黒単が禁止カードを乱発するほどスタンダード環境を席巻するようになった時期もある。
これは彼ら的にはどう見えているのだろうか。


余談

コメント欄に
「たまに家族の為ならなんでもするみたいな奴が黒扱いされる理由はなんだ?家族は結局のところ他人なんだから赤の範疇なのでは?」
という疑問がある。「家族は結局のところ他人なんだから」なんて親に言ったら泣かれそうだが、実際のところ「他人」をこの親に泣かれるような定義で解釈するのが初期の黒の悪役。レシュラック、テヴェシュ・ザット、ヨーグモス等々。
しかしレシュラックとテヴェシュの区別がオールドヴォーソスでもたまにあいまいになるように、こういうキャラは性格や描写がものすごく被るのである。つまり「身勝手で手段を選ばない」「どうせ裏切る」「自分の野望最優先」のようにかなりワンパターンになってしまうのだ。家族すら平気で犠牲にするようなキャラクターが友情に篤いなんてどう考えても矛盾そのものだし(一応「不良グループ」みたいな定義づけは可能だが、そんなキャラに魅力があるかと言われると……)。
実際に読んでいて黒のキャラが裏切ると「あーやっぱりなー」で終わり、何の驚きもない。むしろその後に、たとえば正義陣営だと思っていたリーダーが裏切り者を殺して「いやー正当防衛成り立つから裏切ってくれて助かったよ!」とか説明し始めたり、裏切りは裏切りでも主人公陣営に寝返ってそのブロック中は最後まで彼らの味方をする方が、よほど話題を残してしまう。
ウェザーライト・サーガの最終盤でテヴェシュとヨーグモスが死亡し、レシュラックが休眠状態だったオデッセイ・ブロックのあたりから、黒のキャラクターはここからの脱却を図るようになる。つまりマンネリ化対策という観点でもあるというわけ。
そもそも「親兄弟を犠牲にしてでも生き残る」なんて悪役は90年代の時点で手垢がついており、20世紀にものすごく使い古されているアーキタイプなのである。たまに出る分にはいいかもしれないが、毎回毎回こんなキャラならそりゃ飽きるよねって話。毎回ディオ・ブランドーやルカ・ブライトやフリーザのようなキャラを作れるかといわれると、それも無理だろうし。
黒が邪悪一辺倒という考え方も次第に軟化してきており、霊基体のような牧歌的な設定のキャラクターも増えてきている。もうベルゼンロックのような「他人の命を朝飯程度にしか思っていないこってこてな大悪党」自体が、MTGにおいてさえ時代遅れなのかもしれない。
『テーロス』ブロックでは「法や秩序=自分に従い敬うこと」という認識で、それを乱すと認識した存在はたとえ部下だろうと許せず粛清する暴挙を繰り返したため、黒の死の神であるエレボス以上に嫌われたヘリカスこと白の太陽神ヘリオッドというロクデナシな神も出ているし。*4


「黒の真の対抗色は黒」というのは、ライトプレイヤーやヴォーソスの間では面白がられる話である。
しかしこれがあながち間違いではないというより、レガシー全盛期の2010年前後の頃はこれは本当にたびたび見受けられる光景だった
早い話が「同担拒否」というやつである。

黒単使いには熱心な愛好家が多いのだが、黒というのはなまじできることが多く、さらに一時期までフレーバーに合わせるためなのか、役割がガバガバだった。
あるときは「パワー偏重こそ黒だよね!」なのに、あるときは「守りができることこそ黒の理知性なのだ」なんて言ったり。なんでもありじゃないですか
そのせいで「スペック自体は良質だが使い心地に癖がある」というカードが本当に多いのである。

たとえばかつてのスタンダードの例なのだが、《深淵の迫害者》というカードがあった。「場に残っている限りコントローラーはゲームに勝てない」というデメリットと破格のスタッツを持つ、逆《白金の天使》である。
これはちゃんと実績を残しているカードなのだが、同時に採用することを激しく忌避するプレイヤーも決して少なくないという、まさしく「賛否両論」のカードだった。
肯定派は「《奈落の王》のように使い物にならないデメリットを持つわけじゃない。黒は除去が得意なんだから巻き添えにしてしまえばいいだろう。弱いというのは使い方を考えられないバカの意見だ」と、
否定派は「これのせいで逆転負けを喫する可能性だってあるし、結局2枚使っているんじゃアド的によろしくない。そのようなリスクを加味して採用しないことを「使い方を考えられないバカ」だと?使うやつこそバカなんだよ」として、
それはもう平行線の大激論を繰り広げたものである。他にも《ファイレクシアの十字軍》《死の門の悪魔》なんてカードもあった。つまり現在の《黙示録、シェオルドレッド》のようなただ強クリーチャーがまだ黒には与えられていなかったが故に、このような論争をよく起こしたのだ。
もう少し掘り下げると、たとえば《強迫》互換の挨拶ハンデスや、《恐怖》互換の取れない対象がある2マナインスタント除去なども。
これらは「メタ次第」という玉虫色の言葉で片付けられやすいが、その本質はその人の好き嫌いによるところが大きい。戦略的な合理性を説かれても「それでも俺は黒単を使うんだ」と胸を張るような人なのだから当然と言えば当然だ。

そして当時のレガシーにまで範囲を広げると《憎悪》《陰謀団の呪い》《苦花》《Dystopia》《吸血鬼の夜鷲》等々……とにかく本当にいろんなことができるくせに使い勝手が癖だらけなものだから、当然使用者によって好みがはっきりと分かれる。
ある人は「スーサイドのような速攻こそ黒なのだ。粘り勝ちなんて白や青みたいなことは黒の戦略と異なる」と言い、
ある人は「粘り強く戦うことこそ黒の花道。スーサイドのようなものは赤にでもやらせておけばいい」と言い、
ある人は「対戦相手のやり方を徹底的に否定するワンマンゲームが黒の美学。他のカラーパイではできないことなんだから」と言う。
意見はまったく異なる彼らだが、しかし最後は決まってこう言う。「最近の黒は不遇だ。公式がカラーパイを理解していないからだ」 これは上記の「一番の敵は公式。」という部分に通じるものだが、当時の黒使いは本気でそう思っていた。
そして彼らは「俺の方が黒をうまく使える」という矜持があるため、ほかの黒使いが採用しているカードを「こいつは黒の美学を分かっていない」と蔑んだり憤ったりしてしまうのだ。
「一人去るとき」ネタも、ある意味ではこういう美学にもとる部分がある。《墓所のタイタン》や《掘葬の儀式》がある状態で本当に一人去ってたらアラーラの断片時代の青なんて四十九日だろ

他の色の愛好家は、青や白ならそういうことはあるかもしれないが、できることが極めて愚直だった当時の赤や緑はそもそも喧嘩できるだけの選択肢がないため同色使いで喧嘩することはほとんどなかった。
これを「人当たりのいい、話の分かる人だからだ」と勘違いした黒使いは、彼らを捕まえてよく黒の美学を語ったものである。
この美学語りに付き合わされた当時の使用者の友人やショップの赤単・緑単使いは「黒使い同士で話してくれないかなあ」と嘆いたが、黒使いがそれをしない理由は簡単で、黒使い同士で話すとマジで喧嘩になるからだ。
つまり黒はゲームとしてロールプレイをしていなくても、その愛好家同士が時に対立してしまうほど矜持の強い生き物だったのである。
色ごとの解説記事や、5ちゃんねるの色スレなどでも黒は非常に盛況だが、つまりそういうことである

こういう我の強い人が愛好するということもあり、黒使いは長期にわたってプレイする人が結構多い。
例えば公式でデッキ紹介を行っている岩SHOWは、かつてカードショップ「BIG MAGIC」のサイトで黒について語るコラムを連載していたほどの黒使いである。

最近は赤や緑にできることがかなり増えたこともあって、こういう美学を語りたがる色は違う色になっているはず。


黒は嫌われ者だ。
だが、それを黒自身が覚悟しているという点は他のどの色にもない。
蛇蝎の如く嫌われ、偶像のように崇拝される──これが強烈な個性のなせる技というものである。



弱き者アニヲタ。働かぬ者アニヲタ。時間を持て余す者アニヲタ。
彼はアニヲタwikiに、これまでなかった知識をもたらした。
彼がその暇な時間と同じだけのさらなる追記修正をほどこさんことを。


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最終更新:2025年07月30日 20:48

*1 ただしコメント欄を見ればわかる通り、ここにあげられるキャラクターは賛否両論である。

*2 当時は使用禁止カードに指定されていなかったし、《清浄の名誉》なんてカードはなかった。

*3 狂喜自体はそこそこ強いのだが、当時のスタンダードは除去の性能が狂っていたことや、レガシーの愛好家=狂喜が活躍できる土壌が微塵もない環境に縁のある人が多かったことからたいへん落胆された。ちなみに基本セット2013では「賛美」がフィーチャーされたがこれも黒が担当した。

*4 その前の城の悪役のうち古の神河の君主今田は未知こそ踏み外し屋が「自分の国や娘の繁栄」という切実な願いがあったし、大天使レイディアントは「過去にウルザの所為で次元セラが荒廃した」という敵視しても仕方ない部分があったし、エリシュ・ノーンは初期はファイレクシアの派閥の幹部の一人にすぎなかったので、自分の栄光のためなら手段を択ばない言動を繰り返したため作中でも嫌われ始めたヘリオッドはインパクトが大きかった。