銃の発射形式一覧

登録日:2015/02/18 (水) 22:50:00
更新日:2022/05/31 Tue 10:24:56
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この項目では、銃の装薬点火方式について解説する。
ゆーてもそんな専門的かつ小難しいなことは書かんから安心するように。
中近世をモチーフにしたファンタジーなんかだと原始的な銃もまれに出てくるので、
そういったのに興味をもったアニヲタ諸氏のための項目である。



前装式と後装式

まずはこれについて説明せねばなるまい。ゆーても、現在前装式の銃なんぞ博物館にしか残っとらんのだが。
何やらかっちょいい言い回しだが、要は銃口(前)から装填するから前装式尾部(後)から装填するから後装式である。
「先込め式」・「元込め式」という言い方も有る。

前装式のメリット、というかこれしか当時なかった理由は、何のこっちゃない。
冶金技術が未熟だったから構造を単純化せざるを得なかっただけである。だって本体はただの筒だからな。
銃口から火薬と弾突っ込んで火を点けるだけだから、冶金技術が未成熟でも銃砲として成り立っていたわけだ。
個人携行火器の銃としてはともかく、砲としては迫撃砲が前装式火砲として現役バリバリなので、その辺は適材適所と言ってもよかろう。

一方で後装式のメリットは、これはわかりやすかろう。装填が容易で自動化も簡単
ただしガス漏洩を防ぎつつ尾部開閉を行わなければならないので、そもそも工作精度や冶金技術が高くなければお話にならない。
後装式銃砲が世に出たのは15世紀頃だが、南北戦争辺りまではその辺の問題でメジャーではなかった。


タッチホール式

最も原始的な銃砲であり、案の定前装式である。
銃口から火薬と弾詰めて、銃身後部に開けられた点火口に直接火種を突っ込んでファイヤー!するだけの簡単なお仕事です。
銃身に開いた(ホール)に火種を突っ込んで触れ(タッチ)させるからタッチホール。簡単だね?
火種にはアツアツの石炭や、先端を熱したL字の鉄棒を使っていたようだ。

当然だが、とてもじゃないが精密照準なんぞできない。しかも短槍の先に括り付けたようなもんなので重い。
これより先、銃の点火方式や形状は「いかに射手の負担を軽減しつつ射程と威力を上げるか」という悩みに基いて改良されることとなる。

ハンドキャノン、マドファ、火龍槍

タッチホール式でも一等古い、まさに最古の銃砲。文字通り柄の先に銃身くっ付けただけの簡素極まりないデザイン。
この中でも特に古いのが12世紀起源とされているマドファで、アラブ周辺で用いられた。
これが東西に伝わって発展していったわけだ。射程は短いが、突撃する騎兵を確実に打ち倒せるのは利点といえる。
欧州では騎兵用に短縮したハンドカルバリンも作られた。反動を抑えるために柄の先を鎧に拵えた窪みに当て、
さらに鞍に二股の棒を取り付けて支えとすることで、片手での制御と点火を可能とした。

中国の火龍槍系列など、結局自前で後装式は作れなかったものの、毒に浸した散弾を装填する、十眼銃を考案するなど、
さすがこの頃は3,000年の歴史を誇る中華の民だけのことはある。
もののけ姫に出てくる石火矢衆が使ってるのはこれ系列。石火矢と言いつつフランキ砲じゃないから困る。

ハーケンビュクゼ、アークウィバス、サーペンタイン・ロック・ガン

ハーケンビュクゼは鉤爪を備えており、これを引っ掛けることで反動抑制が用意になっている。
……のだが、そもそも戦場にいつでもそんなもん引っ掛けられるような障害物があるわけでなし。
防衛戦では活躍したのだろうが……といった感じ。まぁ、当時の銃自体ほとんど防衛向きだったんだけどな。

アークウィバスは、クロスボウの設計を応用することでそれっぽい形状になっている。
とは言っても、トリガーはないし相変わらずタッチホールだけどね。
形状的に、多少狙いはつけやすくなってるんじゃなかろうか。

さーてだんだん銃っぽくなってきました、サーペンタイン・ロック・ガン。
アークウィバスをさらに発展させ、点火器具としてS字型の金具を取り付けている。
これを握り込むと先端の火種が点火口にシュートする仕組み。金具が蛇っぽいからサーペンタインな。
ただこの形式も、何を火種にするか、ということに悩まされた。火縄の発明って結構時間かかってるのよね。


マッチロック式

さて、火縄が開発されると、それにともなってサーペンタインもさらなる改良が施される。
こうして生まれたのがマッチロック式だ。要は火縄銃な。
この頃からトリガーの概念が銃に導入される。
トリガー引くとバネ仕掛けで火縄のついたアームが火皿に落ち、着火薬に接触する仕掛けだ。
この頃もまだ銃の根源的欠陥として『雨の日は無能』というのがあったが、それでも狙いがつけやすくなり、
装填も若干速くなったので、一躍戦場の主役として踊り出ることとなる。
特に狙いを付け易くなったというのが大きい。

特に日本など、元は種子島時尭が道楽で買い取ったものがリバースエンジニアリング&魔改造され、
欧州のそれよりもはるかに高性能&大量生産されるようになっていたりする。
一説によると、欧州全土で運用されてた銃より日本にあった銃の方が多かったとかなんとか。


ちなみに、黒色火薬を用いライフリングされていないという旧式銃であるためか、ライフルに劣るという風潮がある、が……
スラッグ弾ばりの威力の鉛の球弾をぶっぱしているので当時の兵装も考慮すると威力はさほど問題ない。射程と精度はともかくとして。
そのため足軽の鎧なんぞ平気の平左でぶち抜ける。さすがに重装甲化した武将用の鎧には防がれたりもするが。
日本では日本の重量単位である「匁」を用いた弾丸重量で口径を表記しており、最大サイズの50匁弾に至ってはなんと33mm径
現代の主力小銃の口径は5.45mmないし5.56mmで、対物ライフルでも最大20mmなので相当大きいことが分かるだろう。
(ただし鉛弾だったので鉄より重い、弾かれる前に潰れやすい、鉛毒などの利点もあるが、貫通力等は現在の銃弾に比べてかなり劣るので現在の銃器に対して威力が上回るわけではない)
ちなみに欧州ではヤード・ポンド法準拠の「番径(番号が増える毎に「1ポンドの(番号)分の1」の弾を撃ちせる口径(ゲージ))」で分類していた。
現在でも散弾銃のみに受け継がれている。

ホイールロック式

点火に使う構造自体はマッチロック式とほとんど変わらないが、文字通りホイールを用いるのが違い。
ゼンマイ仕掛けで回転するホイールに取り付けたヤスリを火皿の黄鉄鉱にぶつけ、衝撃で発した火花で着火する仕組みになっている。
火縄を使わないからすぐバレないし雨の日でも無能じゃないんだぜ!……と思われたが、構造上不発発生率が高いという欠陥が。
そりゃそうだ、確実に火花が散るとは限らんしな。ついでに複雑化したのでお高くなり、一般兵に普及させ辛くなってしまう。
駄目だこりゃ、ということであっさりフリントロック式に取って代わられた。


フリントロック式

端的に言うとホイールロックとマッチロックのいいとこ取り。あれ、言うことがほとんどなくなった……
フリント、つまり燧石(ひうちいし)で火花を発生させ、それを閉鎖された火皿に導くことで添加する仕組みになっている。
点火方式がホイールロック、基本構造がマッチロックのいいとこ取りになっているため、
マッチロックのように居場所モロバレということもなく、ホイールロックよりも不発発生率を抑えることに成功している他、
天候適応性も地味に向上していたりする。
ただし火縄のような確実性は最後まで担保しきれず、火蓋が当たり金と一体化しているので暴発する危険もあり、
また本方式までは人間でも感知できる様なレベルの「引き金を引く→弾が発射される」というタイムラグが発生していた。

ちなみに日本にも書物による知識や現物が輸入されてはいたが、そもそも火花の強い燧石が産出できないので流行らなかった。
あとはそもそも大規模戦が行われるような世情じゃなかったので、集団戦向きという特性がスルーされたというのも大きい。
技術自体はポケットライターの機構として模倣されてるけどね。

亜種

スナップハンスロック式とミュケレットロック式が、それぞれ16世紀のスウェーデンとスペインで開発されている。
前者は精緻で高価だが暴発の危険性が低く、後者は安価でメンテナンス性が高いのが特徴。真逆の発展やね。
ちなみにどっちも「泥棒」の意(前者はオランダ語、後者はスペイン語)で、
どっちも「泥棒が発明した」というまったく同じ製造にまつわる伝説を持つ。


パーカッション式

パーカッション……つまり雷管を用いて装薬発火を行う方式。
真鍮ないし銅製の小さな容器にごく少量の衝撃過敏性起爆薬を詰めたもので、これをぶっ叩いて出した火で装薬に着火する。
初期の物はパーカッションキャップのみを用いて弾と装薬自体は薬室に先込め式で詰めていた。
たまに後述の「弾薬(カートリッジ、アモニッション)式」も含ませてる場合が有るが「パーカッション式」という呼称は厳密にはこの形式のみの事を指す。

カートリッジ(弾薬)式

弾丸と雷管・装薬をセットにした金属製の容器「薬莢」が開発され以降は薬莢を「弾薬(カートリッジ、アモニッション)」として銃に装填する方式が主流となる。
これの発明により、銃はほとんど完全な全天候性能を獲得する。
雷管といっても色々形式があるが、とりあえずはリムファイアセンターファイアだけ覚えておけばよい。

ちなみに、後装式を受け入れられるようになったのもここから。薬莢が発明されたおかげで、ガス漏洩の問題がやっと解決したのだ。
装薬が燃え、弾丸が銃身内を進むとき、薬莢は燃焼ガスの圧力で膨らみ、薬室に密着してガス漏洩を防ぐ。
そして弾丸が銃口を飛び出すと、薬室内の圧力が下がり、薬莢は弾性で元に戻るというわけだ。
ライフルド・マスケット(ミニエー銃とか)の開発や、それをより発展させた後装式のスナイドル銃が出てきたのが19世紀中後半辺り。
そっから1世紀ちょいでマシンガンだの突撃銃だのが一般化してるんだから、戦争経由の技術発展ってすげーわな。



余談

なお、よく勘違いされるが、マスケットだけで「滑腔式歩兵銃」の意味になるので、本来銃は要らなかったりする。
滑腔式歩兵銃(スムースボアマスケット)という呼称もあるがこれはライフルドマスケットという
ライフリングが施されたマスケット銃も後から登場したため既存の滑腔式の方を呼び分ける為に出来た呼称。


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最終更新:2022年05月31日 10:24