弾薬(カートリッジ)

登録日:2011/04/14 Thu 22:22:20
更新日:2025/08/08 Fri 00:33:39
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概要

弾薬(カートリッジ、ケース、実包、Ammunition、Ammo)とは現代のにおいて発砲の際に使用する、弾頭、薬莢、装薬、雷管+αを組み合わせた物。
発砲に必要なものがすべて詰まっており、銃の連射を可能にする。

閲覧の際にはの項目も参考に。個別の名称については口径、ショットシェルについては散弾銃、古式銃の弾に関してはマスケット銃などの項目を参照。



内部構成

弾頭(弾丸、バレット)

主に鉛を銅で覆う形式が主流だが、メッキを施したり樹脂製のチップを追加したり識別用に色を塗っていたりで銅の色そのままというわけではない場合もある。以下主なパーツ。

弾芯(コア)

主に比重が近くて柔らかい鉛で構成され、命中時に被弾者にエネルギーを伝える。
LF(鉛フリー)
電子工学系なら聞くことも多い*3かもしれないが、近年欧州では鉛の使用を控えている。
鉛はベートーヴェンの聴力を奪ったことで有名で、重金属としての汚染力がある存外危険な金属である。
弾でも同じく、軟鉄などで代用する場合が増えている。
しかし軟鉄では金属製の的にダメージが入ったり跳弾したりで危険な場合があるので、鉛に近い特性の新たな材質が求められている。逆に鋼鉄による貫通力向上を目的として鉛フリーとする場合も。

被甲(ジャケット)

弾芯を包む。主に銅で構成され、ライフリングが鉛で汚れたり発射時の弾芯の変形や破損を防ぐために装着される。現代の高速、小口径な銃弾には必須。

弾頭には以下の機能が細工されることがある。
構造的にバッティングしなければ複数の機能を持たせる事は可能で「徹甲曳光弾(AP-T)」や「徹甲榴弾(APHE)」等、別々の効能が3つ以上あると「多目的弾」「多機能弾((主目的)-MP)」等と呼称される。

徹甲弾(armor piercing/AP)

弾芯やその最奥部に硬い金属を封入し、命中時にその金属で装甲を打ち破る方式。ボディアーマーや装甲車両に対して使用する。

曳光弾/焼夷弾(tracer/T、 incendiary/I)

弾芯底部にマグネシウムなど光る材質を用いて弾道を明示化したり、命中時に燃焼して相手を燃やす。銃弾のサイズでは専用焼夷弾は少なく、曳光弾が副次的に焼夷能力を持つ場合が多い。

榴弾(high explosive/HE)

弾芯に炸薬を詰め込み命中時や貫通時に爆発する。12.7mm以上の大口径から用意されることがある。

仮帽(cap/C)

空気抵抗に負けない程度の柔い材質を付けて弾頭をとがらせて尖頭弾の特性を示させ、命中時にはつぶれて円筒弾としての特性を示すようにする。砲弾などでは跳弾を抑える被帽もあるが割愛。

フランジブル弾

銅の粉を固めたりして作成した弾で、被弾者に対しての効果はホローポイントと同じだが、その時点で砕けて二次被害を低減する。

ソフトポイント弾/SP

被甲を柔らかい材質にして仮帽の効果と後述の拡張弾としての効果をもたらす。

形状によっても効果が変わる。

円頭弾(ラウンドノーズ)

弾頭先端が丸く成形されたもの。貫通力が劣るものの、命中時に触れる面積が大きくエネルギーを十分に伝えられるため拳銃弾など素の威力が低い弾で採用される。

尖頭弾

弾頭先端が尖るように成形されたもの。空気抵抗を減らし貫通力を向上させるのでフルサイズのライフル弾で採用される。
チューブマガジンで前の弾の先を突いてしまうためそれを採用している銃では尖頭弾は使用できない。

平頭弾(ワードカッター)

標的に綺麗に穴をあけるために先端が平べったく成形されている弾。

構造による違いは以下の形。

フルメタルジャケット(FMJ)

完全に覆われて弾芯が見えない弾。普通の弾で被弾者に命中した状態でも変形しづらく直進、貫通する。生身に対してはエネルギーを伝えきる前に貫通してしまい多少ダメージが減ってしまう。

拡張弾

ソフトポイント、フランジブル弾、そして先頭付近の鉛が露出し穴が開いているホローポイント(HP/オープンチップ)が該当する。
被弾者に命中した際に先端から変形(マッシュルーミング)、断片化(フラグメンテーション)を起こし、エネルギーを完全に伝えより深刻なダメージを与える。
起源は「ダムダム弾」。イギリスの植民地であったカルカッタのダムダム工廠で造っていたライフル銃用ソフトポイント弾だった。
今では「必要以上に苦痛を与える」として軍隊での使用はハーグ陸戦協定で禁止されているが、戦争以外での使用は禁止していないため警察や自衛用としては現役。
近年では被甲部分の材質や弾芯の形状を工夫したホローポイント弾がブラックタロン、ゴールデンセイバー等々のブランド名で発表されているが、これらは「ハイテク・ホローポイント」と総称されることもある。
単薬室連発式の銃では、弾頭が薬室へ装填する際にフィーディングランプにこすれる。そのため複雑な形状だと引っかかることがある。
引っ掛かりの少ない形状にしたり銃側で対応したりと各社工夫している。
近い概念として着弾後の横転があり、5.56x45mm弾や5.45x39mm弾ではそれによるダメージの向上を目論んでいる。

薬莢

薬莢(ケース)

銀幕上で「キーン」といった甲高い音を出して転がり、後々踏んづけて転ぶあれ。弾頭とともには飛んでいかず、大抵は銃右側面に指ではじく程度の速度で飛ばされる。
発射時まで弾薬のすべての部品を保持/保護し、発射時には銃側の薬室やボルトとともに装薬のエネルギーを受け止める。
主に真鍮や鉄で作られている。
形状
  • リムド/セミリムド(R/SR)
底部の出っ張りであるリムが飛び出た構造。自動銃以前の銃で薬室から引っ張り出しやすくするための構造。単純なプレスで制作できる。
  • リムレス/リベイテッド
リムと薬莢の直径を同じかそれ未満の構造。弾倉にてリムがかさばりうまく装弾できない点を解決する。工程が複雑化する。
  • ベルテッドリム
リムよりも手前にベルト状の補強を追加したもの。
  • ボトルネック
薬莢中腹を絞る構造。弾を薬室から抜きやすくなり、口径に対してより多くの装薬を詰めることができるが工程が複雑化する。

特殊な薬莢
  • 薬莢と発射薬の中に弾頭が埋まっている構造の弾薬を「テレスコープ弾薬(CTA)」と呼ぶ。高速連射への適性を見込まれ、対空機関砲用として研究が進められている。
  • 薬莢内部に弾頭を押すシリンダーを内蔵し、外部に発射ガスからくる音を出さないようにした弾なども存在(7.62x38mm SP-3)。
  • 現代の戦車砲では、車内スペースが薬莢に取られないよう、装薬を固めて作られた焼尽薬莢が使用されている。*4
 小銃としても研究され、G11では発射薬が剥き出しのケースレステレスコープ弾として結実。軽量かつ排莢の必要もないが、色々と問題も多く結局採用されなかった。
  • 高圧に耐えるために複数の材質で構成するハイブリッド弾も存在。概ね戦車用焼尽薬莢が焼尽しないイメージ。

雷管(プライマー)

主に薬莢の尻に埋め込まれている丸い部品。この部品を叩くことで火花が発生し装薬に点火する。
銃向けのものは叩くと発火する雷汞(らいこう)とそれを囲う金属で構成される。銃ごとに大きく変化することはない。
形状
  • ピンファイア
ピンが飛び出している最初期の雷管。持ち運ぶ際に当たっただけで発火して危険なため現在は使用されていない
  • リムファイア
リム内部に雷管が仕込まれている形式。製造が楽だが不発が発生しやすい。安価な弾種で採用。
  • センターファイア
薬莢底部中央にキャップ上の雷管を詰めるタイプ。安全で現代の主流。
  • ベルダン式
薬莢側に叩くための突起があるタイプのセンターファイア雷管
  • ボクサー式
雷管側に叩くための突起があるタイプのセンターファイア雷管

装薬(パウダー)

薬莢内に込められる火薬。雷管によって点火後ガスとして膨張、弾頭を加速させる。
火薬だがダイナマイトのような爆薬ではない。
爆薬の爆発(爆轟)が音速に達するほど高速であるのに対し、装薬は爆燃という遅めの燃焼/膨張をする。
それにより比較的時間をかけて弾頭を加速することができるため、同じエネルギー量だったとしても効率がいいという理屈である。
発射薬は粉状ではなく粒状や円柱状やマカロニ状になっている。燃焼速度を調整するためであり、粒が小さいほど早く燃焼する。
形状や材質、装薬量によって適切な燃焼速度に調節し適切な銃に使用されるようになっている。
例えば銃身が短い拳銃では速燃性発射薬が、長銃身のライフルでは遅燃性発射薬が適している。




拳銃弾

9mmパラベラム/9mmルガー/9x19mm


.45ACP弾/11.5x22.8mm*9


.44マグナム弾/10.9x32.6mm*10




ライフル弾

7.62mmNATO弾/.308ウィンチェスター/7.62x51mm


5.56mmNATO弾/SS109/5.56x45mm




現代の製造企業例

偏りが酷いのであくまで一例です。

  • Nosler, Inc.(米):狩猟弾専門
  • Hornady Manufacturing Company(米):XTPなど高品質の弾薬ブランドが存在
  • Hodgdon Powder Company(米):リロード用の火薬などを専門としている
  • Remington Ammunition(米):2020年のレミントン社破綻後に分裂した会社
  • Federal Premium Ammunition(米/チェコ):ハイドラショックなどのブランドで有名
  • CCi Ammunition(米/チェコ)
  • Sellier & Bellot(チェコ)
  • PMC ammunition(韓国):X-TACなどのブランドが存在
  • ArmsCor(フィリピン):M1911周りや弾薬を販売
  • AGUILA(メキシコ)
  • Prvi Partizan/PPU(セルビア):マイナーな弾を多く製造数している
  • Century International Arms(米):RedArmyStandardブランドとしてロシア圏(トゥーラ等)の弾を輸入し販売している
  • Tula Cartridge Plant(ロシア)
  • CBJ Tech(スウェーデン):Carl Bertil Johansson氏創業の徹甲弾研究メーカー。プラスチックサボ付きタングステン徹甲弾を小ロット生産している。

  • Alexander Arms
  • FN
  • オートマグ社(旧)
その会社が専用で採用した弾は基本的にその会社か子会社が制作している

  • 豊和工業
  • 日本工機
  • 旭精機工業
日本の弾薬メーカー。自衛隊、海上保安庁、警察への納品が主。ダイキンなども砲弾を製造している。



余談

日本で許可されていない実包を持っていると懲役刑となる
薬莢は撃てない状態ならセーフだが、グアムやハワイ等海外の試射場で撃った後の空薬莢でも、税関で見つかれば色々面倒。
火薬類が含まれないなら大丈夫ということで、本物の弾頭と薬莢、偽物の装薬と雷管を組み合わせたダミーカートが販売されていたりする。


薬莢は使用後のものでも洗浄・再整形をすれば再利用が可能で、再利用した弾薬は「リロード弾」と呼ばれる。
新品の弾(ファクトリー弾)と比べると以下のメリットデメリットがある。
  • ファクトリー弾派
 工場の設備で正確に測っているので精度も高い。
 それ以外にもダブルロード*21などの事故を防げる。
 そもそもリロードはよほどの知識・技術・選定力がなければ大変危険。業者に任せていたらコストも新品を買うのと変わらないだろう。
  • リロード弾派(新品のハンドロード派を含む)
 同じ銃で発射するのならば、チャンバーにぴったりフィットするのでファクトリー弾より精度が高くなる説がある。
 リーズナブルだし装薬の細かい調整が効く。
グアムなど大規模な観光射撃文化がある場所では採算が取れるのでリロード弾が使用されていた(専門業者もいた)が、コロナなどにより業者が撤退し2023年以降はファクトリー弾が使用されているという。
リロード弾の場合、再成型の際に削るのでその跡がつく。多少黒ずむ点でも区別できるので撃つ前と撃った後に観察してみよう(小型の銃であっても排莢直後は高熱なので触るには手袋が必須。)
使用しきれなくなった場合は材料レベルに還元してリサイクルする場合もある。使用済み雷菅と弾頭だけを取り付けた薬莢をストラップみたいに加工した土産なんかも存在する。

各国の軍では訓練で使用した薬莢の90%以上を回収している。
回収後の再利用もしくは金属資源として売却することによる諸費用の回収も重要ではあるが、それ以外にも「弾の横流しや不正備蓄を防ぐ」という立派な理由がある*22。特に、銃の所持を厳しく規制している国・地域では弾薬の流出によるリスクが図り知れないため、とびきり厳格に管理される。具体的には訓練場をカートで掃いたり、排出直後虫取り網で受けたり、銃に薬莢受けの袋を取り付けることで散らばらないようにする等がある。訓練中の自衛官や韓国軍兵士の銃にカーキ色の袋がついている情景は時たま見かけるだろう。
戦闘でも薬莢は可能な限り回収するようにしている。落ちている薬莢の量に応じて『この場所で戦闘があった、どの程度の規模の戦闘で、どのくらい弾薬を消耗した』と敵に悟られないようにするためだとか。


フィクションではFMJの頭の被甲をナイフ等で剥いて弾芯を出し、そこに十字傷を付けた物をダムダム弾と称していることがある。
無論、気を使わないと前述の通り引っかかって装弾不良につながる。マスケットの丸弾時代に行われていた技法と混同したものと思われるが、HP弾は手軽に売っているのでウォルマートで買おう。



追記・修正よろしくお願いします。

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最終更新:2025年08月08日 00:33

*1 こちらで呼称されることはほぼない

*2 こちらで呼称されることはほぼない

*3 RoHS指令など

*4 それでも底部だけは金属製なので残る

*5 リムレスで大きなテーパーがかかっていないので弾倉に並べやすい

*6 スペクトラM4短機関銃では複々列弾倉(4列)まで採用されるほど

*7 拳銃の場合、シンプルブローバックでは無理があるためショートリコイルが必須レベルとなる

*8 減装弾もあるが、必然的に威力は落ちてしまう

*9 こちらで呼称されることはほぼない

*10 こちらで呼称されることはほぼない

*11 車のエンジンブロックは何重にも重なった金属の塊でありライフル弾でも貫通は難しい。一応ドアなどエンジン以外の箇所は非防弾構造なら通常の拳銃でも貫通可能。ダーティハリーでは誤解されているが、この時のターゲットは運転手。

*12 トラックを止める程の制動力はない。『バイオハザード4』ではこの辺の誤解との折衷案か、突っ込んでくるトラックと戦う戦闘で「攻撃し続けたことでボンネットから火が出て運転手の視界が塞がれ横転する」という仕様になっている。そのため横転ポイントまではいくら攻撃したとしても止められない。

*13 被弾者を吹き飛ばすには銃弾程度の威力では足りない。おおむね驚いて逃げようとする動作と撃たれて倒れる動作が重なっただけといえる。

*14 正式名称は拡張弾頭で、命中すると弾の直径が大きくなる様に変形し、人体内に運動エネルギーをフルに伝え傷を拡大するように作られた銃弾。カルカッタ(現コルカタ)近郊の工業都市・ダムダムの兵器工場で作らせたことに由来する。尚、後にダムダム弾の一種として貫通力の低いホローポイント弾が開発され、狙撃での二次被害(貫通による人質の殺傷)を避ける目的でSWAT等が使用するようになっている。

*15 作中で次元が「1929年のベルサイユ条約で禁止された」と説明しているがこれは誤りで、実際は1907年のハーグ会議において使用が禁止された。そもそもベルサイユ条約は第一次大戦の講和条約である。

*16 PART-Ⅰの松田刑事、PART-Ⅱの沖田刑事、PART-Ⅲの山県刑事。このうち沖田刑事は末期にコルト パイソンに持ち替えている。

*17 BAR、M1ガーランド、M1カービン、M1トンプソン、M3グリースガン

*18 朝鮮戦争ではまだ最新の秘匿兵器であり運用されていなかった

*19 先端に識別用の緑の塗装が施されているため

*20 適切なライフリングピッチなどが変わってくるので混同すると事故が発生する。気を付けよう。

*21 2重に装薬を入れてること。想定していないと銃も射手も壊れる(最悪死ぬ)。対策としては、装薬をかさの多いものに変え2重に入れたらあふれるようにするなどのフールプルーフを設ける

*22 「渡した弾の数」と「戻ってきた薬莢の数」を合わせることで、こっそり弾薬を溜め込むことを防止している。管理を怠った場合犯罪に使用されたり、最悪大量に弾を溜め込んでクーデターを起こす等の可能性がある