登録日:2015/03/01 (日) 01:10:38
更新日:2025/04/12 Sat 23:06:34
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88年 天皇賞(秋)
"葦毛の馬は走らない"
この2頭が現れるまで、人はそう言っていた。
葦毛と葦毛の一騎討ち
宿敵が強さをくれる。
"風か 光か" その馬の名は…
タマモクロス
激突せよ。
タマモクロスとは、
日本の元
競走馬、種牡馬。
天皇賞春秋連覇を達成し、種牡馬としても実績を残した。
目次
【データ】
生誕:1985年5月3日
死没:2003年4月10日(19歳没)
父:シービークロス
母:グリーンシャトー
母父:シャトーゲイ
生産者:錦野牧場
馬主:タマモ(株)
調教師:小原伊佐美(栗東)
主戦騎手:南井克巳
通算戦績:18戦9勝[9-3-2-4]
獲得賞金:4億9161万4000円
主な勝鞍:88'天皇賞(春)・宝塚記念・天皇賞(秋)
タイトル:88'JRA賞年度代表馬・最優秀4歳以上牡馬・最優秀父内国産馬・東京競馬記者クラブ賞・関西競馬記者クラブ賞
【誕生】
父は鋭い末脚を武器に活躍し、「白い稲妻」と称された人気馬。
母は条件馬だが、後にミヤマポピー(88'エリザベス女王杯)を出すなど繁殖牝馬としては優秀な実績を残している。
1984年、錦野牧場にて誕生。
同牧場の牧場主、錦野昌章氏は大変な野心家であり、強い馬を生産すべく多額の投資を行っていた。
しかしその結果牧場の経営は逼迫。やっと生まれてくれた大器、タマモクロスの売却益を借金の返済に充てるつもりだったのだが、同馬についた金額は……
……当時の基準においても、格安というほかない値段である。
血統の地味さに加え、線の細さが嫌われた結果なのだが、それにしても無情としか言いようのない現実であった。
背に腹は代えられず、錦野氏はこの金額で売却を決定。ほどなくして錦野牧場は倒産した。
ゆえにタマモクロスがレースに勝った際も、表彰台の「生産者」のところは常に空席のままだった。
【戦歴】
体質が弱く、デビューは4歳春にまでずれ込んだ。
3戦目でようやく未勝利を脱出したものの、400万下条件ですら苦戦する体たらく。
当初はダートでばかり使われていたのだが、このままでは埒が明かないということで、気分転換も兼ねて芝に出走。
なんとここを
7馬身ちぎって勝利。続く自己条件のレースでは
8馬身ちぎって勝利。
この勢いなら菊花賞を狙えるのでは?との声もあったのだが、体質の弱さがネックとなり断念。当時は12月の開催だった鳴尾記念(GⅡ)に出走する。
同期の
ゴールドシチーや前年の菊花賞馬メジロデュレンなど相手が一気に強化され、当日は3番人気に甘んじた。
しかしここでも追い込みから
6馬身ちぎり、レコードを叩き出しての圧勝。
秋までは条件戦ですら苦戦していたとは思えない強さを見せ、一気に競馬界の主役に躍り出ることとなった。
【最強への道】
年が明け、京都金杯(GⅢ)から始動。
縁起のいいレースということでここに出走したのだが、当日は前が壁となり苦戦。しかし馬込を縫うようにして抜け出し、際どく勝利を手にする。
次走の阪神大賞典(GⅡ)もスローペースで前が詰まるという苦しい展開。それでも猛然と追い込み、同着での優勝をもぎ取る。
重賞3連勝を決め、堂々の1番人気で天皇賞(春)(GⅠ)に出走した。
迎えた大一番。早め早めに内を突く競馬で直線抜け出し、ランニングフリーに3馬身差をつけて圧勝。
悲願の(GⅠ)制覇を成し遂げる。
次走は宝塚記念(GⅠ)を選択。天皇賞の勝ち方からステイヤーとみる向きもあり、1番人気はマイルの王者ニッポーテイオーに譲った。
しかしそもそもタマモクロスは鳴尾記念(阪神2500m)でレコードを出しているのである。
当日は直線でニッポーテイオーを捉え、並ぶ間もなく差し切りGⅠ連勝。
500万円で取引された安馬が、競馬界の頂点に立った瞬間だった。
【芦毛最強対決】
父と同じ「白い稲妻」の異名を背負う程の強豪となったが、この時期でもまだ体質の弱さは解消されておらず、天皇賞(秋)はぶっつけ本番で出走することになった。
そしてこの秋、タマモクロスの玉座を狙う刺客は思わぬところ……公営笠松競馬からやってきた。
笠松で活躍し、その後中央競馬に移籍。クラシック出走は叶わなかったものの、裏街道で重賞6連勝という破竹の快進撃を見せ、ついにGⅠ挑戦となったのである。
当日は前哨戦をしっかり使ったオグリキャップが1番人気。タマモクロスは2番人気に甘んじた。
「芦毛最強対決」として大いに注目を集めたレース本番、タマモクロスはなんと2番手で先行。
オグリキャップの進出を確認したうえで抜け出し、直線先頭に立つ。
力強く脚を伸ばすタマモクロス! 鬼のような末脚で追いすがるオグリキャップ!
最後は1馬身1/4の差をつけて勝利。日本競馬史上初となる天皇賞春秋連覇を達成するとともに、最強の地位を守り抜くことに成功したのだった。
続くジャパンカップでは1番人気。
レースではオグリキャップが先行。タマモクロスは後方待機という、天皇賞(秋)とは逆の展開になる。
直線一旦は先頭に立ったものの、馬体を併せることなく抜け出したペイザバトラーを捉えることはできず、2着に敗れた。
それでもオグリキャップには先着し、意地を見せることには成功している。
そして引退レースとなった有馬記念。
秋2戦の反動によって調子は最悪だったが、王者のプライドが出走回避を許さなかった。
オグリキャップを筆頭に、同年の菊花賞馬
スーパークリーク、マイルCS馬サッカーボーイ、1987年有馬記念馬メジロデュレン(
メジロマックイーンの半兄)らが顔を揃えた豪華な布陣。
次代の王者を決めるべく、昭和最後のGⅠのゲートが開いた。
タマモクロスはスタートを決められず、最後方を追走。対するオグリキャップは好位を追走。
それでもタマモクロスは第3コーナーで豪快に仕掛け、先を征くオグリキャップに追いすがる。
しかしオグリキャップとの1/2馬身差は最後まで縮まらず、2着敗退。
芦毛最強の地位を譲り渡し、種牡馬としての馬生をスタートすることとなった。
【引退後】
アロースタッドにて種牡馬入りし、カネツクロス(鹿毛)やマイソールサウンド(栗毛)、ダンツシリウス・タマモイナズマ(芦毛)などを輩出。当時の内国産種牡馬としては充分な成功を収めた。
とりあえず中央重賞馬を複数輩出出来た分オグリキャップ(及び
イナリワン等他の1987年クラシック世代)には圧勝しており、タマモクロスが他界した年に生まれたタマモサポート(鹿毛)もGⅢで2勝を挙げた。
しかしGⅠ馬は遂に出なかったせいか、カネツクロスが引退後そのまま功労馬となる(余生はのんびりと過ごせ2017年26歳で他界)等種牡馬になれない産駒が殆どで、
後継種牡馬はウインジェネラーレ(栗毛)だけだが、そっちも種付け数3頭・出走数2頭と絶望的。そして他の子孫の話を聞く事がないまま、2021年に馬の居場所等をファンに繋ぐウェブサイト『競走馬のふるさと案内所』にて彼の他界が確認された。
なお、タマモを母父に持つ重賞馬はヒットザターゲット等複数おり、2022年高松宮記念では母母父がタマモクロスな曾孫ナランフレグ(栗毛)がタマモクロスの血を引く馬として初(ついでに馬主・牧場・厩舎にも初)のGⅠ馬になったが、
現時点で芦毛の重賞馬孫はヤマニンアラバスタくらい。果たして血統図の母系の中ででも、芦毛最強伝説を受け継ぐ後継者は現れるのだろうか……?
競走馬時代からかなり気性の荒い馬だったが、種牡馬入りしてもその傾向は変わらなかったようで、見学者に嚙みつく事もあったという。
それ以来放牧地の柵には赤ペンキで「チカヨルナ」と書かれた板が貼られていたそうな。
2003年4月10日、腸捻転のため死亡。享年19歳であった。
【創作作品での登場】
3巻収録の「夢の代償」に登場。
主に錦野牧場周りのエピソードが扱われている。
小柄で芦毛のロングヘアーのウマ娘。台頭した時に「関西の秘密兵器」等と言われていたことに因んでか
コッテコテの関西人キャラであり、中の人が大阪出身ということもあって勢いのある自然な
関西弁はファンから好評。
出生エピソードを反映して実家が貧乏でとても苦労したらしく、ハングリー精神が強い。
夢はトゥインクル・シリーズ(レース)でガッポガッポ稼ぎ、信じて送り出してくれた牧場のオッサンたちにたらふくごちそうすること。
元ネタと同様に非常に小食だが、これは上述の通り実家が貧乏な上、小さな弟妹たちに自分の分のおかずを分けてやるような環境で育ったことで、
大量に食べようとしても身体が受け付けなくなってしまったという設定になっている。
関西キャラ故のツッコミ気質のため、オグリやクリークなど
天然揃いの同時代組を相手にツッコミを入れまくるなどそういう意味でも苦労人で、
特に自分を子供扱いして過剰に構ってくるクリークは天敵である(仲自体は悪くないが)。
彼と父の異名である「白い稲妻」だが、作中では主役の芦毛馬「シルフィード」の異名としても使われている。
ちなみにシルフィードは作中片目を失明しながらも海外遠征を続けたが、偶然にも後世タマモクロスの後継となったウインジェネラーレも現役中隻眼となりながら走り続けた馬だった。
主役馬ヒノデマキバオーの血統図に「タマブクロス」なる父の名前があり、一部ファンからは「前作『
みどりのマキバオー』主役馬(ヒノデの伯父)『白い奇跡』うんこたれ蔵ことミドリマキバオーのモデルでは?」とも言われ、ウマ娘とのコラボでもタマモクロスとミドリマキバオーがペアで扱われるなど公式でも半ば既成事実化している。
ただし作者はミドリマキバオーとタマモクロスの境遇が酷似していることにこそ言及しているもののモデル馬を明言しておらず、ミドリマキバオーの血統図モデル自体は
ウイニングチケット説が有力視されているが。ちなみにミドリマキバオーの
ライバルである
カスケードは
フジキセキがモデルと明言されている。
また、境遇についてはミドリマキバオーよりもむしろモーリアローの方がよりタマモクロスに近いと指摘されることも多い。
追記・修正をお願いします。
- みどりのマキバオー世界での名前は「タマブクロス」 続編・たいようのマキバオーの主人公、ヒノデマキバオーの父 -- 名無しさん (2015-03-01 01:30:19)
- ミドリマキバオーは朝日杯3歳S(当時)と同着優勝とはいえ日本ダービーと早い時期から活躍していたから遅咲きのタマモクロスと比較するってのは…。 -- 名無しさん (2015-03-01 19:21:58)
- いや、作者がモチーフっていってるから… -- 名無しさん (2021-03-17 23:34:07)
- ↑言ってないよ。生き様が似ているとは言ったけどモチーフ・モデルとは明言してない。その発言の中でカスケードはフジキセキがモデルとは明言してるが -- 名無しさん (2021-06-19 02:27:09)
- 項目を読んだ限りだと境遇的にはマキバオーよりもモーリアローの方が近い気がする -- 名無しさん (2021-07-23 08:31:36)
- そもそも父親のシービークロスが白い稲妻って呼ばれてたよね。明るい芦毛で差し足の鋭い馬に使いまわされる二つ名。グレイゴーストとかグレイファントムみたいな。タマモクロスが決定版になってそれ以降あまり使いまわされなくなったけど。 -- 名無しさん (2021-12-21 14:23:30)
- 種牡馬時代はタイキシャトルとも縁があったとか -- 名無しさん (2022-04-27 11:32:52)
- アロースタッドにいた頃はタイキシャトルと隣同士の放牧エリアだったので、その間の道が殺人ロード扱いされてたとか(両サイドからタマとシャトルが噛みに来るとか) -- 名無しさん (2022-09-26 01:05:59)
- タマモクロスは戦績は図で見ると前半と後半で極端なのがわかりやすくおもしろくて好き -- 名無しさん (2022-12-23 01:40:48)
- 生い立ちがドラマチック過ぎて特に意識してなくても競走馬を主人公にした少年漫画を描いたら嫌でもタマモクロスそっくりの展開になってしまう -- 名無しさん (2024-10-30 12:45:40)
最終更新:2025年04月12日 23:06