大怪獣ヨンガリ

登録日:2016/04/04 Fri 19:34:51
更新日:2023/10/15 Sun 15:49:58
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大怪獣ヨンガリとは、1967年8月13日に公開された韓国の極東フィルム製作の特撮怪獣映画。

核実験で目覚めた大怪獣ヨンガリとその対策に奔走する人間ドラマを描いた作品である。


【概要】

1967年は日本で第一次怪獣ブーム真っ盛りで、『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』、『ゴジラ』や『大怪獣ガメラ』、『宇宙大怪獣ギララ』、『大巨獣ガッパ』といった作品が沢山製作されていたが、このブームは韓国にも波及し、本作と『宇宙怪人ワンマグィ』という二つの特撮映画が制作されることになった。怪獣は日本と同じように着ぐるみを使用している。*2

また、ヨンガリの着ぐるみ製作や特撮にはガメラを手がけた日本のエキスプロが携わっている関係上、韓国軍なのに61式戦車やF-104戦闘機が出撃したり、子供が作中で活躍したり、怪獣が子供と一緒にふざけるなど、昭和ガメラシリーズと毛色の似た作品になっている。

当時の韓国ではそこそこヒットし、15万人を動員したそうであるが、現在は韓国においてはあまり知名度は高くなく、DVDが購入できるのはアメリカと日本に限られている。(発売してやれよ…)*3

しかし、当時韓国では怪獣映画をほぼ作ったことが無かったのと、予算に限りがあったからか、 ミニチュアと人間との合成のアスペクト比が狂っていたり、ヨンガリが火炎放射をするシーンで喉の奥の火炎放射器の筒が見えてしまったり といったように技術的に未熟な面も目立ってしまっている。

また、ヨンガリがソウルを襲撃するシーンで 避難前に人がほぼいなくなった飲食店でドカ食いする人のシーンを写したり、避難時に地球儀や黒板を持って逃げる人が居たり と、細かな面でお国柄が出ているのも特徴。

このお国柄は後述するヨンガリの最期のシーンにも現れていて、これらは日本やアメリカの特撮映画ではまず考えられない描写であるため、韓国独自の発想と言えるかもしれない。

ちなみにドイツでは『Godzillas Todespranke』というタイトルで公開された。なぜそうなったかは不明。

1999年に韓米合作でリメイクされたが、アメリカ主導の作品となってしまっており、原作の雰囲気はほとんど感じられないものとなってしまっている。

【スタッフ】

監督:キム・ギドク
脚本:キム・ギドク、ソ・ユンソン
音楽:チョン・ジョングン
製作:テ・チジェン
撮影:ビョン・インジ
アドバイザー:中川健一


【あらすじ】

中東周辺で核実験が行われる気配を韓国軍が感じ取り、事態を重く見た韓国軍はロケットセンターから有人観測ロケットX7号を打ち上げ、宇宙からその様子を監視した。

核実験の影響自体は大したことは無かったのだが、試験場付近で原因不明の地震が発生し、しかも移動を始めた震源はなぜかまっすぐ韓国を目指してきた。

やがて震源は韓国の黄海道に到達し、その中から巨大な怪獣が姿をあらわした。正体は大怪獣ヨンガリだったのだ。

そして、出動した韓国軍の戦車隊を一蹴したヨンガリはソウルの街で大暴れし始める。
見るに見かねた韓国軍はヨンガリに熱誘導ミサイルの使用を決定するも、ヨンガリは熱エネルギーを食うことが判明し…。


【登場人物・怪獣】

【主要人物】

◆イール

本作の主人公。若き化学者で、アンモニアなどの研究をしていた。
ヨンガリの熱エネルギー吸収や、イーチョ少年が見たヨンガリの弱点などを研究し、打倒する際に大きく貢献した。
演じたオ・ヨンイル氏は当時の韓国ではそれなりに有名な映画スターだった模様。

◆スンイル

韓国首相の娘。イールと恋仲になる。
演じたナム・ジョンイム氏は60年代を代表する韓国のアイドル女優であった。

◆イーチョ

イールの友人で助手の少年。
ドライブしていた新郎新婦にイールが開発した『痒みを発生させるライト』を浴びせて運転不能にしたり、
ヨンガリ見たさにわざわざ下水道を通って接近したりと悪ガキな側面が目立つが、彼の観察のおかげでヨンガリの弱点が判明した。

◆宇宙飛行士

新婚ほやほやであったが韓国軍の命令を受け宇宙から核実験を観測した。
無線に不具合が出るというアクシデントもあったが無事に帰還し、ヨンガリに止めを刺す際にイールに協力した。

◆将軍

韓国軍将軍で、ヨンガリ対策の司令官でもある。
ミサイルでヨンガリに止めを刺そうとして逆にエネルギーを与えてしまうという大失態をやらかしてしまった。

【怪獣】

◆ヨンガリ*4

中東で行われた核実験の影響で地下深くから目覚めた韓国伝承の怪獣。全長60m*5
名前は朝鮮語の龍と怪獣をあわせた言葉からつけられている。
また、日本で言う「御神渡り」に当たる「ヨンガル(龍耕)」という現象にも由来するらしい。

巨大な爬虫類のようであるが、恐竜との関連性は不明。容姿は角の生えたオーソドックスな肉食恐竜タイプで、背中にはゴジラのような一列のヒレがある。
ガメラシリーズの特撮を手がけたエキスプロが協力しているせいで顔がガメラやギャオスやバルゴンに似ている。
そのせいか能力もガメラシリーズの怪獣とよく似ており、熱エネルギーや石油を口から吸収したり、火炎噴射をしたり、角から超音波メスによく似た切断光線を出す。
切断光線の威力は調整できるようで、ジープを両断する程度から、F-104戦闘機を切断する程度にまで上げることが可能である。*6
意外にひょうきんな一面もあるようで、作中ではロック調の『アリラン』に合わせてダンスをしたこともある。

弱点はアンモニアで、これを喰らうと全身がかぶれてしまう。
この弱点をイーチョ少年の観察で見抜かれてしまったため、最期は漢江に差し掛かった時にヘリコプターからイールが調合した特殊アンモニアの粉末を全身にばらまかれてかぶれてしまい、
体中を強くかきむしりながら下血して死んでいった。 この描写のせいで資料によっては「怪獣史上最も悲惨な死に方をした怪獣」と言われることも。

なぜここまで悲惨な最期にしたのかは不明であるが、これについては「制作陣は生物であるということを強調したかったからではないか」や「ヨンガリは北朝鮮の象徴であったためかっこよく死なせるわけにはいかなかったからではないか」などという説がある。


【余談】

後年、韓国の怪獣映画界を代表すると言っても過言ではないシム・ヒョンレがリブート版を監督した。こちらでは、ほぼ別怪獣と言っても過言ではないほど見た目と設定も変更されている。同監督は後に『D-Wars』シリーズも監督している。

平成版の設定も加わり、様々な経緯や特徴から、ある意味ガメラの兄弟と言えるような存在になったのかもしれない。





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最終更新:2023年10月15日 15:49

*1 資料によっては「ヤンガリ」

*2 特撮映画自体ならば韓国では1962年に公開された『プルガサリ』の方が先である。

*3 韓国版では100分あったが、日本版と米国版では編集で74分に短縮されている。

*4 資料によっては「ヤンガリ」

*5 75mとする資料あり。

*6 ちなみにこれとよく似たシーンは『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』にもある。