登録日:2011/06/26 Sun 02:56:27
更新日:2025/01/12 Sun 19:25:44
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『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』とは、1967年に公開された特撮映画。大映の怪獣映画「
ガメラシリーズ」の3作目である。
【概要】
昭和ガメラ作品の特徴とされる子供向け路線を明確に取り入れた最初の作品だが、それは本作の監督の湯浅憲明の影響が大きいらしい。
前作の製作にも参加していた湯浅は、『ガメラ対バルゴン』が観客の中心だった子供層に向けた作風ではないことを不満に思っており、スタッフ間の反省会で出た「怪獣の登場を引っ張ると子供達の集中力が続かない」「大人向けのドラマは子供には退屈」などの意見も取り入れ、観客となる子供たちを飽きさせない演出を心がけたという。
結果的にこの路線は成功したと判断されたのか、本作以降のガメラシリーズは子供向け路線で作られていくのだが、その一方で普段の映画の三倍の予算、通称「A級予算」を組まれた昭和ガメラ作品は本作が最後になった。
なお、湯浅と共にアイデアを練った脚本の高橋二三によると、かの
本多猪四郎からは「素晴らしい内容だった、ぜひ一度一緒に仕事がしたい」と、本作を絶賛する手紙が届いたそうだ。
【あらすじ】
立て続けに発生した明神礁・三宅島・富士山の噴火に引き寄せられ、ガメラが再び日本に現れた。報道関係者や科学者がガメラの調査に向かうが、彼らを乗せた
ヘリは二子山の上空で何者かに撃墜される。
数日後、二子山のふもとにある山村では、高速道路の建設に従事する作業員たちと、反対運動を隠れ簑に用地賠償金の吊り上げを狙う村人たちが今日も睨み合っていた。
村長の孫の英一は、ヘリの墜落とその直前に確認された緑色の怪光の取材にやってきた新聞記者に頼まれ、彼を二子山に案内していたが、謎の洞窟に入ったところで突然の地震に見舞われた。
英一を見捨てて逃げ出した記者は突如出現した怪獣に捕食され、工事の作業員や村人が駆け付けたときには英一にも怪獣の手が伸びようとしていた。
通りすがったガメラに間一髪のところを救われた英一だが、謎の怪獣との戦いで負傷したガメラは傷を癒すために海底に篭ってしまう。
そして、後にギャオスと名付けられた、この怪獣の出現によって、二子山周辺の人々の生活は一変していくことになるのだった。
【登場人物】
◆金丸英一
本作でガメラと交流する子供。ギャオスの名付け親でもある。
山村の村長である辰衛門の孫で、二子山は彼の主な遊び場になっている。
ガメラの甲羅に乗って飛行したり、傷を癒すために海底で安静にしているガメラとシンクロするかのような場面があったり、ガメラとの繋がりを感じさせる描写が多い。
子供であるが故に大人たちがギャオス対策を練る際は蚊帳の外になりやすいが、彼が「ギャオスはおやつ前には出ない」と気が付いたためにギャオスの習性が判明したり、映画終盤で行われた二つの作戦の原案を出したり、割に要所要所でギャオス対策に貢献している。
対策会議に集まった高官たちを怒鳴りつけ、結果として自分で考えた怪獣の呼称“ギャオス”を定着させるあたり、将来大物になりそうな気配がある。
◆堤志郎(演:本郷功次郎)
高速道路建設工事の責任者。
村人の抵抗と上からの命令の板挟みになっていたが、元々が真面目なこともあり、工事現場側の代表としてギャオス事件に関わっていくことになる。
ちなみに堤役の本郷功次郎は前作『ガメラ対バルゴン』から引き続き主演を演じている。
◆金丸辰衛門
山村の村長を勤める英一の祖父。
工事の反対運動を起こして道路公団からの賠償金の額を引き上げようと企んでいた(ある種の
地上げ)が、ギャオス出現の影響で高速道路の建設予定地が変更されたために計画が破綻し、村人たちにアッサリと裏切られる。
終盤、村人から自分を庇う英一の姿を見て己の浅ましさを恥じて改心し、ギャオスを倒すために山に火を放ってガメラを呼び出す。
◆金丸すみ子
英一の姉。
高速道路の開通を利用して村を発展させるべきだと考えており、賠償金目当てで反対運動を起こした村人たちを冷めた目で見ていた。
◆マイトの熊&八公
工事現場で働く二人組の作業員。
いわゆる三枚目キャラだが、ギャオス騒ぎの影響で他の作業員たちが次々と工事現場から逃げ出し、自分たちは村の人々に八つ当たりされながらも、最後まで堤の下に残り続けた。
◆山村の村人
金丸村長の指揮の下で工事の妨害をしていた。
ギャオスの襲来で生活がメチャメチャになった挙句、高速道路の建設予定が変更されると、手の平を返したように村長を糾弾し始めた。
◆青木博士
動物学者。
学者としての立場からギャオスの超音波メスなど生態の説明を行った他、発見されたギャオスの体の一部を調査し紫外線が弱点である事を突き止めた。
【登場怪獣】
◆ガメラ
バルゴン戦の後しばらく姿を消していたが、活発化した火山活動にホイホイ誘われ、久しぶりに日本を訪れる。
ギャオスに襲われた英一を助けたことをきっかけに正義の味方としてデビューを果たす。
戦闘機や建築物を容易に切り裂くギャオスの超音波メスを甲羅で防いだことで甲羅の驚異的な強度が明らかになるが、甲羅から露出した腕を狙われて負傷し、物語後半でギャオスが名古屋を襲うまでは海底で傷の回復に専念していた(塞がりきってない腕の傷から血が滲むシーンがやけに痛そう)。
甲羅に乗せた英一を気遣って飛行中に回転しないなど、いつの間にか子供の扱い方まで身につけていた。
◆ギャオス
本作の敵役怪獣。ガメラと3度交戦する。青木博士は有史以前の生物が噴火活動によって目覚めたとの仮説を立てていた。
東宝の
フランケンシュタインや
キングコングに対抗すべく、同じく海外で知名度があるドラキュラ(と関連のある
コウモリ)をモチーフに考え出された。
作中では英一に「鳴き声がギャオと聞こえるから」という理由でギャオスと名付けられ、その後も英一が大人たちの前でギャオスと呼び続けたためか、その呼び名が定着した。
人間の血の臭いを好み、劇中では度々人間を捕食していたほか、「味と匂いは本物ソックリ」な人工血液をすするシーンもある。
紫外線を浴びると肉体組織が損傷・萎縮してしまうため、昼間は太陽光の届かない二子山の洞窟に潜んでいる。しかし、同時に肉体の再生力も高く、切断された片足を一晩で元通りにすることもできる。
口から放つ超音波メスの切れ味は鋭く、劇中では大型ヘリコプター・
自動車・F-104J戦闘機・ガメラの腕・名古屋城など、いろいろなものを片っ端から切断・破壊した(ガメラの腕の場合は骨までは達しなかったみたいだが)。
この超音波メスはギャオスが音叉状になっている首の骨を利用して発生させているものだが、骨の構造のために首を左右に動かせず、狙いをつけるには全身で動く必要がある。
だが、劇中では洞窟から一歩も出ないまま防衛隊の航空部隊を壊滅させるシーンがあるため、元から命中精度は高いのかもしれない。
紫外線以外に火も苦手なのか、腹から霧状の消火液を噴射することもできる。
また、独特の平らな頭部には発光器官が備わっており、空腹時には緑色、生命の危機に晒された時は赤く発光する。
ちなみに宇宙ギャオスという体が銀色の亜種がいるが、こちらは同じ惑星に住む
ギロンの噛ませにされた。
◆バルゴン
前作『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』の敵役怪獣。
EDで前作のシーンが流れたために顔出しを果たす。
【作戦】
◆回転作戦
英一がガメラの甲羅に乗ったとき、ガメラが気を使って回転せずに飛行したことから青木博士によって考案された。
対策会議に使われていたホテルの最上階にある回転展望ラウンジを巨大な回転盤に改造し、屋上に設置した人工血液の噴水でギャオスをおびき寄せた後、回転盤をギャオスごと高速で回転させ、目を回したギャオスを夜明けまで釘付けにする作戦である。
実際、夜明け直前まではギャオスを足止めできたが、送電施設が急激な電力消費に耐えられずに炎上し、あと一歩のところでギャオスを逃がしてしまう。
◆山火事作戦(仮称)
ガメラを呼び出してギャオスを倒してもらおうと英一が発案した。
「ガメラは火が好きだからうちの山で山火事を起こせばいい」というのが作戦のコンセプトである。
結果、山火事の炎の熱に引き寄せられたガメラと山火事の消火作業を行っていたギャオスが鉢合わせし、両者の戦いに決着が着くことになる。
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日本映画史の闇 |
実はこの『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』で「マイトの熊」を好演した 丸井太郎氏は、 本作公開から半年後に自殺している。
それは日本映画史に悪名高き 「五社協定」による犠牲であった。
「五社協定」とは、当時日本に存在した大手映画会社が作った企業カルテルであった。
五社とは、東宝、大映、松竹、東映、新東宝のこと。
事の起こりは、映画興行の老舗・日活が、しばらく中断していた映画製作を再起し、そのために監督や俳優を他の映画会社から引き抜き始めたことである。
つまり「日活に監督や俳優を渡すな」と言うことで、この五社が結託して日活への人材流出をブロックしようとしたのだ。
また、俳優たちのギャラのつり上げを防止するという意味もあった。
しかし、やがて日活が引き抜きをせずとも独自の人材をそろえたことで、「日活に監督や俳優を渡すな」と言う当初の目的は薄れた。
実際、ブロックされるはずだった日活もこの五社協定に加わり、新東宝が倒産するまでの三年間は「六社協定」だった時期もある。
変わって五社協定は「テレビ業界に監督や俳優を渡すな」という、別の目的へと変化した。
1960年代からのテレビ業界の躍進は著しく、そちらへの人材流出を防ごうとしたのである。
この企業間の連携は徹底したもので、「どこか一社が特定の俳優を排除すれば、他の会社もその俳優を使わなくなる」という、まるで江戸時代の奉公構のような圧力があった。
あの黒澤明でさえ、「大映の女優を東宝で使いたい」と申し出た際にはにべもなく却下されている。
そして丸井太郎氏は、この「五社協定」に背いた。
彼は1963年に『図々しい奴』というテレビドラマの主役となった。本作は平均視聴率30%、最高視聴率45%という大人気番組となり、氏も一躍人気者になった。
しかし、大映はこれを許さなかった。そもそも「五社協定」の旗振り役は、大映社長の永田雅一( トキノミノルの 馬主)だったのである。
大映は圧力を掛けて丸井太郎を映画業界に引き戻したが、その後は飼い殺しにした。この『ガメラ対ギャオス』でも脇役である。
そもそも、本作で主演をやった本郷功次郎も、前作『ガメラ対バルゴン』で主演をやった際には「やりたくなかったが、逃げそこねた」「みんな逃げた」と、「特撮映画」というものの地位が低かったことを回顧している。その「脇役」というのは左遷枠だったとも言える。
そうした境遇に絶望した彼は、本作公開の半年後に、ガスで自殺することになった。
しかし彼の自殺から程なくして、大映の経営悪化が露呈。「五社協定」も永田社長が自分との揉め事からクビにした田宮二郎・山本富士子への制裁(映画からの締め出し)として発動した事から批判が高まり、数年後には倒産、残された映画制作部門は徳間書店の傘下に入るという結末を迎える。
他の会社もことごとく経営悪化から体制改革や俳優マネジメント部門の廃止・縮小などを行う事になり、「五社協定」は崩壊した。
『ガメラ対ギャオス』、そして丸井太郎氏の 死は、大映という会社の「終わりの始まり」であったのかもしれない。
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追記・修正はガメラとの交流を深めるつもりでお願いします
- 成長ギャオスへの81短SAMの第一波、ストーリー上は回避されてるんだけどどう見ても着弾してるようにしか… -- 名無しさん (2014-08-14 23:29:53)
- ↑そのシーン」はこの作品じゃないぞ。 -- 名無しさん (2014-08-15 19:53:48)
- ギャオスの鳴き声、ウルトラ怪獣ではガイロスに使われたよね -- 名無しさん (2014-10-10 11:09:40)
- ガメラシリーズの準主役のデビュー作品。ギャオスってやることは超極悪だけどやっぱりかっこいいんだよな -- 名無しさん (2015-02-22 05:29:16)
- 前作のバルゴンに続き、『補償金の釣り上げ』目当てで、反対運動する村人という、生々しい要素が良いスパイスだったな。 -- 名無しさん (2016-03-29 21:47:34)
- ↑開発を全面肯定してるあたり、まさに高度経済成長期の作品。 -- 名無しさん (2020-05-08 22:56:41)
- なんで別惑星にギャオスの亜種がいるんだろう -- 名無しさん (2020-12-11 16:35:15)
- ↑収斂進化で似た怪獣がいたんだろう -- 名無しさん (2024-07-27 01:28:41)
- 怪獣の着ぐるみって基本首が動かせないことが多いけど作中で理由付けがされてるのは珍しいかも -- 名無しさん (2024-11-14 23:02:17)
最終更新:2025年01月12日 19:25