大阪市レイプ虚偽証言冤罪事件

登録日:2016/06/10 Fri 23:58:16
更新日:2019/04/19 Fri 11:50:38
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 この事件は、2009年に大阪地裁で懲役12年の判決が言い渡され、2010年に大阪高裁・2011年に最高裁でもそのまま有罪となったレイプ事件である。
 しかし、2014年に冤罪が発覚、2015年に再審で無罪が確定した。

 最初の懲役12年の判決は、被害者とされた少女の証言を有罪認定の最大の根拠としたものであった。
 再審の開始も、この少女の証言が偽証であることが認められたことによるものだった。

 では、なぜ大阪地裁・高裁・最高裁は、一度は少女の証言を信じ、被告人を有罪だと判断したのだろうか?
 そこには、かつて幾多の悲惨な冤罪を生んだ裁判官の考え方が現代日本でも健在であることを示していた・・・


事件

 この事件の被告人、Xさんが起訴された事件の内容は、大体こんな感じである。

登場人物

X・・・被告人。ACDと同居していた。
A・・・Xの妻。
B・・・Xの娘。ただし、血はつながっておらず、Xが再婚した際のAの連れ子。
C・・・Bの子でXの孫。平成3年生まれで被害者Dの兄。Dが被害に遭う所を目撃した(実はウソ)
D・・・Bの子・Xの孫で被害者(実はウソ)。平成5年生まれで平成20年の被害当時は14歳の少女。
E・・・Bの姉。美容院経営。
F・・・Bの夫。

①2004年11月21日ころ,Xの自宅で当時11歳のDを押し倒して衣服をはぎ取ってレイプ。
②2008年4月14日ころ、Xの自宅でDがXを怖がっているのをいいことに押し倒して衣服をはぎ取ってレイプ。
③2008年7月上旬ころ、Xの自宅で当時14歳のDを背後から両腕で抱き着き、服の上から胸をつかんでもんだ強制わいせつ。



被害者Dの証言


 全く身に覚えがないXさん、法廷でも無実を主張したが、検察はCとDを連れてきた。
 そして、法廷に連れてこられたDは法廷でこう証言した。

「私は、小学校高学年の時から、おじいちゃん(X)におしりを触られたり、口にキスをされた。
 平成16年11月21日ころ、Aが家にいないときに引き出物を食べているとおじいちゃんが家にやってきて服を脱がせていろいろやってきた。
 体が固まっているとおじいちゃんにレイプされた。おじいちゃんは「いったら殺すぞ」と脅された。
 中学生になると、おじいちゃんの揉んだり触ったりするようになり、中1の時にも両手で胸をもまれたり、レイプされたこともある。
 大体Aが銭湯に行ってしまっていない時で、場所は自分の部屋だった。
 平成20年4月に部屋でテレビアニメを見ていると部屋に入ってきた。固まってしまっているとおじいちゃんに服を脱がされたが、怖くて抵抗できずにレイプされ、「Bに言うな」と口止めされた。
 7月初めころ、またAがいないとき、トイレに行こうとしてドアを開けようとしたら後ろからつかまれて揉んできた。この時は抵抗して逃げることができた。
 これまで、誰にも相談できなかった。Cに相談したこともあったが、「我慢するしかない」と言われた。
 おじいちゃんに抗議したこともあったが、横からAが口の利き方が悪いと言って怒ってきたこともあり、信じてもらえないと思って相談できなかった。
 お母さん(B)もおじいちゃんに襲われたという話を聞いたことがあり*1、迷惑をかけたくなくてお母さんにも相談できなかった。
 平成20年7月頃、高校生になるので嫌なことを振り切って新しい生活をしたいと思ってEに打ち明けようとしたが全てを打ち明けられなかった。
 7月下旬に、お母さんが大阪に来たときお尻を触られたということだけ話した。
 8月初めころ、実家にいるときに胸も触られているという話をした。お母さんに「最後までやられたの」と話したが、恥ずかしいのと思い出すのがつらくて、レイプされたことは話せなかった。
 その後警察で話をし、9月初めころにお母さんと話した時にお母さんが「命に代えてでも守ってあげる」と言われて覚悟を決め、全部話した。」

 Dは裁判所で尋問されたが、尋問の前日は寝られず、途中で体調を崩し、涙ながらに話し、弁護人からの尋問に動揺することなく対応していた。

 そして、Dの兄Cも、Dが被害に遭っているのを見たと証言したのだ。



恐怖の「訳がない論法」


 後になって分かったことだが、Dが被害に遭ったという証言も、Cが被害を見たというのも、見間違いどころか何から何まで真っ赤な嘘であった。
 そして、実は、Dの証言にもおかしな点はいくつかあり、第一審判決も、このおかしな点についてはいろいろと検討していた。
 Xさんの弁護士が様々に主張したため、Dの証言を全く検討しなかったという訳ではなかったのだ。
 だが、その検討方法は恐ろしいものであった。

 判決はまず、Dの証言についてこうぶち上げた。

「Dは自分の親族であるXからレイプされたということを内容とする供述をしている。
14歳の少女がありもしないレイプ被害等をでっち上げてまでXを告訴すること自体非常に考えにくい。
そんなことがあるならよほど特殊な事情があるはずで、そういう事情がなければDの言っていることは本当だ。」

 年少の少女が、ありもしない被害を主張する訳がない。
 面倒なので「訳がない論法」と書こう。
 この訳がない論法、セイラム魔女裁判で、19人を絞首刑にした恐るべき冤罪思考法であった。
 セイラム魔女裁判では、まだ当時の裁判官が名士と兼業する仕事に過ぎず、裁判官としての専門教育を受けていない言わば素人裁判であった。
 だが、現代日本で、裁判向け教育を受けた裁判官が複数で検討しても、この訳がない論法は健在だったのだ。

 そして、Xさん側としても、なぜそんなことを言われるのか心当たりはない。心当たりもないのだから、CやDが嘘をつくという証拠が準備できるはずもない。
 ただ、Xさん側ももしかしたら過去にXさんとトラブルのあったDの母Bが言わせているのではないか…ということを主張はしたが、Xさんの側も当然、そんな動機があるという証拠など持っているはずもない。
 裁判官は
「Bが自分でXに仕返しをするならともかく、自分の子どもDを使ってそんなことをする訳がない」
 という訳がない論法で一刀両断。

 CDが嘘をつくかもしれない、という動機からCDの証言を批判する弁護側の主張は「訳がない論法」で封じられてしまった。

 それでも、まだAの証言その物に不合理な点がないかどうか、チェックするという手が残っている。
 だが、ここでも訳がない論法の手は容赦なく及んできた。
 訳がない論法のせいで、弁護士が主張したDの証言の不合理な点は片っ端から裁判所によって好意的に解釈され、「不自然ではない」という扱いにされてしまったのだ。



 弁護側
 「BがXの勤務先や近隣住民に言いふらしているのはおかしいだろ?」
 裁判官
 「Dの被害が噂になったから確認して回っていただけだし、会社での態度を知りたいと思っているという説明をしていただろう。
  この説明は一応納得できるものだし、Bが嘘をつく訳がない。」

 弁護側
 「Bがすぐに被害を言わないのはおかしいだろ?最初は胸だけだったのに後から尻、レイプと被害がどんどん大きくなっていったのもおかしいよ!?」
 裁判官
 「おじいちゃんから性的被害に遭っていたならば思春期の少女が躊躇するのは当たり前だし、被害がだんだん大きくなるのも不自然ではないし、おじいちゃんが圧力かけていたんだから、言えなくても不自然ではない。
  それに、BECの言っていることとも一致している。憶測で被害者を非難するのは慎みたまえ。
  Dが嘘をつく訳が(ry。」

 弁護側
 「Cは見たって言ってるけど兄だよ?口裏合わせなんていくらでもできるし、Cは助けようとも、周囲に相談もしてないじゃないか。」
 裁判官
 「Dと2歳しか違わないCがそんな嘘をついたって得をする訳がないではないか。
 得がないのに言ってるってことは、本当のことを言ってるからと考えるのが当然であろう。
 助けようとしなかったのも、Xを告発したりすれば自分の生活が危うくなるのだから当然だろう。
 Cが嘘をつく(ry。」

 弁護側
 「Dの言ってる被害状況は曖昧すぎるよ。」
 裁判官
 「曖昧なところは多少はあるが、全体から見れば十分真に迫った証言だと言える。
  肝心の被害の所が曖昧なのは、Dが精神的ショックを受けて正確に覚えていない部分があるだけだ。
  Dが嘘を(ry。」

 弁護側
 「Aはいなくたって、隣の部屋にはCやXの母親(事件当時存命)もいたんだよ?バレる所でレイプをするバカはいないだろ?」
 裁判官
 「Xの母親は耳が遠かったし、多少は音もさえぎられるんだから、別におかしくはないではないか?
  Dが嘘(ry。」

 弁護側
 「DはPTSDになったが、警察に告訴した後にそうなっている。
  告訴自体が精神的負担になって、虚偽がバレるのを恐れたんじゃないか?」
 裁判官
 「弁護側のストーリーからすると、BCDで組んででっち上げたということかね。
  でっち上げをするような者が、でっち上げ対象が捕まった途端にPTSDになるなんて不自然であろう?
  Dがウ(ry。」

 弁護側
 「Dの言うことは途中で変わってる部分がある。本当のことを言ってるなら変わる訳がないだろ?」
 裁判官
 「途中で変わってる部分があるとはいっても、大筋の所は全く変わっていないではないか。
  一部だけが変わったからと言ってDが(ry。」



このように、訳が無い論法にはまってしまった裁判官は、Dの証言の不合理な点を
「Dが言っているのは本当のことではなかったから」
とは考えず、
「Dは本当のことを言っているのだが、被害に遭ったことを言うのが恥ずかしいから隠そうとしてしまった」
などと考え、信じても良い証言と扱ってしまったのだった。



「疑わしきは罰せず」という言葉を思い出した方も多いだろう。
有罪か無罪か、どちらが正しいのか分からず両方とも可能性があるなら、被告人に有利に考えるのが刑事裁判の鉄則である。
しかし、裁判官や検察官などは「疑わしきは罰せず」というのは証拠が全て揃った後に考えればいいことだと考える傾向が強く、個々の証拠の信用性を判断するにあたって「疑わしきは有罪に使わず」という考え方をすることは少ない。
結果として、裁判官は疑わしい証言を支えるだけ支えてあげて、信用できるだけの証拠を全て整えてしまった。
証拠を全部信用できるものと判断した上で、その後になって疑わしきは罰せずと言っても遅すぎたのである。



否認供述~否認供述には根拠がありません


 Xさん自身も、全く身に覚えがないが、それでも変じゃない?という要素については主張をした。

 弁護側
 「勃起障害があって、やろうにもやれないよ!!勃起障害だって鑑定すればわかるから鑑定してよ!!」
 裁判官
 「勃起障害の治療を受けていないではないか。
  当時50代ならば、妻との夫婦生活もあったであろう。全く治療しないということは、嘘を言っている証拠だ。
  鑑定?却下。そんなことをしなくても君の言っていることはウソに決まっている。」

 弁護側
 「Dは部屋の場所をいろいろ言ってるけど、当時の部屋と違うよ!」
 裁判官
 「何の根拠もない発言である。君の言っていることはウソに決まっている。」

 弁護側
 「AもXと性交渉ないって言ってるし、部屋の場所が違うって言ってるよ?」
 裁判官
 「Aの言ってることにも何の根拠もない。AはXの妻だから庇おうとしてるだけに違いない。」

 裁判所は、Dの言い分については、訳がない論法で好意的に解釈して筋を通させていた。
 ところが、弁護側の言い分についてはそうしようとせず、むしろ弁護側に主張の根拠を要求し、根拠がない、根拠が不十分だとなるとたちまち一蹴。
 Xさんの妻を連れてきても、身内をかばっているだけだと判断してしまうのだった。
 正当防衛を主張する場合のように、被告人に主張の根拠を要求するような場合は存在する。
 だが、Dには好意的に解釈して筋を通ったことにしてあげる一方で、Xさんについては全く筋が通らない扱いするとなると話は全く変わってくる。
 Xさんは実質、疑わしきは被告人を罰する裁判で戦わされていたのだ。



判決~徹底的な人格攻撃


 こうしてDの証言は全面的に信用される一方、Xさんの言い分は全く認められず、Xさんには懲役12年の判決が言い渡された。

 判決理由では、「罪を認めずに否認を続けるふてえ野郎」であるXさんに対して情け容赦のない人格攻撃が行われた。

「言語道断」

「犯行動機は誠に身勝手極まりなく,そこには一片の酌むべき点すら見出せない。」

「その行動は誠に醜悪極まりなく,齢60を超えた者の振る舞いとも思えぬ甚だ恥ずべき所業であるといわざるを得ない。」

「不合理な弁解に終始して本件各犯行を全面的に否認し,反省の情が皆無であるばかりか,挙げ句には,Bが自分に恨みを持っていることから被害をでっち上げたなどと同女を誹謗中傷するまでに至っている。」

 本当にXさんが真犯人で、Xさんの弁解が苦し紛れの弁解だったなら拍手喝采ものである。
 だが、後の結末を考えると、大上段にXさんを人格攻撃するこの判決のしらじらしさは際立つ。

 しかし、無罪であると主張して、結果有罪になってしまうことは、裁判所にこんな風に考えられてしまい、処罰が重くなる一因となってしまうのである。
 被疑者・被告人が戦うことを諦めてしまった冤罪事件のたびに、「戦わなかった被疑者・被告人が悪い」という意見はしばしば上がるが、この事件から、徹底的に無罪を争うことはリスクがあるのだということを噛み締めてほしいものである。



高裁での審理~裁判所はXさんにマホトーンを唱えた!!


 Aさんはなおも高裁に控訴。しかし、一審で有罪判決が出ている件を高裁でひっくり返すのは、よほどのことがなければいけない。
 高裁で弁護側はDが病院にかかったという記録があったことからそこの医療記録を出せと検察官に迫った。
 ところが、検察官は「ない」と回答。
 検察の手元にないだけで医療機関にはあったのだが、弁護側は手を封じられてしまった。

 そして、有罪判決の最大の根拠となったDの証言を何とか崩そうと、弁護側はDの証人尋問を申請したが、高裁はこれも却下してしまう。
 高裁は判決を受けての追加の証拠調べをなかなか認めないことが多い。
 高裁になってからでないと出せない証拠は認めることも多いが、Dの尋問は一審で既にやっていることであった。
 また、Dが年少者の被害者だったこともあって、
 「また尋問するなら、Dが傷ついてしまう。一度尋問したんだからもう十分だ」
 となってしまったのだった。

 結局、弁護側は打つ手がなくなってしまった。
 こうして、高裁も一審の有罪判決は間違っているとは言えないと言うばかりの有罪判決を言い渡したのだった。

 上告もしたものの、最高裁では追加の証拠を調べることはできないことになっている(例え裁判官がやってあげたいと思っても、裁判官に権限がない)。
 本来ならば私は冤罪だということで最高裁判所に上告することは門前払いされても仕方がないことになっている。
 結果、裁判は確定。Xは無実の罪で12年の服役をすることになってしまった。



再審~ウソだって言い出せなかったの・・・


 有罪判決が出て諦める被告人も決して少なくはない。
 だが、刑務所に服役させられてもXさんはあきらめず、担当の弁護士が活動していたら、重要な証拠がやっと登場した。

 Dがレイプ被害に遭ったとされる日時の後、Dは産婦人科にかかっていた。
 検察が「ない」と言っていた産婦人科の診療記録であったが、弁護士が該当する産婦人科に記録があることを突き止めた。
 まさか弁護士も診療記録があるのに検察が「ない」というとは思わなかったか、どこの産婦人科か分からず産婦人科を手あたり次第探すしかなかったために、判決確定後になってしまったのだと思われる。
 弁護士がその診療記録を取り寄せると、なんとレイプされたならあるはずがない処女膜が健在だったことがはっきり記録に残っていたのだ。
 さらに、C・D自身が証言を翻した。 
 これに基づいてXさんの弁護士が再審請求。

 弁護士の再審請求にびっくりした検察が再捜査。
 Dがかかった医者の記録を調べたところ、平成22年にDが受診した精神科の診療録にも、実は被害に遭っていないとDが話していたことまで記録に残っていた。

 そして、裁判所でもCとDは揃って、裁判で言ったことはウソだったと認めたのだった。

 Dはこう語った。
 「あれはウソだったんです。
 Xにおしりを触られたと話したら、母親BとFから、他にも何かされたんじゃないかと何日間も、深夜まで問い詰められてしまいました。
 それで、最後には胸をもまれたと認めて、その後レイプされたと質問されても否定できなくなりました。
 取り調べや裁判でもBとFに怒られるのが怖くて、嘘だったと言えなかったんです・・・。
 裁判が終わった後、あれはウソだったとBとFにも話したんですが、処罰されたり、他に証言した人たちに迷惑がかかると思って黙っておくことになりました。
 でも、今になってB・Fとも疎遠になったし、他の家族からも勧められて、話すことにしました。」

 更にCも
 「本当は犯行を見ていた訳じゃないんです。Bから見てないはずがないだろと問い詰められて、見たと喋ってしまったんです。
 今更ウソだと打ち明けても信じてもらえないと思って本当のことを話さなかったんです…」

 CDの言うことがもし本当なら、CDは場合によっては偽証罪による処罰も考えられたところだが、それでもCDは揃って、Bに問い詰められて発した口から出まかせであったことを白状した。

 もちろん、「CDがそんな嘘をつく訳がない!!」だけでは判決の訳がない論法と同じである。
 しかし、カルテなどの証言以外の証拠と見比べても、どう考えても正しいのは証言が誤りであるという言い分の方であった。
 第一、CDが真摯に喋ってるから有罪だ、という判決だったのに、そのCDがXが犯人であるという主張を撤回してしまったら、もうXを有罪にするまともな証拠なんか残っているはずがない。
 Fも、Dに対して尻を触られたということならレイプもされたんじゃない?と聞いたら、最初は否定していたが認めたという。

 Bだけは、CDを問い詰めてなんかいないと主張したが、CDから被害を告白された状況についてはあいまいな供述しかしなかった。
 更に、BはDをつれていった産婦人科医に処女膜が破れていないと診断された後も他所の産婦人科医に執拗に連れて行っていたということが検察の捜査で発覚していた。
 頭からDはレイプ被害に遭ったに違いないと決めつけ、産婦人科医にそんなことはないと言われても信じなかったのか、弁護側が主張した通り、実はXさんを陥れようとしていたのか、裁判所はそこまでは判断しなかった。
 だが、どちらであれ、BがCDを執拗に問い詰め、CDはそれに乗せられてしまった可能性が高い。


 こうして有罪の根拠を失った検察は、再審請求に対してXさんが有罪であるという主張を諦めた。
 検察自らXさんは無罪であるとして、無罪判決が確定する前に手続を取ってXさんを釈放。Xさんは裁判中・裁判後含め、およそ6年の獄中生活から解放されたのだった。
 その後も再審手続は進み、2015年に再審無罪判決が確定。

 再審に当たり、検察は自らXさんの無罪を主張したほか、判決言渡しの後は上訴権放棄の手続を取った。*2
 また、再審を担当した大阪地裁の裁判長(有罪判決を書いた裁判官とは別の裁判官である)は、判決を言い渡すにあたってXさんに謝罪の言葉を述べている。



関係者のその後


 Xさんは、6年にわたって拘束された補償金としておよそ2800万円を受け取ったが、とても被害回復に足りる金額ではない。2800万円は日割り計算で払われる金銭なので、被害の全回復として払われる金銭ではないのである。
 そのためXさんは国に対して違法な捜査・裁判があったとして被害の全てを償ってもらおうと国家賠償訴訟を起こしたが、平成31年1月に大阪地裁で訴えを退けられている。
 Xさんは役員をやっていた企業に復職することもできず、被害からの回復にはまだまだ時間がかかることと思われる。
 また、web上では特に判決でも真実とは認められていないXさんへの誹謗中傷がまことしやかに出回っており、事件後もXさんの名誉は完全回復していない。

 CやDのその後は定かではない。裁判が行われたかどうかも不明である。
 XさんもCDに対しては怒りも恨みもない、とコメントしたという。

 また、有罪の判決を書いた一審の裁判官のうち、裁判長は2013年、この件の冤罪が発覚する前に57歳で死亡。
 この裁判長は大阪地裁の名物裁判官であり、死去に当たって弁護士からも哀悼の言葉が述べられる有名人であった。
 万引き再犯を行なった二児の母親に対し、家庭を考慮して執行猶予を与えたエピソードがよく知られている。
 (再犯であれば実刑が普通だが、被告人の家庭事情を考慮し、敢えて執行猶予を与えた)

 残りの2名のうち、一人は現在東京地裁で裁判官をしている。
 平成27年までは、司法試験に合格した将来の裁判官や検察官・弁護士を育てる仕事をしていた他、司法試験の問題を作ったり採点をする仕事もしていた。

 もう一人は、現在千葉地裁木更津支部で裁判官をしている。

 彼ら裁判官一人一人がこの件をどう考えたかは、あいにく定かではない。
 地裁判決では、個々の裁判官の意見を書いたりしないし、評議の秘密を公開することはできないため、この判決に反対した裁判官がいたとしても、真相は不明である。



どうしてこんなことに・・・


長々と書いたが、この事件が冤罪になってしまった大雑把な流れを3行で書くとこんなものである。

①親が不適切な質問をした結果、CDはそれに流されて被害にあった・被害を見たと供述。
②引っ込みがつかなくなったDはウソであると言い出すことができず、最後まで嘘をつき通してしまう。(会津若松虚偽告訴事件はこのパターンであった)
③検察と裁判所がその供述を頭から信じ込んでしまった。

フランスの刑事裁判制度を揺るがしたウトロー事件とよく似た構図の冤罪事件となった。
ウトロー事件の場合、新米の予審判事が暴走したという面が大きいが、この事件の場合はベテランを含めた3人の裁判官が被害者の言うことを鵜呑みにするという形で暴走してしまい、高裁・最高裁がその歯止めにならなかったと言える。
しかし、これは奇遇でも何でもなく、むしろ世界中で起こる珍しくない冤罪のパターンなのだ。


親の事情の聞き方


DはB・Fに聞かれて嘘の被害を打ち明けたのだが、B・FがXさんを陥れようとしたのか、Dが気になるあまりに暴走してしまったのかは、裁判所は判断していない。Dが言う通り、Dに打ち明けられても黙っていることにしたのならゲスの所業だが。
少年少女は周囲の言うことに誘導されやすく、親や警察の言いなりに口から出まかせを言ってしまうことも決して少なくはない。
一度つき始めたウソを「やっぱりあれはウソでした」というのは、とても難しいことなのである。
子の異変に気付いたら、親は深入りして事情を聴くことはせず、警察に話を持って行くべきである。
親が焦って子を問い詰めるならば、子にウソを言わせてしまい、結果として親子ともども取り返しのつかない十字架を背負うことになってしまうのである。


裁判所が「訳が無い論法」に走った訳


そして、裁判所の問題も見逃すわけにはいかない。
なぜ裁判所は訳がない論法に走り、Dの証言を信用してしまったのだろうか。

一つの理由として、こうした犯罪は卑劣な犯罪であるにもかかわらず、証拠が少ないことが挙げられる。
殺人なら死体がある。傷害なら病院に行けば診断書が残る。被害の直後ならば、現場の状況が残っている。
だが、レイプは残らない場合が多い。また、事件があってから長時間が経ってしまうと現場の状況も変わってしまう。

しかも、レイプの被害者は心の整理をつけられず、被害から長期間経ってから被害を申告することもある。
そうすると、例え真犯人が実際にレイプをしていたとしても、証拠はなくなってしまうのである。

それでも真犯人を処罰しようとすると、被害者の証言だけで立証するしかなくなる。
しかも、被害に遭った時はパニックになっている被害者もいる。例え本当のことを証言していても、記憶はだんだん薄れていく。
それで少しでも食い違っているから信用できない、としてしまうと、重大な犯罪を行った犯人には逃げられてしまう。

そうなると、被害者は、犯人を処罰してもらえない。それどころか、時には
「お前、犯罪に遭ったってウソついたの?近寄んなよ。俺も犯罪者にされちまう。」
と、本当のことを話したのに嘘つきという風評が立ち、二次被害を受けてしまう可能性もある。


疑わしきは罰せずという考え方は、無実の被告人を救うためには大切な考え方だが、反面犯罪被害者にとって非常に残酷な考え方だ。
徹底的に貫き通すならば、多くの傷つく被害者を生み、多くの真犯人を取り逃がす。
そうすると、明らかに嘘ですね、ということにでもならない限り、被害者の証言は信用する、という考え方を使いたくなってしまうのである。

その結果として、疑わしきは罰せずという考え方は骨抜きになってしまうのだ。
この事件の、特に第一審判決の考え方は、確かに冤罪の原因となった酷すぎるものではあった。

だが、そんなひどい考え方を判決が使ってしまったのは、被害者がかわいそうだ、犯人を許せないという自然な感情に由来している。
裁判官も、決して常日頃から被告人の言い分に耳を全く貸さず検察のいいなりに有罪とだけ言っていた訳ではないだろう。
特にこの事件の裁判長は、検察の言いなりにならずいい加減な主張に対しては検察であれ弁護であれ厳しい姿勢で臨んでおり、ときには検察の求刑が甘いと言って斬り捨てることもあったが、被告人に対して一個人の立場で一声掛けて更生のきっかけを与えたエピソードも多く、弁護士からの評価も決して低くはなかったと言われている。

しかし、それでも訳がない論法で冤罪を生むことが許されるわけではない。
裁判官に無実の人を陥れようという悪意があった訳ではない。
犯罪者を許せない、被害者を助けたい、そんな自然な感情が、裁判官の思考を歪ませてしまう。
むしろ、悪意がないからこそ、危険なのである。





 そして、Xさんの冤罪の発覚は、実は幸運なことでもあった。

 もし産婦人科医がカルテを廃棄し、処女膜が残っているという証拠がなくなっていたら?*3
 CやDが偽証罪で責任追及されることを恐れ、墓の中まで秘密を持って行ってしまったら?
 弁護士が再審の依頼を引き受けてくれなかったら?*4

 Xさんの冤罪は永遠に明らかにならなかったことだろう。

 そして、このことは、この件以外にも被害者の証言に頼って立証されてきた犯罪の中に、実は冤罪だったにもかかわらず、訳がない論法で有罪と扱われてしまっている件が多数紛れ込んでいる可能性があるということでもある。

 裁判員になったwiki篭もりの皆さんは、くれぐれも訳がない論法にご用心・・・



 追記・修正するwiki篭もりが居ない訳がない!!

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