忍偵ヌンチャック

登録日:2017/06/29 Thu 20:58:12
更新日:2024/09/05 Thu 01:11:34
所要時間:約 14 分で読めます




アメリカで生まれて日本語訳がツイッターアーより発信され、くうぜんのニンジゃブームを巻き起こしたサイバーパンクニンジャ小説、ニンジャスレイヤーをご存じの方は多いだろう。
そしてまた、ニコニコ動画を中心とした動画サイトで配信されたTrigger製の公式アニメ作品、ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨンも記憶に新しいところである。

しかしフロムアニメイシヨンが放映された2015年よりもはるか昔の1988年、日本において既にニンジャスレイヤーの映像作品が放映されていたことをご存じの方は少ないのではなかろうか?

そう、かの87年版ミュータントタートルズの影でこっそりと放映されていた伝説の輸入アニメ『忍偵ヌンチャック』である。



【忍偵ヌンチャックの特徴】

(原語版 ”Ninja Slayer”)

原型はアメリカで1970年代に放映された長寿アニメカートゥーン”Ninja Slayer”
スーパーマンバットマンのゴールデンコンビ「ワールド・ファイネスト」を主役としたカートゥーン”Super Friends”(日本語未訳)とほぼ同年代である。

“Ninja Slayer”は大筋としては原作のストーリーに沿っているが、当時のアニメカートゥーンらしく、
・ヌンチャック(ニンジャスレイヤー)がホームである探偵事務所を持ち、事件が起きるとサイドキック(相棒)と共に出動する
・敵ニンジャが倒されても爆発四散して死ぬ描写がない*1
・メンポの「忍」「殺」が、(アメリカの)子供にもわかりやすく「N(Ninja)」「S(Slayer)」に
などの子供向けに放送コード対応アレンジがかなり施されている。
周知の通り、ニンジャスレイヤーの原作小説はシリアスな展開過剰なゴア表現マネー・バイオレンス・前後など、後のウォッチメン以上のアダルト向け作品であり、これはやむを得ないところだろう。

よく日本のファンは「ヌンチャックのカオスさ」の話題として
「毎回犯罪現場まで出張ってくるラオモト」
「唐突に互いに椅子に座って説明を始める登場人物たち」
「警察が49サインを空に映してヌンチャックに連絡」
などを上げがちだが、最後の49課サイン設定*2以外は原語版カートゥーンの時点でのアレンジである。要するに原語版からして大概ってことである。


(翻訳版「忍偵ヌンチャック」)

輸入・放映はかの「宇宙忍者ゴームズ」より10年以上後だが、90年代前半の本格的なアメコミブーム以前であることには変わりなく、わかりやすさ優先で変わり果てた翻訳声優のアドリブなどはゴームズに勝るとも劣らないカオスっぷり。

しかし「忍偵」最大の特徴といえば、超展開などという表現ですら生ぬるいその超絶カオス編集にあるだろう。編集と言うかほとんどMAD作成の域である。

まず根本的問題として、原語版の全1028回を全256回に無理やり圧縮し完結させているため、カットシーン流用シーン入れ替え(台詞による)オリジナル展開などが呼吸するかのように多用されているという点がある。
この超編集と前述した超翻訳超設定変更が合わさることで、全体的なストーリーの流れは完全に破綻。
毎回のように破綻しかける整合性を、毎回必死に取り繕いながら全256話を走り抜けたその自転車操業っぷりは最早伝説の域。

その集大成とも言える最終回、つまり原語版の244話、553話、722話を次元連結して作った曰くつきのエピソードであり今でも動画サイトなどに上げられるほどの伝説回だが、実際他の話も負けず劣らずである。

総じて言えば
・「ニンジャ」でなくて「忍者」。超人の一種である設定、ニンジャソウルなどの設定も全てカット
・原語版のキャラクター名を「日本人にもなじみ深い名前」に変更
・子供にわかりにくい、あるいは日本的に問題がある設定などを大幅変更
・方言混じりの口調や唐突なオカマ設定など、現場レベルでのアドリブによる極端なキャラ付け
・設定、あるいは話のツギハギによって生まれた映像との矛盾を、ナレーションや声優のアドリブ、さらなるツギハギでごまかす
・権利上の問題で原語版そのまんまの主題歌(Ninjya Slayer !を連呼する)
・やたらとフランクなナレーション
「ゴーウ、ランガー!」
など、当時の翻訳アニメ独特のカオスっぷりを役満状態で詰め込んだ、素敵なアニメシリーズになっていると言える。



【登場人物】


ヌンチャック探偵事務所


「ヌンチャック(フジキド・ケンジ)」(原語版:Ninja Slayer / Fujikido Kenji

(オープニングBGM中に出てくるテロップ)
In the cyberpunk city Neo-Saitama,
Fujikido lost his family in the ninja war and suddenly got the mighty ninja soul!

(上記テロップの日本語訳版)
サイバーパンク都市ネオサイタマに暮らすフジキドは、ニンジャ抗争の中で妻子を失うが、
突如憑依した強大なるニンジャソウルによってニンジャスレイヤーとなった!

(同、日本語ナレーション)
ネオサイタマシティに正義の探偵事務所あり。忍偵ヌンチャック!
ポジトロンマキモノに触れて強力な忍者パワーを身につけたフジキドことヌンチャックは、武田信玄の力、徳川家康の辛抱強さ、羽柴秀吉の策略、上杉謙信の奥ゆかしさ、織田信長のイノベーティブ性で、今日も闇組織ヤックザーの暗躍から市民を守るのだ!

というずのう指数が下がる設定をもらってしまった主人公。マスクの「N」「S」ってヌンチャックとどういう関係があるんですかね?
「妻子をニンジャ抗争で殺されたサラリマン」「邪悪なニンジャソウル、ナラク・ニンジャが憑依」「復讐の為にニンジャをスレイ」などといった根幹設定がごっそりオミットされてしまい、最早キャラがネギトロめいて原型をとどめていない。
しかし原語版ではこれらの設定はちゃんと残っているので、時々行動(絵)と言動(声)の間に致命的な齟齬が出る。
フジキドが写真立てを持ってシリアスな顔で口を動かしているが、口パクだけで何もしゃべってなかったりとか、ナラク・ニンジャとの合一状態を「彼はピンチに陥るとすごい力が出るのだ!」とナレーションで済ませられたりとか*3
「忍偵」の脚本の破綻っぷりはかなりの部分この人の設定変更に由来するといっても過言ではないが、クソ真面目で若干天然気味の性格や、とてつもないカラテなどといった点では原作通り。



「ナンシー・リー」(原語版:Nancy Lee
ナレーションにボイン記者」呼ばわりされる事件記者。
「忍偵」では「貧しい身の上のせいで金にがめつく、特ダネで1発当てるためなら何でもやる」という謎設定が追加され、フジキドに倫理観のなさについてしばしば怒られるなどヒロインカラテが猛烈に弱体化した

「ナンシーが特ダネを探して事務所にくる」

「忍者事件が発生して49課サインが空に」

「ヌンチャックが出動して事件解決」

「ナンシーが49課本部長を呼んで後始末」

『ゴーウ、ランガー!』と叫んでシルバーボーイとハイタッチ」

というのがヌンチャックの黄金パターン。
ストーリー展開上の解説役、説明役としては非常に優秀で、「全部調べておいたの」という決め台詞と共に、ツギハギで整合性が破綻しかけている事態をわかりやすく視聴者に説明してくれる。



「シルバーボーイ(カタオキ)」(原語版:Silver Key / Kataoki)
ヌンチャックのサイドキック。サイコ攻撃全般を行うというだけでは絵的に地味すぎると思われたのか、原語版の時点で「空を飛べる」という謎設定が追加されている。
某ファイアーボーイ同様どう見ても成人男性だが、こちらも同じく一番の下っ端ポジションなので、そういう点での「ボーイ」っぽさはある。
しかし口調が完全に子供(ヌンチャックのことは「ヌンチャックおじさん」と呼ぶ)なのは流石に苦しいか。

「忍偵」では「サイコ攻撃」という言葉がかなり拡大解釈されており、ビガビガー!のエフェクトと共にだいたいのこと(主に破綻しかかったストーリー)を強引に解決してしまう便利な男。
ちなみに原語版での初登場回が丸っとカットされているため「唐突にヌンチャック探偵事務所に現れた住み込みのバイト」という設定になっている。



「ワンチャック」(原語版:Strider)
原作小説では数えるほどしか登場しないキャラだが、マスコット枠としてレギュラーの座を射止めた。ヌンチャック探偵事務所の庭の犬小屋に常駐している。

原語版では「ニンジャドッグであり、同じニンジャとだけ会話ができる」という設定なのだが、ニンジャ周りの設定が丸ごとカットされている「忍偵」では、その辺の設定が非常に適当。
よってあるシーンでは一般人に対しても「いやーまったく今回も困ったワン!」などと普通に会話していたり、別のシーンでは「ワンワン」としか喋れなかったりと、設定が迷走気味

戦闘時は亜光速で敵に体当たりする技をつかって戦うが、その嗅覚を活かしてヌンチャックを説明いらずで敵の下に案内する役としても重要。



闇組織ヤックザー

  • 原語版ではSoukai-Syndicateだが、翻訳時にわかりやすさ重点で改変された。まあ意味はだいたい一緒なので、「忍偵」の超訳の中では割とソフトな方である。

「ラオモト・カン」(原語版:Laomoto Khan

闇組織ヤックザーのボスであり、本作のメインヴィラン。通称ラオやん。サワキちゃんめいている。
率いる組織の名前も変わっており、また口調もかなりコミカル*4になっているが、跡形もないほどにいじられたヌンチャックに比べれば比較的原語版、そして原作小説に近いキャラ

やたらと最前線(犯罪現場)に出張ってきて陣頭指揮を取ることにしばしばツッコミがはいるが、これは原語版の時点で存在する子供向けアレンジであり、「忍偵」の超設定による産物ではない。
というかシュレッダーにせよ悪魔博士にせよ、当時の子供向けカートゥーンアニメのヴィランはみんなこんな感じである。

ただしラオやんの場合、銀行強盗などの現場に出てきても腕組みをして見ているだけで部下任せにすることが多く、そのあたりは原作のラオモトの雰囲気を微妙に反映している。
カラテは原作同様極めて強く、いざ自分で戦闘することになるとヌンチャックも簡単にぶっ飛ばされてしまう。



「ダークサムライ」(原語版:Dark Ninja
ラオモト・カンの側近。その側近らしい立ち位置や、フルフェイスメンポを被り、刀を武器にするビジュアルからサムライに変更されてしまった模様。
編集者の魔の手を逃れ原語版の雰囲気を色濃く残したクール&有能&忠実な男で、ぞんざいな上に濃すぎるキャラ付けをされたヤックザーの他キャラに比べカッコよさがけた違い。

原語版でも「忍偵」でも作中有数の人気ヴィランだが、原語版では一時期なぜか*5キャラが迷走。
“Kirisute!””Fujiyama!”などといった謎のシャウトと共に、ナンシー+シルバーボーイのようなハイタッチを仲間と行うキャラにされてしまったが、不評だったのか3話ほどでなかったことにされた。
そして「忍偵」でも普段の翻訳はぞんざいな癖になぜかこのキャラ変更が丁寧に拾われており、3話ほどの間ござる口調にされたことがある。



「ラオモト・チバ」(原語版:Laomoto Chiba)
ラオモト・カンの息子。
原作小説のように「オイランを侍らせ、高級葉巻をくゆらせる10歳前後の少年」では流石にアウトなため、原語版の時点で「父に遊んでとねだる」「ビデオゲームで遊ぶ」などと子供らしい子供へと変更されている。
「忍偵」ではなんと最終回の〆を行う役に抜擢されており、なぜか「ナンシーと結婚したフジキドの養子になってめでたしめでたし」、という超展開でエンドタイトルにつなげられている。



「マジュツーシー」(原語版:Warlock)
ラオモト・カンの側近。原語版では自力で動けない程のガリガリ体型で、乗り物(多脚メカやモータードクロ)に乗って移動するというアレンジが加えられた。
「忍偵」では上司のラオモトに対してタメ口で「ラオやん」呼ばわりするなど、どう考えても某クランゲ氏を意識したとしか思えない設定変更が施されている。

さらに雑な方言(エセ関西弁というか名古屋弁というか)で喋る上、かなり深刻なニューリーダー病(これは原語版の時点でのアレンジ)まで患っているという有様。
ようするに、「クランゲ+悪魔博士+スタースクリーム」という胸焼けするほどに濃厚なキャラになり果てている。

能力的にはシルバーボーイ同様、「サイコ攻撃」の幅がやたらと拡張されている上、白や虹色のビームまで発射するなど大きく強化されている。
「ワイが一年かけてインドで編み出した魔術の恐ろしさ云々」を決め台詞めいて連呼するが、原語版には無論そのような記述は全くない。インドナンデ?



「ビッグシュリケン」(原語版:Huge Shuriken
ヤックザーの戦士。"Huge”は子供にはなじみにの無い単語ということで、わかりやすく「ビッグ」に変更された。
しかし名前を除けばダークサムライ同様、比較的言語版に忠実なキャラ。
ちなみに原語版では路線変更(死亡描写カット)直前の39話でフジキドに殺された、「忍偵」最後の死亡者でもある。
後に原作同様サイボーグ化して復活するが、メカフォーマー(原語版:Bisector)という何かを彷彿とさせる名前がつけられた。まあ、おおらかな時代だったし……



「デッカイモン」(原語版:Earthquake
余りにも安直な名を与えられてしまったヤックザーの戦士。
またその見た目から、「忍偵」では「『デッカイモーン!』としか喋れない脳筋ゴリラ」というさらに安直な設定を加えられてしまった。
しかしそんな適当な設定で出してしまった後で、原語版のEarthquakeは「見た目に反して知的で狡猾な策謀家で、交渉や作戦会議などでの発言シーンも多い」という真逆のキャラであることが発覚。
窮余の策として、「バナナが大好き」という設定がさらに追加され、数ある会話シーンではひたすらバナナについて語り続けることになった。

結果、絵的にシリアスなシーンでもひたすら無関係なバナナトークを続けるという、笑いを通り越して若干サイコが入ったキャラになってしまった。
「死別した相棒ビッグシュリケンの写真を手に持ち回想を始めるが、喋っているのはバナナの事だけ」という冷酷非道なシーンは伝説。



「タコカイト」(原語版:Hell kite
ヘル要素が完全に消滅し「少年ボウイ」めいた名前になってしまったが、キャラそのものは原語版と大差なく、飛行能力を活かしたパシリとして便利使いされている。
ちなみに「忍偵」ではなぜかオネエ口調のキャラになっているが、これはプロデューサーと声優が「イマイチキャラが薄くね?」ということで相談した結果らしい。現場で。だからといってなぜオネエに……
タコの女ニンジャとニコイチされたとか言うわけではない。多分。



次元パイレーツ

  • 原語版ではZaibatsu Shadow Guild。つまり第二部の敵組織であるザイバツだが、なぜかかすりもしない名前になっている。
    というのも「忍偵」ではあくまで敵組織はヤックザーに絞る方針であり、ザイバツは「ヌンチャックとヤックザーの戦いに、電子ノイズと共に乱入してくる謎の第3勢力」という存在に留められている。
    よってその組織の目的、あるいは出現の方法などは(収録エピソードカットにより)不明のままであり、「次元の狭間から現れる謎の戦闘組織」ということで海賊にされたということらしい。



サバイバル道場

  • 原語版での名前はSurvivor Dojo。ニンジャ周りの設定があいまいな影響で、単に「ネオサイタマの北にあるタマチャン・ジャングルで自給自足キャンプ生活を行っている集団」になってしまった。

「モッチャマン軍曹」(原語版:Forest Sawatari)
サバイバル道場のリーダー。「忍偵」ではヌンチャックばりに設定改変が施されており、名前といいキャラとい、道場のリーダーである点を除けばほとんど原型をとどめていない
具体的には、彼のアイデンティティである「ナム妄想」「狂気」の2大個性が完全に抹消されており、特に個性のない陰気なキャラになってしまっている。
原語版からして猛烈に頭が悪く、しょっちゅうヤックザー(特にタコカイト)の口車に乗せられて利用されてしまうという立ち位置だが、原作小説に比べると根の善良さが強調されており、だまされたことに気づくとちゃんと反省するシーンもある。



「カエルマン」(原語版:Frogman)
サバイバル道場の部下その1。3秒で考えられたようなぞんざい直訳ネームがニューロンに悪い。



「スイギンマン」(原語版:Disturbed)
サバイバル道場の部下その2。直訳ではないという点でカエルマンよりやや手が込んではいるが、ひねりがないという点では似たような物か。



「武蔵小次郎」(原語版:Notorious)
サバイバル道場の部下その3。この名前は三段落ちにするためだけに考えられたのではなかろうかという気がしてならない。





「ハーイ、ヌンチャック=サン。全然追記:修正無くて今月ヤバいの、何か忍者事件起きてない?」
「黙れナンシー=サン。それだけ記事が完成に近づいたということだ」
「そうね…その通りだわ。」













































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最終更新:2024年09月05日 01:11

*1 ただしごく初期、40話以前は普通に爆発四散していた

*2 原語版では49課サインはあくまで「49課が使っているサーチライト」に過ぎず、ニンジャスレイヤーはそれに勝手に便乗してニンジャを見つけ、殺しに行く設定

*3 “Power of Naraku Ninja Soooooul!”という歌詞の専用BGMが流れているのだが

*4 コミカルすぎて、ヴィランらしい行動との間に酷いギャップが生まれているが

*5 多分影が薄かったことへのテコ入れか、あるいはヌンチャック側の”Gouranga!”を意識した設定か