登録日:2017/09/01 Fri 14:43:54
更新日:2025/02/12 Wed 20:24:29
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キーワード能力の「発掘/Dredge」を用いたデッキである。
発掘の英語名がそのままデッキ名になっている。
Golgari Grave-Troll / ゴルガリの墓トロール (4)(緑)
クリーチャー — トロール(Troll) スケルトン(Skeleton)
ゴルガリの墓トロールは、あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚につき、その上に+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出る。
(1),ゴルガリの墓トロールから+1/+1カウンターを1個取り除く:ゴルガリの墓トロールを再生する。
発掘6(あなたがカードを引く場合、代わりにあなたはあなたのライブラリーのカードを上からちょうど6枚、あなたの墓地に置いてもよい。そうした場合、あなたの墓地にあるこのカードをあなたの手札に戻す。そうしなかった場合、カードを1枚引く。)
0/0
Bazaar of Baghdad
土地
(T):カードを2枚引き、その後カードを3枚捨てる。
Bridge from Below / 黄泉からの橋 (黒)(黒)(黒)
エンチャント
トークンでないクリーチャーが1体戦場からあなたの墓地に置かれるたび、黄泉からの橋があなたの墓地にある場合、黒の2/2のゾンビ(Zombie)・クリーチャー・トークンを1体生成する。
クリーチャーが戦場から対戦相手1人の墓地に置かれたとき、黄泉からの橋があなたの墓地にある場合、黄泉からの橋を追放する。
Bloodghast / 恐血鬼 (黒)(黒)
クリーチャー —
吸血鬼(Vampire) スピリット(Spirit)
恐血鬼ではブロックできない。
恐血鬼は、対戦相手1人のライフが10点以下であるかぎり速攻を持つ。
上陸 ― 土地が1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび、
あなたはあなたの墓地にある恐血鬼を戦場に戻してもよい。
2/1
Dread Return / 戦慄の復活 (2)(黒)(黒)
ソーサリー
あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それを戦場に戻す。
フラッシュバック ― クリーチャーを3体生け贄に捧げる。(あなたはあなたの墓地にあるこのカードを、そのフラッシュバック・コストで唱えてもよい。その後それを追放する。)
はじめに
デッキ名にもなっている「発掘(Dredge)」とは、ざっくり言うと「次のドローを諦めてライブラリーから既定の枚数墓地に送ることで、墓地のこのカードを手札に加えられる」という能力。
上述の《ゴルガリの墓トロール》の場合、「このカードが墓地にある場合、ライブラリーを6枚墓地に送ることで、次のドローを墓地のこのカードにできる」って感じ。
設定的には、発掘能力を持つギルド「ゴルガリ団」の「死とは生命のサイクルの一部である。死体は新しい生命を産む」という思想を体現したものとされる。
発掘以外にも墓地利用に長けており、墓地に送ったカードも他のゴルガリ関連のカードを用いれば再利用できる。素朴なゴルガリファンデッキを組んでもあまり無駄がない。
ゲーム的には「工夫せずとも再利用が可能なカード」の一種であり、その中でもマナを使わずに再利用することに開発部が挑戦したもの。
実際、発掘の値が小さいカードは様々な環境において「簡単に再利用できるカード」として猛威を振るった。
発掘持ちのカードが欲しいときには発掘を選び、そうでなければ規定ドローを行う。つまり「墓地の発掘持ちの数だけ、ドローの選択肢が増える」という能力なのである。
ゆえに墓地利用を一切考えない素朴な用法でも、次のドローを選ぶことができるという点でかなり強い能力。
そしてその発掘能力で別の発掘持ちのカードが落ちてくれれば、ますます選択肢が増えていく。《タルモゴイフ》のように墓地のカードを参照するカードともシナジーがある。
この方法で強かったカードは《腐れ蔦の外套》(発掘3)、《暗黒破》(発掘1)、《悪ふざけ》(発掘1)など様々なものがある。
だが発掘の値が大きいカードは、墓地から再利用を見込んで採用するのではなく、超強力な墓地肥やし能力として使われることになった。
つまり、「ドローを『墓地をX枚肥やす』」という能力に読み替えて使われるのだ。
上述の《ゴルガリの墓トロール》の場合、「このカードが墓地にある場合、次のドローを「ライブラリーを6枚墓地に送る」にしてもよい。ぶっちゃけ手札に加わってほしくないけどルールなので仕方なく手札に加える」。
ぶっちゃけ規定ドローが「6枚墓地肥やしをしながら手札が1枚増える」になる時点でかなりアウト寄りのカードだが、これが先述した「カードを2枚引き、その後3枚捨てる」という能力を持つ土地《Bazaar of Baghdad》と組み合わされば、その動きは以下の通りになる。
手順1
カードを1枚引く。この1枚目のドローを《ゴルガリの墓トロール》の発掘6で置換し、「ライブラリーを6枚削り、《トロール》を手札に加える」にする。墓地が6枚肥える。
手順2
カードをもう1枚引く。もし手順1で2枚目の《トロール》がライブラリーから墓地に置いていた場合、そのトロールの発掘も置換できる。もちろんあらかじめ墓地に置かれていた他の発掘持ちを選ぶのもいい。墓地が6枚肥える。
手順3
手札からカードを3枚捨てる。2枚の《トロール》と、ついでに墓地にあった方が都合のいい手札を捨てる。墓地が3枚肥える。
土地を起動しただけで合計15枚墓地が肥える。そして発掘持ちが一度墓地に落ちたら、あとは強烈かつ妨害が難しい墓地肥やしエンジンが2枚目以降の発掘持ちを直接供給してくれる。
そして墓地が《トロール》1枚、土地が《Bazzar》1枚の状態からでもこれが起こりうる。さらにMTGには、墓地にあった方が都合のいいカードというのが何十種類も存在する。
つまり
毎ターン土地をタップしただけでほぼ15枚ドロー、もしくはそれ以上の成果をもたらす。 馬鹿もーん……!通るか……こんなもんっ……!無法だ……!
この「発掘」により高速で墓地を肥やしてアドバンテージを得て勝負を制するデッキが様々な環境に登場し、
デッキの核となるキーワード能力から「ドレッジ(Dredge)」と呼ぶようになった。
最近は「墓地は第二の手札」という揶揄が様々なカードゲームに存在するが、その究極の例がこの【ドレッジ】なのだ。
実際には《Bazzar》はヴィンテージ以外の環境で使用できないので通らないが、このゲームには代用品となるカードはいくらでもある。そもそもスタンダードで【ドレッジ】の片棒を担いでいたカードが《Bazzar》の調整版だったし。
デッキの動き
まずは典型的なヴィンテージ版ドレッジの動きを見てみよう。
説明を簡単にするため、デッキの内容としては古いのでそこはご愛敬。そもそも厳密な説明が欲しいならショップやブログの戦略解説でも読んだ方がいいし
あなたの手札は、《
Bazaar of Baghdad》(バザール)、《ゴルガリの墓トロール/Golgari Grave-Troll》2枚、《恐血鬼/Bloodghast》、《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》、島、沼の7枚であり、あなたは先攻であるとしよう。
第一ターン。
《Bazaar of Baghdad》を設置。
相手のエンドにバザールを起動。効果で2枚ドロー。引いてきたのは《黄泉からの橋/Bridge from Below》と《陰謀団式療法/Cabal Therapy》。
ここでトロール2枚と恐血鬼を捨てた。
第ニターン。
バザールがアンタップし、アップキープに効果発動。2枚ドローする際に発掘6によりライブラリーの上から12枚墓地に送ってトロール2枚を回収。
捨てるカードは先程引いた黄泉からの橋とトロール2枚。
ここで墓地に送った12枚の中に《ナルコメーバ/Narcomoeba》が1体入っていたため、これが効果で戦場に。
通常ドローで先程捨てたトロールの発掘。更に6枚落としてトロールを回収する。
第一メインで土地を置く。
すると効果で先程捨てた《恐血鬼》と、発掘で墓地に送った中に入っていた《恐血鬼》、合わせて2枚が戦場に。
島から青マナを出し、《命運縫い/Fatestitcher》を自身の効果で速攻付きでリアニメイト。その効果でバザールをアンタップ。ドローを発掘に置換し更に墓地を肥やして、トロールと《陰謀団式療法》を捨てる。
《ギタクシア派の調査》を2点ライフを払って発動。相手の手札を見た上で更に発掘する。
最終的に、30枚以上のカードを墓地に送り、場には《ナルコメーバ》2体、《恐血鬼》2体が存在する状態に。
そして陰謀団式療法をフラッシュバックして安全確保しつつ、黄泉からの橋の効果でトークンを出してクリーチャーを確保。
後は《戦慄の復活/Dread Return》をフラッシュバックしてフィニッシャーを釣り上げて終了である。
フィニッシャー候補は色々あるが《炎の血族の盲信者/Flame-Kin Zealot》で周りのクリーチャーに強化と速攻を与えて瞬殺というのが王道パターン。たまにトロールが出て来る事もある。
瞬殺に失敗してもクリーチャー対策の少ないヴィンテージでは処理不能な数のクリーチャーが出るのでターンをかけて殴り倒すこともある。
おそらくMTGを知らない人だと「なんかごちゃごちゃ書いてある……」という印象だろうが、要は墓地肥やしするにあたって唱えた呪文はわずか1枚(しかも発掘の起点にするだけで、本来の手札を覗く方が本命)のがポイント。
「発掘」により土地の能力と通常ドローだけで30枚近い墓地肥やしを可能にしているのである。
これはかなり理想的な動きだが、マナを一切使わずに2ターン目にほぼ勝負が決まるという、すさまじい制圧力と対処の難しさが【ドレッジ】の最大の特徴であり利点。
「マナをほぼ使わない」「後手有利」「通常のつばぜり合いを行わない」という、MTGというゲームの根幹すら成り立っていないゲームを作り出すその様は「ドレッジ・ザ・ギャザリング」と揶揄されるほど。
カードゲームでは「ドローしてから捨てるカードは、捨ててからドローするカードよりも強い」「コストとして捨てるカードは打ち消されたときのリスクを考えると弱い」という意見が非常に強く、特に遊戯王の《天使の施し》の話題に際しては非常によく使われる一般論である。
しかし発掘はこの一般論が完全に入れ替わっており、「コストとして捨てるカードは打ち消されても発掘持ちを墓地におけるので強い、ドローしてから捨てるカードは手札にある発掘持ちを置換できないので弱い」と言われることさえある。
同じゲームをプレイしているはずなのに、あらゆる常識が通用しないまったく別角度のデッキ。本来のデッキとはまったく違った角度でアップデートされていくこのデッキは、特に登場時の「ラヴニカ:ギルドの都~時のらせん」期のスタンダードとエクステンデッドで驚愕を持って受け入れられ、その後20年以上にわたってMTGの常識を塗り替えた。
デッキの弱点
言うまでもないが墓地に完全に依存しきっている性質上、墓地対策に非常に弱い。
対処されなければ上述の無法な動きができるというのは、裏を返せば対処をされると動きがおとなしくなってしまうということでもある。
特に「初手にあったらあらかじめ戦場に出た状態でゲームを開始する墓地対策」の《虚空の力線》は「0ターンキル」と揶揄されるレベルのえぐさ。その後もドレッジに対する安全弁を意識しているのか、墓地対策の性能は上がる一方。
ドレッジを使う際にはこの不当な対人メタレベルでえぐいレベルの墓地対策を迂回して勝たなければならず、ここがたいへんにキツい。
あと《Bazaar of Baghdad》を使うヴィンテージ版【ピッチドレッジ】は《不毛の大地/Wasteland》や《露天鉱床/Strip Mine》といった土地破壊にも弱い。
さらにマナ基盤が一切存在しない関係上追加マナを要求してくるカードにも弱く、土地であるため打ち消しが効かない《The Tabernacle at Pendrell Vale》なんかが置かれた日には憤死もの。
最近のカードだとピッチスペルと《虚ろな者》を封殺してくる《苛立たしいガラクタ/Vexing Bauble》もかなりきつい。
そのため、MTGには「ドレッジは2戦目からが本番」という言葉がある。1戦目は勝って当然なので、ガッチガチに対処してくる2戦目からが本番という意味。
ほぼすべてのデッキが、戦略が成り立たなくなるレベルでえぐい対処をしてくるので、これをどのようにかいくぐるかという工夫がとても重要になる。
デッキバレによりほぼ戦えなくなることを考慮し、サイド後にデッキを【
ベルチャー】などに鞍替えする構築パターンもある。
相手もそれを読むのだが、3戦目になだれ込んだ場合「ドレッジに戻したかアグレッシブ・サイドボーディングしたか」という読み合いが始まる。
毎回毎回毎回毎回うんざりするほど対策されるため、使用する際には本当に強い心が必要だ。
ぶっちゃけ対戦相手からすれば、対策しなかったら2ゲーム目以降も茶番になるので当然を超えた当然としか言いようがないのだ。そもそもドレッジ側の対処手段も豊富なので文句を言ってはいけない。
さらに少しでも暴れるとすぐに禁止カードが制定されてしまう。たとえば《ゴルガリの墓トロール》はモダンにおいて「禁止→禁止解除→禁止」という反復横跳びをした唯一のカードである。
2024年12月に禁止解除された《信仰なき物あさり》も、モダンのドレッジで大変に暴れたカードなのでもしかしたら同じ轍を踏むかもしれない。
そのため無法なデッキではあるが、「邪魔をされずに気持ちよく遊びたい」みたいな人にはまったく向いていない。
むしろヒソカやウボォーギンみたく、リベンジ野郎をつぶすことに悦楽を覚えるヒール気質の人にこそ向いている。
このデッキが好成績を収めるまで、MTGのサイドボードは「流行りのデッキを対処する」という素朴なものだった。
登場当初の【フリゴリッド】(後述)が彗星のように登場して華々しく優勝できたのは、当時墓地対策がまったく行われていなかったという事情もある。
この「墓地対策ができて初めて五分五分」というデッキ相性は、サイドボードの3~4枚が常に墓地対策で占められるという風潮を生むことになる。上述した「常識を塗り替えた」というのはこれで、どれだけ小さな大会でも強烈な墓地対策を入れておくという常識が生まれたのだ。
「この墓地対策、買ったはいいけど2ヶ月くらい使ってないよな。ってことは今日も多分当たらんだろう」と思って抜いた日に限ってドレッジに当たって、使う機会を逸したことにげんなりしたり。
余談となるが、一時期のレガシーはこれに加えて、同じく無法な動きをするコンボデッキ【ANT】の全盛期でもあり、ドレッジと同じく専用対処が必須の相手だった。
そのため「コンボ対策」「墓地対策」にそれぞれ3~4枚のカードを取られることを揶揄し「レガシーのサイドは7~8枚」というジョークがあったほど。
《死儀礼のシャーマン》の「必要悪」という評価は、ドレッジのように「存在すること自体が環境の自由度自体を狭めてしまう」特定のデッキに対して、死儀礼のような万能カードが圧をかけることで抑止してくれる側面もあるという、死儀礼使用者側からの反論である。
デッキの存在自体が、まったく別のカードの禁止改定論にまで及んでしまう。なんだか戦略兵器みたいな話じゃないか。
デッキの解説
ヴィンテージ版のデッキには、先述した発掘持ちカードと《Bazaar of Baghdad》、墓地から自動で蘇るクリーチャーが積まれる。
また、墓地とは直接関係ないが、バザールと相性が良い《虚ろな者/Hollow One》が登場して以降はこちらも積まれている。
そして、ヴィンテージのデッキにしては珍しく
パワー9がほとんど積まれない。恐血鬼の蘇生用に土地を積むことは多いが、極論を言えば
色マナの出る土地すら必要ない。
上に示したように、バザールさえあれば呪文を唱えずとも大量の墓地肥やしができるため、下手な呪文や置物は必要ないのである。
投入される土地も
デュアルランドである必要はなく、適当に有用な五色地形か、発掘持ち土地の《ダクムーアの回収場/Dakmor Salvage》辺りを入れておけば良い。
また、先述したように極論を言えば色マナの出る土地すら必要ないため、デッキ内の土地がバザールだけ(ヴィンテージ版)、土地がない(レガシー版。クリーチャーでもある《ドライアドの東屋/Dryad Arbor》は採用されるが、主に生け贄コストのためである。もちろんLEDもない)という変種のドレッジも存在し、これらは【Manaless Dredge】と呼ばれている。レガシー版はギタ調を失ったことで大打撃を受けたが…
さらに
《意志の力/Force of Will》・《精神的つまづき/Mental Misstep》といったマナを使わずに唱えられる、ピッチスペルの妨害カードを投入し、メイン・サイドともに一切のマナを不要とした【ピッチドレッジ】といったタイプも。
ただしバザールがないとほぼ回らない構築になっているため、バザールが初手に必須。
その為、「マリガンパウダー」こと《血清の粉末/Serum Powder》がほぼ積まれる。マリガンも限界まで行うのでデッキバレはしやすい。
逆に言えば、冗談抜きで「バザールさえあれば勝ち目がある」。先述した「15枚墓地肥やし」や「なんかいろいろやるブン回り」があるため。
しかしかつてのドレッジデッキにはある問題があった。
それは「
メインデッキではマナを使うことが一切なくても、サイド後にはマナが必要になる」という点。
上記の通りドレッジの基本構造部分はマナが不要であり、マナトラブルとは無縁である。
ところが下記の通り、墓地利用デッキである以上はサイドボーディング後には墓地対策を大量に入れられるのは目に見えている。
土地がしっかり入ってる場合なら軽量の置物破壊を入れればある程度対策ができるが、「マナをかけずに置物を破壊できる呪文」がほとんど存在しない以上、【ピッチドレッジ】では《意志の力》《精神的つまづき》で打ち消せないともはや手が打てない。特に
ゲーム開始時に場に出た状態で始めることができる《虚空の力線/Leyline of the Void》はどうやっても打ち消すことができない天敵である。
そのため、【Manaless Dredge】や【ピッチドレッジ】で完全に置物を対策するのであればサイド後に「土地+置物破壊呪文」を入れなければならないという構造的矛盾を抱えることに。
どのタイプにしろ、マナ不要なメインギミックに対して無駄になりやすい置物破壊・打ち消しやバザール以外の土地といった不純物を抱えないとメインで勝ててもサイド後も含めて勝ちきることが厳しく、魔境ヴィンテージでは意識こそされるが最上位アーキタイプとは言えない状況が続いていた。
しかし時は2019年6月。
モダンホライゾンで《活性の力/Force of Vigor》を入手。
相手のターン限定とは言え手札の緑のカードを追放するだけで置物を2枚も破壊できるこのカードはドレッジに革命を起こした。
特にこの恩恵を受けたのが元々《意志の力》や《精神的つまづき》などのピッチスペルを投入していた【ピッチドレッジ】。
サイドボード(場合によってはメインからも)にピッチスペルで置物を割れる《活性の力》と軽量クリーチャーを除去する《不快な群れ》を追加で投入することで、妨害をしながら自分は墓地からの高速大量展開を狙うという動きが可能に。《暴露/Unmask》や《悲嘆/Grief》といったピッチスペルの手札破壊、追加のピッチ打ち消しである《否定の力/Force of Negation》も入れることで他のデッキへの対応力が大幅に強化されることになり、非常に強力なデッキとなったのだ。
また、墓地を経由しない《虚ろな者》の存在により、墓地対策をされても軸をずらした攻めができる。ヴィンテージではクリーチャー対策が甘かったので普通にこれだけで殴り倒せることも多かった。
さらに翌月にマリガンルールの変更によりバザールを探すのが楽になり更に強化。
大いに暴れた結果、《ゴルガリの墓トロール》とついでに《精神的つまづき》が制限カードとなってしまった。
しかしその後も強力なデッキとしてトップメタの1角を占める活躍をしている。
現在の【ピッチドレッジ】は、上述した《The Tabernacle at Pendrell Vale》を置かれると何もできなくなるという弱点を埋めるため、《不毛の大地/Wasteland》と《露天鉱床/Strip Mine》を合わせて4、5枚入れる事も多いようだ。
ヴィンテージにおいてはバザール以外の高額カードが必要ないことから
貧乏デッキ扱い。
1枚30万前後の土地が4枚必須なデッキが本当に貧乏なのかは別にして。
相対的な話というか、パワー9の値段の高さを揶揄するジョークである。そもそも今だとMoxシリーズの方が安いこともあるし。
レガシー版はバザールが使えないため、青や赤のルーター呪文を代替に用いる。
ヴィンテージと違って《ライオンの瞳のダイアモンド/Lion's Eye Diamond》が無制限なので、発掘の起点兼マナ加速手段としてほぼ確実に4枚積まれる。
その為、バザールに頼り切りなヴィンテージ版とはクリーチャー以外の構築がだいぶ違い、その構成上レガシー版は1ターンキルも起こりうる。
また、レガシー版(【Manaless Dredge】ではないタイプ)は土地も普通に採用するためあまり貧乏デッキ扱いはされない。デュアルランド無しで組むことが可能なのはヴィンテージ版と同じなのでかなり安くすることも出来るが。
レガシー版は特に能動的に手札を捨てにくい【Manaless Dredge】において、「後手取ってノーマリガンで1ターン目に何もせずにターンエンド、手札調整で発掘持ちなどを捨てる」とかいう意味不明な行為をする場合がある。
「じゃんけん勝って意気揚々と後手取ったらドレッジ」と言われる。
モダンのドレッジは《戦慄の復活/Dread Return》がフォーマット制定当初から禁止カードに指定されていることで、下環境で多用される安直なリアニメイト戦略に頼ることができなくなった。
このため墓地を利用した普通のビートダウンのような動きをしており、イニストラードを覆う影期のスタンダードに存在したゾンビデッキの延長線と考えれば良い。そのため《復讐蔦/Vengevine》などが追加で入る場合もあり、その場合は【ブリッジ・ヴァイン】と呼ばれる場合もある。
当初《ゴルガリの墓トロール/Golgari Grave-Troll》が禁止指定だったため影も形もなく、これが解禁されてからも《戦慄の復活/Dread Return》は禁止のままだったため、しばらくは放置されていた。
イニストラードを覆う影、カラデシュとドレッジに噛み合うカードが多数登場、一気に輝いた時期があったのだが、あまりにもやんちゃしすぎて《ゴルガリの墓トロール/Golgari Grave-Troll》の再禁止指定というオチになった。
その後一時はそれなりの強いデッキ程度であったが、まずは「ラヴニカのギルド」で《這い寄る恐怖/Creeping Chill》を入手して環境に登場するも、同時期に《弧光の
フェニックス/Arclight Phoenix》を中心に据えたデッキが後から登場するとその影に隠れることに。
更にその後、モダンホライゾンで《甦る死滅都市、ホガーク/Hogaak, Arisen Necropolis》が登場したことでこれを取り入れた【ホガーク・ヴァイン】と呼ばれる派生デッキが登場。
モダンのドレッジでそれまで起き得なかった瞬殺すらできてしまうなど恐ろしい爆発力で暴れ回ったため、《黄泉からの橋/Bridge from Below》も禁止リスト入り。
《黄泉からの橋》自体は純正ドレッジでは使われていなかったのでこの時点では被害はなく、どちらかというと「ドレッジ使うなら同じ墓地利用デッキでより強いホガーク使うわ」となってしまったことの方が痛かった。
その後ホガークも暴れに暴れた結果禁止指定されるものの、同時に《信仰無き物あさり/Faithless Looting》も禁止指定。ドレッジも大きな被害を受けてしまった。自身や《弧光のフェニックス》デッキも使っており、長い間墓地利用デッキが幅を利かせ過ぎていたのでとばっちりでもない。
その後は《アゴナスの雄牛/Ox of Agonas》や《異世界の凝視/Otherworldly Gaze》といった新戦力の登場に加え、《セファリッドの円形競技場/Cephalid Coliseum》が再録されモダンリーガルになるなど強化に恵まれ、引き続き存在感を示している。さらに《信仰無き物あさり》が解禁されたことでどう変化するか目が離せない状況である。
墓地対策を怠ったり大雑把な墓地対策で済ませているプレイヤーが多くなると現れて、油断した所を狩るという立ち位置のようだ。
「しっかり対策すればそこそこ勝てるが、意識が下がっていると何もできずに殺される」というこのデッキは「モダンで墓地対策は必須」という言葉を思い出させてくれる。
余談
動きがかなり独特なのだが、実際の対戦風景もかなり独特。
先に「墓地は第二の手札の究極形」という趣旨のことを述べたが、その性質上墓地を通常のように積み重ねて置くと不便である。
そのため了解を取って、墓地に落ちたカードを卓上にずらずらと並べ、そこからカードを使っていくという方法になりやすい。
こうすればプレイ感がよくなり、対戦相手もカードの把握をしやすくなり、不正も起こりにくいのでトラブル防止にもつながると一石三鳥。
実際「チャイニーズポーカー」の場札だとか「
鷲巣麻雀」の手牌みたいになるため、そういう意味でも本当に「第二の手札」になる。
ちなみにギャラリーがこれを見るとだいたい対戦相手に同情する。
同じギミックを使ったデッキは他環境にも存在するが、スタンダード版は【ナルコブリッジ】、エクステンデッド版は【フリゴリッド】と呼ばれることが多かった。エターナルとモダンについては当初から【ドレッジ】呼びが多い。
ただ、
同じデッキを指しているにもかかわらず呼び方が複数あるというのはあまり好ましいものではなく、現在では「ドレッジ」一択。ナルコブリッジもフリゴリッドも歴史を解説する記事くらいでしか見ることはないし、その場合でも「ドレッジ」と称されることが多い。そもそも今のモダンだとブリッジが禁止だから「ナルコブリッジ」って呼べないし。
ただ、この「フリゴリッド」という名前が示す通り、当時は本当に彗星のように登場し、開発者の慧眼をたたえざるを得ないほどに華々しい地雷デッキだったのだ。
本家【ドレッジ】に複数の名称がある一方、「発掘」能力が存在しないスタンダードなどで「○○ドレッジ」あるいは単に「ドレッジ」という俗称がついたデッキがたまに登場する。
理由は墓地を肥やして、そこを経由した動きをする動きがドレッジに似ているから。
たとえばゼンディカー時代のスタンダードでは《アガディームの墓所》というカードを軸にして「蘇生」というキーワード能力を用いる墓地利用デッキがあり、これはキーパーツから【カニ蘇生】と呼ばれていた。しかしSCZの生みの親の伊藤敦氏をはじめ、これを【アガディームドレッジ】と呼ぶ人々もいた。
パイオニアでは他環境・他時代の【ドレッジ】で使われたカードを、「発掘」なしの環境でも使うという眼目で作られたデッキが【ドレッジ】と呼ばれてすっかり定着している。
つまり「ドレッジ向けに作られたカードをドレッジなしで使ってやろう」というものなので、その名前の由来はちょっと複雑だ。
同様の例として、「ストーム」と書いてあるカードを1枚も使ってないのに、動きはほぼストームデッキのそれなので【逆説ストーム】と名付けられたデッキもある(カラデシュ期のスタンダード)。
これは初出であるスタンダード版の話であって、他フォーマット版の【逆説ストーム】はちゃんとストームと書いてあるカードを使うという辺りも【ドレッジ】同様である。
MTGをプレイしていない人にはなんだかよく分からない話だろうが、MTGにはそういう「名が体を表していない」デッキ名がかなり多い。
純粋な用語としては【ストンピィ】【親和】、色の俗称としては【ボロス】【ジャンド】【ジェスカイ】などが該当する。
こういう俗称は気取った印象を与えてゲームへの敷居を非常に上げてしまうため、MTG以外のカードゲームでは公式の記事がさっさと取り上げて、キーパーツの名前を並べたシンプルで親しみやすいデッキ名をつけることが多い。カードゲーマーはたまに【ホワイト・トラッシュ】とか【青ゴミ】のように、使用者が気分を害してゲームをやめかねないほどひどい名前をつけるので、そういうものが定着する前に芽を摘んでしまおうという目論見もある。
しかしMTGはその辺放任主義的なゲームなので、変なデッキ名が未だに自由につけられるのだ。
そもそも俗称やデッキ名だってその大半は気取っているわけじゃなく、「名が体を表しているデッキが横文字だらけでピンと来ない」「似たような名前のカードに引っ張られるのを避けたい」というところから出てきているネーミングなので。
たとえば【SUPER CRAZY ZOO】は現在で言うと【シャドウ(デスシャドウ)】と呼ばれるデッキ名になり、【ZOO】とは似ても似つかない動きをするが、同時に他のシャドウともまったく異なる狂った動きをするので固有の名前があると分かりやすいのでZOOの名を冠したまま呼ばれ続けた。
カード名なら《ラフィーンの塔》なんて呼ばれてもピンとこないので「エスパーのトライオーム」と呼んだり。
パイオニアのドレッジも、ナルコブリッジみたくキーパーツの名前を取って「ゲイズチル」なんて呼んでもピンと来ないので「ドレッジ」なのだ。
近年では様々なゲームが「墓地は第二の手札」とされるほどに煮詰まっているが、一度MTGのドレッジを見てみよう。
冗談でも何でもなく第二の手札であり、本来の手札がほぼ腐りきって文字通りの墓地になっていることすら珍しくない。
読み合いもなにもあったもんじゃない暴力的なリソースゲーをもたらす邪悪なデッキ。
それを他のゲームなら「こんな対策はいくらなんでも理不尽すぎる」「ここまでえぐい相性差を生じさせるゲームって楽しいのか?」とドン引きするレベルのえげつない対処カードで無力化。
その無力化カードをかいくぐりながら涼しい顔でぶち壊して勝ちをもぎ取る力強さ。
他のゲームや若い世代なら喧嘩になりそうな、きつい応酬を認めてくれる懐の深さ。これこそMTGの醍醐味であり、ドレッジの持ち味なのだ。
物を商う者もあれば、秘密を商う者もある。
私が要望するのは、知識を書き連ねたいへ魂がもたらす、追記・修正という名のありふれた暇つぶしだ。
- なおレガシーはLEDから殺せるため1キルはそれなりに可能 -- 名無しさん (2017-09-01 16:54:39)
- 墓地利用系の代名詞みたいになってるよね。リミテッドやスタンダードでも発掘カードないのに「○○ドレッジ」って言うことあるし。 -- 名無しさん (2017-09-01 20:04:18)
- マナレスドレッジは1ゲーム取った後は完全にデッキバレするからサイドでかなり変えないといけないんだっけ -- 名無しさん (2017-09-02 01:37:08)
- モダンのドレッジは…… -- 名無しさん (2017-09-02 18:53:52)
- ボロスジャンドジェスカイで名が体を成してないデッキてどういうのだろう この名前が付いてて名前と色がまったく違うデッキはほぼ見ない気がする -- 名無しさん (2024-12-21 16:43:22)
- ↑色の話じゃなくて、例えばボロスカラーだけどボロス軍関係のカードが一切入ってないってこと。 -- 名無しさん (2024-12-23 09:42:44)
最終更新:2025年02月12日 20:24