三式中戦車 チヌ

登録日:2021/03/29 Mon 10:07:11
更新日:2025/02/20 Thu 14:37:57
所要時間:約 19 分で読めます




三式中戦車 チヌ とは!アホ毛がキュートな大日本帝国陸軍末期の中戦車(自称)である。


【どんな戦車?】

おそらくミリタリー、あるいは戦車について多少なり興味をお持ちの人なら、加齢臭が出るまで働かされたみんなのアイドル九七式中戦車ことチハたんをご存じのことであろう。

あるいはもうちょっと詳しい人なら、「でもチハたん以外でもなんか作ってたよね?日本の戦車」ぐらいの認識はあるかもしれない。

そう、その「なんか」に相当するのがこの三式中戦車チヌ(「チ」ュウセンシャ 「(第10)」ガタ の略)であり、チハたんから見ると後継機の後継機」、つまり孫世代に相当する戦車である。つまりチヌたん

まあ要するに太平洋戦争開戦後、あっという間に時代遅れになってしまったチハたんを更新すべく鋭意開発された新型戦車というわけなのだが……
他の多くの日本戦車同様、「頑張って開発したけど完成したころにはとっくに時代遅れになってた」という悲しみから逃れられなかった可哀想な子であった。

というかそもそもこの子、一個前世代にあたる「チハたんの後継機その1」こと一式中戦車 チヘの砲(と砲塔)を乗せ換えただけのものであり、「新型戦車です!」と大きな声を上げるのがそもそもちょいと微妙かもしれない。
一式中戦車ファイアフライだコレ。


【性能】


「走」

基本的に車体は一式中戦車とほぼ一緒なので、チヘたんの項も参照のこと。→一式中戦車

大雑把に言うと全体的な足回りはチハたんのそれをほぼ踏襲しており、日本戦車独自の機構であるダブルボギーサスペンション、通称「シーソー式独立サスペンション」を搭載。
これは大雑把に言うと「車体の右側と左側で、それぞれの側全ての転輪が連動してバランスを取る」方式のサスペンションで、
・エネルギーロスが少なく速度を出しやすい
・平地での走行安定性が非常に高く、多少の起伏なら動揺も小さい
・乗員の乗り心地がいい
などといった長所がある反面、
・登坂能力が低くなる(坂道、特に地面が柔らかい坂が登りにくい)*1
地雷や泥詰まりに弱い
・一か所ダメージを受けるだけで全体に影響が波及する、最悪動けなくなる
などと言った弱点も持つ。本土決戦に全然向いてない特徴ですね。

エンジンはチハたんから大きく強化されており、1940年に開発された三菱製「統制100型」12気筒V型空冷ディーゼルエンジンが搭載された。
馬力は240馬力でチハたんの170馬力(実用的には140ぐらいが限界)に比べると約1.4倍にまで上昇しており、それに対して車重は約1.2倍なので、出力重量比、つまり戦車の重量あたりのエンジン出力はチハたんよりも高い。

ただしチハたんから継承し続けてきた足回りがそろそろ荷重限界に達しつつあったたため、出力重量比が高いにも関わらず、最大速度は約39km/hとチハたんと大差なかったりする。

総じていうなら「中戦車」を名乗ることには不足ない機動性と言っていいだろう。
またチハたんよりも幅広の履帯を使っておりこの時代の基準からするとぶっちゃけ軽戦車なので接地圧も低く、弱い地盤でもそれなりに軽快な動きが出来た…ハズ。


「攻」

三式チヌたんの(日本陸軍基準で)最大のセールスポイント
37mmとか57mmとかの豆鉄砲を使っていた先輩方とは一線を画す大口径砲「三式7センチ半戦車砲II型」を主砲として搭載する。

これは砲兵科の野砲*2だった「九〇式野砲」を車両用に改良した砲で、大正期にシュナイダー社へ発注した試製野砲を参考にして開発した経緯がある。
趣味誌でM1897の派生型と記載されることも珍しくないが、発注先の手掛けたM1912やM1914がM1897と弾薬の互換性があるだけに過ぎず、全くの誤解である。
比較対象 M1897 試製野砲 九〇式野砲
設計担当 仏国営兵器廠 シュナイダー社 陸軍技術本部
砲身全長 36口径 40口径 38口径
閉鎖機 偏心螺式 偏心螺式 水平鎖栓式
高低射界 -11°~+18° -8°~+45° -8°~+43°
方向射界 左右各6° 左右各27° 左右各25°
放列砲車重量 1,544kg 1,660kg 1,400kg
弾量 5.4kg 7.09kg 6.56kg
最大射程 11,000m 14,500m 13,890m

やたらと重かったので運動性や機動性を重視する参謀本部からは人気がなかったが、反面初速と射程に優れていることに目をつけられて戦車砲へと転用されることになったという経緯を持つ。
四式中戦車も備砲変更時には、三式七糎半戦車砲の改造型が検討されていたという。

なのでこの砲はそれまでの戦車に搭載されていた砲に比べて段違いの大きさ・重さとなり、三式には日本中戦車として初めて砲塔の電動旋回機構が搭載されることになった。
副武装としては車体前方に九七式重機関銃を1基搭載し、ほかに頭のアホ毛こと対空用機銃のマウントラッチに機銃を1つ装備可能。

肝心の貫通力は「通常弾」にあたる一式徹甲弾を使用時、1000mで約70mm
新砲塔型チハたんの47mm砲ですらせいぜい同条件で50mmちょっとであったことを考えると、まさに格段の進歩と言っていいだろう。
しかも口径が圧倒的に大きいため、貫通時の破壊力や榴弾の威力は比較にならないほど勝っている。強い!チヌたんは強いぞ!
具体的に言うと旧砲塔チハたんの57mm榴弾が加害半径約10mで機銃座や軽掩蓋なら吹き飛ばせるぐらいなのに対し、チヌの75mm榴弾は半径25mに及び、戦車の大敵である対戦車砲陣地も独力で対処できるのだ!

ただしこの三式戦車砲II型だが、正確には「シュナイダーの試製野砲」を小改修した「九〇式野砲」……を三式砲戦車ホニIIIに搭載できるように急いで小改修した「三式7センチ半戦車砲」……をさらに三式に急いで小改修したという代物。
「急いで」「小」がしつこく推されてることからもわかるように、ぶっちゃけ原型である野砲の特徴を非常に色濃く残しており
・軽量化がろくにほどこされておらず無意味に重い車両や砲塔の速度に悪影響
・駐退機*3をそのまま使っているためパーツごと車外に露出する形に(砲身の下についてるでっぱりの部分) → 弱点が真正面にむき出しに……
・発射方式がトリガーやボタンに接続されておらず、縄を引っ張る拉縄式のまま照準手と撃発手(発射する人)が別なので狙ってから撃つまでにタイムラグが出る&砲塔の角度によっては撃発手が撃てないので車長がやる必要があり指揮に集中できない
・高速徹甲弾や被帽付き徹甲弾など、対戦車用の高貫通砲弾が用意されていない*4シャーマンなどの傾斜装甲に対して貫通力の減衰がひどい
などなど、実戦で走り回って戦車と殴りあうにはちょっと……いやだいぶ難のある部分がてんこ盛り

もしかしてこれ戦車じゃなくて対戦車自走砲なのでは…?


【守】

日本戦車なので全身の装甲はむろん大和魂によって守られており、乗員達の燃える護国の志が消えぬ限りその装甲もまた神武の超鋼である。
物質には限りがあるが、ただ無限にして無尽蔵なのはこの精神力で………

……あるのかどうかは不明だが、物質的に見る限りでは「全身ペラッペラの装甲」と言ってまあ差し支えない。
もっとも強固な正面でさえその厚さは50mmでしかなく、しかもこの期に及んで傾斜がろくについておらず、ほぼ垂直におっ立てた挑発っぷり。
無論側面・背面と言った他の部分の装甲は言うまでもなく、36mm以上の数値が一つもないほど。

この装甲厚では戦車の交戦距離だと37mmクラスの対戦車砲ぐらいしか防ぎようがなく、1944年10月という完成時期を考えるとちょっとヤバイってレベルじゃねーぞ!な防御力である。
まあ一部装甲が溶接になったことで被弾時の乗員の危険性も下がっているし、37mm砲相手でももうヤバかったチハたん比では防御面も相当改善されてるのは事実だが……
基となった一式中戦車チヘは37mm対戦車砲よりもワンランク上の45mm対戦車砲を想定していて、一式機動47mm砲の貫通力(一式徹甲弾を使用した場合に、距離1000mで着角90度の第一種防弾鋼板ならば約50mm、第二種防弾鋼板であれば35mmを射貫可能)に合わせた装甲厚を採用していた。
ちなみに同条件の貫通力は、37mm対戦車砲M3/37mm戦車砲M6(米)はAPC使用時で59mm、2ポンド砲(英)はAPCBC使用時で57mm、45mm対戦車砲M42(蘇)はAPBC使用時で51mmとなっており、実際に着角90度で命中する機会は限られるため概ね想定通りだと言える。
一式中戦車チヘの量産開始時期には、6ポンド砲やそれをライセンス生産した57mm対戦車砲M1、57mm対戦車砲ZiS-2が配備されていたので気休めにしかならないが。

あと装甲のペラさに比べれば些細なことではあるが、弾薬庫の配置が大和魂あふれるatk全振り仕様なのも危険と言えば危険。
一般的に戦車の内部には所狭しと詰めこまれている砲弾だが、これは当然危険極まりない可燃物
大戦中の米軍の調査によれば、シャーマンの被撃破要因の実に6~8割が弾薬の発火だという統計があがっているほど。
なのでどこの国の戦車も「取り出しやすく、しかし被弾しにくい場所」に置くことに知恵を絞っている。
そのため多くの戦車では、一番被弾率の高い砲塔に大量の弾薬を搭載することは基本避けられているのだが、チヌたんの場合搭載弾のなんと半分以上を砲塔後部弾薬庫にみっちみちに詰め込んでいる

これは確かに連射速度を上げるには最適の配置なのだが、一番被弾率が高い場所に最大の弱点があるというおっそろしい配置でもある。
有名どころでいえばティーガーIIIS-2なども同じところに結構な量の砲弾を積んでいるのだが、あちらには砲塔側面でもそれなりの装甲があるのに対して*5、三式の砲塔側面後部は垂直25mmでしかないわけで……ナムサン!!

ていうかやっぱしこの防御を捨てた攻撃特化っぷりは自走砲のソレでは…?


【開発経緯】


冒頭で「チハたんの後継機の後継機」と大雑把にあらわした開発経緯だが、実際のところはもうちょっと複雑なもの。

太平洋戦争開戦と共に急速に明らかになったチハたんの時代遅れっぷりだが、実は「はよ!チハたんの後継機はよ!」との声はそれ以前から(それこそ1939年のノモンハン事件のころから)存在はしていた。
しかし
・軍上層部が戦車を兵器としてそれほど(ソ独仏英のような戦車先進国に比べて)重要視していなかった
・当時の帝国陸軍のメイン戦場だった中国大陸では、対戦車兵器をろくにもっていない敵が相手だったためチハたんでも必要に充分であり、早急な更新の必要性が認められなかった
・歩兵装備や大砲、航空機など、より陸軍内で発言力の強い分野&優先度が高いと見なされた分野に予算を取られた
・日本の生産力の貧弱さから、新型の生産はチハたんの生産に著しい悪影響を与えると考えられた
・チハたんがかわいすぎた
などの理由からどんどん先延ばしにされていき、「最初の後継機」である一式中戦車が完成したのはなんと1943年の6月
チハたんの生産開始から実に5年が経過していたのである。
ちなみに量産型はM24軽戦車と同じ1944年の4月に登場している。

戦車開発史的にこの時期を見ると
1942年6月……ドイツでIV号戦車G型(増装ver)生産開始
1943年1月……ドイツで初期型パンター(D型)生産開始
1943年6月……イタリアでP26/40生産開始(※イタリア王国降服の約3ヵ月前で、量産体制は機能不全)
1943年9月……ドイツでティーガーII生産開始
1943年11月……イギリスでクロムウェルMk.IV生産開始
1943年12月……ソ連でIS-2生産開始
1944年1月……ソ連でT-34-85生産開始
1944年1月……アメリカでM4中戦車(76mm砲型※イギリスではA型に分類)生産開始
1944年1月……イギリスでM4中戦車(17ポンド砲型※C型ファイアフライ)への改修開始
と言った感じであり、それぞれの性能をざっと示すと
戦車 重量 主砲の口径 貫通力 装甲厚 最高速度
IV号G型(増装ver) 23.5t以上 75mm 107mm*6 車体正面_80mm*7 40km/h
パンターD型 43t 75mm 149mm 車体上部140mm 55km/h
P26/40 26t 75mm 82mm 車体正面_70mm 40km/h
ティーガーII 69t 88mm 204mm 車体上部200mm 38km/h
クロムウェルMk.IV 28t 75mm 73mm 砲塔正面_76mm 51km/h
IS-2 46t 122mm 162mm 砲塔正面160mm*8 37km/h
T-34-85 32t 85mm 105mm 車体上部_94mm 55km/h
M4A1(76mm砲型) 32t 76.2mm 106mm 車体上部_90mm 38km/h
M4VC(17ポンド砲型) 32.4t 76.2mm 150mm 車体上部_90mm 40km/h
といった感じになる*9
そしてここに
重量 主砲の口径 貫通力 装甲厚 最高速度
    一 式____ ___17t 47mm _40mm  車体正面_50mm 44km/h
が混ざってくるのはもはやなんというか「お客様……失礼ですがお越しになる所をお間違えでは?」という気分に……

しかし当時の戦車の「水準」がこれときては、チハを更新したところで九七式棺桶が一式棺桶になるだけであり、陸軍的には一式中戦車を超える戦車が、それも今すぐにでも必要となってしまった。

実はこの当時、「新型戦車」の研究自体は既に複数のプランで進められており、チハたんの、そして一式の更なる後継としても
  • 新中戦車甲型こと「チト車」。重量25t級で、装甲は75mm、57mm砲搭載(後の四式中戦車
  • 新中戦車乙型こと「チリ車」。重量30t級で、装甲は75mm、75mm砲搭載(後の五式中戦車
の2系統の戦車が開発中だった。
しかしこれは明らかにチハたん→一式の流れよりさらに大きい技術的飛躍を必要とするものだったため、開発は超難航
また開発陣が悪戦苦闘している間にも「英米ソが新戦車を投入したらしいぞ!」→「なんて性能だ……」→「新型戦車への要求性能変更!」といった仕様変更デスマーチが止まらず、一向に完成が見えてこない状況が続いていた。

しかし時はすでにアメリカが太平洋戦線にもシャーマンを投入しつつある頃。
新型の完成を待っている余裕など一切全く金輪際なかったため、陸軍は窮余の末、急場しのぎの策として「砲だけでも新型戦車レベルにしてくれたらそれでいいから!!!」と要求。

この要求によって開発されたのが、一式中戦車の砲塔を引っこ抜き、ターレットリング(車体に砲塔を刺すための穴)を無理やり広げ、大型化した新型砲塔と75mm砲を無理やり乗せた三式中戦車なのである。

……やっぱり経緯からしてもコレほぼほぼ対戦車自走砲ですよね?

ちなみに最初の段階では、主砲には小型軽量な「九五式野砲」が搭載される予定だったが、これは貫通力が低くシャーマンなどの新型戦車に対しては無力なこと、また砲兵に配備される分すら足りていなかったので「戦車になんぞ回せるか!」とクレームがついたことでお流れとなっている。

一応低速・低貫通の砲であっても、ドイツの75mm戦車砲のように成形炸薬弾(日本軍における呼称は穿甲榴弾)を使うことで無理やり対戦車火力を出すことも不可能ではないのだが、低速なので命中率がどうにも悪く、さらに貫通後爆発する徹甲榴弾に比べると、貫通できても車内へのダメージも小さい……という問題があった。

それでも成形炸薬弾の使用を前提にした「九九式七センチ半戦車砲」を搭載した二式砲戦車ホイなんかも一応いるにはいるのだが、生産台数は車体が同じチヘよりも少ない30両に留まっている。


【活躍】

そしてそんな陸軍の期待を一身に背負った三式中戦車が完成し、生産が始まったのが1944年11月
そう、レイテ沖海戦日本海軍がほぼ壊滅した後である1944年11月。
もはや日本がシーレーンの防衛力を喪失し、後は衰弱死を待つだけとなった1944年11月。
アメリカ軍によるフィリピン攻略がガンガン進んでいた1944年11月。
本土決戦に備えた松代大本営の建設が始まった1944年11月だったのである。

もはや新型戦車を海外の戦線に届ける力などどこにもなく、それどころか「新兵器や状態の良い兵器は本土決戦に備えて温存!」の方針が示された後であり、生産された三式中戦車は残らず全て、連合軍上陸のその時に備えて本土で温存されることになった

そしてご存じの通り、日本は連合軍の上陸と「一億総玉砕」を待たずして無条件降伏した。

つまり三式中戦車の「活躍」は、


の一言で簡潔に表現が可能である。

生産数は所説あるが、最小でも30両、最大だと200両近くが生産されたと言われている。



【ノー!ノーヤスリ!アイム決戦兵器!アイム決戦兵器!】


さてここで三式中戦車の名前を知ってる人なら(あるいは知らない人でも)知っているであろう、司馬遼太郎先生と三式戦車にまつわるエピソードを紹介しよう。

エッセイ『歴史と視点』に記載されたエピソードで、かいつまんで言うと
「私が幹部候補生として戦車隊で教育を受けていた時、教官から『これが九七式中戦車だ。装甲を削ってみろ』と言われて金ヤスリを与えられたが、いくら削っても傷がつかなかった。」
「しかし見習士官として配属された後、部隊に配備された三式中戦車に同じことをやってみたらバッチリ傷がついた。つまり三式は装甲用の鋼板じゃなくてただの鉄で出来ていたのだ!」
というもの。

「戦争末期とは言えなんて有様だ…こんなことを平気でやる旧日本軍ってほんとにダメだな!」
とか
「常識的に考えてそんなわけないだろ!印象操作だ!司馬史観だ!」
とか
「九七式の装甲は表面を硬化させていて硬い代わりに脆いのだが、三式の装甲は柔らかく粘りがある新型装甲材が使われていたから、削れるのはむしろ自然だ。司馬遼太郎は軍事知識が足りなかったから知らなかったのだ」
とか
「虚弱体質に見合わない立派なものをお持ちのチヌたんいいよね……」「いい……」
とか、いろんな方々がいろんな意見を投げつけ続けていることで知られる有名な逸話である。

しかし実のところ、「戦車の装甲表面が金ヤスリで削れる」こと自体は別に不思議ではない
当たり前だが金ヤスリとは金属を削り取るためのヤスリであり、ちゃんとしたものならブリネル硬度(硬さの単位の1つ)でいうと600とか700ぐらいまで削れるのが普通である。

これに対して戦車の装甲に使われる鋼板はせいぜい600ぐらいが上限なので、つまりどの戦車も基本的に装甲はヤスリで削れちゃうのだ。
ちなみにチハたんも三式も、装甲の表面硬度は500~550ぐらいの間。


なのでこの場合、三式が削れてしまったことよりむしろ、チハたんが削れなかったことの方が不思議現象と言える。
普通に考えれば、チハたんの時には教官が新兵への士気高揚のため、わざと低強度なヤスリを渡して安心させたのだとするのが自然だろうか。
だが大戦末期の日本の生産能力や品質管理はガバガバだったので、実際にただの鉄材で代用しちゃった可能性も否定はできない。その場合強度的にまともに動けるのか微妙だが……

そして第3の可能性として、司馬先生はチハたんに「イヤ…もうむしろ好きだな」系の屈折した愛情?を抱いていたという証言があるので、実はその愛情?の故にチハたんに対してのヤスリがけに無意識化でデバフをかけていた……という線も考えられる。
シバチハキテル……

まあぶっちゃけただの鉄板だろうが鋼板だろうが、どっちみち三式の装甲厚では対戦車火器を喰らったが最後、速攻でゴートゥー靖国なので、一緒っちゃ一緒なのだが。


【バリエーション】


「チヌ改」

主砲を「五式7センチ半戦車砲」に換装した火力強化モデル
「急場しのぎの火力だけ新型戦車」として開発された三式だったが、例によって「開発中に時代遅れになる」という日本戦車の持病からは逃れられなかった。
実際上でもちょっと触れているが、三式が搭載する三式戦車砲II型はシャーマンの防御性能に対してちょいと力不足だったため、いわば「急場しのぎの火力だけ新型戦車の急場しのぎの火力だけ強化版」として開発されたのがこのタイプにあたる。
主砲である五式戦車砲は本来後継機である四式、五式中戦車への搭載を予定していたもので、スウェーデンのボフォース社製高射砲「m/29」のパk……改良品。
アハトアハトの原型になった強力なボフォース砲をデッドコp……参考にしただけあって肝心の貫通力は1000mの距離で約110mmと飛躍的にアップしており、75mm搭載型シャーマンを上回り、3インチ砲搭載型シャーマンと並ぶ対戦車火力を持つことになった。
防御力?聞くな……と言いたいところだが、一応防御面で若干の改修も予定されてたらしい。
実車を作って各種テストも終えたものの、生産が始まる前に終戦を迎えたため、制式採用はされていない。チヌ改という名も便宜的なもの。

【フィクション作品】

「チハたんじゃない日本戦車」の中では比較的有名な方であり、国内での各種創作作品での出番もそこそこある方。日本戦車自体の人気がアレといえばアレなのだが。
戦車ゲームなどでも登場率は高い方だが、絶対に外せないチハたんや、「大日本帝国が完成させた中では最強の戦車」である四式等に比べると若干押し出しは弱く、ライトな戦略SLGとかだと省略されちゃったりすることも……

各種仮想戦記

この手のジャンルではあんまり…いや全然人気がない。
やっぱし戦局を挽回するような活躍をさせるとしたら、より新しくて強い四式や五式の方が相応しいからだろうか(それでも性能が足らずに超強化されてたりするけど)。

アニメ


ガールズ&パンツァー
言わずと知れた戦車と美少女のスポ根アニメ
主人公の所属する大洗女子学園の戦車道チームに所属する「アリクイさんチーム」の戦車として登場。
アリクイさんチームはテレビシリーズも最終話近くとなってからの登場となったため、テレビの時点では活躍の場がろくになく三式ファンが涙したとかしないとか。
しかしテレビ放映後に作られた劇場版ではきっちり成長した姿を見せることができ、前半のエキシビションではT-34を撃破し初戦果を挙げ、更に後半ではM26パーシングを一対一で撃破するという大金星を挙げた。
なお劇場版後半以降は乗員の練度と筋力が向上した事により、本来の2倍以上の速度で連射できるようになっている。
さらにその後の「最終章」第三話ではついに……
詳しくはアリクイさんチームの項目を参照されたし。

ゲーム


World of Tanks
日本ツリーの中戦車ルートのtier5に登場する中戦車。チヌ改も登場するが、こちらは同tierのプレミアム戦車(課金戦車)。
Wotにおけるtier5といえば、T-34やIV号戦車H型、M4A1など第二次大戦の主役級といっていいメジャーどころが出そろった華やかなtier帯となっており、三式もそれなりの存在感を放っている。
性能傾向的には「典型的な日本中戦車」と言った感じで、優れた俯角に加えて貫通・単発火力・精度などいずれも優秀と高い攻撃性能を持つ反面、機動性がちょっと鈍く、装甲はいうまでもなくペラペラ。
しかしここまで記事を読んできた人なら「シャーマンやIV号H型相手だと三式じゃ厳しいんじゃ?」と思われたかもしれないが、無論ゲームバランス上調整はしてあるのでそこは大丈夫。
というかこのゲーム、構想だけはされていた砲とか、試作段階の砲とか、あるいは改良型に搭載された砲とか、要するに「史実の実車よりも1~2ランク上の砲」を殆どの戦車が搭載できる*14ため、全体的に貫通力が過剰気味。
なので史実だったらそれなりの防御力を発揮していたT-34やIV号H型も、ゲーム内では等しくスポスポ抜かれる紙装甲の部類に入るので、三式の防御面も特に目だった弱点になってないのである。ばんざーい!(吶喊)

『パンツァーフロント bis』
無印PS時代の古豪戦車シミュレータ。
bisは第二次世界大戦のヨーロッパ戦線、しかもその中の北アフリカ戦線に絞ってゲーム化した超絶ニッチナンバーなのだが、日本シナリオとしてただ一つ用意された「串良ステージ」にて三式中戦車が登場する。
その内容は「沖縄に上陸したシャーマンとパーシングを、本土で温存されていた四式+三式で迎え撃つ」という旧軍ファンならテンションMAX待ったなしのシナリオである。
しかしリアル寄りの戦車シミュレータであるパンフロシリーズで、三式でパーシングに挑むという時点でちょっとヤバイ香りがしてくるが、その難易度は……各種動画サイトに「クリアしてみた」系の動画が結構あることから察してほしい。
萬谷ーーー!お前ほんとに戦車学校出てきたのか萬谷ーーーー!!

『War Thunder』
チヌとチヌ2(チヌ改)が登場。
特に後者はプレミアム扱いで、よくゲーム内通貨を稼ぐのに向いているといわれる。
いつでもではないが、無料ユーザーでも12個課題を達成し、3000枚以上の軍票(ランク3以上の車両で挑戦できる課題のクリア報酬などでもらえるチケット)を用意することで引き換えることができる。
ただ、強すぎた(実装当時は同じBRでは最高の貫通力を持っていたとか)ので弱体化…は避けられたものの、少し苦戦しやすいように上のクラス(BR)*15に移動させられた。
BRやランクを参考にするならば、一応、IV号F2(3.7)やM24(3.3)より強い(H形相当)ということになっている(または、飛行機と比べるのも変だが零戦22型程度)。…そのBRはやや過大評価気味*16だと思うが。

KARDS
WW2をテーマとしたデジタルカードゲームの日本勢力に、なんと日本最強の戦車として登場。このゲーム日本の戦車自体層が薄い?知ら管
4/5という高めのスタッツに加え(なんとM4シャーマンより高い、コストも1高いが)、サポートラインにいる間は「待ち伏せ」と「保護」を持つ、まさに本土決戦兵器としてのスペックを持っている。
……コスト比のスタッツが高く、日本の主力である歩兵にバフがつくチハたんの方が使いやすいとか、攻撃的な日本の特性と合ってないとか、その辺はまあその、ね?




※ 600m以下の距離まで近づいてシャーマンの正面装甲をぶちぬいてやる!という大和魂にあふれた烈士の追記:修正を切に望む次第であります!

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最終更新:2025年02月20日 14:37

*1 全ての車輪が水平を保とうとするので、坂道などでは前の車輪が力強く沈み込む一方、後ろの方の車輪が浮き上がってしまって踏ん張りが弱くなってしまうため

*2 主に師団砲兵が扱う中口径の野戦砲で、冷戦前に設計された榴弾砲よりも命中精度や射程の面で優れているが、面制圧に関わる口径比の炸薬量は劣る。

*3 大砲の発射の衝撃を受け止める装置。これがないと発射の反動がもろに大砲や固定部分にかかってろくに狙えない+すぐ壊れる

*4 一応特甲や特乙と称するタングステンやニッケルを使用した徹甲弾も存在するが、これは弾頭の素材を硬く強くしただけの「強化徹甲弾」に過ぎず、貫通力があまり伸びない上に生産数も少なかった

*5 もっとも装甲厚を確保したからといって必ずしも大丈夫という訳では無く、T-34-85の砲塔内部側面の砲弾架は設計に欠陥があり、貫徹されなくても被弾時の衝撃で予備弾薬が起爆してしまう例もあったという。

*6 1943年3月に導入された48口径砲ではなく、43口径砲の数字である。

*7 H型と違って50mm装甲板に30mm装甲板を追加していることから耐弾性は額面を下回るものの、T-34の76mm F-34やM3/M4中戦車の75mm M3に対する生存性が向上した。

*8 1944年に登場した改良型は車体の傾斜角が強化された影響で240mm相当に達するため、耐弾性は砲塔正面の防盾部を上回っている。

*9 貫通力は1000mの距離で一般的な徹甲弾を使った場合で、圧延装甲に対する数値。装甲厚はその戦車のもっとも固い部分を、傾斜を考慮した実行厚で換算

*10 硬芯徹甲弾も用意していたが、希少金属のタングステンを消費するために生産数は制限されていた。

*11 材質や製法時期の差異もあるので単純に比較は出来ないが、T-34は76mm砲型だと砲塔正面45~70mm・車体正面47mm(30度)、T-34-85で砲塔正面90mm・車体正面47mm(30度)の装甲厚を有している。

*12 防盾のみ1.5インチで正面は側面と同じ1インチ厚だが、傾斜装甲なので見かけ上は2インチ相当である。

*13 厳密には鋼材自体に混ぜてある希少金属も両者でやや異なる

*14 三式も本来はチヌ改の主砲だった四式戦車砲を搭載可能

*15 このゲーム内ではBR=強さの目安、ランク=各国の研究の進み具合みたいな別の用語。どちらもたまに変更されるので課題に使えなくなったりということも。

*16 前述の車両達と比べた場合や、BRが上がることでより強い戦車とマッチングさせられるというゲームバランス的な意味で