鋼(金属)

登録日:2022/02/13 Sun 20:25:18
更新日:2023/10/28 Sat 15:32:45
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鋼(Steel)もしくは鋼鉄とは、鉄を主体として炭素を含んだ合金の一種である。
この項目では現代社会を支えるこの金属と、その派生である特殊鋼などについても記載する。



……詳細については、書店にもネットにも各企業にも山のように資料があるため、割とざっくり説明していく。


◎概要:鋼とは?


一般的には『鉄をベースにした鉄より強い金属』、といったところだと思うが、まずは『そもそも鋼ってなんだろう』というところから説明していこう。

基本的な定義としては、日本では日本刀の材料として用いられてきた「玉鋼」*1あるいは『炭素鋼』とも呼ばれる、鉄に炭素を一定量(0.04~2%程度)含んだ合金のことを言う。

そのため、鉄鉱石を精錬してできる銑鉄*2から、さらに炭素を抜いて製造される。

感覚的には

炭化鉄 → 銑鉄 → 鋼鉄 → 鉄 → 純鉄

といった感じで炭素の量が少なくなる。

なお、炭素を含めば含むほど、鉄は硬く、脆く、ついでに黒くなるため、鋼鉄は柔軟性と剛性のバランスが良く一番汎用性の高い合金といえる。
硬く、強靭で、溶かせば成形、叩けば鍛造、曲がり、しなり、延び、熱処理で性質が自在に変化し、研磨で微調整もできる。しかもそこまで重くない。(比重は8に届かない)
原材料の大半を占める「鉄」自体も世界全体に大量に埋蔵していたこともあり、その加工物である鋼と合わせて現代社会を支える基盤となっている。*3
一昔前は粗鋼生産量がその国の経済力の指標になっていた時期すらあったのだから重要度が推して知れる。

鋼の定義については先に述べたとおりだが、炭素をほとんど含まない極低炭素鋼やステンレス鋼*4のように炭素をほとんど含まれないのに鋼を名乗る合金も存在する。
「鋼」という言葉自体に「鉄が主成分の合金」の意味が含まれてしまった結果、こんなちょっとややこしい表現になったらしい。
これらについては後程、特殊鋼の部分で説明する。

小さな道具から巨大建造物まで多用に使われるそんな鋼だが、身近なだけあってはるか昔から延々と研究され続けており、膨大な種類が存在している。
JIS(日本工業規格)に記載された規格だけでも約1000種類、メーカーごとにさらなる調整、改良版が存在し、鋼鉄を専門に扱う組織や組合、情報誌、新聞なんてものも存在する。
どれだけ膨大かは、申し訳ないが目の前の箱、あるいは手元の板で検索していただきたい。
記事作成に当たり「鋼 種類」でうかつに検索したところ、約4600万件が引っ掛かった。これだけの種類があり現在も研究が進められていればさもありなん、である。



◎鉄の還元と製鋼


『鋼』を作るにはまず、鉄鉱石や砂鉄を還元しなければならない*5
800℃程度で加熱すると鉄鉱石から酸素が抜けて、スポンジ状の柔らかい『軟鉄』が残る。
鞴で送風してさらに1200℃まで温度を上げると、急激に炭素が鉄に溶け込みだして、融点が低い『銑鉄(鋳鉄)』となる。

軟鉄は靭性は高いが硬度に劣り、鋳鉄は硬いが衝撃に弱い。
「適度な硬さと靭性」を兼ね備えた良質な鋼には、この中間程度の炭素量が必要であり、強度を損なう不純物である燐と硫黄を除去しなければならない。

従って、鋼の量産には
①軟鉄に炭素を添加する
②鋳鉄内の炭素を酸素で取り除く
③軟鉄と鋳鉄を混ぜ合わせる
④硫黄・燐を含まない鉱石を炭素が溶け込み始めるギリギリの温度で還元する

の何れかが必要となる。
第二次世界大戦時代前後の日本では②と③の複合である塩基性平炉*6での製鋼が多かった。
転炉と平炉の実用化はほぼ同時期(1856年)だが、転炉が生産速度と省エネ性、平炉が素材の柔軟性と成分調整の安定性で優れていたので、長らく優劣は付け難かった。
現代では②の酸素噴き込み式の転炉が主体である。

◎特徴:鋼の長所と短所


上で述べた通り、影に日向に社会を支える鋼。
なんでそこまで鋼が使われるのか、弱点はないのか、それをまず述べることにする。

▼長所


1.世界各所で、原材料を大量に採取、生産可能

世界を支えるに至る大きな理由の一つ。いくら素晴らしい素材だろうと量が少なければ使えないのだ。
2019年の粗鋼(加工する前の鋼)生産量はおよそ18億7000万トン*7。厚さ1mで敷き詰めると16㎞四方の鋼の大地が出来上がる。
生産量トップはおとなりの中国。生産量は驚異の10億トン。原材料を輸入に頼る日本だけでも約1億トンを生産している。
恐ろしいのはこれが1年間の生産量という点。
これだけ掘って無くならないのか?と感じるかもしれないが、世界の鉄鉱石埋蔵量は高品質のものだけでも2000億トンあるらしい。低品質のものに至っては1兆トン。世界はでかい。*8

2.生産コストが安い

世界を支えるに至る大きな理由の一つ。いくら素晴らしい素材だろうと値段が高ければ使えないのだ。品質にもよるが。
高炉一基が1万トンの銑鉄を一日で、転炉一基が20トンの鋼を30分弱で生産できるため、結果的に非常に安価に鋼が利用できる。*9
スクラップの再利用も積極的に行われ、その際のエネルギー消費は転炉の2割以下。こちらもお安くなっている。

原理としては、自然界の鉄鉱石に眠る酸化鉄をもとに、まずは加熱した状態でコークス*10等の炭と反応させ金属の鉄(銑鉄)にする。この銑鉄を加熱して今度は酸素を送り込むと余分な炭素が燃え、二酸化炭素として逃げていく。狙った比率まで炭素が抜けたらそれで鋼の出来上がり。

鉄鉱石+コークス(炭)→銑鉄
銑鉄+酸素→鋼

実際はもっと複雑だが、端的に言えばこれだけになる。
やろうと思えば庭先ですら可能なのが鉄の製錬なのだ。品質はともかく。


3.加工し易い

鉄の融点は1500℃とそれなりに高いが、完全に溶かさなくても800℃前後の温度で軟鉄へと還元できる。叩いたり曲げたりと言った鍛造加工に必要な温度はさらに低い。
延性、展性もそれなりにあるため、現在では加熱せずにプレス機などで一発成型してしまう場合も多い。
また、硬いとはいっても一般的な砥石で十分切削、研磨できたことも大きい。*11
加えて、加熱や冷却、衝撃によって金属内部の構造が様々に変化し、鉄以外の成分の調整と合わせて硬さも柔らかさも幅広く調整できる。
多様な目的に合わせてアレンジできる、というのも鋼の大きな特徴。

数千年に亘り用いられてきた鋼。言い換えれば、数千年前の技術でも小規模ながら生産・加工が可能という事になる。
作業に用いる諸々が超進化した現代では何を言わんや、である。


4.硬くてしなやか

重量当たりの引っ張り強度や靭性、硬度などが高い。鋼が建材や機械部品として使われる理由がこれ。
目的に合わせて特化させることで、チタン合金に並ぶ引張強度やルビーに迫る表面硬度の他に、耐摩耗性、耐衝撃性、耐疲労性、腐食耐性などを高いレベルであわせ持つことができる。*12
また、急激な温度変化(焼き入れ)や強い衝撃を加えることで局所的に硬度が上がる性質を持つので、一つの塊として製造し、接合部なしに狙った部位だけをしなやかだが表面は硬くて摩耗し難い、なんていいとこ取りもできる。


日本刀の工程はその集大成とも言えるもので、砂鉄を炭と共にふいごで吹いて溶かし、できた鋼の塊を砕いて欠片を成分毎に適した場所に並べ、加熱しながら衝撃を加えて内部の亀裂や気泡、不純物を叩き出し、焼き入れで表面を硬化させ、刃を研ぎあげ磨き上げる。
鉄塊を丁寧に加工する事でここまでの品が出来上がるという浪漫の結晶でもある。

5.弾力がある

分かりやすいように弾力と書いたが、実際には弾性。もっとわかりやすく言うとバネ。
弾性限界(弾性限界ギリギリでは応力と変形に多少の誤差が生じるので厳密には其れよりやや低い比例限界)と言う一定以下の応力が掛かっている状態では、「変形と応力が比例する」と言うフックの法則が成立し、応力を取り除くと元の形状に戻る。
鉄は他の金属に比べると、変形した際に戻ろうとする力が割と強い(≒ヤング率が大きい)だけでなく、「一度大きく変形させると、その状態をキープし続ける」のがミソ。
例えばアルミの合金であるジュラルミンは硬さだけであれば鉄より硬いものの、一度変形してしまうと元に戻らないという特性を持っているので、コイル型に変形加工は出来るが、そこから力を加えるとバネとしては役に立たない何かが出来るだけである。
しかし鉄はコイル型に変形加工させようと思えば変形する、そして変形した形から、更に変形するまで曲げなければ最初に変形させた形に戻るので、コイル型に加工したバネは鉄の性質によって成立しているともいえる。
一部の用途として銀系*13や銅系、ニッケル系、チタン系のバネも無いわけではないが、やはり鉄系バネのメリットは圧倒的な価格の安さが挙げられる。
…一応バネとして分かりやすいようにコイル型に変形させると書いたが、自動車のスタビライザーや一部のレースカーに使われる「トーションバー」や、トラックなどに使われる「板バネ」、動力として使われる「ゼンマイバネ」等、棒状や板状に加工したバネもこの弾性を利用した物。



▼短所


現状、万能の素材など存在しない。鋼にも致命的な弱点は幾つもある。

1.錆びる

ほぼすべての物質が避けられない欠点。
水や空気に触れたところから酸素と結合して酸化鉄になり、どんどん腐食していってしまう。
しかも悪いことに鋼はアルミやチタンのように緻密な酸化被膜を形成しないため、内部までガンガン腐食していく。しまいにはヒビや穴まで生じて、強度を保てずぼろぼろと崩れてしまう。ついでに見た目もひどい事になる。
上で述べた通り、鋼の自慢は強度と生産量。強い鋼が大量に使用された構造物、例えば橋脚などがこうなってしまえば、大惨事は免れない。
なので世界中で塗料を塗ったり混ぜ物をしたりと、様々な方法で錆を防ぐための研究が進められている。これを完璧に防げたら技術革命が起きるレベルだとか。

もっとも、これは裏を返すと「廃棄時の環境負荷が小さい」ということでもある。
また、ナチス・ドイツやソビエトの様に薬莢など使い捨ての軍用品を鋼で製作すれば、野外に放置すれば勝手に使用不能な状態になってくれるため、敵に回収・利用される危険を小さくできる。
活用しようとすれば結構活用できてしまう長所とも言えるだろう。


2.温度変化に弱い

鋼は主にセメンタイトもとい炭素によって強度が確保されている。炭素のような小さい元素は金属結晶内で容易に拡散する関係で割と温度変化に弱く、ちゃんと管理しないとたいていの場合柔らかくなる。これは焚火程度の温度でも起きてしまう。
これは上で述べたように鋼が熱処理を施すことで性質が大きく変化するためで、「どのくらいの温度に曝されるのか」というのは、使用する鋼の種類を選ぶ上で重要な事の一つになっている。
実際初期の装甲板は火炎瓶の炎で一気に脆くなったし、今でも火力発電などの高温下での利用に堪えうる鋼材の研究が盛んである。
ついでに結晶構造の問題で低温になると低温脆性が起こって途端に強靭さが失われ、割れやすくなる*14。これは冬の気温程度でも発生することがある。有名なタイタニック号の沈没もこれ*15によってもたらされている。
なお、電車の線路は鋼でできている、つまり温度変化で伸び縮みするので、夏冬の温度差で線路が歪まないように、一定の長さで継ぎ目が*16ある。
電車がガタンゴトンと音をさせて走る理由の一つはこの継ぎ目の部分に乗り上げた際に生じる音、ただし高速になればなるほど揺れや騒音などの害も酷くなるので、
新幹線などでは超長いレールを用いて継ぎ目の数を減らしたり*17)、継ぎ目の境の部分を斜めの形状にして隙間の少ない状態で接合させる事でこの問題を抑えている。
熱伝導性が比較的良く、500℃を超えると急激に剛性が低下するので、鉄骨構造の建物は木造の建物(表面が燃えても暫くは強度を保つ)よりも崩壊速度が早い。


3.折れ易い

これはどちらかというと使い方の問題だが、明確な短所でもあるのでここに記載。
そこそこ以上に硬くて強く、自在に形作れる鋼。ならコスト削減と重量軽減のためにも必要強度を満たすギリギリまで削ろう、となるのは効率の面からもちょっと避けられない。
その結果生まれるのが工事現場でよく見る断面がHやI、Lの形をした各種鋼材で、それらを適切な向き、角度、構造で組み合わせる事でとても頑丈な建物が形作られる。

……じゃあ、あの細長い鋼材に、想定外の方向から力が加わったらどうなるか。答えは一つ、曲がります。そして折れます。

一か所でもこうなってしまえばその周囲の骨組みに余分な負荷がかかり始め、連鎖的に崩れる可能性だって出てくるので、「想定しない方向から力を受けない」「力を受けても折れ曲がらない」構造も重要になってくる(例えば骨組みをコンクリートで覆うなど)。
火災などで鉄骨を組み合わせた建物が崩れ落ちるのを見て「鉄は燃えないのになんで?」と考えた人がいると思うが、原因の一つは加熱されて延びたコンクリートや鋼が構造に亀裂や歪みを作り、そこから崩れ落ちてしまうらしい。

・過去の問題

現在はコークス等の良い燃料や電熱等の加熱手段があるため問題になっていないが、昔は製鉄時に高温を作り出せる木炭が不可欠で、森林資源の大量消費にもつながっていた。
日本は森林の再生能力が高かった事に加えて植林・伐採規制が間に合い深刻な問題にはならなかったが、森林資源の管理に力を入れていた*18ローマ帝国ですら木炭の不足に悩み、
産業革命前のイギリスでは森林が壊滅寸前まで追い込まれ、ヴァイキング時代のグリーンランドに至っては完全に森林が破壊されて製鉄がほぼ不可能となり滅亡の一因になったと言われている。

◎歴史:鋼の起源


鋼の歴史は古い。古すぎてちょっとよく解らなくなる位古い。
5000年前のエジプトには鋼の装飾品があったらしいし、3400年頃のヒッタイトでは鉄器が使用されていた = 生産技術を確立していたのも間違いない。
……しかしながら『一番最初はどこか』という点は特定できていない、まあ逆を言えば「有史以前」である事は確実だが。
鉄鉱石からの精錬技術が無くとも、高純度の鉄隕石*19を上手に加工すればそのまま鋼の品が出来上がるので、古代の名も残らぬ集落には星の海由来の武器があったかも、というロマンはある。
ところが、鋼はなまじ貴重なので使い終えたら鋳潰したりして再利用するし、放置されれば錆びて砕けて土に返ってしまうしで、遺物が残り辛いのだ。

実は鋼が身近にあふれるようになったのはここ100年の話。
古代から近代までは、洋の東西を問わず『鋼の使い道』は非常に絞られている。
それは均質で高品質な鋼を大量に作る事ができなかったから。
歴史の中ではローマ帝国やインド等、量産に成功した国家もあったものの、戦乱による設備の破壊、人材の喪失、そして資源の枯渇によって技術退行を起こし失われている。

硬く、強く、しかし重く、さらに光らないうえにすぐ錆びる。ついでにハンマーなどによる鍛造でしか生産・加工できないので凄まじく手間がかかり、大量に作れない。
そんな素材は建材や装飾品、日用品には向かないので、使い道はただひたすらに頑丈であるべき武器や防具、そして農具や工具…かつ、特に強度の必要な要所へ使う程度に限られてしまう。
それほどまでに、中世以前の鋼は本当に貴重品だった。むしろ鋼以前の高強度の金属素材(青銅や鋳鉄など)も貴重品として扱われ、19世紀の後半に量産体制が確立されるまで、重要な軍需物資として各国で高値で取引されていたという。

日本でもそれは変わらず、5世紀頃には『たたら製鉄法』*20により、砂鉄を原料とした製鉄・製鋼が行われていた。時代を経る毎にどんどん改良されていったものの、基本構造は大きく変わらず、江戸時代後期に海外から新式の製鉄方法が入ってくるまでずーーーっと使われていた。
これは砂鉄から質の良い鋼を生産できる方法ではあるが、鋼は2~4割程度、残りは錬鉄になる事が多かったらしい。
この方法が主体になった要因は、「掘れる鉄鋼脈が少ない」「雨が多くて燃料となる木が育ちやすい」「砂鉄めっちゃとれる」などが挙げられる。
それでも新規生産は年間300g/人程度*21なので、前近代、且つ「身近に鋼鉄製品が売られている」社会の生産力でもこんなものであるとわかるだろう。錆びさせずに上手く使えばリサイクルも可能な素材なので、リサイクル品まで含めた実際の鋼製品製造量は遥かに多いと思われるが…

18世紀になると、しっかり炭素を抜いた鉄塊に、正確に測ったコークスなどを溶かして混ぜ合わせる『坩堝(るつぼ)法』が主流になる。
溶かすのに六時間位掛かる上に、一度に坩堝の大きさ以上のものは作れず、結局は高価な品物だったとはいえ、これにより鋼の生産力はぐっと上がった。
そして19世紀。効率よく加熱融解、成分調整できる『転炉』『平炉』『電気炉』といった精錬法が次々実用化され、ようやく鋼の大量生産の目処がついた。

現在では大量生産向きの『転炉』と、再製錬や少量生産に向いた『電気炉』が主要な生産を担っている。

◎分析:鋼の中身

強かったり弱かったり性質色々な鋼。その成分を調べてみると、大雑把に分けることができる。
分けるというか、炭素の含有量と温度次第で名前が違うレベルで性質が変わるのだ。
詳しいことはFe-C状態図(炭素濃度と温度に応じた鉄の性質変化図)というものを見てほしい。とにかく複雑なことは一目でわかってもらえると思う。
とりあえず鉄と炭素だけ混ざった場合を以下に述べる。というか、ほかの元素まで混ぜたらそれだけで本が何冊も出てしまう。

・フェライト(α鉄)
純度の高い鋼鉄相(常温で炭素0.00004%以下!)。誤解されがちだが、フェライト磁石の素材はぜんぜん別物なので注意。*22
柔らかく、加工しやすく、磁石にもなる。光沢のある白色の組織でこれ自体は腐食に強かったりする。
なお、温度を上げるとγ鉄やδ鉄になる。融けてもないのに性質どころか結晶構造すら変わるのだから不思議なものである。
語源はラテン語の鉄(Ferrum-フェルム)から。*23

・セメンタイト(炭化鉄)
高濃度の炭素(6.69%)を含む鋼鉄相。非常に硬く、脆く、腐食に強い。なお意外なことに白銀色。
実は分類的にはFe3Cで表されるセラミック。ただし炭素元素は金属結晶内をうろつくため構造がやや不安定で、あんまり長時間過熱していると黒鉛に変質して硬度ががた落ちする。

・パーライト(共析鋼)
炭素濃度0.77%の鋼。非常に薄いフェライトとセメンタイトの層が交互に並んだ不思議な組織。
表面に真珠のような光沢があるため「真珠のような石(Pearl+ite)」でこう呼ばれるようになったとか。
炭素濃度によりフェライトとセメンタイトの成分比が変わり、冷却速度で層の厚みが変わる。(そのため大きな塊だと外側と中心でも性質が変わる)
柔らかいフェライトと硬いセメンタイトの折衷により様々な性質に変化するから鋼の研究と改良に終わりが来ないんだろうなって。
なお、花壇で使われる真珠石(Perlite)とはぜんぜん別物なので注意。あっちは真珠岩という石を高熱で処理して作られる発泡体、石の発泡スチロールみたいなもんである。

・オーステナイト
高温(911℃以上)の鋼鉄相。γ鉄に炭素が混じりこんだ組織で、融けてはいないが結晶構造が変わるので性質は全然違う。
まず、磁石にならない。そして柔らかい。さらに通常の鋼から変質したとき縮む。おまけに冷やしても戻らず残ってたりする。
日常ではなかなかないが、金属加工の工程である「焼きなまし」では一時的にこの状態を経由させている。
アニヲタ諸兄にも夏休みの自由研究で、電磁石を作ろうと鉄釘をガスコンロであぶった経験があるんじゃないだろうか。
ちなみに、ドイツ人のオーステンさんが発見したからオーステナイトという名前になったそうな。

・マルテンサイト
オーステナイトを急速冷却してできる組織。結晶の鉄原子の拡散を許さず無理矢理変態させるため非常に多くの歪が入るために熱処理で作れる組織の中では最も硬く、そして脆い。
高温状態からの急速冷却、つまり焼き入れによってできる組織で、日本刀の刃先なんかがこれ。
ただこれだけだと脆すぎるので、もう一回200℃または500℃ぐらいに加熱して冷却(焼き戻し)することでより丈夫なマルテンサイト(焼き戻しマルテンサイト)になる。
またはと書いているのはこの間の温度で焼戻しをすると著しく脆くなる(焼戻し脆性)からである。
ちなみに、ドイツ人のマルテンスさんが発見したからマルテンサイトという名前になったそうな。

・ソルバイト
マルテンサイトを500から650℃程度で焼戻しして得られる、細かなフェライトとセメンタイトの混合組織。
マルテンサイトより柔らかいが、強度が高い。
ちなみに、イギリス人のソービーさんが発見したからソルバイトという名前になったそうな。

・トルースタイト
マルテンサイトを400℃程度で焼き戻しするとできる組織。
非常に細かなフェライトとセメンタイトが混合した状態になっている。ソルバイトよりなお細かく、光学顕微鏡では判別できないんだとか。
ちなみに、フランス人のトルースさんが発見したからトルースタイトという名前になったそうな。

・ベイナイト
普通に冷やせばパーライト、急速冷却すればマルテンサイト、じゃあその中間の速度で冷やせば?
ということで発見されたのがこの組織。フェライトみたいだったりセメンタイトみたいだったりと複雑で、簡単に説明したいところだが、無理!
興味のある人は自力で調べてみてほしい。鉄と炭素の反応だけに絞ってもとんでもなく複雑なのにほかの元素まで混じると何が何やら。
ちなみに、アメリカ人のベインさんが発見したからベイナイトという名前になったそうな。

……だいたい全部フェライトとセメンタイトじゃないかって? そうだよ(暴言)
実際にソルバイト以下を覚えてなくても業界で問題なくやっていけるし。
ほぼ純粋な鉄であるフェライトと、炭化鉄であるセメンタイトが、どの位の比率でどんな大きさでどんな形で固まるかによって無数の姿を見せるのが鋼という金属。これに追加で混ぜ物をすれば倍率ドンでさらに複雑になる。
鋼の最高と最適を求め、日夜世界中の研究者が温度計や試料とにらめっこしている。お疲れさまです。


◎種類:いろいろな鋼

前述のとおり、鋼には添加物や加工方法によって数えきれないぐらいの種類がある。
その中から代表的なものをいくつか紹介してみる。
この他にも無数に種類があるので、興味が湧いた人はぜひとも調べてみてほしい。いや本当に無数にあるんで。

・炭素鋼
そもそも鋼とはこの炭素鋼のことを指すのだが、とりあえず記載。
不純物の少ない鉄に「炭素」を少しだけ混ぜ込んだ合金。実際にはこれに「硫黄」「珪素」「マンガン」「リン」が微量に含まれている。
余計なものが混じると下に述べる特殊鋼系の別種に分類される。
一般的な構造用炭素鋼が炭素量0.2%、炭素工具鋼が0.6%以上となる。
炭素量が0.6%を超えると硬度はさほど変わらないが、耐摩耗性が良くなる代わりに靭性が落ちていく。

・ノリクム鋼→マンガン鋼・デュコール鋼
合金鋼の中でも安価ながらも、炭素鋼よりも靭性が優れて折れ難い素材。
古代ローマのノリクム(現在のオーストリア)で高マンガン鉱石を製鉄時に使う事で実用化され、ローマ帝国の快進撃を支えた。
ローマ帝国の崩壊に伴い、中世ヨーロッパでは失伝されていたが、近代になって英国で艦船・橋梁用の高強度鋼材「デュコール鋼」として復活し、同盟関係にあった日本にも技術輸出された。
現在でも炭素分が多めのデュコール鋼と同じ材質がSMn433鋼材として多用されている。概ね炭素量が0.3%、マンガンが1.3%含まれている。

・ウーツ、ダマスカス鋼
インドで生産されていた坩堝製鋼の高炭素鋼。
バナジウムを含む鉱石を使うのが秘訣とされ、炭化バナジウムが適度に拡散し、完成品は波の目状の模様が浮かぶ。
ノリクム鋼の量産技術が失われた中世ヨーロッパでは鋼製品の加工地の名前を取って「ダマスカス鋼」として垂涎の品であった。
2020年代の今現在も完全に鋼材としての性質を再現された物は無く、市井で「ダマスカス鋼」と称して売られてる物は薬剤で特徴的な模様の見た目だけを再現した物に過ぎない。
この為、現実に存在した物であるにも拘らず現状は「伝説の金属」相当の扱いとなっている。

・クロム鋼、モリブデン鋼、クロムモリブデン鋼
合金鋼の代表例。上の炭素鋼にクロムやモリブデンを添加した合金。
炭素鋼に比べて強度や耐熱性その他諸々の性能が高いのだが、炭素鋼より高価なため必要な個所に絞って使われることが多い。
これをベースに成分を調整し、耐熱鋼や耐酸鋼なんて特化した鋼材も作られている。

・ニッケルクロム鋼
数%のニッケルとクロムを添加した20世紀前半の合金鋼の主力。
靭性や抗張力に優れており、大砲の砲身や軍艦・戦車の装甲用鋼鈑に多用された。
ただし、ニッケルが高価なので、「如何に高価なニッケルを節約して同程度の鋼材を作るか」が第二次世界大戦前後における素材技術の課題となった。
現在よく使われているクロム18%・ニッケル8%~の合金は下記のステンレスにて記載。

・合金工具鋼
強靭な金属を加工するために生まれたさらに強固な合金。
上記の炭素鋼や合金鋼に「クロム」「バナジウム」「タングステン」を添加して作られている。
ベースの鋼よりさらに性能が高いが、コストもさらに高くなっている。

・高速度鋼
工具鋼ベースの強化合金。
超高速で物体を削ると摩擦熱で工具も高温になるが、その熱で劣化しないのが利点。
ドリルの先端、丸鋸の刃、エンドミルなどに使われている。

・高張力鋼
合金成分の添加や結晶方向の制御などを行って、通常の(圧延)鋼材よりも強度を上げた鋼材。現代の鉄工所で使われる「鋼材」はだいたいこれ。
通常の鋼材よりも強度が上がり軽量化できるため、自動車にもなくてはならない鋼。
弱点は溶接が非常に難しいこと。何しろ添加される金属が、揃いも揃って溶接性を悪化させるものばかりなのだ。作業場の気温が一定以下に下がったら「溶接禁止」と規定している鉄工所も珍しくないくらい。
また、他の合金と比較しても 水を構成する水素に侵され脆くなりやすい (水素脆化)性質を持つため湿度の高い場所での使用は憚られる。

・発条鋼
バネに使われる鋼材。
抗張力と弾性限界が大きく、クリープを起こさない高炭素素材が使われる。

・ニッケル鋼
上記の鋼合金にニッケルを添加した合金。
低温環境に対する耐性が高く、液化ガスの容器にも使われる。当然ながらさらに高コスト。

・浸炭鋼
低炭素の合金鋼の表面に炭素を染み込ませたもので装甲材や機械部品に使われる。
内部は弾性と靭性が強く、表面は硬度や耐摩耗性が高いので、其れまでの鋼材の欠点「割れやすさ」を克服している。
この浸炭鋼の初期型である「ハーヴェイ鋼」は其れまでの半分の厚さで、旧来の装甲用鋼鉄と同等以上の強度を有する革命的な素材とされた。
しかし、浸炭に時間がかかる点と作業失敗による品質の不安定さが欠点で、合金成分の調整技術の向上に伴う鋼材自体の靭性強化も有り、均質圧延装甲や焼入れだけをした表面焼入れ鋼に回帰していった。
ただし、歯車部品においては強度を殊更求められる場合こちらが使用されるケースも多い。

・インバー(不変鋼)
鉄にニッケルを36%も混ぜ込んだ合金。比率的にもはや鋼というより「鉄-ニッケル合金」である。
温度変化による熱膨張、収縮量が非常に少ない特性を持つ。鉄-ニッケル比率と膨張係数を軸にとってグラフ化すると、笑っちゃうぐらい「この比率だけ」低い。*24
ついでに鉄とニッケルが主成分なのに磁気を帯びない。そのため、極端な温度変化に曝される場所や精密機器の材料として使われている。

・電磁鋼
電気エネルギーと磁気エネルギーの変換効率が高い、つまり鉄損の小さい鋼。 代表的なものとしては、変圧器やモーターの鉄心に多用される珪素鋼(珪素を添加した鋼)が挙げられる。
鉄損というものは電気機器にとっては意外と馬鹿にできない要素である。
…例えば、IH調理器を思い浮かべてほしい。 電磁気の作用だけで、ガスコンロにも劣らないどころか機種によってはそれすら上回る熱量で料理を作ることができる。
逆に言えば"鉄損の多い"普通の鋼材であれば、交流電流の磁気に晒されればそれだけの発熱をしてしまうのだ。
もちろん、電気エネルギーが鉄損という形で失われるのはエネルギーの浪費以外の何物でもないし、それに発熱で悪影響が起こる危険性もある。
これ故、電気機器にとっては性能向上の鍵を握ると言ってもいい鋼である。
特にハイブリッドカーや電気自動車の場合、車の性能を左右する重要な要素の一つともなっている。

・ステンレス鋼
合金鋼の中では多分知名度ナンバーワン。錆びないことで大人気の、クロムが11%以上含まれてるクロム鋼の一種。
酸素と反応して表面に酸化被膜を作り、それ以上腐食するのを防ぐ性質がある。つまりは表面だけ錆びてるから中までは錆びない。
その性質から『鋼の使用されるほぼすべての分野』で活躍しており、特に食器や流し台などのシェアは圧倒的…と言うのは間違い。
大きく分けてニッケルを含まないフェライト・マルテンサイト系ステンレス(SUS4xx)とニッケルを8%以上含むオーステナイト系ステンレス(SUS3xx)に大別され、それぞれで研究が進んでいる。
大雑把に言えば強度が欲しいならSUS4xxを、耐食性が欲しいならSUS3xxが適する。ニッケルの差の分SUS4xxの方が安価で手に入る。
弾性限界未満の力を加え続けると変形が固定化してしまうクリープ現象を起こす物が多いので、構造材や発条には向いていない。
SUS3xxに至っては加工するとオーステナイトがマルテンサイトに変態し機械的性質がガラリと変わってしまうため応力のかかる部材には尚更適さない。
知名度が高すぎてステンレスという単一の金属と勘違いされることすらある。間違っても鉱山で産出されるようなものではありません。
なお、海水…というか塩分に対しては孔食(穴が空くように侵される)を起こすので何も考えずに使うと痛い目を見る。専用の合金を利用しよう。

・極低炭素鋼(IF鋼)
炭素含有量が10ppm(10万分の1)以下の鋼に、チタンやニオブを添加した非常に柔らかい鋼。
「いやお前鋼じゃねーだろ」と言いたくなるが、こういう名前だからしょうがない。

・陸奥鉄
戦艦『陸奥』の船体に使われていた鋼。素材としては先述のマンガン鋼が主体。
陸奥は1943年に謎の爆沈を遂げ、後に引き上げられた船体を鉄くずとして再利用したものが陸奥鉄である。
なぜこれがわざわざ特別扱いかというと、戦後に製造された鋼は一時期製造工程の都合上微量のコバルト60という放射性物質が混入してしまっていたのだが、戦前に作られた陸奥鉄にはそれが含まれていなかったため。
コバルト60が発する放射線を嫌う遮蔽材の素材などとして珍重されていたのだ。今では製鉄技術も改良されて戦艦から採取する必要はなくなったが。
因みにイギリスでは第一次世界大戦の終戦直後にスカパ・フロー泊地で一斉自沈した旧ドイツ帝国海軍の戦艦や巡洋戦艦の船体の鋼を同じ用途で用いている。


◎用途:鋼の使い道

さて、上記の通り、鋼の使い道はとんでもなく幅広い。リスト化してもずらーっと縦長になるぐらい多い。
なのでざっくりと用途を羅列してみる。

「鉄は産業のコメ」という格言は伊達ではないのだ。

・構造材、建材
……いきなりざっくりしすぎとか言わないでほしい。こうとしか言いようがないのだ。
数百から数万トンにもなる巨大な建造物を支え、外観を形作る。鋼が最も輝く分野の一つだ。
家やビルなら基礎、柱、梁、壁、屋根。橋なら橋脚や橋梁、吊りワイヤー。トンネル内壁を構成するセグメント。それらに張り巡らされた無数の配管。
天を突くような塔や巨大なイベント会場の開閉式ドームだって緻密な設計のもとに鋼を組み合わせて建てられている。
そしてこれらを建てたり解体したりするための足場も鉄か鋼、出入りするトラックが土でハマらないために敷かれるのも鋼板と、現代建築の全ては鋼に始まり鋼に終わるのだ。

・農具
前近代は遊牧国家以外は人口の大半が農民だったので、農具用の鉄は非常に重要な物資であり、国家や貴族階級が生産や販売・修復を抑える事で農民を支配していた。

・工具、工作機械、作業機械
建設業だけでなく、製造業でも鋼は輝く。艶消しされても輝く金属、それが鋼。
手持ちのハンマー、鋸、ドリルにスパナ。差金や各種計測道具にも使われている。
旋盤やプレス機といった工作機械では筐体に始まり、シャフト、アーム、金床など、高い出力に耐えるためにもあちこちに使われている。
クレーンやブルドーザーなどの作業機械も同様で、特に移動式の場合は大重量を支える要となるフレームや車軸などにも用いられている。
なお、強度が必要な部分、硬度が必要な部分、高温に耐えなければならない部分などではそれに適した鋼が使われている。

・船体、車体
巨大な貨物船やタンカー、大型トラックや戦車に至るまで、鋼はここでも各所に…むしろ全体に使われている。
特に見どころは船の構造。全長数百メートルに至る大型貨物船でも、船体を構成する鋼板の厚みはせいぜい数十ミリ程度。
仮にプラモサイズまで縮小した場合、20㎝の模型であれば20ミクロンの薄板で作っていることになる。
重量が軽ければ軽いほど積載量が増えるので、構造にも安全を保ちつつ限界まで軽量化されている。
ちなみに、同じ乗り物でも航空機への使用は限定的である。これは船や車より耐腐食性と軽量さが求められ、また需要に合致した他の部材(アルミ合金やチタン合金等)が存在するため。
ただし、鋼を主構造材に使用した航空機も少数だが実在する

・動力装置全般
エンジン、モーター、発電機などまとめてくくってこの分類。構造や働きに違いはあれど、運動とエネルギーを変換するための機械だ。
小さなものならともかく、大型になってくるとどうしても強い振動や負荷、高温に耐える必要が出てくる。
硬いだけでは割れてしまうし、熱や振動で変形しては故障してしまう。しかも物によっては年単位でずーっと動き続ける必要がある。
上に立つと「あ‶あ‶あ‶あ‶あ‶あ‶あ‶あ‶」って声が出るレベルの振動にも余裕で耐えるには、鋼の弾性と靭性が大いに役立っている。
あ、ゼンマイやバネもここに入る。意識し辛いが、あれらも動力装置なのだ。

・食器、小物、金具、その他
ざっくりし過ぎとか言わないでほしい(2回目)。こうとしか言いようがないのだ。
スプーン、フォークなどの食器、ハサミやメジャー、ピンセットなどの小物、蝶番や固定具などの金具、などなどなどなど……。
ここで活躍するのは主にステンレス鋼だが、長い期間変質も変形もせずに人の肌に触れる環境にあるには最適な素材でもあるということ。
うっかり落としたり踏んだりしても平気なのだ。アルミや銅とは違うのだよ!
フライパンや鍋などの調理器具の場合、鉄の金属としては熱しにくく冷めにくい性質で料理を美味しく作ることもできる。
IH調理器で使う場合、誘導加熱で発熱しやすいのもポイント。さらに鍋自体から溶け出す鉄分でミネラルとしての鉄分の補給も期待できる。


◎併用:鋼とセットでどうぞ

鋼の特性や使い道などをつらつらと述べたが、ここでは鋼と組み合わせて使われる素材を並べてみる。
鋼だけでは為せないことも、こいつらと一緒なら実現できる。

・塗料、コーティング剤、メッキ等
鋼最大の欠点「錆びる」を克服する為の重要素材。大雑把に「表面処理」と呼ばれる。油もこれもなしで運用される鋼はほとんどない。(全く無いわけではないが)
水や空気に含まれる酸素と反応するのが錆びなので、それらとの接触を遮断してしまえば劣化を大きく抑える事ができる。
各種樹脂を塗りつけての塗装、トタン板(亜鉛メッキ鋼板)やブリキ板(錫メッキ鋼板)等にはじまるメッキなんかが代表例。
表面に緻密な黒錆の層を形成する黒染め(ブルーイング)、リン酸塩皮膜を形成するパーカライジングといった化学反応を用いたものは「化成処理」と呼ばれる。
鋼材剥きだしたと見た目がちょっと……といった場合の仕上げにもなる。素肌をこすると表面の凹凸で容易く大けがにつながるのでそれを防ぐ意味でも重要。
ただし、基本的にこういったコーティングは1ミリに及ばない極薄であるため、硬いものや鋭いもので容易く亀裂や剥がれが生じる。そこから錆びて……というのもよくある話。
みんなも遊具やフェンスの塗料をガリガリやっちゃだめだぞ! 塗りなおすのも大変なんだ!
まあ、そうはいっても温度変化に弱い性質のせいで結局隙間が生まれて亀裂や剥がれが生じてしまうのだが……

コンクリート、モルタル、セメント
というかセメント。
建材の定番、鉄筋コンクリートに欠かせない素材。コイツが使われてない建物といわれると悩むレベルの万能補佐。
単体ではそこまで強度がないが、鉄骨と呼ばれる鋼の骨組みをセメントで覆うことで、引っ張りには鋼が、圧縮にはセメントが効率的に支えとなってとても頑強な構造材になる。
また一度固まれば水や空気をほぼ通さないため、内部の鋼の劣化を大きく抑えることができる。
鉄より容易に加工できる性質に加えて断熱、防音、防振、防水で効果を発揮。基礎から壁から天井まで建材に大活躍している。
なお、なぜか温度変化による膨張率が鉄鋼とほぼ一緒。おかげでさらに扱いやすい。

・潤滑油
部品の擦れあう部分の仲介役。これがないと大半の機械はまともに動かない。
摩擦を減らすだけでなく、擦れた際に発生した熱を引き受け、循環することで冷却する役割も担ってくれる。
表面に塗られてさび止め代わりにされることもあるが、その場合も何らかの形で擦れる部分であることが多い。
……この油もとんでもなく種類が多い。ワイヤーに塗るグリスからエンジン用のシリンダー油、発電機の冷却油まで粘度性質多種多様にある。用途に合わせてきちんと選ぼう。

・溶接
適度な電気抵抗を有するので、電気溶接がやり易い。
ただ普通の低炭素鋼だとやり易いのだが、炭素量や添加元素によっては溶接部が弱点となってしまう。

・非破壊検査
で、その溶接箇所の確認にはこれ。
超音波を当てて確認する超音波検査、放射線を通して内部を確認する放射線検査、専用の染料を塗って表面の割れなどを検出する浸透探傷など様々な物がある。
手っ取り早いのは超音波検査、特に斜角探傷。
イメージしにくいかもしれないが、外観を確認するのも「外観検査」というれっきとした非破壊検査の項目の一つである。ぶっちゃけ外観がダメダメだと大抵は内部もロクな状態になってない


◎文化:鋼の持つイメージ

以上、真面目に鋼のあれやこれやを語ったが、ここからは鋼が文化に与えたものを並べてみる。
・慣用句
「鋼のような」「鋼鉄の」
非常に強いものを例える際に使われる文言。肉体など物理的なものに限らず、精神的なものやイメージ的なものに対しても使われる。
また「鉄を鍛えたもの」という側面からか「鍛え抜かれている」といった意味でも用いられる。
それと同時に、冷たい、融通が利かない、人間味がない、といったネガティブなイメージも併せ持つ。
機械や武器、兵器、マン・オブ・スティール、コブラの筋肉などに用いられているイメージが強い。
なお、20世紀前半に活躍したロシアの政治家ヨシフ・ジュガシヴィリはグルジア(現在ではジョージア)風の本名が嫌いで、自らつけた『鋼鉄の人(スターリン)』というペンネームを公式でも好んで使った。

「百錬成鋼」
心身を幾度にもわたって鍛え上げ、立派な人物になる事。そのように強固な意志のこと。
鋼の清廉には繰り返し繰り返し地金を鍛え上げる必要があったことから生まれた熟語。

・創作での活躍
「鋼の」「鋼の」その他鋼の装備
特別な効果はないが、たいてい鉄や革などの素材を大きく上回る性能として登場する。
ファンタジー作品では純粋に物理攻撃、防御が高く、魔法攻撃に弱い事が多い。
反面、わりかし高価ないし入手コストが高く、鈍重さ故に非力なユニットは装備不能、素早さや回避などのスピード系ステータスにマイナス補正などと言った短所も抱えている事もある。
ゲームではシナリオ中盤に買っておきたい立ち位置にいる。
特筆すべき例として『サガフロンティア2』がある。このゲームで最強クラスの剣である「ギュスターヴの剣」はその名の通りギュスターヴが生涯をかけて鍛え続けた鋼鉄の剣であり、鋼鉄製であることそのものがストーリー上でも重要な意味を持っている。

「鋼の鱗」「鋼の爪」
ドラゴンやそれに属するファンタジーな生命体の特徴に時折見かけるもの。
生体として鉱物食なものや、人為的に生み出された生命体、その部分だけ改造されたサイボーグなどが有している。
しかし、「アイアン」あるいは「メタル」という文言が含まれる生物に比べ、「スティール」が名前に含まれる生物は(日本では)非常に少ない。
カタカナのスティール表記では、鋼(Steel)と盗む(Steal)の区別が付きにくいためだろうか。

「鋼のゴーレム」「スティールゴーレム」
大体何でも素材にできるゴーレムにも、鋼でできたものが存在する。
とはいえ、同じ金属ゴーレムでは鉄や金、青銅などが大半を占め、鋼のゴーレムはいまいち存在感がない。
特徴としては、シンプルに硬くて強くなったゴーレム、といったところか。

「鋼鉄の装甲」「鋼鉄製の構造物」
宇宙や遠未来を舞台にした物語でも、鋼はたいてい登場する。
とはいえ、そんな世界観で普通の鋼はイメージ的に強度不足なためか、何らかの特殊加工をされたり、
外部にバリアを張るなどして運用されていることも多い。

「プラスチール」
鋼をベースに非金属素材を組み合わせて強度を高めたもの。現実でもガラス繊維を組み合わせたものが実用段階にある。
日本ではあまりなじみがないが、最近だと宇宙船で不時着した先の惑星や海の広がる惑星なんかでの素材として知名度が高まっている。
なお、前者の惑星では大深度地下からこれが掘れる。どんな星だ。




追記、修正は鋼の意志でお願いします。

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最終更新:2023年10月28日 15:32

*1 「はがね」の由来である釼、刃金もそれにちなんだものといわれている

*2 鋳物の素材。炭素を4%ほど含んでいる

*3 調べてみると鉄そのものも割ととんでもない物理特性があったりする

*4 炭素含有率0.001%なんてレベル

*5 概ね、鉄の還元には炭素とそこから生じる一酸化炭素を利用する。

*6 炭素量の少ない屑鉄と炭素量の多い銑鉄、脱燐材である石灰石を混ぜて、大量の高温空気と比較的少量の燃料で作り出した酸素を多く含む高熱火炎で溶解する

*7 世界の金属生産量の95%

*8 地球の中心核はほぼ全部鉄。海底にはマントルから吹き上がった鉄鉱石がいくらでもあるとか

*9 同じ重さならアルミ地金の1/4

*10 石炭を蒸し焼きにして不純物を減らし炭素の割合を高めたもの。蒸気機関車等の燃料にもなる

*11 鋼のモース硬度は5~8。ものによっては水晶や石英より柔らかい

*12 ピアノ線の引張強度は驚異の2000MPa以上。太さ1㎜で200kgを吊り下げられる

*13 電気伝導性と耐食性に優れるので電極部品として需要が有る

*14 温度は鋼の種類・精錬度により大きく変化する。ニッケル合金などのオーステナイト系は低温脆性ははない

*15 タイタニック号の船体の鋼は当時の精錬技術の問題で不純物が多く、春先の北大西洋の低温で強靭さを失っていた

*16 一応、スペーサー的な物も間に挟む

*17 長さ25mの通常レールを溶接し、新幹線では1500mにするのが基本。なお世界一長いレールは青函トンネルのもの(約54km

*18 日本と同様に萌芽更新という「木を完全に殺さない伐採」で燃料用の木炭を確保していた事が分かっている

*19 鋼と等しい材質を持つものもある

*20 イメージ的には『もののけ姫』のたたら場

*21 天保時代(西暦1831~45年)の日本人口は3400万人程度で、鉄鋼生産力は1万t/年

*22 粒子化した酸化鉄にあれこれ混ぜて焼き上げたセラミックが使われている

*23 奴隷とイチャイチャしてる街医者先生の、知り合いの商人の名前の元ネタでもある

*24 開発者は1920年にノーベル賞を受賞